「辛い事ばかりで、もうとっくに心は枯れ果てました」
 スーツ姿の男は独白する。
「私は今年で四十になりますが、もう諦めるのにも慣れてしまいました。
 長いこと会社勤めをしておりました。会社には精一杯尽くしてきたつもりです」
 そこは、夜の倉庫のようだ。酷く暗い空間を何本もの蝋燭の光が淡く照らしている。
 老若男女問わず様々な人種の人間が男を取り囲む様に座っている。
 あなたは、それを上空から俯瞰している。
「どんなことを言われたって厭な顔せずに勤めてきました。それなのに……」
 すすり泣く声が周囲に木霊する。
「たった一度のミスで私は会社から追放されたのです。あんまりでしょう。あんなに尽くしてきた人間にこの仕打ちは
あんまりです」
 男は激昂して涙を流しながら怒鳴り散らす。
「……ああ、私としたことが、お見苦しいところをお見せしました。ご容赦を。
 家族は先にあちらへ送りました。後は私たちが逝くだけです」
 平静を取り戻した男は、そう言うと懐から黒光りした何かを取り出した。
 男を取り囲む人々も同じものを取り出す。
 あなたはそれが拳銃だという事を確認する。そして、あなたも連中と同じものを取り出し、その銃口をこめかみに当てている
ことに気付き戦慄を覚える。
「それでは皆さん、良き旅路を」
 そう言うと男は、取り出した拳銃の銃口をこめかみに当て、

引き金を引いた。

 爆発音が部屋中に木霊する。それを切欠に次々と銃声が響く。
 そうしているうちに、あなたの拳銃の引き金を握る指にも徐々に、あなたの意思とは関係なく力が加わり、徐々に徐々に引き金が
引かれていく。

 そうして、銃声は響き渡る。
 さて、あなたは最後に何を思ったのだろう?
 それは、あなたが死ぬ間際に考えることなのかもしれない。

もし、宜しければ批評をお願いします。