オレはモデューロの開発アドバイザーをしているので、他の人より少しだけ早くS660に触れることができた、ファーストコンタクトは、
黄色いナンバーが付いていなければ軽自動車であることを感じさせない仕上がりで、純粋に「ホンダらしいスポーツカーだな」と感じた。
 ちなみにオレの考えるホンダらしさは、なんといっても「スポーツ」だ。走ってナンボ、走って楽しくなくちゃダメである。そういう意味ではここ数年、
ホンダは苦しい状況が続いてきたけど、2015年は新型NSX、新型シビック・タイプRとともにホンダスピリット復活の年になったと言えるかも知れない。
 7700rpmまで回る64psの660ccターボに軽自動車初採用となる6速MTの組み合わせ。絶対性能でみると速くはないが、回して楽しいパワートレインだ。
もっとも驚いたのはハンドリングだな。テストでニュルより過酷といわれるホンダ・鷹栖テストコースはもちろん、国内の主要サーキットも走ったが、
フロントの接地感はNSX-Rと同じくFRのようにシッカリしたもの。それでいながらミッドシップらしい動きをするので走りのレベルもポテンシャルも非常に高い。
 初心者でもコントロールしやすい安定志向のセットアップだが、ビートのように終始アンダーステアではなく、ミッドシップらしさを感じさせるセットになっている。
それにスポーツモデルなのに、軽自動車なのに質感が高いのにも驚いた。これまでのホンダ車なら、モデューロによってさらに質感を上げる、
さらにしなやかな乗り味にするといった考えを盛り込んできたが、S660はノーマルですでにそのレベルに到達している。
 ではモデューロでは何を目指したのか?「味付け」はベースの性能や潜在能力によって大きく変わる。S660ははノーマルでも高いレベルなので、
アイテムを一つ交換するだけでクルマは大きく変わる。コンセプトは、ノーマルのよさを活かしつつ、より走りにこだわる人のためにストライクゾーンの
ど真ん中にしたことだ。ノーマルとの違いは、数値でどうこうではなく初心者には快適性と安心感、上級者には懐の深さを感じさせる仕上がりになっている。
 ちなみに鷹栖のテストコースでS660モデューロのテストをしているとき、研究所のテストドライバーが乗るS2000と並走したことがあったが、上りは離されるけど、
下りは追い付けるくらいのポテンシャルがあった。とくに中高速の下りコーナーは絶品なので、ワインディングで出会ったら注意した方がいいかも知れない(笑)。
S660はノーマルもモデューロも軽の先入観を捨てたほうがいい。土屋圭市、このオレをその気にさせる、元気なホンダが戻ってきた。