オレが山好きなもんだから、つきあってた女を連れてよく信州へ旅したもんだ。
旅の行き帰りの途次、小淵沢駅でほぼ必ず、女お気に入りの「高原野菜とカツの弁当」を買い求めた。
どちらかと言えばガッツリ肉を食べたい派のオレにも、高原で収穫された新鮮な野菜の美味さがはっきりとわかった。
その女「野菜が甘いよ!都会のスーパーに並んでる野菜はぜんぜん甘くないのに」と感激してた。
昼下がりオレたち二人以外には誰もいない信濃境駅の待合室ベンチに腰掛けて食べたこともあったっけ。
縁無くしてその女とは別れてしまったが、それ以来「高原野菜とカツの弁当」を食べる機会になぜか恵まれない。
セピア色の思い出を辿りに晩秋の甲信へ男ひとり旅でもしようか。
昼餉のためのあの弁当を買って。