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大人の自閉スペクトラム症は第二の新型うつ病?
2018/4/18 宮岡 等(北里大学医学部精神科学主任教授) 

地域の中核病院で紹介患者の診療に当たっていると、近隣の内科医から「うつ病ではないか」と診療を依頼される症例の中に、実はうつ病とはいえない例や、
抗うつ薬による治療は必要ないと考えられる例が多いことが以前から気になっていた。
一方で最近は、精神科医や企業の産業医から「このこだわりの強さや社会性のなさは、大人の発達障害ではないか」と紹介されることが少なくない。
どこか共通点があるように思える。

◎紹介医の判断
うつ病を疑って診療依頼された症例では、気分変調性障害や適応障害、不適応を起こしやすいパーソナリティーの問題などが多いし、思春期、青年期症例では統合失調症と診断されることもある。
自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder;ASD)※が疑われた例では、職場環境を問題にした方が良い例や不適応を起こしやすいパーソナリティーの問題が多い。
※筆者はASDと注意欠如・多動症(Attention deficit/hyperactivity disorder;ADHD)を発達障害と一括して議論することは不適切な対応につながりやすいと考えているため、
本稿でも発達障害については、ASDに限定して述べる。

紹介元の医師は「うつ病の特徴がある」「発達障害の特徴がある」を重視し、それに仕事ができないなどの不適応状態が加われば、疾患を疑う傾向がある。
他の精神疾患や環境との関係についてはあまり検討していないことが多い。

しかし、「自殺企図を有する重症うつ病」や、「小児期からASDの療育を受け、診察室の会話や行動だけでも診断できる典型的なASD」を診ている地域の中核病院の精神科医である筆者の立場からいえば、うつ病やASDと診断する必要はないと思えることが多い。
また診断がつくとしても、「医療だけでは何もできず、医療が過度に関わるべきではない。できるのは、医療から職場や家庭環境への積極的な働きかけくらいだ」としばしば感じている。
しかし紹介元の医師は診断がついて医療で何かできると期待しているように思えるし、患者、家族、職場など、周囲の者も医師が診断を付け、明確な対応を示すことを望んでいるように見える。