本拠地、サーキットで迎えたGP
マクラーレン・ルノーが後方に沈み、見せ場もなく惨敗だった
サーキットに響くファンのため息、どこからか聞こえる「今年は100敗だな」の声
無言で帰り始めるドライバー達の中、2005、2006年F1ワールドチャンピオンのF.アロンソは独りパドックで泣いていた
かつてのマクラーレン時代に手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できるマシン性能・・・
それを今のチームで得ることは殆ど不可能と言ってよかった
「どうすりゃいいんだ・・・」アロンソは悔し涙を流し続けた
どれくらい経ったろうか、アロンソははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たいベンチの感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、帰ってウイイレでもしなくちゃな」アロンソは苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、アロンソはふと気付いた
「あれ・・・?お客さんがいる・・・?」
パドックから飛び出したアロンソが目にしたのは、スタンドまで埋めつくさんばかりの観客だった
千切れそうなほどに旗が振られ、地鳴りのようにマクラーレンの応援歌が響いていた
どういうことか分からずに呆然とするアロンソの背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「アロンソ、フォーメーションラップだ、早く行くぞ」声の方に振り返ったアロンソは目を疑った
「デ・・・デニスさん?」  「なんだアロンソ、居眠りでもしてたのか?」
「ハ・・・ハウグさん?」  「なんだアロンソ、かってにデニスを引退させやがって」
「ハウグさん・・・」  アロンソは半分パニックになりながら電光掲示板を見上げた
1番:アロンソ 2番:ハミルトン 3番:マッサ 4番:フィジケラ 5番:ロズベルグ 6番:ウェバー 7番:ハイドフェルド 8番:クビサ 9番:バリチェロ
暫時、唖然としていたアロンソだったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった
「勝てる・・・勝てるんだ!」
スタッフからヘルメットを受け取り、サーキットへ全力疾走するアロンソ、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・

翌日、パドックで冷たくなっているアロンソが発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った