密着取材20日目
浅木は今日も散歩する。
「最近寒波が来てるでしょ。この辺は特に寒い地域でね、
霜柱の上を歩くとザック、ザック音がする。だから私はブラウン、ブラウン言って歩いてる。」

寒風吹きすさぶ喜連川だが、徐々に春の足音もきこえてくる。
HRDさくらも長い冬からようやく春のきざしがみえてきた。
浅木いわく、さくらスタッフの第一印象はとにかく暗かった。
優秀なスタッフ揃い、何でも一通りのことはきっちりこなせる。
しかし色々試すもののそれが意味のあるものかがいまいちわかっていない。
やった気になって空回りし、自信喪失が蔓延していた。
「私や山本ははぐれ者の代表みたいなものだ。よく上司とも喧嘩したし、くだらないことも随分やってきた。
でもホンダが窮地に立たされると、必ずそういうやつが突破口を切り開いてきたんだ。
それがホンダというもんなんだよ。」
浅木は河川敷のブルーシートにたたずむ一人の男性を指さす。
「あそこに座ってる若いのいるだろ。いやいや桜の木の下さ。そう、彼はHRDの技術スタッフだよ。」
「私が来た頃はテストベンチの評価をしていた。でもてんでダメで、
話を聞くと花見の場所取りなら誰にも負けないっていうのさ。」
「こりゃ曲者だよ。だから翌日から午前中は花見の場所取り行かせてる。」

— 「しかし、まだ花見どころか、つぼみさえ膨らんでませんが。。。」
「もう2週間目になるかな。満開までは2か月先だろうね。でも見てみなさい彼の生き生きした顔を。
ブルーシートにしわ一つ付けてない。こういったはぐれ者が生き生きできる職場をつくることが私の務めだと思っている。」
それ以降彼のテストベンチでの評価が一挙に実走行と合いだした。
今のさくらは皆自信に満ち溢れてる。入れ替えたスタッフはほんのわずかである。