【優良企業】アンパンマンショップ【時給500円】 [無断転載禁止]©2ch.net
レス数が1000を超えています。これ以上書き込みはできません。
段差付きバリアフリー住宅をぼったくり価格にて提供。文句を言う奴には
遺言を書かすぞ!! イー○ラントを舐めるなよゴルァ!!
http://www.e-plant.co.jp/ アパマンチェーン程度できついやつは、
みにみに、刀剣、大塔/はうすこむがおぬぬめー! 私は諦めません。
皆様の声がある限り。
声なき声に力を。 そもそも人口減で賃貸仲介は斜陽産業なのに圧倒的ナンバーワン(笑) ・新人でも活躍できる職場です
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・平均年齢が若く、若手を中心に活気があります
・アットホームな雰囲気ですぐに馴染めます
・やる気次第で年収1000万も夢じゃありません
・中途採用も積極的しています ・新人でも活躍できる職場です
=なにせ、時給500円の労働ですから。
・頑張り次第ですぐに重要なポジションにつけます
=離職率圧倒的ナンバーワンの社風なので上がすぐいなくなります。
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=中年になったらサヨウナラ、厳しいハロワ通いの日々が待ってます。
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=だべり残業とパワハラ、暴行が大好きな方はどうぞ
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=昔、「我が軍はミッドウェーにて米艦隊に大打撃を与えり」とかいう大本営発表が日本ではありました
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=新卒カード切ってまで入る会社ではありません。 生活再生支援(融資)ならNPO法人STAで!
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電話でのお問い合わせは無料ですので、会社にお勤めの方、自営業、フリーター、風俗・水商売など業種にかかわらずお気軽にご相談ください。
詳しくはHPもご覧下さい。
NPO法人STAで検索!! 当社はノルマは御座いません(パワハラ、暴力は御座います) 絶対に流れが出ないってのは無いんだよね。ホント悪の組織だわ 評判悪過ぎて集客にも影響してる。そりゃあんな管理じゃなぁ無理だわな だべり残業、無意味な時間だよ。ホント〜帰らせろよ。もう 初見でやたら愛想がよく、同調や褒め言葉で相手の中に入り込もうとするヤツには気をつけろ 我々は困難な時代に生きています。人の自由が蝕まれたときは、闘争により自由を取り戻すしかありません。
皆様のお力をお貸しください。
新しい時代を。
我々には代弁しなければないない声がある。
声なき声に力を。 稲盛信者で成和塾通ってるんだからブラックになるのは当然だろ ゴールデンウィークは他業者が休みだからチャンスじゃなかったんですかねー 極悪な企業によるデタラメな求人広告に注意しましょう。 アパマンにマインドセットされているバカな社員達よ・・・ 誰かに雇われている時点で搾取される側なんてことは誰もが理解しています。
ただそれを下の人間から反感を買わないようなラインで妥協させるのが組織というか会社なんではないかと思っています。 >>51
搾取?分からんね、君たちから会社は何を搾取していると言うんだい?むしろ大した仕事してないのに給与を搾取しているのは君たちだろう? ウソの求人でバカを集めて、暴力で縛る。これがアパマンの必勝パターンだ。覚えとけ おい!バカマン
社員を福島に送り込めばもっとボロ儲けできるぞwwwwwwwwww マインドセットされないように皆様、注意しましょう。 マインドセットにて社員(池沼&情弱)を洗脳w
場合により暴力、脅しで服従させる
これこそがアパマンの必勝パターン!! 神戸のアンパンマンミュージアム、とんでもねー不謹慎だぞ!
来週の木曜、楽しみにやって来た子供たちや一般のお客さまを午後から追い出して、スタッフや身内の関係者だけでドンチャン騒ぎのパーティーをするんだと。
まだ熊本の災害も終息してないのに、不謹慎きわまりねーよ!
経営母体の日本テレビに抗議しろ! 白流れ2本発生・・・店長に肩パン5発喰らいました。 タイムカードは改竄するわ。住居には侵入するわ。何でも有りなんか?あ? また、パワハラ、職場内いじめ、足の引っ張り合い、責任転嫁と職場環境も最悪のブラック企業だが、基本アホが多いのでそんなにギスギスした雰囲気はなく、独特の緩〜〜〜〜〜〜〜い空気が漂っていた。 泣きながら辞めますって言ったら2週間ぐらいで辞めさせてくれるかな…
バックれしたいけど家族に迷惑掛けたくないんや 最近過疎化してない?誰か燃料投下しろよ。九州また何か起きてへんの? なんでクソパンは公表されねんだ?違法な献金が効いてるんやろかな 辞めるって言えばブン殴られるし死ぬしかないんだね。 合鍵で住居侵入って・・・アパマンのお家芸じゃん!! >>83
え、福山ってアパマンにやられたの⁈ 女性の従業員までストーカー気質とかガチで終わってるよね。 離職率が高いせいか常に人員不足で困っている状況です 防犯目的?店舗に木刀置くのはやめてくれませんかね。 アホマンバカマンアンパンマン
住宅の賃貸仲介、という不動産業におけるごく一部の分野しか扱っていないのに
他の不動産会社は接客が出来ない奴らの集まりです、うちはレベルが高い仕事をしてます、
って吹聴しているらしい会社があるとかいう。
なんでも素直な兄ちゃん姉ちゃんが並んでカウンターでスマイルしてればそれだけで売上があがるらしい。
契約とか入居後の管理は人任せで年数を積み、年食ったらそこで管理とか契約をやるらしい。
「管理と仲介の経験順序は逆じゃね?」とか、「重説と実際が違ったりとかトラブル多いよ?」とか
「口コミだと、入居後の感想酷いね、重説と実際が違うとか最悪、不動産屋じゃねーな」とか
「褒められる点が、姉ちゃんの対応が丁寧とか珈琲が旨いとか、だったら最初からカフェ屋でも開いてろよ」
っていうツッコミをしたいところだが、その会社にとっては馬耳東風なんだろうなあ。 馬耳東風ってか人の意見を聞くような会社じゃないんだよね。最初から アパマン赤字なの?
駅前にでかい看板2つあったのに、メッシもネイマールもEXILEもなーんにもないアパマンと書いてあるだけの地味目な広告になったまんま
家主から広告料だけは取りまくってるのに、これじゃ詐欺だ 生活再生支援ならNPO法人STAで
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東京、神奈川、千葉、埼玉にお住まいの方優遇です。
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違法な、のっけ「上乗せ」(礼金)・たんぼ「担当者ボ−ナス」(更新料)当たり前。 ,__.,、_,、
( ( ・ω・ ) しにたかばい
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( ( ・ω・ ) 店長に強請られとる
`u-`u--u ,__.,、_,、
( ( ・ω・ ) 今日も殴られた!!辛かー
`u-`u--u /人◕ ‿‿ ◕人\
君たちに尊厳はあるのかい? 厚生省人口問題研究所と特殊法人社会保障研究所との統合によって誕生した国立社会保障・人口問題研究所は
、厚生労働省に所属する国立の研究機関
http://www.ipss.go.jp/index.asp
2040(平成52)年には、東京を含む全ての都道府県で人口が減り、4割以上減る自治体が全体の22.9%に及ぶ。
国立社会保障・人口問題研究所(社人研)
が2010年の国勢調査に基づいて予測した
「地域別将来推計人口」は、日本の厳しい未来図を改めて描き出した。
東京23区にも過疎地
東京を例に挙げると、青梅市(25.3%減)や福生市(24.2%減)
といった都心への交通アクセスが不便な自治体が激減するだけでなく
、区部の足立区(21.3%減)、葛飾区(19.2%減)、杉並区(15.5%減)
も軒並み下落率ランキングの上位に顔を並べた。
http://ironna.jp/file/w480/h480/90f16001ee721bd8aa8e4d4b857949b0.JPG
大都市で高齢者激増
人口問題をめぐる“常識のウソ”は、これにとどまらない。
社人研の推計では2040年の65歳以上の割合は、
人口減少と同じく秋田県の43.8%を筆頭として
青森県、高知県が続く。
これだけを見ると、「過疎地で高齢化が進む」と考えたくなる。
だが、65歳以上人口の実数がどれだけ増えるかに着目すると全く異なる結果となる。
東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知など7都県は1.4倍以上に膨れあがるが、
秋田、高知、島根県は減る。市町村では半減や3分の1近くまで減るところもある。
これらは、既に高齢化し尽くして高齢者人口は増えようもないということだ。
若者がそれ以上に減るため、高齢化率は高水準に見えているのである。 ++++++++++++++++++++++++++
安倍は憲法改正で 国民の主権と
基本的人権を奪うつもりだ。 ←民主主義が崩壊
http://www.data-max.co.jp/280503_ymh_1/
マスコミは9条しか報道しないが 自民党案の
真の怖さは 21条など言論の自由を奪うことだ。
危険な自民の憲法改正案が通ると ネットで
政府批判しただけで逮捕されるようになるぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=h9x2n5CKhn8
上のビデオで 自民党は 日本人には基本的人権
は必要ない と言っている。
http://xn--nyqy26a13k.jp/archives/31687
都民ファーストも 大日本帝国憲法を復活させ
ようとする 安倍自民の別働隊だから注意。
国政では 売国自民と小池ファーストには
投票しないように。 民主主義が崩壊する。
万が一の国民投票に備えて 安倍自民の真の
怖さは 9条以外にあることをネットで広めてほしい。
+++++++++++++++++++++ ,__.,、_,、
( ( ・ω・ ) 極悪なクソ企業
`u-`u--u ,__.,、_,、
( ( ・ω・ ) 自殺者、多数
`u-`u--u ,__.,、_,、
( ( ・ω・ ) 在日
`u-`u--u オーナー29人、レオパレスを提訴「建物の修繕不十分」 オーナー29人、レオパレスを提訴「建物の修繕不十分」
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170825-00000100-asahi-soci
アパートの修繕費を払っているのに、約束した頻度で屋根や
クロスの塗り替えや交換をしていないとして、東海地方に住むオーナー29人が29日
サブリース大手の「レオパレス21」(東京都)を相手取り
計1億4743万円の支払いを求めて名古屋地裁に提訴する。
同社の原英俊執行役員は「(文書で示した期間は)あくまでも目安で
実際の物件の状況を見て必要な修繕を行っている。
オーナーの負担だけでは足りず、会社負担で行っている修繕もあり
批判は当たらない」と話している。 ,__.,、_,、
( ( ・ω・ ) クソブラック住居侵入企業
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( ( ・ω・ ) 極悪な会社
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c(,_uuノ >>85
京都ライフは、全国賃貸管理ビジネス協会の関西支部の相談役のポジションです
そして、副会長がアパルトマンエイジェンシト代表取締役 樋口 次郎
全国賃貸管理ビジネス協会はアパマンショップ (フランチャイズ)のオーナーが入会してます
京都ライフ=アパマンショップ
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アパマンショップ の評判は賃貸不動産板で見れば評判や状態、口コミが解りますよ
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1CW1Y アンパンマン歴代主題歌まとめ〜youtube動画リンクを作りました〜
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1.1 オープニングテーマ編
1.1.0.1 1. ドリーミング『アンパンマンのマーチ』
1.2 エンディングテーマ編
1.2.0.1 1. ドリーミング『勇気りんりん』
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1.2.0.3 3. CHA-CHA『アンパンマンたいそう』
1.2.0.4 4. ドリーミング『アンパンマンたいそう』
1.2.0.5 5. ドリーミング『サンサンたいそう』
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日建設計 役員代表取締役会長 浅見秀樹 代表取締役社長 田村彰教 取締役副社長 村上康雄 取締役 矢野佑樹 監査役 赤田真一 久保峰広 辰巳健太郎 橋本勝 乾豊 岡田常路
※日建設計や淀屋橋の大手建設会社の偽造名刺で女性を騙す岸本晃がいません a たとい失恋したにもせよ、とにかく叔父さんの娘のある彼に羨望を感じてならなかった。 彼はかれこれ半年の後、ある海岸へ転地することになった。 それは転地とは云うものの、大抵は病院に暮らすものだった。 僕は学校の冬休みを利用し、はるばる彼を尋ねて行った。 彼の病室は日当りの悪い、透き間風の通る二階だった。 彼はベッドに腰かけたまま、不相変元気に笑いなどした。 が、文芸や社会科学のことはほとんど一言も話さなかった。 「僕はあの棕櫚の木を見る度に妙に同情したくなるんだがね。 棕櫚の木はつい硝子窓の外に木末の葉を吹かせていた。 その葉はまた全体も揺らぎながら、細かに裂けた葉の先々をほとんど神経的に震わせていた。 それは実際近代的なもの哀れを帯びたものに違いなかった。 が、僕はこの病室にたった一人している彼のことを考え、出来るだけ陽気に返事をした。 僕はこう云う対話の中にだんだん息苦しさを感じ出した。 僕等は夕飯をすませた後、ちょうど風の落ちたのを幸い、海岸へ散歩に出かけることにした。 僕等は低い松の生えた砂丘の斜面に腰をおろし、海雀の二三羽飛んでいるのを見ながら、いろいろのことを話し合った。 僕は彼の言葉の通り、弘法麦の枯れ枯れになった砂の中へ片手を差しこんで見た。 それから僕等の半町ほど向うに黒ぐろと和んでいた太平洋も。…… 彼の死んだ知らせを聞いたのはちょうど翌年の旧正月だった。 何でも後に聞いた話によれば病院の医者や看護婦たちは旧正月を祝うために夜更けまで歌留多会をつづけていた。 彼はその騒ぎに眠られないのを怒り、ベッドの上に横たわったまま、おお声に彼等を叱りつけた、と同時に大喀血をし、すぐに死んだとか云うことだった。 僕は黒い枠のついた一枚の葉書を眺めた時、悲しさよりもむしろはかなさを感じた。 「なおまた故人の所持したる書籍は遺骸と共に焼き棄て候えども、万一貴下より御貸与の書籍もその中にまじり居り候節は不悪御赦し下され度候。」 僕はこう云う文句を読み、何冊かの本が焔になって立ち昇る有様を想像した。 勿論それ等の本の中にはいつか僕が彼に貸したジァン・クリストフの第一巻もまじっているのに違いなかった。 この事実は当時の感傷的な僕には妙に象徴らしい気のするものだった。 それから五六日たった後、僕は偶然落ち合ったKと彼のことを話し合った。 Kは不相変冷然としていたのみならず、巻煙草を銜えたまま、こんなことを僕に尋ねたりした。 しかしXが死んで見ると、何か君は勝利者らしい心もちも起って来はしないか?」 僕はそれ以来Kに会うことに多少の不安を感ずるようになった。 彼の妹さんは僕のことを未だに My brother's best friend と書いたりしている。 僕は彼と初対面の時、何か前にも彼の顔を見たことのあるような心もちがした。 その部屋のカミンに燃えている火も、火かげの映った桃花心木の椅子も、カミンの上のプラトオン全集も確かに見たことのあるような気がした。 この気もちはまた彼と話しているうちにだんだん強まって来るばかりだった。 僕はいつかこう云う光景は五六年前の夢の中にも見たことがあったと思うようになった。 しかし勿論そんなことは一度も口に出したことはなかった。 彼は敷島をふかしながら、当然僕等の間に起る愛蘭土の作家たちの話をしていた。 僕は彼が傍若無人にこう言ったことを覚えている、それは二人とも数え年にすれば、二十五になった冬のことだった。…… 僕等は金の工面をしてはカッフェやお茶屋へ出入した。 ある粉雪の烈しい夜、僕等はカッフェ・パウリスタの隅のテエブルに坐っていた。 その頃のカッフェ・パウリスタは中央にグラノフォンが一台あり、白銅を一つ入れさえすれば音楽の聞かれる設備になっていた。 その夜もグラノフォンは僕等の話にほとんど伴奏を絶ったことはなかった。 誰でも五銭出す度に僕はきっと十銭出すから、グラノフォンの鳴るのをやめさせてくれって。」 第一他人の聞きたがっている音楽を銭ずくでやめさせるのは悪趣味じゃないか?」 「それじゃ他人の聞きたがらない音楽を金ずくで聞かせるのも悪趣味だよ。」 グラノフォンはちょうどこの時に仕合せとぱったり音を絶ってしまった。 が、たちまち鳥打帽をかぶった、学生らしい男が一人、白銅を入れに立って行った。 すると彼は腰を擡げるが早いか、ダム何とか言いながら、クルウェットスタンドを投げつけようとした。 僕は彼を引きずるようにし、粉雪のふる往来へ出ることにした。 しかし何か興奮した気もちは僕にも全然ない訣ではなかった。 「僕はこう云う雪の晩などはどこまでも歩いて行きたくなるんだ。 僕などはどこまでも歩いて行きたくなれば、どこまでも歩いて行くことにしている。」 歩いて行きたいと思いながら、歩いて行かないのは意気地なしばかりだ。 彼は突然口調を変え Brother と僕に声をかけた。 「僕はきのう本国の政府へ従軍したいと云う電報を打ったんだよ。」 半ば硝子に雪のつもった、電燈の明るい飾り窓の中にはタンクや毒瓦斯の写真版を始め、戦争ものが何冊も並んでいた。 僕等は腕を組んだまま、ちょっとこの飾り窓の前に立ち止まった。 それはちょうど雄鶏の頸の羽根を逆立てるのに似たものだった。 独逸に対する彼の敵意は勿論僕には痛切ではなかった。 人気のない夜更けの大根河岸には雪のつもった枯れ柳が一株、黒ぐろと澱んだ掘割りの水へ枝を垂らしているばかりだった。 彼は僕と別れる前にしみじみこんなことを言ったものだった。 が、一度ロンドンへ帰った後、二三年ぶりに日本に住むことになった。 もっともこの二三年は彼にも変化のない訣ではなかった。 彼はある素人下宿の二階に大島の羽織や着物を着、手あぶりに手をかざしたまま、こう云う愚痴などを洩らしていた。 僕は時々日本よりも仏蘭西に住もうかと思うことがある。」 illusion を持たないものに disillusion のあるはずはないからね。」 彼は浮かない顔をしながら、どんよりと曇った高台の景色を硝子戸越しに眺めていた。 彼の言葉は咄嗟の間にいつか僕の忘れていた彼の職業を思い出させた。 僕はいつも彼のことをただ芸術的な気質を持った僕等の一人に考えていた。 しかし彼は衣食する上にはある英字新聞の記者を勤めているのだった。 しかしその前にもう一度ロンドンへ行って来なければならない。…… 筐の中にはいっているのは細いプラティナの指環だった。 僕はその指環を手にとって見、内側に雕ってある「桃子へ」 それはあるいは職人の間違いだったかも知れなかった。 しかしまたあるいはその職人が相手の女の商売を考え、故らに外国人の名前などは入れずに置いたかも知れなかった。 僕はそんなことを気にしない彼に同情よりもむしろ寂しさを感じた。 これもやはり東京人の僕には妙に気の毒な言葉だった。 しかし彼はいつの間にか元気らしい顔色に返り、彼の絶えず愛読している日本文学の話などをし出した。 と云う小説を読んだがね、あれは恐らく世界中で一番汚いことを書いた小説だろう。」 するとこの作家は笑いながら、無造作に僕にこう言うのだった。―― 僕は彼に背を向けたまま、漫然とブック・マンなどを覗いていた。 すると彼は口笛の合い間に突然短い笑い声を洩らし、日本語でこう僕に話しかけた。 僕が最後に彼に会ったのは上海のあるカッフェだった。 (彼はそれから半年ほど後、天然痘に罹って死んでしまった。) 僕等は明るい瑠璃燈の下にウヰスキイ炭酸を前にしたまま、左右のテエブルに群った大勢の男女を眺めていた。 彼等は二三人の支那人を除けば、大抵は亜米利加人か露西亜人だった。 が、その中に青磁色のガウンをひっかけた女が一人、誰よりも興奮してしゃべっていた。 彼女は体こそ痩せていたものの、誰よりも美しい顔をしていた。 僕は彼女の顔を見た時、砧手のギヤマンを思い出した。 実際また彼女は美しいと云っても、どこか病的だったのに違いなかった。 は僕等の隣に両手に赤葡萄酒の杯を暖め、バンドの調子に合せては絶えず頭を動かしていた。 それは満足そのものと云っても、少しも差支えない姿だった。 僕は熱帯植物の中からしっきりなしに吹きつけて来るジャッズにはかなり興味を感じた。 しかし勿論幸福らしい老人などには興味を感じなかった。 僕はこう云う彼の不平をひやかさない訣には行かなかった。 のみならず気まずさを紛らすために何か言わなければならぬことも感じた。 僕が今住んで見たいと思うのはソヴィエット治下の露西亜ばかりだ。」 彼は目を細めるようにし、突然僕も忘れていた万葉集の歌をうたい出した。 「世の中をうしとやさしと思えども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば。」 僕は彼の日本語の調子に微笑しない訣には行かなかった。 彼はウヰスキイ炭酸を一口飲み、もう一度ふだんの彼自身に返った。 それから気質上のロマン主義者、人生観上の現実主義者、政治上の共産主義者……」 僕等はいつか笑いながら、椅子を押しのけて立ち上っていた。 夜更けの往来は靄と云うよりも瘴気に近いものにこもっていた。 それは街燈の光のせいか、妙にまた黄色に見えるものだった。 僕等は腕を組んだまま、二十五の昔と同じように大股にアスファルトを踏んで行った。 しかし僕はもう今ではどこまでも歩こうとは思わなかった。 「まだ君には言わなかったかしら、僕が声帯を調べて貰った話は?」 僕は声帯を調べて貰ったら、世界的なバリトオンだったんだよ。」 彼は僕の顔を覗きこむようにし、何か皮肉に微笑していた。 「勿論オペラ役者にでもなっていれば、カルウソオぐらいには行っていたんだ。 靄の中に仄めいた水には白い小犬の死骸が一匹、緩い波に絶えず揺すられていた。 そのまた小犬は誰の仕業か、頸のまわりに花を持った一つづりの草をぶら下げていた。 それは惨酷な気がすると同時に美しい気がするのにも違いなかった。 のみならず僕は彼がうたった万葉集の歌以来、多少感傷主義に伝染していた。 彼はこう答えるが早いか、途方もなく大きい嚔めをした。 ニイスにいる彼の妹さんから久しぶりに手紙の来たためであろう。 カミンも赤あかと火を動かしていれば、そのまた火かげも桃花心木のテエブルや椅子に映っていた。 僕は妙に疲労しながら、当然僕等の間に起る愛蘭土の作家たちの話をしていた。 しかし僕にのしかかって来る眠気と闘うのは容易ではなかった。 僕は覚束ない意識の中にこう云う彼の言葉を聞いたりした。 しかし僕は腰かけたまま、いつかうとうと眠ってしまった。 僕は床の上に腹這いになり、妙な興奮を鎮めるために「敷島」 が、夢の中に眠った僕が現在に目を醒ましているのはどうも無気味でならなかった。 丈艸、去来を召し、昨夜目のあはざるまま、ふと案じ入りて、呑舟に書かせたり、おのおの咏じたまへ 一しきり赤々と朝焼けた空は、又昨日のやうに時雨れるかと、大阪商人の寝起の眼を、遠い瓦屋根の向うに誘つたが、幸葉をふるつた柳の梢を、煙らせる程の雨もなく、やがて曇りながらもうす明い、もの静な冬の昼になつた。 立ちならんだ町家の間を、流れるともなく流れる川の水さへ、今日はぼんやりと光沢を消して、その水に浮く葱の屑も、気のせゐか青い色が冷たくない。 まして岸を行く往来の人々は、丸頭巾をかぶつたのも、革足袋をはいたのも、皆凩の吹く世の中を忘れたやうに、うつそりとして歩いて行く。 暖簾の色、車の行きかひ、人形芝居の遠い三味線の音―― すべてがうす明い、もの静な冬の昼を、橋の擬宝珠に置く町の埃も、動かさない位、ひつそりと守つてゐる…… この時、御堂前南久太郎町、花屋仁左衛門の裏座敷では、当時俳諧の大宗匠と仰がれた芭蕉庵松尾桃青が、四方から集つて来た門下の人人に介抱されながら、五十一歳を一期として、「埋火のあたたまりの冷むるが如く、」 隔ての襖をとり払つた、だだつ広い座敷の中には、枕頭にきさした香の煙が、一すぢ昇つて、天下の冬を庭さきに堰いた、新しい障子の色も、ここばかりは暗くかげりながら、身にしみるやうに冷々する。 その障子の方を枕にして、寂然と横はつた芭蕉のまはりには、先、医者の木節が、夜具の下から手を入れて、間遠い脈を守りながら、浮かない眉をひそめてゐた。 その後に居すくまつて、さつきから小声の称名を絶たないのは、今度伊賀から伴に立つて来た、老僕の治郎兵衛に違ひない。 と思ふと又、木節の隣には、誰の眼にもそれと知れる、大兵肥満の晋子其角が、紬の角通しの懐を鷹揚にふくらませて、憲法小紋の肩をそば立てた、ものごしの凛々しい去来と一しよに、ぢつと師匠の容態を窺つてゐる。 それから其角の後には、法師じみた丈艸が、手くびに菩提樹の珠数をかけて、端然と控へてゐたが、隣に座を占めた乙州の、絶えず鼻を啜つてゐるのは、もうこみ上げて来る悲しさに、堪へられなくなつたからであらう。 その容子をぢろぢろ眺めながら、古法衣の袖をかきつくろつて、無愛想な頤をそらせてゐる、背の低い僧形は惟然坊で、これは色の浅黒い、剛愎さうな支考と肩をならべて、木節の向うに坐つてゐた。 あとは唯、何人かの弟子たちが皆息もしないやうに静まり返つて、或は右、或は左と、師匠の床を囲みながら、限りない死別の名ごりを惜しんでゐる。 が、その中でもたつた一人、座敷の隅に蹲つて、ぴつたり畳にひれ伏した儘、慟哭の声を洩してゐたのは、正秀ではないかと思はれる。 しかしこれさへ、座敷の中のうすら寒い沈黙に抑へられて、枕頭の香のかすかな匂を、擾す程の声も立てない。 芭蕉はさつき、痰喘にかすれた声で、覚束ない遺言をした後は、半ば眼を見開いた儘、昏睡の状態にはいつたらしい。 うす痘痕のある顔は、顴骨ばかり露に痩せ細つて、皺に囲まれた唇にも、とうに血の気はなくなつてしまつた。 殊に傷しいのはその眼の色で、これはぼんやりした光を浮べながら、まるで屋根の向うにある、際限ない寒空でも望むやうに、徒に遠い所を見やつてゐる。 事によるとこの時、このとりとめのない視線の中には、三四日前に彼自身が、その辞世の句に詠じた通り、茫々とした枯野の暮色が、一痕の月の光もなく、夢のやうに漂つてでもゐたのかも知れない。 木節はやがてかう云つて、静に後にゐる治郎兵衛を顧みた。 一椀の水と一本の羽根楊子とは、既にこの老僕が、用意して置いた所である。 彼は二品をおづおづ主人の枕元へ押し並べると、思ひ出したやうに又、口を早めて、専念に称名を唱へ始めた。 治郎兵衛の素朴な、山家育ちの心には、芭蕉にせよ、誰にせよ、ひとしく彼岸に往生するのなら、ひとしく又、弥陀の慈悲にすがるべき筈だと云ふ、堅い信念が根を張つてゐたからであらう。 と云つた刹那の間、果して自分は医師として、万方を尽したらうかと云ふ、何時もの疑惑に遭遇したが、すぐに又自ら励ますやうな心もちになつて、隣にゐた其角の方をふりむきながら、無言の儘、ちよいと相図をした。 芭蕉の床を囲んでゐた一同の心に、愈と云ふ緊張した感じが咄嗟に閃いたのはこの時である。 が、その緊張した感じと前後して、一種の弛緩した感じが―― 云はば、来る可きものが遂に来たと云ふ、安心に似た心もちが、通りすぎた事も亦争はれない。 唯、この安心に似た心もちは、誰もその意識の存在を肯定しようとはしなかつた程、微妙な性質のものであつたからか、現にここにゐる一同の中では、最も現実的な其角でさへ、折から顔を見合せた木節と、際どく相手の眼の中に、同じ心もちを読み合つた時は、 彼は慌しく視線を側へ外らせると、さり気なく羽根楊子をとりあげて、 さうしてその羽根楊子へ湯呑の水をひたしながら、厚い膝をにじらせて、そつと今はの師匠の顔をのぞきこんだ。 実を云ふと彼は、かうなるまでに、師匠と今生の別をつげると云ふ事は、さぞ悲しいものであらう位な、予測めいた考もなかつた訳ではない。 が、かうして愈末期の水をとつて見ると、自分の実際の心もちは全然その芝居めいた予測を裏切つて、如何にも冷淡に澄みわたつてゐる。 のみならず、更に其角が意外だつた事には、文字通り骨と皮ばかりに痩せ衰へた、致死期の師匠の不気味な姿は、殆面を背けずにはゐられなかつた程、烈しい嫌悪の情を彼に起させた。 いや、単に烈しいと云つたのでは、まだ十分な表現ではない。 それは恰も目に見えない毒物のやうに、生理的な作用さへも及ぼして来る、最も堪へ難い種類の嫌悪であつた。 彼はこの時、偶然な契機によつて、醜き一切に対する反感を師匠の病躯の上に洩らしたのであらうか。 の事実が、この上もなく呪ふ可き自然の威嚇だつたのであらうか。―― 兎に角、垂死の芭蕉の顔に、云ひやうのない不快を感じた其角は、殆何の悲しみもなく、その紫がかつたうすい唇に、一刷毛の水を塗るや否や、顔をしかめて引き下つた。 尤もその引き下る時に、自責に似た一種の心もちが、刹那に彼の心をかすめもしたが、彼のさきに感じてゐた嫌悪の情は、さう云ふ道徳感に顧慮すべく、余り強烈だつたものらしい。 其角に次いで羽根楊子をとり上げたのは、さつき木節が相図をした時から、既に心の落着きを失つてゐたらしい去来である。 日頃から恭謙の名を得てゐた彼は、一同に軽く会釈をして、芭蕉の枕もとへすりよつたが、そこに横はつてゐた老俳諧師の病みほうけた顔を眺めると、或満足と悔恨との不思議に錯雑した心もちを、嫌でも味はなければならなかつた。 しかもその満足と悔恨とは、まるで陰と日向のやうに、離れられない因縁を背負つて、実はこの四五日以前から、絶えず小心な彼の気分を掻乱してゐたのである。 と云ふのは、師匠の重病だと云ふ知らせを聞くや否や、すぐに伏見から船に乗つて、深夜にもかまはず、この花屋の門を叩いて以来、彼は師匠の看病を一日も怠つたと云ふ事はない。 その上之道に頼みこんで手伝ひの周旋を引き受けさせるやら、住吉大明神へ人を立てて病気本復を祈らせるやら、或は又花屋仁左衛門に相談して調度類の買入れをして貰ふやら、殆彼一人が車輪になつて、万事万端の世話を焼いた。 それは勿論去来自身進んで事に当つたので、誰に恩を着せようと云ふ気も、皆無だつた事は事実であるが、一身を挙げて師匠の介抱に没頭したと云ふ自覚は、勢、彼の心の底に大きな満足の種を蒔いた。 それが唯、意識せられざる満足として、彼の活動の背景に暖い心もちをひろげてゐた中は、元より彼も行住坐臥に、何等のこだはりを感じなかつたらしい。 さもなければ夜伽の行燈の光の下で、支考と浮世話に耽つてゐる際にも、故に孝道の義を釈いて、自分が師匠に仕へるのは親に仕へる心算だなどと、長々しい述懐はしなかつたであらう。 しかしその時、得意な彼は、人の悪い支考の顔に、ちらりと閃いた苦笑を見ると、急に今までの心の調和に狂ひの出来た事を意識した。 さうしてその狂ひの原因は、始めて気のついた自分の満足と、その満足に対する自己批評とに存してゐる事を発見した。 明日にもわからない大病の師匠を看護しながら、その容態をでも心配する事か、徒に自分の骨折ぶりを満足の眼で眺めてゐる。―― これは確に、彼の如き正直者の身にとつて、自ら疚しい心もちだつたのに違ひない。 それ以来去来は何をするのにも、この満足と悔恨との扞挌から、自然と或程度の掣肘を感じ出した。 将に支考の眼の中に、偶然でも微笑の顔が見える時は、反つてその満足の自覚なるものが、一層明白に意識されて、その結果愈自分の卑しさを情なく思つた事も度々ある。 それが何日か続いた今日、かうして師匠の枕もとで、末期の水を供する段になると、道徳的に潔癖な、しかも存外神経の繊弱な彼が、かう云ふ内心の矛盾の前に、全然落着きを失つたのは、気の毒ではあるが無理もない。 だから去来は羽根楊子をとり上げると、妙に体中が固くなつて、その水を含んだ白い先も、芭蕉の唇を撫でながら、頻にふるへてゐた位、異常な興奮に襲はれた。 が、幸、それと共に、彼の睫毛に溢れようとしてゐた、涙の珠もあつたので、彼を見てゐた門弟たちは、恐くあの辛辣な支考まで、全くこの興奮も彼の悲しみの結果だと解釈してゐた事であらう。 やがて去来が又憲法小紋の肩をそば立てて、おづおづ席に復すると、羽根楊子はその後にゐた丈艸の手へわたされた。 日頃から老実な彼が、つつましく伏眼になつて、何やらかすかに口の中で誦しながら、静に師匠の唇を沾してゐる姿は、恐らく誰の見た眼にも厳だつたのに相違ない。 が、この厳な瞬間に突然座敷の片すみからは、不気味な笑ひ声が聞え出した。 いや、少くともその時は、聞え出したと思はれたのである。 それはまるで腹の底からこみ上げて来る哄笑が、喉と唇とに堰かれながら、しかも猶可笑しさに堪へ兼ねて、ちぎれちぎれに鼻の孔から、迸つて来るやうな声であつた。 が、云ふまでもなく、誰もこの場合、笑を失したものがあつた訳ではない。 声は実にさつきから、涙にくれてゐた正秀の抑へに抑へてゐた慟哭が、この時胸を裂いて溢れたのである。 その慟哭は勿論、悲愴を極めてゐたのに相違なかつた。 或はそこにゐた門弟の中には、「塚も動けわが泣く声は秋の風」 と云ふ、師匠の名句を思ひ出したものも、少くはなかつた事であらう。 が、その凄絶なる可き慟哭にも、同じく涙に咽ばうとしてゐた乙州は、その中にある一種の誇張に対して、―― と云ふのが穏でないならば、慟哭を抑制すべき意志力の欠乏に対して、多少不快を感じずにはゐられなかつた。 唯、さう云ふ不快の性質は、どこまでも智的なものに過ぎなかつたのであらう。 彼の頭が否と云つてゐるにも関らず、彼の心臓は忽ち正秀の哀慟の声に動かされて、何時か眼の中は涙で一ぱいになつた。 が、彼が正秀の慟哭を不快に思ひ、延いては彼自身の涙をも潔しとしない事は、さつきと少しも変りはない。 乙州は遂に両手を膝の上についた儘、思はず嗚咽の声を発してしまつた。 が、この時歔欷するらしいけはひを洩らしたのは、独り乙州ばかりではない。 芭蕉の床の裾の方に控へてゐた、何人かの弟子の中からは、それと殆同時に洟をすする声が、しめやかに冴えた座敷の空気をふるはせて、断続しながら聞え始めた。 その惻々として悲しい声の中に、菩提樹の念珠を手頸にかけた丈艸は、元の如く静に席へ返つて、あとには其角や去来と向ひあつてゐる、支考が枕もとへ進みよつた。 が、この皮肉屋を以て知られた東花坊には周囲の感情に誘ひこまれて、徒に涙を落すやうな繊弱な神経はなかつたらしい。 彼は何時もの通り浅黒い顔に、何時もの通り人を莫迦にしたやうな容子を浮べて、更に又何時もの通り妙に横風に構へながら、無造作に師匠の唇へ水を塗つた。 しかし彼と雖もこの場合、勿論多少の感慨があつた事は争はれない。 師匠は四五日前に、「かねては草を敷き、土を枕にして死ぬ自分と思つたが、かう云ふ美しい蒲団の上で、往生の素懐を遂げる事が出来るのは、何よりも悦ばしい」 が、実は枯野のただ中も、この花屋の裏座敷も、大した相違がある訳ではない。 現にかうして口をしめしてゐる自分にしても、三四日前までは、師匠に辞世の句がないのを気にかけてゐた。 それから昨日は、師匠の発句を滅後に一集する計画を立ててゐた。 最後に今日は、たつた今まで、刻々臨終に近づいて行く師匠を、どこかその経過に興味でもあるやうな、観察的な眼で眺めてゐた。 もう一歩進めて皮肉に考へれば、事によるとその眺め方の背後には、他日自分の筆によつて書かるべき終焉記の一節さへ、予想されてゐなかつたとは云へない。 して見れば師匠の命終に侍しながら、自分の頭を支配してゐるものは、他門への名聞、門弟たちの利害、或は又自分一身の興味打算―― だから師匠はやはり発句の中で、屡予想を逞くした通り、限りない人生の枯野の中で、野ざらしになつたと云つて差支へない。 自分たち門弟は皆師匠の最後を悼まずに、師匠を失つた自分たち自身を悼んでゐる。 枯野に窮死した先達を歎かずに、薄暮に先達を失つた自分たち自身を歎いてゐる。 が、それを道徳的に非難して見た所で、本来薄情に出来上つた自分たち人間をどうしよう。―― かう云ふ厭世的な感慨に沈みながら、しかもそれに沈み得る事を得意にしてゐた支考は、師匠の唇をしめし終つて、羽根楊子を元の湯呑へ返すと、涙に咽んでゐる門弟たちを、嘲るやうにじろりと見廻して、徐に又自分の席へ立ち戻つた。 人の好い去来の如きは、始からその冷然とした態度に中てられて、さつきの不安を今更のやうに又新にしたが、独り其角が妙に擽つたい顔をしてゐたのは、どこまでも白眼で押し通さうとする東花坊のこの性行上の習気を、小うるさく感じてゐたらしい。 支考に続いて惟然坊が、墨染の法衣の裾をもそりと畳へひきながら、小さく這ひ出した時分には、芭蕉の断末魔も既にもう、弾指の間に迫つたのであらう。 顔の色は前よりも更に血の気を失つて、水に濡れた唇の間からも、時々忘れたやうに息が洩れなくなる。 と思ふと又、思ひ出したやうにぎくりと喉が大きく動いて、力のない空気が通ひ始める。 しかもその喉の奥の方で、かすかに二三度痰が鳴つた。 その時羽根楊子の白い先を、将にその唇へ当てようとしてゐた惟然坊は、急に死別の悲しさとは縁のない、或る恐怖に襲はれ始めた。 それは師匠の次に死ぬものは、この自分ではあるまいかと云ふ、殆無理由に近い恐怖である。 が、無理由であればあるだけに、一度この恐怖に襲はれ出すと、我慢にも抵抗のしやうがない。 元来彼は死と云ふと、病的に驚悸する種類の人間で、昔からよく自分の死ぬ事を考へると、風流の行脚をしてゐる時でも、総身に汗の流れるやうな不気味な恐しさを経験した。 従つて又、自分以外の人間が、死んだと云ふ事を耳にすると、まあ自分が死ぬのではなくつてよかつたと、安心したやうな心もちになる。 と同時に又、もし自分が死ぬのだつたらどうだらうと、反対の不安をも感じる事がある。 これはやはり芭蕉の場合も例外には洩れないで、始まだ彼の臨終がこれ程切迫してゐない中は、―― 障子に冬晴の日がさして、園女の贈つた水仙が、清らかな匂を流すやうになると、一同師匠の枕もとに集つて、病間を慰める句作などをした時分は、さう云ふ明暗二通りの心もちの間を、その時次第で徘徊してゐた。 忘れもしない初時雨の日に、自ら好んだ梨の実さへ、師匠の食べられない容子を見て、心配さうに木節が首を傾けた、あの頃から安心は追々不安にまきこまれて、最後にはその不安さへ、今度死ぬのは自分かも知れないと云ふ険悪な恐怖の影を、 だから彼は枕もとへ坐つて、刻銘に師匠の唇をしめしてゐる間中、この恐怖に祟られて、殆末期の芭蕉の顔を正視する事が出来なかつたらしい。 いや、一度は正視したかとも思はれるが、丁度その時芭蕉の喉の中では、痰のつまる音がかすかに聞えたので、折角の彼の勇気も、途中で挫折してしまつたのであらう。 「師匠の次に死ぬものは、事によると自分かも知れない」―― 絶えずかう云ふ予感めいた声を、耳の底に聞いてゐた惟然坊は、小さな体をすくませながら、自分の席へ返つた後も、無愛想な顔を一層無愛想にして、なる可く誰の顔も見ないやうに、上眼ばかり使つてゐた。 続いて乙州、正秀、之道、木節と、病床を囲んでゐた門人たちは、順々に師匠の唇を沾した。 が、その間に芭蕉の呼吸は、一息毎に細くなつて、数さへ次第に減じて行く。 うす痘痕の浮んでゐる、どこか蝋のやうな小さい顔、遥な空間を見据ゑてゐる、光の褪せた瞳の色、さうして頤にのびてゐる、銀のやうな白い鬚―― それが皆人情の冷さに凍てついて、やがて赴くべき寂光土を、ぢつと夢みてゐるやうに思はれる。 するとこの時、去来の後の席に、黙然と頭を垂れてゐた丈艸は、あの老実な禅客の丈艸は、芭蕉の呼吸のかすかになるのに従つて、限りない悲しみと、さうして又限りない安らかな心もちとが、徐に心の中へ流れこんで来るのを感じ出した。 が、その安らかな心もちは、恰も明方の寒い光が次第に暗の中にひろがるやうな、不思議に朗な心もちである。 しかもそれは刻々に、あらゆる雑念を溺らし去つて、果ては涙そのものさへも、毫も心を刺す痛みのない、清らかな悲しみに化してしまふ。 彼は師匠の魂が虚夢の生死を超越して、常住涅槃の宝土に還つたのを喜んででもゐるのであらうか。 いや、これは彼自身にも、肯定の出来ない理由であつた。 ああ、誰か徒に逡巡して、己を欺くの愚を敢てしよう。 丈艸のこの安らかな心もちは、久しく芭蕉の人格的圧力の桎梏に、空しく屈してゐた彼の自由な精神が、その本来の力を以て、漸く手足を伸ばさうとする、解放の喜びだつたのである。 彼はこの恍惚たる悲しい喜びの中に、菩提樹の念珠をつまぐりながら、周囲にすすりなく門弟たちも、眼底を払つて去つた如く、唇頭にかすかな笑を浮べて、恭々しく、臨終の芭蕉に礼拝した。―― かうして、古今に倫を絶した俳諧の大宗匠、芭蕉庵松尾桃青は、「悲歎かぎりなき」 門弟たちに囲まれた儘、溘然として属に就いたのである。 大作をやる気になったり、読み切りそうもない本を買ったりする如き。 一しょに往来を歩いていると、遠い所の物は代りに見てくれる故、甚便利なり。 稀に嘘を云うともその為反って正直な所がわかるような嘘を云う意味。 久しぶりに漱石先生の所へ行つたら、先生は書斎のまん中に坐つて、腕組みをしながら、何か考へてゐた。 と云ふと「今、護国寺の三門で、運慶が仁王を刻んでゐるのを見て来た所だよ」 この忙しい世の中に、運慶なんぞどうでも好いと思つたから、浮かない先生をつかまへて、トルストイとか、ドストエフスキイとか云ふ名前のはいる、六づかしい議論を少しやつた。 それから先生の所を出て、元の江戸川の終点から、電車に乗つた。 が、やつと隅の吊革につかまつて、懐に入れて来た英訳の露西亜小説を読み出した。 労働者がどうとかしたら、気が違つて、ダイナマイトを抛りつけて、しまひにその女までどうとかしたとあつた。 兎に角万事が切迫してゐて、暗澹たる力があつて、とても日本の作家なんぞには、一行も書けないやうな代物だつた。 勿論自分は大に感心して、立ちながら、行の間へ何本も色鉛筆の線を引いた。 所が飯田橋の乗換でふと気がついて見ると、窓の外の往来に、妙な男が二人歩いてゐた。 その男は二人とも、同じやうな襤縷々々の着物を着てゐた。 しかも髪も髭ものび放題で、如何にも古怪な顔つきをしてゐた。 自分はこの二人の男に何処かで遇つたやうな気がしたが、どうしても思ひ出せなかつた。 さう云はれて見ると、成程その二人の男は、箒をかついで、巻物を持つて、大雅の画からでも脱け出したやうに、のつそりかんと歩いてゐた。 が、いくら売立てが流行るにしても、正物の寒山拾得が揃つて飯田橋を歩いてゐるのも不思議だから、隣の道具屋らしい男の袖を引張つて、 「へええ、僕はもう二人とも、とうに死んだのかと思つてゐました。」 あの友だちの豊干禅師つて大将も、よく虎に騎つちや、銀座通りを歩いてますぜ。」 それから五分の後、電車が動き出すと同時に、自分は又さつき読みかけた露西亜小説へとりかかつた。 すると一頁と読まない内に、ダイナマイトの臭ひよりも、今見た寒山拾得の怪しげな姿が懐しくなつた。 そこで窓から後を透して見ると、彼等はもう豆のやうに小さくなりながら、それでもまだはつきりと、朗な晩秋の日の光の中に、箒をかついで歩いてゐた。 自分は吊革につかまつた儘、元の通り書物を懐に入れて、家へ帰つたら早速、漱石先生へ、今日飯田橋で寒山拾得に遇つたと云ふ手紙を書かうと思つた。 さう思つたら、彼等が現代の東京を歩いてゐるのも、略々無理がないやうな心もちがした。 三円で果亭の山水を買つて来て、書斎の床に掛けて置いたら、遊びに来た男が皆その前へ立つて見ちや「贋物ぢやないか」 滝田樗陰君の如きも、上から下までずつと眼をやつて、「いけませんな」 が、こちらは元来怪しげな書画を掘り出して来る事を以て、無名の天才に敬意を払ふ所以だと心得てゐるんだから、「僕は果亭だから懸けて置くのぢやない。 けれどもこの山水を贋物だと称する諸君子は、悉くこれを自分の負惜しみだと盲断した。 のみならず彼等の或者は「兎に角無名の天才は安上りで好いよ」 ここに至る以上自分と雖も、聊か三円の果亭の為に辯ずる所なきを得ない。 仰鑑定家なるものはややもすると虫眼鏡などをふり廻して、我々素人を嚇かしにかかるが、元来彼等は書画の真贋をどの位まで正確に見分ける事が出来るかと云ふと、彼等も人間である以上、決して全智全能と云ふ次第ぢやない。 何となれば、彼等の判断を下すべきものはその書画の真贋である。 所がその真贋なり巧拙なりの鑑定は何時でも或客観的標準の定規を当てると云ふ訣に行かう筈がない。 たとへば落款とか手法とか乃至紙墨などと云ふ物質的材料を巧に真似たものになると、その真贋を鑑定するものは殆ど一種の直覚の外に何もないと云ふ事に帰着してしまふ。 が、如何に鋭敏な直覚を備へてゐたにした所で、唯過去に於て或書家なり画家なりがその書画を作つたと云ふ事実だけの問題になつたら、鑑定家にして占者を兼ねない限り、到底見分けなんぞはつきはしまい。 現にこの間も何とか云ふ男の作つた贋物の書画は、作者自身も真贋を辨じなかつたと云つてゐるぢやないか。 よし又それ程巧妙をを極めた贋物でないにしても鑑定家に良心のある限り、真とも贋とも決定出来ない中間色の書画が出て来るのは自然である。 して見れば鑑定家なるものは、或種類の書画に限り、我々同様更に真贋の判別は出来ないと云つても差支ない。 そこで翻つて三円の果亭を見ると、断じて果亭だと言明する事が出来ないにしても、同様に又断じて果亭でないとも言明する事の出来ないものである。 既に然るからはこれを果亭と認めて壁間にぶら下げたのにしろ、毛頭自分の不名誉になる事ぢやない。 況んや自分は唯、無名の天才に敬意を表する心算で―― 辯じてここまで来ると、大抵の男は「わかつたよ、もう無名の天才は沢山だ」 沢山ならこれで切り上げるが、世間には自分の如く怪しげな書画を玩んで無名の天才に敬意を払ふの士が存外多くはないかと思ふ。 それらの士は、俗悪なる新画に巨万の黄金を抛つて顧みない天下の富豪に比べると、少くとも趣味の独立してゐる点で尊敬に価する人々である。 そこで自分は聊かそれらの士と共に、真贋の差別に煩はされない清興の存在を主張したかつたから、ここにわざわざ以上の饒舌を活字にする事を敢てした。 所謂竹町物を商ふ骨董屋が広告に利用しなければ幸甚である。 お蓮が本所の横網に囲われたのは、明治二十八年の初冬だった。 ただ庭先から川向うを見ると、今は両国停車場になっている御竹倉一帯の藪や林が、時雨勝な空を遮っていたから、比較的町中らしくない、閑静な眺めには乏しくなかった。 が、それだけにまた旦那が来ない夜なぞは寂し過ぎる事も度々あった。 お蓮は眼の悪い傭い婆さんとランプの火を守りながら、気味悪そうにこんな会話を交換する事もないではなかった。 旦那の牧野は三日にあげず、昼間でも役所の帰り途に、陸軍一等主計の軍服を着た、逞しい姿を運んで来た。 勿論日が暮れてから、厩橋向うの本宅を抜けて来る事も稀ではなかった。 牧野はもう女房ばかりか、男女二人の子持ちでもあった。 この頃丸髷に結ったお蓮は、ほとんど宵毎に長火鉢を隔てながら、牧野の酒の相手をした。 二人の間の茶ぶ台には、大抵からすみや海鼠腸が、小綺麗な皿小鉢を並べていた。 そう云う時には過去の生活が、とかくお蓮の頭の中に、はっきり浮んで来勝ちだった。 彼女はあの賑やかな家や朋輩たちの顔を思い出すと、遠い他国へ流れて来た彼女自身の便りなさが、一層心に沁みるような気がした。 それからまた以前よりも、ますます肥って来た牧野の体が、不意に妙な憎悪の念を燃え立たせる事も時々あった。 そうして何か冗談を云っては、お蓮の顔を覗きこむと、突然大声に笑い出すのが、この男の酒癖の一つだった。 お蓮は牧野にこう云われても、大抵は微笑を洩らしたまま、酒の燗などに気をつけていた。 役所の勤めを抱えていた牧野は、滅多に泊って行かなかった。 枕もとに置いた時計の針が、十二時近くなったのを見ると、彼はすぐにメリヤスの襯衣へ、太い腕を通し始めた。 お蓮は自堕落な立て膝をしたなり、いつもただぼんやりと、せわしなそうな牧野の帰り仕度へ、懶い流し眼を送っていた。 牧野は夜中のランプの光に、脂の浮いた顔を照させながら、もどかしそうな声を出す事もあった。 お蓮は彼を送り出すと、ほとんど毎夜の事ながら、気疲れを感ぜずにはいられなかった。 と同時にまた独りになった事が、多少は寂しくも思われるのだった。 雨が降っても、風が吹いても、川一つ隔てた藪や林は、心細い響を立て易かった。 お蓮は酒臭い夜着の襟に、冷たい頬を埋めながら、じっとその響に聞き入っていた。 こうしている内に彼女の眼には、いつか涙が一ぱいに漂って来る事があった。 それ自身悪夢のような眠が、間もなく彼女の心の上へ、昏々と下って来るのだった。 ある静かな雨降りの夜、お蓮は牧野の酌をしながら、彼の右の頬へ眼をやった。 そこには青い剃痕の中に、大きな蚯蚓脹が出来ていた。 牧野は冗談かと思うほど、顔色も声もけろりとしていた。 おれでさえこのくらいだから、お前なぞが遇って見ろ。 ここにいる事が知れた日にゃ、明日にも押しかけて来ないものじゃない。」 牧野の言葉には思いのほか、真面目そうな調子も交っていた。 牧野の眼にはちょいとの間、狡猾そうな表情が浮んだ。 そこへ婆さんが勝手から、あつらえ物の蒲焼を運んで来た。 その晩牧野は久しぶりに、妾宅へ泊って行く事になった。 お蓮は牧野が寝入った後、何故かいつまでも眠られなかった。 彼女の冴えた眼の底には、見た事のない牧野の妻が、いろいろな姿を浮べたりした。 ただその想像に伴うのは、多少の好奇心ばかりだった。 お蓮は戸の外の藪や林が、霙にざわめくのを気にしながら、真面目にそんな事も考えて見た。 それでも二時を聞いてしまうと、ようやく眠気がきざして来た。―― お蓮はいつか大勢の旅客と、薄暗い船室に乗り合っている。 円い窓から外を見ると、黒い波の重なった向うに、月だか太陽だか判然しない、妙に赤光のする球があった。 乗合いの連中はどうした訳か、皆影の中に坐ったまま、一人も口を開くものがない。 お蓮はだんだんこの沈黙が、恐しいような気がし出した。 その内に誰かが彼女の後へ、歩み寄ったらしいけはいがする。 すると後には別れた男が、悲しそうな微笑を浮べながら、じっと彼女を見下している。……… 牧野はやはり彼女の隣に、静かな呼吸を続けていたが、こちらへ背中を向けた彼が、実際寝入っていたのかどうか、それはお蓮にはわからなかった。 お蓮に男のあった事は、牧野も気がついてはいたらしかった。 が、彼はそう云う事には、頓着する気色も見せなかった。 また実際男の方でも、牧野が彼女にのぼせ出すと同時に、ぱったり遠のいてしまったから、彼が嫉妬を感じなかったのも、自然と云えば自然だった。 それは恋しいと云うよりも、もっと残酷な感情だった。 何故男が彼女の所へ、突然足踏みもしなくなったか、―― 勿論お蓮は何度となく、変り易い世間の男心に、一切の原因を見出そうとした。 が、男の来なくなった前後の事情を考えると、あながちそうばかりも、思われなかった。 と云って何か男の方に、やむを得ない事情が起ったとしても、それも知らさずに別れるには、彼等二人の間柄は、余りに深い馴染みだった。 では男の身の上に、不慮の大変でも襲って来たのか、―― お蓮はこう想像するのが、恐しくもあれば望ましくもあった。……… 男の夢を見た二三日後、お蓮は銭湯に行った帰りに、ふと「身上判断、玄象道人」 と云う旗が、ある格子戸造りの家に出してあるのが眼に止まった。 その旗は算木を染め出す代りに、赤い穴銭の形を描いた、余り見慣れない代物だった。 が、お蓮はそこを通りかかると、急にこの玄象道人に、男が昨今どうしているか、占って貰おうと云う気になった。 案内に応じて通されたのは、日当りの好い座敷だった。 その上主人が風流なのか、支那の書棚だの蘭の鉢だの、煎茶家めいた装飾があるのも、居心の好い空気をつくっていた。 が、金歯を嵌めていたり、巻煙草をすぱすぱやる所は、一向道人らしくもない、下品な風采を具えていた。 お蓮はこの老人の前に、彼女には去年行方知れずになった親戚のものが一人ある、その行方を占って頂きたいと云った。 すると老人は座敷の隅から、早速二人のまん中へ、紫檀の小机を持ち出した。 そうしてその机の上へ、恭しそうに青磁の香炉や金襴の袋を並べ立てた。 「ははあ、まだ御若いな、御若い内はとかく間違いが起りたがる。 玄象道人はじろりとお蓮を見ると、二三度下びた笑い声を出した。 擲銭卜は昔漢の京房が、始めて筮に代えて行ったとある。 御承知でもあろうが、筮と云う物は、一爻に三変の次第があり、一卦に十八変の法があるから、容易に吉凶を判じ難い。 そう云う内に香炉からは、道人の燻べた香の煙が、明い座敷の中に上り始めた。 道人は薄赤い絹を解いて、香炉の煙に一枚ずつ、中の穴銭を燻じた後、今度は床に懸けた軸の前へ、丁寧に円い頭を下げた。 軸は狩野派が描いたらしい、伏羲文王周公孔子の四大聖人の画像だった。 「惟皇たる上帝、宇宙の神聖、この宝香を聞いて、願くは降臨を賜え。―― そんな祭文が終ってから、道人は紫檀の小机の上へ、ぱらりと三枚の穴銭を撒いた。 穴銭は一枚は文字が出たが、跡の二枚は波の方だった。 お蓮はその穴銭の順序へ、心配そうな眼を注いでいた。 擲銭が終った時、老人は巻紙を眺めたまま、しばらくはただ考えていた。 「これは雷水解と云う卦でな、諸事思うようにはならぬとあります。――」 お蓮は怯ず怯ず三枚の銭から、老人の顔へ視線を移した。 「まずその御親戚とかの若い方にも、二度と御遇いにはなれそうもないな。」 玄象道人はこう云いながら、また穴銭を一枚ずつ、薄赤い絹に包み始めた。 「生きていられるか、死んでいられるかそれはちと判じ悪いが、―― お蓮に駄目を押された道人は、金襴の袋の口をしめると、脂ぎった頬のあたりに、ちらりと皮肉らしい表情が浮んだ。 この東京が森や林にでもなったら、御遇いになれぬ事もありますまい。―― お蓮はここへ来た時よりも、一層心細い気になりながら、高い見料を払った後、々家へ帰って来た。 その晩彼女は長火鉢の前に、ぼんやり頬杖をついたなり、鉄瓶の鳴る音に聞き入っていた。 玄象道人の占いは、結局何の解釈をも与えてくれないのと同様だった。 いや、むしろ積極的に、彼女が密かに抱いていた希望、―― たといいかにはかなくとも、やはり希望には違いない、万一を期する心もちを打ち砕いたのも同様だった。 男は道人がほのめかせたように、実際生きていないのであろうか? そう云えば彼女が住んでいた町も、当時は物騒な最中だった。 男はお蓮のいる家へ、不相変通って来る途中、何か間違いに遇ったのかも知れない。 さもなければ忘れたように、ふっつり来なくなってしまったのは、―― お蓮は白粉を刷いた片頬に、炭火の火照りを感じながら、いつか火箸を弄んでいる彼女自身を見出した。 灰の上にはそう云う字が、何度も書かれたり消されたりした。 そうお蓮が書き続けていると、台所にいた雇婆さんが、突然かすかな叫び声を洩らした。 この家では台所と云っても、障子一重開けさえすれば、すぐにそこが板の間だった。 竈が幅をとった板の間には、障子に映るランプの光が、物静かな薄暗をつくっていた。 婆さんはその薄暗の中に、半天の腰を屈めながら、ちょうど今何か白い獣を抱き上げている所だった。 両袖を胸に合せたお蓮は、じっとその犬を覗きこんだ。 犬は婆さんに抱かれたまま、水々しい眼を動かしては、頻に鼻を鳴らしている。 「これは今朝ほど五味溜めの所に、啼いていた犬でございますよ。―― 「はい、その癖ここにさっきから、御茶碗を洗って居りましたんですが―― やっぱり人間眼の悪いと申す事は、仕方のないもんでございますね。」 婆さんは水口の腰障子を開けると、暗い外へ小犬を捨てようとした。 「まあ御待ち、ちょいと私も抱いて見たいから、――」 お蓮は婆さんの止めるのも聞かず、両手にその犬を抱きとった。 それが一瞬間過去の世界へ、彼女の心をつれて行った。 お蓮はあの賑かな家にいた時、客の来ない夜は一しょに寝る、白い小犬を飼っていたのだった。 お蓮は犬を板の間へ下すと、無邪気な笑顔を見せながら、もう肴でも探してやる気か、台所の戸棚に手をかけていた。 その翌日から妾宅には、赤い頸環に飾られた犬が、畳の上にいるようになった。 殊に庭へ下りた犬が、泥足のまま上って来なぞすると、一日腹を立てている事もあった。 が、ほかに仕事のないお蓮は、子供のように犬を可愛がった。 夜はまた彼女の夜着の裾に、まろまろ寝ている犬を見るのが、文字通り毎夜の事だった。 何しろ薄暗いランプの光に、あの白犬が御新造の寝顔をしげしげ見ていた事もあったんですから、――」 婆さんがかれこれ一年の後、私の友人のKと云う医者に、こんな事も話して聞かせたそうである。 この小犬に悩まされたものは、雇婆さん一人ではなかった。 牧野も犬が畳の上に、寝そべっているのを見た時には、不快そうに太い眉をひそめた。 陸軍主計の軍服を着た牧野は、邪慳に犬を足蹴にした。 犬は彼が座敷へ通ると、白い背中の毛を逆立てながら、無性に吠え立て始めたのだった。 晩酌の膳についてからも、牧野はまだ忌々しそうに、じろじろ犬を眺めていた。 「前にもこのくらいなやつを飼っていたじゃないか?」 「そう云えばお前があの犬と、何でも別れないと云い出したのにゃ、随分手こずらされたものだったけ。」 お蓮は膝の小犬を撫でながら、仕方なさそうな微笑を洩らした。 汽船や汽車の旅を続けるのに、犬を連れて行く事が面倒なのは、彼女にもよくわかっていた。 が、男とも別れた今、その白犬を後に残して、見ず知らずの他国へ行くのは、どう考えて見ても寂しかった。 だからいよいよ立つと云う前夜、彼女は犬を抱き上げては、その鼻に頬をすりつけながら、何度も止めどない啜り泣きを呑みこみ呑みこみしたものだった。……… 「あの犬は中々利巧だったが、こいつはどうも莫迦らしいな。 もう酔のまわった牧野は、初めの不快も忘れたように、刺身なぞを犬に投げてやった。 お蓮は牧野の酌をしながら、前に飼っていた犬の鼻が、はっきりと眼の前に見えるような気がした。 それは始終涎に濡れた、ちょうど子持ちの乳房のように、鳶色の斑がある鼻づらだった。 「へええ、して見ると鼻の赭い方が、犬では美人の相なのかも知れない。」 牧野はお蓮の手を突つきながら、彼一人上機嫌に笑い崩れた。 しかし牧野はいつまでも、その景気を保っていられなかった。 犬は彼等が床へはいると、古襖一重隔てた向うに、何度も悲しそうな声を立てた。 のみならずしまいにはその襖へ、がりがり前足の爪をかけた。 牧野は深夜のランプの光に、妙な苦笑を浮べながら、とうとうお蓮へ声をかけた。 が、彼女が襖を開けると、犬は存外ゆっくりと、二人の枕もとへはいって来た。 そうして白い影のように、そこへ腹を落着けたなり、じっと彼等を眺め出した。 お蓮は何だかその眼つきが、人のような気がしてならなかった。 それから二三日経ったある夜、お蓮は本宅を抜けて来た牧野と、近所の寄席へ出かけて行った。 そう云う物ばかりかかっていた寄席は、身動きも出来ないほど大入りだった。 二人はしばらく待たされた後、やっと高座には遠い所へ、窮屈な腰を下す事が出来た。 彼等がそこへ坐った時、あたりの客は云い合わせたように、丸髷に結ったお蓮の姿へ、物珍しそうな視線を送った。 彼女にはそれが晴がましくもあれば、同時にまた何故か寂しくもあった。 高座には明るい吊ランプの下に、白い鉢巻をした男が、長い抜き身を振りまわしていた。 そうして楽屋からは朗々と、「踏み破る千山万岳の煙」 お蓮にはその剣舞は勿論、詩吟も退屈なばかりだった。 が、牧野は巻煙草へ火をつけながら、面白そうにそれを眺めていた。 高座に下した幕の上には、日清戦争の光景が、いろいろ映ったり消えたりした。 敵の赤児を抱いた樋口大尉が、突撃を指揮する所もあった。 大勢の客はその画の中に、たまたま日章旗が現れなぞすると、必ず盛な喝采を送った。 しかし実戦に臨んで来た牧野は、そう云う連中とは没交渉に、ただにやにやと笑っていた。 彼は牛荘の激戦の画を見ながら、半ば近所へも聞かせるように、こうお蓮へ話しかけた。 が、彼女は不相変、熱心に幕へ眼をやったまま、かすかに頷いたばかりだった。 それは勿論どんな画でも、幻燈が珍しい彼女にとっては、興味があったのに違いなかった。 雪の積った城楼の屋根だの、枯柳に繋いだ兎馬だの、辮髪を垂れた支那兵だのは、特に彼女を動かすべき理由も持っていたのだった。 二人は肩を並べながら、しもうた家ばかり続いている、人気のない町を歩いて来た。 町の上には半輪の月が、霜の下りた家々の屋根へ、寒い光を流していた。 牧野はその光の中へ、時々巻煙草の煙を吹いては、さっきの剣舞でも頭にあるのか、 所が横町を一つ曲ると、突然お蓮は慴えたように、牧野の外套の袖を引いた。 お蓮は彼に寄り添いながら、気味の悪そうな眼つきをしていた。 牧野は思わず足を止めると、ちょいと耳を澄ませて見た。 が、寂しい往来には、犬の吠える声さえ聞えなかった。 お蓮は房楊枝を啣えながら、顔を洗いに縁側へ行った。 縁側にはもういつもの通り、銅の耳盥に湯を汲んだのが、鉢前の前に置いてあった。 庭の向うに続いた景色も、曇天を映した川の水と一しょに、荒涼を極めたものだった。 が、その景色が眼にはいると、お蓮は嗽いを使いがら、今までは全然忘れていた昨夜の夢を思い出した。 それは彼女がたった一人、暗い藪だか林だかの中を歩き廻っている夢だった。 彼女は細い路を辿りながら、「とうとう私の念力が届いた。 きっと今に金さんにも、遇う事が出来るのに違いない。」―― するとしばらく歩いている内に、大砲の音や小銃の音が、どことも知らず聞え出した。 と同時に木々の空が、まるで火事でも映すように、だんだん赤濁りを帯び始めた。 が、いくら気負って見ても、何故か一向走れなかった。………… お蓮は顔を洗ってしまうと、手水を使うために肌を脱いだ。 その時何か冷たい物が、べたりと彼女の背中に触れた。 そこには小犬が尾を振りながら、頻に黒い鼻を舐め廻していた。 牧野はその後二三日すると、いつもより早めに妾宅へ、田宮と云う男と遊びに来た。 ある有名な御用商人の店へ、番頭格に通っている田宮は、お蓮が牧野に囲われるのについても、いろいろ世話をしてくれた人物だった。 こうやって丸髷に結っていると、どうしても昔のお蓮さんとは見えない。」 田宮は明いランプの光に、薄痘痕のある顔を火照らせながら、向い合った牧野へ盃をさした。 これが島田に結っていたとか、赤熊に結っていたとか云うんなら、こうも違っちゃ見えまいがね、何しろ以前が以前だから、――」 「おい、おい、ここの婆さんは眼は少し悪いようだが、耳は遠くもないんだからね。」 牧野はそう注意はしても、嬉しそうににやにや笑っていた。 あの時分の事を考えると、まるで夢のようじゃありませんか。」 お蓮は眼を外らせたまま、膝の上の小犬にからかっていた。 「私も牧野さんに頼まれたから、一度は引き受けて見たようなものの、万一ばれた日にゃ大事だと、無事に神戸へ上がるまでにゃ、随分これでも気を揉みましたぜ。」 「へん、そう云う危い橋なら、渡りつけているだろうに、――」 田宮は一盃ぐいとやりながら、わざとらしい渋面をつくって見せた。 「だがお蓮の今日あるを得たのは、実際君のおかげだよ。」 「そう云われると恐れ入るが、とにかくあの時は弱ったよ。 おまけにまた乗った船が、ちょうど玄海へかかったとなると、恐ろしいしけを食ってね。―― 「ええ、私はもう船も何も、沈んでしまうかと思いましたよ。」 お蓮は田宮の酌をしながら、やっと話に調子を合わせた。 が、あの船が沈んでいたら、今よりは反って益かも知れない。―― 「それがまあこうしていられるんだから、御互様に仕合せでさあ。―― お蓮さんに丸髷が似合うようになると、もう一度また昔のなりに、返らせて見たい気もしやしないか?」 ないと云えば昔の着物は、一つもこっちへは持って来なかったかい?」 「着物どころか櫛簪までも、ちゃんと御持参になっている。 いくら僕が止せと云っても、一向御取上げにならなかったんだから、――」 牧野はちらりと長火鉢越しに、お蓮の顔へ眼を送った。 お蓮はその言葉も聞えないように、鉄瓶のぬるんだのを気にしていた。 その内に一つなりを変えて、御酌を願おうじゃありませんか?」 「そうして君も序ながら、昔馴染を一人思い出すか。」 「さあ、その昔馴染みと云うやつがね、お蓮さんのように好縹緻だと、思い出し甲斐もあると云うものだが、――」 田宮は薄痘痕のある顔に、擽ったそうな笑いを浮べながら、すり芋を箸に搦んでいた。…… その晩田宮が帰ってから、牧野は何も知らなかったお蓮に、近々陸軍を止め次第、商人になると云う話をした。 辞職の許可が出さえすれば、田宮が今使われている、ある名高い御用商人が、すぐに高給で抱えてくれる、―― 「そうすりゃここにいなくとも好いから、どこか手広い家へ引っ越そうじゃないか?」 牧野はさも疲れたように、火鉢の前へ寝ころんだまま、田宮が土産に持って来たマニラの葉巻を吹かしていた。 お蓮は意地のきたない犬へ、残り物を当てがうのに忙しかった。 牧野の口調や顔色では、この意外な消息も、満更冗談とは思われなかった。 牧野は険しい眼をしながら、やけに葉巻をすぱすぱやった。 お蓮は寂しい顔をしたなり、しばらくは何とも答えなかった。 そうそう、田宮の旦那が御見えになった、ちょうどその明くる日ですよ。」 お蓮に使われていた婆さんは、私の友人のKと云う医者に、こう当時の容子を話した。 始めは毎日長火鉢の前に、ぼんやり寝ているばかりでしたが、その内に時々どうかすると、畳をよごすようになったんです。 御新造は何しろ子供のように、可愛がっていらしった犬ですから、わざわざ牛乳を取ってやったり、宝丹を口へ啣ませてやったり、随分大事になさいました。 犬の病気が悪くなると、御新造が犬と話をなさるのも、だんだん珍しくなくなったんです。 「そりゃ話をなさると云っても、つまりは御新造が犬を相手に、長々と独り語をおっしゃるんですが、夜更けにでもその声が聞えて御覧なさい。 何だか犬も人間のように、口を利いていそうな気がして、あんまり好い気はしないもんですよ。 それでなくっても一度なぞは、あるからっ風のひどかった日に、御使いに行って帰って来ると、―― その御使いも近所の占い者の所へ、犬の病気を見て貰いに行ったんですが、―― このスレッドは1000を超えました。
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