>>720
一般書籍やネット上の体験談と学会の一例報告は同義で
はないと思います。
前者は本当にがんだったのか、他の併用した治療法は無
かったのかという意味での厳密さが不明瞭である一方、
後者は画像、病理診断などでの厳密な検討をされている
ため、全くの別物と考えます。
当方の受け持ち再発膵がん患者さんが完治したという学
会発表を断念した理由は、手術標本はあっても、再発診
断のための病理組織がなかったためです。
一例報告であっても、インパクトがあれば学会発表すべ
きです。
かつて食道がんT4(気管支浸潤あり)への化学放射線療法
は禁忌とされていましたが、ある時某がんセンターの女
医さんが、「どうせ死ぬんだし、やってあげたら」とい
う一言でやったら、治ってしまったという事件があり、
その後、手術不能気管支浸潤食道がんでの化学放射線療
法が広まったという事実があります(伝聞ですが)。

といっても、標準治療で膵がん再発が治ったと言うこと
をことさら強調するつもりはありません。
うまくいったという体験談は大抵参考にならないからで
す。むしろ失敗談のほうが役に立ちます。

それでも、敢えてうまく行った例を提示した理由は、世
の中のがん治療が、悲惨なものとして受け止められてい
るからです。
40年以上前の「生きる」「赤い疑惑」などのがんになっ
た人の映画やドラマでは、がんになった主人公は大抵死
にます。そうしないと視聴率が取れないからです。
がんが治ってハッピーエンドになったというドラマや小
説も見たことがありません。
またがん治療で苦しんだ人で、その苦しみを世に訴えた
いために、闘病記を書く人は数多くいます。
一方、がん治療がうまく言った患者さんは治療後、がん
である事を隠します。
これは世間一般のがんのイメージが悲惨なので、そんな
目で見られたくないからです。
しかし医療関係者はうまくいった人もいかなかった人も、
両方見ていますから、ニュートラルな視点を持っていま
す。
悲惨な体験談が圧倒的に多い状況において、多少はうま
くいった例を提示するのも大事かなと思い、治療成功例
を紹介したまでです。