論点

日本の次期戦闘機「守り」に適した選択を

世界の安全保障環境は刻々と変化している。特に「空の守り」という意味で
は、レーダーに探知されにくいステルス性の高い第5世代の戦闘機など、新
たな技術の開発が進行中だ。日本の航空自衛隊も対策を講じねばならない。
老朽化した空自のF4戦闘機の後継となる次期戦闘機(FX)に何を選ぶか
は、今後20〜30年の日本の空を守る重大な決断となるだろう。
では、日本には今後、どのような戦闘機が必要なのだろうか。空自によると、
F4は、敵機が来るのを待ち受けて領空への侵入を止めるための戦闘機であ
る。
この後継として、空自は数年前まで米国製の最新鋭ステルス戦闘機F22を求
めていた。たが、機密保持のため、米議会が禁輸措置をとるなどしたため断
念した。
F22の強みは、高いレベルの「航空優勢」の確保によって自国を防衛できる
点だ。航空優勢とは、一定時間、空中における味方機の安全を確保、あるい
は敵の活動を阻害できる状態をいう。そのためには高高度で高速飛行でき、
高い旋回能力を持つなど、機敏な対応能力を持つことが必須だ。
私は、F22と共通の能力を数多く持ち、最も近い任務を果たすために設計さ
れた戦闘機は、英国、イタリア、ドイツ、スペインが共同門発したユーロフ
ァイターしかないと考える。統合的な防空を目的として設計された唯一の機
種だ。
ユーロファイターは先のリビアにおける北大西洋条約機構(NATO)の軍
事作戦でも、その高い能力が証明されたばかりである。米軍の装備との完全
な相互運用性(インターオペラビリティー)が確保されているのはいうまで
もない。
また、この戦闘機は、日本の防衛産業がライセンス生産できる点が大きな強
みである。企業はエンジン、センサー、レーダーなど、高付加価値の技術分
野に参入でき、全ての技術情報が開示される。日本にとって安全保障上の自
律性の確立につながるうえ、費用対効果も抜群に高いといえる。

一方、米国のF35戦闘機は、相手の防空網を破り、精密な攻撃をすることが
最大の強みだ。日本にこの性能は必要なのだろうか。
日本政府は、米国のFA18も含め、欧州と米国の3機種からのFX選定につ
いて「公開競争の手続きを採用する」と強調してきた。だが、日本が米国製
以外の機種を選べば、日米同盟に悪影響を与えかねない、と一部で指摘され
ている。私は、そのような事態は起こり得ないと考える。
日来同盟は、アジア太平洋地域の安定の基礎を成すものであり、英国をはじ
めとする日米の友好国や同盟国にとっても極めて重要だ。考えを共有する国
々が国際的パートナーシップを拡大し、防衛装備の供給源を多様化すること
は、弱点どころか、強みになる。
英国政府は、日本政府が日本にとってベストの機種を採用することを願って
いる。20世紀初頭、日英間では緊密な産業協力と防衛技術の移転が行われた。
ユーロファイターがその伝統を受け継ぐ好例となることを期待してやまない。

ディビッド・ウォレン氏
駐日英国大使。専門は東アジア、日本。英外務省人事部長、英貿易投資総省
局長などを歴任。日本への赴任は3回目。59歳。