武田、最終赤字3830億円、シャイアー買収、関連費が重荷、今期、新薬開発の速度カギ。
2019/05/15 日本経済新聞 朝刊

 武田薬品工業は14日、20年3月期の最終損益(国際会計基準)が3830億円の赤字(前期は1091億円の黒字)になる見通しと発表
した。最終赤字は5期ぶり。アイルランド製薬大手シャイアーの買収に伴う費用が重荷になる。今後はシャイアーが手掛ける有望な新薬候
補を計画通り販売につなげることが、市場の評価を高める条件になる。
 シャイアーの在庫の評価替えに伴う会計上の負担が重荷となり、営業損益は1930億円の赤字(前期は2049億円の黒字)となる見通
し。9日に発表した点眼薬事業などの売却は業績予想に織り込まなかった。
 半面、売上高に当たる売上収益は57%増の3兆3000億円を見込む。シャイアーの業績が初めて年間で寄与する。「シャイアーとの統
合は速いペースで進んでいる」。都内の武田本社で開かれた記者会見で、クリストフ・ウェバー社長はこう強調した。
 本業のもうけを示す「コア利益」は92%増の8830億円の見通し。世界で販売する14の主力薬品の販売が好調に推移する。前期に売
り上げが35%伸びた潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」は今期も20〜30%増える見通し。血液がん治療薬「ニンラーロ」も
2〜3割増える。
 シャイアーとの統合によるコスト削減も貢献する。22年3月期までに税引き前で14億ドル(約1550億円)としていたコスト効果の目標を
約20億ドルに引き上げた。コスタ・サルウコス最高財務責任者(CFO)は14日、日本経済新聞社の取材に対して「21年3月期までに目
標の7割を達成する」と語った。
 中長期の成長力のカギを握るのは、開発中の新薬候補の成否だ。統合を通じてシャイアーが強みを持つ希少疾患向けの開発案件が候
補に加わった。血小板関連やウイルス感染症などは第3段階(最終段階)にある。
 シャイアーから開発を引きついだ新薬候補で有望視されるのが、食道炎向けで第3段階の治験が進む「TAK―721」だ。既存の薬より
炎症を抑えやすいという。国内証券アナリストによると、28年3月期のピーク時に396億円の売り上げ計上を見込む。
 武田が開発を進めてきた新薬では「TAK―788」が有望だ。非小細胞肺がんで幅広い原因に対して効果を持つとされる。市場ではピー
クの35年3月期の売上高が672億円になるとの見方がある。武田は同薬について今期中に第3段階の治験を始める見通しだ。
 武田の株価は直近高値を付けた今年3月に比べて1割低い。市場が重視するのが新薬開発のスピード感だ。シャイアーから引き継いだ
希少疾患などの新薬開発を円滑に進められるかが、株価回復のカギを握る。

【表】シャイアーとの統合で希少疾患などの新薬候補が加わった   
 第2段階〓(開発中期) 第3段階〓(最終段階) 
武 田 がん、消化器、中枢神経 がん 
シャイアー 希少疾患(慢性肺疾患、遺伝性の難病) 消化器、希少疾患(血小板関連、ウイルス感染症) 
(注)主要5領域(がん、消化器、希少疾患、中枢神経、血液製剤)が対象