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【妄想を】CCさくらSSスレ【垂れ流せ】
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0001CC名無したん
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2018/11/06(火) 20:56:10.87ID:dLExxYrD0
カードキャプターさくらのSSを投稿するスレです。
書式、構成等の上手下手は問いません、好き勝手に書きなぐりましょうw
ただし来た人が引くようなエログロは勘弁な。
参考スレ
【禁断】小狼×知世をひっそり語るスレ【村八分】
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/sakura/1523196233/l50
0083無能物書き
垢版 |
2019/02/12(火) 00:24:07.50ID:1kckDH8c0
「こっちこっちー」
山崎が女子連に声をかける。男子は着替えが早いので、もう二人ともプールサイドで待機中だ。
皆が二人の方に走る、集まったところで利佳がさくらの背中を押し、小狼の前に立たせる。
「あ・・・」
「ど、どうかな、似合ってる・・・?」
さくらの水着はひらひらのフリル付きバンドゥビキニ。赤を基調にピンクや白の桜の花が
デザインされたフリルが胸と腰を覆っている。
「あ、ああ・・・似合ってる。」
直視できないといった表情でやや目をそらし、赤面して答える小狼。
 隣では千春が山崎に水着を披露している、こちらはセパレートタイプながら、カラフルな
ストライプが入ったデザイン。スクール水着に比べて若干ハイレッグになっており、色気もある。
「うーん、いいんじゃないかな。似合ってるよ。」
「ホント?よかったぁ。」
実は事前に山崎は利佳からメールを受けていた、内容はこうだ。
”千春ちゃんの水着をホメること!ボケたら承知しませんよ!”
しぶしぶ冗談にするのを諦める山崎、隣で嬉々としている千春を見て、まぁいいか、と納得する。

 楽しい時間は過ぎるのも早い。競泳水着に身を包んだ苺鈴がさくらと競争したり、
リンシンが迷子と間違われたり、探しに行った秋穂が二重遭難したり、知世は終始さくらを撮影したり
ステラがナンパ男に絡まれては年齢を告げて引かれたり、奈緒子と千春が利佳との話に花を咲かせたり
売店には案の定、桃矢と雪兎がいてさくらをずっこけさせたり、クリームソーダを注文してから
さくらがやたら周囲を警戒してたり、その時すでに売店の中でケロが雪兎におごってもらった
クリームソーダに舌鼓を打っていたりしているうちに、あっという間に夕方が来てしまった。
0084無能物書き
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2019/02/12(火) 00:25:30.98ID:1kckDH8c0
「それじゃみんな、またね。なでしこ祭、楽しみにしてるわ。」
苺鈴がステラと林杏を連れて一行と別れる。他のみんなも解散、という時、利佳がいきなり声を出す。
「そーれっ!」
その合図とともに奈緒子、知世、秋穂、そして利佳が一斉に駆け出す、別々の方向に。
「じゃあ、またー」
「またねー」
「お疲れ様でしたー」
「頑張ってねー」
何事が起ったのか理解できぬまま、その場に残されるさくら、小狼、千春、山崎の4人。
いち早く状況を悟ったのは山崎、ふぅ、とため息ひとつ。
「じゃあ帰ろうか、僕と千春ちゃんはこっちだから、またね。」
自然に千春の手を取り、歩き出す山崎。思わぬリアクションに驚く千春、無論悪い気はしない。
「うん、またねさくらちゃん、李君。」
満面の笑顔でひらひらと手を振って去っていく、夕焼けの街角に消えるのを見送って、小狼が
さくらに話す。
「俺たちも・・・行こうか。」
「うん。」
歩き出そうとして、ふと止まる。
さくらから顔をそらしたまま、すっ、と手を出す小狼。
「あ・・・」
少しの間、そして次の瞬間、さくらはその手を掴む、両手で、ぎゅっ、と。
こぼれるような笑顔のさくら、目線を泳がせながらもさくらの手を握り返す小狼。
そのまま二人は歩き出す。泳ぎの疲れも忘れて。

マーチングのことも、さくらの魔力の事も、今この時だけは忘れて−
0085無能物書き
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2019/02/12(火) 00:26:28.55ID:1kckDH8c0
「フーン、アレがクロウ・カードの所有者ネぇ」
「とんでもない魔力でした、小狼さんが私たちを呼ぶのもうなずけますね。」
ホテルのロビーのテーブルで、少女3人と初老の男性が話している。
「さくら様はもう危険な状態だそうで、苺鈴様、ステラ様、林杏様、どうかよろしくお願いします。」
「任せてよ偉(ウェイ)、私がいるんだから何にも心配ないわよ!」
どんっ、と胸をたたく苺鈴。
「その意気ですよ、大事なのは『きっと上手くいく』という意志なのですから。」

4人は知らない。木ノ本さくらも、その考えを身上としていることに。

 −絶対、だいじょうぶだよ−
0087CC名無したん
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2019/02/12(火) 12:44:08.43ID:J64OppWj0
あっ不穏な流れになってきた
毎回楽しませてもらってます
0088CC名無したん
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2019/02/12(火) 23:38:34.01ID:M0NTiqvY0
SSごとにスレを立てればいいと思うんですけど(提案)
0089無能物書き
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2019/02/15(金) 00:18:35.19ID:WpItpYiJ0
>>86-87
こんな駄文に感想頂きありがとうございます、ヤル気でますよホント。
>>88
あんまスレ乱立すると叩かれるってじっちゃん言ってたw
同人板でやれ!とかオ〇ニーうぜぇ、とか言われそうですし・・・
あ、割り込みは自由ですよ、どんどん投稿しちゃって下さい、他の板でも
そういう流れのスレありますし。
ここ見てる他の人の意見はどうかな?
0090無能物書き
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2019/02/15(金) 00:19:35.43ID:WpItpYiJ0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第7話 さくらとみんなの大行進

ぽん、ぽんっ!
夏の青空に花火が響く。友枝町なでしこ祭、いよいよ開幕の時!
さくらはオープニングのマーチングを直前に控え、メンバーと共に緊張した面持ちで
その時を待っていた。
 なにしろ彼女たち友枝中吹奏楽・チアリーディング合同のすぐ後ろには、全国に名をはせる
有名マーチングチームがずらりと並んでいるのだから緊張もひとしおだ。
そんな中、知世はさくらの至近距離まで来てビデオを構え、感動の瞳を浮かべている。
「ああ、これからさくらちゃんが大観衆の中、先頭を私の作ったコスチュームを着て
行進なさるんですね・・・感動ですわ〜」
聞き捨てならない一言にさくらが固まる。
「え・・・知世ちゃんが、作ったの?コレ。」

 マーチングのユニフォームは基本、派手である。それは友枝中も、他のチームも同様だ。
そんな中でも演奏する吹奏楽部のコスチュームはやや地味で、踊りを担当するカラーガードや
ドラムメジャーの衣裳は特に派手なのが一般的だ。
友枝中の場合、演奏陣は紫地に黄色のストライプ、カラーガードはワインレッドのフラメンコ風、
そしてドラムメジャーは白いシャツに黒のジャケット+赤蝶ネクタイ、下はラメの入った黒い長ズボン
頭には小さなシルクハットがピンで止められている。
ボーイッシュではあるが動きやすく、長袖長ズボンではあるが通気性もバツグンだ。
なるほど、よくよく見れば知世のセンスらしさが伺える。

「友枝町中の服飾店に手を回した甲斐がありましたわ〜」
「と、知世ちゃん・・・」
そういえば今年のユニフォームはどこからか寄贈されたって話を聞いた気がする。
今日のこの日に備えてきたのはさくらたちだけでは無かったようだ。
「ワイも見とるで、がんばりや〜。」
ケロはちゃっかり知世のハンドバッグの中に潜り込んで、顔だけ出して激励する。
0091無能物書き
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2019/02/15(金) 00:21:10.70ID:WpItpYiJ0
「さぁみなさん、いよいよ本番です。この2か月の練習の成果、存分に見せてあげなさい!」
米田先生が全員にハッパをかける。
「「はいっ!!」」
皆が元気よく答える。やれる事はすべてやってきた、あとは本番あるのみだ。
「それじゃ最終チェックに入って、自分のやることをしっかり理解してね。」
各自が服装や楽器のチューニング等のチェックに入る。さくらもバトンの感触を確かめ
ホイッスルの試し吹きも行う。うん、問題なし。

 いよいよ本番、整列する友枝中チームの先頭に立つさくら。
ひとつ深呼吸して前を見る、正面には良く知った顔がずらりと並ぶ。
お父さん、お兄ちゃん、雪兎さん、知世ちゃん、ケロちゃん、山崎君、奈緒子ちゃん、秋穂ちゃん、
そして、小狼君。
あと、そこかしこにビデオを構えた知世ちゃんのボディガードの皆さん。知世ちゃんってば・・・

『さぁ、それでは第3回、友枝町なでしこ祭、いよいよ開幕です!』
その場内放送が流れるのを合図に、さくらがホイッスルをくわえ、バトンを持つ右手を高々と上げる。
同時に後ろの演奏隊が楽器をすちゃっ!と構え、カラーガードが旗をびっ!と構える。
さぁ、出発だ!

ピーッ、ピーッ、ピッピッピッ!!
さくらのホイッスル&バトンに合わせて全員が足踏みを開始する。
全員が一歩踏み出すと同時に、金管楽器が音楽を奏でる。
0092無能物書き
垢版 |
2019/02/15(金) 00:22:30.36ID:WpItpYiJ0
※TVアニメ「カードキャプターさくら、さくらのテーマI」

トランペットがメロディを奏で、ホルンが高らかに音を響かせる。パーカッションがリズムを刻み
ユーフォニウムやチューバーが重厚な音を染み渡らせる。
千春率いるカラーガードは情熱的に、そして妖艶に舞い、一糸乱れぬタイミングで旗を振り回す。
その先頭でさくらはバトンでリズムを刻み、皆を先導して行進し、皆の指揮を執る。
大事なのは笑顔を絶やさぬこと、その為には何よりこの行進を楽しむこと、それが米田先生の教え。
バトンを天高く放り投げ、側転からの宙返りで落下点に入り、見事バトンをキャッチする、
そしてそのまま行進を続けながら観客に敬礼、拍手喝采が沿道に巻き起こる。

「なに、あそこ凄いな、どこのチーム?」
「地元の友枝中?こんなに上手かったっけ。」
2番手以降の有名どころを見に来たマニアも、思わぬダークホースに注目する。
友枝中に合わせて移動しているのは最初は身内だけだったが、そのうち他の見物客も
友枝中を追いかけ始める。

 こうしてゴールの友枝商店街広場まで、約500mの大行進が始まった。
夏の太陽は容赦なく照り付け、地面からの熱波がみんなの体力を奪っていく。
それでも、彼女たちにとってこの舞台は一生に何度もない『晴れ舞台』だ。
みんなが私の演奏を聴いてくれる、私の踊りを見てくれる、身内だけではない、
大勢の見知らぬ人が。暑いなんて言ってられない、気にもならない。

 それを追いかける大観衆、ある吹奏楽好きは演奏に聞き入り、あるマーチングファンは
ガードの旗振りに熱い視線を送り、そしてあるビデオ撮影少女は先頭のドラムメジャーを追って歩く、
沿道もまた行進の列ができており、皆が一つの流れとなってゴールを目指す。

 トロンボーンが銃剣のように天を差し吠える。アルトサックスが夏の日差しを受けて輝き
ガードの旗が行進に勇ましい華を添える、ゴールまであと少し。
やっと終われる、もっと続けたい。矛盾する二つの感情を全員が胸に抱き、ラストスパートをかける。
友枝商店街広場に到着、さぁ、いよいよフィナーレ!
0093無能物書き
垢版 |
2019/02/15(金) 00:23:27.56ID:WpItpYiJ0
 縦列していた一行が方向を変え、横一列に並び、一歩また一歩と行進
「カンパニー」と呼ばれるフィニッシュに向かう。
 ガードの千春ともう一人が旗を預け、行進の先頭に走り、さくらの前に出る。
さくらは再びバトンを高々と放り投げ、前の二人に向けてダッシュ、二人が組んだ手の上に乗り
そのまま二人に天高く放り投げてもらう。そして空中で見事バトンをキャッチ、
落ちてくるさくらを下の二人がしっかりと受け止める、間髪入れずさくらは地面に降り、
バトンをびっ!と皆の方にかざす。
その瞬間、最大の音を出していた演奏がきれいに止まる、一糸乱れぬフィニッシュが決まった。

 大歓声に包まれる会場、祝福の拍手が鳴り響く。
さくらの知人も、吹奏楽部の身内も、見知らぬ大勢の観客も、惜しみなく絶賛の柏手を打つ。
 全員が深々と一礼しそれに答える。達成感と疲労感、やり遂げた思いと終わりの未練。
みんな汗だく、そしていい笑顔で駆け足して退場する。

 終了後の待機スペースには、チア部の先輩たちが飲み物を用意して待ってくれていた。
「お疲れ様、木ノ本さん凄かったわよ!」
「ガードも良かったよ〜これは来年以降が楽しみねぇ」
「私たちも負けてられないわね、最終日見てなさい!凄い演技するから。」
コップに注いでくれたスポーツドリンクを飲み干すさくら達。玉の汗を光らせながら
先輩たちの絶賛に笑顔、涙する娘もいる。
「んもー、先生感動しちゃったわよ、ホントによかったわよみんな。」
米田先生が大声で吹奏楽部とチア1年を労う。皆で団結し、努力し、結果を出した。
去年のくやしさを思い出したか、吹奏楽部の2,3年の多くが涙する。
0094無能物書き
垢版 |
2019/02/15(金) 00:24:32.98ID:WpItpYiJ0
 解散となった後、さくら達は友人たちに囲まれて祝福を受ける。
「ホントにかっこよかったですわさくらちゃん、これはビデオ編集が楽しみですわ〜」
目を星印にしてうっとり語る知世に、秋穂が釘を刺す。」
「あ、あの、知世さん。明日は私たちなんですから、編集はそれ以降に・・・」
コーラス部は明日、最終日のラスト2の出番だ。ビデオ編集で夜更かしして
風邪でも引かれたら大事である。

「ま、よかったじゃねぇか、バトン頭に落とさなくて。」
「そういう桃矢が一番感動してたけどね〜」
「ユキ!」
兄と雪兎の会話にも思わず笑みがこぼれる。奈緒子や他地区から駆け付けた利佳も
さくらたちに称賛を送る。
「そういえば、マーチングっていうのはねぇ・・・」
感動を阻止されてはたまらないと、千春が山崎にクローを極めて黙らせる。

「・・・あれ、小狼君は?」
そういえば小狼がいない。スタート地点では確かにいたのに。
「ああ、小狼なら、サッカー部の手伝いに、駆り出されてたわよ・・・。」
苺鈴がちょっと息切れしながら説明する。確かに午後の部にサッカー部主催の
リフティング大会が予定されている。
「え!?」
「あ、大丈夫。さくらの演技は、ちゃんと最後まで、見てたわよ、伝言よ。
『ホントにすごかった、それしか言えない』だって。」
「・・・そう、良かった。」
さくらは複雑な気持ちだった。本当なら、いの一番に小狼にここに来て祝福して欲しかった。
でも、どこか孤独なイメージのある小狼に男友達が出来るのは悪い事じゃない。
もしサッカー部に入部ともなれば、彼の運動神経ならレギュラーは間違いないだろう、
チームが活躍すれば、以前知世が言ってたように、チア部として応援する
未来もあるかもしれない。今日以上の演技を、小狼君の為に。
それに、明日は一緒になでしこ祭を回る約束をしている。今ここにいない埋め合わせは
きっと明日にしてくれるだろう。
0095無能物書き
垢版 |
2019/02/15(金) 00:25:55.99ID:WpItpYiJ0
「そういえばあの二人は?」
奈緒子が苺鈴に問う。わざわざ香港から、なでしこ祭を見に来た外国人2人。
「あ、ああ、ステラと、林杏なら、他のマーチング見るって、言ってたわ。」
今やマーチングは最高潮、全国の有名チームが次々と極上の演奏演技を披露している
悲しい事ながら、すでに友枝中の演技を覚えてる人は多くない。

 ふと、知世が苺鈴に声をかける。
「苺鈴ちゃん、大丈夫ですか、どこか御気分でも・・・」
見ればあのタフな苺鈴が汗だくになっている、呼吸も切れ切れで、まるで全力疾走した
後のようだ。
「だ、大丈夫大丈夫。ちょっと人波にもまれただけよ。」
その時、会場の裏側の方向で、サイレンの音が鳴り響く、救急車の音だ。
「どなたか熱中症になられたんでしょうか。」
真夏の午前10時半。こういうイベントなら残念ながらよくある光景。
やがて遠ざかっていくサイレン音。

 なでしこ祭初日、さくらとみんなの挑戦は、こうして無事、大成功に終わった。
充実感と達成感み満たされて帰宅したさくらは、疲労感からか夕食も取らずに
泥のように寝入ってしまった。父、藤隆が布団をかけ、ご苦労様、と声をかけて退室する。
そしてさくらは夢を見る−

オレンジ色の世界、みんながさくらに笑いかける世界、はるか向こうの十字架に
さくらの大好きな人が磔にされている世界・・・
0096CC名無したん
垢版 |
2019/02/15(金) 23:51:50.07ID:3n05yvhR0
スレいっぱい立ったら追いかけるの大変だから個人的にはこのままでおk
今書き込んでらっしゃる物書さんは他スレにもいらっしゃった物書きさん?
0097無能物書き
垢版 |
2019/02/17(日) 00:04:15.57ID:0tP79XvQ0
>>96
以前「さくらと小狼ちお泊り」スレでいくつか書いてました、スレ落ちましたがw
他の板でもSS書いたことがあります、HNは別ですが。

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第8話 さくらの魔力と小狼の戦い

「鏡よ、我を映し出し、我の分身となれ、ミラー(鏡)」
マーチングのスタート地点から少し離れた建物の陰、小狼は手鏡に自分を映し、そう唱える。
鏡に映った小狼に、さくらカードの精霊『ミラー』が憑依する。
そして鏡から飛び出し、小狼の分身となって彼の前に立つ。
「じゃあ、頼むぞ。」
こくり、と頷く小狼の分身。
「スタートの前にさくらに見える位置にいてくれればいい。あと、さくらの兄上には
絶対に近づくなよ、あの人の勘の鋭さは異常だからな。」
あ・・・という表情を見せた後、少し残念そうな表情で頷く分身。

 まもなくなでしこ祭、開幕のマーチングパレード出発の時。小狼、偉(ウェイ)、
ステラ・ブラウニー、王林杏(ワン・リンシン)、そして苺鈴が所定の場所についている。
今やさくらの魔力は、さくらの周辺の人間を魅了する性質を備えてしまっている。
この大勢が注目するイベントで、そんなものを撒き散らしながら行進すればどうなるか、
さくらの周囲の状況が激変するのは間違いないだろう、さくらの望まぬ形で。
 それを阻止すべく、香港に連絡を取り、準備してきた、この日の為に。
さくらの魔力を封じ、純粋にマーチングの演技をやり遂げてもらうために。
母の弟子、ステラと林杏の二人に来日してもらい、5人でさくらのマーチングを
魔力の介入なしにやり遂げてもらうために。

 小狼に化けたミラーが沿道の脇につく。言った通り桃矢とは離れた位置に。
さくらがそちらに目をやってくれるのを期待して、小狼はかがんで護符を取り出す。
『封魔』と書かれたその護符は、この日の為に母上に作ってもらった特別制。
魔力を持つ人の体外に溢れた力を無効化する能力がある。
0098無能物書き
垢版 |
2019/02/17(日) 00:05:49.35ID:0tP79XvQ0
ピーッ、ピーッ、ピッピッピッ

 始まった!
小狼が、マーチングの進路となる道路を挟んだ向こう側でステラが、林杏が、一斉に護符を発動させる。
「封魔!」
「フーマ!」
「封魔っ!」
3人の位置は三角形の頂点になっており、その3点の中にさくらがいる。
護符で三角の結界を作り、その中にさくらがいる間は魔力の影響が出ないようにするのが狙いだ、
しかしマーチングは行進である。さくらがその結界から出るとその効果は消失する。
さくらを先頭とする行進が動き始める、小狼はスマホのイヤホンを通じて他の4人に連絡する。
「始まったぞ、次!偉(ウェイ)、頼む!」
「かしこまりました。」
小狼と同じく、道路のこちら側、小狼の位置から100mほど進んだ位置に待機しているウェイが返す。
ステラは全力で次のポイントに向かう、苺鈴が人目につかない場所を確保しているはずだ。

さくらが3人の結界から出る瞬間、今度は小狼とウェイと林杏が次の護符を発動させる。
「封魔!」
「封魔っ!」
「封魔。」
さくらが結界から出る瞬間、新たな結界がさくらの進路に現れ、その中に進むさくら。
小狼は全力でマーチングの進行方向に走る。結界を張っているウェイを追い越し、その先
100mほどの地点に駆けつけてきた苺鈴を見つける。
「小狼、こっち!」
苺鈴が小狼を手招きし、すぐ近くの建物の陰に誘導する。人前で護符の発動をするわけにはいかない
誰にも見られず護符が使える空間をキープし、見つからなければ苺鈴自身が術者を隠すのが
魔力を持たない苺鈴の役目だった。
0099無能物書き
垢版 |
2019/02/17(日) 00:24:11.61ID:0tP79XvQ0
「じゃあ、次のポイントにいくわ!頼むわよ!!」
そう小狼に言い残し、今度は苺鈴がダッシュする。すでに対岸では林杏が次のポイントに
向かっているはずだ、時間が惜しい。
マーチングのずっと先までダッシュして、道路を横切り、あらかじめ探しておいた場所に
全力疾走で向かう、林杏より先に着かないと意味が無い。
なんとかそのポイント、木陰に到着し、走ってくる林杏を呼ぶ。
ウェイ、ステラ、小狼による3つめの結界が生まれる。行進が思ったより早い、急ぐ必要がある!
苺鈴は再び引き返して道路の反対側へ走り、ウェイを商店街の裏路地に誘導する。
そしてまた道路をまたいで、今度は次のポイントにステラを呼ぶ。

 幸いにも友枝中のマーチングは好評のようだ。見物者の列の後ろで忙しく動いている小狼たちを
気にとめるものは誰もいない。そんな中、小狼たちは次々に結界を張り、走る。
中でも道路のあちらとこちらを往復している苺鈴の運動量は異常だ。ポイントで合流するたび
彼女の呼吸は荒く、激しくなっていく。
ステラも林杏もウェイも、魔力を使いながらの運動に徐々に体力を奪われていく、まして今は真夏、
香港の暑さよりマシとはいえ、この作業がキツくないはずは無かった。
そして、最初にミラーのカードを使った小狼の疲労も相当なものだ。

 と、その小狼の所にひとつの精霊がすっ、と現れる。緑の髪に赤いリボン、ミラーだ。
「うまくいきました、主(さくら)は出発前、私を貴方として認めました。」
「そうか、ありがとう!」
そう言って宝玉を出す小狼、ミラーはすっ、とその中に吸い込まれるように姿を消す。
そして走りながらマーチングを見る、さくらの見事な演技に歓声が沸いている。
しかしそれは決してさくらだけが注目されているわけではない、ある人は演奏される音楽に耳を傾け
またある人はカラーガードの見事な旗振りに目を奪われている。
0100無能物書き
垢版 |
2019/02/17(日) 00:25:55.20ID:0tP79XvQ0
 よかった、心底そう思う。もしさくらの魔力がダダ洩れな上体でマーチングが行われたら・・・
確かに友枝中は並み居る強豪チームを押しのけ、評価一位をモノにするかもしれない。
しかしそれはさくら一人の成果でしかない。誰も演奏を聞かず、演技や行進も見ず、
ただたださくら(の魔力)に魅了されるだけの、いわば洗脳に近い評価。
チームメイトの2か月の努力も、わざわざ遠征に来てくれた他チームの演技も、
みんな無駄にする『魔法の暴挙』。
 さくらにそんな事をさせるわけにはいかない、さくらが自身の魔力で自分を不幸にするのは
なんとしても阻止してみせる!そんな決意が疲れ切った小狼の体を引き起こし、走らせる。

 やっとフィニッシュの友枝商店街広場まで来た、あと一息だ。
最後のカンパニーの行進が始まるのを合図に、小狼が、ステラが、林杏が、最後の札を発動させる。
「「「封魔!!」」」
今日何度目か分からない言葉を、最後の力を振り絞って叫ぶ。
最後の結界が発動し、さくらを含むマーチング一同を取り囲む。そしてさくらはジャンプして
見事なフィニッシュを決める。

「ああ・・・ホントに凄いな、さくらは・・・」
そう言いながら崩れ落ちる小狼、隣にいた苺鈴がとっさに抱きとめる、息も絶え絶えに。
「しゃ、シャオ・ラン、しっかり・・・」
疲労で抱えきれず、そのままそこにへたりこむ二人、そこにウェイが駆けてくる。
「しっかりなさって下さい、小狼様、苺鈴様、お気を確かに。」
そしてスマホを取り出しダイヤルしながら、告げる。
「救急車をお呼びいたしますから、それまでご辛抱ください。」
0101無能物書き
垢版 |
2019/02/17(日) 00:27:27.60ID:0tP79XvQ0
 電話を終えたころ、千鳥足のステラが林杏の肩を担いで合流してくる。
「ア〜、私タチも、乗ってイクネ〜」
かろうじてそう答えるステラ。林杏はもう言葉を発するのもおっくうそうだ。
 地面に横になった小狼が、苺鈴に伝える。
「苺鈴、すまないが、お前は残ってくれ・・・」
肩で息をしながら苺鈴が返す。
「わ・・分かってる・・・わよ。さくらを・・・安心させるん、でしょ・・・」
「ああ・・・すまない。」
それだけ答えると小狼はふっ、と気を失う。

遠くに救急車のサイレンを聴きながら、疲れ切った、そして満足した表情のまま−
0103無能物書き
垢版 |
2019/02/18(月) 00:24:21.13ID:GS/hiYES0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第9話 さくらと小狼のすれ違い

「・・・あれ?」
朝、目覚めたさくらは、何故か悲しみの感情と共に、涙を流していた。
何か、何か嫌な夢を見ていた気がする。とても悲しく、切ない夢。
でも・・・その内容を思い出せない、唯一思い出せるのは、度々聞くその声、その台詞。

−お前はもう、戻れない−

「おー、やっと起きたかさくら・・・どないした?」
ケロがさくらに問う。さくらの表情を見て取って、怪訝そうな顔で。
「あ、おはようケロちゃん、なんだか嫌な夢を見たような気がするの、
でも・・・思い出せない。」
何故だろう、昨日マーチングをやり終えて、充実感に満たされていたはずなのに
こんな沈んだ気分になるなんて。
「まー、それはええとして、ゆっくりしててええんか?」
「え、何が?」
「今日は小僧とデートやなかったんか?一緒になでしこ祭回るってゆうとったやないか。」
言って時計を差し出すケロ。それを受け取り、さくらの顔が見る見る真っ青になっていく。

「ほ、ほえぇぇぇぇぇっ!!!」
木ノ本家に響く恒例の騒音、そして振動、どっすんばったん!
怪獣さながらのドタバタで階段を駆け下り、父、藤隆の焼いたホットケーキを口に詰め込み
紅茶でのどに流し込む、思わずムセるさくら。
「いってきまふー!」
「行ってらっしゃい、気をつけてね。」
そんなさくらにも平然と対応する藤隆。中学生になって回数が減った光景だが
完全に抜けるほど一気に成長するはずもない。相変わらずですね、とだけ呟いて
食器を片付けにかかる。
0104無能物書き
垢版 |
2019/02/18(月) 00:25:05.51ID:GS/hiYES0
 一方、2階ではケロが専用スマホで電話をかけていた。送信相手は『李苺鈴』。
ガチャ
『もしもし、ぬいぐるみ?』
「ちゃうわ!史上最高にかっこええさくらカードの守護者、ケルベロスやっ!」
『はいはい、それはもういいから。家の前まで来てるわよ、もう。』
「いよっしゃー!ほな、いこかーっ!!」
 お邪魔しないようにと知世に釘を刺され、今日はさくらに同伴できないケロ。
しかしなでしこ祭の出店に美味いモノが多数あるなら、行かない理由にはならない。
いつもなら知世と食べ歩く所だが、今日は知世は夜のコーラス部のステージ準備のため
付き合えない。交渉の結果、今日は苺鈴に『さくらと小狼の邪魔をしない事』を条件に
同伴の約束を取り付けていた。
「よっしゃー、食って食って食いまくるでぇーっ!!」
言って2階のさくらの部屋の窓から猛然と飛び出す、おった!小娘や・・・ん?
「げぇーっ!」
驚愕して固まる。てっきり小娘一人かと思ったら、傍らにもう二人おるやないかーい!
マズイ、ワイの正体がバレる、ぬいぐるみのフリせな!

 固まったケロは、そのまま放物線を描き、地面にべしゃっ、と落ちる。
痛みを必死にこらえ、ひたすらぬいぐるみのフリをする。早よせぇ小娘、誰かが2階から
わいを放り投げた設定にして回収せんかい・・・ん?
「ぷくくくく・・・あはははははは」
腹を抱えて笑っている苺鈴。その横で黒髪ショートカットの少女が、うわぁ痛そう、という
表情でケロを見ている。
 と、首根っこをつかまれ、ひょいと持ち上げられるケロ。目の前には金髪碧眼の少女。
「ヘェ、コレがクロウ・カードの守護者ネェ、なかなかキュートね。」
「へ?」
元々目が点なケロがさらに目を点にして、間抜けな表情で返す。
「あははは、ゴメンゴメン。二人とも知ってるのよ、さくらやあんたのこと。
叔母様、つまり小狼のお母さまの弟子なのよ、この二人。」
「ステラ・ブラウニーよ、よろしくネ、ケルベロス!」
「王林杏です、ご噂はかねがね李さん達に聞いております。」
ステラがウインクして、林杏がお辞儀して自己紹介する。
0105無能物書き
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2019/02/18(月) 00:25:45.94ID:GS/hiYES0
「なんや、ワイは痛い思いをし損かーいっ!」
言って苺鈴を追い回すケロ。
「そういうことは、もっと早よ言わんかーい!!」
追いかけられついでに、なでしこ祭会場に向かう3人と一匹。その先の商店街にはすでに
大勢の人がごったがえしていた。

「お待たせ、小狼君!ごめんなさい、待った?」
待ち合わせの自販機前のベンチに座る小狼に言う。二人きりの待ち合わせでさくらが
小狼より先に来れたためしがない、今日こそは、と思っていたが寝坊には勝てなかった。
「いや、今来た所だ、気にするな。」
小狼らしい返事が返ってくる、その返事を聞いてさくらは思う、ホント紳士だな、って。
きっと彼なら何分待たせても同じことを言うだろう、そんな私への気遣いと、そんな人と
付き合えていることを意識して思わず頬が赤くなる。
「じゃあ、行こうか。」
ベンチから立ち上がる小狼。ここはまだ人が疎らだが、少し歩くとなでしこ祭のエリアに入る、
すでに人混みが出来ており、突入するには少々の気合が必要だ。

「待って!」
さくらが小狼を止める。どうした?、と返す小狼。
さくらは少しおねだりをするような目で小狼を見つめ、そしてポケットから3枚の
カードを取り出す。
「ね、なでしこ祭、一緒に上から見てみない?」
さくらが手にしているのはクリアカード、フライ(飛翔)、ミラー(鏡)、
そしてルシッド(透過)の3枚。
 以前、ミラーのカードを入手した時、それでフライをコピーして一緒に空を飛んだことがあった、
あの時の楽しさが忘れられないさくらは、それで空からなでしこ祭を一緒に見てみたいと思っていた。
ルシッドで姿を隠せば他の人に見られる心配もない。
0106無能物書き
垢版 |
2019/02/18(月) 00:26:23.43ID:GS/hiYES0
「ダメだ!!」
さくらの予想以上に厳しい剣幕で小狼が拒否する。思わぬ態度に少しおびえた表情を見せるさくら。
「あ・・・すまない。でもむやみに魔法を使うのは、良くない。」
思わず語気を強めたことを反省する。しかしそれも仕方のないことだ、つい昨日、小狼は
他の4人と、さくらから漏れ出る魔力を抑えるために奮闘したばかりだ。
魔力を使い果たし、暑気に当てられ、救急車で運ばれるほどに。今朝も点滴を受けてなんとか
病院を抜け出してきたばかりなのだ。
 そんな事はつゆ知らず、魔法を使うというさくらに少し腹が立った気持ちもあった。
魔法は使うほどに本人の魔力を底上げする、魔法を使えば使うだけ、さくらは破滅に
確実に近づいていくコトになるのだ。

「あ、ゴメン・・・そうだよね、やっぱ。」
少し困り顔で、それでも笑ってさくらが返す。さくらにすれば今回のデートの
ひとつの目玉として『小狼との空のランデブー』を楽しみにしていた。
それだけに小狼のこの反応は残念だった、さくらは半分納得しながらも、半分はこの
ナイスアイデアへの未練を断ち切れないでいた。

 そんなこともあって、最初はぎこちなく始まった二人のデートだが、祭りという
イベントの中ではそんな気持ちは結構簡単にほぐれていく。
路上のジャグリングショーで昨日のバトンさばきを思い出したり、大食い大会に何故か
参加している苺鈴の服の中からこっそり料理を飲み込んでいく黄色い生き物を見つけたり
例によって出店している桃矢に「中にユキがいるぞ」とだまされて入った先がお化け屋敷だったり
利佳と寺田先生にばったり会って、両者の関係を知らない小狼が空気を読めずに
かつての恩師と長話になりかけたりしているうちに、夏の陽も西に沈みかけていた。

「そろそろだな、行こうか。」
「うん、まずは奈緒子ちゃんの演劇だね。」
夕方からは立て続けに舞台でのショーが予定されている。友枝中はまず演劇部の公演、
ふたつ挟んでコーラス部の合唱、そしてチアリーディング部の演技でフィナーレとなる。
0107無能物書き
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2019/02/18(月) 00:27:14.09ID:GS/hiYES0
 奈緒子がシナリオを書いた演劇は本当に良い出来だった。自分たちも去年ここで演じたが
さすがに中学生の演技力に比べると自分たちはまだまだ大根役者だったな、と思う。
 コーラス部の合唱、ソロパートを務めるのは、昨日までさくらが指導を受けていた
吹奏楽部顧問の米田先生の娘、米田歩(3年)だった。知世のソロが透き通るような美声なのに対し
歩の歌は力強く、魂に響くような熱があった。さすが元オペラ歌手の米田先生の娘さんだ。
再び合唱に入った後、再度ソロになる、出てきたのは・・・なんと秋穂だ。
『Even if you dislike me, I think of you・・・』
なるほど、英語の歌詞の部分。イギリス生活が長かった秋穂は、英語の発音ならお手の物だ。
それでこの抜擢となったらしい、恥ずかしがり屋の秋穂が皆の前で懸命に歌を紡ぐ。
『Let me fall to hell before you become unhappy・・・』
その歌詞を聞いて、小狼が少し悲しそうな顔をしたことに、さくらは気づかなかった。

 いよいよグランドフィナーレ、チア部2,3年によるチアリーディングの演技。
さくらは小狼を残し、舞台裏に駆け付けて先輩の衣裳や照明の手伝いをする。
千春や他のチア部1年も皆揃っている、本当は来なくてもいいよ、と言われてたのだが
やはり同じ部員として何か役に立ちたい、という思いが彼女たちを集めた。
 そして始まる演技。バトンを、リボンを、ポンポンを、そして同じ部員すらも華麗に振り回し、
踊り、駆け、飛ぶ。優雅に、美しく。
マーチングのガードやドラムメジャーすら比べ物にならない見事な演技、そのダイナミックで
美しい演技に会場中が驚嘆のため息を漏らす。
演技が終了した時、それは大喝采に代わっていた。
さくらも、千春も、他の1年も思う。来年は自分たちがあの舞台に立つんだ、と。
0108無能物書き
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2019/02/18(月) 00:27:53.35ID:GS/hiYES0
 夜も更け、祭りが終わる。
さくらと小狼も帰路を歩く、さっきまでの舞台の数々、そして昨日のマーチングなど
話題は尽きない。
 だけど、さくらにはたったひとつ、心残りがあった。
意を決し、小狼の方に向き直る。手に3枚のカードを持って。
「ね、やっぱりダメかな・・・?」
そのカードを見て小狼は固まる。今朝、さくらが提案した空飛ぶランデブー。

さくらはずっと心に残っていた、今日は絶対に一緒に飛びたい、と。
小狼はさっきの秋穂の歌う歌詞を思い出していた、例え貴方に嫌われても、私は・・・

「いい加減にしろ!」
語気を強めて怒鳴る小狼、はっ!と硬直し、まばたきも忘れて小狼を見るさくら。
「魔法を何だと思ってるんだ、そんな目的の為に使っていいものじゃないんだぞ!!」
今回は怒りは無い、しかし語気を強めないわけにはいかなかった。例えさくらに嫌われても。

「・・・『そんな』、目的?」
さくらの目が潤む。二人で楽しい想いをすることを『そんな』と称されて愕然とする。
心が冷えていくのを感じた。今日の楽しかった出来事も、昨日のマーチングの充実も
目の前の男の子に対する恋心さえも・・・その熱を失っていく。

「・・・じゃあ」
やっとそれだけを絞り出して、さくらは逃げるように駆け出す、涙を道標のように落としながら。
小狼は追わない、追えない。自分にその資格は無い、彼女を泣かせてしまったのだから。
さくらは木ノ本家に駆け込むのを見送って、きびすを返し、歩く

胸をかきむしられるような焦燥と、悲しさと、喪失感を胸に抱いて・・・
0111無能物書き
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2019/02/19(火) 22:33:28.34ID:dAFl+7lX0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第10話 さくら達へのアドバイス

「さぁて、待ちに待った編集タイムですわ〜♪」
なでしこ祭が終わった夜、大道寺家のシアタールームで、知世は恍惚の表情で
数枚のディスクを準備していた。
 昨日のさくらのマーチング、知世本人はもちろんのこと、自分のボディガード達にも
ビデオを持たせ、様々な角度からさくらの演技を撮影させていた。
今からそれを吟味編集し、さくらのマーチングPVを作り上げる、知世の至福の時間が
やっと始まるのだ。

 まずは自分の撮影ビデオを一通り見て、メインの編集の流れをイメージする。
続いてボディガードたちの撮った絵、左右から、後方から、逆光から、ドローンを使った空撮、
それらをどのタイミングに差し込むか、イメージしながら脳内でPVの流れを作り上げていく。
そして最後のディスクを挿入する、これまでに無い試みを企画したその一枚。
「さぁ、いよいよ楽しみにしていた1枚、良い絵が撮れているといいですわね〜」
 それはボディガードの中でも1番の撮影技術を持つ人にお願いした、ちょっと違った視点の映像
『さくらちゃんの演技を見る李君を追いかけてくださいな。』というもの。
うまく編集できれば、このPVを見るさくらちゃんと李君がどんな顔をするか、とても楽しみだ。

「・・・なんですの、これは。」
愕然とする知世。そこに映っていたのは知世の想像とは程遠い、小狼達の『奮闘』だった。
0112無能物書き
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2019/02/19(火) 22:34:18.72ID:dAFl+7lX0
「では、説明してもらおうか、李小狼。」
ユエが小狼を見下ろして問う、厳しい表情で。
「まぁ落ち着けやユエ、小僧にしたかて考えあってのコトやろ。」
夜、月城家の部屋。ピリピリした空気の中で、成体のケルベロスとユエが小狼を問い詰める。
 先日のなでしこ祭の最終日、泣きながら家に帰ったさくらはそのまま
布団に突っ伏して泣き、そのまま寝入ってしまった。
心配したケロはユエに相談する。連絡を受けたユエは怒りをあらわにして小狼を呼びつけた。
雪兎からさくらを任せられながら泣かせるとは何事か、と。

「まぁせやけど、説明はしてもらうで小僧。お前、さくらに何言うたんや?」
ケルベロスの質問に小狼は少しためらいながら答える。
「やたらと魔法を使うな、そう釘を刺した。それだけだ。」
「さくらが魔法使おうとしたんか?」
「ああ、一緒に空を飛びたいって。」
その説明を聞いてケロとユエが、ん?という表情をする。
「何や、それだけかいな。」
「飛んでやればいいだろう!」
その言葉に黙り込む小狼。

「なんや、女心の分からんやっちゃなぁ〜、そのくらい融通効かせや。」
その言葉にユエもこくりと頷く。
小狼は分かっていた。この二人に今のさくらの状態を『危機』と認識させるのは難しいと。
彼らはさくらの魔力を吸ってこそ存在できる魔力生命体なのだ。さくらの魔力が増すことは
彼らにとって喜ばしい事ではあれ、困ることではないのだから。
押し黙る小狼にユエが話す。
「言い訳があるなら聞こう・・・雪兎がそう言っている。」
あ、という表情で顔を上げる。彼も聴いていることが小狼の認識を変える、この場に自分の
考えを理解しうる『味方』がいることに。
0113無能物書き
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2019/02/19(火) 22:35:29.08ID:dAFl+7lX0
「さくらの魔力が、さくらを不幸にし始めている、その可能性がある。」
「何!?」
「なんやて?」
小狼は持ってきたカバンを開け、1冊の古い本を取り出す。古い外国の文字で書かれた
その本には、クロウ・リードの名がある。思わず釘付けになるユエとケロ。
「李家に伝わる本、苺鈴に持ってきてもらった。見るなら・・・覚悟してほしい。」
そう言ってしおりの挟んだノートを渡す。が、ユエやケロにとってクロウの手記なら
読まないという選択肢はありえなかった。ページを開き目を走らせるユエとケロ。

 数分後、そのノートを置いて固まる二人。
「こんな・・・クロウにそんな悩みがあったというのか・・・」
「アイツはいっつも一人でおった。人間嫌いやと思とったんやが、こんな事情があったんかい・・・」
愕然とした表情をするユエとケロ。
 クロウの不幸、有り余る魔力が彼の深層の願いを勝手に叶える現象、魔力のオーバーラン。
知識の探究が趣味だったクロウの願いは、彼の魔力によって全て解き明かされてしまう。
結果、彼の望む『理論を解き明かす』過程を全て魔力に奪われてしまう。

 例えば、今でいう運動量保存の法則。この世の運動はすべてが過去からの連動であるという理論。
その始まりはビッグ・バンという宇宙誕生の爆発から、と言われている。
この世の全ての出来事も、生命の進化も、人間の思考さえも、すべてはそこから続いている
一つの流れである、という理論。
クロウは己の周囲に起きる全ての出来事さえ、魔力による連動の計算によってそれを理解し得てしまう。
つまり、未来すら魔力で読めてしまうのだ。
 彼にとって偶然という言葉は無い、すべては必然だ。落としたグラスが必ず割れるように。
そんな彼が誰かと一緒に居られるはずなどない、その人間の思考、願い、性癖から死期に至るまで
勝手に理解してしまうのだから。
0114無能物書き
垢版 |
2019/02/19(火) 22:37:23.09ID:dAFl+7lX0
「案外、クロウの奴も寂しかったんとちゃうか?せやからワイらやカード達を作ったんか・・・」
ケロが寂しそうにつぶやく。長くクロウといながら、彼の孤独に気づけなかった自分を悔やむ。
「なら、今の主、さくらの望みは一体何だ!」
ユエが絞り出すように言う。
「なかよしに・・・なる、ことだ。」
がくっ、とケルベロスがずっこける。
「ええ事やないんかいっ!」
「・・・普通に過程を経てなら、と言っている、雪兎が。」
ユエが雪兎の代弁をする。魔力で他人に好意を強要するような所作など、本当の『なかよし』ではない。
何より、もしさくらがその事実を知ったら、自分の周囲にいる『なかよし』な人達が、
普通に仲良くなったのか、魔力で洗脳して仲良くなったのか分からなくなる。
 優秀な自分よりも常にさくらを優先する知世、娘以上にさくらにぞっこんな知世の母・園美、、
最初はカードを奪い合う仲だったのに、今や恋心を抱き抱かれる小狼、父や兄、クラスの友達、
そして思い人を奪われたにもかかわらず親友になった苺鈴・・・
さくらが自分の魔力の暴走を知った時、それらに対してほんとうの『なかよし』を信じられるだろうか。

「さくらの魔力を必要とする二人には悪いと思っている。だけど俺は、これ以上さくらが
魔力を強くするのを見過ごすわけにはいかないんだ。」
「解決方法は、何かあるのか?」
ユエの問いに小狼は言葉を詰まらせる。
「今は、とにかくさくらの魔力を抑えるしか方法が無い。柊沢なら何か知ってるかもしれないが、
連絡が取れない。」
「八方ふさがり、やなぁ・・・」
0115無能物書き
垢版 |
2019/02/19(火) 22:42:52.20ID:dAFl+7lX0
「本人のいない所でコソコソやってたってしょうがないだろ!」
いきなりの声、振り返ると廊下側に一人の男が立っていた。
「桃矢!」
「勝手に上がらせてもらったぞ。たく、さっきから聞いてりゃ揃いもそろって・・・全く。」
言ってユエの前に歩いていく桃矢。
「さくらの魔力が大きくなって困る、だがさくらの魔力が無くても困る、お前らはそうなんだな。」
こくりと頷くケロとユエ。続いて小狼の方に向き直り、言う、厳しい目で。
「で、お前はどうしたいんだ?」
「お、俺は・・・決まってる。さくらを救いたい!」
決意の目で返す小狼、だが桃矢はあきれたようにそっぽを向き、こう続ける。
「じゃあさくらが救われれば、お前は不幸になってもいい、とでも言うのか?」
あ、という表情を一瞬見せるが、すぐにこくり、と頷く。

「だ・か・ら・ガキだっつーんだよお前は。自分に酔ってるんじゃねぇ!」
思わぬ厳しい口調に小狼も少し引く。
「お前は何か?小説や漫画の登場人物かよ。お前の人生はさくらの為に投げ捨ててもいいような
薄っぺらいもんなのか?」
「雪兎も、それはいけない、と言ってる。」
ユエがまたも雪兎の代弁をする。
「お前の将来を考えろ。お前はどんな人間になって、さくらとどう付き合っていくのか、
どんな人生を送っていくのか、そんなことを考えられねーんじゃ、誰も幸せにできねぇよ。」
0116無能物書き
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2019/02/19(火) 22:43:29.82ID:dAFl+7lX0
 こんな話をする桃矢には裏の事情があった。家で聞くさくらと父の会話、所用で小狼が
クラブに入らず、放課後を楽しめてない事、故にさくらのチア部が彼を応援できない事。
 桃矢にはすぐに予想がついた。あのガキはさくらの近くにいたくて日本にきたんじゃない、
さくらに起こる『何か』を取り除くために日本に来たことを。
いつも張り詰めて、何かに追い立てられている顔、真面目そうな性格にも関わらず
赤点を取るほど日常生活が追い詰められている事、彼に起こる全てが雄弁に語っていた、
さくらの為に、と。
そこに李小狼という一個の人間の存在は無い。さくらの為にのみ在る小説の活字のような存在。

「ま、ここまで言っても分かんないなら、お前は本当にただのガキだ。そんな奴にさくらは
任せられねーな。」
0117無能物書き
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2019/02/19(火) 22:44:31.49ID:dAFl+7lX0
 さくらはあれから小狼に会ってない。何度もスマホを手にしては、発信ボランを押せないでいた。
友枝中の運動部が好調なこともあり、チア部の活動も忙しい。そんな活動に忙殺されている間は
あの夜の事を忘れられる。
 しかし今日はそうはいかないだろう。山崎の所属するラクロス部の応援、友人の小狼が
来ないはずはない、会いたいけど会いたくない、そんな気持ちがさくらを沈ませる。
 案の定、多くの友人と共に小狼はスタジアムに姿を見せる。菜穂子や苺鈴、ステラに林杏。
知世だけはチア部の至近距離から、嬉々としてさくらにカメラを向けているが。
 さくらは小狼を見る。目が合う、どちらともなく視線を外す。もやもやする、晴れない気持ち。
小狼とのすれ違い、なんで小狼君はあんなに怒ったんだろう、なんで私は彼を怒らせたんだろう・・・

 試合が始まり、千春が目いっぱいの応援を披露する。その隣でさくらは冴えない表情で踊る。
小狼もさくらの方は見ずに、顔を伏せる。繋がらない心、通じない気持ち。

 やがて試合が終わる。小狼はスタジアムを出て、外でさくらを待つ。
が、チア部が服を着替え、ミーティングが終わって解散となった時点で知世にこう言われる。
「今日はさくらちゃんを貸してくださいな。」
語気は柔らかいが有無を言わせぬ知世の目。その目に押されて、仕方なく引き下がる小狼。
解散するさくらに知世が近づき、こう告げる。
「さくらちゃん、これから少しお時間を頂けますか?」
「え・・・な、何?」
「このあいだのマーチングのビデオ編集ができましたの、是非さくらちゃんに見てほしいですわ♪」
0118無能物書き
垢版 |
2019/02/19(火) 22:45:49.77ID:dAFl+7lX0
 大道寺家のシアタールーム、その映像を見てさくらは愕然とする。
小狼を追いかけていた映像。だが小狼は見物人を離れ、変身を解き、さくらのよく知る精霊へと変わる。
「ミラーさん・・・な、なんで?」
その後の映像も衝撃的だ。小狼が、苺鈴が、ウェイ、ステラ、林杏が走る。手に『封魔』と書かれた
お札をもって。
さくらを中心に三角形を描き、発動させる。そしてまた走る、悲壮な表情のまま、懸命に駆け、発動。
そして最後には力尽き、倒れる。やがて救急車で搬送される小狼。
「ウソ・・・そんな。」
小狼とデートし、喧嘩別れしたのはこの翌日のことだ。さくらには今、はっきりと小狼が
魔法を使うことを拒んだ意味が理解できた。理屈ではない、小狼の性格を考えるなら。

「一度、李君とじっくりお話をしたほうがいいと思いますわ。」
知世の提案にこく、と頷く。
さくらはスマホを取ると『小狼君』の画面を呼び出し、迷わず発信ボタンを押す。

「あ、もしもし、小狼君。あのね・・・」
0120無能物書き
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2019/02/22(金) 01:55:23.40ID:3aq3UWmc0
>>119
ありがとうございます。さて、書きたかった話です、少し長め。
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第11話 さくらと小狼と夏の終わりの海

 8月30日朝、さくらは鏡の前で身だしなみを整える。
今日は小狼とお出かけ。ただし遊びではない、小狼と話をするのが目的だ。
とりあえず話したいことがいっぱいある、楽しくなくてもいい、知りたい、お互いをもっと。
そのための一日、さくらが考えに考えた末のスケジュール。
 そして出発前の最後の準備、さくらは引き出しからふたつの髪飾り付きの
髪留めゴムを取り出す、片方に2コ、左右で4コの赤い玉のついたそれを頭に結ぶ。
そして鏡をたたみ、振り返ってドアへ向かう。途中、ケロに出発を告げる。
「じゃあ、いってきます。」
おお!という表情のケロを尻目にさくらが出ていく。久々に見るさくらのあの姿。
「おー、気合い入っとるなぁ。」

 小狼は待ち合わせ場所のバス停で、落ち着く無くさくらを待つ。
あの一件の後、二人で会うのは久しぶりだ。彼女を泣かせてからしばらく会わず、
ここにきて彼女からの呼び出し、絶交を宣言されるのでは、という不安も頭をよぎる。
例えそうなっても、自分がさくらを魔力の呪詛から守る決意は変わらないだろう、
しかし、やはりさくらに嫌われるのは身を切るように辛い、それも自業自得ではある。
ただ、その未来を受け入れるには、小狼はさくらを好きになりすぎてしまっていた。
今日、さくらは自分に笑顔を見せてくれるだろうか、それとも・・・

「小狼君、お待たせ。」
そのさくらを見た小狼は、鼓動の高鳴りを抑えられなかった。いつも見てたのに、いつもと違う。
以前、自分がさくらを好きになった時を思い出す、なつかしいさくらのその姿。
さくらは髪型をハーフツインにして、懐かしい赤玉の髪留めで止めていた。
そう、小学生の時に、いつもしていたあの髪型、髪飾り。
中学生になってからは見なくなったその姿、小狼が恋をしたその髪型で、笑顔を向ける。
0121無能物書き
垢版 |
2019/02/22(金) 01:56:04.36ID:3aq3UWmc0
「ど、どう、似合うかな・・・久しぶりに使ってみたけど、やっぱ子供っぽい、かな?」
固まる小狼に、困り笑顔で問うさくら。小狼は首をぶんぶんと振り、赤面しつつ
向き直って言う。
「いい、似合ってる、本当に。」
「ホント、良かった〜」
花が咲くような笑顔を向ける。小狼が耐えきれずが視線を外した時、ちょうどバスがやって来る。
「じゃあ、行こっか。」
「え・・・どこへ?」
「行ってからのお楽しみ♪」
そう言って小狼の背中を押し、バスに押し込む。中に客はまばらで、二人は一番後ろに並んで座る。
 バスの中では、とりとめもない話をした。こないだのマーチングの、なでしこ祭の話、
今日は知世が尾行してないかとか、こないだのラクロスの試合の山崎の活躍に小躍りして喜んだ
千春の話とか、一足先に帰国した苺鈴、ステラ、林杏の話など。
そうこうしているうちに、バスが目的地に到着する、潮の匂い、どこかの海岸線だ。

 バスから降り、その海を見て既視感を感じる小狼。この海岸、その向こうの大きな宿舎、
そしてその先にある岩場、それを知っている。
「さくら、ここって・・・」
「覚えてた?そうだよ、林間学校で来たところ。」
さくらがにっこりと笑って、そして付け足す。
「私が初めて、小狼君とお話した場所だよ。」
記憶が巡る。そう、ここは確かにさくらと小狼が初めてカード以外で話した場所。
奈緒子の怪談話で寝られなくなったさくらが起き出し、外をウロついていて小狼と出会う。
そこで彼と彼の家族の話をした場所だった。
0122無能物書き
垢版 |
2019/02/22(金) 01:57:55.09ID:3aq3UWmc0
「確かその後、イレイズ(消)のカードを封印したんだったな、あの洞窟で。」
「うん、あの時も助けられたよね、いっぱい。」
そんなことはない、と言おうとして止まる。確かにさくらはあの時、皆が消えたことと
幽霊を恐れてパニックになっていた。当時はこんな娘が継承者候補かと思ったものだが
今思えば、苦手なものや困難にも泣きながらでも立ち向かっていくさくらの強さの
一端を見た出来事だった。

「今日はね、小狼君とお話ししたくてここに来たの。」
両手を広げてそう小狼に告げる。確かにもう夏も終わりで海水浴客はおらず、
宿舎を利用する団体もない。たまに海岸線を通る車のほかはほぼ無人、ふたりきりで
話をするにはもってこいのロケーションだ。

 二人は海岸を歩いて宿舎の前、かつて話をした階段へ向かう。そこにビニールシートを
長く敷いて並んで座る。夏の終わりの日差しを木の葉が程よく遮り、風はわずかに秋の気配。
心地よい環境にしばし浸る二人。

 少しの時を置いて、さくらが話かける。
「ね、小狼君って前に私を・・・す、好きだ、って、言ってくれたよね。」
「え!?あ、ああ・・・。」
突然のヘビーな質問に赤面する両者。
「・・・それって、いつ頃から、なのかな?」
「・・・分からない。」
確かに、小狼はさくらを『この時』好きになった、という明確な自覚は無かった。
張り合ってカードを集め、授業の体育で競い合い、一緒に雪兎に魅かれて・・・あ!
0123無能物書き
垢版 |
2019/02/22(金) 01:58:37.57ID:3aq3UWmc0
「多分、最初はあの時、だったと思う。」
「あの時?」
「ほら、リターン(戻)のカードを封印した時だ、月峯神社で。」
「あ、あったねー。あれ?でもあの時は小狼君、雪兎さんのことが好きなんじゃなかったっけ?」
はっ、として考え込む、そして現実問題に引き戻される小狼。かつて彼は雪兎の持つ
「月の魔力」に魅かれ、彼に恋心のような感情を抱いていた。
そしてそれは今現在、さくらが抱えている問題『魔力による他人の魅了』とほぼ同じ状態ではないか。
深刻そうな顔をして黙り込む小狼を見て、さくらが状況を動かす。

「私が小狼君を好きになったのは、小狼君が『好きだ』って言ってくれて、しばらくしてから、かな。」
「そ、そうなのか・・・」
少し残念そうな顔をする小狼、だが無理もない。さくらは雪兎に告白し、そして失恋するまで
さくらの『一番』は雪兎であり、小狼ではなかったのだから。
「私ね、最初に小狼君と合った時、イジワルされるかと思ってた。」
「え?」
「だって、いきなり『俺にカードをよこせ』だもん。」
「あ!す、すまない、あの時は。本当に悪かった、ごめん。」
律義に頭を下げる小狼にさくらが返す。
「でも、小狼君はイジワルどころか、何度も助けてくれたよね。ここでも、月峯神社でも、
ペンギン公園、図書館、東京タワー、劇の練習の時も、いっぱいいっぱい助けてくれた。」
ひと呼吸置いてさくらは続ける。
「だからね、小狼君は私よりずっと凄い人だって、立派な人だって思ってた。」
「そ、そんなことは」
「聞いて。だから私は小狼君がその、なんていうか、私のナイト様みたいに思ってた。
私より立派で、いつも私を助けてくれる、頼りになる、でも同い年の、特別な男の子。」
そんないいもんじゃない、と思いながらも、さくらの話を中断させまいと聞くに徹する。
0124無能物書き
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2019/02/22(金) 01:59:44.23ID:3aq3UWmc0
「だからね、『お前が好きだ』っていってくれたあの時、それが全部無くなっちゃったの。」

さくらは小狼に告白されて、それまでの世界が全然違う世界にさえ見えていた。
あの小狼が自分を好き?その意味が分からない。今までの小狼像が霞に消えていく。
「いっぱいいっぱい考えたよ、私。私の気持ち、小狼君の気持ち、考えて考えて、
でも、答えは出なかった。
だけど知世ちゃんに連絡貰って、小狼君が香港に帰るって聞いた時、やっと分かった。
私は小狼君が好きなんだ、って。」
「そ、そうか・・・」

 大事なもの、それは失って、または失いかけて初めてその大切さに気づくもの。
さくらは小狼と一緒に居たかった、だが一緒にいてはその気持ちに気づけない、
小狼の『好きだ』をきっかけに、さくらはそれを失うことの悲しさを悟った、
ああ、木ノ本さくらは李小狼を好きなんだ、と。

「私が、雪兎さんに『好きです』って言った時の事、覚えてる?」
「あ、ああ。」
さくらはかつて恋をして、告白し、失恋した。そして小狼の胸で泣いたことがあった。
「雪兎さんは、雪兎さんへの『好き』と、お父さんへの『好き』が同じものだって言ってた。
実際にそれは似てたけど、あの時はそのワケまでは分からなかった、でも今は分かる気がするの。」
「ワケ?」
うつむいていたさくらが顔を上げ、続きの言葉を絞り出す。
「だって・・・私は雪兎さんに甘えられるけど、雪兎さんは私に甘えられないもん。」
0125無能物書き
垢版 |
2019/02/22(金) 02:00:33.03ID:3aq3UWmc0
「雪兎さんだって人間だよ、きっと怒る時だって、悲しむときだってあるよ、
でも私はそんなとき、雪兎さんを慰めてあげられない、元気づけてあげることが出来ない。
きっと雪兎さんは私の前じゃ我慢して、辛いことも悲しいことも隠して笑っちゃうよ、
私は雪兎さんにいくらでも甘えることが出来るのに。・・・これって本当、私とお父さんの
関係みたいだもん。」
 確かにそうだ。本来、人間ではない雪兎に失意の感情があるかどうかは分からない。
だがもしあるなら、それはさくらにも、そして小狼にも、癒してあげることは出来ないだろう、
そもそも雪兎がさくらに弱い所を見せるなどまず無い。そういう人だ、月城雪兎という人は。

「好き、っていう事はきっとそういう事なんだと思うの。その人が何かをしてくれる、
そして何かをしてあげられる、だから一緒にいたいと思うんだよ、きっと。」
そこまで言ってさくらは立ち上がる。そして階段をひとつ降りて、小狼の正面に立ち、
顔を近づけて小狼に告げる。

「・・・だから小狼君、私も小狼君に何かをしてあげたい、小狼君の役に立ちたい!
小狼君に助けられる『だけ』の私でいたくないの!」

 さくらは知っている、小狼がさくらに何かを隠して、一人で苦労していること。
それがさくらの為であること、そしてさくらにそれを語らないことも。

「私にできることがあったら言ってね、私も小狼君が『大好き』だから。」
胸に手を当て、小狼の目の前でさくらはそう宣言する。
「あ・・・」
頬を赤らめながらも、それ以上にさくらの『決意』を感じ、目線をそらさずさくらを見る。
彼は嬉しかった。自分の好きな人が、自分の力になりたいと言ってくれる。
それは何より力強く、そして頼りになる言葉だった。ひとりで悩まなくてもいいんだ、
小狼はその時、今までよりまた一歩、さくらとの距離が近くなった気がした。
0126無能物書き
垢版 |
2019/02/22(金) 02:01:27.33ID:3aq3UWmc0
「ありがとう。」
俯いて答える小狼、しばし間を置き、顔を上げてさくらに向き直る。
「じゃあ、ひとつだけ言っておきたい。」
「うん!」
真剣な小狼の眼差しに、頼られることの嬉しさを感じてさくらは笑顔で答える。
「・・・俺は、お前が好きだ。」
「ほぇっ!?」
予想外の答えに戸惑い、赤面して困惑するさくら、構わず続ける小狼。
「聞いてくれ。その気持ちは、俺の『本当の気持ち』だ。誰にそうさせられたわけでも
強要されたわけでもない、俺自身が、さくらを好きなんだ。」
一度区切って、言葉を紡ぐ。
「今は、それだけを心に止めておいてくれれば、嬉しい。」
 さくらは知る由もない。それは小狼のさくらへの好意が、さくらの魔力に
よるものではなく、純粋に李小狼という人物の本心であるという意図を。
いつかさくらが自分の魔力の暴走に気づいた時、少なくともここに一人、純粋な
「なかよし」がいることを知ってもらう為の言葉だった。

 が、それを理解しないさくらは混乱する。いきなり面と向かってそう言われると
顔が熱をもってしょうがない。小狼君の役に立ちたいと思って言ったのに、帰ってきた返事が
告白だったのだから。
でも、嬉しい。それは事実だ。少し落ち着くとさくらは、その思いに応えたい、という
感情が沸いてくる。そうだ、私は小狼君が好きだ。そして小狼君も私を好きだと言ってくれた。
そんな思いに応える方法は・・・
0127無能物書き
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2019/02/22(金) 02:01:57.79ID:3aq3UWmc0
 さくらは自然に体を、顔を、小狼に近づける。『行為』を意識したわけではない。
ただ小狼への思いが、もっと近づきたい、近くにいたいと彼との距離を詰める。
顔と顔が10センチまで近づいた時、真っ赤になった小狼が声を出す。
「お、おい・・・」
「あ・・・」
小狼の指摘でさくらも気付く、このシュチエーションが意味することを。
ああ、こういう気持ちなんだな、好きな人同士が、キスをするというのは。
さくらはその流れに、感情に逆らわず、すっと目を閉じ、口を紡ぐ。あとは・・・

 どちらからともなく交わされる、初めてのキス。
唇が軽く触れるだけの、ささやかなものであったが、それでも最初の一歩、初めての
愛のスキンシップ。

 数分後、恥ずかしさにのたうち回るさくらと、全身真っ赤なまま像のように動かない小狼の
姿だけが木漏れ日の中にあった、知世がいたら恰好の被写体になっていただろう。

 さくらの作ってきたお弁当を二人で食べ、その後は宿舎や洞窟を散策する。
一通り回って後、海岸線を散歩しながら、さくらは小狼に問う。
「でもでも、雪兎さんもだけど、小狼君が困ってたり怒ってたりするのって、
なんか想像できないよね。」
普段からおこりんぼな印象はあるが、本気で怒りをあらわにしたり、悩みに潰されて鬱になる
イメージは無かった。
「そんなことはない!」
強い調子で小狼は返す。
「俺だって、嘆いたり、怒ったり、憂鬱になったりは・・・する。」
さくらにとってそれは意外な言葉だった。さくらくらいの年齢なら誰でも精神的にナーバスに
なることがあって当然だ。しかし李小狼という人物に、それを当てはめるのは難しかった。
0128無能物書き
垢版 |
2019/02/22(金) 02:02:30.93ID:3aq3UWmc0
「覚えているか、2年前、クロウカードの最後の審判の後の、夏休み。」
「ほぇ?」
いきなりそう言われても記憶にない。カード集めがすべて終わり、普通に夏休みを
過ごしていたはずだ。そして、そこに小狼との思い出は・・・無かった。
「俺は、さくらとずっと会わなかっただろう、実はあのとき俺、すごくダメになってたんだ。」

 小狼が日本に来た目的、それはクロウ・カードの起こすこの世の災いを阻止するため。
しかし本音の部分では、自分がカードの主となって、より強い魔力を手に入れたいと思っていた。
またそうすることで、李家の次期当主としての力量を示すことになると信じていた。
 しかし現実は非情だった。審判でユエに手もなく破れ、カードの主の座を女の子に奪われた。

「でもでも、あの時は、瑞樹先生が私にもういちどチャンスをくれたから・・・」
「そう、『さくらに』チャンスをくれたんだ・・・俺じゃなかった。」
言葉に詰まるさくら。同じカード集めをしていながらも、確かに自分が優遇されていることを
今更ながらに感じ、気持ちが沈むのを自覚する。
「ユエに負け、さくらに負け、瑞樹先生やクロウ・リードに『お前じゃない』って
言われた気がした。悔しかったよ、暴れたり、物に当たったり、大声でわめいたりしてた。
とてもあの時の俺は、さくらに見せられるものじゃなかったよ。」

「そうなんだ・・・」
それだけを言う、それ以上はかける言葉が見つからなかったから。
「だけどそんな時、ウェイにこう言われたんだ。」

−おやおや、李家の跡取りともあろうお方が、人様の作ったカードで簡単に強くなる
 おつもりでしたか?−
−そんな便利なものは、女の子に、さくらさんに差し上げてしまえばよいのですよ
 男子たるもの、己の力でこそ強くあらねばなりませんー
0129無能物書き
垢版 |
2019/02/22(金) 02:03:07.43ID:3aq3UWmc0
「俺は、そのウェイの言葉に救われた。」
その話を聞いたさくらは、心にじわっ、と染み渡る感情があった。
私とは違う葛藤。そう、男の子だ。男の子の世界のお話だ。小狼とウェイの男の世界、考え方。
好きになった人の、自分の知らない心の世界に感動するさくら。
「で、夏休み中ずっと、ウェイに修行をしてもらってたんだ。」
「・・・素敵な話、だね。」
「いや、恥ずかしい話だよ。」
そんな話も、今のさくらにはためらわずに話せる。これからもこういう話を聞いてほしいと思う。

「そういえばウェイさんって、小狼君と苺鈴ちゃんの格闘技の先生なんだよね、やっぱり強いの?」
その言葉を聞いた小狼がさーっ、と青い顔になる。
「強いなんてもんじゃない・・・魔力は俺のほうが強いけど、実際に戦うとなると俺や苺鈴はもちろん、
母上やユエや、カードを使ったさくらでも・・・下手すると柊沢より強いかも。」
「ほぇーっ」
いつもにこやかな顔を絶やさない初老の紳士、そんなイメージだったウェイがあのエリオル君より?
ちょっと想像できない世界である。

「でもな、立ち直ったとはいえ、やっぱりさくらにどんな顔をして会えばいいのかは
分からなかった。」
勝者と敗者、得た者と失った者、そんな二人が今まで通りの関係を続けるのは困難かもしれない。
「え?でもでも、小狼君と2学期に会った時は全然普通だったと思うけど・・・」
その言葉に、えっ!?と言う表情で引く小狼。
「お前・・・覚えてないのか?」
さくら、ではなく、お前、と言うほど動揺する。
「何が?」
「おま・・・さくらと俺は新学期の始業式、日直だったんだよ。」
「あ!そうだったそうだった、覚えてる覚えてる。それで?」
「やっぱり覚えてないのか・・・」
頭を抱える小狼。さくらは頭の上にハテナマークを浮かべている。
0130無能物書き
垢版 |
2019/02/22(金) 02:04:43.37ID:3aq3UWmc0
「あの日、俺が先に教室にいてさ、さくらは歌を歌いながら入ってきたんだ。」
その能天気な歌を聞いた時、小狼は自分の不安の馬鹿馬鹿しさに気が付いた。
勝者とかカードの主とかは関係なく、彼女は普通の女の子なのだから。
「え、歌?そうなんだ・・・」
うーん、と考えるさくら。あのとき私、歌なんて歌ってたっけ、どんな歌だったかなぁ。
流行りの曲はあまり聞かなかったし・・・知世ちゃんの歌だったのかな?

 ふと小狼を見上げ、さくらの頭上に電球がぱぁっ、と輝く。
「そうだ小狼君!歌ってくれない?そのときの歌!!」
「え”!」
「前の約束!一緒に劇の練習してたとき、香港の学芸会で歌を歌ったって。
確かあの時、いつか小狼君の歌を聞かせてね、って約束したよ!」
記憶を辿る。白樺の木の上と下で、確かにそんな話をしていたのを思い出す。
「だから歌って!その時の歌。私もどんな歌を歌ってたか忘れっちゃってるから
是非歌って思い出させてほしいな。」
子供のような笑顔でおねだりするさくら。本音を言えば歌の内容はどうでもいい。
小狼の歌を初めて聞けることがさくらにとって重要だった、このチャンスは逃さない、
とばかりに小狼にかぶりつくさくら。

「い、いいんだな!」
「うん♪」
「じゃ、じゃあ歌うぞ・・・」
「わーい。」
ぱちぱちと拍手をして待つさくら。小狼はすぅっ、と息を吸い込み、右手でマイクを
持つ仕草をして歌い出す、『あの歌』を。
0131無能物書き
垢版 |
2019/02/22(金) 02:05:29.52ID:3aq3UWmc0
「日直日直にっちょくちょく!夏休み〜の〜宿題も〜何とか終わったし〜♪」
歌い出してすぐ、笑顔のままさくらの目が点になる。やがて黒歴史の記憶が、さくらの意識を
真っ黒に染め上げていく。
「ほ、ほえぇぇぇ〜〜〜〜」
「日誌を付け〜て〜、お花〜変えて〜みんなの机をキレイにしよう♪日直日直わたしの・・・」
「ストップ!ストーップ!!もういい、もういいよ〜」
小狼にしがみついて歌を止めるさくら。

「ああああ・・・小狼君の初めて歌ってくれた歌が・・・」
頭を抱えて後悔するさくら。はじめての歌がよりによってコレとは。黒歴史を黒歴史で
上塗りしてしまったことを後悔する。ああ、記憶を消して違う歌を歌ってほしい・・・
「くっくっく・・・あはははははは。」
そんなさくらのリアクションと、その原因である自滅との可笑しさに思わす笑う小狼。
「笑うなんてひっどーい、もう、小狼君!」
ぷぅっ、と膨れて怒るさくら。しかし自業自得である以上それ以上強くも言えない。
「あはは・・・すまない。でもやっぱ可笑しくって、クックックッ」
ふと、さくらは膨れながら思う。こんなに屈託のない笑い顔の小狼君を見るのは初めてだ。
どこか大人びた印象のある彼の、まるで子供のような笑顔、それを見ていると黒歴史はどこへやら
こっちまで楽しくなってくるのがわかる。なんか当時の私の滑稽さが、自分にも面白おかしく
感じられてきた。
「あははははははははは・・・」
「はっはっはっはっは・・・」
海岸線で大笑いする二人、日は西に落ちていき、海と空と砂浜をを、紅に染め上げていく。
0132無能物書き
垢版 |
2019/02/22(金) 02:06:03.88ID:3aq3UWmc0
「そろそろ帰ろうか。」
「うん。」
自然に手を出す小狼、自然にその手を掴むさくら。ふたりは気持ちも一つに砂浜から
道路に上がり、そのままバス停に向かう。
と、さくらの提案。
「ねぇ、バス停まで一緒に歌お。」
「いいけど、・・・何の歌を?」
「さっきの歌。」
言ってにっこりと笑うさくら。海の波は夕日を反射し、二人をまばゆく、優しく包む。
潮騒も、夕日が落とす二人の影も、すべてがこの二人を見守っている。

 手を振って、大仰に行進しながら高らかに歌う二人。
「「日直日直にっちょくちょく!夏休み〜の〜宿題も〜何とか終わったし〜♪」」
通りの少ない海岸線道路、その先、ずっと先まで、二人は歩いていく、未来へ。

「日誌を付け〜て〜、お花〜変えて〜♪・・・ん、どうした?」
突然歌を止めるさくら。爽やかだった顔がみるみるギャグ的に青くなっていく。
「ほ、ほえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!夏休みの宿題まだ残ってたあぁぁぁっ!!!」
「何だって!?もう明後日は始業式だぞ!!」
「お願い!小狼君、手伝って〜!」
「宿題は自分の力でやらなきゃダメだろう!」
「でもでも、私ひとりじゃとても無理〜」

 バス亭にダッシュする二人。日は暮れ、夜になり、

 そして、秋が来る−
0133CC名無したん
垢版 |
2019/02/22(金) 08:36:22.43ID:wWbAWaIN0
「お父さんへの『好き』と同じ」ってそういうことかもしれないね
はじめてストンと落ちる解釈に出会ったよ
小狼の空白の夏休みもうまく使えてる
乙!
0134CC名無したん
垢版 |
2019/02/22(金) 13:40:43.06ID:4HqvqGdR0
うわあああすごくいい話だ
ここの住民しか読めないのもったいないくらいだ
0135CC名無したん
垢版 |
2019/02/23(土) 07:24:45.25ID:bFcTc1iH0
シーンまで想像できて、こっちが正史だと記憶がすり替わりそう
0136無能物書き
垢版 |
2019/02/25(月) 00:39:15.82ID:MNoq0k+G0
ちょっと息切れ気味なんで気分転換。
http://imepic.jp/20190225/021740(下手絵注意)

・・・話考えるより疲れたw
0137無能物書き
垢版 |
2019/02/25(月) 00:47:06.82ID:MNoq0k+G0
感想忘れてどーするw
>>133
私なりの見解ですけど、雪兎に対する「好き」は、アイドルや王子様といった
女の子の「憧れ」を具現化したものだと思ってます。気に入ってもらえて何より。
>>134
ありがとうございます。世に出るとすさまじい勢いで叩かれるのは目に見えてますので
ここでひっそりとやっていきたいと思ってます、こういう時、過疎板は便利ですw
>>135
私自身も「アニメ・クリアカード編」の消化不良にアレ?と思ったクチですから。
少しでもそれを補完できるストーリーを目指してはいます。おこがましいですが・・・
0138CC名無したん
垢版 |
2019/02/25(月) 08:59:54.73ID:8C4uf4hZ0
>>136
全然上手いじゃんか!
続き楽しみにしてるけどマイペースでええでー
0139CC名無したん
垢版 |
2019/02/26(火) 19:22:54.68ID:WsUzTmyD0
絵まで書いちゃうなんてすげえ
0140無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:17:45.76ID:16GnSLmW0
>>138-139
あんがと。受け入れられて良かった。ドン引きされたらどうしようかと・・・
そもそも「こにゃにゃちわー」を忘れてるよ俺orz

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第12話 さくらと部活と新学期

『それでは次に、夏休み中のクラブ活動、成績優秀者の発表を行います。』
始業式、友枝中体育館において、校長の長〜い話の後、そうアナウンスされる。
壇上に上がる4人の男子生徒、そのうちの一人は、さくらもよく知る人物。

「男子ラクロス部、関東大会準優勝、よく頑張ったね、おめでとう!」
校長先生直々に、賞状とトロフィーが手渡される、主将と副主将がそれぞれを受け取る。
「また、壇上の4名は本大会において、優秀選手賞も受賞しました。」
さすがに『最優秀選手賞』は優勝チームに持っていかれたが、それでも全10名の
優秀選手賞のうち、4つを友枝中チームは獲得していた。
「和田祐樹主将、立原昇副主将、藤田正和君、そして、山崎隆司君、おめでとう!」
4名にそれぞれ賞状が渡される。それと同時に体育館に拍手が沸き起こる。
 中でも注目を集めているのは、一年生にしてレギュラーとして活躍し、チームを
決勝まで引っ張った一人として認められた山崎だった。
『それでは次、夏休み期間に行われたなでしこ祭の・・・』
0141無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:18:28.99ID:16GnSLmW0
 お昼休み、いつもの面子でいつもの中庭、お弁当を広げつつの話の話題は
やはりラクロス部に所属する山崎が中心になる。
「なんかねぇ、ボクの顔を見た相手選手が油断するみたいなんだよ・・・マークも全然されないし。」
不本意そうな顔でそう語る山崎。
「まぁ、緊張感や闘志とは無縁な顔してるもんね、山崎君は。」
「おかげで『友枝中のステルス戦闘機』なんてアダ名が付いてるのよ。」
奈緒子の感想に、千春が解説を入れる。男子ラクロスはフィールド球技と格闘技の
両方の性質を持つ。当然選手は皆、ヘルメットの中で厳しい表情を見せる。

 そんな中、山崎ののほほんとした表情は、どこか緊張感や警戒感を薄れさせる
効果があったようだ。
元々日本ではあまりメジャーでない競技、関東大会でもチーム内に1〜2名は
初心者がいるチームも珍しくない、山崎もまたそういう目で見られ、実際初心者でもあった。
 しかし彼の身体能力は並ではなかった。長身に加え瞬発力、持久力に優れた彼は
小学校時代からスポーツイベントでは多くの活躍を見せていたほどの実力があった。
 試合が進み、相手チームが山崎をマークするころにはもう手遅れであった、
序盤で点数を稼ぎ、逃げ切る友枝中のスタイルは、万年1回戦負けの友枝中を
決勝まで進出させるに至ったのだ。
「はぁ、おかげで目標だった『落語研究会』の創設が・・・」
「作らなくていいわよ!」
折角カッコよくなった山崎が、また笑いの世界に走ってはかなわないとツッコミを入れる千春。
0142無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:19:02.51ID:16GnSLmW0
「でも次からは警戒されるだろうし、戦力補給が急務なんだよね、ウチの部。」
言って山崎はちらりと小狼の方を見る。
「ここに一人、格闘技と球技が得意そうな、有望な人材がいるんだけどねぇ〜」
その言葉に全員が小狼に注目する。
「い、いや・・・俺は駄目だ。やらなきゃならない事があるからな。」
その小狼の言葉にがっくりと肩を落とす山崎、そして、さくら。
「前にもおっしゃってましたわよね、まだその御用は終わらないのですか?」
秋穂が訪ねる。もう二学期なのに、と心の中で付け足して。
 その隣で知世が優しい眼差しを向ける、彼の最重要の用事は、さくらの事であることは
間違いないと確信をもっている、さらっと言葉でその背中を押す知世。
「李君がラクロス部に入部したら、きっと優勝も夢ではないですわ、そうすれば
さくらちゃんの応援もますます可愛くなること請け合いですわね♪」
あ、そっちなのね。という表情で知世を見るさくら。知世にとっての最優先事項も
やっぱりさくらのようだ。

「さて、ラクロスって言うのはねぇ・・・」
満を持して山崎の解説が始まる。例によって真剣な表情で聞き入るさくら・小狼・秋穂。
始業の予鈴が鳴る頃には、千春のツッコミの声と音が中庭に響き渡る。
「本職がもっともらしい嘘を教えるなーっ!」
−すっぱあぁぁぁん!−

 放課後、チアリーディング部は2学期最初の活動を迎えていた。
その内容は『3年の引退式と引き継ぎ』である。3年生は来年の高校受験に備えて今日で引退、
短い間だったが、お世話になった先輩との別れを惜しむさくら達。
新たなキャプテンも決まり、新体制のチア部発足となる。終わりに3年生から最後の演技を
披露される、なでしこ祭でも見た先輩たちの見事な演技、その技術を、精神を、
さくらたちは受け継いでいく、自分たちが卒業する時、後輩に渡すその時まで。
0143無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:19:33.98ID:16GnSLmW0
 下校中、さくらは充実感を感じていた。部活動に所属するという事の自覚と責任、
人とつながり絆が生まれる、多くの仲間と一つの目標に向かって邁進する、
喜びも悲しみも分かち合う、そんな仲間たちとの青春の1ページ。

「さくら!」
ふと我に返る、目の前に私服姿の小狼が立っている。
「あ、小狼君!」
「今帰りか、お疲れ様。」
小狼は買い物袋を下げている、例によって夕食の食材の買い出しの帰りにばったり
部活帰りのさくらと遭遇したわけだ。
「送っていくよ。」
そう言う小狼に笑顔で返す。
「うん!」
思わぬ幸運にさくらの顔もほころぶ、帰宅までのわずかな時間、一日のおもわぬご褒美。

「ねぇ、小狼君。」
「なんだ?」
「やっぱりまだ、部活とかは出来ないの?」
自分が今味わっている充実感、出来れば小狼にも体験してほしかった。
そんな彼の行動にブレーキをかけている原因が、自分だとうすうす気づいているから尚更だ。
「ああ。でも『まだ』じゃなくて・・・俺は、部活動をする気は、ない。」
「どうして?」
不思議そうに見上げるさくら。小狼はさくらの正面に向き直り、こう言った。
「俺には、魔力があるからな。」
「・・・え?」
0144無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:20:02.17ID:16GnSLmW0
 理解できない、といった表情で小狼を見るさくら、それを察して小狼が続ける。
「例えば、俺がラクロス部に入ったとして、試合で魔法を使って勝ったとしたら、どう思う?」
さくらはありえない、という表情で返す。
「もちろんダメだよ、それに小狼君はそんなこと絶対にしない!でしょ?」
「じゃあ、俺が全力を出さずに、手を抜いたプレイをしたとしたら?」
「それも絶対にないよ、だって・・・だって小狼君だもん!」
自信を、いや確信を持って言える。さくらの知る李小狼という人間に、そのどちらも当てはまらない。

「今、俺が言ったふたつの仮定が、矛盾していることに気づいたか?」
「ほぇ?」
理解が追い付かず、ついつい口癖が出るさくら。
「なぁ、さくら。全力、ってどういう字を書く?」
「全ての力を使う、でしょ・・・あ!」
全ての力。それはその人間の持っている力をさす。運動神経、頭脳、筋力、センス、
そして・・・小狼やさくらにとっては『魔法』も力の一つであることに違いは無い。

「魔法を使わなければ、俺は全力を尽くしていないことになる。かといって魔法を使えば、
勝負にすらならなくなってしまう、相手も仲間も、彼らのしてきた努力すら無駄にしてしまうほどの
反則な力・・・そんな力がある俺が、みんなの競技の邪魔をする訳にはいかないんだ。」
「そんな・・・小狼君、真面目すぎるよ!」
反論するさくらに、小狼は悲しい目をして告げる。
「『特別』な力を持つっていうのは、そういう事なんだ。」
0145無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:20:35.49ID:16GnSLmW0
「俺は香港でいる時、学校で魔法を使った事があるんだ。」
小狼は話す。彼の家が香港で有名な魔術の家で、あちらでは日本より魔法の存在が
信じられている事、そんな中、学校に起こった魔法による災い、魔力を持った低級な霊が
クラスメイトを傷付けようとして、とっさに魔法を使ったこと。
そしてその一件以来、小狼が学校で孤立してしまったこと、まだ小学2年生の時の話だ。
恐れられ、特別視され、羨ましがられる。幼いクラスメイトにとって、その力が小狼にあって
自分たちに無いことは、受け入れがたい不公平であった。

「よくケンカを仕掛けられたよ。俺が負けたら『魔法を使えよ、手を抜くな』って言われて
勝ったら『魔法使ったんだろ!』って言われる。ケンカだけじゃない、体育の授業でも、
ずっとそうだった。」
さくらは言葉もなく小狼を見ていた。そして初めて日本に来た頃の彼を思い出す。
不愛想で、余裕が無くて、いつも張り詰めている。初めて桃矢と合った時、ためらわずに
ケンカをする姿勢を取った小狼。それは彼の香港での日常をそのまま映していたのだ。

「俺は、日本が、友枝町が好きだ。」
そう言ってようやく笑顔を見せる小狼。
「だから、この日本での日常を壊したくない。俺は、怖いんだ。魔法を使って恐れられることが、
魔法を使わずに、全力を出さなかったことが仲間に知られることが・・・だから、部活は出来ない。」
「・・・そう。」
さすがにしょんぼりするさくら。小狼の境遇ももちろんだが、そんな彼に対して何もしてあげられる
事が無いことが悲しかった。この前、海で「力になりたい」と言ったばかりなのに・・・
0146無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:21:04.96ID:16GnSLmW0
 その瞬間、周囲が闇に包まれる。夕焼けの通学路は一瞬にして漆黒の闇へと姿を変える。
「さくら!」
「小狼君!これって一体・・・」
と、さくらは思い当たる気配があった。今年に入ってから経験してきた不思議な現象、さくらだけが
感じられる魔力の気配と、それを固着することによるカードの入手。
それに気づいた時、どさっ、と地面に人が倒れる音。小狼が地面にうつぶせに倒れ、
苦しそうな表情をさくらに向ける。
「小狼君っ!!」
駆けつけるさくら。小狼を抱きかかえようとするが、小狼がそれを制する。

「いいから・・・カードを、封印、するんだ。」
小狼には既視感があった。これは、何者かに魔力を封じられている状態、急速に眠気が襲ってくる。
かつて柊沢エリオルと対峙した時に感じた、魔力封印の圧。
「俺にかまうな、カードを封印してしまえば、元通りになる・・・」
「分かった!待ってて小狼君!」
闇に向き直り、首に下げている夢の杖を取り出す。
「レリーズ!」
杖をかざし、構える。目を閉じ、闇の中で気配を探る。いる!
「主無き者よ!夢の杖のもと・・・って、速い!」
気配は縦横無尽に動いている、闇の中で。とても姿の見えないさくらがピンポイントで
固着できる状況ではなかった。

「なんとか動きを止めないと・・・」
そう嘆くさくら。その声を聴いた小狼は、ひとつの方法を思いつく。が、それを実行するのは
不可能であった。魔力が失われている自分にそれをする術はない。
体を起こそうとして、力が入らず転がる。その勢いでさくらの反対方向に向く小狼。
「あ・・・」
さくらの反対側、闇の向こうにうっすらと景色が見える。さっきまで歩いていた通学路、
この闇は、さくらに近づくほど濃くなっている、ということは・・・。
0147無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:21:33.35ID:16GnSLmW0
 力を振り絞って、体を横に転がし闇の外を目指す。やがて闇から転がり出る小狼。
それと同時に、彼は何事もなかったかのごとく体力と、そして魔力が戻っていることに気づく。
 この空間は、魔力を『奪う』んじゃない。魔力を『封じる』空間なんだ。
目の前にあるドーム状の闇を見据えて立ち上がる、これなら出来る、さくらの力になれる。
 小狼は魔力を開放し、宝玉のついた剣を取り出す。その宝玉に封じられている精霊から
最高位の一体を呼び出す。
「闇を照らせ、ライト(光)!」
今度こそ小狼の魔力は急激に失われていく。クロウ・カード改めさくらカードの中でも
ケルベロス配下第一のカードであるライトの発動は、小狼の魔力を容赦なく奪っていく。

「固着(セキュア)!セキュアっ!」
闇の中、気配を頼りにな何度も夢の杖を打ち据える。しかし目標には命中せず、さくらの杖は
むなしく空を切り続ける。早くしないと小狼君が・・・
 その瞬間、さくらの頭上に太陽のような光球が出現する、それは瞬く間に拡大し、さくらの周囲を
明るく照らし出す。その中にいるのはさくらともう一人、ローブを纏った老人のような精霊。
それは突然の光に目を抑え、動きを止めていた。今がチャンス!
「主無き者よ、夢の杖のもと我の力となれ、固着(セキュア)!」
老人に杖を打ち下ろす。その瞬間、老人は光の泡となり、杖の周りに収束されていく。

 光が消え、闇が晴れ、残ったのは1枚のカード。
それを手に取ると、すぐに小狼を探すさくら。さっきの光、あれはもしかして・・・
いた、小狼君。剣を杖にしてへたりこんでいる。使ったんだ、魔法を。
「小狼君!大丈夫!?」
駆けつけるさくらに、顔を上げて答える小狼。
「ああ、大丈夫。それより、カードは・・・?」
「うん、封印できたよ。これ・・・」
二人してカードを覗き込む、そこには先ほどのローブの老人とともに、こう書かれていた。
0148無能物書き
垢版 |
2019/02/27(水) 01:21:58.32ID:16GnSLmW0
『封(sealed)』

「封・・・封印系のカードか。俺の魔力を封じていたのもこのカードの力だったんだな。」
「魔力を・・・封じる。」
さくらはそう嘆く。ここの所のカードの出現は、その時のさくらの思いに対応した能力を持つ
カードばかりだ。マーチングの練習の時には『律動』、そして今、小狼君が魔力にとらわれず
自由に部活をできるようにと思った時には、この『封』。
うすうす気づいていたけど、やっぱりこのカードは、私の魔力が生み出している。
さくらは少しづつ、この透明なカードに不気味さ、怖さを感じていた。

 と、小狼が突然、そのカードを手に取り、食い入るように見入る。
彼は、ひとつの可能性を感じていた。
「(もし、このカードでさくら自身の魔力を抑えることが出来たら・・・)」
今現在も進行しているさくらの魔力の影響、それを抑えることが出来るかもしれない。
「さくら、このカード、役に立つかもしれない。」
「え?」
「だから大事に持っていてくれ、でも使うなよ、よくないことが起こるかもしれない。」
「うん、分かった。」
小狼の真剣さにさくらも頷く。元々小狼君に役に立てたいという思いが生んだカード・・・だと思う。
大事にしないという選択肢は無かった。

「(あとは、柊沢。お前が日本に来られれば・・・)」
小狼は手を打っていた。エリオル達が日本に来られるようにする手を。

 その時こそ、事態は動き出す、きっと、いい方向に。
0149CC名無したん
垢版 |
2019/03/01(金) 18:30:28.44ID:Q8mV8ilD0
本編より楽しみにしているかも…
0150無能物書き
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2019/03/02(土) 00:23:06.59ID:00UdefLf0
>>149
無茶振りすぎるー!ハードル上げんといてー(ケロ風)
本編と言えば、面白くなってきましたねぇ、まさか小狼が子供化するとは。
0151無能物書き
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2019/03/02(土) 00:24:10.55ID:00UdefLf0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」
第13話 さくらとみんなのお墓参り

−これは、夢?−

久しぶりに見る夢。大きな歯車と、その上に立つフードを被った人、
その向こうに、大きな大きな・・・真っ黒い蛇のような生き物が浮かんでいる。
たぶん、竜。そう呼ばれる現存しない生き物、それらがこちらを向いている。
フードを被った人がふと、身をひるがえし背中を向ける。そして竜に向かって
歩いていく、空中を、まるでそこに道があるかのように。

 ふと、その人のフードが取れる、そのまま風に任せてフード全部が脱げ、空を舞う。
その中にいた人、男の子。私のよく知っている、私の大好きな人の後ろ姿。
彼はそのまま竜の頭に乗る。ダメ、そっちに行ってはいけない。
竜の遥か後ろ、遠くに一つの縦に伸びる線、柱。いや、行かないで!

 彼から離れたフードがふわりと舞い、さくらのすぐ後ろに飛んでくる。
そのフードの中には、いつのまにか別の人。さくらのよく知る娘がいつのまにか
そのフードを纏っていた。
黄金色の髪、胸の前でくるくる巻きにした髪型、柔らかで、寂しそうな、まるで
秋に揺れる麦帆のような金色の髪、彼女の名前をそのまま光景にしたような、髪の毛。

 ふり向くさくら。彼女はそのフードを纏ったまま、歯車の動く下へ落ちていく、ゆっくりと。
少年は竜に乗り、ゆっくりと昇っていく。柱に向かって、その頂上にある十字架に向かって。

ダメ・行っちゃだめ!いや・・・行かないで!

前方の昇っていく少年に、後ろの落ちていく少女に、さくらは呼びかける。
と、少年がさくらの方を振り向く。少女がさくらを見上げる、そして二人は同時につぶやく。

−お前はもう、戻れない−
−あなたはもう、戻れません−
0152無能物書き
垢版 |
2019/03/02(土) 00:24:50.18ID:00UdefLf0
 悲しい夢を見て、目が覚める。
「夢・・・」
さくらは泣いていた。どうしてなのかは分からない、ただ、大事な大事なものが無くなる、
そんな喪失感に満たされて。
むくりと上半身をベッドから起こす。夢、だよね。うん、夢だ。夢でよかった・・・

 外を見る、まだ朝は早く、景色も薄暗い。時計を見る、朝の5時半。
前を見る、小さな星のペンダントが宙に浮いている。これは・・・夢の杖?
さくらは静かにそのペンダントを手にする。呼んでいる、そんな気がして、静かに呟く。
「レリーズ。」
ペンダントが杖へと変化する。その杖を取り、目の前の虚空に掲げて言う、封印の言葉を、
生気のない、悲しい声で。
「主無き者よ、夢の杖のもと・・・わが力となれ、固着(セキュア)」

 杖の先に光の粒子が舞い、やがてひとつのカードとなる。ふわり、とさくらの
目の前に舞い、止まる。それを手に取り、名前を見る。
「フューチャー(先)・・・」
さっきの夢で見たフードを被っている、少年とも少女とも分からない人物が描かれたカード。
そのカードはどこか寂し気で、そして・・・少し怖かった。カードそのものよりも、
これを使った結果が。

「うーん、こら・・・スッピー、そのたこ焼きはワイのや・・・」
場違いな寝言が聞こえた。と、さくらは現実に引き戻される。
ケロちゃんの寝言、自分の部屋、ベッド、ようやく夢から現実の日常に戻った気がする。
「ありがと、ケロちゃん。」
起こさないようにそう囁くと、ベッドから起き出し、服を着替える。

 今日は特別な日、さくらにとっても、木ノ本家にとっても。
0153無能物書き
垢版 |
2019/03/02(土) 00:25:25.66ID:00UdefLf0
「もう10年ですか、早いものですね。」
さくらの父、藤隆が車を運転しながら、桃矢とさくらに話す。
 今日はさくらの母、撫子の10回忌。母と繋がる人々の、ひとつの区切りの日。
車は走る、郊外にある彼女の墓へ。それぞれの思いを乗せて。

 お供えの花をヒザに乗せたさくらが、藤隆と桃矢に問う。
「ねぇ、お母さんってどんな人だった?」
彼女が無くなったのは、さくらがまだ3歳の時。母の記憶は、その笑顔しか無い。
「そうですねぇ・・・明るくて、いっしょにいるだけで楽しくなる人でしたよ。」
「少なくとも怪獣じゃあなかったなぁ。」
感慨深く答える藤隆に対し、桃矢はさくらを茶化す。
「お兄ちゃん!」
「ははは、今日はいろんな人が来るから、聞いてみるといいですよ。」

 やがて車は秋の空の下、郊外の墓地の駐車場に進み、止まる。
車を降りたさくらを迎えたのは、いつも見ている黒髪の少女と、その母親。
「知世ちゃん。」
「おはようございます、さくらちゃん。」
「今日も可愛いわねぇ〜、さくらちゃん、こんにちは。」
相変わらず母娘そろってさくらに夢中である。周囲にいるボディガード達も
サングラスの下で、やれやれ、という表情を隠す。
「園美さん、よく来てくれました。」
「ふ、ふん。そりゃまぁ、撫子の10回忌ですもの、私が来ないとでも?」
藤隆に斜に構えながら園美が返す、さすがにさくらの手前、藤隆とやり合うわけにはいかない。
0154無能物書き
垢版 |
2019/03/02(土) 00:25:59.77ID:00UdefLf0
「父さん、ひいお爺さんも見えてるよ。」
桃矢が後ろを指さす。そこには撫子の祖父、さくらと桃矢の曽祖父である老人、雨宮真嬉。
「おっと、いけない。挨拶してきます。」
「私も行くよ。」
さくらと藤隆は真喜のもとに向かう、さくらはこの老人が好きだった。避暑地でお世話になり
その後も度々さくらに世話を焼いてくれてる、前には小狼も紹介し、歓迎してくれた。
「お爺様、よくお運びくださいました。」
「ああ、車に長い時間乗るのはしんどいがな。」
素っ気ない返事を藤隆にした後、さくらを見てその表情を和らげる。
「おお、さくらちゃん、こんにちは。元気だったかね?」
「はい、お爺様もお元気そうでよかったです。」
花が咲いたような笑顔でさくらが返す。雨宮コーポレーション会長の気難しい老人も
その笑顔の前では、ただの好々爺になってしまう。

「それにしても園美君、『あれ』はまた来ないのか。」
真喜の問いに、園美は申し訳なさそうに答える。
「はい、今はニューヨークに・・・」
園美の夫、つまり知世の母であり、大道寺グループの総帥でもある人物。
世界中を飛び回り、こういった身内の集まりに顔を出すことはまずない。
そのため、さくらも桃矢も面識は全くなかった。
「まぁよろしいんじゃありません?仕事バカは放っておきましょう。」
園美の提案に誰も逆らわない。真喜は次にさくらに問う。
0155無能物書き
垢版 |
2019/03/02(土) 00:26:30.15ID:00UdefLf0
「そういやさくらちゃん、あの彼、そう李小狼君だったかな、彼は元気かね。」
「あ、はい。実は今日も誘ったんですけど・・・『身内の集まりに出るべきではない』と。」
「ははは、彼らしいな。」
本音を言えば、さくらは小狼には来て欲しかった、ふたつの意味で。
 ひとつは、親しいお付き合いをしている少年の、身内への紹介。もちろんさくら自身が
そんな恥ずかしい事は出来ないだろう。が、小狼なら例えこの場にいても、ちゃんと礼を尽くした
挨拶ができるだろう、そういう意味で小狼は、さくらよりはるかに大人びている所があった。
 もうひとつ、今朝見た夢と、朝一番で封印したカードの事。こちらは魔力に関する問題だけに
小狼以外に相談できる人間は限られている。出発前、ケロに事情を話し、ユエと小狼に
相談するようお願いはしてきたのだが・・・

「さて、みなさん揃ったようですし、いきましょうか。」
藤隆が手をたたいて皆を先導する。彼を先頭にぞろぞろと参道を歩き、向かう。
ほとなく『木ノ本家之墓』と掘られた墓石の前に到着、桃矢が水の入った桶から柄杓で
水をすくって花瓶に注ぎ、残りの水で墓を清める。
さくらはその花瓶に花を活け、揃える。母の名前でもある撫子の花を一番目立つようにして。
そして藤隆は線香に火をつけ、最初に墓の正面に立つ。

「撫子さん、今年もみんな集まってくれましたよ。」
今年も、という言い方には少々の理由がある。藤隆と雨宮家や大道寺家の仲は
決して順風満帆というわけではなかったからだ。
箱入り娘の撫子をさらった男として、藤隆は両家から好ましく思われていなかった。
3年前、真喜はさくらと出会い、そして知る。藤隆と撫子の時間が幸せな時間であったことを。
以来、命日にはわだかまりを消して会うようになっていた。それも今年で3年目。
もうこの二人にぎこちない感情は無かった。
そのことを撫子に報告する意味も込めて、藤隆はそう言って手を合わせる。
0156無能物書き
垢版 |
2019/03/02(土) 00:26:55.37ID:00UdefLf0
 そして次に長男の桃矢が墓の前に立つ。次に控えるさくらはいち早く桃矢の異変に気づく。
ふらっ、とヒザを折ると、桃矢はそのままその場に前のめりに倒れる。
「お兄ちゃん!」
「桃矢君!」
両脇にいたふたりが桃矢を支えようと手を伸ばす、が、間に合わない。
そのまま墓の根元に倒れるかと思った時、ふっと別の『手』が、桃矢を『正面』から支える。

 その人物は、そのまま桃矢を抱え上げると、桃矢を藤隆に渡す。
まるで小さい頃に、母親にだっこされた幼子を、父親に渡すように。
ゆるくウェーブのかかった長い髪の毛、清楚な白い顔に微笑みを浮かべるその女性。

 さくらも、藤隆も、真喜も、園美も、知世も、ボディガード達も、はっきりと目にする、
そこにいる『はずの』人物、そこにいる『はずの無い』人物。
誰も声が出ない、ただただ呆然とその人物を見るしかできない。藤隆は気絶した桃矢を抱えて
やっと一言を絞り出す。

「撫子・・・さん。」
0157CC名無したん
垢版 |
2019/03/02(土) 02:16:18.54ID:qkjEcHQP0
ワイ木ノ本家のエピソードに弱いんや…😢
0158無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 08:39:18.56ID:Jw0v0zy80
大ポカ・・・orz

>>154
✕園美の夫、つまり知世の母であり
〇園美の夫、つまり知世の父であり
0159無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 11:57:29.75ID:Jw0v0zy80
>>157
あれもCCさくらのひとつの目玉ですよねぇ。
今回はそういうお話、天とかアカギとか言わないで欲しいw

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第14話 さくらとお父さんとお母さん

「来たようですね、その時が。」
カーテンの閉め切られたその薄暗い部屋、中心には魔法陣。西洋のそれと
東洋の風水版の模様が入り混じったその中心に立ち、ユナ・D・海渡は薄い笑いを浮かべ
そう呟く。
「ようやく、ですか。」
兎のぬいぐるみを模した魔法生命体、モモがそれに相槌を打つ。
そして両名とも、後ろを振り向く。ソファーの上に横たえられている一人の少女を。
「ええ、ようやく、です。」
決意と、力と、覚悟を備えた言葉でそう返す、彼らしくない感情のこもった言葉で。
彼は眠る秋穂を見る。愛情と、そして憎悪をないまぜにした目で。
「では、行ってきますよ、待っててください、秋穂さん。」
その部屋にあった魔法陣がすっ、と消える。特定の人間の魔力、霊力を感知するための魔法陣が。
 代わりに秋穂の眠るソファーの下に魔法陣が現れる、そして秋穂は横たわったままふわりと浮き
まるで無重力空間にいるように空中にとどまる。傍らには本が不規則にページを揺らしながら
漂っている、『時計の国のアリス』が。
 海渡がきびすを返し玄関に向かう、モモもそれに続く。目的の物、それを手に入れるために、
最強の魔術師がついに動く。
0160無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 11:58:03.54ID:Jw0v0zy80
「みなさん、今日は本当によく来てくれました。」
墓の前、木之元撫子はその存在(幽霊?)に似つかわしくない笑顔で、来訪者に頭を下げる。
「これは・・・奇跡か!?」
老人の真喜が目を丸くして、驚いた表情でそう呟く。なつかしいその姿、我が孫娘が
当時そのままの姿でこちらを見ているのだから。
「お久しぶりです、おじいさま。」
そう言って一歩、真喜の前に踏み出す撫子。しかし墓の段差に足を引っかけ、ぐらぁっ、と
バランスを崩す。両手をばたつかせ、必死に体制を直そうとするが・・・
「ふ、ふあぁぁぁっ!」
べしゃっ。顔面から地面に落ちる撫子。全員が心の中でツッコむ。幽霊が段差につまづくな!

「あいたたた・・・」
顔面を抑えながら立ち上がる撫子。痛いんかい!とまたも心のツッコミ。
ぷっ、と笑ったのは園美だ。そこからさらにお腹を抱えて笑い出す。
「まったく、変わらないんだから・・・相変わらずドジねぇ。」
藤隆は桃矢を抱えたまま、さくらに向き直り、一言。
「こういう人なんですよ、撫子さんは。」
「ほ、ほぇ〜」
天然な人だとは聞いていたが、聞きしに勝るキャラクター。その姿はいつも写真立てで
見ているが、会ってみるとイメージが全然違って見える。

「今日は、最後のお別れに来たの。」
その撫子の言葉に、周囲がはっ、と覚醒する。10回忌、ひとつの区切りの年。
これが夢でないとするならば、撫子は亡くなってから10年、成仏せずに幽霊として
この世に居続けたことになる。
「おひとりずつお話をしたいんですが、いいかしら?」
笑顔で、しかし真面目な表情でそう告げる撫子。皆は顔を見合わせ、藤隆に判断を仰ぐように
注目する。
0161無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 11:58:47.03ID:Jw0v0zy80
「わかりました、では、お爺様から。」
そう決めたのには理由がある。ほんの1年前ほど、藤隆は撫子の霊と遭遇したことがある。
それはが柊沢エリオルから返された魔力のせいであることは知らなかったが、とにかく
彼にとってこれは初めての経験ではなかった。そして知っていた、桃矢も、さくらも
そういった経験があったことを。
ならばその経験のない真喜を優先するべきだろう、という藤隆の配慮。真喜を残し、
他の面々は墓から少し離れた場所に移動する。

 真喜との話は5分ほどだった。遠目に見ていても痛々しかった、その厳格な老人は
涙を流し、嗚咽を漏らし、撫子に抱き着いていた。まるで子供のように。
そんな真喜を撫子は優しく慰める。お先にお待ちしていますから、またいつか会いましょう、と。

 次は園美。かつて憧れていた女性との邂逅、届かなかった思い、その先にある自分の人生。
後悔が無いと言えば嘘になる、妥協に流されて彼女は今の人生を手に入れた。そして彼女は今も
撫子の影をさくらに追い求めている。
そんな彼女に撫子は諭す。貴方はもう少し、貴方の娘の方を見るべきです、と。

 次に知世。撫子は感謝と笑顔を向ける。娘と仲良くしてくれてありがとう。でも貴方は
もっと自分を出していいのよ、と。
「私は、さくらちゃんの撮影こそ生きがいなのですわ〜」
そう返す知世にさすがの撫子も困り顔、でっかい呆れ汗が顔の横を下にスライドする。
0162無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 11:59:17.24ID:Jw0v0zy80
 その後も一人ずつ、参列者と会話を交わす。他の親族はもちろん、知世のボディガード達すら
一人ひとりに、感謝と別れの言葉を告げる。
あと残りはさくら、桃矢、そして藤隆。しかし桃矢は未だに気絶したままだ。
「お兄ちゃん!起きてよ、お母さんだよ!」
さくらは桃矢を揺り動かすが、反応が無い。せっかくのこの機会、撫子と話すチャンスを逃させる
わけにはいかない。
「仕方ないわね、ほら。」
園美が桃矢の腕をを肩にかついで起こす。反対側を藤隆がかつぎ、二人で桃矢を支えて墓に向かう
さくらもそれに続く。
「さくらさん、お先にどうぞ。」
そう藤隆に促される。それはさくらに気を使ったように見えるが、藤隆の『最後は私ですよ』という
決意でもあった。それを察してさくらは撫子の前に出る。

「・・・お母さん。」
「うふふ、大きくなったわね。嬉しいわ。」
未だ信じられないといった表情のさくらに、撫子は柔らかい笑顔を向ける。
「いい縁に恵まれたのね。前にあった時よりずっと奇麗になってるわ。」
「ほぇ、縁?」
きょとんとするさくらに、撫子は顔を近づけ耳元で囁く。
「(いい人がいるんでしょ?そういう顔してる。)」
いい人?一呼吸おいて、さくらの脳裏に浮かぶ小狼の顔。
「ほ、ほえぇぇぇぇっ!!」
ぼふっ、と赤面して硬直するさくら。そんなさくらをぎゅっ、と抱きしめる撫子。
0163無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 11:59:56.09ID:Jw0v0zy80
「ごめんなさいね・・・私、お母さんらしいことは、何一つできなかった・・・」
感極まってさくらにそう告げる。わずか3歳の娘を残して逝った母、その無責任さを
今更のように娘に吐き出す撫子。
「そんなことない!」
さくらは撫子の胸から顔を上げ、はっきりそう告げる。
「お母さんがいたから、みんな幸せなんだもん!知ってるよ、私を頑張って生んでくれたんでしょ?
いつも見てたよ、お母さんの写真、お父さんの写真立ての写真。あんな人になりたいって
ずっと思ってた・・・」
最初は毅然としていたさくら。しかし言葉を紡ぐたび、少しずつ涙声になっていくのが分かる。
その顔、その温度、その優しさ、記憶には無いけど確かに「想い」は伝わる。
「私が風邪をひいた時も・・・見守ってくれたよね。お母さんは・・・ずっと、私の・・・」
そこまでが限界だった。さくらは撫子の胸に顔をうずめ、涙を流す。
母との邂逅に、今日会えた奇跡に、かすかな思い出に、ほどなく訪れる永遠の別れに。

 さくらが離れた後、藤隆が桃矢を連れて行こうとするが、撫子はそれを制する。
「桃矢君とはしょっちゅうお話してるし、もうお別れも済んでるわ。最後は・・・あなた。」
そう言って藤隆を呼ぶ。桃矢を園美とさくらに任せ、前に進み、撫子の前に立つ。

 妻の前に。
0164無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 12:00:27.16ID:Jw0v0zy80
「お元気そうで。」
「撫子さんも。」
何故か他人行儀な会話で始まる夫婦。
「私は、ねぇ、元気といっていいのかしら?」
「その笑顔で十分ですよ、撫子さん。」
にっこりと笑う二人。ふと、撫子は夫に寄りかかる、藤隆は妻を抱きとめる。
ほんのわずかなタイムラグもなく、二人は求めるままに抱き合った。夫婦、そんな二人の絆は
10年という時を昨日のように縮める。
「ごめんなさい、ごめんなさい、私、何もかもあなたに押し付けて・・・」
息子、娘、親戚との確執、そして『二人でいる幸せ』すらも置き去りにして彼女は逝った。
その後悔を吐き出す、大粒の涙を流して、嗚咽と共に。
そんな撫子を優しく撫でる夫、そしてこう返す。

「ありがとう。」
その言葉の意味を知っている、木ノ本藤隆という人間の人柄が、その言葉の意味を雄弁に語る。
私と出会ってくれてありがとう、私を好きになってくれて、私と結婚してくれてありがとう、
二人の子供を生んでくれて、様々な人との縁をくれて、貴方との楽しい時間をくれてありがとう、
そして今ここに来てくれて、妻として縁者たちに私の顔を立ててくれて、娘のさくらに
母親の愛を伝えてくれて、本当にありがとう。

 さくらは抱き合う二人を見て、すごいな、と思った。
心から通じ合うふたり、それはまるで絵画のようなその光景。暖色と寒色が合わさって
名画になるような。ああ、これが夫婦なんだな、と。
 いつか、私と小狼君もあんなふうになれるだろうか、さくらは心にじわっとした
温かい感動を感じていた。
0165無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 12:00:58.65ID:Jw0v0zy80
「私も、あなたと出会えて幸せだった。」
未だ涙目で夫を見る妻。そして彼女は最後の言葉を愛する人に伝える。
伝えたかった言葉、彼女を10年もの間、現世に縛り続けていたその思いを、無駄とわかっていても。

「でも、どうかこれ以上、私に縛られないで。貴方はあなたの幸せを・・・」

 その問いに藤隆がどう答えたか、それは二人にしか分からない。
ただ、その問いに答えた後、彼女も藤隆も笑顔だったのは確かだ。悲しみの無い満面の笑顔。

 少しおいて、藤隆がさくらを呼ぶ。え、いいの?という顔をして二人に向かうさくら。
「じゃあ、さくら。お願いね。」
「私は目を閉じて、耳を塞いでいますよ。」
その二人の言葉が、さくらは理解できない。ほぇ?と返すしか・・・。
「いつもやってるじゃない、ほら、それ。」
言ってさくらの首元を指さす撫子。ん?と首元をさぐる。喪服の下にはいつも身につけている
ペンダント、今年になって手に入れた鍵、夢の杖。
「え・・・」
「さぁ、気配を読んで。」
「・・・あ!」
言われて気づく、カードの気配。私以外には感じられない、様々な現象を起こす、封印してきた物
クリアカード!
「レリーズ」
囁いて鍵を杖に変える、うしろの皆に見えないように。そして杖を撫子に向け、言う。
「主無き者よ、夢の杖のもと、我の力となれ、固着(セキュア)。」
0166無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 12:01:27.90ID:Jw0v0zy80
 その瞬間、撫子の体が蒼く輝く、そして足元から少しずつ霧散していく。
「お母さん!」
撫子はさくらの頭をぎゅっと抱きしる。
「長い事この世にとどまるとね、悪い霊がついて、私も悪くなっちゃうの。だからさくらに
送ってもらえて、私はとても嬉しい。」
さくらを離し、一番の笑顔を愛娘に向ける。そのまま上半身まで霧散し、光に消える撫子。
その粒子の一部が、さくらの杖の前に集まり輝く。そして一枚のカードとなる。
それを手に取り、カードを見る。母に似た女性が描かれたそのカードを

「スピリット(霊)・・・」

「やれやれ、やっと終わったか。」
後ろで桃矢の声。あれ、目が覚めたんだ。
「桃矢君は、知っていたんですか?」
「ん。母さんとはちょくちょく会ってたからな。」
首をコキコキ鳴らしながら立つ桃矢。どうやら気絶してたのではなさそうだ。
そしてさくらを見て、イジワルそうに言う。
「しかし、珍しくユーレイを見てビビらなかったなぁ♪」
0167無能物書き
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2019/03/03(日) 12:01:58.39ID:Jw0v0zy80
 その言葉に、さくらの表情がさーっ、と青くなる。」
「ほ、ほえぇぇぇーーーっ!あれって幽霊さんだったのーーーっ!!!」
「何だと思ってたんだよ。」
「ほ、ほえーっ!どうしよう、幽霊さんだよ、会っちゃったよ、どうしようどうしよう・・・」
狼狽えるさくらを見て、周囲から笑い声が起こる。
「やっぱりさくらちゃんはふんわりで、素敵ですわ〜」
知世が言う、今更のさくらの認識に、かつて小狼の好意に全く気づかなかった頃のさくらを
思い出して。

「撫子は、最後に私たちをより強く引き合わせるために、来てくれたのかも知れんな。」
真喜がしみじみ呟く。もともとこういう法事は故人を悼むとともに、その縁者が顔を合わせる
大事な機会でもある。
そんな人達の『縁』を、より強めるためにここに現れ、一人一人と話をしたのだろう。
木ノ本藤隆の妻として。

「さぁ、ささやかな食事を用意してます、いきましょう皆さん。」
藤隆は前を向く。立派な妻に恥じないように、前を見据え、皆を先導する。
秋晴れの空、風は優しく体を撫でる。彼らにとって、今日は忘れられない日になるだろう。
0168無能物書き
垢版 |
2019/03/03(日) 12:02:20.50ID:Jw0v0zy80
 料亭の一室、料理が並べられたテーブル、その周囲に大勢の人間が横たわっている、眠っている。
料理にも、お酒にも、ほぼ手を付けていない状態で。
上座の藤隆も、桃矢も、園美も、知世も、ボディガード達も、真喜も、そしてさくらもこんこんと眠る。
そのさくらの際に立ち、一枚のカードとペンダントを手にした男が佇む。

「ご苦労様でした、木ノ本さくらさん、そして、木ノ本桃矢君。」
うすら寒い笑みを浮かべ、ユナ・D・海渡はそううそぶく。
その手にあるカードは、さきほど封印したばかりの『スピリット』のカード。
「やれやれ、すっかり悪役ですね、料理に睡眠薬まで仕込むなんて。」
モモが呆れ声で言う。いくらさくらや桃矢に睡眠魔法が効きづらいからって、と。

「ずいぶん待ちましたよ、このカードを手に入れるまで、ね。」
魂を操る、その力の基礎をもっていた人物、木ノ本桃矢。
クロウ・カードを受け継ぎ、強力な魔力でカードを生み出す能力を持った、木ノ本さくら。
この二人の存在を知り、彼は確信した。私の目的にはこの二人の力が必要だ、と。
 さくらに夢を通じて『夢の杖』を与え、ユエに与えた桃矢の力が回復するのを待った、
その時が来れば、きっとさくらが桃矢の力をカード化するだろう。

 その目論見は見事当たった。ただ、それまでにさくらが夢の杖で自分の魔力を
願望に変えてカードに具現化したせいで、さくらの能力はずっと底上げされていた。
このままでは彼女は魔力で不幸になる、それは避けられないだろう。
 しかしそれは彼女の問題だ、私には私の目的がある、気の毒には思うが
利用させてもらったことに対する後悔はない、例え悪魔に身を落としても、目的を達成する。
「これはもう、返してもらいますよ、木ノ本さくらさん。」
眠ったままのさくらに夢の杖をかざし、そしてきびすを返して部屋を、料亭を出ていく海渡。
ようやく、ようやく悲願が叶う。彼の歩みは自然と早くなる、家路への歩みが。

「待っててください、秋穂さん。きっと、きっと救い出して見せます!!」
0169CC名無したん
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2019/03/03(日) 13:43:22.32ID:Hfip0N2R0
(モモは〜よ、〜だわ喋りだね…)
(あと木 “之” 本ね)
0170無能物書き
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2019/03/03(日) 20:10:48.41ID:Jw0v0zy80
>>169
指摘サンクス・・・校正って大事だよねorz。
山にこもって穴掘って入ってきます
0171無能物書き
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2019/03/10(日) 00:31:17.96ID:/BT2JDOS0
冬眠終了w

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第15話 さくらと帰ってきたエリオル

 1台のタクシーが詩之本邸の到着する、乗客の海渡は1万円札を3枚
投げるように運転手に渡す、お釣りは結構です、とだけ告げ、足早に玄関に向かう。

−ついにこの時が、待ち焦がれた時が来ました−

 高揚感が足を速める、玄関のドアを開け、中に入る。廊下を走り、居間のドアを開く。
そして止まる、驚愕の表情で。秋穂以外いないはずのその部屋に立つ、その人物を見て。
「なっ!」
それだけを絞り出す海渡、脇にぶらさがっていたモモが続く。
「柊沢・・・エリオルさん、ですわね。」
その眼鏡の少年、エリオルは答えない。杖を手に、紫のローブを纏って、
決して好意的ではない目を、海渡に向けて。

「不法侵入とは感心しませんね。ここは今は、貴方の家ではありませんよ。」
海渡は一歩後ずさり、ヒビのはいった懐中時計を握りしめて言う。
「泥棒に非難される筋合いはありませんね。」
厳しい表情でエリオルが返す。彼の足元には魔法陣、海渡が家を出る前まで使っていた
風水版と西洋の魔法陣を合成したサークル。そしてその向こうのソファーには、
眠る秋穂を抱きかかえる一人の女性と、狼にも似た獣、共にエリオルの従者。
「ええと、ルビー・ムーンさん、それとスピネル・サンさんね。お揃いでようこそ。」
モモは動じない、いささか第三者的なふるまいを感じる。
0172無能物書き
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2019/03/10(日) 00:32:25.65ID:/BT2JDOS0
「なるほど、大した魔法陣ですよ、世界中の魔力を持つ人間の動向すら探れそうですね。」
足元の魔法陣をサーチしてエリオルが言う。
「こっちはもう消しちゃったよ〜」
女子高生、秋月なくるの姿を取っているルビーがドヤ顔で告げる。秋穂の寝ていたソファーにあった
『眠りの魔法陣』はすでにかき消えている、秋穂は未だ眠ってはいるが。

「驚きましたよ、一体いつの間に日本に?」
魔法陣を介して、世界の主な魔導士の動きは把握していたはずだ、
もちろんクロウ・リードの転生体である柊沢エリオルは、一番の監視対象と言ってよかった。
その彼が日本に来るまで気付かなかったとは・・・一体何故?
「協力者がいた、とだけ言っておきましょう。」
杖を肩から足元、袈裟に振り下ろし、強い調子で海渡に告げる。
「さぁ、さくらさんから奪ったカード、返してもらいますよ!」


『なんやてぇ、カードと杖を奪われたぁ!?』
「奪われたのかわかんないけど、寝てる間に無くなってたの!おまけにみんな寝ちゃってて・・・」
料亭のトイレで、スマホを握りしめてケロに報告するさくら。
『そら取られたんや、間違いないわ。』
「ど、どうしようどうしよう。」
『落ち着け!とりあえず合流するで、ゆきうさぎの家や、はよ来い!』
「分かった!」
電話を切り、料亭の外に飛び出すさくら。と、そこで大事なミスに気付く。
「あ・・・ここから雪兎さんのうちまで、どうやって行けば・・・」
軽く見積もっても20kmはある。運転してきた父は寝ているし、魔法を使って飛んでいく手は
杖が無いため使えない。
「ほ、ほぇ〜、どうすれば・・・」
0173無能物書き
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2019/03/10(日) 00:33:10.32ID:/BT2JDOS0
 途方に暮れるさくら。と、遠くからやたら回転数の高い車の音が聞こえ、次第に大きくなっていく。
やがて料亭の駐車場にけたたましい音で入ると、急ブレーキをかけて横滑りして止まる。
後部座席から飛び出してきたのは、なんと小狼だ。
「さくら、こっちだ!」
「小狼君!?どうして。」
「理由は後だ、早く乗るんだ!」
「う、うん!」
小狼に即され、後部座席に一緒に滑り込む。前の席、つまり運転席と助手席に坐っているのは
懐かしい顔の二人だ。
「苺鈴ちゃんと・・・観月先生!」
「お久しぶり、さくらちゃん。じゃあ、行くわよ。」
ウインクしてミッションをドライブに入れる。と、苺鈴ががしっ!とドアの手すりを握る。
「しっかり捕まってなさい、この先生の運転は・・・ひゃああぁぁぁ!」
前輪を浮き上がらせんばかりの勢いで加速する、さくらも小狼も対応が遅れてか、シートベルトが
あるにも関わらず左右に振り回される。
「うわあぁぁぁっ!」
「ほえぇぇぇぇぇっ!!」
0174無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 00:33:44.31ID:/BT2JDOS0
 決して制限速度を超過しているわけではないのだが、アクセルもブレーキもハンドルも
ソフトという言葉とは全く無縁のどっかん運転に振り回される。が、問題はそこではなかった。
「先生、そこ左!って、どっち行くんですか、左ですひだりっ!」
走り出してからずっと苺鈴の大声のナビが社内に響く。観月は運転以前に相当な方向音痴のようで
苺鈴が相当前から指示しているにもかかわらず度々道を間違える。
「そっちは行き止まりですってーだからなんでそっちにハンドル切るんですかあああっ!!」

 無駄に体力と精神力と、あとついでにタイヤとガソリンを消費しながら、やっとのことで
月城邸に辿り着く。
玄関に飛び出してきたケロとユエを回収し、再び走り出す。ぎゅうぎゅうの後部座席の中、
小狼が事情を説明する。
「秋穂ちゃんのところの、海渡さんが!?」
「ああ、あいつは何か目的があってこの日本に来たらしい。」
「その奪われた主(あるじ)のカードが目的というわけか。」
ユエが冷静に分析する。が、次の観月の言葉にはユエもケロも、そしてさくらも冷静さを失う。

「今、エリオル達が先回りして相手してるわ。」
「ええっ!」
「何!?」
「何やてぇぇっ!アイツらも来とるんかいっ!!」
「ええ、本当はもっと早くに来たかったけど、監視されてて来られなかったの。」
「その、海渡とかいうヤツにか?」
「ああ、お前たちも通信や連絡が取れなかっただろう、相当高位の魔法使いだ、油断するなよ!」
「小僧に言われんでもわかっとるわーいっ!」
ピリつく空気の中、さくらだけは不安と疑問でいっぱいになっていた。
「(どうして?秋穂ちゃんの好きな人がこんなことをするなんて・・・)」
0175無能物書き
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2019/03/10(日) 00:34:15.76ID:/BT2JDOS0
 数十分のすったもんだの後、詩之本邸に到着する車。
全員が勢いよく飛び出し玄関に走る。あの中にエリオルが海渡と対峙している、もしくは
もっと物騒な事態になっているかも知れない。観月を先頭に玄関を開け、廊下を走り、
魔力の溢れる部屋のドアを開ける。叫ぶ観月。
「エリオル!無事!?」

 部屋に入ってほどなく、全員の目が点になる。全くの予想外の風景。
「もちろん無事ですよ、ご覧の通り。」
テーブルに着き、ティーカップを掲げながら笑顔で返すエリオル。傍らには秋月なくるのカップに
にこやかに紅茶を注いでいるユナ・D・海渡。
「「だあぁぁっ!」」
入ってきた全員がずっこける。いち早く立ち上がったケロが平手でツッコミを入れる。
「くつろいでどないすんねんっ!!」
「まぁまぁ、皆さんもお茶でもいかがですか?」
と、さくらはソファーに横たわっている秋穂を見つける。
「秋穂ちゃん!」
駆け寄ろうとするさくらを、海渡が目線で制する。
「大丈夫、眠っているだけです。起こさないであげて頂けますか?」
ティーカップを置き、さくらに正対して続ける。

「事情をお話します、まずはテーブルへどうぞ。」
0178無能物書き
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2019/03/10(日) 23:48:34.32ID:/BT2JDOS0
>>174
✕社内 〇車内
冬眠の効果なし・・・orz

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第17話 さくらと秋穂とアリスの本

−2か月前、夏−
「アチャー、やっぱダメね〜。」
「強力な妨害思念を感じます。」
小狼のアパート、パソコンの画面を眺めてステラと林杏が言う。画面にはエラメッセージ
『NOT ACCESS SERVER ERROR』
「もうずっとこんな調子だ、柊沢と連絡を取ろうとすると、どんな通信も繋がらなくなる。」
同じようにエラーメッセージが表示されているスマホを片手に、小狼が言う。
「どうやら通信サーバーにまでマジックが掛けられているミタイネ。」
「通信の電波に魔法を通しているみたいですね、高等技術ですよこれは。」

その後ろに控えるウェイがしみじみと嘆く。
「やれやれ、時代も変わったものです、魔法もインターネットと融合する時代ですか。」
そう言いながらも器用にスマホを操作するウェイ、むろんエリオルとは繋がらないが。
「電話もダメ、ネットもダメ、手紙も押さえられるってコトは、私たちの動きも全部
把握されてるってコトね、ハッポーフサガリヨ。」
「おそらくは魔力を持つ者の動向を探られているのでしょう、そういう魔法陣を
使うものがいると聞いたことがあります。」
「これだけの魔力を持つ相手です、一筋縄ではいかない方のようですね、そのユナ・D・海渡さんと
いう方は。」
0179無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 23:49:13.15ID:/BT2JDOS0
「だったら、直接行けばいいんんじゃない?イギリスに。」
さらっとそう提案したのは、魔法談議に入れず後ろで静観していた苺鈴だった。
「そう簡単にはいかない、そもそも今やチケットを取るにも通信機器に記録される、
それを察知されたら飛行機すら安全に飛べるとは限らなくなる。」
小狼が反論する。事故に見せかけて魔法で飛行機を墜落させる、強力な魔導士なら
そんな非道な業も不可能ではない。
「魔力を持つさくらや俺たちが、迂闊にイギリスに向かえば、それこそ柊沢に
会って相談してきます、って言ってるようなものだ。」

「私、魔力ないけど?」
苺鈴が自分を指さして言う。小狼が、ウェイが、ステラが、林杏が、目を丸くして吐き出す。
「「それだ!」」


「驚きですね、本当にわずかな魔力すら感じない、こんな人間が存在するなんて。」
海渡が苺鈴に手のひらをかざし、魔力感知の術を当てながら言う。
「人を珍獣みたいに言わないでくれます?」
ふくれっ面で返す苺鈴。ケロがいかにも知っとったで的な顔で続ける。
「ま、無いなら無いで役に立つこともあるっちゅーワケやな。」

「おかげで彼女から事情を聞くのも、日本へのチケットの入手も貴方に感づかれずに
出来たわけですよ。」
エリオルが笑顔で言い、続ける。
「私も、そして貴方も、彼女とは面識があったはずです。ですがお互い気にも留めなかった、
ある意味これは凄い事です。」
「ましてクロウの母方の直系の子孫なのに、ねぇ。」
スピネル(小)がエリオルに続きそう言う。むっ、とする苺鈴に、モモがさらに余計な一言。
「あなた、前世での行いが悪かったんじゃないのかしら。」
0180無能物書き
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2019/03/10(日) 23:49:44.66ID:/BT2JDOS0
 がたっ!と立ち上がる苺鈴、ケロとスッピーとモモを両手でかき集めるように鷲掴みにして
顔を近づけて睨み据える。圧縮されタテにカオが伸びる3人(匹?)
「うるさいわね、ぬいぐるみトリオに言われる筋合いは無いわよ!!」
「ま、まぁまぁ苺鈴ちゃん落ち着いて、役に立ったならよかったじゃない。」
さくらがなだめようとするが、この場合さくらでは火に油だ。
「魔力たっぷりのさくらには言われたくないわ・・・」
ジト目で返す苺鈴に、さくらは反論の余地をなくし、ただ苦笑いを返すのみ。

 観月は危険はないと判断し、とりあえず事情を説明しに料亭に向かっている。
ただ、一人で行かせたのは明らかに失敗だっただろう、果たして今日中に帰ってこられるやら・・・

「さて、本題に入るとしましょう。」
その海渡の言葉に全員が注目する。なぜ彼はさくらの杖とカードを奪ったのか、彼のその
目的は何なのか、秋穂との関係は?さくらの夢の正体は?全員にとって興味は尽きない。

「まず、最初に言っておきます。そこにいる秋穂さんは、本物の『詩之本秋穂』ではありません。」

その言葉に全員が驚愕する。秋穂ちゃんが偽物?それは一体・・・
「みなさんは、こんな話を聞いたことがありませんか?」
海渡は語る。おとぎ話で、小説で、創作の番組にいたるまで、よく使われているファンタジーな話。
「その部屋に、空間に、世界に、『一人』しか存在できないお話を。」

 主人公は、その空間に閉じ込められている。たった一人ぼっちで。
彼が外に出る方法はただ一つ、彼の『身代わり』となる人間を、この空間に引き込むこと。
一人が入れば、一人が出られる。そして新たに入った一人がその孤独の空間に閉じ込められる。
閉じ込められた一人は、あらゆる手段で外の人間をこの空間に引き込もうとする、そんなお話。
0181無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 23:50:25.94ID:/BT2JDOS0
「なんか聞いたことある・・・何だっけ?」
「よくある話ですね、古今東西よく使われる話ですよ。」
さくらとエリオルの言葉に、海渡はひとつの本をテーブルの中央に置く。
「この本が、まさにそうなんですよ。」

 −時計の国のアリス−

「これ、秋穂ちゃんが持ってた本だ!」
「この本が、その物語だってワケ?」
苺鈴の質問に、神妙な顔で答える海渡。
「いいえ、その本は本当に『人間の魂』を閉じ込める能力があるんです、中にいる魂と入れ替えて。」
「ええっ!?」
皆が一斉にその本から引く。海渡はその本を手のひらで抑え、続ける。
「4年前、秋穂さんの9歳の誕生日の時です。送り主不明のこの本、誕生日プレゼントとして
送られたこの本に、彼女の精神と魂は取り込まれました。」

「ですが、今の彼女には魂も精神も宿っている・・・まさか!」
驚愕するエリオルに向き、海渡は答える。その決定的な一言を。
「そう。今、『詩之本秋穂』さんの肉体と言う『入れ物』に入っているのは、別人の魂です。」
ひと呼吸おいて、続きの言葉を紡ぐ。

「彼女の名は、アリス。『時計の国のアリス』。」

言葉を失うさくら。じゃあ、今まで私が見てきた秋穂ちゃんは、本当の秋穂ちゃんじゃない?
人見知りで、丁寧で、歌が上手で、おしとやかなあの秋穂ちゃんが、本当の姿じゃないの?
0182無能物書き
垢版 |
2019/03/10(日) 23:51:00.45ID:/BT2JDOS0
 海渡は語る、4年前のあの時の出来事を、そしてそれ以前の出会いを。
魔法使いの家系に生まれながら、魔力を持たなかった少女、詩之本秋穂。
そんな存在はその家において、大抵は『魔法具』として扱われる。魔力が無いならそれを利用して
都合の良い魔法を使って操る、または魔法の触媒として利用する、等々。
 そんな詩之本の家に、強力な魔力を持つユナ・D・海渡はスカウトされた。秋穂を魔道具として
使用する『マスター』として。

「ですが私は、少しづつ彼女に魅かれていったのです。少なくとも『利用する』なんてことが
出来ないくらいには。」
自虐的な表情をする海渡に、全員が否定的な目を向ける。おかしいのは海渡じゃなくて
人をそんな風に扱う家の方だと。

 そして運命の日、秋穂の9歳の誕生日。本家に呼ばれずに別棟で海渡と二人、ささやかな
誕生日パーティを開いていた最中にその本は届けられた。送り主は不明だったが、海渡は本家の
ささやかな娘に対する慈しみと信じて疑わず、その本を秋穂に渡してしまう。
パーティが終わり、秋穂は寝室に向かう、その本をもって、嬉しそうな表情で。

 翌朝、彼女は豹変していた。元気の塊のようだった秋穂は、気弱な、そして内気な少女になっていた。
昨日までの記憶を丸ごと失って。
やがて彼女はその本に没頭し始める。ほとんどのページが白紙のその不思議な本、文字が書いてある
ページも海渡には読むことが出来ない。秋穂だけがそのページを読み取れた。
 彼女の朗読するその本の内容に海渡は驚愕した。人の精神を入れ替える本、その本に宿る魂は
外に出ることを欲し、秋穂の肉体を奪い、秋穂の魂をこの本に閉じ込めてしまったのだ、と。
 ただ秋穂に入っている魂自身もその自覚は無いようだ。時がたつにつれ、彼女は自分を『詩之本秋穂』だと
自覚し始めるようになる。
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