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【妄想を】CCさくらSSスレ【垂れ流せ】
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0001CC名無したん垢版2018/11/06(火) 20:56:10.87ID:dLExxYrD0
カードキャプターさくらのSSを投稿するスレです。
書式、構成等の上手下手は問いません、好き勝手に書きなぐりましょうw
ただし来た人が引くようなエログロは勘弁な。
参考スレ
【禁断】小狼×知世をひっそり語るスレ【村八分】
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/sakura/1523196233/l50
0002無能物書き垢版2018/11/06(火) 21:03:03.47ID:dLExxYrD0
保守代わりにひとつ。
旧作の最後の審判のやり直しがあまりにワンサイドゲームだったので
妄想してみた、並行世界でのお話。

「あんな悲しい未来には、絶対にさせないっ!」
星の杖をユエに向け、構えるさくら。目には強い決意と、悪夢から覚めさせてくれた愛しい人への訴え。
「ふん、何度やっても無駄なことだ、お前はクロウ・リードの代わりには決してなれない。」
さくらに向き直り、冷淡に言い放つユエ。その奥底にあるのは、新しい主(あるじ)への拒絶の意思。
 クロウカード最後の審判、その「やり直し」の対決を眼前に、
後継者候補木ノ本さくらと、審判者ユエが再び対峙する。

 東京タワーの根元、3人は眼上を見上げ、残された最後のチャンスの行方を見守る。
「くそっ!何かないのか、俺たちに出来ることは・・・」
式服に身を包んだ少年、李小狼が頭上の二人を見上げ、嘆く。
「何もあらへん、審判の時は手助けはおろか、アドバイスさえもできんのや!
それをやったら即、さくらには資格無しの裁定が下ってまう・・・」
翼をもつ獅子の姿を持った選定者ケルベロスが、見上げながら呟く。

「いいえ、ありますわ。私たちにも出来ることが。」
後ろにいた黒髪の少女、大道寺知世のその一言が二人を振り向かせる。
「「え?」」
「ケロちゃん、応援するのはよろしいんですのよね。」
にっこりと笑ってそう問いただす知世。
「そ、そらまぁ、応援くらいやったらなぁ・・・」
「なら、私たちにできることをいたしましょう、3人で声を合わせて、こう・・・」
 ・・・・・・・・
「え”」
「よっしゃ、それやるか!ん、どないした小僧?」
「い、いや・・・」
「決まりですわね♪」
0003無能物書き垢版2018/11/06(火) 21:03:44.84ID:dLExxYrD0
 さくらの前に1枚のカードがふわりと舞い、それを手に取る。先ほどユエに逆支配された
ウッド(木)のカード。やり直しの審判の前に、元々手持ちのカードは再び元に戻される。
このカードを使ったことが、先ほどの最悪の結末を招いてしまった、否応なしに緊張がさくらを包む。
私に出来るのだろうか、この最後の審判を乗り切って、あの「この世の災い」を回避することが。

「「「フレーっ、フレーっ、さ・く・らっ!」」」
「・・・え!?」
「「「頑張れ、頑張れ、さーくーらーっ!!」」」

下から響く声、その響きに思わず下を見やるさくら、そしてユエ。

「「「フレーっ、フレーっ、さ・く・らっ!」」」
「「「頑張れ、頑張れ、さーくーらーっ!!」」」

3人がさくらにエールを送っている。知世は自慢の美声を響かせ、ケルベロスは彼らしい大声で
そして小狼は顔を赤らめ、半分ヤケクソ気味に声を張り上げて。
そのはるか後方では、瑞樹先生がその光景を見ながら微笑んでいる。

「ふん、無意味なことを。」
冷淡に呟くユエにさくらが杖を向け、返す。
「そんなこと、ないっ!」
ん?という表情のユエに続けて返す。
「すっごく、元気でたっ!!」
笑顔で力強くそう告げるさくら。そう、私には応援してくれる仲間が、大切な人たちがいる。
先ほどまでの重圧はどこへやら、高揚感とやり遂げる意欲、そして少しの新鮮さを心地よく感じていた。
0004無能物書き垢版2018/11/06(火) 21:04:21.81ID:dLExxYrD0
「(そういや、李君に『さくら』って呼ばれたの初めてかも)」
新鮮さの正体を悟り、思わず笑みがこぼれるさくら。
が、次の瞬間、その考えを打ち消す記憶が脳裏にフラッシュバックする。

−さくら、封印や・・・−

「(・・・あれ?以前にも李君に、そう呼ばれたことが・・・あれは確か・・・)」
記憶を紐解いていくさくら。あれは確か、あるカードを封印する際の出来事。
「・・・あ!」
その情景をはっきりと思い出す、そしてその時感じた疑問を今の状況に当てはめる。

−なんでそんなカード作ったの−

「(そう!もし今あのカードをうまく使えたら・・・だけど。)」
そのカードを使うには、いくつかの条件をクリアする必要がある。その為に必要なことは・・・
「(思い出して、さっきみたいに私が今まで経験したこと、カード集めで知ったこと
その中に、必ず答えはあるはず!)」
目を閉じ、記憶を邂逅するさくら。長かったカード集めの中で知ったこと、体験したこと、
今日私が経験したこと、その中から今、必要なカードを選んでいく。
「(あのカード、それからアレとアレ・・・でもダメ、まだ足りない。)」
ほぼ青写真は出来た、ただ一つ、最初の条件をクリアするカードが見つからない。
「(思い出して!カードさんを集めてきたこと、ケロちゃんと知世ちゃんと李君と一緒に、そして・・・)」
さくらは思い出す。今ここにはいないけど、一緒にカードを追いかけてきた快活な少女の存在。
「苺鈴ちゃん!そうだ、あのカードさんなら!」

 左手で手持ちのカードを扇状に広げ、右手で一枚、また一枚とカードを抜き取っていく。
腰のホルスターに左手のカードを収納し、抜き取った5枚のうち4枚をそのホルスターの
最上部に収納する、使うカードは決まった。
「準備はいいようだな、では始めるか!」
ユエがさくらを睨み、重心を前にかけ一歩踏み出す。
0005無能物書き垢版2018/11/06(火) 21:05:09.90ID:dLExxYrD0
さくらは右手のカードを放り、星の杖で打ちすえて発動させる。
「汝の優れた技と力を我に宿せ、ファイト(闘)ーっ!!」
カードから水色の武道着を纏った少女の姿が現れ、さくらの体に憑依するように重なり、同化する。

「あれは、ファイトのカード!しかし・・・」
「よっしゃさくら、かまへん、ぼてくりまわしたれーっ!わいが許す!」
「・・・さくらちゃん?」
その選択に下の3人がそれぞれ違った感想を有する。あのユエに格闘戦で勝ち目があるのかと訝しがる小狼、
ノリノリで同じ守護者のユエをどつき回せと本気で考えるケロ、
そしてさくらの思い人、雪兎の真の姿であるユエを殴れるのかと不安な表情を見せる知世。

「ふん、ファイトか。それで私に対抗できる気か!?」
右手を振り前方にかざすユエ。無数のつぶてが生まれ、弾けるように飛び出す。
「はっ!とっ!ていっ!!」
その飛礫を左右に躱し、宙返りで飛び越え、杖で弾き、腕で叩き落とすさくら。
「小癪な、ならばこれはどうだ!」
ユエは青白い炎を弓矢に具現化し、さくらに向けて放つ。幾多の矢がさくらに押し寄せる。
「はあぁぁぁぁっ!!」
押し寄せる矢の雨を次々にパンチやキックで叩き落とす。と、そのさくらの真横に踏み込んでくるユエ。
ユエのアッパーカットを上体をそらして躱し、連続で放たれた回し蹴りの足の上に乗って後方に飛び、距離を取る。
さらに連続攻撃を仕掛けるユエ、しかしさくらはその天性の運動神経と、ファイトのカードによって得た
格闘能力で次々にユエの攻撃をいなしていく。

「すごいですわさくらちゃん!」
「何やっとんねん、逃げんな、ぶちかませーっ!!」
「確かに。なんとか躱せてはいるけど、攻撃しないとユエは倒せない、あいつ一体・・・」
0006無能物書き垢版2018/11/06(火) 21:08:34.69ID:dLExxYrD0
 そんな3人の思いとは裏腹に、さくらは戦いながら思う。
「(私の考えた作戦は、まずユエさんの攻撃をある程度しのげないと使えない。
でも、ジャンプ(跳)さんでも、フライ(飛)さんでも、ユエさんの攻撃からは逃げられなかった。
だけど、あの苺鈴ちゃんと互角に戦った、このファイトさんなら!ファイトさん、苺鈴ちゃん、力を貸して!)」

 ひとしきりの攻撃を凌ぎ、距離を取る。ユエも追撃の手を止め対峙する。
「少しはマシになったな。しかし、攻撃しなければ私は倒せんぞ。」
その言葉に答えるかのように、さくらはホルスターから次のカードを取り出す。
眼前に放り、星の杖でそのカードを打ち据え、発動させる。

「木々よ、彼の者を捕らえよ!ウッド(木)ーっ!!」

「・・・え?」
「ええっ!?」
「なんやってえぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
さくらが打ち据えたカードから、無数の枝が伸びユエに向かう。
「アホかーーーーっ!さっき操られたばっかしやないかーーーいっ!!!」

 木々がユエに触れた途端、その木々は動きを止める。
「愚か、という言葉しか出ないな。こんな者が資格者だと!?」
険しい表情で木々を逆操作する、木々はたちまちさくらに向けて反転、次々にさくらに襲い掛かる。
「えいっ!とう!はっ!!」
それでもさくらは駆け、飛び、木々の追撃から逃れる。枝を蹴ってジャンプし、巻き付こうとする蔓から
素早く腕や足を抜き、囲おうとする枝を突破する。とはいえ状況がさっきよりずっと不利になったのは明白だ。
0007無能物書き垢版2018/11/06(火) 21:09:34.23ID:dLExxYrD0
「ここは・・・」
思わず叫びそうになり、慌てて口を押える小狼。さくらに対するアドバイスは最後の審判では御法度だ。
「(ここはソード(剣)だ!陰陽五行では「木」は「金」、つまり金属に弱い、ソードであの木を打ち払えば・・・)」
小狼の心の叫びに同調するかのように、次のカードを取り出すさくら。眼前に放り投げ発動させる。

「雨よ、地に降り注げ!レイン(雨)ーっ!」
カードから雨雲が沸き立ち、たちまち空を覆う、間を置かず降り注ぐ大粒の雨。
その雨がさくらを、ユエを、そして木々を打ち濡らす。

「レインだって!なんてことを!!」
悲鳴に似た声を上げる小狼、あまりにも間違った選択を取った、少なくとも小狼にはそう思えた。
事実、雨水を吸ったウッドは膨張し、その幹が、枝が、蔓が、爆発的に成長し、また数を増やす。
あっという間に東京タワーの展望台上はユエの操る木々の巨大な檻に覆われる。

「アイツ、やっちまった!なんでレインなんか!!」
「いいえ、それは違いますわ、李君」
「え?」
嘆く小狼に訂正を入れる知世。ケルベロスがそれに続く。
「ああ、さくらは知っとったハズや、レインがウッドを強化することを、その身をもってな。」
「だからきっと何か、考えがあるのですわ。」
不安と期待が入り混じった表情でそう答える二人。
「け、けど、見ろ。もうアイツに逃げ場はないぞ!」
巨大な樹の檻に囲まれているさくらとユエ。その樹を操ってるのはさくらではなくユエの方だ、
どう贔屓目に見ても状況は絶望的に見えた。
0008無能物書き垢版2018/11/06(火) 21:10:26.44ID:dLExxYrD0
「終わりだ!」
ユエの合図とともに四方八方から無数の枝が伸び、中央のさくらに襲い掛かる。
さくらはホルスターから次のカードを取り、発動させるべく放り投げる。
が、その直前に枝から伸びた一本の蔓が、ついにさくらの左足に巻き付く。
構わずカードを打ち据えるさくら。

「杖を振るう我の腕を守れ、ファイアリー(炎)っ!!」

「まずい、捕まった!」
「さくらちゃん!」
「まだや!焼き尽くしたれや、いけ!ファイアリーっ!」

「今更ファイアリーとはな、だが、無駄だ!」
冷徹に言い放つユエ。
「レインのカードの発動中に、ファイアリーが本来の力を振るえると思うか!」
その指摘通り、ファイアリーの炎の精は、体を打ち付ける雨にその威力を殺されていく。
それでも主の命令通り、さくらの両手に取り付き、木々から手と杖を守っている。

「ありがとうファイアリーさん、これが・・・最後のカード!」
ホルスターから5枚目のカードを抜き取り、投げる。炎を纏った腕を振り、杖を振り上げる。
「今更何をしようと、もう手遅れだ。カードは主を失い、この世の災いが発動する。」
冷酷な目で木の上に立ち、蔦の絡んだ右手をさくらに向けて言い放つユエ。
事実さくらはすでに胸まで木々に巻き付かれ、首にすら蔦がかかっている。
だがさくらは懸命に声を上げ、その杖をカードに向けて振り下ろし、打ち据える。

「カードよ、木に宿り、汝の力を示せ、クロウ・カードーっ!!!」

カードが発動したその瞬間、愕然とするさくら。ファイアリーは消滅し、腕に、首に、蔦が巻き付き動きを止められる。
首から下を全て木に巻き付かれ、完全に身動きできなくなるさくら。
その手から星の杖が落ち、東京タワー展望台の屋根に乾いた音を立て、落ちる。
0009無能物書き垢版2018/11/06(火) 21:13:39.26ID:dLExxYrD0
「・・・!」
下の三人は声も出せず、最悪の結末を呆然と見つめている。その後方で同じ表情の瑞樹が嘆き、呟く。
「エリオル・・・これが、貴方の望んだ結果なの?」
最後の審判が終わる、そして『この世の災い』が今、始まる・・・のか?

「こんな・・・」
首から下をウッドで簀巻きにされているさくらが、険しい表情でつぶやき、そしてユエに叫ぶ。
「こんなやり方、まるでクロウの・・・クロウを気取ったつもりかーーーっ!!」

「へ?」
ケルベロスが、何言っとんのやさくら、という表情で見上げる。知世と小狼も同じ表情で。

ユエが木の上を、さくらに向かって歩みを進める、穏やかな表情で。そしてさくらに語る。
「ううん、これは『私』が、今まで経験してきたこと、カード集めで知ったこと、そして・・・」
そこまで語ったユエが、足元の木の枝に足を引っ掛け、ぐらぁっ、とバランスを崩す。
「ほ、ほぇぇぇぇっ!!」
両手をばたつかせ、必死にバランスを取ろうとするユエ。しかし努力むなしく、顔面からべちゃっと
前方に倒れる。
「あいたたた・・・ご、ごめんなさい。この長い脚に慣れなくて。」
顔面を抑えながら起き上がるユエ。

「ほええって、ユエ・・・お前、キャラ変えたんか?」
「い、一体何が、何を言ってるんだアイツ。」
もはや目が点になっている2人。その後ろで知世が視線を上から前の二人に移す。
ケロと小狼を何度か交互に見やり、そして頭の上に電球がぱぁっ、と灯る。
ぽん!と手を打ち、笑顔になる知世。
「分かりましたわ!」
「「え!?」」
思わず知世に振り向くケロと小狼。
0010無能物書き垢版2018/11/06(火) 21:14:10.63ID:dLExxYrD0
「さくらちゃんはあの時、お二人に縁の深いカードを使われたんですわ♪」
「わいらに・・・?」
「縁の深い、カード・・・?」
顔を見合わせ、邂逅するケロと小狼。元々この二人は仲のいい間柄ではない。
小僧、ぬいぐるみ、とお互いを敵視し、衝突したことも度々である。
最悪なのはお互いの体と心が入れ替わり、両者が散々な目にあったことも・・・

「「あーーーーーーーーーっ!!」」
お互いを指差し、同時に叫ぶ二人、そして同時に展望台を見上げる。
「「チェンジのカード!!」」
ひとり、瑞樹だけが頭の上に?マークを浮かべている。
「つ、つまり今、ユエが木ノ本さんで、木ノ本さんが・・・ユエ?」

「そうか、だからウッドにレインを使ったんだ。わざとウッドを強化して自分を捕まらせて
木を通して自分とユエを繋げるために・・・」
「チェンジさんはカメレオンみたいなデザインですしねぇ、木に力を通すのも得意なのでしょう。」

「だーーーっはっはっはっはっ!」
ケルベロスの爆笑が響き渡る、ときには顔を伏せて手で地面をだんだんと叩き、
また寝っ転がって腹を抱えてごろごろしながら高らかに笑う。
「た、確かに、クロウの奴に最後の審判やらせたら、こんな人をおちょくったようなコト
しかねんわ、わはははははは・・・」

「笑いすぎだケルベロス!」
さくら(中身はユエ)が眼下を睨み、同じ守護者に毒を吐く、もっともさくらの可愛らしい声だから
威圧感は皆無だが。
ふぅふぅと呼吸を整えながら、笑い終えたケルベロスが上を見上げ、言う。
「お前言うとったなぁ、『さくらじゃクロウの代わりにはならん』て。
せやけどさくらは辿り着いたで、やり方は違っても、クロウがやりそうな結末に。」
何よりユエ自身がそう言ったのだ、クロウを気取ったつもりか、と。
0011無能物書き垢版2018/11/06(火) 21:14:52.76ID:dLExxYrD0
「く・・・」
歯ぎしりをして嘆き、それからふぅっ、と息を吐き、力を抜くさくら(中身ユエ)。
すると彼女を覆っていたウッドがするっと解け、力を失い、やがてカードに戻る。
「・・・え?」
驚愕するユエ(中身さくら)にすたすたと歩み寄り、その体に抱き着くさくら(中身ユエ)
「チェンジ!」
さくら(中身ユエ)がそう言うと、二人の友進に光が溢れ、やがて収まる、離れる二人。

「ほ、ほぇぇ、戻った!?でもでも、チェンジって一日待たないと戻らないんじゃ・・・?」
自分の両手を、そしてきょろきょろと状況を見回し、元に戻ったことへの安心と疑問を混ぜ込んで言う。
「チェンジは私の配下のカードだからな。ただ、使うと同時に発動するから、お前に使われた時は
支配する暇もなく入れ替わられたが。」
その二人の間に、2枚のカードが舞い飛んで、空中で制止する。ウッドとチェンジのカード。
それをぱしっ!と手に取り、さくらを見るユエ。

 未だ最後の審判の終了は宣言されていない、さくらの心に緊張が走る。
が、ユエは手を下ろし、さくらをまっすぐに見て言う。
「ひとつ答えろ、どうしてこんな手の込んだやり方をした。」
「・・・え?」
「本来、この最後の審判はそう難しい物ではない。ケルベロス配下の攻撃カードである
ファイアリーやアーシー(地)を使えば、簡単にカタがついただろう、何故そうしなかった。」
友枝町を覆いつくした豪雪を一撃で溶かしつくしたファイアリーや、
この地一帯を完全支配したアーシーの威力はさくらもよく知っている。
そして、そうしなかった理由もユエには予想がついていた。自分の仮の姿である月城雪兎、
彼女が好意を寄せるその人の身を気遣ってのことであろう、と。
0012無能物書き垢版2018/11/06(火) 21:15:55.02ID:dLExxYrD0
「だって、『ユエさん』を、傷付けたくなかったから。」
「何!?」
予想外の言葉に驚愕するユエ。雪兎ではなく、私を・・・?
「ユエさんも、ケロちゃんと同じ守護者さんなんですよね、だったら攻撃するより、
なかよしになりたいなぁ、って。」
「・・・なかよし、か。」
ユエは邂逅する、かつて自分が崇拝していた人物、クロウ・リードの残した言葉を。

−やがて新たな後継者が現れるでしょう、あなた達やカード達を慈しんでくれる者が−

 ある意味、後継者の資格はそこにこそあるのではないか、魔力も大事だが、何よりカードにも
守護者にも命がある、それを同じ目線で、対等に接してくれるそんな心を持った存在こそ・・・
道具ではなく、『なかよし』になってくれる主、それが今、自分の目の前にいる。

「目を閉じろ!」
「ほ、ほぇ?」
「・・・早くしろ。」
「は、はいっ!」
言われるままに目を閉じるさくら。その前にひざまづき、宣言するユエ。
「選定者ユエ。我ここに『最後の審判』を終了し、『木ノ本さくら』を新たな主として、認む。」

 さくらが目を開けた時、そこにユエの姿は無かった。ただ、目の間に星の杖が浮かんでいる。
そして周囲にはユエが小狼とさくらから奪ったカードが、さくらの招きを待っているかのように
彼女をリング状に取り囲んでいる。タイム、サンド、ストーム、ドリーム、そしてウッドにチェンジ・・・
 右手で杖を取り、左手を出す。その手のひらに宙に浮かぶカードが次々に収まる。

 そしてさくらは時を超え、かつての所有者、クロウ・リードと心の邂逅を果たす−
0013無能物書き垢版2018/11/06(火) 21:16:29.60ID:dLExxYrD0
「やったよーっ!」
東京タワーから降り、笑顔で知世、小狼、ケロのもとに駆け寄るさくら。
合流するとさくらは小狼の両手を取り、彼をぐるぐると振り回す。が、その勢いはとどまることを知らず
やがて小狼の足が浮き、まるでジャイアントスイングのようにぶん回される。
「うわぁっ、ちょ、ちょっと!」
「ほ、ほえぇぇっ!?」
あまりのさくらの豪快さに驚愕する小狼、意外な小狼の軽さに驚くさくら。

「あー、まだファイトが発動しとるわ、アレは力もえらい上がるからなぁ。」
「なるほど。」
大変、とばかりに小狼を引き付けるさくら。もし手を離したら小狼がケガをしかねない。
ぐいっ、と自分の方に引き寄せ、小狼をキヤッチするさくら、ふぅ、よかった。
そしてふと、小狼の顔を見てさくらが言う。
「そういえば、さっきはありがとう。」
「え、何だ?」
「李君が『さくら』って応援してくれたから、チェンジのカードを使うのを思いついたんだよ。
初めて『さくら』って呼ばれたハズなのに、なんか聞き覚えがあるなぁ、って。
ケロちゃんが入った時にそう呼ばれてたからだったんだけど。」
一呼吸おいて続けるさくら。

「ねぇ、これからも私のこと『さくら』って呼んで欲しいな、私も『小狼君』って呼んでいい?」
至近距離での笑顔の提案に思わず赤面する小狼、目を背けて言う。
「す、好きにしろよ・・・。」
で、その目を背けたすぐ先に、ケロベロス、ビデオを構えた知世、瑞樹先生が居並んでニヤニヤしている。
え?ほぇ?という顔でふたりは3人を見る、なんで見られてる?もう一度自分たちを見て、状況を確認する。
0014無能物書き垢版2018/11/06(火) 21:25:41.96ID:dLExxYrD0
さくらはしっかりと、小狼をお姫様だっこしていた。

「う、うわあぁぁっ!は、早く降ろせっ!」
「ほえっ!は、はいっ!」
パニックで手を放すさくら、当然小狼の体は地面にどさっ、と落ちる。
「ほえぇぇぇっ、ご、ごめんなさいっ!!」
「いたたたた・・・いきなり放す奴があるかっ!」
「いい絵が撮れましたわ。」
二人の苦笑いの横で、知世が満面の笑みを浮かべている。
「そのビデオ、ダビングして小僧の実家に送ったれや。」
「まぁ、それは名案ですわ♪」
「や、やめろ!それ寄こせっ!」
こんなのをもし苺鈴が見たらまた事態がややこしくなる、慌てて知世を追いかけようとする小狼を、
背後からはがい締めにするケロ。
それを笑顔で見ているさくら、その横に瑞樹先生が並ぶ。

「どう、クロウとは会えた?」
「はいっ!」
0015CC名無したん垢版2018/11/06(火) 21:27:47.60ID:dLExxYrD0
まぁこんな感じで、好き勝手にやっちゃってください。
小狼×知世スレの人見ても、この板にSS書ける人多そうだし・・・
0016CC名無したん垢版2018/11/06(火) 23:17:58.41ID:I6rBMEBV0
ssスレ待ってました!頼むよみんな!
0017補完!クリアカード編垢版2018/11/07(水) 13:12:07.43ID:a15cCjlO0
何の情報もなくいつの間にかさくらがひいおじいちゃんの事を知っていて、これに関して何の説明もなかったので、致し方なく補完する。
尚、時系列は「封印されたカード」後の冬休み頃とする。

友枝町 ――ジャパン――

【プロローグ】

さくら「お父さん!ひいおじいさんがまた来てるって本当!?」

藤孝「ええ、本当ですよ。桃矢くんから聞いたんですか?さくらさんへ今伝えようと思ってたんですが園美くんのところへ休暇を取るそうですよ。」

さくら「お兄ちゃんは『もうあってきたからさくらも今のうちに挨拶してこい』だって」

藤孝「そうでしたか。では僕と2人でいっしょに
RRRRR…

藤孝「あ、もしもし?木之本で…えっ?ア?見つかったって?はい!行きます!」

藤孝「ごめんね。さくらさん、予定が入っちゃったよ。 一人で行くことになるけど…大丈夫?」

さくら「うん!大丈夫だよ!前にも知世ちゃんち行ったことあるし それにお父さんお仕事頑張ってね!」


続きます
0018補完!クリアカード編垢版2018/11/07(水) 13:55:52.60ID:qCASNho30
【PART1 知世ちゃんのうちへ遊びに行こう】

大道寺宅 ーー10:09amーー

さくら「ふー…やっとついた」
ガバァッ
ケロ「グベェッ!ブハァーっ!あ゛ーっさくらのバッグ、いつ入ってもしんどうてキツいわー。」

さくら「もうちょっとの辛抱だからわたしが『いい』というまでおとなしくしてよ!」

ケロ「わーったわーった大人しくしますわさくらさまー」

ケロ(知世んちの菓子は安モンつこうとらへんからなー僅かな贅沢やで)
ピンポーン
知世「あの押し具合は!…さくらちゃんですわ…///」

園美「やだ怖い」
0019補完!クリアカード編垢版2018/11/07(水) 15:42:09.27ID:qCASNho30
【PART2 あの時ー再演ー】

シアタールーム ーー11:45amーー
ズドーンダダダダダダキカンシテオチャニシヨウモウアトモドリハデキナインダゾテキガナナブニミドリガサンブダアサノヤキダマハカクベツダホンドノタメソコクノタメカマワンイッタイゴデステンハワレワレヲミハナシタオワッタ
オーディオ機器《…あなたにわたしのこの想いを伝えれば良かった……》

一同「「「「(終わった…)」」」」

知世「いつ見てもこのドレスのさくらちゃんは素敵ですわー!特にこのなだらかな曲線のさくらちゃんの脚を生かして正解でしたわね。」

園美「ガラス細工のように素敵よーさくらちゃん とくに脚が」

ケロ「(やっぱさくらの綺麗なトコは脚しか無いな)」

さくら「(みんな脚の事ばっかり…わたしの脚そんなにいいのかな?)」

園美「それにしてもあの時は大変だったわよねーみーんな失神してたしビデオカメラ等の電子機器が何故か一時停止していたもの。あぁぁあ゛その時その瞬間のさくらちゃんが収められなかったと思うと……」グスン

知世「気を落とさないで下さいな。あのときみんなで手伝っておかげで初めて知り合えてお互い交流も深まったことですし、再演時では緊張感なくスムーズに演技できた方もいらっしゃいますので」

さくら「深まった…かぁ//」

園美「あら?さくらちゃん顔が赤いわよ?」

さくら「別に…無いです…///」

園美「(いやまさか!!あの坊やに!?いやそんなハズは無い!深く考えちゃ駄目よ園美!別にボーイフレンドが出来たわけじゃ…いやボーイフレンドを作ること事態が悪く…
イヤイヤイヤあの坊やに さくら「そうそう、ここにひいおじいさんがいると、で、挨拶しようと来たんですけれど」

園美「へ?」
0020CC名無したん垢版2018/11/07(水) 17:15:03.40ID:2iTLuyJk0
           _,,;;-ー''''''''''ー-;:;,,_
        _.;-''"  "''´`´''"´ノiノi"''-、
      _,;;"/´           "''ミ;: ヽ    ここは、「庶民の王者」池田大作先生を称えるスレです。
     /;ミ"取りますノーベル平和賞 'iミ::"、
.    /::::ゝ.   ... .. .    ..      .i;; ::::'、  お約束
   ,;' :::::'l    ,, ... :   , :'' ..    i:::::::;;;;:l
   .l;;;;:::::ミ  ,,;=ニニニ彡  ミニニニニ=;、  ヽ::::::l    一、このスレを見つけたら、age なければならない
   .|;;:::r'"  __-‐─‐-、 = ,rー───;;、  i::::_i   一、先生をケナしたり暴行したら即刻死刑
   i;;;;i━r'"      i━ |       .|━ノ´i   一、このスレでの自慰・脱糞・放尿・放屁行為を一切禁ずる
   i ;; |   ,;'´●ヽ |  :l ,;´●`;、 .l ::lヽl   一、いうまでもなく陰部露出、強姦、変態痴漢行為、カマ掘り、口淫手淫等下品行為も禁止じゃ、ボケ!!
   l  :: .'、 ..´  ̄' ノ:  ゝ、 ̄____ノ  ::l l   一、このスレはお下劣ネタスレでも珍種スレでもない!!
   'i :::i ` ── '´ノ::   '';;、      ::ゝ:|   一、アトミックパンチとかクソAA貼るカスは即時銃殺刑に処す
    .i、 :;i ::  :'   '、;;、__,,.;;;.,ノ ::    .. ..:::: (  前スレ
     |:::i :::.. ,;    ; ;      ..:::: :' ::::::.ノ  【常時age】庶民の王者・最敬・池田大作先生スレ41
     l::::i ' ';; ヽ  ,ィ;ニニニニニ;;,  ::::''   :::::|   http://egg.2ch.net/test/read.cgi/koumei/1536220134/l50
     '、.ヽ:  :: ; ヽ、;;;;;;;;;;;;;;;;ノ    :::ノ::::/
   _,,,,_ヽ": \      ̄ ̄ ̄: ;   ./;;;;/ ̄゛'''''''''''''
,:-'''''::::::/::: '-、_ 、 ゝ: : : ..___,,, . ノ : ::/:::::::::::::::::::::::::::::
::::::::::::::::|::::::::::::::ヽ::::`'-: . . . .     :   / .l:::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::l:::::::::::::::::::::`'-;;、::::    : : : : /  ヽ:::::::_:::::::::::::::::
0021CC名無したん垢版2018/11/07(水) 17:17:08.27ID:2iTLuyJk0
            ↓ドトールコーヒー

      `ヽ::::`::.i_,. - ‐ ´::::::::::::::::::` ‐ 、_ 
        ゞ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
      /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
     /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
    /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::iヽ:::::::::::::::::::::::::i
   .!:::::::::::::::::::::::::::/\:::::::ヽ\::::::::::::::ヽ\:::::::::::∧::i
   |:::::::::::::::::::::::::/   ヽ_.>‐‐ - 、 ζ´ ~,`ヽ、丿.∨
.   |::::::::::::::::::::::イ    / ・   ノ, ..-ヽ _ _ ノ_ _
   |:::::::::::::::::::::::|   /_  _ , .イ ( _ _ ,イ          ``フ
   'i:::::::::::::::::::::::i          ハ             /
    y:::::::::::::::::::::i             ‖             /        _
   (  V   \| ──.     ||          /       _/´  ヽ
     ト       ──.       |.|       /        │  御題目あげると願いが叶うんだじぇ
      `丶 __     /.       | |     /             ̄ヽ   ノ
          \         | |    /               ` ̄
           \        U   \∩
             `丶 _           \つ
                `  ー───- イ

      カルト.   カルト.
   三┏( ∵)┛┏( ∵)┛        三┏( 'A`)┛
   三  ┛┓   ┛┓         三  ┛┓ 
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
0022CC名無したん垢版2018/11/07(水) 17:18:54.62ID:2iTLuyJk0
     / ̄ ̄ ̄\
   /ノ / ̄ ̄ ̄\
  /ノ / /        ヽ  ←くそカス丹下
  | /  | __ /| | |__  |
  | |   LL/ |__LハL |
  \L/ (・ヽ /・) V
  /(リ  ⌒  ●●⌒ ) <キンマンコ先生を、StaP細胞で、ニッケンとアサイより長生きさせますニダ
  | 0|     __   ノ  <ウリをS価校に入れて博士論文書かせてくださいニダ
  |   \   ヽ_ノ /ノ  <長寿ギネス記録を目指しますニダ・・・で、センセーって何処にいるニダ?  
  ノ   /\__ノ |
 ((  / | V Y V| V
  )ノ |  |___| |

    /::::/       \  ←仏罰、選挙権不明&行方不明
    |::::::ミ   元法華講  |
    ゙、:::|    ,_=≡ 、´ ,=≡|
   /:::ヽ-─-||..::+;;;| ̄|(;;;;.;|  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ::::<∂ u ヽ二/ ヽニ/| < ・・アイゴー、「財務」と「性狂」だけして、ウリのことはもう忘れて欲しいニダー!!
    ヽ_|     ハ− - ハヽ  \_______マハーロ、バカヤロー、キンマンコ!!
    |  ヽu ゝ _/\ノヽノ|            
    ヽ  ヽ  ィ'\しw/ノ.ノ
     \_ \___ i/
0023CC名無したん垢版2018/11/07(水) 17:22:03.59ID:2iTLuyJk0
     / ̄ ̄ ̄\
   /ノ / ̄ ̄ ̄\
  /ノ / /        ヽ  ←く創カス丹下桜
  | /  | __ /| | |__  |
  | |   LL/ |__LハL |
  \L/ (・ヽ /・) V
  /(リ  ⌒  ●●⌒ ) <キンマンコ先生を、萌え声で、井上喜久子より長生きさせますニダ
  | 0|     __   ノ  <ウリをS価校に入れて木之本桜ちゃんの声やらせてくださいニダ
  |   \   ヽ_ノ /ノ  <アイドル声優ギネス記録を目指しますニダ・・・で、センセーって何処にいるニダ?  
  ノ   /\__ノ |
 ((  / | V Y V| V
  )ノ |  |___| |

    /::::/       \  ←仏罰、選挙権不明&行方不明
    |::::::ミ   元法華講  |
    ゙、:::|    ,_=≡ 、´ ,=≡|
   /:::ヽ-─-||..::+;;;| ̄|(;;;;.;|  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ::::<∂ u ヽ二/ ヽニ/| < ・・アイゴー、「財務」と「性狂」だけして、ウリのことはもう忘れて欲しいニダー!!
    ヽ_|     ハ− - ハヽ  \_______マハーロ、バカヤロー、キンマンコ!!
    |  ヽu ゝ _/\ノヽノ|            
    ヽ  ヽ  ィ'\しw/ノ.ノ
     \_ \___ i/
0024STスレにもいた人垢版2018/11/09(金) 21:56:07.47ID:ykmbtusL0
クリアカード編の補完が途中ですが、
<月亮><星辰>の二本を投稿します

初めて書いたccsのssが<月亮>でした
なるべく同じ言葉を使いながら
「決意」「迷い」「過去」「未来」「訣別」「再会」
そういった対比を織り込んで出来上がったのが対となる<星辰>

さくらが小狼に思いを告げなかったらどうなっていただろうと思ったのがきっかけで生まれた作品です
個人的な考えですが、たとえあの時さくらが空港(orバス停)に駆けつけなかったとしても、二人はまたいつかどこかで出会った気がします
そしてその「鍵」はさくらが握っているような・・・

ttps://www.youtube.com/watch?v=5Ram_QlVgZI
<月亮>は2年ほど前に↑の曲を聴きながら書き上げた話なので、物語の起伏が曲の緩急となんとなくリンクしています。
少し尺が余りますが、BGMがわりにお聴きいただくと一興かもしれません。
0025<月亮>垢版2018/11/09(金) 21:56:34.61ID:ykmbtusL0
自室の窓辺に立って、小狼は香港の夜景を見下ろしていた。
ヴィクトリア・ピークにある李邸からは香港の夜景がよく見える。
彼の部屋も例外ではなく、眼下には満月に照らされた百万ドルの夜景が広がっている。
初めて魔力で火を起こすことができた日、父上が亡くなった日、クロウカードを集めるため日本へ行くと決まった日・・・。
そんな人生の節目節目に、彼はいつも自室の窓辺に立って香港の夜を眺めたものだった。
今や部屋はすっかり整理されて、小さなテーブルの上に一冊のアルバムが置かれているだけである。

小狼はちらとアルバムに目をやった。
それは、小狼が13になる年の春に日本の友人から送られて来たものだった。

「李君へ

先日私共も小学校を卒業いたしました
記念にと思いお送りいたします
どうぞお受け取りください

         大道寺知世」

添えられたカードの主は、聡い人だった。彼女は気がついていたのだろう。香港へ戻った自分が、二度と日本を訪れることがないということに。
香港に帰ってきてからの日々は以前とは比べものにならない程忙しかった。煩雑な毎日に追われて、日本でのことは遠い記憶の彼方に霞んでいく。
それを惜しいとも悲しいとも思う余裕もなかった。あれは、儚い幻のようなもの。下手な感傷に浸って今の生活に支障をきたすよりはずっといいとさえ思った。
小狼の前には、いつも李家の当主となるべき道が布されていた。それは、「何か」に定められたものではあるが、自分が望んだものでもあった。だから、辛くはなかった。
ただ、少しだけ、ほんの少しだけ、これとは違う道を夢見たことがなかったとはいえない。
李家のものではない「小狼」。当主としての責を負わない「小狼」。ただ一人の「少年」としての「小狼」であったならば、この生をどのように生きてみただろう。
日本へ渡ると決まった時、これまで感じたことのない胸の高鳴りを感じた。当時は、重要な任務を任されたという緊張や、己の力を試す機会を得たという喜びからくるものだと思った。
しかし今思えば、この訪日が、運命が与えた人生の「遊び」のようなもので、大きな潮流の中に絡め取られた人生にいっときだけ許されたモラトリアムであるということを予感していたからかもしれない。
0026<月亮>垢版2018/11/09(金) 21:57:01.95ID:ykmbtusL0
こんな月の夜にはクロウカードや不思議な出来事を追って夜の街を駆け抜けたことが思い出される。
今の小狼にはもう手が届かないけれど、あのときだけは、あの日々だけは確かに何人(なんぴと)にも縛られない「ただの」小狼として生きていた。


一度だけ、アルバムをめくったことがある。そこにある顔はどれも少しだけ記憶より大人びていて、自分が去った後も時は着実に流れたのだ、と思わされた。
己の記憶を確かめるように写真をなぞっていくうち、アルバムは最後のクラスの集合写真のページになった。
不意に、自分の名前を呼ぶ鈴のような声が蘇った。


『小狼君!』


他のクラスメイトに混じって、在りし日の記憶のままの「彼女」が笑っていた。
少し泣き虫で。
でもやると決めたら一生懸命で。
いつも一緒に山崎の嘘に騙されていた。
「彼女」に出会って初めて人を好きになるということを知った。心に広がる甘いような苦いような、切ない想いを何度噛み締めたことだろう。
返事も聞かずに帰って来てしまったけれど、追い立てられるような香港での生活の中でも、この「想い」が曇ることはただの一度もなかった。
「彼女」と同じ写真に写るまだ幼さの残る自分の姿を見て泣きたいような笑いたいような気持ちになった。
何者にも縛られないただの「小狼」として生きられたことは、なんと幸せだったことか。
たとえこれからの人生が「彼女」のものと交差することがないとしても、一人の「少年」として生き、自分が思うがままに「彼女」を愛することができたのだから。
彼女はもう、自分のことを忘れてしまっただろうか。
彼女が忘れてしまっていても、俺は忘れない。それでいい。それで、十分だ。
0027<月亮>垢版2018/11/09(金) 21:57:22.22ID:ykmbtusL0
「李小狼」として生きるためには、切り捨てなければならないものがあった。乗り越えなければならないものもあった。
李家の次期当主として認められた今もなお、多くのものを切り捨て踏み越えてゆく途中にある。
明日からは、次期当主として本格的な活動に入る。それに伴って、よりふさわしい部屋へ移ることになっていた。子供時代を過ごしたこの部屋とも今夜でお別れだ。
思ったより、幸せな日々だったと思う。
この世で最も尊い「想い」はもう見つけた。そして、その「想い」を宿した思い出は胸の中(ここ)に在る。
だから、何があっても生きてゆける。


「さくら―――」
小狼は春に咲く花の名前をそっと口にした。
そして、何千何万回と繰り返した言葉を万感の思いを込めて唱えた。

「―――火神招来ッ」

ゴォッ、とひとかたならない炎が上がり、テーブルの上のアルバムが火に包まれた。
鳶色の髪が揺れる。
狼の瞳でまっすぐ前を見つめた。
かつての少年は歩き始める。己の選んだ道を生きるために。

その先には、何が待っているのだろう。
0028<星辰>垢版2018/11/09(金) 21:58:12.27ID:ykmbtusL0
今日は友枝小学校の同窓会だ。
懐かしい顔ぶれが一堂に会するということで、さくらはワクワクしながら会場へやって来た。
いつもより少しだけおしゃれに気を遣って、でも心は小学生の頃に戻って。みんな元気かな、どんな風になっているだろう。
きっと、とても素敵になっているんだろうね。そんな話をしながら、知世と二人連れ立ってふと見上げた空には、大きな満月がかかっていた。

「千春ちゃん、奈緒子ちゃん、利佳ちゃん!」
人混みの中に、昔の面影を残した友人たちの姿があった。さくらの声に旧友の弾けんばかりの笑顔が向けられる。
「さくらちゃん!元気にしてた?」
「うん、この通り元気だよ。みんなも元気にしてた?」
「元気元気。二人は相変わらず仲良しだね〜」
「ふふ、ありがとう」
「利佳ちゃんはまた一段とお綺麗になりましたわね」
「そ、そんなことないよ。知世ちゃんもお元気そうね」
「はい。おかげさまで」
「同窓会っていうのはね〜!」
「山崎くん!」
変わったようで何も変わらない、そんな友の様子になんともいえない嬉しさが込み上げて、一同の顔に笑顔の花が咲いた。

少し大人になるということは、子供の頃とは比べものにならない程忙しい日々を過ごすということでもあった。
煩雑な毎日に追われて、カードキャプターとして奮闘していたことは遠い記憶の彼方に霞んでいく。
魔法を駆使する機会がなくても、それを惜しいとも悲しいとも思わなかった。ケロちゃんはそばにいてくれるし、ユエさんも雪兎さんとして元気にしている。
カードさんたちとはいつでもお話できるし、魔法が使えなくても友枝町にまた事件が起こるよりはずっといい。
ただ、少しだけ、ほんの少しだけ、これでいいのかと自問することがあった。
カードキャプターとして責務を全うしようと格闘した「さくら」。不思議な出来事からこの街や友達を守ろうとした「さくら」。
自分が秘めている力を信じてひた走った「さくら」は、今の自分よりも「さくら」らしかったのではないか。
社会の常識や大人の分別を身につけて、世の中にうまくなじんできたけれど、それが本当に自分が望んだ生き方だったのかがわからない。
クロウさんは魔力のことなど気にせず自分らしく生きればいいといってくれたけれど、果たして今の生き方がそうなのだろうか。
0029<星辰>垢版2018/11/09(金) 22:01:35.11ID:ykmbtusL0
さくらは窓の外に目をやった。
こんな月の夜にはクロウカードや不思議な出来事を追って夜の街を駆け抜けたことが思い出される。
今のさくらが手を伸ばすことはもうないけれど、あのときは、あの日々は確かに自分が思うままの「さくら」として生きていた。

何年かぶりの再会に話が弾む。卒業してからの進路のこと。旧友の消息・・・。話したいことは後から後から湧いてくる。
尽きない話題に少し話し疲れた頃、千春がぽん、と手を打った。
「そうそう、私、今日卒業アルバム持ってきたの!」
「え、見たーい!」
「私も!」
ガサゴソとカバンの中から重厚な表紙のアルバムを取り出すと、千春はそれを見やすいようにテーブルの上に置いた。
広げられたアルバムを覗き込む。まだあどけない自分達の姿がそこにあった。
さくらは隣の知世に囁きかけた。
「みんなまだ小さいね」
「そうですわね」
「こんな風に写真に残ってるって、なんか嬉しいかも」
「ええ。ただ、私の作ったお洋服を着たさくらちゃんが写っていないのだけが残念ですわ」
「知世ちゃん・・・」
相変わらずの知世に脱力しながらも、さくらはめくられていくアルバムを熱心に見つめた。
運動会、学芸会、体験学習・・・。思い出の一コマが鮮明に記録されていて、忘れかけていた記憶さえ蘇って来る。
遠い昔のことなのに、まるでつい最近のことのように感じられるのだから不思議なものだ。
己の記憶を確かめるように写真をなぞっていくうち、アルバムは最後のクラスの集合写真のページになった。
「あ」
千春が声をあげた。
「李くんだ」
一枚の写真にみんなの視線が注がれる。そこには、他のクラスメイトに混じって、ひときわ意志の強そうな瞳の少年が写っていた。
「ほんとだ。集合写真、写ってたんだね」
奈緒子がそう言うのも無理はない。香港から来たという彼は、わずか一年ほどを友枝で過ごし、ある日突然故郷へ帰ってしまったのだ。
十分な別れもないまま、その消息は途絶えてしまった。
0030<星辰>垢版2018/11/09(金) 22:02:32.81ID:ykmbtusL0
「私、李くんのこと、少し苦手だったな。いつも怖い顔してたし」
利佳が少し困ったような笑みを浮かべて言った。
「でも、本当はとてもお優しい方でしたのよ」
慈しむような、優しさに満ちた表情で知世が言う。
「僕の噓にもよく付き合ってくれたしね」
山崎の声には、少し寂しさがにじんでいた。
「うん・・・」
知世がそっとさくらの方を窺い見る。伏し目がちに答えたさくらは、遠い日の出来事に思いを馳せていた。


『俺・・・、お前のことが好きだ』


突然の告白だった。
クロウカードを争って、同じ人に想いを寄せて。不思議な出来事が起こった時はいつも助けてくれた。それがどれだけ支えになっていただろう。
初めて自分への好意を打ち明けてくれた人だったのに、何も返せないまま、彼は帰ってしまった。
あれから何人もの人に好意を向けられたけれど、あんなも鮮烈であたたかな想いを向けられたのは後にも先にもただ一人だけだった。
「彼」と同じ写真に写るまだ幼さの残る自分の姿を見て泣きたいような笑いたいような気持ちになった。
何者にも縛られないただの「さくら」として生きられたことは、なんと幸せだったことか。
たとえこれからの人生が「彼」のものと交差することがないとしても、自分が思うままの「少女」として生き、世界にただ一人の「少年」に愛してもらうことができたのだから。
彼はもう、自分のことを忘れてしまっただろうか。
あなたが忘れてしまっていても、私は覚えているよ。それで十分。それで、いいよね・・・?
0031<星辰>垢版2018/11/09(金) 22:02:50.12ID:ykmbtusL0
「木之本桜」として生きるために、幾多の選択を繰り返してきた。選んだものがあり、同時に、選びとらなかったものもある。
「カードキャプター」ととして生きる必要がなくなった今だからこそ、己が進むべき道は自ら見つけ出さなければならない。
この先に何があるかはわからない。自分の選択に後悔することもあるかもしれない。しかし、今のさくらには確信があった。
思っているより、幸せな日々が待っている、と。
この世で最も尊い「想い」はもうこの手にあった。そして、その「想い」を宿した思い出は胸の中(ここ)に在る。
だから、何があっても生きてゆける。


異国から来た少年。鳶色の髪と狼の瞳を持った人。
今、あなたの名前を呼ばなければまた後悔するかな。

「―――小狼くん」

さくらの唇からこぼれ落ちた名前を聞いて知世が微笑んだ。
胸元の鍵が揺れる。
翡翠色の瞳はまっすぐ前を見つめた。
かつての少女は歩き始める。己が選ぶ道を生きるために。

その先には、何が待っているのだろう。
0032CC名無したん垢版2018/11/10(土) 18:10:11.14ID:xIW8HKuV0
>>24-31
gjです、何気に利佳ちゃんが李くん苦手って
言ってるのが良いですね。
ソードを封印したとき一瞬本気で剣を向けられた間柄ですし。

しかし小狼なにも燃やさなくても、、、福本漫画の黒社会にでもデビューすんのかw
0034CC名無したん垢版2018/12/05(水) 23:41:27.72ID:MQoPow7m0
保守
0037さくらと!小狼のセックスコスチューム大☆作☆戦垢版2019/01/14(月) 07:16:37.53ID:2bI7ud+k0
小狼 さくらっ!///かわいいぞ!もう来る! なか…に射出すぞ!///

ドプドピュリュリュリュドップゥ〜

小狼 っ…///ッっ…///ハァ///フゥ☆きもちよかった…ぞ///…さくら…///

さくら うへぇぇ…小狼くん出しすぎだよぉ〜…

一カ月くらい前から小狼君は積極的だ。まるで獣化したセックスマシーンだ。
そもそもの発端は小狼君とのセックスのマンネリ化にある。
最初は確かに二人共恥ずかしがりながらそれはとても燃え上がったものだが、お互いの体を徐々に知り合っていくうちに物足りなさに気づくのだ。
それを見かねた知世ちゃんが

知世 私にいい考えがありますわ!!!!!このセックスコスチュームを着ていただけば精力!淫力爆発の毎晩性夜のholynight!!!ですわ!
私はいつものように隠れて撮影しますから

と言って、わたしと小狼君にやけに際どい衣装の一カ月分をダンボールに詰めてプレゼントした。

さくら これ不要在庫の押し付けなんじゃ…

つづく
0038CC名無したん垢版2019/01/14(月) 07:17:03.02ID:2bI7ud+k0
つづき

小狼 さくら///中々似合ってる///
さくら えーと背中に貼り付けてある紙には…

紙 この衣装はさくらちゃんがお選びになったんでしょうか?大胆ですわー!これは魔法騎士をイメージした衣装ですわ

さくら ハイレグ…すごく食い込んでる…//
ピチピチパッツーン
小狼 さくら…//その…//股布の所に思いっきりおれの…//チンチン…こすりつけていいか?
さくら え!ちょっ…///ほええぇぇぇぇ!!///
ヌッチャヌッチャヌッチャ
小狼 この素材…//気持ちいい…///あっ…
ドププ

それからというもの二人は絶えることなく燃え上がった。なおこの話について執事と赤ちゃんプレイ中の詩之本秋穂氏はー。

秋穂 あぶあぶ

と言った。

おわり
0040無能物書き垢版2019/01/16(水) 23:03:10.73ID:Y59/rKbP0
 オレンジ色の世界−

 幾人もの人が私を見てる、笑ってる。
まるで影絵のような、人の形をした黒いシルエット。
目も、鼻も見えないけど、口元だけが三日月のように笑ってる。
数え切れない程の影が、私に笑顔を向けている。周囲を埋め尽くすほどの人数で、
群れを成すほどの大勢の人影が、私に向かって笑顔を向ける。

 その、地平の遥か向こうに、一本の線が伸びている、下から上に。
あれは、木?ううん、柱・・・だ。根元で大勢の人の影がその柱を垂直に押さえてる。
笑顔をこちらに向けたまま。

 柱の一番上、はるか高い所に、横に一本の短い線がある。柱の先の先、
そこだけがまるで、縦横の線が交わって、十字架みたいになってる・・・。

 目を凝らしてみる。そう、美術の授業で見た絵には、あそこに人が縛られていた。
目を凝らして見る。いた、絵と同じ縛られ方で、絵とは違う感じの人が、そこにいる。

 男の子、知ってる子。影のある表情、華奢だけど体幹の通ってる、物事にまっすぐな・・・

 −私の 大好きな人−
0041無能物書き垢版2019/01/16(水) 23:03:59.11ID:Y59/rKbP0
「さくらぁっ!起きんかーーーいっ!!」
「はっ!」
耳元の大声に、がばぁっ!と布団から跳ね起きる。
いきなり変わった世界に思考が追い付かず、きょろきょろと周囲を見渡す。
ここは・・・私の部屋?ベッドの上・・・。

「ほ。ほえぇぇぇっ!!ケロちゃん、いま何時?」
「目覚ましはとっくに鳴り疲れて愛想つかしとるわーいっ!完っ璧に遅刻やでぇっ!」
「ええええーっ!」
目覚ましをひっつかんで時計を凝視する、その時計が表示しているのは信じたくない時間だった。
さーっ、と目の前が暗くなるさくら。
父は発掘旅行で留守、兄は大学の研修で泊まり、さくら一人の朝ゆえの大失態。
中学生活序盤から3ヵ年皆勤賞の消滅が確定しそうだった。

 ふとんから跳ね起き、バジャマを速攻脱いで制服を乱暴に羽織る、朝食の時間なんてない。
いってきます、とケロに告げると、半泣き顔で階段を駆け降り、そのまま玄関に飛び出す。
走り出してすぐに急ブレーキ、玄関にUターンして下駄箱の上にあるカギを取り、外に出て施錠する、
今度こそ全力疾走で学校に突撃するさくら、それを窓から見下ろし、ケロが嘆く。
「ホンマ、中学生になっても変わらんなぁ、さくらは。」
手を水平に広げ、ヤレヤレと首を振る。
0042無能物書き垢版2019/01/16(水) 23:04:50.82ID:Y59/rKbP0
「お、おはよう・・・」
青息吐息で教室に駆け込み、机に手を付き挨拶をする。
「さくらちゃん、おはようございます。」
「もう早くは無いけどね〜」
知世のあいさつに続き、友人の千春が現実を告げる。
「でも、幸運でしたわね、さくらさん。」
「ほえ?」
秋穂の言葉の意味が分からず、顔を上げる。教室の黒板に書かれた大きな文字。

『自習』

「ほ、ほぇ〜、助かったよぉ〜」
校門をくぐった時点で始業のチャイムは鳴っていた、教室に先生がいないことに違和感はあったが
そういうコトだったのか、なんとか皆勤賞の可能性は繋いだようだ。
 着席し、とりあえず2時間目の予習を始める。ホントに良かった、と思う。
2つの意味で。

 遅刻が確定しそうになった時、さくらの脳裏に「魔法を使って間に合わせる」という考えが
確かに頭をちらついた。フライト(飛翔)とルシッド(透過)を使えば、誰にも見られる事無く
ひとっとびで学校に着けただろう。
でも、とさくらは思う。魔法は確かに便利だけど、だからといって自分の都合で
使っていい物ではないとも思っていた。寝坊したのは自分の責任、それを魔法で帳消しにするのは
ズルをしているような気がしたのだ。

 特に、さくらの好きなあの人なら、きっとそう思うだろうから。

あれ?そういえば今朝、彼の、小狼君の夢を見たような気が・・・


カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

プロローグ、終わりの始まりの夢
0044無能物書き垢版2019/01/20(日) 20:50:45.12ID:PPE7dSh40
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第1話 さくらとチアとマーチング

「さてみなさん、中間テストも終わり、いよいよ夏本番!
 私たちチアリーディング部の活動もこれからが本番です。気合を入れてね!」
「「はいっ!」」
放課後のクラブ活動、運動場の一室にて先生の激を受けているのは、さくらの所属する
チアリーディング部。
夏に向けて、各運動部の大会が盛んになるこの時期、応援団としてのチア部も
応援活動本番の季節である。
 しかし、この友枝中のチア部にとっては、もうひとつの大きなイベントが控えている。
いわゆる「応援」ではなく「主役」としての活躍の場所が。

「8月の『なでしこ祭』、ウチの部は最終日の夜の最終公演が決定しました!」
その先生の発表に、チア部全員から黄色い歓声が上がる。
「うっそー、ファイナルステージで?」
「どうしよう、今から緊張してきたー」

 友枝中チア部はこの辺りではかなり有名だ。そもそもチア部がある中学はこの辺りでは多くなく
そんな中での華やかな演技は毎年『なでしこ祭』を盛り上げている。
昨年のトリこそ友枝小の演劇に譲りはしたが、実質な内容では演目での最高評価を受けていた、
最後の演劇が地震による中止という原因もあったにせよ。

 一息置いて、皆が落ち着いてからさらに付け加える先生。
「で、実は今年に関してはもうひとつ、なでしこ祭にてチア部の出番があります。」
意外な先生の言葉に部員全員が耳を傾ける。なにかの手伝いか、ボランティアの類か・・・
「じゃあ、米田先生からどうぞ。」
いつのまにか顧問の傍らにいたのは、音楽教師であり吹奏楽部の顧問である米田先生、
恰幅のいいオバサン体形に、にこやかな表情とベートーベンのようなパーマヘアの女性。
丸メガネをくいっ、と上げると、前に出て話す。
0045無能物書き垢版2019/01/20(日) 20:51:49.99ID:PPE7dSh40
「えー、一年生の皆さんには、吹奏楽部が出るマーチングのお手伝いをしてもらいます、
 よろしくね。」
「「ええっ!?」」
いきなりの言葉に驚きを隠せないチア部一年生。というか私たちが?と顔を見合わせる。

「チアのステージがファイナルなら、マーチングはオープニングセレモニーよ、
でもウチの部はそんなに人数いないから、ガードやドラムメジャーに割ける人がいないのよ・・・
それを先生に相談したら、今年のチアの一年は粒ぞろいって言うじゃない?
それでぜひ皆さんに踊りをお願いしたくてねぇ。」

 皆の注目が特定の二人に集まる。今年の一年生の注目株、木ノ本さくらと三原千春。
小学校からチア部だった二人の実力は折り紙付きで、周りの一年生のよき手本になっていた。
視線を感じてか、千春に話しかけるさくら。
「ね、ねぇ千春ちゃん、マーチングって、何?」

 周囲が一斉にずっこける。チアをやっててマーチングを知らないとは珍しい。
「鼓笛隊の行進みたいなアレよ、去年のなでしこ祭でもやってたでしょ?」
「え・・・そうなんですか?」
あきれる周囲に千春がフォローを入れる。
「さくらちゃんは去年、劇の主役だったものねぇ、なでしこ祭楽しむ余裕も無かったでしょ。」
「ええーっ!あのお姫様って木ノ本さんだったの?」
「ウッソー、すごぉい。緊張しないのって羨ましい!」
「そ、そんなこと無いよ、緊張したよ、すっごく。」
 米田先生がぱんぱんと手をたたき、皆を黙らせる。
「というわけだから、今日からチア部一年は吹奏楽部と合同練習よ、頼むわね。」
0046無能物書き垢版2019/01/20(日) 20:52:29.33ID:PPE7dSh40
「へぇ、さくらさん達はマーチングに出るんですか、それは楽しみですね。」
夕食時、父の藤隆がにこやかに話す。
「うん、先頭でバトンを振るドラムメジャーか、真ん中で旗を振るカラーガードのどっちかで。
来週にはドラムメジャーのオーディションがあるの、それに合格したらその人がドラムメジャーで
他の人は全員カラーなんだって。
「それは頑張らないといけませんねぇ。」
にこやかに答える父とは対照的に、兄、桃矢は皮肉いっぱいに返す。
「そりゃ大変だな、万が一さくらがドラムメジャーやったら、公衆の面前でまた
バトンを頭にぶつける羽目になるなぁ・・・」
「お兄ちゃん!」
「あ、でも旗振りで周囲の見物人をなぎ倒すと、さらに厄介かなぁ」
「もーっ!本っ当に意地悪ばっかり!」
そんな兄妹のやりとりを見ながら、ふと藤隆が思い出す。
「そういえば、去年のなでしこ祭りのマーチング、確か・・・」
遠い目をして続きを語る。数秒後、木ノ本家にさくらのほぇぇ絶叫が響き渡るコトになる・・・
0047CC名無したん垢版2019/01/20(日) 22:34:27.77ID:iMcFQwWw0
みんな見てるよ
0049無能物書き垢版2019/01/24(木) 01:34:47.73ID:K9pJh2Ip0
>>47-48
どもです、お金を取るほどのものは書けませんがw

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第2話 さくらと不思議なメトロノーム

 昼休み、いつものメンツのお弁当の最中、柳沢奈緒子は一枚のプリントを
眺めながら、しみじみと呟く。
「九州の仙空中学に四国の黒花小学校、関西のKUGハイスクール、北関東の社会人チームの
香芝に東北の仙台錦付属中・・・今年も全国の有名どころがうじゃうじゃだねぇ。」
「「はぁ〜」」
同時にため息をつくさくらと千春、奈緒子が見ているのは今年の『なでしこ祭』の
開幕マーチングパレード、その参加チームの一覧だ。

「そんなにすごいチームが来るのか?なでしこ祭に、わざわざ全国から。」
小狼の質問に知世が答える。
「ええ、ああいう『演奏系』のクラブは、発表の場をいつも探してますから、
 わたくしも小学校の合唱部時代から、結構あちこちに遠征してましたのよ。」
はー、という表情で秋穂が続ける。
「そんなチームのトップを切って、友枝中が演奏するんですか、大変ですねぇ。」

 2年前から始まったなでしこ祭のマーチング、初年度は地元の学校だけで
つつましく行われてきたが、噂を聞き付けた2年目、つまり去年から全国の有名チームが
多数参加する目玉イベントになってしまった。
おかげで昨年、友枝中吹奏楽部はそのレベルの差をまざまざと思い知らされる結果に
なってしまった。そこで今回、吹奏楽部は演奏に集中し、チア部に踊りを担当してもらうことで
少しでもレベルアップを果たそうと、今回の依頼となったのである。
 となれば、当然チア1年生、中でも先頭を進むドラムメジャー候補のさくらと千春が
相当なプレッシャーを感じるのもやむなき事態であろう。
0050無能物書き垢版2019/01/24(木) 01:36:43.33ID:K9pJh2Ip0
「私としては好都合ですわ。今回コーラス部はチア部のひとつ前の出番ですから、
さくらちゃんがチア部で出場なら、その雄姿を撮影するは難しいですもの。
初日なら日程もかぶりませんから、思う存分さくらちゃんの雄姿を撮影できますわ♪」
「あはは・・・ぶれないね知世ちゃんは。」
冷や汗を流しながら答えるさくら。
「さくらちゃんが先頭を切ってバトンを振り颯爽と行進・・・想像しただけでドキドキですわ〜」

「はーい、それじゃ今日はここまで。各自本番のリズムをしっかりつかんでおいてね。」
今日の吹奏楽部との合同練習がようやく終わる、チア一年生の7人はそれぞれが『チューナー』
というメトロノーム機能を備えた電子機器を渡される。
とにかく暇さえあれば本番の演奏のリズムを体に染み込ませろ、ということだ。
ドラムメジャーは普通の演奏であればコンダクター(指揮者)の役割も果たす。
もしドラムメジャーがリズムを崩せば演奏全体がなだれをうって崩れる羽目になる、責任は重大だ。

「今のところは木ノ本さんと三原さんが一歩リードだけど、他のみんなも諦めずに
ガンガン追い込んでね、少しでもいいマーチングにしたいから。」
笑顔でプレッシャーをかける米田先生、元オペラ歌手だった彼女の声は優しくも魂に響く、
今や一年生全員がさくらたちと同じ光景とプレッシャーを感じていた。
「「はいっ!!」」
全員が元気な返事を返す。米田先生はよろしい、では解散と告げてその日は終了となった。
0051無能物書き垢版2019/01/24(木) 01:38:43.88ID:K9pJh2Ip0
「はいあかん、ズレとるで〜」
チューナーを凝視していたケルベロスがさくらの動きにまったをかける。
「はう〜、難しいよぉ」
「1曲は5分くらいやろ、最初の1分でもう1拍子早くなっとるで。」
体内時計を演奏曲に合わせるための自主練、物事に積極的な性格のさくらは
どうしても自然にハイペースになってしまうようだ。
「どうする、もっかいいっとくか?」
「う、うん、頑張る!」
「ほないくでー、3・2・1・ハイ!」
「(いっちにぃさんしっ!いっちにぃさんしっ!!)」
心で数を数えながらリズムにあわせて腕を振るさくら。

ピッ・ピッ・ピッ・ピピピピピピッ・・
カッ・コッ・カッ・・・コッ・・・カッコッ・・・
チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク
そ〜れぇデワアスノおてん〜キデス・・・

「ほぇ?」
「おいいっ!いきなり乱れとるやないかーいっ!」
「じゃなくて、何このリズム・・・?」
「ああ?な、なんやこれぇっ!?」
部屋中から不規則に音がする、リズムを刻む。時計から、テレビから、スマホから
借りてきたチューナーからさえ不規則な音が乱れ飛ぶ。
「ケロちゃん、これ・・・」
「またなんかの気配を感じるんか?」
「うん!封印解除(レリーズ)!」
胸の鍵を杖に変え、構える。さくらにしか感じない魔力を、気配を頼りに探す。
「そこっ!主無きものよ、夢の杖のもと我の力となれ、固着(セキュア)!」
アタリを付けたのはいつもの目覚まし時計、それに夢の杖を打ち下ろす。
と、その時計の脇に一つの台形が現れる、中央には左右に触れる針。
0052無能物書き垢版2019/01/24(木) 01:39:42.65ID:K9pJh2Ip0
「メトロノーム?それに・・・封印出来ない、どうして?」
「動きを止めんとアカン・・・わけでもなさそうやなぁ、動いてへんし。」
確かに、そのメトロノームは静止し、規則正しく針を動かしている。ただし音はしていない。
代わりに部屋中には先ほどからの不規則なメロディが躍っているが。
「あーもう、なんやコレ!気が変になりそうや!」

「待って!これって・・・」
さくらには既視感があった。普通の方法で封印が出来ないカード、過去にもあった。
例えば名前を当てる、力比べに勝つ、格闘技で勝利する。相手の得意な分野で勝つことにより
自分に従うカード達。そしてこのカードの得意なことは・・・
そのメトロノームは一定のリズムで左右に揺れる、そしてそのリズムはさくらの
良く知っているリズムだった。
「そうだ、これは、さっきまで私が練習していたマーチングの曲のリズム。」
周囲の音があまりにも不規則に響き渡るため気付きにくいが、そのテンポは確かに
さくらが練習していた曲のテンポだった。

 夢の杖を胸に当て、バトンの動きでメトロノームに合わせて杖を振る。
周囲の雑音に惑わされないように、メトロノームの針に動きを合わせる。
いっちにっさんしっ、いっちにっさんしっ、いっちにっさんしっ・・・
0053無能物書き垢版2019/01/24(木) 01:45:10.67ID:K9pJh2Ip0
 さくらの動きが完全にメトロノームとシンクロする。もう乱れない、完全な一体感がある。
と、その時、メトロノームが輝き、光の粒子となってさくらの杖に吸い込まれていく。
そして1枚のカードとなって、さくらの目前にはらり、と落ちる。それを手にするさくら。
「律動(Rhythm『リズム』)・・・」
「なんや、周囲の音ものうなっとるで。そのカードの仕業だったんやなぁ。
「うん、どうもそうみたい。」
自分のカードのホルスターを取り、そのカードを仕舞うさくら。

「なんや、使わんのかさくら。それ使えば練習になるやろ。」
「うん、それはダメだよ、みんな魔法なしで練習してるんだから。」
さくらは先ほどの『律動』とのシンクロに少し怖さを覚えた。自分でも不思議なくらい
リズムに乗れたその動きは、練習の成果とはまた違う不自然さを感じた。
「それもそうやなぁ、魔法をそういうコトに使うのはたしかによーないわ。」
二人は偶然、同じカードのことを思い出していた。クロウ・カードだった頃のダッシュ(駆)。
魔法の使用は時として不公平を生む、それで不利益を被る人間がいるならそれを使うべきではない
そんなことを学ばせてくれたカードの事を。

「まぁ誰かさんは、ケーキが少ないとか言って魔法で小さくなってたけどね〜」
少しイジワルな表情でケロを見るさくら。ケロがぎくっ、と硬直する。
「ま、まぁ人生いろいろやでぇ〜。さ、寝よ寝よ。」
ごまかして布団に入るケロに続いてさくらも布団に入る。
まどろみの中でさくらは、ひとつの事を考えていた。

『魔法って、どの程度までなら使っていいんだろう・・・』
やがて眠りに落ちるさくら。そして夢の中、ひとつの言葉が頭に響く。


 −お前はもう、戻れない−
0054CC名無したん垢版2019/01/24(木) 06:23:39.57ID:ECZJShe80
たしかいつかさくらもフライトで空を散歩したいなんて言ってなかったっけ?
0055CC名無したん垢版2019/01/24(木) 17:45:54.56ID:L7a4Q3GH0
>>37
>>38
セックスコスチュームとはなんぞやwwwww
0056無能物書き垢版2019/01/27(日) 19:33:01.67ID:GC0rj20L0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第3話 さくらと千春とオーディション

「ふぅ・・・」
借り住まいのマンションの一室、明かりが消された部屋でひとつ息をつく少年、李小狼。
扉は閉ざされ、カーテンも閉められ、その部屋に明かりは無い。
ただ、足元の魔法陣だけが青く輝き、少年の顔を下から照らしている。 
 そしてその周囲には、無数の精霊が漂っている。あるものは成人女性の姿、あるものは少女の姿、
あるいは小動物、剣や天秤などの道具など、多種多様な精霊たちが、小狼の周りに浮かび
彼から発せられる魔力を吸い込み、そして消えていく。

 さくらカード。小狼がさくらから奪ったカードの精霊、あの日から小狼には義務ができた。
この精霊たちが存在し続けるための魔力を供給し続けるという義務が。
そのため彼の放課後は、彼自身の魔力を高めるための儀式と精神集中に費やさなければならない、
今の彼に、普通の中学生の放課後は望むべくも無かった。

 高位の精霊、ライト(光)とダーク(闇)が、おつかれさま、と小狼を労い、そして消える。
最後に残った一体、ホープ(希望)が小狼に寄りかかり、額を小狼の胸に当てて感謝を示し、
すっと後ろに飛ぶ。タンスの上に置かれたくまのぬいぐるみに向かい、吸い込まれるようにその姿を消す。
消える魔法陣、小狼は部屋の電気をつけると、ようやく日常的なマンションの部屋がそこに戻った。

「お腹、空いたな・・・」
魔力のオーバーワークは肉体に過度の負担を強いる、かつての雪兎=ユエがそうであったように、
人として魔力の回復を図るなら、まず肉体を万全のコンディションにする必要がある。
よく食べ、よく眠る。今、彼にできることはそのくらいしかなかった。
以前は自炊が当たり前ではあったが、今はもう料理をするのもおっくうだ。余裕のある日は
まだ出来るが、今日はどうももう限界のようだ。
今夜はコンビニの食事でいだろう、汗を拭き、服を着替えて外に出る。
0057無能物書き垢版2019/01/27(日) 19:33:32.00ID:GC0rj20L0
 帰り道、すっかり暗くなった夜道を歩く。と、彼の耳に聞きなれた声が漂ってくる、
知ってる声、いつも聞いてる男子の声が、少し離れた公園から聞こえてくる。これは・・・

「イチ・ニ・サン・シ、イチ・ニ・サン・シ、イチ・ニ・サン・シッ!」
公園にはふたつの人影があった。ひとりは声の主、クラスメイトの山崎貴史、
その声に合わせて踊っているのは、彼の幼馴染でさくらの友人の三原千春。
そういやマーチングのオーディションが近いはずだ、二人ともそれぞれのクラブの後
こんなところで練習してたのか、と感心する。こりゃさくらも大変だな、と。
 いつまでも覗き見るのはよくない、心の中でがんばれよ、とエールを送って去ろうとしたその時、
千春の言葉が小狼の足を止める。

−うん、今回は・・・負けたくないから、『さくらちゃん』に−

「それにしても、ずいぶん頑張るねぇ、今回は。」
天真爛漫な表情でタオルを渡す山崎に、千春は少しためらいながらこう返した。
「うん、今回は・・・負けたくないから、『さくらちゃん』に。」
え?という表情で固まる山崎。どちらかと言うと競争意識はあまりない性格だと思っていただけに。
そんな山崎を見つめて、千春はこう続ける。

「だって・・・そうでしょ?5年生の時の劇はさくらちゃんと小狼君が主役だった、それはいいわ。
でも6年の時、本当は山崎君が王子様のはずだったのに・・・直前でケガしちゃって、
また李君に主役を取られちゃったじゃない!」
しばし沈黙の後、千春は続ける。
「私・・・楽しみにしてた。山崎君の王子様、本当だよ!」
自分がお姫様役ならなお良かった、という贅沢は心に押し込める。
「だから、その分も私が頑張るの。今年は私が主役になって、マーチングの先頭を切って踊るわ、
去年の山崎君の分まで!」
0058無能物書き垢版2019/01/27(日) 19:34:16.48ID:GC0rj20L0
 その後の二人の会話は聞いていない。多分山崎がおちゃらけた言動で千春を和ませ、
軽いツッコミの後、練習を再開したんだろう。だが、小狼にとってそんなことはどうでも良かった。
マンションまで逃げるように走り帰ると、部屋に入って弁当を放り出し、ベッドに突っ伏す。
胃の中に鉛を流し込まれたような自己嫌悪、不快感、焦燥感、そんな感情に押しつぶされて
食欲は完全に失せてしまっていた。

 去年のなでしこ祭の練習期間、さくらはナッシング(無)のカードの災いに巻き込まれた。
その災いは学校にまで及び、対処のため周囲にいた生徒たちをスリープ(眠)で眠らせた。
その際に山崎は左手を巻き込んで倒れ怪我をし、主役の座を断念せざるをえなかった。
そして交代要員として白羽の矢が立ったのが小狼だったのだ。

 あのときスリープを使ったのは他ならぬさくらだ、あくまで自分たちの都合で。
魔法の事が周囲にバレるのを恐れるあまり、クラスメイトにケガを負わせ、出るべき舞台に
出られなかった。そして今この時までその傷を心に残している。
そんな事実を突きつけられ、小狼の心は痛んだ。

−このことをもし、さくらが知ったら−



 オーディション当日。夕闇に染まる校舎、その3階で小狼はクラスメイトの柳沢奈緒子と日直の仕事に
追われていた。クラスの一人が他校とのトラブルを起こしたらしく、担任の先生が対応に当たる都合上
日直の二人は抜けた先生の穴埋めに奔走していた。
ようやく目途もつき、日誌を抱えて職員室を後にし、二人で廊下を歩く。
と、奈緒子がふと中庭を見て足を止める。
「あ、やってるやってる。ほら李君、オーディションやってるよ。」
「え、もう?」
中庭でチア部一年生の7人が行進し、バトンを振り、踊る。
その際を各部の先生と部長が真剣な表情で審査している。なるほど、オーディションの真っ最中のようだ。
0059無能物書き垢版2019/01/27(日) 19:34:51.76ID:GC0rj20L0
「今から行ってももう間に合わないね〜、このさいここで見ていこうか。
「ああ。」
二人並んで窓から眼下の踊りを見る。素人の小狼から見ても、やはりさくらと千春の演技は
一歩抜けているのがよくわかる。
小狼は複雑だった。本来ならさくらを応援したいところだが、先日の一件もあって、今年は三原に、という
気持ちも強かった。なにより去年の件が魔法に起因しているだけに。

 踊りも終盤に差し掛かろうとした時、奈緒子が思わぬ言葉をよこす。
「こりゃあ李君、今年は残念だったねぇ。」
「・・・え?」
「千春ちゃんすこいわ、正直さくらちゃんと比べても完全にレベルが一段階上だよ。」
「そうなのか?」
柳沢も小学校時代はチア部所属だった。素人には分からない明確な差があるのだろう。
小狼は残念な気持ちと、ほっとした安心感を同時に胸に抱える。
「まぁ、しっかり慰めてあげなさい、それは李君の役目だから。」
そう言って日直の仕事に戻る、少し片づけをすれば仕事は終わる、二人ともチア部に合流できるだろう。

「それでは、今年のドラムメジャー担当を発表します。」
採点表を手に、米田先生が一年生と吹奏楽部員を前にして言う。
小狼や奈緒子、合唱部の知世や秋穂、ラクロス部の練習を終えた山崎もそこに駆け付け、発表を待つ。

「木ノ本さん、しっかり頼むわね。」

 周囲に起こる拍手、祝福。
そんな中、小狼と奈緒子だけは意外な表情を隠さなかった。思わず奈緒子を見る小狼。
彼女はうつむいたまま、小声で呟く。
(ウソ、でしょ・・・?私にはわからない中学生レベルでさくらちゃんが上回ってた?
でも、そんな・・・自信無くすなぁ・・・)
どうやら見当違いな評価だったらしい、小狼ははっ!として千春を探す、あれだけ頑張って
決意をもって臨んでいただけに、その落胆はさぞかし大きいに違いない・・・
0060無能物書き垢版2019/01/27(日) 19:37:07.58ID:GC0rj20L0
「おめでとう、さくらちゃん。本番頑張ってね〜」
・・・え?
当の千春は、悔しさも残念さもみじんも見せず、にこやかにさくらを祝福していた。
それは表情を隠すというレベルではない。演技で決定的な失敗をして「仕方ない」という
感情の在り方でもない。まるであの夜の特訓も、断固たる決意も無かったかのように
わずかな暗い影も見せずにさくらに接している。
 母と、4人の姉と、元婚約者の苺鈴という女系家族に囲まれて、女性の表情を見る目には
自信があった。それだけに今の三原千春のその表情、態度には不思議な違和感があった。

 結局、さくらを祝福することも忘れ、小狼は帰宅する。
そして、日課の魔力供給を済ませ、今日もコンビニに夜食を買いに行く。
その帰り道、彼はまた二人を目にする。同じ場所、同じ時間、先日とは真逆の感情を抱いた彼女を。

「どうして!どうしてよ!!私は全力で、完璧にやったつもりだったのに・・・
また、またさくらちゃんに・・・」
千春が山崎に抱き着いて、人目もはばからずに泣き叫んでいる。山崎は優しい表情でその頭をなでる。
「私は、私たちは脇役だっていうの?どうしていつもさくらちゃんと李君ばっかり・・・
うわあぁぁぁぁん!」

 その光景を見て、小狼は背筋が凍り付くのを覚えた。そう、今のような態度こそ、あの時見た三原の
決意に相応の態度なのだ。なのに何故、さっきはさくらに対してああもにこやかでいられたのか・・・
帰り道、小狼は思う。何かがおかしい、三原のあの態度の違い、柳沢の評価と先生や部長の評価の差、
さくら、魔法、カードの精霊、色々な思いがぐるぐると小狼の頭を回り巡る。
 何か、この違和感を埋めるピースが何か足りない。ただ、嫌な予感だけが小狼の中で大きくなっていく。
マンションに到着し、玄関に入ろうとした小狼は、後ろからの声に呼び止められる。
0061無能物書き垢版2019/01/27(日) 19:38:17.04ID:GC0rj20L0
「こんばんわ、君も夜食の買い出し?」
すらっとした華奢な体つき、薄紫色の髪型に眼鏡、その手には食料を山ほど抱えて微笑む青年。
−月代雪兎−
クロウ・カードの守護者、ユエの仮の姿であり、かつてさくらと小狼が惹かれた青年。
「どうしたの?難しい顔してるよ。」
「い、いえ・・・何も。」
「当ててみようか。多分、さくらちゃんのコトでしょ。」
「は、はい・・・」
クスクスと笑う雪兎。どうもこのヒトがいると調子が狂う、とため息をつく小狼。
この穏やかな人があのユエと同じ人とはどうしても思えない。あの最後の審判を戦った・・・

 小狼の全身に電撃が走った、気がした。最後のピースを見つけた、見つけてしまった。
ユエ、最後の審判、それを乗り越えたさくら、その先にある最後のピース、それはさくらの言葉。


 −私と『なかよし』になってほしいな−
0064無能物書き垢版2019/01/31(木) 23:57:02.63ID:fJZ7TgkO0
>>62
スマヌ・・・スマヌ・・・
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第4話 さくらとロバの耳の王様

 クロウ・リードの手記より。

−この手紙を読んでいる貴方へ−
−この手紙を読んでいるということは、貴方も魔法が使えるのでしょう−
−ならばよくお読みなさい−

−魔法は時として、貴方に素晴らしい体験や恩恵を与えてくれるでしょう−
−しかし、同時に貴方を不幸にする力でもあります−
−過ぎた力は、時に他人からの嫉妬や恐れを受けることがあります−
−他人には無い力は、やがて貴方を孤独にすることになるでしょう−
−そしてその先、さらに待つ不幸−

−魔力は、やがて貴方の願いを叶えるようになるでしょう、この私のように−

−私はもう、私の望みであった『知の探究』ができなくなってしまいました−
−私の体から溢れ出る魔力は、私の願いを勝手に叶えてしまいます−
−私が知ろうとする知識は、すでに魔力によって私の中で勝手に解き明かされてしまいます−

−退屈ですー
−願いを叶えられない人生は、退屈で、そして不幸ですー
−願わくば、この手紙を読んでいる貴方が、この退屈に埋もれませんように−

−世界一の『愚かな』魔術師、クロウ・リード−
0065無能物書き垢版2019/01/31(木) 23:57:42.18ID:fJZ7TgkO0
 ブツン!ツーッ、ツーッ、ツーッ・・・

「くそ!やっぱりダメか・・・」
携帯を睨み、焦りの表情を隠さない小狼。
この春先以来、何度やってもイギリスの柊沢エリオル、つまりクロウ・リードの転生人と
連絡が取れなくなっていた。
さくらの友人、詩ノ本秋穂の執事であり、魔法教会を破門になった魔術師でもある
ユナ・D・海渡がなんらかの原因ではあるようだが・・・

 小狼は焦っていた。先日のマーチングのオーディションの一件で、彼の危惧する事態が
進展していることを知ってしまったから。
かつて実家で読んだクロウ・リードの手記、そこに記された『不幸』が、さくらの身に
すでに起き始めているであろう事を。

 小学生の頃、さくらは魔力に目覚め、カードキャプターとして幾多のカードを集め
そして変化させていくことで、膨大な魔力を身につけるに至った。
それはクロウカード改めさくらカードを維持するのに必要なことではあったが、
同時に増えすぎた魔力は、さくらに更なる不幸を呼ぶ危険があった。
そのため小狼は日本を去った後、柊沢エリオルに師事し、魔法の応用と知識を学んでいた、
さくらのそばで、さくらに起こる不幸を取り除くために。

 くまのぬいぐるみを触媒にして、さくらカードの精霊を奪った。
魔力は一度魔法を使うと一時的に失われ、その後、以前以上に多く回復する。
まるで筋力トレーニングによる筋肉の超回復のように。
だからさくらが魔法を使えないように、カードを使えなくしたのだ。
0066無能物書き垢版2019/01/31(木) 23:58:20.62ID:fJZ7TgkO0
 だが、さくらは自分でも気づかないうちに、新たなカードを作り出すようになった。
クリアカード。さくらが純粋に、そして無意識に自身の力で生み出した魔法のカード。
まるでクロウカード集めをなぞるように、さくらは次々とカードを集め、そして魔力を
さらに高めていってしまった。
小狼には打つ手が無かった。さくらの魔力が精霊による騒動を起こしてしまっている以上
関わるな、とは言えない。クロウカードの封印を無意識になぞっているだけに、カードの起こす騒動は
周囲の人を危険に晒す心配がある。ならばさくらが(無意識に)起こした騒動をさくらが止めるのに
口を挟むわけにはいかない。もし多くの人がケガをするなど不幸な目にあって、その原因がさくらの
魔力にあると知ったら、さくらはどれだけ悲しむか知れないから。

 さくらの魔力は、もうさくら自身を不幸にするレベルまで高まってしまっている。
唯一の頼れる存在、柊沢エリオルとは、もうずっと連絡が取れないでいる。
エリオルにしても、直接日本に来てさくらの力になれない理由がある。
ならば俺が、さくらを助けなければいけない、俺自身の判断で。

 さくらの魔力は、もうすでに『さくらの願い』を『勝手に』叶え始めてしまっている、
さくらの心の奥にある、さくらの純粋な思いを、間違った形で。

 −私と、なかよしになってほしいな−
0067無能物書き垢版2019/02/01(金) 00:00:21.92ID:D5201tp50
 今のさくらは、周囲の人間に(惚れ薬)を撒き散らして歩いているようなものだ。
だからオーディションの審査員たちは、そのさくらの魔力に当てられ、さくらの演技を
魅力的に感じてしまった。遠目で見ていた柳沢だけが正しい審査ができたんだ。
さくらに絶対に勝ちたかった三原は、さくらに負けた時、その悔しさをさくらの魔力で
かき消されていたんだ。だから笑ったんだ、普段のお弁当の時のように。

 だが、まだ間に合う。今ならまだその影響はさくらの近くにいる人間だけだ。
クロウのように、世界中の知識が否応なしに流れ込んでくるレベルには達していない、
今のうちに何か、何か手を打たないと。

 そこで小狼は気づく、絶望的な未来に。
そう、さくらはオーディションでドラムメジャーの座を勝ち取っていたんだ。
なでしこ祭、さくらはそのオープニングセレモニーで先頭を切って行進し、踊る。
大勢の人が注目する中で、惚れ薬のような魔力を撒き散らしながら、自分の魅力を
体いっぱいに表現して・・・
 もしそんな事態になったら、さくらは否応なく注目を浴びる存在になってしまう、
魔力によって人を惹きつけ、魅了する存在に。
それがさくらの人生に良い影響など与えるわけがない。周囲の人すべてを振り向かせ
称賛させ、だれも彼女を否定しない、そんな異常な『優しい』世界。
議論も、刺激も、争いも、悲しみも、驚きも存在しない、狂った世界。
自分以外の人間が、さくらに笑いかけるだけの、乾いた孤独な世界・・・

 もう時間が無い、なでしこ祭までに何か手を打たないと!
小狼は再び電話をかける。イギリスではなく、香港。自分の実家へ。
「もしもし、俺です、小狼です。偉(ウェイ)をお願いします・・・」
0068無能物書き垢版2019/02/01(金) 00:02:05.78ID:D5201tp50
「おはよう、秋穂ちゃん。また本?」
朝、登校したさくらの隣で、上機嫌で本を読んでいる秋穂に話しかけるさくら。
「ええさくらさん、昨日、前から欲しかった本が一冊、手に入ったんですよ。」
その本を横にしてさくらに見せる秋穂。
「ほぇ〜、外国の本なんだ。ええと、ミダ・・・なんていう本?」
ローマ字で書かれたタイトルを読もうとするが、見慣れない文字もあってよく読めない。
その背後から知世がひょっこり顔を出し、笑顔で解説する。

「ミダース、ですね。」
「すごい!知世ちゃん読めるの?」
「はい。実はそれ、さくらちゃんも多分知ってる物語ですわ。」
言って知世は秋穂と顔を見合わせ、くすくすと笑う。
「ほぇ?私そんな話聞いたこと無いけど・・・」

「ミダースって言うのはねぇ!」
「「うわっ!!」」
いきなり背後に山崎が現れ、解説を始める。
「名前の通り、この世を乱す悪い魔法使いの名前だよ。人の心を他人と入れ替えたり、
生き物を石に変えたりと、それはもうやりたい放題だったんだ!」
「ほ、ほぇ〜・・・酷い魔法使いだね〜。」
「でもね、あるとき現れた床屋さんが、彼の頭を大仏のような仏さんヘアーにしたんだよ、
それ以来、ミダースはいい人になって、人々から信頼される王様になったんだよ〜」
「「ふんふん・・・」」
いつの間にか小狼もさくらの隣に並んで話を聞いている。
0069無能物書き垢版2019/02/01(金) 00:02:48.63ID:D5201tp50
「またいーかげんな嘘ついてる・わ・ね。」
がしっ、と山崎の頭をわしづかみにする千春。
「しかも微妙に帳尻を合わせようとしない!授業が始まるわよ、山崎君はクラス隣りでしょ!」
言ってドアまで山崎を引きずって、ドアの外に放り出す千春。
「・・・嘘だったの?」
「お・・・俺は知ってたぞ。」
「李君も急がないと、授業始まりますわよ。」
「あ・・・そうか、じゃあまた。」
「うん、またね小狼君。」

教室から出ていく小狼を見送って、改めて秋穂を見るさくら。本当は一体どんな話なんだろ?
と、秋穂がアゴに手を当てて考え込んでいる。
「本の伝承と山崎君のお話、どちらが本当なんでしょうか・・・」
その秋穂のセリフに千春が一言発して絶句する。
「信じた!?」

「いつの日か、山崎君の話が本当になるといいですわねぇ。」
「というか知世ちゃん、本当はどんな話なの〜?」
「さくらちゃんも良く知る童話ですわ、『王様の耳はロバの耳』の王様の名前ですのよ。」
さくらの頭上に電球が、ぱぁっ、と灯る。
「ほぇ〜、あの王様、ミダースって名前だったんだ。」
「「はい。」」
知世と秋穂が同時に答える。

 ミダース。黄金を欲するあまり、触れるもの全てを黄金に変える願いを叶えた王。
しかしそれはすぐに絶望への能力であることを思い知らされる。
パンも、肉も、水も、彼に触れた途端黄金に変わってしまうのだから。
やがては彼の愛娘さえも黄金の像に変えてしまうことになる・・・
0070無能物書き垢版2019/02/01(金) 00:03:14.16ID:D5201tp50
 願いを叶える力、それがその本人にとって決して幸せではない力であること。
かつてミダースが歩んだ不幸を、今、さくらが歩みつつあることを、さくらはまだ知らない。
0072無能物書き垢版2019/02/09(土) 00:09:28.87ID:t3kjm2Th0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第5話 さくらと小狼と最大の危機

「ほぇ〜、終わったぁ。」
テスト用紙が集められ、机に突っ伏すさくら。1学期最後の難関、期末テストの
最後の教科がようやく終了した。
「さくらちゃん、お疲れ様。」
知世が余裕の表情で笑顔を見せる。成績抜群の優等生にとってそのイベントは
通常授業とそう変わりないものかもしれない。しかし、さくらにとっては・・・

「大丈夫かなぁ、もし万が一、赤点だったら大変だよぉ〜」
不安げに呟くさくら。友枝中では平均点の半分を下回ると『赤点』となり
追試、夏休み中の補習授業、そしてクラブ活動参加への制限もかかる、
マーチングでドラムメジャーを務める以上、赤点で練習参加が出来ないなんて事態は
絶対に避けたいところだ。
「大丈夫ですわ、さくらちゃんなら。」
「そうだといいけど・・・あーもう、数学と英語が不安だよぉ〜」
本来大の苦手の算数(数学)と、普通の学校より外国人が多い友枝中において
英語の得点は特に気になるところだ。

 翌日、廊下に張り出される成績表、成績優秀者から順に名前が羅列された表の前で
生徒たちが自分の名前を探して賑わっている、その中にさくらと知世もいた。
「あった!あったよ〜、良かったぁ〜。」
215人中142位木ノ本さくら 402点。しかしさくらの安堵は順位でも点数でもない。
赤点を一教科でも取ったものは張り出された成績表に名前が載らないのだ、
ここに名前があるということは、無事赤点を回避できたということになる。
0073無能物書き垢版2019/02/09(土) 00:10:39.20ID:t3kjm2Th0
「よかったですわね、さくらちゃん。」
「ありがと。知世ちゃんはどうだった?」
笑顔で祝福する知世に」さくらが問う。
「おかげさまで、無事満点でしたわ。」
知世が指差す先、成績表の端っこの方、3列目に『1位 大道寺知世 500点』の文字。
知世含め全問満点は計7人、最高の中学生活スタートダッシュが切れたようだ。
「ほぇ〜、やっぱりすごいね、知世ちゃんは。」
「ちなみに、山崎君も満点でしたわよ。」
確かに、7列目に『山崎貴史』の名前もある。飄々としていながら何かと万能な山崎である、
他にも友人たちの名前を見て回る。60位三原千春、72位柳沢奈緒子、146位詩ノ本秋穂・・・

「・・・小狼君の、名前が無い。」
さくらの言葉に思わず振り向く知世。まさか、赤点?彼が・・・?
小学生の時は、国語こそ手こずっていたが、他の教科は成績優秀だった。その小狼の名前が
ここにないということは、やはり・・・
「やっぱり、国語がダメだったのかなぁ。」
「大丈夫でしょうか、あまり悪いと香港に強制送還なんてことにならなければいいんですが。」
はっとするさくら。そういえば小学校の時も通知表を異常に気にしていた。もし成績が悪ければ
母親に相当怒られそうな家庭であったから。

「ふぅ。」
ため息をついて椅子に腰を下ろし、教科書を取り出す小狼。赤点を取ってしまった以上
追試を受けねばならず、それをパスできなければ夏休みには補習が待っている。
彼のやらなければならない事の為にも、それは避けなければいけない。
赤点教科は2つ、国語と社会。どちらも日本と香港では内容に差があり、向こうで習った知識は
ほとんど通用しない。
0074無能物書き垢版2019/02/09(土) 00:11:40.10ID:t3kjm2Th0
 それでも小学校時代はなんとかついては行けていた。しかし中学校に入ってからは
国語のわび・さびや日本史の戦国武将など、日本人としてはある程度の基本的知識を
前提としての授業に理解が追い付かなくなって来ていた。
 加えて毎日の魔力供給とそのための精神集中、儀式の労力が堪えている、予習も復習もあまり
出来ずに、そのまま寝落ちする日さえあるほどだ。
かくして小狼はさくらのサポート以前に、自分の問題を解決しなければならなくなった。

 お昼休み、いつものメンツが集まってお弁当を広げる中、小狼だけは早々に食べ終え、
教科書を広げて真剣な眼差しで文字を追っていた。心配そうなさくらが声をかける。
「ねぇ小狼君、何か手伝えることがあったら言ってね。」
「大丈夫だ、勉強は自分で理解してこそ身に付くものだからな、心配かけてすまない。」
「う、うん・・・」
「それにしても、李君がまさか2教科赤点とはねぇ〜」
国語と社会で満点だった柳沢がしみじみと呟く。秋穂がそれを聞いて一言。
「実は私も、その2教科は赤点のボーダーライン上でした・・・。」
やはりその2教科は外国暮らしが長い者にとっては鬼門のようだ。
海渡という優秀な家庭教師がいなければ、秋穂も赤点回避は困難だったかもしれない。

「しかし知世さんと山崎さん、全教科満点なんてホントすごいです!」
目をうるませ、二人を交互に見て秋穂が言う。
「いやぁ、ボクはヤマが当たったのが大きかったけどね。」
「私も似たようなものですわ。」
そんな二人に千春がツッコミを入れる。
「知世ちゃん、全範囲を完璧に理解するのをヤマとは言わないわよ。」
同じクラスだけに知世の優秀さは否応なく理解している千春。なにしろ先生が
残り時間を気にして授業をしている時、当てられるのは高確率で知世になるほどだ。
「そうそう、ヤマといえばねぇ・・・」
「勉強している人の集中力を乱さないの!」
山崎のボケを千春が阻止する。山崎の語りは小狼も興味津々なだけに、今は控えておくべきだろう。
0075無能物書き垢版2019/02/09(土) 00:13:03.46ID:t3kjm2Th0
「ふーん、小僧が赤点をなぁ・・・」
「そーなのよ、らしくないっていうか、ちょっと心配。」
事の次第をケロと相談するさくら。
「まぁ心配ないやろ、あの小僧はマジメだけが取り柄やから、追試までヘタはうたんわ。」
「だといいけど・・・何かしてあげられないかなぁ。」
「さくらはクラブが忙しいやろ、小僧の勉強に付き合ってやれる余裕はないハズやで。」
「うっ・・・」
マーチングの練習はまだまだ継続中だ、未だ完璧にはほど遠いレベルにあり、他人の心配を
している余裕はさくらには無かった。
「そうだ!前みたいにミラー(鏡像)さんを使えば!」
さくらの提案に、冷徹に返すケロ。
「ほぉ〜、ミラーにドラムメジャーを譲るんかい。」
「そ、そうじゃなくて・・・私はクラブ出て、ミラーさんが・・・」
「小僧と仲良く勉強するんかい、まぁさくらがそれでいいんやったらええけどな〜。」
「そ、それは・・・絶対に嫌。」
言って自分の提案が無意味なことを知る。
「は、はぅ〜・・・」
「ま、小僧を信じてやるこっちゃな。アイツにも試練は必要やろ、人生いろいろやからなぁ。」

さくらが夕食に降りている間、ケロはこっそり電話をかける。
「あ、ユエ、ワイや。実は小僧がなぁ・・・」
「ふむ、赤点か。まぁ無理もない、いくら真面目な彼でも、今の状態ではな。」
ケルベロスもユエも、小狼の事情は理解している。さくらカードの力を奪ったが故の
日常の時間と精神を削り取られている生活、13歳の少年には楽なわけがない。
「ほんでなぁ、よかったらやけど、ユキウサギの奴に協力を頼めへんか?」
「雪兎に、か。いいと言ってるぞ。」
「早っ、返事はやっ!!」
電話の向こうでユエと雪兎が入れ替わる。
「ようするに、家庭教師をすればいいんだよね。」
「ああ、たださくらや兄ちゃんにバレんように頼むわ。小僧にもプライドがあるからなぁ」
「桃矢にバレたら関係も悪化するかもしれないしね。うん、分かった。」
「・・・兄ちゃんと小僧の関係、これ以上悪ぅなるんかな?」
0076無能物書き垢版2019/02/09(土) 00:14:12.68ID:t3kjm2Th0
 翌日の夜、小狼の暮らすアパートで、小狼の向かいに座っている2名と1匹。
正面の男をジト目で睨む小狼。
「あははは、ごめんね小狼君。桃矢はどうにもカンが鋭くって・・・」
小狼の正面に座るさくらの兄、桃矢は意地悪く目をニヤつかせながら彼を見下ろす。
「よう赤点男、それでさくらと付き合おうとか、ずーずーしーにも程があるな。」
「ぐ・・・」
横でケルベロス(成体)が頭を抱えて大きなため息ひとつ。
「で、他の教科はどうだったんだ?」
「ん!」
3枚のテスト用紙を桃矢に突き出す。英語、数学、理科。最上段に輝く『100』の文字。
「へ〜ぇ、やっぱり優秀だね。他の2教科も赤点って言っても、ボーダーギリギリだし。」
「ちっ、相変わらず可愛げのねー奴だ。」
居住まいを正し、小狼に向き直る桃矢。
「おめーがだらしねーと、さくらの練習に身が入らねーからな、さっさとやるぞ。」
え?という表情を隠さない2人と1匹。無視して教科書を広げる桃矢。
「さくらと父さんには外泊すると言ってある、時間を無駄にするなよ!」
「・・・はい。」
毒舌ではあるが、今は桃矢も小狼に協力すると言っている。その意気は無駄に
するべきではない、今は素直に従い、教科書を見る小狼。

「あーゆーのを、ツンデレって言うんだよ♪」
横で雪兎がケロに耳打ちする、くっくっく、と笑うケルベロス。
「聞こえてるぞ!デレてねぇよ、こんなガキに。」
桃矢が小狼を気に入らないのは出会ってからずっとだ。しかし勘のいい彼には
コイツがさくらの為にずっと身を削っていることはなんとなく分かっていた。
それはこの部屋に入って確信していた。隠れているつもりだろうが、さくらカードの精霊の
気配がそこらじゅうにアリアリだ。
そして、それはさらなる事態の深刻さを悟らせる。
0077無能物書き垢版2019/02/09(土) 00:15:58.22ID:t3kjm2Th0
「じゃあ俺たちは帰るが、ちゃんと言った課題やっておけよ!」
はい、とうなずく小狼。2人と1匹(小さくなった)がアパートを出る。
と、桃矢が小狼のほうに引き返し告げる、雪兎とケロに聞こえないように。
「さくらは、もう『はじまっちまった』んだな?」
びくっ!と体を強張らせる小狼、うつむいて返す。
「はい!」
「・・・そうか。」
それだけを言うと、桃矢はきびずを返し、雪兎たちの方に向かう。

そして追試の日、放課後の2時間、赤点の生徒は教室に集められ、追試を今、終えた。
「あ、小狼君、追試どうだった・・・?」
教室から出てきた小狼に、さくらが声をかける。
「ああ、採点まで終わってる、大丈夫だったよ。」
ほっ、と胸をなでおろすさくら。外国人である小狼の日本での生活が酷なものに
ならないといい、という心配から解放され良かった、と思う。
そういえば、中学生になって再会してからは、思ったより一緒にいられる時間が少ない。
クラスも違うし、クラブもある。カードの騒動の時以外は積極的に二人でいることは
あまりなかった。
「ね、私も今クラブ終わったし、一緒に帰ろ!」
そうだ、もうすぐ夏休み。小狼君も補習を回避できたし、私もなでしこ祭以降は
そう忙しくはない、もっともっと一緒にいる時間が出来る。
そんな夏の日常を想像してテンションが上がるさくら。
「あ、ああ。」
照れながら返す小狼、その笑顔は小学校の時に何度も見た、さくらの無邪気な笑顔。
久しぶりに小学生時代を思い出し顔を赤らめる。
そんな赤面は夕焼けの紅がうまく隠してくれた。小狼の赤面も、そしてさくらの
赤くなった頬も・・・。
0079無能物書き垢版2019/02/12(火) 00:19:52.73ID:1kckDH8c0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第6話 さくらと苺鈴とお友達

「ごめーん、みんなお待たせー。」
集合場所のバス停に向かって走るさくら、その先にはいつものメンバーが待っている。
知世、千春、山崎、奈緒子、秋穂、そして利佳。
 今日は夏休みの『休部日』、全ての部活が練習休みの日。
結果重視の学生部活動において、スパルタ的な練習スケジュールによる熱中症等
生徒の負担が全国的に問題になる中、友枝中では月に2回、こういった休部日を設けている。
それに合わせて皆で遊びに行こう、と企画したのは意外なことに小狼だった。
唯一、部活動に参加していない彼のこの提案に皆は乗ったのではあるが・・・

「あれ、小狼君まだ?」
さくらが見渡す。肝心の発案者が未だここにいない。時間は・・・もうすぐリミットなのだが。
と、向こうの角から小狼が姿を現し、こっちに歩いてくる、ゆっくりと。
全員が小狼の方に向き直る。
「あ、小狼君、こっちだよー。」
手を振るさくら。しかし何かその姿に違和感を感じる。なんで歩いてるの?
彼の性格からして、最後の一人になったのなら皆を待たせまいと小走りに駆けてくる
イメージがある。しかし今の彼はのんびりとこっちに歩いてくる。
やがて皆の前まで到着する小狼。
「お待たせ。」
「あ、うん。」
0080無能物書き垢版2019/02/12(火) 00:20:24.87ID:1kckDH8c0
その瞬間だった、いきなり背後から知世とさくらと利佳にタックルするように
抱き着いてくる人物。
「やっほー、おまったせーっ!」
目を丸くして振り向く一同。小狼だけはやれやれ、と頬を掻いている。
「め、苺鈴ちゃん!?」
「あらまぁ」
「うわっ、久しぶり〜」
思わぬサプライズに抱き着かれた3人が思わず反応する、他の面々も突然の来訪に驚きを隠せない。
なるほど、小狼が走らず歩いてきたのは、背後から苺鈴がこっそり近づくための囮だったらしい。
「言ってたでしょ、夏休みには来るって!」
「あ、そっか。」

山崎がアゴに手を当て、ふんふんと納得して口を開く。
「今日の本当の提案は苺鈴さんの方だったんだね〜」
全員があっ!という顔をする。小狼にしてはらしくない提案だと思っていたが
なるほど苺鈴なら納得だ。
 と、その苺鈴はぴょん、と後方に飛び跳ね、居住まいを正す。
その後ろには二人の少女が並んで立っていた。
一人は長身の金髪、もう一人はやや背の低いショートヘアの娘。

「紹介するわね、私の香港での友達、ステラ・ブラウニーと王林杏(ワン・リンシン)よ。
なでしこ祭見たいって言うから連れてきたの!」
おおーっ、という表情で全員が2人を見る、見た目にも対照的な二人。
 山崎以上の長身で金髪碧眼をポニーテールにまとめ、肩口をリボンで止める白い
トップスTシャツのへそ出しルック、ホットパンツから伸びるすらりとした足、いかにも
アメリカンなプロポーションはいわゆるモデル体型の見本のようなスタイルだ。
 かたや髪型を男の子並みに短く刈り込んで、それでも一目で女子とわかる優しげな表情、
ソデの無い青い服装の中央はトグルで止まっており、いわゆる人民服系のファッションに
長めの紺色スカート、全身からえもいわれぬ気品が漂っている。
0081無能物書き垢版2019/02/12(火) 00:21:32.00ID:1kckDH8c0
 と、山崎が臆することなく前に出る。両者の前に立って挨拶。
「山崎隆司です、小狼君と苺鈴ちゃんとは仲良くさせていただいてます。」
さすがに度胸と社交性あるなぁ、と皆が感心する、金髪の方に手を差し出して一言。
「ワン・リンシンさんでしたね、よろしく!」
山崎と金髪以外の全員がずっこける、逆でしょ普通、と千春がツッコミを入れようとしたその時、
金髪娘が絶叫する。
「NO!!!なんで私がリンシンだと分かったネ!?お前タダモノじゃないネ、さてはCIAの諜報員か?」
ふっふっふ、と得意げに笑い、ショートヘアに向き直る山崎。
「で、こちらがステラさんですね、山崎です、よろしく。」
「あ、あの、そうじゃなくて・・・」
困惑する表情を向けるショートヘアの女の子。

「「いいかげんにしなさーいっ!」」
千春が山崎に、苺鈴がボケ続ける金髪にツッコミを入れる、両者の頭をハタいた音が
パシーン、と気持ち良くハモる。
どうやら金髪がステラ、黒髪がリンシンの見た目通りで間違いなさそうだ。

「イヤー、お前とはウマいリカーが飲めそうダ!」
すっかり意気投合した山崎にステラがばんばんと肩をたたきながら話す。
一方リンシンは知世や秋穂とにこやかに話している、出会ってものの数分で両者のキャラが
必要以上に掴めてしまった。
「ダケドこのグループ、ほとんどガールばっかりネ、ボーイは李とヤマザキだけ?」
ステラの質問に苺鈴か返す。
「しかも二人とも予約済みだからね、とっちゃダメよステラ。」
「OH!ソーなの?ザーンネン。」
「ええ、お二方、お付き合いしてる方がいるんですか?」
思いもかけず食いつく林杏、知世が横から解説を入れる。
「山崎君と千春ちゃんは、10年来の幼馴染ですのよ。」
「ナールホド、ドーリで、さっきのツッコミが胴に入ってたと思ったヨ。」
「ま、まぁ私がつっこまないと、山崎君ひたすらボケ続けるからねぇ・・・」
顔を赤らめた千春が照れ照れで返す。
0082無能物書き垢版2019/02/12(火) 00:22:47.25ID:1kckDH8c0
「で、李さんの彼女、誰なんですか?」
林杏が目を潤ませながら周囲を見渡す。その一言と同時にさくらがぼふっ!と顔から煙を出し
耳まで真っ赤っかになり、俯く。
リアクションを起こさない小狼に、知世が横から軽く、苺鈴が後方から強めに肘鉄を入れる。
「あ、ああ。王、こちらが木ノ本さくら・・・で、俺の・・・」
言ってこちらも瞬間湯沸かし器のように赤面し、頭から煙を出す。

「変わらないわねー、二組とも。」
利佳が二人を見てにこやかに言う。さくらと千春の手を取り、ぐいっ、と引き寄せて耳打ち。
「もっと積極的にいかなきゃ、今時は草食系男子が多いんだから。」
「「え”・・・」」
積極的に、と言われてもかなり難しい。小狼も山崎も性格は違えど女子の方から距離を詰めるのは
なかなかに難儀なキャラクターだから。いろいろ妄想しながらもじもじと両手の人差し指を
胸の前で合わせる二人。
「だ・か・ら、これからプールでしょ、健闘を祈るわ♪」
ウインクして離れる利佳、どうやら恋愛に関しては遥かに上級者のようだ。

 残念ながらその目論見は外れた。更衣室から登場したステラのプロポーションたるや
お前のような中学生がいるかと言いたくなる迫力だ。赤青のワイヤービキニに身を包み
早くも周囲の注目を集めている。
さくら、秋穂、千春、奈緒子、そして林杏の5人は、胸に手を当てて、はぁ、とため息。
苺鈴はステラをジト目で見ながら毒を吐く。
「ホンッとに、何食べたらこんな体になるのかしらねぇ・・・」
「でもさくらちゃんも、水着似合ってますわ♪」
知世だけは他には目もくれず、早速さくらにビデオを向けている。
0083無能物書き垢版2019/02/12(火) 00:24:07.50ID:1kckDH8c0
「こっちこっちー」
山崎が女子連に声をかける。男子は着替えが早いので、もう二人ともプールサイドで待機中だ。
皆が二人の方に走る、集まったところで利佳がさくらの背中を押し、小狼の前に立たせる。
「あ・・・」
「ど、どうかな、似合ってる・・・?」
さくらの水着はひらひらのフリル付きバンドゥビキニ。赤を基調にピンクや白の桜の花が
デザインされたフリルが胸と腰を覆っている。
「あ、ああ・・・似合ってる。」
直視できないといった表情でやや目をそらし、赤面して答える小狼。
 隣では千春が山崎に水着を披露している、こちらはセパレートタイプながら、カラフルな
ストライプが入ったデザイン。スクール水着に比べて若干ハイレッグになっており、色気もある。
「うーん、いいんじゃないかな。似合ってるよ。」
「ホント?よかったぁ。」
実は事前に山崎は利佳からメールを受けていた、内容はこうだ。
”千春ちゃんの水着をホメること!ボケたら承知しませんよ!”
しぶしぶ冗談にするのを諦める山崎、隣で嬉々としている千春を見て、まぁいいか、と納得する。

 楽しい時間は過ぎるのも早い。競泳水着に身を包んだ苺鈴がさくらと競争したり、
リンシンが迷子と間違われたり、探しに行った秋穂が二重遭難したり、知世は終始さくらを撮影したり
ステラがナンパ男に絡まれては年齢を告げて引かれたり、奈緒子と千春が利佳との話に花を咲かせたり
売店には案の定、桃矢と雪兎がいてさくらをずっこけさせたり、クリームソーダを注文してから
さくらがやたら周囲を警戒してたり、その時すでに売店の中でケロが雪兎におごってもらった
クリームソーダに舌鼓を打っていたりしているうちに、あっという間に夕方が来てしまった。
0084無能物書き垢版2019/02/12(火) 00:25:30.98ID:1kckDH8c0
「それじゃみんな、またね。なでしこ祭、楽しみにしてるわ。」
苺鈴がステラと林杏を連れて一行と別れる。他のみんなも解散、という時、利佳がいきなり声を出す。
「そーれっ!」
その合図とともに奈緒子、知世、秋穂、そして利佳が一斉に駆け出す、別々の方向に。
「じゃあ、またー」
「またねー」
「お疲れ様でしたー」
「頑張ってねー」
何事が起ったのか理解できぬまま、その場に残されるさくら、小狼、千春、山崎の4人。
いち早く状況を悟ったのは山崎、ふぅ、とため息ひとつ。
「じゃあ帰ろうか、僕と千春ちゃんはこっちだから、またね。」
自然に千春の手を取り、歩き出す山崎。思わぬリアクションに驚く千春、無論悪い気はしない。
「うん、またねさくらちゃん、李君。」
満面の笑顔でひらひらと手を振って去っていく、夕焼けの街角に消えるのを見送って、小狼が
さくらに話す。
「俺たちも・・・行こうか。」
「うん。」
歩き出そうとして、ふと止まる。
さくらから顔をそらしたまま、すっ、と手を出す小狼。
「あ・・・」
少しの間、そして次の瞬間、さくらはその手を掴む、両手で、ぎゅっ、と。
こぼれるような笑顔のさくら、目線を泳がせながらもさくらの手を握り返す小狼。
そのまま二人は歩き出す。泳ぎの疲れも忘れて。

マーチングのことも、さくらの魔力の事も、今この時だけは忘れて−
0085無能物書き垢版2019/02/12(火) 00:26:28.55ID:1kckDH8c0
「フーン、アレがクロウ・カードの所有者ネぇ」
「とんでもない魔力でした、小狼さんが私たちを呼ぶのもうなずけますね。」
ホテルのロビーのテーブルで、少女3人と初老の男性が話している。
「さくら様はもう危険な状態だそうで、苺鈴様、ステラ様、林杏様、どうかよろしくお願いします。」
「任せてよ偉(ウェイ)、私がいるんだから何にも心配ないわよ!」
どんっ、と胸をたたく苺鈴。
「その意気ですよ、大事なのは『きっと上手くいく』という意志なのですから。」

4人は知らない。木ノ本さくらも、その考えを身上としていることに。

 −絶対、だいじょうぶだよ−
0087CC名無したん垢版2019/02/12(火) 12:44:08.43ID:J64OppWj0
あっ不穏な流れになってきた
毎回楽しませてもらってます
0088CC名無したん垢版2019/02/12(火) 23:38:34.01ID:M0NTiqvY0
SSごとにスレを立てればいいと思うんですけど(提案)
0089無能物書き垢版2019/02/15(金) 00:18:35.19ID:WpItpYiJ0
>>86-87
こんな駄文に感想頂きありがとうございます、ヤル気でますよホント。
>>88
あんまスレ乱立すると叩かれるってじっちゃん言ってたw
同人板でやれ!とかオ〇ニーうぜぇ、とか言われそうですし・・・
あ、割り込みは自由ですよ、どんどん投稿しちゃって下さい、他の板でも
そういう流れのスレありますし。
ここ見てる他の人の意見はどうかな?
0090無能物書き垢版2019/02/15(金) 00:19:35.43ID:WpItpYiJ0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第7話 さくらとみんなの大行進

ぽん、ぽんっ!
夏の青空に花火が響く。友枝町なでしこ祭、いよいよ開幕の時!
さくらはオープニングのマーチングを直前に控え、メンバーと共に緊張した面持ちで
その時を待っていた。
 なにしろ彼女たち友枝中吹奏楽・チアリーディング合同のすぐ後ろには、全国に名をはせる
有名マーチングチームがずらりと並んでいるのだから緊張もひとしおだ。
そんな中、知世はさくらの至近距離まで来てビデオを構え、感動の瞳を浮かべている。
「ああ、これからさくらちゃんが大観衆の中、先頭を私の作ったコスチュームを着て
行進なさるんですね・・・感動ですわ〜」
聞き捨てならない一言にさくらが固まる。
「え・・・知世ちゃんが、作ったの?コレ。」

 マーチングのユニフォームは基本、派手である。それは友枝中も、他のチームも同様だ。
そんな中でも演奏する吹奏楽部のコスチュームはやや地味で、踊りを担当するカラーガードや
ドラムメジャーの衣裳は特に派手なのが一般的だ。
友枝中の場合、演奏陣は紫地に黄色のストライプ、カラーガードはワインレッドのフラメンコ風、
そしてドラムメジャーは白いシャツに黒のジャケット+赤蝶ネクタイ、下はラメの入った黒い長ズボン
頭には小さなシルクハットがピンで止められている。
ボーイッシュではあるが動きやすく、長袖長ズボンではあるが通気性もバツグンだ。
なるほど、よくよく見れば知世のセンスらしさが伺える。

「友枝町中の服飾店に手を回した甲斐がありましたわ〜」
「と、知世ちゃん・・・」
そういえば今年のユニフォームはどこからか寄贈されたって話を聞いた気がする。
今日のこの日に備えてきたのはさくらたちだけでは無かったようだ。
「ワイも見とるで、がんばりや〜。」
ケロはちゃっかり知世のハンドバッグの中に潜り込んで、顔だけ出して激励する。
0091無能物書き垢版2019/02/15(金) 00:21:10.70ID:WpItpYiJ0
「さぁみなさん、いよいよ本番です。この2か月の練習の成果、存分に見せてあげなさい!」
米田先生が全員にハッパをかける。
「「はいっ!!」」
皆が元気よく答える。やれる事はすべてやってきた、あとは本番あるのみだ。
「それじゃ最終チェックに入って、自分のやることをしっかり理解してね。」
各自が服装や楽器のチューニング等のチェックに入る。さくらもバトンの感触を確かめ
ホイッスルの試し吹きも行う。うん、問題なし。

 いよいよ本番、整列する友枝中チームの先頭に立つさくら。
ひとつ深呼吸して前を見る、正面には良く知った顔がずらりと並ぶ。
お父さん、お兄ちゃん、雪兎さん、知世ちゃん、ケロちゃん、山崎君、奈緒子ちゃん、秋穂ちゃん、
そして、小狼君。
あと、そこかしこにビデオを構えた知世ちゃんのボディガードの皆さん。知世ちゃんってば・・・

『さぁ、それでは第3回、友枝町なでしこ祭、いよいよ開幕です!』
その場内放送が流れるのを合図に、さくらがホイッスルをくわえ、バトンを持つ右手を高々と上げる。
同時に後ろの演奏隊が楽器をすちゃっ!と構え、カラーガードが旗をびっ!と構える。
さぁ、出発だ!

ピーッ、ピーッ、ピッピッピッ!!
さくらのホイッスル&バトンに合わせて全員が足踏みを開始する。
全員が一歩踏み出すと同時に、金管楽器が音楽を奏でる。
0092無能物書き垢版2019/02/15(金) 00:22:30.36ID:WpItpYiJ0
※TVアニメ「カードキャプターさくら、さくらのテーマI」

トランペットがメロディを奏で、ホルンが高らかに音を響かせる。パーカッションがリズムを刻み
ユーフォニウムやチューバーが重厚な音を染み渡らせる。
千春率いるカラーガードは情熱的に、そして妖艶に舞い、一糸乱れぬタイミングで旗を振り回す。
その先頭でさくらはバトンでリズムを刻み、皆を先導して行進し、皆の指揮を執る。
大事なのは笑顔を絶やさぬこと、その為には何よりこの行進を楽しむこと、それが米田先生の教え。
バトンを天高く放り投げ、側転からの宙返りで落下点に入り、見事バトンをキャッチする、
そしてそのまま行進を続けながら観客に敬礼、拍手喝采が沿道に巻き起こる。

「なに、あそこ凄いな、どこのチーム?」
「地元の友枝中?こんなに上手かったっけ。」
2番手以降の有名どころを見に来たマニアも、思わぬダークホースに注目する。
友枝中に合わせて移動しているのは最初は身内だけだったが、そのうち他の見物客も
友枝中を追いかけ始める。

 こうしてゴールの友枝商店街広場まで、約500mの大行進が始まった。
夏の太陽は容赦なく照り付け、地面からの熱波がみんなの体力を奪っていく。
それでも、彼女たちにとってこの舞台は一生に何度もない『晴れ舞台』だ。
みんなが私の演奏を聴いてくれる、私の踊りを見てくれる、身内だけではない、
大勢の見知らぬ人が。暑いなんて言ってられない、気にもならない。

 それを追いかける大観衆、ある吹奏楽好きは演奏に聞き入り、あるマーチングファンは
ガードの旗振りに熱い視線を送り、そしてあるビデオ撮影少女は先頭のドラムメジャーを追って歩く、
沿道もまた行進の列ができており、皆が一つの流れとなってゴールを目指す。

 トロンボーンが銃剣のように天を差し吠える。アルトサックスが夏の日差しを受けて輝き
ガードの旗が行進に勇ましい華を添える、ゴールまであと少し。
やっと終われる、もっと続けたい。矛盾する二つの感情を全員が胸に抱き、ラストスパートをかける。
友枝商店街広場に到着、さぁ、いよいよフィナーレ!
0093無能物書き垢版2019/02/15(金) 00:23:27.56ID:WpItpYiJ0
 縦列していた一行が方向を変え、横一列に並び、一歩また一歩と行進
「カンパニー」と呼ばれるフィニッシュに向かう。
 ガードの千春ともう一人が旗を預け、行進の先頭に走り、さくらの前に出る。
さくらは再びバトンを高々と放り投げ、前の二人に向けてダッシュ、二人が組んだ手の上に乗り
そのまま二人に天高く放り投げてもらう。そして空中で見事バトンをキャッチ、
落ちてくるさくらを下の二人がしっかりと受け止める、間髪入れずさくらは地面に降り、
バトンをびっ!と皆の方にかざす。
その瞬間、最大の音を出していた演奏がきれいに止まる、一糸乱れぬフィニッシュが決まった。

 大歓声に包まれる会場、祝福の拍手が鳴り響く。
さくらの知人も、吹奏楽部の身内も、見知らぬ大勢の観客も、惜しみなく絶賛の柏手を打つ。
 全員が深々と一礼しそれに答える。達成感と疲労感、やり遂げた思いと終わりの未練。
みんな汗だく、そしていい笑顔で駆け足して退場する。

 終了後の待機スペースには、チア部の先輩たちが飲み物を用意して待ってくれていた。
「お疲れ様、木ノ本さん凄かったわよ!」
「ガードも良かったよ〜これは来年以降が楽しみねぇ」
「私たちも負けてられないわね、最終日見てなさい!凄い演技するから。」
コップに注いでくれたスポーツドリンクを飲み干すさくら達。玉の汗を光らせながら
先輩たちの絶賛に笑顔、涙する娘もいる。
「んもー、先生感動しちゃったわよ、ホントによかったわよみんな。」
米田先生が大声で吹奏楽部とチア1年を労う。皆で団結し、努力し、結果を出した。
去年のくやしさを思い出したか、吹奏楽部の2,3年の多くが涙する。
0094無能物書き垢版2019/02/15(金) 00:24:32.98ID:WpItpYiJ0
 解散となった後、さくら達は友人たちに囲まれて祝福を受ける。
「ホントにかっこよかったですわさくらちゃん、これはビデオ編集が楽しみですわ〜」
目を星印にしてうっとり語る知世に、秋穂が釘を刺す。」
「あ、あの、知世さん。明日は私たちなんですから、編集はそれ以降に・・・」
コーラス部は明日、最終日のラスト2の出番だ。ビデオ編集で夜更かしして
風邪でも引かれたら大事である。

「ま、よかったじゃねぇか、バトン頭に落とさなくて。」
「そういう桃矢が一番感動してたけどね〜」
「ユキ!」
兄と雪兎の会話にも思わず笑みがこぼれる。奈緒子や他地区から駆け付けた利佳も
さくらたちに称賛を送る。
「そういえば、マーチングっていうのはねぇ・・・」
感動を阻止されてはたまらないと、千春が山崎にクローを極めて黙らせる。

「・・・あれ、小狼君は?」
そういえば小狼がいない。スタート地点では確かにいたのに。
「ああ、小狼なら、サッカー部の手伝いに、駆り出されてたわよ・・・。」
苺鈴がちょっと息切れしながら説明する。確かに午後の部にサッカー部主催の
リフティング大会が予定されている。
「え!?」
「あ、大丈夫。さくらの演技は、ちゃんと最後まで、見てたわよ、伝言よ。
『ホントにすごかった、それしか言えない』だって。」
「・・・そう、良かった。」
さくらは複雑な気持ちだった。本当なら、いの一番に小狼にここに来て祝福して欲しかった。
でも、どこか孤独なイメージのある小狼に男友達が出来るのは悪い事じゃない。
もしサッカー部に入部ともなれば、彼の運動神経ならレギュラーは間違いないだろう、
チームが活躍すれば、以前知世が言ってたように、チア部として応援する
未来もあるかもしれない。今日以上の演技を、小狼君の為に。
それに、明日は一緒になでしこ祭を回る約束をしている。今ここにいない埋め合わせは
きっと明日にしてくれるだろう。
0095無能物書き垢版2019/02/15(金) 00:25:55.99ID:WpItpYiJ0
「そういえばあの二人は?」
奈緒子が苺鈴に問う。わざわざ香港から、なでしこ祭を見に来た外国人2人。
「あ、ああ、ステラと、林杏なら、他のマーチング見るって、言ってたわ。」
今やマーチングは最高潮、全国の有名チームが次々と極上の演奏演技を披露している
悲しい事ながら、すでに友枝中の演技を覚えてる人は多くない。

 ふと、知世が苺鈴に声をかける。
「苺鈴ちゃん、大丈夫ですか、どこか御気分でも・・・」
見ればあのタフな苺鈴が汗だくになっている、呼吸も切れ切れで、まるで全力疾走した
後のようだ。
「だ、大丈夫大丈夫。ちょっと人波にもまれただけよ。」
その時、会場の裏側の方向で、サイレンの音が鳴り響く、救急車の音だ。
「どなたか熱中症になられたんでしょうか。」
真夏の午前10時半。こういうイベントなら残念ながらよくある光景。
やがて遠ざかっていくサイレン音。

 なでしこ祭初日、さくらとみんなの挑戦は、こうして無事、大成功に終わった。
充実感と達成感み満たされて帰宅したさくらは、疲労感からか夕食も取らずに
泥のように寝入ってしまった。父、藤隆が布団をかけ、ご苦労様、と声をかけて退室する。
そしてさくらは夢を見る−

オレンジ色の世界、みんながさくらに笑いかける世界、はるか向こうの十字架に
さくらの大好きな人が磔にされている世界・・・
0096CC名無したん垢版2019/02/15(金) 23:51:50.07ID:3n05yvhR0
スレいっぱい立ったら追いかけるの大変だから個人的にはこのままでおk
今書き込んでらっしゃる物書さんは他スレにもいらっしゃった物書きさん?
0097無能物書き垢版2019/02/17(日) 00:04:15.57ID:0tP79XvQ0
>>96
以前「さくらと小狼ちお泊り」スレでいくつか書いてました、スレ落ちましたがw
他の板でもSS書いたことがあります、HNは別ですが。

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第8話 さくらの魔力と小狼の戦い

「鏡よ、我を映し出し、我の分身となれ、ミラー(鏡)」
マーチングのスタート地点から少し離れた建物の陰、小狼は手鏡に自分を映し、そう唱える。
鏡に映った小狼に、さくらカードの精霊『ミラー』が憑依する。
そして鏡から飛び出し、小狼の分身となって彼の前に立つ。
「じゃあ、頼むぞ。」
こくり、と頷く小狼の分身。
「スタートの前にさくらに見える位置にいてくれればいい。あと、さくらの兄上には
絶対に近づくなよ、あの人の勘の鋭さは異常だからな。」
あ・・・という表情を見せた後、少し残念そうな表情で頷く分身。

 まもなくなでしこ祭、開幕のマーチングパレード出発の時。小狼、偉(ウェイ)、
ステラ・ブラウニー、王林杏(ワン・リンシン)、そして苺鈴が所定の場所についている。
今やさくらの魔力は、さくらの周辺の人間を魅了する性質を備えてしまっている。
この大勢が注目するイベントで、そんなものを撒き散らしながら行進すればどうなるか、
さくらの周囲の状況が激変するのは間違いないだろう、さくらの望まぬ形で。
 それを阻止すべく、香港に連絡を取り、準備してきた、この日の為に。
さくらの魔力を封じ、純粋にマーチングの演技をやり遂げてもらうために。
母の弟子、ステラと林杏の二人に来日してもらい、5人でさくらのマーチングを
魔力の介入なしにやり遂げてもらうために。

 小狼に化けたミラーが沿道の脇につく。言った通り桃矢とは離れた位置に。
さくらがそちらに目をやってくれるのを期待して、小狼はかがんで護符を取り出す。
『封魔』と書かれたその護符は、この日の為に母上に作ってもらった特別制。
魔力を持つ人の体外に溢れた力を無効化する能力がある。
0098無能物書き垢版2019/02/17(日) 00:05:49.35ID:0tP79XvQ0
ピーッ、ピーッ、ピッピッピッ

 始まった!
小狼が、マーチングの進路となる道路を挟んだ向こう側でステラが、林杏が、一斉に護符を発動させる。
「封魔!」
「フーマ!」
「封魔っ!」
3人の位置は三角形の頂点になっており、その3点の中にさくらがいる。
護符で三角の結界を作り、その中にさくらがいる間は魔力の影響が出ないようにするのが狙いだ、
しかしマーチングは行進である。さくらがその結界から出るとその効果は消失する。
さくらを先頭とする行進が動き始める、小狼はスマホのイヤホンを通じて他の4人に連絡する。
「始まったぞ、次!偉(ウェイ)、頼む!」
「かしこまりました。」
小狼と同じく、道路のこちら側、小狼の位置から100mほど進んだ位置に待機しているウェイが返す。
ステラは全力で次のポイントに向かう、苺鈴が人目につかない場所を確保しているはずだ。

さくらが3人の結界から出る瞬間、今度は小狼とウェイと林杏が次の護符を発動させる。
「封魔!」
「封魔っ!」
「封魔。」
さくらが結界から出る瞬間、新たな結界がさくらの進路に現れ、その中に進むさくら。
小狼は全力でマーチングの進行方向に走る。結界を張っているウェイを追い越し、その先
100mほどの地点に駆けつけてきた苺鈴を見つける。
「小狼、こっち!」
苺鈴が小狼を手招きし、すぐ近くの建物の陰に誘導する。人前で護符の発動をするわけにはいかない
誰にも見られず護符が使える空間をキープし、見つからなければ苺鈴自身が術者を隠すのが
魔力を持たない苺鈴の役目だった。
0099無能物書き垢版2019/02/17(日) 00:24:11.61ID:0tP79XvQ0
「じゃあ、次のポイントにいくわ!頼むわよ!!」
そう小狼に言い残し、今度は苺鈴がダッシュする。すでに対岸では林杏が次のポイントに
向かっているはずだ、時間が惜しい。
マーチングのずっと先までダッシュして、道路を横切り、あらかじめ探しておいた場所に
全力疾走で向かう、林杏より先に着かないと意味が無い。
なんとかそのポイント、木陰に到着し、走ってくる林杏を呼ぶ。
ウェイ、ステラ、小狼による3つめの結界が生まれる。行進が思ったより早い、急ぐ必要がある!
苺鈴は再び引き返して道路の反対側へ走り、ウェイを商店街の裏路地に誘導する。
そしてまた道路をまたいで、今度は次のポイントにステラを呼ぶ。

 幸いにも友枝中のマーチングは好評のようだ。見物者の列の後ろで忙しく動いている小狼たちを
気にとめるものは誰もいない。そんな中、小狼たちは次々に結界を張り、走る。
中でも道路のあちらとこちらを往復している苺鈴の運動量は異常だ。ポイントで合流するたび
彼女の呼吸は荒く、激しくなっていく。
ステラも林杏もウェイも、魔力を使いながらの運動に徐々に体力を奪われていく、まして今は真夏、
香港の暑さよりマシとはいえ、この作業がキツくないはずは無かった。
そして、最初にミラーのカードを使った小狼の疲労も相当なものだ。

 と、その小狼の所にひとつの精霊がすっ、と現れる。緑の髪に赤いリボン、ミラーだ。
「うまくいきました、主(さくら)は出発前、私を貴方として認めました。」
「そうか、ありがとう!」
そう言って宝玉を出す小狼、ミラーはすっ、とその中に吸い込まれるように姿を消す。
そして走りながらマーチングを見る、さくらの見事な演技に歓声が沸いている。
しかしそれは決してさくらだけが注目されているわけではない、ある人は演奏される音楽に耳を傾け
またある人はカラーガードの見事な旗振りに目を奪われている。
0100無能物書き垢版2019/02/17(日) 00:25:55.20ID:0tP79XvQ0
 よかった、心底そう思う。もしさくらの魔力がダダ洩れな上体でマーチングが行われたら・・・
確かに友枝中は並み居る強豪チームを押しのけ、評価一位をモノにするかもしれない。
しかしそれはさくら一人の成果でしかない。誰も演奏を聞かず、演技や行進も見ず、
ただたださくら(の魔力)に魅了されるだけの、いわば洗脳に近い評価。
チームメイトの2か月の努力も、わざわざ遠征に来てくれた他チームの演技も、
みんな無駄にする『魔法の暴挙』。
 さくらにそんな事をさせるわけにはいかない、さくらが自身の魔力で自分を不幸にするのは
なんとしても阻止してみせる!そんな決意が疲れ切った小狼の体を引き起こし、走らせる。

 やっとフィニッシュの友枝商店街広場まで来た、あと一息だ。
最後のカンパニーの行進が始まるのを合図に、小狼が、ステラが、林杏が、最後の札を発動させる。
「「「封魔!!」」」
今日何度目か分からない言葉を、最後の力を振り絞って叫ぶ。
最後の結界が発動し、さくらを含むマーチング一同を取り囲む。そしてさくらはジャンプして
見事なフィニッシュを決める。

「ああ・・・ホントに凄いな、さくらは・・・」
そう言いながら崩れ落ちる小狼、隣にいた苺鈴がとっさに抱きとめる、息も絶え絶えに。
「しゃ、シャオ・ラン、しっかり・・・」
疲労で抱えきれず、そのままそこにへたりこむ二人、そこにウェイが駆けてくる。
「しっかりなさって下さい、小狼様、苺鈴様、お気を確かに。」
そしてスマホを取り出しダイヤルしながら、告げる。
「救急車をお呼びいたしますから、それまでご辛抱ください。」
0101無能物書き垢版2019/02/17(日) 00:27:27.60ID:0tP79XvQ0
 電話を終えたころ、千鳥足のステラが林杏の肩を担いで合流してくる。
「ア〜、私タチも、乗ってイクネ〜」
かろうじてそう答えるステラ。林杏はもう言葉を発するのもおっくうそうだ。
 地面に横になった小狼が、苺鈴に伝える。
「苺鈴、すまないが、お前は残ってくれ・・・」
肩で息をしながら苺鈴が返す。
「わ・・分かってる・・・わよ。さくらを・・・安心させるん、でしょ・・・」
「ああ・・・すまない。」
それだけ答えると小狼はふっ、と気を失う。

遠くに救急車のサイレンを聴きながら、疲れ切った、そして満足した表情のまま−
0103無能物書き垢版2019/02/18(月) 00:24:21.13ID:GS/hiYES0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第9話 さくらと小狼のすれ違い

「・・・あれ?」
朝、目覚めたさくらは、何故か悲しみの感情と共に、涙を流していた。
何か、何か嫌な夢を見ていた気がする。とても悲しく、切ない夢。
でも・・・その内容を思い出せない、唯一思い出せるのは、度々聞くその声、その台詞。

−お前はもう、戻れない−

「おー、やっと起きたかさくら・・・どないした?」
ケロがさくらに問う。さくらの表情を見て取って、怪訝そうな顔で。
「あ、おはようケロちゃん、なんだか嫌な夢を見たような気がするの、
でも・・・思い出せない。」
何故だろう、昨日マーチングをやり終えて、充実感に満たされていたはずなのに
こんな沈んだ気分になるなんて。
「まー、それはええとして、ゆっくりしててええんか?」
「え、何が?」
「今日は小僧とデートやなかったんか?一緒になでしこ祭回るってゆうとったやないか。」
言って時計を差し出すケロ。それを受け取り、さくらの顔が見る見る真っ青になっていく。

「ほ、ほえぇぇぇぇぇっ!!!」
木ノ本家に響く恒例の騒音、そして振動、どっすんばったん!
怪獣さながらのドタバタで階段を駆け下り、父、藤隆の焼いたホットケーキを口に詰め込み
紅茶でのどに流し込む、思わずムセるさくら。
「いってきまふー!」
「行ってらっしゃい、気をつけてね。」
そんなさくらにも平然と対応する藤隆。中学生になって回数が減った光景だが
完全に抜けるほど一気に成長するはずもない。相変わらずですね、とだけ呟いて
食器を片付けにかかる。
0104無能物書き垢版2019/02/18(月) 00:25:05.51ID:GS/hiYES0
 一方、2階ではケロが専用スマホで電話をかけていた。送信相手は『李苺鈴』。
ガチャ
『もしもし、ぬいぐるみ?』
「ちゃうわ!史上最高にかっこええさくらカードの守護者、ケルベロスやっ!」
『はいはい、それはもういいから。家の前まで来てるわよ、もう。』
「いよっしゃー!ほな、いこかーっ!!」
 お邪魔しないようにと知世に釘を刺され、今日はさくらに同伴できないケロ。
しかしなでしこ祭の出店に美味いモノが多数あるなら、行かない理由にはならない。
いつもなら知世と食べ歩く所だが、今日は知世は夜のコーラス部のステージ準備のため
付き合えない。交渉の結果、今日は苺鈴に『さくらと小狼の邪魔をしない事』を条件に
同伴の約束を取り付けていた。
「よっしゃー、食って食って食いまくるでぇーっ!!」
言って2階のさくらの部屋の窓から猛然と飛び出す、おった!小娘や・・・ん?
「げぇーっ!」
驚愕して固まる。てっきり小娘一人かと思ったら、傍らにもう二人おるやないかーい!
マズイ、ワイの正体がバレる、ぬいぐるみのフリせな!

 固まったケロは、そのまま放物線を描き、地面にべしゃっ、と落ちる。
痛みを必死にこらえ、ひたすらぬいぐるみのフリをする。早よせぇ小娘、誰かが2階から
わいを放り投げた設定にして回収せんかい・・・ん?
「ぷくくくく・・・あはははははは」
腹を抱えて笑っている苺鈴。その横で黒髪ショートカットの少女が、うわぁ痛そう、という
表情でケロを見ている。
 と、首根っこをつかまれ、ひょいと持ち上げられるケロ。目の前には金髪碧眼の少女。
「ヘェ、コレがクロウ・カードの守護者ネェ、なかなかキュートね。」
「へ?」
元々目が点なケロがさらに目を点にして、間抜けな表情で返す。
「あははは、ゴメンゴメン。二人とも知ってるのよ、さくらやあんたのこと。
叔母様、つまり小狼のお母さまの弟子なのよ、この二人。」
「ステラ・ブラウニーよ、よろしくネ、ケルベロス!」
「王林杏です、ご噂はかねがね李さん達に聞いております。」
ステラがウインクして、林杏がお辞儀して自己紹介する。
0105無能物書き垢版2019/02/18(月) 00:25:45.94ID:GS/hiYES0
「なんや、ワイは痛い思いをし損かーいっ!」
言って苺鈴を追い回すケロ。
「そういうことは、もっと早よ言わんかーい!!」
追いかけられついでに、なでしこ祭会場に向かう3人と一匹。その先の商店街にはすでに
大勢の人がごったがえしていた。

「お待たせ、小狼君!ごめんなさい、待った?」
待ち合わせの自販機前のベンチに座る小狼に言う。二人きりの待ち合わせでさくらが
小狼より先に来れたためしがない、今日こそは、と思っていたが寝坊には勝てなかった。
「いや、今来た所だ、気にするな。」
小狼らしい返事が返ってくる、その返事を聞いてさくらは思う、ホント紳士だな、って。
きっと彼なら何分待たせても同じことを言うだろう、そんな私への気遣いと、そんな人と
付き合えていることを意識して思わず頬が赤くなる。
「じゃあ、行こうか。」
ベンチから立ち上がる小狼。ここはまだ人が疎らだが、少し歩くとなでしこ祭のエリアに入る、
すでに人混みが出来ており、突入するには少々の気合が必要だ。

「待って!」
さくらが小狼を止める。どうした?、と返す小狼。
さくらは少しおねだりをするような目で小狼を見つめ、そしてポケットから3枚の
カードを取り出す。
「ね、なでしこ祭、一緒に上から見てみない?」
さくらが手にしているのはクリアカード、フライ(飛翔)、ミラー(鏡)、
そしてルシッド(透過)の3枚。
 以前、ミラーのカードを入手した時、それでフライをコピーして一緒に空を飛んだことがあった、
あの時の楽しさが忘れられないさくらは、それで空からなでしこ祭を一緒に見てみたいと思っていた。
ルシッドで姿を隠せば他の人に見られる心配もない。
0106無能物書き垢版2019/02/18(月) 00:26:23.43ID:GS/hiYES0
「ダメだ!!」
さくらの予想以上に厳しい剣幕で小狼が拒否する。思わぬ態度に少しおびえた表情を見せるさくら。
「あ・・・すまない。でもむやみに魔法を使うのは、良くない。」
思わず語気を強めたことを反省する。しかしそれも仕方のないことだ、つい昨日、小狼は
他の4人と、さくらから漏れ出る魔力を抑えるために奮闘したばかりだ。
魔力を使い果たし、暑気に当てられ、救急車で運ばれるほどに。今朝も点滴を受けてなんとか
病院を抜け出してきたばかりなのだ。
 そんな事はつゆ知らず、魔法を使うというさくらに少し腹が立った気持ちもあった。
魔法は使うほどに本人の魔力を底上げする、魔法を使えば使うだけ、さくらは破滅に
確実に近づいていくコトになるのだ。

「あ、ゴメン・・・そうだよね、やっぱ。」
少し困り顔で、それでも笑ってさくらが返す。さくらにすれば今回のデートの
ひとつの目玉として『小狼との空のランデブー』を楽しみにしていた。
それだけに小狼のこの反応は残念だった、さくらは半分納得しながらも、半分はこの
ナイスアイデアへの未練を断ち切れないでいた。

 そんなこともあって、最初はぎこちなく始まった二人のデートだが、祭りという
イベントの中ではそんな気持ちは結構簡単にほぐれていく。
路上のジャグリングショーで昨日のバトンさばきを思い出したり、大食い大会に何故か
参加している苺鈴の服の中からこっそり料理を飲み込んでいく黄色い生き物を見つけたり
例によって出店している桃矢に「中にユキがいるぞ」とだまされて入った先がお化け屋敷だったり
利佳と寺田先生にばったり会って、両者の関係を知らない小狼が空気を読めずに
かつての恩師と長話になりかけたりしているうちに、夏の陽も西に沈みかけていた。

「そろそろだな、行こうか。」
「うん、まずは奈緒子ちゃんの演劇だね。」
夕方からは立て続けに舞台でのショーが予定されている。友枝中はまず演劇部の公演、
ふたつ挟んでコーラス部の合唱、そしてチアリーディング部の演技でフィナーレとなる。
0107無能物書き垢版2019/02/18(月) 00:27:14.09ID:GS/hiYES0
 奈緒子がシナリオを書いた演劇は本当に良い出来だった。自分たちも去年ここで演じたが
さすがに中学生の演技力に比べると自分たちはまだまだ大根役者だったな、と思う。
 コーラス部の合唱、ソロパートを務めるのは、昨日までさくらが指導を受けていた
吹奏楽部顧問の米田先生の娘、米田歩(3年)だった。知世のソロが透き通るような美声なのに対し
歩の歌は力強く、魂に響くような熱があった。さすが元オペラ歌手の米田先生の娘さんだ。
再び合唱に入った後、再度ソロになる、出てきたのは・・・なんと秋穂だ。
『Even if you dislike me, I think of you・・・』
なるほど、英語の歌詞の部分。イギリス生活が長かった秋穂は、英語の発音ならお手の物だ。
それでこの抜擢となったらしい、恥ずかしがり屋の秋穂が皆の前で懸命に歌を紡ぐ。
『Let me fall to hell before you become unhappy・・・』
その歌詞を聞いて、小狼が少し悲しそうな顔をしたことに、さくらは気づかなかった。

 いよいよグランドフィナーレ、チア部2,3年によるチアリーディングの演技。
さくらは小狼を残し、舞台裏に駆け付けて先輩の衣裳や照明の手伝いをする。
千春や他のチア部1年も皆揃っている、本当は来なくてもいいよ、と言われてたのだが
やはり同じ部員として何か役に立ちたい、という思いが彼女たちを集めた。
 そして始まる演技。バトンを、リボンを、ポンポンを、そして同じ部員すらも華麗に振り回し、
踊り、駆け、飛ぶ。優雅に、美しく。
マーチングのガードやドラムメジャーすら比べ物にならない見事な演技、そのダイナミックで
美しい演技に会場中が驚嘆のため息を漏らす。
演技が終了した時、それは大喝采に代わっていた。
さくらも、千春も、他の1年も思う。来年は自分たちがあの舞台に立つんだ、と。
0108無能物書き垢版2019/02/18(月) 00:27:53.35ID:GS/hiYES0
 夜も更け、祭りが終わる。
さくらと小狼も帰路を歩く、さっきまでの舞台の数々、そして昨日のマーチングなど
話題は尽きない。
 だけど、さくらにはたったひとつ、心残りがあった。
意を決し、小狼の方に向き直る。手に3枚のカードを持って。
「ね、やっぱりダメかな・・・?」
そのカードを見て小狼は固まる。今朝、さくらが提案した空飛ぶランデブー。

さくらはずっと心に残っていた、今日は絶対に一緒に飛びたい、と。
小狼はさっきの秋穂の歌う歌詞を思い出していた、例え貴方に嫌われても、私は・・・

「いい加減にしろ!」
語気を強めて怒鳴る小狼、はっ!と硬直し、まばたきも忘れて小狼を見るさくら。
「魔法を何だと思ってるんだ、そんな目的の為に使っていいものじゃないんだぞ!!」
今回は怒りは無い、しかし語気を強めないわけにはいかなかった。例えさくらに嫌われても。

「・・・『そんな』、目的?」
さくらの目が潤む。二人で楽しい想いをすることを『そんな』と称されて愕然とする。
心が冷えていくのを感じた。今日の楽しかった出来事も、昨日のマーチングの充実も
目の前の男の子に対する恋心さえも・・・その熱を失っていく。

「・・・じゃあ」
やっとそれだけを絞り出して、さくらは逃げるように駆け出す、涙を道標のように落としながら。
小狼は追わない、追えない。自分にその資格は無い、彼女を泣かせてしまったのだから。
さくらは木ノ本家に駆け込むのを見送って、きびすを返し、歩く

胸をかきむしられるような焦燥と、悲しさと、喪失感を胸に抱いて・・・
0111無能物書き垢版2019/02/19(火) 22:33:28.34ID:dAFl+7lX0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第10話 さくら達へのアドバイス

「さぁて、待ちに待った編集タイムですわ〜♪」
なでしこ祭が終わった夜、大道寺家のシアタールームで、知世は恍惚の表情で
数枚のディスクを準備していた。
 昨日のさくらのマーチング、知世本人はもちろんのこと、自分のボディガード達にも
ビデオを持たせ、様々な角度からさくらの演技を撮影させていた。
今からそれを吟味編集し、さくらのマーチングPVを作り上げる、知世の至福の時間が
やっと始まるのだ。

 まずは自分の撮影ビデオを一通り見て、メインの編集の流れをイメージする。
続いてボディガードたちの撮った絵、左右から、後方から、逆光から、ドローンを使った空撮、
それらをどのタイミングに差し込むか、イメージしながら脳内でPVの流れを作り上げていく。
そして最後のディスクを挿入する、これまでに無い試みを企画したその一枚。
「さぁ、いよいよ楽しみにしていた1枚、良い絵が撮れているといいですわね〜」
 それはボディガードの中でも1番の撮影技術を持つ人にお願いした、ちょっと違った視点の映像
『さくらちゃんの演技を見る李君を追いかけてくださいな。』というもの。
うまく編集できれば、このPVを見るさくらちゃんと李君がどんな顔をするか、とても楽しみだ。

「・・・なんですの、これは。」
愕然とする知世。そこに映っていたのは知世の想像とは程遠い、小狼達の『奮闘』だった。
0112無能物書き垢版2019/02/19(火) 22:34:18.72ID:dAFl+7lX0
「では、説明してもらおうか、李小狼。」
ユエが小狼を見下ろして問う、厳しい表情で。
「まぁ落ち着けやユエ、小僧にしたかて考えあってのコトやろ。」
夜、月城家の部屋。ピリピリした空気の中で、成体のケルベロスとユエが小狼を問い詰める。
 先日のなでしこ祭の最終日、泣きながら家に帰ったさくらはそのまま
布団に突っ伏して泣き、そのまま寝入ってしまった。
心配したケロはユエに相談する。連絡を受けたユエは怒りをあらわにして小狼を呼びつけた。
雪兎からさくらを任せられながら泣かせるとは何事か、と。

「まぁせやけど、説明はしてもらうで小僧。お前、さくらに何言うたんや?」
ケルベロスの質問に小狼は少しためらいながら答える。
「やたらと魔法を使うな、そう釘を刺した。それだけだ。」
「さくらが魔法使おうとしたんか?」
「ああ、一緒に空を飛びたいって。」
その説明を聞いてケロとユエが、ん?という表情をする。
「何や、それだけかいな。」
「飛んでやればいいだろう!」
その言葉に黙り込む小狼。

「なんや、女心の分からんやっちゃなぁ〜、そのくらい融通効かせや。」
その言葉にユエもこくりと頷く。
小狼は分かっていた。この二人に今のさくらの状態を『危機』と認識させるのは難しいと。
彼らはさくらの魔力を吸ってこそ存在できる魔力生命体なのだ。さくらの魔力が増すことは
彼らにとって喜ばしい事ではあれ、困ることではないのだから。
押し黙る小狼にユエが話す。
「言い訳があるなら聞こう・・・雪兎がそう言っている。」
あ、という表情で顔を上げる。彼も聴いていることが小狼の認識を変える、この場に自分の
考えを理解しうる『味方』がいることに。
0113無能物書き垢版2019/02/19(火) 22:35:29.08ID:dAFl+7lX0
「さくらの魔力が、さくらを不幸にし始めている、その可能性がある。」
「何!?」
「なんやて?」
小狼は持ってきたカバンを開け、1冊の古い本を取り出す。古い外国の文字で書かれた
その本には、クロウ・リードの名がある。思わず釘付けになるユエとケロ。
「李家に伝わる本、苺鈴に持ってきてもらった。見るなら・・・覚悟してほしい。」
そう言ってしおりの挟んだノートを渡す。が、ユエやケロにとってクロウの手記なら
読まないという選択肢はありえなかった。ページを開き目を走らせるユエとケロ。

 数分後、そのノートを置いて固まる二人。
「こんな・・・クロウにそんな悩みがあったというのか・・・」
「アイツはいっつも一人でおった。人間嫌いやと思とったんやが、こんな事情があったんかい・・・」
愕然とした表情をするユエとケロ。
 クロウの不幸、有り余る魔力が彼の深層の願いを勝手に叶える現象、魔力のオーバーラン。
知識の探究が趣味だったクロウの願いは、彼の魔力によって全て解き明かされてしまう。
結果、彼の望む『理論を解き明かす』過程を全て魔力に奪われてしまう。

 例えば、今でいう運動量保存の法則。この世の運動はすべてが過去からの連動であるという理論。
その始まりはビッグ・バンという宇宙誕生の爆発から、と言われている。
この世の全ての出来事も、生命の進化も、人間の思考さえも、すべてはそこから続いている
一つの流れである、という理論。
クロウは己の周囲に起きる全ての出来事さえ、魔力による連動の計算によってそれを理解し得てしまう。
つまり、未来すら魔力で読めてしまうのだ。
 彼にとって偶然という言葉は無い、すべては必然だ。落としたグラスが必ず割れるように。
そんな彼が誰かと一緒に居られるはずなどない、その人間の思考、願い、性癖から死期に至るまで
勝手に理解してしまうのだから。
0114無能物書き垢版2019/02/19(火) 22:37:23.09ID:dAFl+7lX0
「案外、クロウの奴も寂しかったんとちゃうか?せやからワイらやカード達を作ったんか・・・」
ケロが寂しそうにつぶやく。長くクロウといながら、彼の孤独に気づけなかった自分を悔やむ。
「なら、今の主、さくらの望みは一体何だ!」
ユエが絞り出すように言う。
「なかよしに・・・なる、ことだ。」
がくっ、とケルベロスがずっこける。
「ええ事やないんかいっ!」
「・・・普通に過程を経てなら、と言っている、雪兎が。」
ユエが雪兎の代弁をする。魔力で他人に好意を強要するような所作など、本当の『なかよし』ではない。
何より、もしさくらがその事実を知ったら、自分の周囲にいる『なかよし』な人達が、
普通に仲良くなったのか、魔力で洗脳して仲良くなったのか分からなくなる。
 優秀な自分よりも常にさくらを優先する知世、娘以上にさくらにぞっこんな知世の母・園美、、
最初はカードを奪い合う仲だったのに、今や恋心を抱き抱かれる小狼、父や兄、クラスの友達、
そして思い人を奪われたにもかかわらず親友になった苺鈴・・・
さくらが自分の魔力の暴走を知った時、それらに対してほんとうの『なかよし』を信じられるだろうか。

「さくらの魔力を必要とする二人には悪いと思っている。だけど俺は、これ以上さくらが
魔力を強くするのを見過ごすわけにはいかないんだ。」
「解決方法は、何かあるのか?」
ユエの問いに小狼は言葉を詰まらせる。
「今は、とにかくさくらの魔力を抑えるしか方法が無い。柊沢なら何か知ってるかもしれないが、
連絡が取れない。」
「八方ふさがり、やなぁ・・・」
0115無能物書き垢版2019/02/19(火) 22:42:52.20ID:dAFl+7lX0
「本人のいない所でコソコソやってたってしょうがないだろ!」
いきなりの声、振り返ると廊下側に一人の男が立っていた。
「桃矢!」
「勝手に上がらせてもらったぞ。たく、さっきから聞いてりゃ揃いもそろって・・・全く。」
言ってユエの前に歩いていく桃矢。
「さくらの魔力が大きくなって困る、だがさくらの魔力が無くても困る、お前らはそうなんだな。」
こくりと頷くケロとユエ。続いて小狼の方に向き直り、言う、厳しい目で。
「で、お前はどうしたいんだ?」
「お、俺は・・・決まってる。さくらを救いたい!」
決意の目で返す小狼、だが桃矢はあきれたようにそっぽを向き、こう続ける。
「じゃあさくらが救われれば、お前は不幸になってもいい、とでも言うのか?」
あ、という表情を一瞬見せるが、すぐにこくり、と頷く。

「だ・か・ら・ガキだっつーんだよお前は。自分に酔ってるんじゃねぇ!」
思わぬ厳しい口調に小狼も少し引く。
「お前は何か?小説や漫画の登場人物かよ。お前の人生はさくらの為に投げ捨ててもいいような
薄っぺらいもんなのか?」
「雪兎も、それはいけない、と言ってる。」
ユエがまたも雪兎の代弁をする。
「お前の将来を考えろ。お前はどんな人間になって、さくらとどう付き合っていくのか、
どんな人生を送っていくのか、そんなことを考えられねーんじゃ、誰も幸せにできねぇよ。」
0116無能物書き垢版2019/02/19(火) 22:43:29.82ID:dAFl+7lX0
 こんな話をする桃矢には裏の事情があった。家で聞くさくらと父の会話、所用で小狼が
クラブに入らず、放課後を楽しめてない事、故にさくらのチア部が彼を応援できない事。
 桃矢にはすぐに予想がついた。あのガキはさくらの近くにいたくて日本にきたんじゃない、
さくらに起こる『何か』を取り除くために日本に来たことを。
いつも張り詰めて、何かに追い立てられている顔、真面目そうな性格にも関わらず
赤点を取るほど日常生活が追い詰められている事、彼に起こる全てが雄弁に語っていた、
さくらの為に、と。
そこに李小狼という一個の人間の存在は無い。さくらの為にのみ在る小説の活字のような存在。

「ま、ここまで言っても分かんないなら、お前は本当にただのガキだ。そんな奴にさくらは
任せられねーな。」
0117無能物書き垢版2019/02/19(火) 22:44:31.49ID:dAFl+7lX0
 さくらはあれから小狼に会ってない。何度もスマホを手にしては、発信ボランを押せないでいた。
友枝中の運動部が好調なこともあり、チア部の活動も忙しい。そんな活動に忙殺されている間は
あの夜の事を忘れられる。
 しかし今日はそうはいかないだろう。山崎の所属するラクロス部の応援、友人の小狼が
来ないはずはない、会いたいけど会いたくない、そんな気持ちがさくらを沈ませる。
 案の定、多くの友人と共に小狼はスタジアムに姿を見せる。菜穂子や苺鈴、ステラに林杏。
知世だけはチア部の至近距離から、嬉々としてさくらにカメラを向けているが。
 さくらは小狼を見る。目が合う、どちらともなく視線を外す。もやもやする、晴れない気持ち。
小狼とのすれ違い、なんで小狼君はあんなに怒ったんだろう、なんで私は彼を怒らせたんだろう・・・

 試合が始まり、千春が目いっぱいの応援を披露する。その隣でさくらは冴えない表情で踊る。
小狼もさくらの方は見ずに、顔を伏せる。繋がらない心、通じない気持ち。

 やがて試合が終わる。小狼はスタジアムを出て、外でさくらを待つ。
が、チア部が服を着替え、ミーティングが終わって解散となった時点で知世にこう言われる。
「今日はさくらちゃんを貸してくださいな。」
語気は柔らかいが有無を言わせぬ知世の目。その目に押されて、仕方なく引き下がる小狼。
解散するさくらに知世が近づき、こう告げる。
「さくらちゃん、これから少しお時間を頂けますか?」
「え・・・な、何?」
「このあいだのマーチングのビデオ編集ができましたの、是非さくらちゃんに見てほしいですわ♪」
0118無能物書き垢版2019/02/19(火) 22:45:49.77ID:dAFl+7lX0
 大道寺家のシアタールーム、その映像を見てさくらは愕然とする。
小狼を追いかけていた映像。だが小狼は見物人を離れ、変身を解き、さくらのよく知る精霊へと変わる。
「ミラーさん・・・な、なんで?」
その後の映像も衝撃的だ。小狼が、苺鈴が、ウェイ、ステラ、林杏が走る。手に『封魔』と書かれた
お札をもって。
さくらを中心に三角形を描き、発動させる。そしてまた走る、悲壮な表情のまま、懸命に駆け、発動。
そして最後には力尽き、倒れる。やがて救急車で搬送される小狼。
「ウソ・・・そんな。」
小狼とデートし、喧嘩別れしたのはこの翌日のことだ。さくらには今、はっきりと小狼が
魔法を使うことを拒んだ意味が理解できた。理屈ではない、小狼の性格を考えるなら。

「一度、李君とじっくりお話をしたほうがいいと思いますわ。」
知世の提案にこく、と頷く。
さくらはスマホを取ると『小狼君』の画面を呼び出し、迷わず発信ボタンを押す。

「あ、もしもし、小狼君。あのね・・・」
0120無能物書き垢版2019/02/22(金) 01:55:23.40ID:3aq3UWmc0
>>119
ありがとうございます。さて、書きたかった話です、少し長め。
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第11話 さくらと小狼と夏の終わりの海

 8月30日朝、さくらは鏡の前で身だしなみを整える。
今日は小狼とお出かけ。ただし遊びではない、小狼と話をするのが目的だ。
とりあえず話したいことがいっぱいある、楽しくなくてもいい、知りたい、お互いをもっと。
そのための一日、さくらが考えに考えた末のスケジュール。
 そして出発前の最後の準備、さくらは引き出しからふたつの髪飾り付きの
髪留めゴムを取り出す、片方に2コ、左右で4コの赤い玉のついたそれを頭に結ぶ。
そして鏡をたたみ、振り返ってドアへ向かう。途中、ケロに出発を告げる。
「じゃあ、いってきます。」
おお!という表情のケロを尻目にさくらが出ていく。久々に見るさくらのあの姿。
「おー、気合い入っとるなぁ。」

 小狼は待ち合わせ場所のバス停で、落ち着く無くさくらを待つ。
あの一件の後、二人で会うのは久しぶりだ。彼女を泣かせてからしばらく会わず、
ここにきて彼女からの呼び出し、絶交を宣言されるのでは、という不安も頭をよぎる。
例えそうなっても、自分がさくらを魔力の呪詛から守る決意は変わらないだろう、
しかし、やはりさくらに嫌われるのは身を切るように辛い、それも自業自得ではある。
ただ、その未来を受け入れるには、小狼はさくらを好きになりすぎてしまっていた。
今日、さくらは自分に笑顔を見せてくれるだろうか、それとも・・・

「小狼君、お待たせ。」
そのさくらを見た小狼は、鼓動の高鳴りを抑えられなかった。いつも見てたのに、いつもと違う。
以前、自分がさくらを好きになった時を思い出す、なつかしいさくらのその姿。
さくらは髪型をハーフツインにして、懐かしい赤玉の髪留めで止めていた。
そう、小学生の時に、いつもしていたあの髪型、髪飾り。
中学生になってからは見なくなったその姿、小狼が恋をしたその髪型で、笑顔を向ける。
0121無能物書き垢版2019/02/22(金) 01:56:04.36ID:3aq3UWmc0
「ど、どう、似合うかな・・・久しぶりに使ってみたけど、やっぱ子供っぽい、かな?」
固まる小狼に、困り笑顔で問うさくら。小狼は首をぶんぶんと振り、赤面しつつ
向き直って言う。
「いい、似合ってる、本当に。」
「ホント、良かった〜」
花が咲くような笑顔を向ける。小狼が耐えきれずが視線を外した時、ちょうどバスがやって来る。
「じゃあ、行こっか。」
「え・・・どこへ?」
「行ってからのお楽しみ♪」
そう言って小狼の背中を押し、バスに押し込む。中に客はまばらで、二人は一番後ろに並んで座る。
 バスの中では、とりとめもない話をした。こないだのマーチングの、なでしこ祭の話、
今日は知世が尾行してないかとか、こないだのラクロスの試合の山崎の活躍に小躍りして喜んだ
千春の話とか、一足先に帰国した苺鈴、ステラ、林杏の話など。
そうこうしているうちに、バスが目的地に到着する、潮の匂い、どこかの海岸線だ。

 バスから降り、その海を見て既視感を感じる小狼。この海岸、その向こうの大きな宿舎、
そしてその先にある岩場、それを知っている。
「さくら、ここって・・・」
「覚えてた?そうだよ、林間学校で来たところ。」
さくらがにっこりと笑って、そして付け足す。
「私が初めて、小狼君とお話した場所だよ。」
記憶が巡る。そう、ここは確かにさくらと小狼が初めてカード以外で話した場所。
奈緒子の怪談話で寝られなくなったさくらが起き出し、外をウロついていて小狼と出会う。
そこで彼と彼の家族の話をした場所だった。
0122無能物書き垢版2019/02/22(金) 01:57:55.09ID:3aq3UWmc0
「確かその後、イレイズ(消)のカードを封印したんだったな、あの洞窟で。」
「うん、あの時も助けられたよね、いっぱい。」
そんなことはない、と言おうとして止まる。確かにさくらはあの時、皆が消えたことと
幽霊を恐れてパニックになっていた。当時はこんな娘が継承者候補かと思ったものだが
今思えば、苦手なものや困難にも泣きながらでも立ち向かっていくさくらの強さの
一端を見た出来事だった。

「今日はね、小狼君とお話ししたくてここに来たの。」
両手を広げてそう小狼に告げる。確かにもう夏も終わりで海水浴客はおらず、
宿舎を利用する団体もない。たまに海岸線を通る車のほかはほぼ無人、ふたりきりで
話をするにはもってこいのロケーションだ。

 二人は海岸を歩いて宿舎の前、かつて話をした階段へ向かう。そこにビニールシートを
長く敷いて並んで座る。夏の終わりの日差しを木の葉が程よく遮り、風はわずかに秋の気配。
心地よい環境にしばし浸る二人。

 少しの時を置いて、さくらが話かける。
「ね、小狼君って前に私を・・・す、好きだ、って、言ってくれたよね。」
「え!?あ、ああ・・・。」
突然のヘビーな質問に赤面する両者。
「・・・それって、いつ頃から、なのかな?」
「・・・分からない。」
確かに、小狼はさくらを『この時』好きになった、という明確な自覚は無かった。
張り合ってカードを集め、授業の体育で競い合い、一緒に雪兎に魅かれて・・・あ!
0123無能物書き垢版2019/02/22(金) 01:58:37.57ID:3aq3UWmc0
「多分、最初はあの時、だったと思う。」
「あの時?」
「ほら、リターン(戻)のカードを封印した時だ、月峯神社で。」
「あ、あったねー。あれ?でもあの時は小狼君、雪兎さんのことが好きなんじゃなかったっけ?」
はっ、として考え込む、そして現実問題に引き戻される小狼。かつて彼は雪兎の持つ
「月の魔力」に魅かれ、彼に恋心のような感情を抱いていた。
そしてそれは今現在、さくらが抱えている問題『魔力による他人の魅了』とほぼ同じ状態ではないか。
深刻そうな顔をして黙り込む小狼を見て、さくらが状況を動かす。

「私が小狼君を好きになったのは、小狼君が『好きだ』って言ってくれて、しばらくしてから、かな。」
「そ、そうなのか・・・」
少し残念そうな顔をする小狼、だが無理もない。さくらは雪兎に告白し、そして失恋するまで
さくらの『一番』は雪兎であり、小狼ではなかったのだから。
「私ね、最初に小狼君と合った時、イジワルされるかと思ってた。」
「え?」
「だって、いきなり『俺にカードをよこせ』だもん。」
「あ!す、すまない、あの時は。本当に悪かった、ごめん。」
律義に頭を下げる小狼にさくらが返す。
「でも、小狼君はイジワルどころか、何度も助けてくれたよね。ここでも、月峯神社でも、
ペンギン公園、図書館、東京タワー、劇の練習の時も、いっぱいいっぱい助けてくれた。」
ひと呼吸置いてさくらは続ける。
「だからね、小狼君は私よりずっと凄い人だって、立派な人だって思ってた。」
「そ、そんなことは」
「聞いて。だから私は小狼君がその、なんていうか、私のナイト様みたいに思ってた。
私より立派で、いつも私を助けてくれる、頼りになる、でも同い年の、特別な男の子。」
そんないいもんじゃない、と思いながらも、さくらの話を中断させまいと聞くに徹する。
0124無能物書き垢版2019/02/22(金) 01:59:44.23ID:3aq3UWmc0
「だからね、『お前が好きだ』っていってくれたあの時、それが全部無くなっちゃったの。」

さくらは小狼に告白されて、それまでの世界が全然違う世界にさえ見えていた。
あの小狼が自分を好き?その意味が分からない。今までの小狼像が霞に消えていく。
「いっぱいいっぱい考えたよ、私。私の気持ち、小狼君の気持ち、考えて考えて、
でも、答えは出なかった。
だけど知世ちゃんに連絡貰って、小狼君が香港に帰るって聞いた時、やっと分かった。
私は小狼君が好きなんだ、って。」
「そ、そうか・・・」

 大事なもの、それは失って、または失いかけて初めてその大切さに気づくもの。
さくらは小狼と一緒に居たかった、だが一緒にいてはその気持ちに気づけない、
小狼の『好きだ』をきっかけに、さくらはそれを失うことの悲しさを悟った、
ああ、木ノ本さくらは李小狼を好きなんだ、と。

「私が、雪兎さんに『好きです』って言った時の事、覚えてる?」
「あ、ああ。」
さくらはかつて恋をして、告白し、失恋した。そして小狼の胸で泣いたことがあった。
「雪兎さんは、雪兎さんへの『好き』と、お父さんへの『好き』が同じものだって言ってた。
実際にそれは似てたけど、あの時はそのワケまでは分からなかった、でも今は分かる気がするの。」
「ワケ?」
うつむいていたさくらが顔を上げ、続きの言葉を絞り出す。
「だって・・・私は雪兎さんに甘えられるけど、雪兎さんは私に甘えられないもん。」
0125無能物書き垢版2019/02/22(金) 02:00:33.03ID:3aq3UWmc0
「雪兎さんだって人間だよ、きっと怒る時だって、悲しむときだってあるよ、
でも私はそんなとき、雪兎さんを慰めてあげられない、元気づけてあげることが出来ない。
きっと雪兎さんは私の前じゃ我慢して、辛いことも悲しいことも隠して笑っちゃうよ、
私は雪兎さんにいくらでも甘えることが出来るのに。・・・これって本当、私とお父さんの
関係みたいだもん。」
 確かにそうだ。本来、人間ではない雪兎に失意の感情があるかどうかは分からない。
だがもしあるなら、それはさくらにも、そして小狼にも、癒してあげることは出来ないだろう、
そもそも雪兎がさくらに弱い所を見せるなどまず無い。そういう人だ、月城雪兎という人は。

「好き、っていう事はきっとそういう事なんだと思うの。その人が何かをしてくれる、
そして何かをしてあげられる、だから一緒にいたいと思うんだよ、きっと。」
そこまで言ってさくらは立ち上がる。そして階段をひとつ降りて、小狼の正面に立ち、
顔を近づけて小狼に告げる。

「・・・だから小狼君、私も小狼君に何かをしてあげたい、小狼君の役に立ちたい!
小狼君に助けられる『だけ』の私でいたくないの!」

 さくらは知っている、小狼がさくらに何かを隠して、一人で苦労していること。
それがさくらの為であること、そしてさくらにそれを語らないことも。

「私にできることがあったら言ってね、私も小狼君が『大好き』だから。」
胸に手を当て、小狼の目の前でさくらはそう宣言する。
「あ・・・」
頬を赤らめながらも、それ以上にさくらの『決意』を感じ、目線をそらさずさくらを見る。
彼は嬉しかった。自分の好きな人が、自分の力になりたいと言ってくれる。
それは何より力強く、そして頼りになる言葉だった。ひとりで悩まなくてもいいんだ、
小狼はその時、今までよりまた一歩、さくらとの距離が近くなった気がした。
0126無能物書き垢版2019/02/22(金) 02:01:27.33ID:3aq3UWmc0
「ありがとう。」
俯いて答える小狼、しばし間を置き、顔を上げてさくらに向き直る。
「じゃあ、ひとつだけ言っておきたい。」
「うん!」
真剣な小狼の眼差しに、頼られることの嬉しさを感じてさくらは笑顔で答える。
「・・・俺は、お前が好きだ。」
「ほぇっ!?」
予想外の答えに戸惑い、赤面して困惑するさくら、構わず続ける小狼。
「聞いてくれ。その気持ちは、俺の『本当の気持ち』だ。誰にそうさせられたわけでも
強要されたわけでもない、俺自身が、さくらを好きなんだ。」
一度区切って、言葉を紡ぐ。
「今は、それだけを心に止めておいてくれれば、嬉しい。」
 さくらは知る由もない。それは小狼のさくらへの好意が、さくらの魔力に
よるものではなく、純粋に李小狼という人物の本心であるという意図を。
いつかさくらが自分の魔力の暴走に気づいた時、少なくともここに一人、純粋な
「なかよし」がいることを知ってもらう為の言葉だった。

 が、それを理解しないさくらは混乱する。いきなり面と向かってそう言われると
顔が熱をもってしょうがない。小狼君の役に立ちたいと思って言ったのに、帰ってきた返事が
告白だったのだから。
でも、嬉しい。それは事実だ。少し落ち着くとさくらは、その思いに応えたい、という
感情が沸いてくる。そうだ、私は小狼君が好きだ。そして小狼君も私を好きだと言ってくれた。
そんな思いに応える方法は・・・
0127無能物書き垢版2019/02/22(金) 02:01:57.79ID:3aq3UWmc0
 さくらは自然に体を、顔を、小狼に近づける。『行為』を意識したわけではない。
ただ小狼への思いが、もっと近づきたい、近くにいたいと彼との距離を詰める。
顔と顔が10センチまで近づいた時、真っ赤になった小狼が声を出す。
「お、おい・・・」
「あ・・・」
小狼の指摘でさくらも気付く、このシュチエーションが意味することを。
ああ、こういう気持ちなんだな、好きな人同士が、キスをするというのは。
さくらはその流れに、感情に逆らわず、すっと目を閉じ、口を紡ぐ。あとは・・・

 どちらからともなく交わされる、初めてのキス。
唇が軽く触れるだけの、ささやかなものであったが、それでも最初の一歩、初めての
愛のスキンシップ。

 数分後、恥ずかしさにのたうち回るさくらと、全身真っ赤なまま像のように動かない小狼の
姿だけが木漏れ日の中にあった、知世がいたら恰好の被写体になっていただろう。

 さくらの作ってきたお弁当を二人で食べ、その後は宿舎や洞窟を散策する。
一通り回って後、海岸線を散歩しながら、さくらは小狼に問う。
「でもでも、雪兎さんもだけど、小狼君が困ってたり怒ってたりするのって、
なんか想像できないよね。」
普段からおこりんぼな印象はあるが、本気で怒りをあらわにしたり、悩みに潰されて鬱になる
イメージは無かった。
「そんなことはない!」
強い調子で小狼は返す。
「俺だって、嘆いたり、怒ったり、憂鬱になったりは・・・する。」
さくらにとってそれは意外な言葉だった。さくらくらいの年齢なら誰でも精神的にナーバスに
なることがあって当然だ。しかし李小狼という人物に、それを当てはめるのは難しかった。
0128無能物書き垢版2019/02/22(金) 02:02:30.93ID:3aq3UWmc0
「覚えているか、2年前、クロウカードの最後の審判の後の、夏休み。」
「ほぇ?」
いきなりそう言われても記憶にない。カード集めがすべて終わり、普通に夏休みを
過ごしていたはずだ。そして、そこに小狼との思い出は・・・無かった。
「俺は、さくらとずっと会わなかっただろう、実はあのとき俺、すごくダメになってたんだ。」

 小狼が日本に来た目的、それはクロウ・カードの起こすこの世の災いを阻止するため。
しかし本音の部分では、自分がカードの主となって、より強い魔力を手に入れたいと思っていた。
またそうすることで、李家の次期当主としての力量を示すことになると信じていた。
 しかし現実は非情だった。審判でユエに手もなく破れ、カードの主の座を女の子に奪われた。

「でもでも、あの時は、瑞樹先生が私にもういちどチャンスをくれたから・・・」
「そう、『さくらに』チャンスをくれたんだ・・・俺じゃなかった。」
言葉に詰まるさくら。同じカード集めをしていながらも、確かに自分が優遇されていることを
今更ながらに感じ、気持ちが沈むのを自覚する。
「ユエに負け、さくらに負け、瑞樹先生やクロウ・リードに『お前じゃない』って
言われた気がした。悔しかったよ、暴れたり、物に当たったり、大声でわめいたりしてた。
とてもあの時の俺は、さくらに見せられるものじゃなかったよ。」

「そうなんだ・・・」
それだけを言う、それ以上はかける言葉が見つからなかったから。
「だけどそんな時、ウェイにこう言われたんだ。」

−おやおや、李家の跡取りともあろうお方が、人様の作ったカードで簡単に強くなる
 おつもりでしたか?−
−そんな便利なものは、女の子に、さくらさんに差し上げてしまえばよいのですよ
 男子たるもの、己の力でこそ強くあらねばなりませんー
0129無能物書き垢版2019/02/22(金) 02:03:07.43ID:3aq3UWmc0
「俺は、そのウェイの言葉に救われた。」
その話を聞いたさくらは、心にじわっ、と染み渡る感情があった。
私とは違う葛藤。そう、男の子だ。男の子の世界のお話だ。小狼とウェイの男の世界、考え方。
好きになった人の、自分の知らない心の世界に感動するさくら。
「で、夏休み中ずっと、ウェイに修行をしてもらってたんだ。」
「・・・素敵な話、だね。」
「いや、恥ずかしい話だよ。」
そんな話も、今のさくらにはためらわずに話せる。これからもこういう話を聞いてほしいと思う。

「そういえばウェイさんって、小狼君と苺鈴ちゃんの格闘技の先生なんだよね、やっぱり強いの?」
その言葉を聞いた小狼がさーっ、と青い顔になる。
「強いなんてもんじゃない・・・魔力は俺のほうが強いけど、実際に戦うとなると俺や苺鈴はもちろん、
母上やユエや、カードを使ったさくらでも・・・下手すると柊沢より強いかも。」
「ほぇーっ」
いつもにこやかな顔を絶やさない初老の紳士、そんなイメージだったウェイがあのエリオル君より?
ちょっと想像できない世界である。

「でもな、立ち直ったとはいえ、やっぱりさくらにどんな顔をして会えばいいのかは
分からなかった。」
勝者と敗者、得た者と失った者、そんな二人が今まで通りの関係を続けるのは困難かもしれない。
「え?でもでも、小狼君と2学期に会った時は全然普通だったと思うけど・・・」
その言葉に、えっ!?と言う表情で引く小狼。
「お前・・・覚えてないのか?」
さくら、ではなく、お前、と言うほど動揺する。
「何が?」
「おま・・・さくらと俺は新学期の始業式、日直だったんだよ。」
「あ!そうだったそうだった、覚えてる覚えてる。それで?」
「やっぱり覚えてないのか・・・」
頭を抱える小狼。さくらは頭の上にハテナマークを浮かべている。
0130無能物書き垢版2019/02/22(金) 02:04:43.37ID:3aq3UWmc0
「あの日、俺が先に教室にいてさ、さくらは歌を歌いながら入ってきたんだ。」
その能天気な歌を聞いた時、小狼は自分の不安の馬鹿馬鹿しさに気が付いた。
勝者とかカードの主とかは関係なく、彼女は普通の女の子なのだから。
「え、歌?そうなんだ・・・」
うーん、と考えるさくら。あのとき私、歌なんて歌ってたっけ、どんな歌だったかなぁ。
流行りの曲はあまり聞かなかったし・・・知世ちゃんの歌だったのかな?

 ふと小狼を見上げ、さくらの頭上に電球がぱぁっ、と輝く。
「そうだ小狼君!歌ってくれない?そのときの歌!!」
「え”!」
「前の約束!一緒に劇の練習してたとき、香港の学芸会で歌を歌ったって。
確かあの時、いつか小狼君の歌を聞かせてね、って約束したよ!」
記憶を辿る。白樺の木の上と下で、確かにそんな話をしていたのを思い出す。
「だから歌って!その時の歌。私もどんな歌を歌ってたか忘れっちゃってるから
是非歌って思い出させてほしいな。」
子供のような笑顔でおねだりするさくら。本音を言えば歌の内容はどうでもいい。
小狼の歌を初めて聞けることがさくらにとって重要だった、このチャンスは逃さない、
とばかりに小狼にかぶりつくさくら。

「い、いいんだな!」
「うん♪」
「じゃ、じゃあ歌うぞ・・・」
「わーい。」
ぱちぱちと拍手をして待つさくら。小狼はすぅっ、と息を吸い込み、右手でマイクを
持つ仕草をして歌い出す、『あの歌』を。
0131無能物書き垢版2019/02/22(金) 02:05:29.52ID:3aq3UWmc0
「日直日直にっちょくちょく!夏休み〜の〜宿題も〜何とか終わったし〜♪」
歌い出してすぐ、笑顔のままさくらの目が点になる。やがて黒歴史の記憶が、さくらの意識を
真っ黒に染め上げていく。
「ほ、ほえぇぇぇ〜〜〜〜」
「日誌を付け〜て〜、お花〜変えて〜みんなの机をキレイにしよう♪日直日直わたしの・・・」
「ストップ!ストーップ!!もういい、もういいよ〜」
小狼にしがみついて歌を止めるさくら。

「ああああ・・・小狼君の初めて歌ってくれた歌が・・・」
頭を抱えて後悔するさくら。はじめての歌がよりによってコレとは。黒歴史を黒歴史で
上塗りしてしまったことを後悔する。ああ、記憶を消して違う歌を歌ってほしい・・・
「くっくっく・・・あはははははは。」
そんなさくらのリアクションと、その原因である自滅との可笑しさに思わす笑う小狼。
「笑うなんてひっどーい、もう、小狼君!」
ぷぅっ、と膨れて怒るさくら。しかし自業自得である以上それ以上強くも言えない。
「あはは・・・すまない。でもやっぱ可笑しくって、クックックッ」
ふと、さくらは膨れながら思う。こんなに屈託のない笑い顔の小狼君を見るのは初めてだ。
どこか大人びた印象のある彼の、まるで子供のような笑顔、それを見ていると黒歴史はどこへやら
こっちまで楽しくなってくるのがわかる。なんか当時の私の滑稽さが、自分にも面白おかしく
感じられてきた。
「あははははははははは・・・」
「はっはっはっはっは・・・」
海岸線で大笑いする二人、日は西に落ちていき、海と空と砂浜をを、紅に染め上げていく。
0132無能物書き垢版2019/02/22(金) 02:06:03.88ID:3aq3UWmc0
「そろそろ帰ろうか。」
「うん。」
自然に手を出す小狼、自然にその手を掴むさくら。ふたりは気持ちも一つに砂浜から
道路に上がり、そのままバス停に向かう。
と、さくらの提案。
「ねぇ、バス停まで一緒に歌お。」
「いいけど、・・・何の歌を?」
「さっきの歌。」
言ってにっこりと笑うさくら。海の波は夕日を反射し、二人をまばゆく、優しく包む。
潮騒も、夕日が落とす二人の影も、すべてがこの二人を見守っている。

 手を振って、大仰に行進しながら高らかに歌う二人。
「「日直日直にっちょくちょく!夏休み〜の〜宿題も〜何とか終わったし〜♪」」
通りの少ない海岸線道路、その先、ずっと先まで、二人は歩いていく、未来へ。

「日誌を付け〜て〜、お花〜変えて〜♪・・・ん、どうした?」
突然歌を止めるさくら。爽やかだった顔がみるみるギャグ的に青くなっていく。
「ほ、ほえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!夏休みの宿題まだ残ってたあぁぁぁっ!!!」
「何だって!?もう明後日は始業式だぞ!!」
「お願い!小狼君、手伝って〜!」
「宿題は自分の力でやらなきゃダメだろう!」
「でもでも、私ひとりじゃとても無理〜」

 バス亭にダッシュする二人。日は暮れ、夜になり、

 そして、秋が来る−
0133CC名無したん垢版2019/02/22(金) 08:36:22.43ID:wWbAWaIN0
「お父さんへの『好き』と同じ」ってそういうことかもしれないね
はじめてストンと落ちる解釈に出会ったよ
小狼の空白の夏休みもうまく使えてる
乙!
0134CC名無したん垢版2019/02/22(金) 13:40:43.06ID:4HqvqGdR0
うわあああすごくいい話だ
ここの住民しか読めないのもったいないくらいだ
0135CC名無したん垢版2019/02/23(土) 07:24:45.25ID:bFcTc1iH0
シーンまで想像できて、こっちが正史だと記憶がすり替わりそう
0136無能物書き垢版2019/02/25(月) 00:39:15.82ID:MNoq0k+G0
ちょっと息切れ気味なんで気分転換。
http://imepic.jp/20190225/021740(下手絵注意)

・・・話考えるより疲れたw
0137無能物書き垢版2019/02/25(月) 00:47:06.82ID:MNoq0k+G0
感想忘れてどーするw
>>133
私なりの見解ですけど、雪兎に対する「好き」は、アイドルや王子様といった
女の子の「憧れ」を具現化したものだと思ってます。気に入ってもらえて何より。
>>134
ありがとうございます。世に出るとすさまじい勢いで叩かれるのは目に見えてますので
ここでひっそりとやっていきたいと思ってます、こういう時、過疎板は便利ですw
>>135
私自身も「アニメ・クリアカード編」の消化不良にアレ?と思ったクチですから。
少しでもそれを補完できるストーリーを目指してはいます。おこがましいですが・・・
0138CC名無したん垢版2019/02/25(月) 08:59:54.73ID:8C4uf4hZ0
>>136
全然上手いじゃんか!
続き楽しみにしてるけどマイペースでええでー
0139CC名無したん垢版2019/02/26(火) 19:22:54.68ID:WsUzTmyD0
絵まで書いちゃうなんてすげえ
0140無能物書き垢版2019/02/27(水) 01:17:45.76ID:16GnSLmW0
>>138-139
あんがと。受け入れられて良かった。ドン引きされたらどうしようかと・・・
そもそも「こにゃにゃちわー」を忘れてるよ俺orz

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第12話 さくらと部活と新学期

『それでは次に、夏休み中のクラブ活動、成績優秀者の発表を行います。』
始業式、友枝中体育館において、校長の長〜い話の後、そうアナウンスされる。
壇上に上がる4人の男子生徒、そのうちの一人は、さくらもよく知る人物。

「男子ラクロス部、関東大会準優勝、よく頑張ったね、おめでとう!」
校長先生直々に、賞状とトロフィーが手渡される、主将と副主将がそれぞれを受け取る。
「また、壇上の4名は本大会において、優秀選手賞も受賞しました。」
さすがに『最優秀選手賞』は優勝チームに持っていかれたが、それでも全10名の
優秀選手賞のうち、4つを友枝中チームは獲得していた。
「和田祐樹主将、立原昇副主将、藤田正和君、そして、山崎隆司君、おめでとう!」
4名にそれぞれ賞状が渡される。それと同時に体育館に拍手が沸き起こる。
 中でも注目を集めているのは、一年生にしてレギュラーとして活躍し、チームを
決勝まで引っ張った一人として認められた山崎だった。
『それでは次、夏休み期間に行われたなでしこ祭の・・・』
0141無能物書き垢版2019/02/27(水) 01:18:28.99ID:16GnSLmW0
 お昼休み、いつもの面子でいつもの中庭、お弁当を広げつつの話の話題は
やはりラクロス部に所属する山崎が中心になる。
「なんかねぇ、ボクの顔を見た相手選手が油断するみたいなんだよ・・・マークも全然されないし。」
不本意そうな顔でそう語る山崎。
「まぁ、緊張感や闘志とは無縁な顔してるもんね、山崎君は。」
「おかげで『友枝中のステルス戦闘機』なんてアダ名が付いてるのよ。」
奈緒子の感想に、千春が解説を入れる。男子ラクロスはフィールド球技と格闘技の
両方の性質を持つ。当然選手は皆、ヘルメットの中で厳しい表情を見せる。

 そんな中、山崎ののほほんとした表情は、どこか緊張感や警戒感を薄れさせる
効果があったようだ。
元々日本ではあまりメジャーでない競技、関東大会でもチーム内に1〜2名は
初心者がいるチームも珍しくない、山崎もまたそういう目で見られ、実際初心者でもあった。
 しかし彼の身体能力は並ではなかった。長身に加え瞬発力、持久力に優れた彼は
小学校時代からスポーツイベントでは多くの活躍を見せていたほどの実力があった。
 試合が進み、相手チームが山崎をマークするころにはもう手遅れであった、
序盤で点数を稼ぎ、逃げ切る友枝中のスタイルは、万年1回戦負けの友枝中を
決勝まで進出させるに至ったのだ。
「はぁ、おかげで目標だった『落語研究会』の創設が・・・」
「作らなくていいわよ!」
折角カッコよくなった山崎が、また笑いの世界に走ってはかなわないとツッコミを入れる千春。
0142無能物書き垢版2019/02/27(水) 01:19:02.51ID:16GnSLmW0
「でも次からは警戒されるだろうし、戦力補給が急務なんだよね、ウチの部。」
言って山崎はちらりと小狼の方を見る。
「ここに一人、格闘技と球技が得意そうな、有望な人材がいるんだけどねぇ〜」
その言葉に全員が小狼に注目する。
「い、いや・・・俺は駄目だ。やらなきゃならない事があるからな。」
その小狼の言葉にがっくりと肩を落とす山崎、そして、さくら。
「前にもおっしゃってましたわよね、まだその御用は終わらないのですか?」
秋穂が訪ねる。もう二学期なのに、と心の中で付け足して。
 その隣で知世が優しい眼差しを向ける、彼の最重要の用事は、さくらの事であることは
間違いないと確信をもっている、さらっと言葉でその背中を押す知世。
「李君がラクロス部に入部したら、きっと優勝も夢ではないですわ、そうすれば
さくらちゃんの応援もますます可愛くなること請け合いですわね♪」
あ、そっちなのね。という表情で知世を見るさくら。知世にとっての最優先事項も
やっぱりさくらのようだ。

「さて、ラクロスって言うのはねぇ・・・」
満を持して山崎の解説が始まる。例によって真剣な表情で聞き入るさくら・小狼・秋穂。
始業の予鈴が鳴る頃には、千春のツッコミの声と音が中庭に響き渡る。
「本職がもっともらしい嘘を教えるなーっ!」
−すっぱあぁぁぁん!−

 放課後、チアリーディング部は2学期最初の活動を迎えていた。
その内容は『3年の引退式と引き継ぎ』である。3年生は来年の高校受験に備えて今日で引退、
短い間だったが、お世話になった先輩との別れを惜しむさくら達。
新たなキャプテンも決まり、新体制のチア部発足となる。終わりに3年生から最後の演技を
披露される、なでしこ祭でも見た先輩たちの見事な演技、その技術を、精神を、
さくらたちは受け継いでいく、自分たちが卒業する時、後輩に渡すその時まで。
0143無能物書き垢版2019/02/27(水) 01:19:33.98ID:16GnSLmW0
 下校中、さくらは充実感を感じていた。部活動に所属するという事の自覚と責任、
人とつながり絆が生まれる、多くの仲間と一つの目標に向かって邁進する、
喜びも悲しみも分かち合う、そんな仲間たちとの青春の1ページ。

「さくら!」
ふと我に返る、目の前に私服姿の小狼が立っている。
「あ、小狼君!」
「今帰りか、お疲れ様。」
小狼は買い物袋を下げている、例によって夕食の食材の買い出しの帰りにばったり
部活帰りのさくらと遭遇したわけだ。
「送っていくよ。」
そう言う小狼に笑顔で返す。
「うん!」
思わぬ幸運にさくらの顔もほころぶ、帰宅までのわずかな時間、一日のおもわぬご褒美。

「ねぇ、小狼君。」
「なんだ?」
「やっぱりまだ、部活とかは出来ないの?」
自分が今味わっている充実感、出来れば小狼にも体験してほしかった。
そんな彼の行動にブレーキをかけている原因が、自分だとうすうす気づいているから尚更だ。
「ああ。でも『まだ』じゃなくて・・・俺は、部活動をする気は、ない。」
「どうして?」
不思議そうに見上げるさくら。小狼はさくらの正面に向き直り、こう言った。
「俺には、魔力があるからな。」
「・・・え?」
0144無能物書き垢版2019/02/27(水) 01:20:02.17ID:16GnSLmW0
 理解できない、といった表情で小狼を見るさくら、それを察して小狼が続ける。
「例えば、俺がラクロス部に入ったとして、試合で魔法を使って勝ったとしたら、どう思う?」
さくらはありえない、という表情で返す。
「もちろんダメだよ、それに小狼君はそんなこと絶対にしない!でしょ?」
「じゃあ、俺が全力を出さずに、手を抜いたプレイをしたとしたら?」
「それも絶対にないよ、だって・・・だって小狼君だもん!」
自信を、いや確信を持って言える。さくらの知る李小狼という人間に、そのどちらも当てはまらない。

「今、俺が言ったふたつの仮定が、矛盾していることに気づいたか?」
「ほぇ?」
理解が追い付かず、ついつい口癖が出るさくら。
「なぁ、さくら。全力、ってどういう字を書く?」
「全ての力を使う、でしょ・・・あ!」
全ての力。それはその人間の持っている力をさす。運動神経、頭脳、筋力、センス、
そして・・・小狼やさくらにとっては『魔法』も力の一つであることに違いは無い。

「魔法を使わなければ、俺は全力を尽くしていないことになる。かといって魔法を使えば、
勝負にすらならなくなってしまう、相手も仲間も、彼らのしてきた努力すら無駄にしてしまうほどの
反則な力・・・そんな力がある俺が、みんなの競技の邪魔をする訳にはいかないんだ。」
「そんな・・・小狼君、真面目すぎるよ!」
反論するさくらに、小狼は悲しい目をして告げる。
「『特別』な力を持つっていうのは、そういう事なんだ。」
0145無能物書き垢版2019/02/27(水) 01:20:35.49ID:16GnSLmW0
「俺は香港でいる時、学校で魔法を使った事があるんだ。」
小狼は話す。彼の家が香港で有名な魔術の家で、あちらでは日本より魔法の存在が
信じられている事、そんな中、学校に起こった魔法による災い、魔力を持った低級な霊が
クラスメイトを傷付けようとして、とっさに魔法を使ったこと。
そしてその一件以来、小狼が学校で孤立してしまったこと、まだ小学2年生の時の話だ。
恐れられ、特別視され、羨ましがられる。幼いクラスメイトにとって、その力が小狼にあって
自分たちに無いことは、受け入れがたい不公平であった。

「よくケンカを仕掛けられたよ。俺が負けたら『魔法を使えよ、手を抜くな』って言われて
勝ったら『魔法使ったんだろ!』って言われる。ケンカだけじゃない、体育の授業でも、
ずっとそうだった。」
さくらは言葉もなく小狼を見ていた。そして初めて日本に来た頃の彼を思い出す。
不愛想で、余裕が無くて、いつも張り詰めている。初めて桃矢と合った時、ためらわずに
ケンカをする姿勢を取った小狼。それは彼の香港での日常をそのまま映していたのだ。

「俺は、日本が、友枝町が好きだ。」
そう言ってようやく笑顔を見せる小狼。
「だから、この日本での日常を壊したくない。俺は、怖いんだ。魔法を使って恐れられることが、
魔法を使わずに、全力を出さなかったことが仲間に知られることが・・・だから、部活は出来ない。」
「・・・そう。」
さすがにしょんぼりするさくら。小狼の境遇ももちろんだが、そんな彼に対して何もしてあげられる
事が無いことが悲しかった。この前、海で「力になりたい」と言ったばかりなのに・・・
0146無能物書き垢版2019/02/27(水) 01:21:04.96ID:16GnSLmW0
 その瞬間、周囲が闇に包まれる。夕焼けの通学路は一瞬にして漆黒の闇へと姿を変える。
「さくら!」
「小狼君!これって一体・・・」
と、さくらは思い当たる気配があった。今年に入ってから経験してきた不思議な現象、さくらだけが
感じられる魔力の気配と、それを固着することによるカードの入手。
それに気づいた時、どさっ、と地面に人が倒れる音。小狼が地面にうつぶせに倒れ、
苦しそうな表情をさくらに向ける。
「小狼君っ!!」
駆けつけるさくら。小狼を抱きかかえようとするが、小狼がそれを制する。

「いいから・・・カードを、封印、するんだ。」
小狼には既視感があった。これは、何者かに魔力を封じられている状態、急速に眠気が襲ってくる。
かつて柊沢エリオルと対峙した時に感じた、魔力封印の圧。
「俺にかまうな、カードを封印してしまえば、元通りになる・・・」
「分かった!待ってて小狼君!」
闇に向き直り、首に下げている夢の杖を取り出す。
「レリーズ!」
杖をかざし、構える。目を閉じ、闇の中で気配を探る。いる!
「主無き者よ!夢の杖のもと・・・って、速い!」
気配は縦横無尽に動いている、闇の中で。とても姿の見えないさくらがピンポイントで
固着できる状況ではなかった。

「なんとか動きを止めないと・・・」
そう嘆くさくら。その声を聴いた小狼は、ひとつの方法を思いつく。が、それを実行するのは
不可能であった。魔力が失われている自分にそれをする術はない。
体を起こそうとして、力が入らず転がる。その勢いでさくらの反対方向に向く小狼。
「あ・・・」
さくらの反対側、闇の向こうにうっすらと景色が見える。さっきまで歩いていた通学路、
この闇は、さくらに近づくほど濃くなっている、ということは・・・。
0147無能物書き垢版2019/02/27(水) 01:21:33.35ID:16GnSLmW0
 力を振り絞って、体を横に転がし闇の外を目指す。やがて闇から転がり出る小狼。
それと同時に、彼は何事もなかったかのごとく体力と、そして魔力が戻っていることに気づく。
 この空間は、魔力を『奪う』んじゃない。魔力を『封じる』空間なんだ。
目の前にあるドーム状の闇を見据えて立ち上がる、これなら出来る、さくらの力になれる。
 小狼は魔力を開放し、宝玉のついた剣を取り出す。その宝玉に封じられている精霊から
最高位の一体を呼び出す。
「闇を照らせ、ライト(光)!」
今度こそ小狼の魔力は急激に失われていく。クロウ・カード改めさくらカードの中でも
ケルベロス配下第一のカードであるライトの発動は、小狼の魔力を容赦なく奪っていく。

「固着(セキュア)!セキュアっ!」
闇の中、気配を頼りにな何度も夢の杖を打ち据える。しかし目標には命中せず、さくらの杖は
むなしく空を切り続ける。早くしないと小狼君が・・・
 その瞬間、さくらの頭上に太陽のような光球が出現する、それは瞬く間に拡大し、さくらの周囲を
明るく照らし出す。その中にいるのはさくらともう一人、ローブを纏った老人のような精霊。
それは突然の光に目を抑え、動きを止めていた。今がチャンス!
「主無き者よ、夢の杖のもと我の力となれ、固着(セキュア)!」
老人に杖を打ち下ろす。その瞬間、老人は光の泡となり、杖の周りに収束されていく。

 光が消え、闇が晴れ、残ったのは1枚のカード。
それを手に取ると、すぐに小狼を探すさくら。さっきの光、あれはもしかして・・・
いた、小狼君。剣を杖にしてへたりこんでいる。使ったんだ、魔法を。
「小狼君!大丈夫!?」
駆けつけるさくらに、顔を上げて答える小狼。
「ああ、大丈夫。それより、カードは・・・?」
「うん、封印できたよ。これ・・・」
二人してカードを覗き込む、そこには先ほどのローブの老人とともに、こう書かれていた。
0148無能物書き垢版2019/02/27(水) 01:21:58.32ID:16GnSLmW0
『封(sealed)』

「封・・・封印系のカードか。俺の魔力を封じていたのもこのカードの力だったんだな。」
「魔力を・・・封じる。」
さくらはそう嘆く。ここの所のカードの出現は、その時のさくらの思いに対応した能力を持つ
カードばかりだ。マーチングの練習の時には『律動』、そして今、小狼君が魔力にとらわれず
自由に部活をできるようにと思った時には、この『封』。
うすうす気づいていたけど、やっぱりこのカードは、私の魔力が生み出している。
さくらは少しづつ、この透明なカードに不気味さ、怖さを感じていた。

 と、小狼が突然、そのカードを手に取り、食い入るように見入る。
彼は、ひとつの可能性を感じていた。
「(もし、このカードでさくら自身の魔力を抑えることが出来たら・・・)」
今現在も進行しているさくらの魔力の影響、それを抑えることが出来るかもしれない。
「さくら、このカード、役に立つかもしれない。」
「え?」
「だから大事に持っていてくれ、でも使うなよ、よくないことが起こるかもしれない。」
「うん、分かった。」
小狼の真剣さにさくらも頷く。元々小狼君に役に立てたいという思いが生んだカード・・・だと思う。
大事にしないという選択肢は無かった。

「(あとは、柊沢。お前が日本に来られれば・・・)」
小狼は手を打っていた。エリオル達が日本に来られるようにする手を。

 その時こそ、事態は動き出す、きっと、いい方向に。
0150無能物書き垢版2019/03/02(土) 00:23:06.59ID:00UdefLf0
>>149
無茶振りすぎるー!ハードル上げんといてー(ケロ風)
本編と言えば、面白くなってきましたねぇ、まさか小狼が子供化するとは。
0151無能物書き垢版2019/03/02(土) 00:24:10.55ID:00UdefLf0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」
第13話 さくらとみんなのお墓参り

−これは、夢?−

久しぶりに見る夢。大きな歯車と、その上に立つフードを被った人、
その向こうに、大きな大きな・・・真っ黒い蛇のような生き物が浮かんでいる。
たぶん、竜。そう呼ばれる現存しない生き物、それらがこちらを向いている。
フードを被った人がふと、身をひるがえし背中を向ける。そして竜に向かって
歩いていく、空中を、まるでそこに道があるかのように。

 ふと、その人のフードが取れる、そのまま風に任せてフード全部が脱げ、空を舞う。
その中にいた人、男の子。私のよく知っている、私の大好きな人の後ろ姿。
彼はそのまま竜の頭に乗る。ダメ、そっちに行ってはいけない。
竜の遥か後ろ、遠くに一つの縦に伸びる線、柱。いや、行かないで!

 彼から離れたフードがふわりと舞い、さくらのすぐ後ろに飛んでくる。
そのフードの中には、いつのまにか別の人。さくらのよく知る娘がいつのまにか
そのフードを纏っていた。
黄金色の髪、胸の前でくるくる巻きにした髪型、柔らかで、寂しそうな、まるで
秋に揺れる麦帆のような金色の髪、彼女の名前をそのまま光景にしたような、髪の毛。

 ふり向くさくら。彼女はそのフードを纏ったまま、歯車の動く下へ落ちていく、ゆっくりと。
少年は竜に乗り、ゆっくりと昇っていく。柱に向かって、その頂上にある十字架に向かって。

ダメ・行っちゃだめ!いや・・・行かないで!

前方の昇っていく少年に、後ろの落ちていく少女に、さくらは呼びかける。
と、少年がさくらの方を振り向く。少女がさくらを見上げる、そして二人は同時につぶやく。

−お前はもう、戻れない−
−あなたはもう、戻れません−
0152無能物書き垢版2019/03/02(土) 00:24:50.18ID:00UdefLf0
 悲しい夢を見て、目が覚める。
「夢・・・」
さくらは泣いていた。どうしてなのかは分からない、ただ、大事な大事なものが無くなる、
そんな喪失感に満たされて。
むくりと上半身をベッドから起こす。夢、だよね。うん、夢だ。夢でよかった・・・

 外を見る、まだ朝は早く、景色も薄暗い。時計を見る、朝の5時半。
前を見る、小さな星のペンダントが宙に浮いている。これは・・・夢の杖?
さくらは静かにそのペンダントを手にする。呼んでいる、そんな気がして、静かに呟く。
「レリーズ。」
ペンダントが杖へと変化する。その杖を取り、目の前の虚空に掲げて言う、封印の言葉を、
生気のない、悲しい声で。
「主無き者よ、夢の杖のもと・・・わが力となれ、固着(セキュア)」

 杖の先に光の粒子が舞い、やがてひとつのカードとなる。ふわり、とさくらの
目の前に舞い、止まる。それを手に取り、名前を見る。
「フューチャー(先)・・・」
さっきの夢で見たフードを被っている、少年とも少女とも分からない人物が描かれたカード。
そのカードはどこか寂し気で、そして・・・少し怖かった。カードそのものよりも、
これを使った結果が。

「うーん、こら・・・スッピー、そのたこ焼きはワイのや・・・」
場違いな寝言が聞こえた。と、さくらは現実に引き戻される。
ケロちゃんの寝言、自分の部屋、ベッド、ようやく夢から現実の日常に戻った気がする。
「ありがと、ケロちゃん。」
起こさないようにそう囁くと、ベッドから起き出し、服を着替える。

 今日は特別な日、さくらにとっても、木ノ本家にとっても。
0153無能物書き垢版2019/03/02(土) 00:25:25.66ID:00UdefLf0
「もう10年ですか、早いものですね。」
さくらの父、藤隆が車を運転しながら、桃矢とさくらに話す。
 今日はさくらの母、撫子の10回忌。母と繋がる人々の、ひとつの区切りの日。
車は走る、郊外にある彼女の墓へ。それぞれの思いを乗せて。

 お供えの花をヒザに乗せたさくらが、藤隆と桃矢に問う。
「ねぇ、お母さんってどんな人だった?」
彼女が無くなったのは、さくらがまだ3歳の時。母の記憶は、その笑顔しか無い。
「そうですねぇ・・・明るくて、いっしょにいるだけで楽しくなる人でしたよ。」
「少なくとも怪獣じゃあなかったなぁ。」
感慨深く答える藤隆に対し、桃矢はさくらを茶化す。
「お兄ちゃん!」
「ははは、今日はいろんな人が来るから、聞いてみるといいですよ。」

 やがて車は秋の空の下、郊外の墓地の駐車場に進み、止まる。
車を降りたさくらを迎えたのは、いつも見ている黒髪の少女と、その母親。
「知世ちゃん。」
「おはようございます、さくらちゃん。」
「今日も可愛いわねぇ〜、さくらちゃん、こんにちは。」
相変わらず母娘そろってさくらに夢中である。周囲にいるボディガード達も
サングラスの下で、やれやれ、という表情を隠す。
「園美さん、よく来てくれました。」
「ふ、ふん。そりゃまぁ、撫子の10回忌ですもの、私が来ないとでも?」
藤隆に斜に構えながら園美が返す、さすがにさくらの手前、藤隆とやり合うわけにはいかない。
0154無能物書き垢版2019/03/02(土) 00:25:59.77ID:00UdefLf0
「父さん、ひいお爺さんも見えてるよ。」
桃矢が後ろを指さす。そこには撫子の祖父、さくらと桃矢の曽祖父である老人、雨宮真嬉。
「おっと、いけない。挨拶してきます。」
「私も行くよ。」
さくらと藤隆は真喜のもとに向かう、さくらはこの老人が好きだった。避暑地でお世話になり
その後も度々さくらに世話を焼いてくれてる、前には小狼も紹介し、歓迎してくれた。
「お爺様、よくお運びくださいました。」
「ああ、車に長い時間乗るのはしんどいがな。」
素っ気ない返事を藤隆にした後、さくらを見てその表情を和らげる。
「おお、さくらちゃん、こんにちは。元気だったかね?」
「はい、お爺様もお元気そうでよかったです。」
花が咲いたような笑顔でさくらが返す。雨宮コーポレーション会長の気難しい老人も
その笑顔の前では、ただの好々爺になってしまう。

「それにしても園美君、『あれ』はまた来ないのか。」
真喜の問いに、園美は申し訳なさそうに答える。
「はい、今はニューヨークに・・・」
園美の夫、つまり知世の母であり、大道寺グループの総帥でもある人物。
世界中を飛び回り、こういった身内の集まりに顔を出すことはまずない。
そのため、さくらも桃矢も面識は全くなかった。
「まぁよろしいんじゃありません?仕事バカは放っておきましょう。」
園美の提案に誰も逆らわない。真喜は次にさくらに問う。
0155無能物書き垢版2019/03/02(土) 00:26:30.15ID:00UdefLf0
「そういやさくらちゃん、あの彼、そう李小狼君だったかな、彼は元気かね。」
「あ、はい。実は今日も誘ったんですけど・・・『身内の集まりに出るべきではない』と。」
「ははは、彼らしいな。」
本音を言えば、さくらは小狼には来て欲しかった、ふたつの意味で。
 ひとつは、親しいお付き合いをしている少年の、身内への紹介。もちろんさくら自身が
そんな恥ずかしい事は出来ないだろう。が、小狼なら例えこの場にいても、ちゃんと礼を尽くした
挨拶ができるだろう、そういう意味で小狼は、さくらよりはるかに大人びている所があった。
 もうひとつ、今朝見た夢と、朝一番で封印したカードの事。こちらは魔力に関する問題だけに
小狼以外に相談できる人間は限られている。出発前、ケロに事情を話し、ユエと小狼に
相談するようお願いはしてきたのだが・・・

「さて、みなさん揃ったようですし、いきましょうか。」
藤隆が手をたたいて皆を先導する。彼を先頭にぞろぞろと参道を歩き、向かう。
ほとなく『木ノ本家之墓』と掘られた墓石の前に到着、桃矢が水の入った桶から柄杓で
水をすくって花瓶に注ぎ、残りの水で墓を清める。
さくらはその花瓶に花を活け、揃える。母の名前でもある撫子の花を一番目立つようにして。
そして藤隆は線香に火をつけ、最初に墓の正面に立つ。

「撫子さん、今年もみんな集まってくれましたよ。」
今年も、という言い方には少々の理由がある。藤隆と雨宮家や大道寺家の仲は
決して順風満帆というわけではなかったからだ。
箱入り娘の撫子をさらった男として、藤隆は両家から好ましく思われていなかった。
3年前、真喜はさくらと出会い、そして知る。藤隆と撫子の時間が幸せな時間であったことを。
以来、命日にはわだかまりを消して会うようになっていた。それも今年で3年目。
もうこの二人にぎこちない感情は無かった。
そのことを撫子に報告する意味も込めて、藤隆はそう言って手を合わせる。
0156無能物書き垢版2019/03/02(土) 00:26:55.37ID:00UdefLf0
 そして次に長男の桃矢が墓の前に立つ。次に控えるさくらはいち早く桃矢の異変に気づく。
ふらっ、とヒザを折ると、桃矢はそのままその場に前のめりに倒れる。
「お兄ちゃん!」
「桃矢君!」
両脇にいたふたりが桃矢を支えようと手を伸ばす、が、間に合わない。
そのまま墓の根元に倒れるかと思った時、ふっと別の『手』が、桃矢を『正面』から支える。

 その人物は、そのまま桃矢を抱え上げると、桃矢を藤隆に渡す。
まるで小さい頃に、母親にだっこされた幼子を、父親に渡すように。
ゆるくウェーブのかかった長い髪の毛、清楚な白い顔に微笑みを浮かべるその女性。

 さくらも、藤隆も、真喜も、園美も、知世も、ボディガード達も、はっきりと目にする、
そこにいる『はずの』人物、そこにいる『はずの無い』人物。
誰も声が出ない、ただただ呆然とその人物を見るしかできない。藤隆は気絶した桃矢を抱えて
やっと一言を絞り出す。

「撫子・・・さん。」
0157CC名無したん垢版2019/03/02(土) 02:16:18.54ID:qkjEcHQP0
ワイ木ノ本家のエピソードに弱いんや…😢
0158無能物書き垢版2019/03/03(日) 08:39:18.56ID:Jw0v0zy80
大ポカ・・・orz

>>154
✕園美の夫、つまり知世の母であり
〇園美の夫、つまり知世の父であり
0159無能物書き垢版2019/03/03(日) 11:57:29.75ID:Jw0v0zy80
>>157
あれもCCさくらのひとつの目玉ですよねぇ。
今回はそういうお話、天とかアカギとか言わないで欲しいw

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第14話 さくらとお父さんとお母さん

「来たようですね、その時が。」
カーテンの閉め切られたその薄暗い部屋、中心には魔法陣。西洋のそれと
東洋の風水版の模様が入り混じったその中心に立ち、ユナ・D・海渡は薄い笑いを浮かべ
そう呟く。
「ようやく、ですか。」
兎のぬいぐるみを模した魔法生命体、モモがそれに相槌を打つ。
そして両名とも、後ろを振り向く。ソファーの上に横たえられている一人の少女を。
「ええ、ようやく、です。」
決意と、力と、覚悟を備えた言葉でそう返す、彼らしくない感情のこもった言葉で。
彼は眠る秋穂を見る。愛情と、そして憎悪をないまぜにした目で。
「では、行ってきますよ、待っててください、秋穂さん。」
その部屋にあった魔法陣がすっ、と消える。特定の人間の魔力、霊力を感知するための魔法陣が。
 代わりに秋穂の眠るソファーの下に魔法陣が現れる、そして秋穂は横たわったままふわりと浮き
まるで無重力空間にいるように空中にとどまる。傍らには本が不規則にページを揺らしながら
漂っている、『時計の国のアリス』が。
 海渡がきびすを返し玄関に向かう、モモもそれに続く。目的の物、それを手に入れるために、
最強の魔術師がついに動く。
0160無能物書き垢版2019/03/03(日) 11:58:03.54ID:Jw0v0zy80
「みなさん、今日は本当によく来てくれました。」
墓の前、木之元撫子はその存在(幽霊?)に似つかわしくない笑顔で、来訪者に頭を下げる。
「これは・・・奇跡か!?」
老人の真喜が目を丸くして、驚いた表情でそう呟く。なつかしいその姿、我が孫娘が
当時そのままの姿でこちらを見ているのだから。
「お久しぶりです、おじいさま。」
そう言って一歩、真喜の前に踏み出す撫子。しかし墓の段差に足を引っかけ、ぐらぁっ、と
バランスを崩す。両手をばたつかせ、必死に体制を直そうとするが・・・
「ふ、ふあぁぁぁっ!」
べしゃっ。顔面から地面に落ちる撫子。全員が心の中でツッコむ。幽霊が段差につまづくな!

「あいたたた・・・」
顔面を抑えながら立ち上がる撫子。痛いんかい!とまたも心のツッコミ。
ぷっ、と笑ったのは園美だ。そこからさらにお腹を抱えて笑い出す。
「まったく、変わらないんだから・・・相変わらずドジねぇ。」
藤隆は桃矢を抱えたまま、さくらに向き直り、一言。
「こういう人なんですよ、撫子さんは。」
「ほ、ほぇ〜」
天然な人だとは聞いていたが、聞きしに勝るキャラクター。その姿はいつも写真立てで
見ているが、会ってみるとイメージが全然違って見える。

「今日は、最後のお別れに来たの。」
その撫子の言葉に、周囲がはっ、と覚醒する。10回忌、ひとつの区切りの年。
これが夢でないとするならば、撫子は亡くなってから10年、成仏せずに幽霊として
この世に居続けたことになる。
「おひとりずつお話をしたいんですが、いいかしら?」
笑顔で、しかし真面目な表情でそう告げる撫子。皆は顔を見合わせ、藤隆に判断を仰ぐように
注目する。
0161無能物書き垢版2019/03/03(日) 11:58:47.03ID:Jw0v0zy80
「わかりました、では、お爺様から。」
そう決めたのには理由がある。ほんの1年前ほど、藤隆は撫子の霊と遭遇したことがある。
それはが柊沢エリオルから返された魔力のせいであることは知らなかったが、とにかく
彼にとってこれは初めての経験ではなかった。そして知っていた、桃矢も、さくらも
そういった経験があったことを。
ならばその経験のない真喜を優先するべきだろう、という藤隆の配慮。真喜を残し、
他の面々は墓から少し離れた場所に移動する。

 真喜との話は5分ほどだった。遠目に見ていても痛々しかった、その厳格な老人は
涙を流し、嗚咽を漏らし、撫子に抱き着いていた。まるで子供のように。
そんな真喜を撫子は優しく慰める。お先にお待ちしていますから、またいつか会いましょう、と。

 次は園美。かつて憧れていた女性との邂逅、届かなかった思い、その先にある自分の人生。
後悔が無いと言えば嘘になる、妥協に流されて彼女は今の人生を手に入れた。そして彼女は今も
撫子の影をさくらに追い求めている。
そんな彼女に撫子は諭す。貴方はもう少し、貴方の娘の方を見るべきです、と。

 次に知世。撫子は感謝と笑顔を向ける。娘と仲良くしてくれてありがとう。でも貴方は
もっと自分を出していいのよ、と。
「私は、さくらちゃんの撮影こそ生きがいなのですわ〜」
そう返す知世にさすがの撫子も困り顔、でっかい呆れ汗が顔の横を下にスライドする。
0162無能物書き垢版2019/03/03(日) 11:59:17.24ID:Jw0v0zy80
 その後も一人ずつ、参列者と会話を交わす。他の親族はもちろん、知世のボディガード達すら
一人ひとりに、感謝と別れの言葉を告げる。
あと残りはさくら、桃矢、そして藤隆。しかし桃矢は未だに気絶したままだ。
「お兄ちゃん!起きてよ、お母さんだよ!」
さくらは桃矢を揺り動かすが、反応が無い。せっかくのこの機会、撫子と話すチャンスを逃させる
わけにはいかない。
「仕方ないわね、ほら。」
園美が桃矢の腕をを肩にかついで起こす。反対側を藤隆がかつぎ、二人で桃矢を支えて墓に向かう
さくらもそれに続く。
「さくらさん、お先にどうぞ。」
そう藤隆に促される。それはさくらに気を使ったように見えるが、藤隆の『最後は私ですよ』という
決意でもあった。それを察してさくらは撫子の前に出る。

「・・・お母さん。」
「うふふ、大きくなったわね。嬉しいわ。」
未だ信じられないといった表情のさくらに、撫子は柔らかい笑顔を向ける。
「いい縁に恵まれたのね。前にあった時よりずっと奇麗になってるわ。」
「ほぇ、縁?」
きょとんとするさくらに、撫子は顔を近づけ耳元で囁く。
「(いい人がいるんでしょ?そういう顔してる。)」
いい人?一呼吸おいて、さくらの脳裏に浮かぶ小狼の顔。
「ほ、ほえぇぇぇぇっ!!」
ぼふっ、と赤面して硬直するさくら。そんなさくらをぎゅっ、と抱きしめる撫子。
0163無能物書き垢版2019/03/03(日) 11:59:56.09ID:Jw0v0zy80
「ごめんなさいね・・・私、お母さんらしいことは、何一つできなかった・・・」
感極まってさくらにそう告げる。わずか3歳の娘を残して逝った母、その無責任さを
今更のように娘に吐き出す撫子。
「そんなことない!」
さくらは撫子の胸から顔を上げ、はっきりそう告げる。
「お母さんがいたから、みんな幸せなんだもん!知ってるよ、私を頑張って生んでくれたんでしょ?
いつも見てたよ、お母さんの写真、お父さんの写真立ての写真。あんな人になりたいって
ずっと思ってた・・・」
最初は毅然としていたさくら。しかし言葉を紡ぐたび、少しずつ涙声になっていくのが分かる。
その顔、その温度、その優しさ、記憶には無いけど確かに「想い」は伝わる。
「私が風邪をひいた時も・・・見守ってくれたよね。お母さんは・・・ずっと、私の・・・」
そこまでが限界だった。さくらは撫子の胸に顔をうずめ、涙を流す。
母との邂逅に、今日会えた奇跡に、かすかな思い出に、ほどなく訪れる永遠の別れに。

 さくらが離れた後、藤隆が桃矢を連れて行こうとするが、撫子はそれを制する。
「桃矢君とはしょっちゅうお話してるし、もうお別れも済んでるわ。最後は・・・あなた。」
そう言って藤隆を呼ぶ。桃矢を園美とさくらに任せ、前に進み、撫子の前に立つ。

 妻の前に。
0164無能物書き垢版2019/03/03(日) 12:00:27.16ID:Jw0v0zy80
「お元気そうで。」
「撫子さんも。」
何故か他人行儀な会話で始まる夫婦。
「私は、ねぇ、元気といっていいのかしら?」
「その笑顔で十分ですよ、撫子さん。」
にっこりと笑う二人。ふと、撫子は夫に寄りかかる、藤隆は妻を抱きとめる。
ほんのわずかなタイムラグもなく、二人は求めるままに抱き合った。夫婦、そんな二人の絆は
10年という時を昨日のように縮める。
「ごめんなさい、ごめんなさい、私、何もかもあなたに押し付けて・・・」
息子、娘、親戚との確執、そして『二人でいる幸せ』すらも置き去りにして彼女は逝った。
その後悔を吐き出す、大粒の涙を流して、嗚咽と共に。
そんな撫子を優しく撫でる夫、そしてこう返す。

「ありがとう。」
その言葉の意味を知っている、木ノ本藤隆という人間の人柄が、その言葉の意味を雄弁に語る。
私と出会ってくれてありがとう、私を好きになってくれて、私と結婚してくれてありがとう、
二人の子供を生んでくれて、様々な人との縁をくれて、貴方との楽しい時間をくれてありがとう、
そして今ここに来てくれて、妻として縁者たちに私の顔を立ててくれて、娘のさくらに
母親の愛を伝えてくれて、本当にありがとう。

 さくらは抱き合う二人を見て、すごいな、と思った。
心から通じ合うふたり、それはまるで絵画のようなその光景。暖色と寒色が合わさって
名画になるような。ああ、これが夫婦なんだな、と。
 いつか、私と小狼君もあんなふうになれるだろうか、さくらは心にじわっとした
温かい感動を感じていた。
0165無能物書き垢版2019/03/03(日) 12:00:58.65ID:Jw0v0zy80
「私も、あなたと出会えて幸せだった。」
未だ涙目で夫を見る妻。そして彼女は最後の言葉を愛する人に伝える。
伝えたかった言葉、彼女を10年もの間、現世に縛り続けていたその思いを、無駄とわかっていても。

「でも、どうかこれ以上、私に縛られないで。貴方はあなたの幸せを・・・」

 その問いに藤隆がどう答えたか、それは二人にしか分からない。
ただ、その問いに答えた後、彼女も藤隆も笑顔だったのは確かだ。悲しみの無い満面の笑顔。

 少しおいて、藤隆がさくらを呼ぶ。え、いいの?という顔をして二人に向かうさくら。
「じゃあ、さくら。お願いね。」
「私は目を閉じて、耳を塞いでいますよ。」
その二人の言葉が、さくらは理解できない。ほぇ?と返すしか・・・。
「いつもやってるじゃない、ほら、それ。」
言ってさくらの首元を指さす撫子。ん?と首元をさぐる。喪服の下にはいつも身につけている
ペンダント、今年になって手に入れた鍵、夢の杖。
「え・・・」
「さぁ、気配を読んで。」
「・・・あ!」
言われて気づく、カードの気配。私以外には感じられない、様々な現象を起こす、封印してきた物
クリアカード!
「レリーズ」
囁いて鍵を杖に変える、うしろの皆に見えないように。そして杖を撫子に向け、言う。
「主無き者よ、夢の杖のもと、我の力となれ、固着(セキュア)。」
0166無能物書き垢版2019/03/03(日) 12:01:27.90ID:Jw0v0zy80
 その瞬間、撫子の体が蒼く輝く、そして足元から少しずつ霧散していく。
「お母さん!」
撫子はさくらの頭をぎゅっと抱きしる。
「長い事この世にとどまるとね、悪い霊がついて、私も悪くなっちゃうの。だからさくらに
送ってもらえて、私はとても嬉しい。」
さくらを離し、一番の笑顔を愛娘に向ける。そのまま上半身まで霧散し、光に消える撫子。
その粒子の一部が、さくらの杖の前に集まり輝く。そして一枚のカードとなる。
それを手に取り、カードを見る。母に似た女性が描かれたそのカードを

「スピリット(霊)・・・」

「やれやれ、やっと終わったか。」
後ろで桃矢の声。あれ、目が覚めたんだ。
「桃矢君は、知っていたんですか?」
「ん。母さんとはちょくちょく会ってたからな。」
首をコキコキ鳴らしながら立つ桃矢。どうやら気絶してたのではなさそうだ。
そしてさくらを見て、イジワルそうに言う。
「しかし、珍しくユーレイを見てビビらなかったなぁ♪」
0167無能物書き垢版2019/03/03(日) 12:01:58.39ID:Jw0v0zy80
 その言葉に、さくらの表情がさーっ、と青くなる。」
「ほ、ほえぇぇぇーーーっ!あれって幽霊さんだったのーーーっ!!!」
「何だと思ってたんだよ。」
「ほ、ほえーっ!どうしよう、幽霊さんだよ、会っちゃったよ、どうしようどうしよう・・・」
狼狽えるさくらを見て、周囲から笑い声が起こる。
「やっぱりさくらちゃんはふんわりで、素敵ですわ〜」
知世が言う、今更のさくらの認識に、かつて小狼の好意に全く気づかなかった頃のさくらを
思い出して。

「撫子は、最後に私たちをより強く引き合わせるために、来てくれたのかも知れんな。」
真喜がしみじみ呟く。もともとこういう法事は故人を悼むとともに、その縁者が顔を合わせる
大事な機会でもある。
そんな人達の『縁』を、より強めるためにここに現れ、一人一人と話をしたのだろう。
木ノ本藤隆の妻として。

「さぁ、ささやかな食事を用意してます、いきましょう皆さん。」
藤隆は前を向く。立派な妻に恥じないように、前を見据え、皆を先導する。
秋晴れの空、風は優しく体を撫でる。彼らにとって、今日は忘れられない日になるだろう。
0168無能物書き垢版2019/03/03(日) 12:02:20.50ID:Jw0v0zy80
 料亭の一室、料理が並べられたテーブル、その周囲に大勢の人間が横たわっている、眠っている。
料理にも、お酒にも、ほぼ手を付けていない状態で。
上座の藤隆も、桃矢も、園美も、知世も、ボディガード達も、真喜も、そしてさくらもこんこんと眠る。
そのさくらの際に立ち、一枚のカードとペンダントを手にした男が佇む。

「ご苦労様でした、木ノ本さくらさん、そして、木ノ本桃矢君。」
うすら寒い笑みを浮かべ、ユナ・D・海渡はそううそぶく。
その手にあるカードは、さきほど封印したばかりの『スピリット』のカード。
「やれやれ、すっかり悪役ですね、料理に睡眠薬まで仕込むなんて。」
モモが呆れ声で言う。いくらさくらや桃矢に睡眠魔法が効きづらいからって、と。

「ずいぶん待ちましたよ、このカードを手に入れるまで、ね。」
魂を操る、その力の基礎をもっていた人物、木ノ本桃矢。
クロウ・カードを受け継ぎ、強力な魔力でカードを生み出す能力を持った、木ノ本さくら。
この二人の存在を知り、彼は確信した。私の目的にはこの二人の力が必要だ、と。
 さくらに夢を通じて『夢の杖』を与え、ユエに与えた桃矢の力が回復するのを待った、
その時が来れば、きっとさくらが桃矢の力をカード化するだろう。

 その目論見は見事当たった。ただ、それまでにさくらが夢の杖で自分の魔力を
願望に変えてカードに具現化したせいで、さくらの能力はずっと底上げされていた。
このままでは彼女は魔力で不幸になる、それは避けられないだろう。
 しかしそれは彼女の問題だ、私には私の目的がある、気の毒には思うが
利用させてもらったことに対する後悔はない、例え悪魔に身を落としても、目的を達成する。
「これはもう、返してもらいますよ、木ノ本さくらさん。」
眠ったままのさくらに夢の杖をかざし、そしてきびすを返して部屋を、料亭を出ていく海渡。
ようやく、ようやく悲願が叶う。彼の歩みは自然と早くなる、家路への歩みが。

「待っててください、秋穂さん。きっと、きっと救い出して見せます!!」
0169CC名無したん垢版2019/03/03(日) 13:43:22.32ID:Hfip0N2R0
(モモは〜よ、〜だわ喋りだね…)
(あと木 “之” 本ね)
0170無能物書き垢版2019/03/03(日) 20:10:48.41ID:Jw0v0zy80
>>169
指摘サンクス・・・校正って大事だよねorz。
山にこもって穴掘って入ってきます
0171無能物書き垢版2019/03/10(日) 00:31:17.96ID:/BT2JDOS0
冬眠終了w

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第15話 さくらと帰ってきたエリオル

 1台のタクシーが詩之本邸の到着する、乗客の海渡は1万円札を3枚
投げるように運転手に渡す、お釣りは結構です、とだけ告げ、足早に玄関に向かう。

−ついにこの時が、待ち焦がれた時が来ました−

 高揚感が足を速める、玄関のドアを開け、中に入る。廊下を走り、居間のドアを開く。
そして止まる、驚愕の表情で。秋穂以外いないはずのその部屋に立つ、その人物を見て。
「なっ!」
それだけを絞り出す海渡、脇にぶらさがっていたモモが続く。
「柊沢・・・エリオルさん、ですわね。」
その眼鏡の少年、エリオルは答えない。杖を手に、紫のローブを纏って、
決して好意的ではない目を、海渡に向けて。

「不法侵入とは感心しませんね。ここは今は、貴方の家ではありませんよ。」
海渡は一歩後ずさり、ヒビのはいった懐中時計を握りしめて言う。
「泥棒に非難される筋合いはありませんね。」
厳しい表情でエリオルが返す。彼の足元には魔法陣、海渡が家を出る前まで使っていた
風水版と西洋の魔法陣を合成したサークル。そしてその向こうのソファーには、
眠る秋穂を抱きかかえる一人の女性と、狼にも似た獣、共にエリオルの従者。
「ええと、ルビー・ムーンさん、それとスピネル・サンさんね。お揃いでようこそ。」
モモは動じない、いささか第三者的なふるまいを感じる。
0172無能物書き垢版2019/03/10(日) 00:32:25.65ID:/BT2JDOS0
「なるほど、大した魔法陣ですよ、世界中の魔力を持つ人間の動向すら探れそうですね。」
足元の魔法陣をサーチしてエリオルが言う。
「こっちはもう消しちゃったよ〜」
女子高生、秋月なくるの姿を取っているルビーがドヤ顔で告げる。秋穂の寝ていたソファーにあった
『眠りの魔法陣』はすでにかき消えている、秋穂は未だ眠ってはいるが。

「驚きましたよ、一体いつの間に日本に?」
魔法陣を介して、世界の主な魔導士の動きは把握していたはずだ、
もちろんクロウ・リードの転生体である柊沢エリオルは、一番の監視対象と言ってよかった。
その彼が日本に来るまで気付かなかったとは・・・一体何故?
「協力者がいた、とだけ言っておきましょう。」
杖を肩から足元、袈裟に振り下ろし、強い調子で海渡に告げる。
「さぁ、さくらさんから奪ったカード、返してもらいますよ!」


『なんやてぇ、カードと杖を奪われたぁ!?』
「奪われたのかわかんないけど、寝てる間に無くなってたの!おまけにみんな寝ちゃってて・・・」
料亭のトイレで、スマホを握りしめてケロに報告するさくら。
『そら取られたんや、間違いないわ。』
「ど、どうしようどうしよう。」
『落ち着け!とりあえず合流するで、ゆきうさぎの家や、はよ来い!』
「分かった!」
電話を切り、料亭の外に飛び出すさくら。と、そこで大事なミスに気付く。
「あ・・・ここから雪兎さんのうちまで、どうやって行けば・・・」
軽く見積もっても20kmはある。運転してきた父は寝ているし、魔法を使って飛んでいく手は
杖が無いため使えない。
「ほ、ほぇ〜、どうすれば・・・」
0173無能物書き垢版2019/03/10(日) 00:33:10.32ID:/BT2JDOS0
 途方に暮れるさくら。と、遠くからやたら回転数の高い車の音が聞こえ、次第に大きくなっていく。
やがて料亭の駐車場にけたたましい音で入ると、急ブレーキをかけて横滑りして止まる。
後部座席から飛び出してきたのは、なんと小狼だ。
「さくら、こっちだ!」
「小狼君!?どうして。」
「理由は後だ、早く乗るんだ!」
「う、うん!」
小狼に即され、後部座席に一緒に滑り込む。前の席、つまり運転席と助手席に坐っているのは
懐かしい顔の二人だ。
「苺鈴ちゃんと・・・観月先生!」
「お久しぶり、さくらちゃん。じゃあ、行くわよ。」
ウインクしてミッションをドライブに入れる。と、苺鈴ががしっ!とドアの手すりを握る。
「しっかり捕まってなさい、この先生の運転は・・・ひゃああぁぁぁ!」
前輪を浮き上がらせんばかりの勢いで加速する、さくらも小狼も対応が遅れてか、シートベルトが
あるにも関わらず左右に振り回される。
「うわあぁぁぁっ!」
「ほえぇぇぇぇぇっ!!」
0174無能物書き垢版2019/03/10(日) 00:33:44.31ID:/BT2JDOS0
 決して制限速度を超過しているわけではないのだが、アクセルもブレーキもハンドルも
ソフトという言葉とは全く無縁のどっかん運転に振り回される。が、問題はそこではなかった。
「先生、そこ左!って、どっち行くんですか、左ですひだりっ!」
走り出してからずっと苺鈴の大声のナビが社内に響く。観月は運転以前に相当な方向音痴のようで
苺鈴が相当前から指示しているにもかかわらず度々道を間違える。
「そっちは行き止まりですってーだからなんでそっちにハンドル切るんですかあああっ!!」

 無駄に体力と精神力と、あとついでにタイヤとガソリンを消費しながら、やっとのことで
月城邸に辿り着く。
玄関に飛び出してきたケロとユエを回収し、再び走り出す。ぎゅうぎゅうの後部座席の中、
小狼が事情を説明する。
「秋穂ちゃんのところの、海渡さんが!?」
「ああ、あいつは何か目的があってこの日本に来たらしい。」
「その奪われた主(あるじ)のカードが目的というわけか。」
ユエが冷静に分析する。が、次の観月の言葉にはユエもケロも、そしてさくらも冷静さを失う。

「今、エリオル達が先回りして相手してるわ。」
「ええっ!」
「何!?」
「何やてぇぇっ!アイツらも来とるんかいっ!!」
「ええ、本当はもっと早くに来たかったけど、監視されてて来られなかったの。」
「その、海渡とかいうヤツにか?」
「ああ、お前たちも通信や連絡が取れなかっただろう、相当高位の魔法使いだ、油断するなよ!」
「小僧に言われんでもわかっとるわーいっ!」
ピリつく空気の中、さくらだけは不安と疑問でいっぱいになっていた。
「(どうして?秋穂ちゃんの好きな人がこんなことをするなんて・・・)」
0175無能物書き垢版2019/03/10(日) 00:34:15.76ID:/BT2JDOS0
 数十分のすったもんだの後、詩之本邸に到着する車。
全員が勢いよく飛び出し玄関に走る。あの中にエリオルが海渡と対峙している、もしくは
もっと物騒な事態になっているかも知れない。観月を先頭に玄関を開け、廊下を走り、
魔力の溢れる部屋のドアを開ける。叫ぶ観月。
「エリオル!無事!?」

 部屋に入ってほどなく、全員の目が点になる。全くの予想外の風景。
「もちろん無事ですよ、ご覧の通り。」
テーブルに着き、ティーカップを掲げながら笑顔で返すエリオル。傍らには秋月なくるのカップに
にこやかに紅茶を注いでいるユナ・D・海渡。
「「だあぁぁっ!」」
入ってきた全員がずっこける。いち早く立ち上がったケロが平手でツッコミを入れる。
「くつろいでどないすんねんっ!!」
「まぁまぁ、皆さんもお茶でもいかがですか?」
と、さくらはソファーに横たわっている秋穂を見つける。
「秋穂ちゃん!」
駆け寄ろうとするさくらを、海渡が目線で制する。
「大丈夫、眠っているだけです。起こさないであげて頂けますか?」
ティーカップを置き、さくらに正対して続ける。

「事情をお話します、まずはテーブルへどうぞ。」
0178無能物書き垢版2019/03/10(日) 23:48:34.32ID:/BT2JDOS0
>>174
✕社内 〇車内
冬眠の効果なし・・・orz

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第17話 さくらと秋穂とアリスの本

−2か月前、夏−
「アチャー、やっぱダメね〜。」
「強力な妨害思念を感じます。」
小狼のアパート、パソコンの画面を眺めてステラと林杏が言う。画面にはエラメッセージ
『NOT ACCESS SERVER ERROR』
「もうずっとこんな調子だ、柊沢と連絡を取ろうとすると、どんな通信も繋がらなくなる。」
同じようにエラーメッセージが表示されているスマホを片手に、小狼が言う。
「どうやら通信サーバーにまでマジックが掛けられているミタイネ。」
「通信の電波に魔法を通しているみたいですね、高等技術ですよこれは。」

その後ろに控えるウェイがしみじみと嘆く。
「やれやれ、時代も変わったものです、魔法もインターネットと融合する時代ですか。」
そう言いながらも器用にスマホを操作するウェイ、むろんエリオルとは繋がらないが。
「電話もダメ、ネットもダメ、手紙も押さえられるってコトは、私たちの動きも全部
把握されてるってコトね、ハッポーフサガリヨ。」
「おそらくは魔力を持つ者の動向を探られているのでしょう、そういう魔法陣を
使うものがいると聞いたことがあります。」
「これだけの魔力を持つ相手です、一筋縄ではいかない方のようですね、そのユナ・D・海渡さんと
いう方は。」
0179無能物書き垢版2019/03/10(日) 23:49:13.15ID:/BT2JDOS0
「だったら、直接行けばいいんんじゃない?イギリスに。」
さらっとそう提案したのは、魔法談議に入れず後ろで静観していた苺鈴だった。
「そう簡単にはいかない、そもそも今やチケットを取るにも通信機器に記録される、
それを察知されたら飛行機すら安全に飛べるとは限らなくなる。」
小狼が反論する。事故に見せかけて魔法で飛行機を墜落させる、強力な魔導士なら
そんな非道な業も不可能ではない。
「魔力を持つさくらや俺たちが、迂闊にイギリスに向かえば、それこそ柊沢に
会って相談してきます、って言ってるようなものだ。」

「私、魔力ないけど?」
苺鈴が自分を指さして言う。小狼が、ウェイが、ステラが、林杏が、目を丸くして吐き出す。
「「それだ!」」


「驚きですね、本当にわずかな魔力すら感じない、こんな人間が存在するなんて。」
海渡が苺鈴に手のひらをかざし、魔力感知の術を当てながら言う。
「人を珍獣みたいに言わないでくれます?」
ふくれっ面で返す苺鈴。ケロがいかにも知っとったで的な顔で続ける。
「ま、無いなら無いで役に立つこともあるっちゅーワケやな。」

「おかげで彼女から事情を聞くのも、日本へのチケットの入手も貴方に感づかれずに
出来たわけですよ。」
エリオルが笑顔で言い、続ける。
「私も、そして貴方も、彼女とは面識があったはずです。ですがお互い気にも留めなかった、
ある意味これは凄い事です。」
「ましてクロウの母方の直系の子孫なのに、ねぇ。」
スピネル(小)がエリオルに続きそう言う。むっ、とする苺鈴に、モモがさらに余計な一言。
「あなた、前世での行いが悪かったんじゃないのかしら。」
0180無能物書き垢版2019/03/10(日) 23:49:44.66ID:/BT2JDOS0
 がたっ!と立ち上がる苺鈴、ケロとスッピーとモモを両手でかき集めるように鷲掴みにして
顔を近づけて睨み据える。圧縮されタテにカオが伸びる3人(匹?)
「うるさいわね、ぬいぐるみトリオに言われる筋合いは無いわよ!!」
「ま、まぁまぁ苺鈴ちゃん落ち着いて、役に立ったならよかったじゃない。」
さくらがなだめようとするが、この場合さくらでは火に油だ。
「魔力たっぷりのさくらには言われたくないわ・・・」
ジト目で返す苺鈴に、さくらは反論の余地をなくし、ただ苦笑いを返すのみ。

 観月は危険はないと判断し、とりあえず事情を説明しに料亭に向かっている。
ただ、一人で行かせたのは明らかに失敗だっただろう、果たして今日中に帰ってこられるやら・・・

「さて、本題に入るとしましょう。」
その海渡の言葉に全員が注目する。なぜ彼はさくらの杖とカードを奪ったのか、彼のその
目的は何なのか、秋穂との関係は?さくらの夢の正体は?全員にとって興味は尽きない。

「まず、最初に言っておきます。そこにいる秋穂さんは、本物の『詩之本秋穂』ではありません。」

その言葉に全員が驚愕する。秋穂ちゃんが偽物?それは一体・・・
「みなさんは、こんな話を聞いたことがありませんか?」
海渡は語る。おとぎ話で、小説で、創作の番組にいたるまで、よく使われているファンタジーな話。
「その部屋に、空間に、世界に、『一人』しか存在できないお話を。」

 主人公は、その空間に閉じ込められている。たった一人ぼっちで。
彼が外に出る方法はただ一つ、彼の『身代わり』となる人間を、この空間に引き込むこと。
一人が入れば、一人が出られる。そして新たに入った一人がその孤独の空間に閉じ込められる。
閉じ込められた一人は、あらゆる手段で外の人間をこの空間に引き込もうとする、そんなお話。
0181無能物書き垢版2019/03/10(日) 23:50:25.94ID:/BT2JDOS0
「なんか聞いたことある・・・何だっけ?」
「よくある話ですね、古今東西よく使われる話ですよ。」
さくらとエリオルの言葉に、海渡はひとつの本をテーブルの中央に置く。
「この本が、まさにそうなんですよ。」

 −時計の国のアリス−

「これ、秋穂ちゃんが持ってた本だ!」
「この本が、その物語だってワケ?」
苺鈴の質問に、神妙な顔で答える海渡。
「いいえ、その本は本当に『人間の魂』を閉じ込める能力があるんです、中にいる魂と入れ替えて。」
「ええっ!?」
皆が一斉にその本から引く。海渡はその本を手のひらで抑え、続ける。
「4年前、秋穂さんの9歳の誕生日の時です。送り主不明のこの本、誕生日プレゼントとして
送られたこの本に、彼女の精神と魂は取り込まれました。」

「ですが、今の彼女には魂も精神も宿っている・・・まさか!」
驚愕するエリオルに向き、海渡は答える。その決定的な一言を。
「そう。今、『詩之本秋穂』さんの肉体と言う『入れ物』に入っているのは、別人の魂です。」
ひと呼吸おいて、続きの言葉を紡ぐ。

「彼女の名は、アリス。『時計の国のアリス』。」

言葉を失うさくら。じゃあ、今まで私が見てきた秋穂ちゃんは、本当の秋穂ちゃんじゃない?
人見知りで、丁寧で、歌が上手で、おしとやかなあの秋穂ちゃんが、本当の姿じゃないの?
0182無能物書き垢版2019/03/10(日) 23:51:00.45ID:/BT2JDOS0
 海渡は語る、4年前のあの時の出来事を、そしてそれ以前の出会いを。
魔法使いの家系に生まれながら、魔力を持たなかった少女、詩之本秋穂。
そんな存在はその家において、大抵は『魔法具』として扱われる。魔力が無いならそれを利用して
都合の良い魔法を使って操る、または魔法の触媒として利用する、等々。
 そんな詩之本の家に、強力な魔力を持つユナ・D・海渡はスカウトされた。秋穂を魔道具として
使用する『マスター』として。

「ですが私は、少しづつ彼女に魅かれていったのです。少なくとも『利用する』なんてことが
出来ないくらいには。」
自虐的な表情をする海渡に、全員が否定的な目を向ける。おかしいのは海渡じゃなくて
人をそんな風に扱う家の方だと。

 そして運命の日、秋穂の9歳の誕生日。本家に呼ばれずに別棟で海渡と二人、ささやかな
誕生日パーティを開いていた最中にその本は届けられた。送り主は不明だったが、海渡は本家の
ささやかな娘に対する慈しみと信じて疑わず、その本を秋穂に渡してしまう。
パーティが終わり、秋穂は寝室に向かう、その本をもって、嬉しそうな表情で。

 翌朝、彼女は豹変していた。元気の塊のようだった秋穂は、気弱な、そして内気な少女になっていた。
昨日までの記憶を丸ごと失って。
やがて彼女はその本に没頭し始める。ほとんどのページが白紙のその不思議な本、文字が書いてある
ページも海渡には読むことが出来ない。秋穂だけがそのページを読み取れた。
 彼女の朗読するその本の内容に海渡は驚愕した。人の精神を入れ替える本、その本に宿る魂は
外に出ることを欲し、秋穂の肉体を奪い、秋穂の魂をこの本に閉じ込めてしまったのだ、と。
 ただ秋穂に入っている魂自身もその自覚は無いようだ。時がたつにつれ、彼女は自分を『詩之本秋穂』だと
自覚し始めるようになる。
0183無能物書き垢版2019/03/10(日) 23:51:39.95ID:/BT2JDOS0
「私は激怒しました、おそらくはその本を送った『本家』に。」
竜の魔力を持つ海渡は、その怒りに任せ詩之本の本家を没落させる。事業に失敗し、魔術の禁忌を犯させ
社会からも、魔法協会からも切り離し、衰退の一途を辿らせるように。

 同時に彼は秋穂を元に戻す方法を模索していく。今の秋穂の魂を本の中に返し、本の中の
秋穂の魂を取り戻すために。
それを成すには、人の魂を操る魔法が必要だ。しかし『魔力』と魂に通ずる『霊力』は全くの別物だ。
魔力で霊力を操るには、それに適した魔道具が必要となる、が、そんな魔道具は聞いたことも無かった。

「調べるうちに私は知ったのです、強力な霊能力を持つ兄と、クロウ・カードを使う妹の存在を。」
さくらを見てそう言う海渡に、さくらは、はっとして言う。
「私と・・・お兄ちゃん。」
こくり、と頷く海渡。懐からふたつのアイテムを取り出し、テーブルに置く。そして言葉を続ける。
「私は魔法協会から必要な道具を拝借しました。時間を操るこの時計と、魔力を本人の馴染の深い
アイテムに具現化する、この『夢の杖』を。

「それですべては合点が行きました。あなたはさくらさんがお兄さんの力をカードに変えることを期待して
その杖をさくらさんに与えたんですね。」
エリオルが問う。霊力を操る魔道具が無いなら作ればよい。それを成せるものに作らせればよい。
たとえその過程で、さくらがどんな目に合おうとも。
0184無能物書き垢版2019/03/10(日) 23:52:19.11ID:/BT2JDOS0
「そのために!さくらを利用したのか!!」
立ち上がり、机を叩いて激高する小狼。お陰でさくらは次々と自分の魔力をカード化し、その魔力を
高めていってしまった。それがさくら自身を不幸にするレベルまで。
「小狼君!待って。」
さくらが小狼をなだめる。さくら自身、自分の魔力が大きくなりすぎることで小狼を苦しめていることは
なんとなく察しがついていた。
 さくらは海渡に向き直り問う。
「だったらなぜ、最初から相談してくれなかったんですか?」
さくらも、兄の桃矢も、そんな話を聞いたなら協力は惜しまなかっただろう。そうすればさくらが
クリアカードを次々に生み出し、魔力を増やすこともなかったはずだ。

「私は魔法協会から破門された身です、今でも彼らは私を追い詰め、奪われた魔道具を取り返し
私を断罪しようとしています。そんな私に協力すれば、貴方も罪を問われかねません、それに・・・」
ひと息ついて海渡は、ソファーに横たわる秋穂を見て、言う。さくらに背を向けて。
「私の計画に、『あの魂』を救うプランはありません。」

 さくらは背筋に冷たいものを感じた。出合ってから今まで仲良くしてきた秋穂、一緒に料理して
一緒に山崎の嘘に騙されて、ケロとモモを見せ合って、授業でお互いを応援してきた。
その秋穂が、今度は本の中に閉じ込められることになるのだ、たった一人で。
「そんな・・・」
泣きそうな顔で、海渡に懇願するさくら。
「何とかならないんですか?それじゃあ今の秋穂ちゃんが、可哀想です!」
そのさくらに厳しい視線を向け、海渡が返す。
「本物の秋穂さんは、もう4年もその世界に閉じ込められているのですよ!」
 返す言葉が無かった。『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』の物語でも
主人公アリスが異世界に囚われていた時間はそう長くない。それが・・・4年?
そしてもし助けなければ、これからもずっと・・・?
0185無能物書き垢版2019/03/10(日) 23:52:56.70ID:/BT2JDOS0
「ちょっとまてーい!」
割って入ったのはケロだ。彼は腕組みしながら海渡を睨んで言い放つ。
「そもそも証拠はあんのか?今の彼女と以前の彼女が別人っちゅー証拠が。」
「同感だな、お前の話には仮定が多すぎる。」
ユエがそれに続く。そんな二人にこう返す海渡。
「今の彼女には魔力がある、明らかに別人のレベルでね。」
「それだけでは証拠にはならないでしょう。」
エリオルが冷静に返す。海渡は夢の杖を手のひらに乗せ、言う、決定的な言葉を。
「その彼女の魔力をこの杖で具現化したのが、そこのモモなんですよ。」

「ま、そーゆーコトですわ。そして私はその『時計の国のアリス』の登場人物でもあるのよ。」
秋穂に寄り添うウサギのぬいぐるみ、本の中ではアリスを導く大ウサギ、言葉をしゃべる白兎。
秋穂の一部がその本のキャラクターである以上、今の秋穂がアリスであることは疑う余地が無い。

 呆然とする一同。信じられない話ではあるが、疑う根拠もまた存在しない。
「秋穂さんは、さくらさんに似ていました。元気で、活発で、スポーツが得意で、そして真っすぐで。」
モモは知っている。海渡のさくらを見る目が、懐かしさと、そして憎しみの眼差しであることを。
本来なら秋穂が持っているべきものを、さくらは持っている。秋穂が失った、奪われた性格。
秋穂にもまた、同じ目を向けていた事。大事な少女の体と、それを本に押し込めたアリスへの憎しみ。
0186無能物書き垢版2019/03/10(日) 23:53:34.57ID:/BT2JDOS0
「少し休憩しましょう。」
海渡は立ち上がり、ティーポットを持って台所に向かう。残された全員が、今聞いた難題に沈む。
そんな空気を察してか、モモがひとつ教える。
「この本、2年前から無くなっていたのよ。でも今年の1月、ここに家を再現したら出てきたの、
書斎の机の上にね。」
「え・・・家を再現?」
頭にハテナマークを浮かべてなくるが問う。
「さくらさん達なら気付いていたんじゃないかしら、この家は元々取り壊されて遊園地になってたの。」
「「あ!」」
さくらが、小狼が、そして苺鈴が発する。確かにそうだ、ここは一度遊園地になり、そしてクロウカード
『ナッシング』の騒動の舞台となった後、廃園になり取り壊されたハズだった。

「この時計の力よ。」
モモはテーブルに置かれた時計をちょんちょんと突き、示す。時間を操作できる魔法具、壊れたものを
過去の姿に再現できるアイテム。
それでかつての柊沢邸を再現した時、この本が自然にそこにあったと言う。
「私は、見たことがありませんでした。この本は。」
エリオルはそう答える。再現されたのではなく、おそらくは秋穂たちが来るのに合わせてここに
出現したのだろう。この世に偶然は無い、すべては必然だから。
0188無能物書き垢版2019/03/12(火) 23:16:18.77ID:Gz9bgqRl0
>>178
✕第17話 〇第16話
もうミスはこのSSの名物にして、間違い探しを楽しんでもらおう(嘆
>>187
有難いお言葉感謝。しかし『神ってる』ももうすっかり使わなくなりましたね・・・
流行り廃り早い世の中だな・・・
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第17話 さくらとあぶないティータイム

 沈痛な空気の中、海渡は紅茶を淹れなおしたティーポットとお菓子を満載した
台車を押してやってくる。
「とりあえず、甘い物でもどうぞ。考えがまとまりますよ。」
そういってお菓子の数々をテーブルに並べる。クッキーにチョコレート、そして・・・
「あ、ケルベロスさんとスピネルさんはこちらがお好みでしょうか。」
そう言って丸い物体が山盛りのボウルを前に置く。それを見たスッピーの目がキラキラ輝く。
「こ、これは・・・たこ焼き!」
「おお!わかっとるやないかぁ!!」
言うなり数個を口の中に放り込むケロ。スッピーもつまようじに1個刺し取り、口に放り込む。

「相変わらずの食い意地だな。」
「まったく、どこに入るのやらねぇ。」
香港コンビがジト目でケロに毒を吐き、反論を待つ。が、ケロはたこ焼きを口にほおばったまま
見る見るその顔を青ざめさせていく。
「ちょ、ちょっとケロちゃん、どうしたの?」
「ノドにでも詰まらせたの?」
心配するさくらとなくるをよそに、たこ焼きを飲み下し、一息ついて絶叫する。
0189無能物書き垢版2019/03/12(火) 23:17:15.28ID:Gz9bgqRl0
「なんやこれわあぁっ!!甘い、甘いで!ほんでもって美味いやないかあぁぁぁっ!!!」
全員がずるっ、と脱力する。しかし、甘いたこ焼きって?
「広島県にある『ケーキお好み焼き』をアレンジしてみました、お気にいって頂けて何より。」
してやったり、という表情で海渡が笑う。ホットケーキの生地を丸めて焼き、ソースの代わりに
チョコレート。中のタコはグミ、砂糖菓子の青海苔とかつお節がいい細工をかもし出している。

「ん?」
ケロが体を硬直させ、さくらの方を向いたまま冷や汗を流す。
「甘いお菓子・・・ちゅうことは・・・まさか。」
恐る恐る後ろを振り向くケロ、たこ焼きケーキと、その向こうにいるスッピーの方に。

ごおぉぉぉっ!
次の瞬間、テーブルに火炎の花が咲く。スッピーが高笑いと共に吐いた火炎が。

「あはははははは、おいしーーーーいっ♪」
たこ焼きケーキの入ったボウルを丸ごと取ると、大口を開けて一気に飲み込む。
そして猛スピードで飛び回り、そこかしこにぶつかってスーパーボールのように跳ね回る。
頬を真っ赤に染め、とろんとした目でハイテンションに暴れまわるスッピー。
「酔っぱらった!?」
驚愕する苺鈴。突然の豹変に事態が呑み込めず、事情を知ってそうなケロを探す。
あれ、どこ行った?

 きょろきょろと見まわすと、なんとケロは部屋の隅で、本来の獅子の姿に戻って
壁に向かって呟いてる。
「ああそうや、分かっとるんや、所詮わいはお風呂スポンジなんや、最近は知世も
ちっとも撮ってくれへんし、それどころかカメラ担当にされる始末やし・・・」
真っ暗な表情で床に「の」の字を描き、壁に繰り言を並べるケルベロス。
「ちょ、いったいどうしたのよ、あんたのキャラは・・・」
そこまで言って、苺鈴はいきなり背後から抱き着かれる。このノリは・・・なくる?
0190無能物書き垢版2019/03/12(火) 23:17:52.23ID:Gz9bgqRl0
「えへへー、苺鈴ちゃ〜〜ん♪」
「さ、さくら!?」
頬を赤らめ、目を逆Uの字にして、猫のような笑顔で苺鈴に手と足でしがみつくさくら。
「さ、さくらまでどーしたのよ!てかあんた顔真っ赤よ!?」
「ねぇ〜苺鈴ちゃん、怒ってる?私が小狼君と付き合って怒ってる?」
「い、今更何言ってるのよ、っていうか正気に戻りなさいっ!」
「怒ってないの〜?」
「怒ってないってば、だから離れなさいよっ!」
その返事を聞いたさくらはそのまま苺鈴に頬ずりする。
「えへへーやっぱ苺鈴ちゃん、大好き。」

「ちょ、ちょっと小狼、代わりなさいよ、こーゆーのはあんたの担当でしょっ!」
「落ち着け苺鈴!」
小狼は真顔で苺鈴を制する。この事態にあって小狼は冷静だった。
「こういう時は、素数を数えるんだ。1,2,3,5,7,11・・・」
「全然冷静じゃない!?」
「83.89.97。よし!観月先生、100まで終わりました!」
言ってインテリアの女神像におじぎする小狼。

「えええーっ!小狼までおかしくなっちゃったーっ!」
言って周囲を見回し、まともな人間を探す。そうだ、柊沢エリオル!あの最強の魔導士なら・・・
「ちょっと柊沢君!一体これはどーなってんの?」
机に突っ伏しぐーすかイビキをかいているなくるの横で、エリオルは笑顔で答える。
「ああ、みなさん酔っぱらっているようですねぇ。」
「なんでまた!?」
「スピネルさんは、甘いものを食べると酔っぱらっちゃうんですよ。」
「へ?そうなの・・・」
でも他のみんなも、と言おうとした時、エリオルが機先を制して続ける。
0191無能物書き垢版2019/03/12(火) 23:18:25.45ID:Gz9bgqRl0
「ちなみに、酔うって言うのはですね、本来は古代中国発祥のお酒に『余威(よい)』って
いうのがありましてね・・・」
「へ?」
「それを酔拳の達人が愛飲して、御前試合に勝利したことから、お酒に『酔う』っていう言葉が・・・」
「なにそのいかにも即興なトリビアは!あなたは山崎君か!」
駄目だ、彼すらマトモではない。なんか向こうでユエが真っ赤な顔で絶叫してるし・・・
「クロウ―!何故私を置いて死んでしまったのだーーっ!!」

 暴れるスッピー、鬱なケロ、ハイテンションなさくら、真顔で謎行動の小狼、泣き上戸のユエ、
爆睡するなくるの横で誰にともなく延々と謎知識を披露するエリオル、なんというカオス!

ふと、飛び回るスッピーを目で追っていて、天井の模様に気づく苺鈴。
「え・・・てっ、天井に、魔法陣?」
「気付かれましたか。」
背後から声をかけられ、振り向く苺鈴。そこには海渡が笑顔で、少し赤い顔をして立っていた。
「やはりあなたには効かなかったようですね、本当にわずかな魔力もお持ちでないようです。」

「これは・・・あなたの仕業なの?」
一歩後退し、構えを取る苺鈴。海渡はにやりと笑い、続ける。
「あの魔法陣は、その場で一番テンションの高い人間の精神状態を全員が共有する魔法です。
スピネルさんがお菓子に酔うことは知ってましたし、お酒に強い観月歌帆さんは出ていかれました、
条件がそろったので発動させて貰いましたよ。」
エリオルの方を向き、こう付け足す。
「魔法陣が必ず足元で発動するとは限らない、さすがに柊沢さんもそこまでは想定外でしたね。」
言って少しふらつきながら、懐から1枚のカードを取り出す。絵のない部分が透明なそのカードを。
彼がさくらから奪った、クリアカード、スピリット(霊)。
0192無能物書き垢版2019/03/12(火) 23:18:55.89ID:Gz9bgqRl0
「さて、はじめましょうか。」
テーブルの上の夢の杖を取り、秋穂のいるソファーに向かう海渡、本を抱えて続くモモ。
少々千鳥足なところを見るに、彼ら自身も魔法にかかってはいるようだ。
自分すら巻き込む魔法だからこそ、エリオルも察知できなかったのか・・・

「ま、待ちなさいっ!」
苺鈴の言葉に足を止め、振り向く二人。海渡は苺鈴を見返し、一言こう告げる。
「戻るべき人が、戻るべきところに戻るだけですよ。」

その言葉が終わった瞬間、海渡とモモの背後に透明なカベが高速で降り、こちらとの空間を遮断する。
駆け寄ってカベを殴る苺鈴、しかしビクともしない。
「それは魔法ではありません、偏光性アクリルガラスです、無茶をしてもケガするだけですよ。」
次の瞬間、ガラスは鏡に代わる。苺鈴の視界から海渡と、モモと、横たわる秋穂が遮断される。
後に残されるのは、唯一正気な苺鈴の後ろで乱痴気騒ぎをする一行。
「ちょ、ちょっとさくら!詩之本さんがピンチなのよ!スピネルと一緒に踊ってる場合!?
小狼!円周率なんか唱和してないで正気に戻りなさい!柊沢、あんたそれでもクロウ・リードの・・・」
必死に事態を打開しようとするが、もはや苺鈴一人にどうにかできる事態ではなくなっていた。

 壁を隔てた向こう側、海渡は横たわる秋穂の前に立つ。その際でモモが本を広げ、構える。
0193無能物書き垢版2019/03/12(火) 23:19:26.99ID:Gz9bgqRl0
「レリーズ(封印解除)。」
その言葉と共に小さな鍵のペンダントは、長さ1mほどの『夢の杖』へと姿を変える。
そして手に持っていたカードを、秋穂とモモの真ん中に投げ、空中に固定する。
杖を振りかぶり、目を閉じる。決意の言葉を紡ぐ海渡。
「秋穂さん、今助け出して見せます。必ず!」

「カードよ、少女の魂をあるべき所に返せ、スピリットーっ!」
カードに打ち下ろされる杖、カードが光り輝き、そこからさくらの母である撫子に似た精霊が
秋穂の体にまとわりつき、人の形をした霊体を引っ張り出す。
 それは、秋穂とは違う少女。本の挿し絵にも描かれた金髪の、寂しげな表情の女の子。
「やはり!さぁ、いるべき所に帰るのです、そして秋穂さんにこの体を返しなさい!」
やがて少女はカードの精霊に連れられ、モモが広げている本の中へ帰っていく。

そしてスピリットの精霊はカードに戻る。後に残ったのは、本と、モモと、海渡と・・・

 魂の抜けたままの、人形のような秋穂。
0194CC名無したん垢版2019/03/14(木) 08:34:23.31ID:nVd3aVMI0
暴れるスッピー、鬱なケロ、ハイテンションなさくら、真顔で謎行動の小狼、泣き上戸のユエ、
爆睡するなくるの横で誰にともなく延々と謎知識を披露するエリオル、なんというカオス!

までのくだり、爆笑したわww
あと、ケロちゃんは犬です、犬!冥界の番犬なの!!
絶妙にぶち込んでくる間違い探し嫌いじゃないw
0195無能物書き垢版2019/03/16(土) 01:49:53.08ID:vLMAiT+e0
>>194
あれ犬なんですか?確かにケルベロスっていうと地獄の三つ首の番犬ですけど
スッピーと比べるとどう見てもビッグキャット(ネコ科の大型獣)にしか見えませんけど・・・

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第18話 さくらと消えた秋穂

「何事だこれは・・・。」
部屋に入るなり、木之本桃矢の呆れ声。無理もない、部屋の中はまるで全員が
酔っぱらったような有様だ。
 いや、全員ではないか、李苺鈴だけは疲れ切った表情で地面にへたり込み、こっちを見る。
「あ、観月先生、大道寺さん、それから、さくらのお兄さん・・・ども。」
「苺鈴ちゃん、いったい何があったんですか?」
知世の質問に、天井の魔法陣を指さして示す苺鈴。

「なるほど、この魔法陣のせいでこうなっているのね。」
観月はカバンから手の平ほどのリングを取り出す。かつて持っていた、『クロウの鈴』に
代わるアイテム。製作者の名を取るなら『エリオルのベル』とでも言うべきか・・・
そのリングを握り、天井の魔法陣に向けて振る。と、シュウゥゥゥ、という音を立てて
魔法陣がかき消えていく。

 その瞬間、酔っぱらっていた全員が、はた、と正気に戻る。
いや、スッピーだけは未だに酔いどれ状態でテーブルの上をごろごろ笑顔で転げる。
それをがしっ!と抑えるエリオル、ひきつった、汗ばんだ顔で。
0196無能物書き垢版2019/03/16(土) 01:50:29.15ID:vLMAiT+e0
「エリオル〜、この有様は一体何、か・し・ら?」
満面の笑顔で、しかし全く笑っていないその目でエリオルに詰め寄る観月。
冷や汗をだらだら流しながら、顔をこわばらせて答えるエリオル。
「や、やぁ歌帆、思ったより早かったね、まだ1時間くらいしか・・・」
「ああ、桃矢にマメにナビしてもらったのよ。帰りは大道寺さんの車に送ってもらったし。」
ひと呼吸置いて、さらに一歩詰め寄り、エリオルにぐっ、と顔を近づけて言う。
「で、最高の魔導士さんがいながら、この有様は一体何か・し・ら?」
再度の圧に、観念したようにエリオルはがっくりと俯く。
「・・・申し訳ない。」

「酔っぱらっとったぁ?」
皆の驚きを最初に代弁するケロに、ジト目で苺鈴が答える。
「ええそりゃあもう、みんなの中の闇をたっぷりと拝見させてもらったわ。」
「わ、ワイは別に闇なんかないで!なんつっても太陽のシンボルである守護神やから・・・」
「思いっっっきり、鬱入ってたわよ、アンタ。」
苺鈴の指摘に、まるでムンクの『叫び』のようなひぇぇぇ顔になるケロ。

「まったく、普段から騒がしいからこういう時に醜態をさらすのだ。」
「・・・貴方が一番取り乱してましたわよ、ユエさん。」
苺鈴の言葉に、え?という表情をするユエ。次の瞬間、彼は全身を羽で包み、光り輝く。
羽がほどけて消えると、中にはユエではなく月城雪兎の姿があった。
「・・・あれ?ここは、どこかな?」
「ユエの奴、逃げおったあぁぁぁぁぁ!」
0197無能物書き垢版2019/03/16(土) 01:51:00.88ID:vLMAiT+e0
「ええと、苺鈴ちゃん、私は大丈夫、だった、よね・・・」
さくらの言葉に、はぁ、とため息ひとつ、小狼の両肩をがしっと掴む苺鈴。
「な、なんだ?」
「いい小狼、将来さくらに絶対、お酒飲ませちゃダメ。いいわね!」
「え?あ、ああ・・・」
「ほ、ほえぇぇぇ!私一体何してたの!?」

「って、それどころじゃないわ!みんな、あいつが杖とカード持って、詩之本さんを!」
「「ええっ!?」」
その一言で全員の表情が変わる。
「そんな!どこに行ったの?」
「そっちの鏡の向こう、でもどうやっても開かなくて・・・」
皆が大きな鏡の壁に向かう。確かにさっきまでは無かった壁。エリオルは表面に触れ、確かめる。
「本体はアクリルですが、魔法で固定され、表面を鏡面化しているようですね。」
観月に目配せを送るエリオル、彼女は、はいはい、という表情で鏡の前に立ち、リングを構える。
まるでノックをするように、リングでこん!と鏡をたたくと、その鏡が壁ごとボロボロ崩れる。

 全員が中に入る。そこにいたのはソファーに横たわったままの秋穂と、その際、ソファーの
ひじ掛けに腰掛けて本を開け凝視する海渡、離れてやれやれ、というジェスチャーをするモモ。
全員が入ってきたことを確認し、海渡は本をぽふ、と閉じる。『時計の国のアリス』を。
「海渡さん、秋穂ちゃんは・・・どうなったんですか?」
さくらの問いに海渡は立ち上がり、光を失った目で、語る。
「アリスは・・・本に返しました。ですが、秋穂さんは・・・」
「秋穂ちゃんは?」
「・・・戻ってきません。」
0198無能物書き垢版2019/03/16(土) 01:51:35.20ID:vLMAiT+e0
「ええっ!そんな・・・」
ソファーに駆け寄り、秋穂をゆり動かすさくら。
「秋穂ちゃん、しっかり!私だよ、さくらだよ、起きて、起きてってば!」
そんなさくらを見て感情を高ぶらせる小狼。つかつかと歩み寄り、海渡の前に立ち、睨む。
「どういうことだ!アリスを本に返せば、詩之本は帰ってくるんじゃなかったのか!」
「・・・もちろんそのはずでした。しかし、現実に彼女の魂は戻ってきませんでした。」
「くっ!」
怒りに任せ、拳を作る小狼。その手を桃矢が抑える。
「じゃあ、どうやったら彼女は戻ってくるんだ?」
「それが分かってれば、とっくにやってるわよ。」
モモが口を挟む、投げやりな声で。

 ソファーではエリオルが秋穂を診察している、傍らで不安そうに見守るさくらと知世。
瞳を覗き込み、脈を計り、手をかざして魂のありかを探る。
「どうやら、完全に魂を失っています。このままでは彼女は一生、目を覚ましませんよ。」
立ち上がり、海渡に向かって言い放つ。
「先走りましたね、貴方のやったことは完全に裏目に出たようです。」
厳しい言葉に、海渡は反論しない、出来るはずもない、その通りだ。
「なぁ、なんか方法は無いんか?心当たりとか。そもそも秋穂はホンマにその本の中に
おるんか?」
ケロが問う。少し前なら確信をもってイエスを言えた海渡だが、今となってはそれも怪しい。

「手がかりが、ひとつだけあります。」
ややあって海渡が口を開く。その言葉に皆が注目し、次の言葉を待つ。
海渡は本を開き、一番後ろのページを開く。厚紙でできた本の外回り、そこに印字された文字。
−〇△◇〇 2072−
見知らぬ文字の後の数字、それだけが広い裏表紙の真ん中に小さく書かれている。
雪兎がそれをの祖き込み、アゴに手を当てて言う。
「発行年、かな?」
「え?つまり、この本が書かれた年月日?」
なくるが続く。その言葉にこくり、と頷く海渡。
0199無能物書き垢版2019/03/16(土) 01:52:04.66ID:vLMAiT+e0
「え・・・2072、って、ほえええーーーっ!?」
「まさか、この本って・・・」
さくらと小狼の言葉に、目線を合わせずに答える海渡。
「ええ、おそらくは『未来』に書かれた本なのでしょう。」
「はぁ?何言うとんねん。未来に書かれた本がなんで今ここにあるっちゅーんや。」
反論するケロを制して、観月がずいっ、と前に出る。
「そう、だから・・・『時計の国のアリス』なわけなのね。」

 時間を超える魔道具。魔法の中でも超高等な技術で作られた、極めてまれなアイテム。
クロウ・さくらカードの『リターン』や、海渡が魔法協会から奪った懐中時計と同じ能力を持つその本。
まだまだ謎な部分はあるが、この本の一つの謎がそこにあるような気にさせる。

「未来に行って、その本を書いた人物に会えば、何かが分かるかもしれません。ですが・・・」
海渡はテーブルに置かれたままの懐中時計に目をやる。かつてエリオルの魔力と張り合い
その際に出来たひび割れが痛々しい時計を。
「もう、使えないのですか?その時計は。」
エリオルの問いに海渡が頷く。
「少しくらいの時間操作はできますが、未来に行くほどの魔力は失われてしまっています。」
がっくりと肩を落とす一同。

「あ!」
さくらは思わず声を上げる。全員の注目を浴びながら、ポケットのホルスターから1枚の
クリアカードを取り出す。そして無言で皆にそのカードを差し出し、見せる。
0200無能物書き垢版2019/03/16(土) 01:52:37.37ID:vLMAiT+e0
−Future(先)−

「今朝、封印したの。これって『未来』っていう意味だよね。」
悲しい夢から覚めた今朝、自然にさくらの前に現れたそのカード、まるでこの時のために
用意されたように。
 皆がそのカードを覗き込む。その図柄には少年とも少女とも取れる、ローブを被った
子供が描かれていた。そのカードを見て海渡が、モモが驚愕する。
「このローブは・・・」
モモはいち早く、その部屋のクローゼットに向かう。扉を開けて、ハンガーにかかった
一着の服を持ってくる。
「これは、詩之本家に代々伝わるローブです。」
全員が驚く。それはまさに今、さくらが示したカードと同じローブだったから。

「偶然とは思えませんね・・・」
エリオルが頭をひねってそう言う。もしこの時のために用意されたカードなら
ここで使うべきカードなのかも知れない。
 しかし、その雰囲気に小狼がストップをかける。
「ダメだ!これ以上さくらがカードを使ったら・・・まして時間操作のカードは!」
必要とする魔力の量がケタはずれに多い。リターンの時も月峯神社の桜の木の魔力を借りて
やっと過去に飛ぶことが出来た。しかも、魔力を消費すればするほど、回復の幅も大きくなる。
今のさくらがそんな膨大な魔力を使えば、回復したのちの魔力は確実にさくらをより不幸にする。
小狼にとってとても承諾できる行為ではなかった。

「しかし、他に方法がありません。秋穂さんを見捨てるなら話は別ですが・・・」
海渡は脅迫めいた態度を隠さず、さくらに問う。だが嘘ではない、秋穂の魂の行方を突き止めない限り
彼女を救う手立てはないのもまた事実なのだ。
0201無能物書き垢版2019/03/16(土) 01:53:09.98ID:vLMAiT+e0
 さくらはすぅっ、と息を吸い込み、深呼吸する。そして小狼の方に向き直り、言う。
「ありがとう、小狼君。心配してくれて。」
ひと息ついて続けるさくら。
「でも、私は秋穂ちゃんを助けたい、アリスさんも。未来に行ってこの本を書いた人に会えば
その方法がわかるかもしれない。だから・・・やってみる!」
「さくら・・・」
その決意の瞳を見て、小狼は何も言えない。昔からそうだ、さくらは誰かのために常に
損な役割を引き受けてきた。ソードに操られたクラスメイトを傷付けないように助け、
タイムの潜む時計塔を壊さずに時間の流れを元に戻した、それで余計に苦労する羽目になっても。

「わかった、だけど必ず、無事で返ってきてくれ。」
「うん!」
不安は尽きない。小狼も、そしてさくらも。
だからこういう時は、さくらは無敵の呪文を使う、懐かしいあの言葉を。

「絶対、だいじょうぶ、だよ。」


 さくらと海渡は向かい合って位置する。今の膨大な魔力を持つさくらと、稀代の天才魔術師の
海渡の魔力をもってすれば、時間をめぐるカードの発動も可能だろう。
何より秋穂を助けたいと願うこの二人が未来に飛ぶ、その意志こそが成功の原動力になるだろう。
さくらはカードを空中に放り投げ、夢の杖を打ち据え、発動させる。

「我らを未来へ送れ、フューチャーっ!!」
その瞬間、ローブを被った精霊がカードから飛び出し、そのローブが広がってさくらと海渡を包む、
やがてローブはまるでテントのように二人を包み込み、光り輝き、そして消えていく。
0202無能物書き垢版2019/03/16(土) 01:53:33.84ID:vLMAiT+e0
 その時だった、そのローブの精霊が発した一言と共に、不快な金属音が部屋に響く。

「お前はもう、戻れない」
−ぱきいぃぃぃぃ・・・ん−

 やがて消えるさくら達。後に残された者たちが見た物は、部屋の中央に散乱している破片、
つい先ほどまでさくらが振るっていた杖だった物体、魔法を発動させるのに必要不可欠なアイテム。

−砕け散った、『夢の杖』の残骸−
0204CC名無したん垢版2019/03/16(土) 09:26:05.11ID:GyDSS+ex0
去年か一昨年のさくらフェスでもケロの正体について言及があって
久川さん(ケロの声優)が「犬だよ」って言って出演者が驚くっていうくだりがあったな

しかし、確かに月は都合が悪くなると雪兎になって逃げそう!
0205無能物書き垢版2019/03/18(月) 00:23:00.10ID:ZhiMbkbm0
>>203
ああごめん、不穏な展開はこっからがピーク・・・
>>204
やっぱ犬だったんだ、あの体格ならそーとーゴツい犬だなぁ、飼いたくねぇw
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」
第19話 さくらと壊れた未来

 そこは、白と黒のタイルがチェック柄に2列並んで、遥か向こうまで宙に浮かんで
真っすぐに続いている。
 タイルの外は下。霧に包まれてどこまで落ちるかすら分からない。まるで雲海の上に浮かぶ
板の道のように、その幅1mほどの足場の上にさくらと海渡は立っていた。
「ここは?」
後ろを振り返れば、足場はもうない。先に進むしかなさそうだ。
さくらと海渡は一歩踏み出す。その時二人は理解する。進んだのは「距離」ではなく「時間」。
歩くほどに二人の時間が進んでいくのがわかる、もし魔法や車などで猛スピードで進んだら
自分の老化すら自覚するだろう。

「これは・・・時間の回廊とでも言いましょうか。」
「うん、先に進むたびに、自分の時間が進むのが分かる。」
自分の手をじっと見て、やがて決意する海渡。
「2072年に着く頃は、私はもうお爺さんですね、これは。」
そう言って歩みを速める海渡、たとえ自分がどうなろうと、彼にとって迷いにはならない、
さくらを置いて、すたすたと進む。さくらが追いかけようとした時、その姿が霧に消える。

「え、あ!海渡さん、待って!!」
小走りに追いかけるが、海渡の姿は見えない。進むごとに変化する自分の体を恐れ、歩みを止める。
と、タイルの道の際に、下に降りる階段がある、いつの間に・・・
「こっちに行ったのかな?」
さくらは恐る恐るその階段を降りる。霧に包まれた『下』へと。やがて足元しか見えなくなり
さらに降りて霧の下へと抜ける。

 −そこにあったのは、友枝町−
0206無能物書き垢版2019/03/18(月) 00:23:38.57ID:ZhiMbkbm0
「さくら!起きんかーい!」
「ほぇ!?」
目が覚めた。いつものベッド、ケロに怒鳴り起こされるいつもの朝。
服を着替えて荷物をまとめ、階段を降りる。テーブルにはいつもの藤隆と桃矢、
そして写真立ての中の撫子。
「今日から高校生ですね。」
そうだ、今日から私も高校生。さすがにお兄ちゃんももう私を怪獣とか言わない、
そりゃそうだ、もうお兄ちゃんも社会人なんだから。
「行ってきます。」
笑顔の二人に見送られ家を出る。そしてさくらは目にする、耳にする。非日常を。

「きゃあーっ!」
「来た来たーっ!」
「さくら様よ、さくら様がご登校ですわ。」
「「おはようございまーす!!」」
「今日も素敵ねー♪」
「そりゃそうよ、なんてったってさくら様ですもの。」
「こっち見たわ、あはぁ、嬉しい♪」

「ほえっ!?」
戦慄するさくら。なんと家を出た道路に大勢の人が待ち構えていた。彼らは全員が
さくらに好意と、憧れと、恋慕の瞳を向けている。
「な、何?なんなの・・・」
 大勢に囲まれ、詰め寄られる。その異様な空気に背筋が寒くなるさくら。
よく見るとそれは知らない人もいるが、大半はさくらも知る近所の人達だ。
分からないのは彼らの態度だ、老若男女の別なく、さくらに上気した意志を向ける。
「わ、私、学校行かなきゃ・・・どいて下さいっ!」
不気味な怖さに怯え、人をかき分けて駆け出すさくら。「どいて」の一言に
まるでモーゼのように道を開ける人の海。
0207無能物書き垢版2019/03/18(月) 00:24:08.81ID:ZhiMbkbm0
 走ってる最中も、四方からさくらを称賛する声と、好意の圧が押し寄せる。
知らない、こんな世界は知らない。まるで世の中全員が知世ちゃんになったような、
いや、それ以上に強く、おぞましさすら感じる好意を、全ての人間がさくらに向けてくる。

 走り、校門をくぐり、教室に入る。そこにいたのは知世、奈緒子、千春、山崎、利佳、
おなじみの面々と、そして新たなクラスメート。

 彼らはさくらを待ち構えていたように、ドアの周りを取り囲み、さくらを包囲する形で
一斉に唱和する。
「「おはようございます、さくらちゃん」」
「ひっ!!」
思わず悲鳴を上げる。皆も同じだ、知世も、利佳も、奈緒子も、山崎すらも、まるでさくらしか
見えてないと言った表情を向け、囲む。

「み、みんな・・・何か変だよ。」
冷や汗をかきながら一歩引くさくら。
「何がですの?あ、いえ。そもそもそんなことどうでもいいですわ。それより今日も
本当に可愛いですわ〜♪」
知世が答える、どこか朦朧とした目で、頬を染めて。まるで恋する少女のように。
「ホントホント、さくらちゃん素敵ねー。」
同じ表情で、奈緒子と利佳がうなずき合う。その横では山崎が普段閉じてる目を開いて
さくらに熱い視線を送る。
「え、あ・・・山崎君?そういう目は千春ちゃんに・・・」
「なんで?」
真顔で答え、千春を見る山崎。千春も顔を見合わせ、ふたりして頭でハテナマークを作る。
「山崎君なんかどうでもいいわよ、それよりさくらちゃん、今日もホント美人ね〜。」
そう返す千春。さくらは自分の血の気がさーっ、と引く音を聞いた。
0208無能物書き垢版2019/03/18(月) 00:24:39.31ID:ZhiMbkbm0
 授業が始まり、知らないはずの高校生の勉強を進める。何も頭に入っては来ない、
代わりに来るのは先生からすら向けられる好意。怖い、怖いよ。なんなの一体・・・

 放課後のチャイムと共に、さくらはまた皆に取り囲まれる。怖い、誰か、誰か助けて!
そこでさくらは、ひとつの失念していた事を思い出す。いつも私を助けてくれた存在を。
「ねぇ!小狼君は、小狼君はどこ?」
 そのさくらの言葉に、全員がきょとんとした表情を向ける。知らないの?と言わんばかりに。
やがて知世がさくらに向き、言う。
「李君なら、東京タワーですわ。ご存知かと思っていましたが・・・」
「・・・え?」
東京タワー?どうしてそんな所に。あそこに就職でもしたのかな・・・
「まぁでも仕方ないわよねぇ。」
「うんうん、さくらちゃんを独占しようなんて、許せないよねー。」
「まぁ当然の処置だよね。」

「・・・ねぇ、何それ、なんの話?」
さくらが千春たちに詰め寄る。が、彼女らはさくらとの距離が近づいたことを喜ぶばかりで
周囲も「いーなー」と声を出すだけだ。
 駄目だ、ここにいても何もわからない。そう判断したさくらは教室から飛び出す。
東京タワー、あそこに小狼君がいる。行くんだ、今からでも。

「フライ!(翔)」
カードを使うでもなく、ただそう叫ぶ。さくらの背中に翼が生え、虚空に舞い上がる。
0209無能物書き垢版2019/03/18(月) 00:25:15.53ID:ZhiMbkbm0
 オレンジ色に染まる空と、世界。
空を飛んでいても届いてくる、下界にいる人たちの私への好意、まるで影絵のような人々が、
口を三日月のようにゆがめて笑っている。
誰も私が空を飛んでいることに驚かない、そもそもそんなことに興味も無い、それが分かる。
彼らの興味はひとつ、私への・・・

 思考を振り払い、怖気に耳を塞ぎ、飛ぶ。地平の向こうに見える東京タワーへ向けて。
その天頂部分のアンテナ、一本の線が伸びている、その一番上に、一本の横線が入っている
まるで東京タワーの一番上に、十字架が記されているように。

人がいる、あの十字架に磔にされている。誰かが。

さくらはそれが誰なのか知っていた。夢で見ていた。でも、それが逆夢であることを信じ、飛ぶ。
しかし近づくにつれてその期待はどんどん崩れ落ちていく。さくらの顔がこわばり、震え、
嗚咽と涙が漏れる。距離がゼロになった時、わずかな希望も絶望へと変わる。

「いやあぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!」

東京タワーの天頂で、磔にされている少年、李小狼。
目は光を失い、体にはわずかな温もりも維持していない。
死んでいる、さくらの愛しい人が。さくらが誰より好意を向けてほしかった、大事な人が。
「どうして、どうして、どうしてっ!」
小狼の目の前に浮いたまま泣き崩れるさくら。
0210無能物書き垢版2019/03/18(月) 00:25:43.42ID:ZhiMbkbm0
「そりゃあまぁ、さくらちゃんは『みんなの』さくらちゃんだからね。」
その声、知ってるその声、知ってる人。下から聞こえた、涙をぬぐい、さらに溢れる涙を拭いて
下を見る。
「・・雪兎さん。」
展望台の上に立ち、さくらを見上げる雪兎。かつてユエと対峙したその場所に笑顔で立っている。
その際からひょっこり顔を出すケロ。
「せやせや。なのにあの小僧ときたら、さくらの『いちばん』になろうやなんて、
とんでもないやっちゃ。」
うんうんと雪兎も頷く。

「どうして?雪兎さん、私の『いちばん』の人がきっと見つかるって・・・小狼君がそうだって聞いて
応援してくれたのに・・・」
雪兎とケロが顔を見合わせ、やれやれ、と言う表情でさくらを見る。
「何言うとるんや、さくら。そもそもさくらの願いやったやろ。みんなと『なかよし』に
なりたいっちゅうのは。」
「さくらちゃんは魔法でその願いを叶えたからね、世界人類の『いちばん』でなくちゃダメだよ。」

「え・・・そんな。私そんな願いを叶えたの?」
「さくら自身がやったわけやないけどな、さくらの体から溢れ出る『魔力』がそうさせたんや。」
「そんな!勝手だよ。私はそこまで望まないよ!」
「魔力っていうのは、そういうものなんだよ。その人の心の中にある願いを叶えてくれる、
素晴らしい力なんだ。」
雪兎が笑顔でそう答える。素晴らしい力?これが?
0211無能物書き垢版2019/03/18(月) 00:26:11.14ID:ZhiMbkbm0
 さくらは目の前の小狼に視線を戻す。現実は変わらない。彼が死んでいるのも、
下界の人々が、さくらに理不尽な行為を向けているのも。
「このため、だったの・・・だから小狼君は私が魔力を強くするのを、止めたの?」
思い出す。なでしこ祭の時、一緒に飛びたいといった自分の愚かさを。
知世の家で見たビデオ、懸命に結界を張り、自分の魔力を封じてくれていた小狼たちの奮闘を。

 世界が壊れてしまった、私が壊してしまった。
そして、愛する人も、私のせいでこんな目にあってしまった。

 さくらは小狼に近づき、すがりつく。すでに体温は無く、異臭すらするその躰に。
「ごめん・・・小狼君。私、バカだよ、世界一の・・・バカだ。」
魔法を使った、魔力を高めた。その結果がこれだ。そして今この時も、魔法を使って飛んでいる。
どれほどバカなんだろう、私は。
 さくらは小狼にそっとキスをする。そして離れ、彼に正対し、涙を流して、告げる。

「ごめんね、ありがとう。」

さくらは魔法を解く、東京タワーの天頂で。
せめてこの愚かな魔法使いが落ちて死ねば、少しは彼の魂が浮かばれることを祈って−

薄れる意識の中、さくらはその手を誰かに捕まれる、そして声を聞く。

−無敵の呪文はどうしたのよ!−
0212無能物書き垢版2019/03/18(月) 00:31:42.44ID:ZhiMbkbm0
やっと>>40の伏線回収、こっから巻きに入ります。あと4〜5話かな?
0214無能物書き垢版2019/03/21(木) 23:36:16.03ID:HRCjl+bE0
苺鈴ちゃん好きすぎる。ということで苺鈴回。
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第20話 さくらと苺鈴の素敵な魔法

「ちょっと、重いわよ、もう片方の手もあげなさい!」
「・・・え?」
さくらは右手を誰かに捕まれ、空中にぶら下がっている。その手の先は霧に隠れ、
誰なのかは分からない。ちょうどその手の上に濃い雲がかかっているかのように。
 さくらは言われるまま左手も上げる。と同時にその左手もばしっ、とつかまれる、
「はぁーーっ!」
気合一閃、さくらはそのまま一気に持ち上げられ、雲の中へ。霧をすり抜けると
そこは昨日さくらが下りてきた階段と、その上には白黒の通路、時の回廊。
そして、さくらを引き上げたのは、彼女も良く知る人物。

「苺鈴ちゃん!」
苺鈴は階段の踊り場でヒザをつき、ふぅっ、と一息つくと、きっ、とさくらを睨み、叱る。
「ちょっと!何やってんのよ、こんなトコで折れてる場合じゃないでしょ!」
「え・・・あ。」
さくらはぱちくり、とまばたきして苺鈴を見る。そしてふるふると震えながら、涙目になっていく。
「どうしたの?」
苺鈴の言葉にかまわず、がばぁっ、と抱き着くさくら。
「よかったぁー、苺鈴ちゃんはいつもの苺鈴ちゃんだよぉー」
「え、え?ええーっ!?」

「ふーん、みんなが貴方を好きな世界、ねぇ。」
「うん・・・」
時の回廊を歩きながら話す二人。先を行く苺鈴の背中を追いかけ、とぼとぼと付いて行く。
「みんな、おかしくなっちゃった。それに、小狼君が・・・」
うつむいて涙声で話すさくら。二人は先に歩いている、時の回廊を未来へ。
つまり、この先の時代に李小狼はいない、どこまで進んでも。
0215無能物書き垢版2019/03/21(木) 23:37:00.83ID:HRCjl+bE0
「私、苺鈴ちゃんがうらやましい。魔法なんてなくても、しっかりしてて、カッコよくって。」
独白するように、聞いてほしいように、さくらは呟く。
「なんで魔法なんて使えたんだろう、こんな力が無ければ、こんなことにならなかったのに。」
と、くるっ、と振り向き、さくらを見る苺鈴。凛とした目で。
「贅沢よ、それ。」
「え・・・?」

 苺鈴は語る。魔法の一族である李家に生まれ、魔力を持たない苺鈴がどれだけ肩身の狭い
想いをしてきたか。
小狼の婚約者として彼と並び立つ資格のない自分を、どれほど嘆いたか。
「だから体を鍛えたのよ。魔力なんて無くても負けないくらい強くなろう、って。」

 しかしクロウ・カード集めの時、彼女は自分の努力が徒労であったことを思い知る。
さくらと小狼のカード争奪戦に割って入ることはできず、ソングのカードの時は知世にすら
後れを取った。シュートのカードの時に至っては自分の不注意で小狼を傷つけてしまった。
「でもでも、ツインのカードの時はうまくいったじゃない。」
さくらのフォローに、苺鈴は冷めた返事を返す。
「あれは同じ武術を学んでただけよ、正直ウェイの門下生なら誰でもできるわ。」
「そんな、こと・・・」
「さくらは『私にしかできないことがある』って言った。小狼は『お前がいて迷惑なことは無い』
って言った。」
そこで言葉を区切り、一度目を伏せてから、顔を上げて言う。

「それは、『持ってる人』の言う事よ!」
さくらはその表情に、胸を矢で貫かれたような、ずきり、とした痛みを覚えた。
0216無能物書き垢版2019/03/21(木) 23:37:33.21ID:HRCjl+bE0
「『持ってる人』に言われても、そんなの慰めでしか無いわ。私がクロウ・カード集めの時
さくらにも小狼にも負けずにカードを手に入れられた時があった?」
言葉に詰まるさくらに、苺鈴はこう続ける。
「さっき何て言った?私が羨ましい、ですって!?私はずっと昔から思ってたわよ!
さくらが羨ましいって!魔力を持つあなたが、あのヌイグルミ(ケロ)に選ばれたさくらが!」
そう吐き捨てる苺鈴。言葉を紡ぐたびに感情的になっていく気持ちを抑えられずに、叫ぶ。

「あんたは特別なのよ!カードに受け入れられ、小狼に受け入れられ、皆に受け入れられる。
それを自覚しなさいっ!!」
苺鈴の叫びがさくらの胸に響く。さくらはいつか小狼が話してくれた言葉を思い出す。

−特別な力を持つって言うのは、そういう事なんだ−

 特別な力、それは他人に劣等感を感じさせる、否応なしに。
普通なら『仕方ない』と諦めることも出来ただろう。しかし魔法の一族に生まれながら
それを持たない、その悔しさを努力で埋めようと頑張ってきた苺鈴にとって、その心は、矜持は、
さくらが思う以上に傷ついていたのだ。
「私・・・どうすれば、いいの?」
顔を伏せたままさくらが呟く。自分の魔力が人を魅了し、人を傷つける。
そんなさくらに苺鈴は声のトーンを下げて、語る。
0217無能物書き垢版2019/03/21(木) 23:38:05.47ID:HRCjl+bE0
「ねぇ、ライト兄弟って知ってる?」
「ほぇ?う、うん。初めて飛行機で空を飛んだ人、だよね。」
「じゃあ、オットー・リリエンタールは?」
さくらはふるふると首を振る。
「フランツ・ライヒェルトとか、イスマーイール・ブン・ハンマード・ジャウハリーは?」
全然知らないよ、と言った表情で苺鈴を見つめるさくら。
「今言った人、みんな天才よ。当時のトップクラスのね。そして、空を飛ぶことを夢見て・・・」
「それで?」
「落っこちて死んじゃったの。」
えっ、という顔で驚くさくら。
「ライト兄弟が飛行機っていう機械にしがみついて空を飛ぶまで、他にも多くの天才や偉人たちが
命を落としたのよ。そんな空を飛ぶ、っていう行為を魔法使はいかにもたやすくやっちゃう。
これだけでも、自分がいかに『持ってる』人間か理解できるでしょ?」

 さくらは痛切する。初めてフライのカードを封印し、ケロに勧められるまま空を飛んだ。
さくらカードに変える時は杖の羽から背中に羽を移した。クリアカード『フライト』では
蝶のように空を舞い、ミラーでコピーして小狼すら一緒に飛んだ。
 全ては『特別な』ことだ。人間は飛べない、自分の力では決して。心から『空を飛びたい』と
思う人にとってそれはあまりに理不尽で、差別的で、屈辱的な能力。
魔力に選ばれた一握りの人間だけが成し得る、理不尽で不公平な奇跡。

「李家に伝わる家訓の一つなの。自分がいかに特別な人間か理解するためのいい実例だ、って。
もっとも、私には必要なかったけどね。」
そう言ってペロッと舌を出す苺鈴。
「大事なのは、あなたがその力とどう付き合っていくのか、真剣に考える事。
ただダダ洩れにしてるだけじゃ、そりゃあちこちおかしくなっちゃうでしょ!」
0218無能物書き垢版2019/03/21(木) 23:38:33.59ID:HRCjl+bE0
 その苺鈴の言葉に、さくらは呆然として顔を上げる。
「じゃあ・・・そうすれば未来を、変えられるの?」
「さぁね。」
背を向け、そっけなく言う苺鈴。そもそも魔力の無い苺鈴に、この魔法で超えてきた未来が
不変なのかそうでないのかなんて分かるはずがない。
「でもね、私だったら諦めないわ。」
「え?」
「私には魔力が無い、だから空は飛べない。だったら空を飛ぶより速く走って、彼らより早く
目的地についてみせるわ。」
 さくらの心に、苺鈴の思いが染み渡る。どんな理不尽にも諦めない、その強い心が。
「さくらはどうなの?諦めてこの未来を受け入れる?それとも・・・」
振り向いて言う苺鈴に、さくらの目の前が開ける。そうだ、私の前にどんな困難にもめげずに
挑める人間がいる。手本にするべき、指針となるべき友達が。
「苺鈴ちゃん、ありがとう。私、やってみる。小狼君も、秋穂ちゃんも、そして私も助けられる世界を。」

 もう迷いはない、やるべきこと。それを成し、帰る。

−絶対、だいじょうぶだよ−
0219無能物書き垢版2019/03/21(木) 23:39:05.52ID:HRCjl+bE0
 詩之本家、砕け散った『夢の杖』の周りに駆け寄り、全員が驚きの表情を見せる。
「これは・・・」
エリオルが嘆く。と、その上に浮いていたクリアカード『フューチャー』が、その輝きを失い
1枚のカードに戻って、ひらりと床に落ちる。
「大変なことになりました。」
目の前の現実に愕然としながら、エリオルは続ける。

「どういうことだ!」
桃矢が問う。杖が失われ、カードが発動を終えたことが、最悪の結末を予感させる。
「このままでは、さくらさんは・・・二人は戻ってこられません。」
「何ですって!?」
驚きの言葉を上げる苺鈴、他の全員も悪い予感を隠せない。
「どうすればいい?」
小狼の問いに、しばし考え込んで答えるエリオル。
「誰かが未来に行って、連れ戻すしかありません。」
「未来へ・・・どうやって?」
小狼の問いにエリオルが返す。
「まず、さくらカードを元に戻します、準備を!」

 小狼は一度アパートに戻り、さくらカードの精霊が宿るクマのぬいぐるみを取ってくる。
雪兎は再びユエに戻り、預かっていたさくらカードの「原紙」ともいえる透明なカードを持ってくる。
再び詩之本家、床にカードを並べ、小狼が精霊を一気に開放する。
「あまたの精霊たちよ、汝らのあるべき姿に戻れ、さくらカードっ!」
エリオルが杖で精霊たちを照らす、それにこたえて精霊たちは、それぞれのカードに戻っていく。
0220無能物書き垢版2019/03/21(木) 23:39:42.66ID:HRCjl+bE0
「ふぅ。」
「くっ・・・」
膨大な魔力を使ったエリオルと小狼は、その場にへたり込む。
「それで、これからどーするんや!さくらカードに未来にいくカードなんかないで。」
そのケロの質問に答えたのは、エリオルではなく観月だった。
「でも、その反対の能力を持つカードならあるわ。」
「そらまぁ・・・リターン(戻)ならあるけど、過去に行ってもしゃあないやろ!逆や逆!」
そこまで聞いて、あ!という表情でエリオルを見る小狼。

「ミラー(鏡)のカードか!」
分身を生む、光を跳ね返す等、さまざまな鏡の能力を持つミラーのカード。
その能力を応用して、過去に戻るリターンの能力を反転させ、未来に送ることが狙いだ。
「しかし・・・」
果たして本当にそんなことが可能なのか、仮にできるとしても、ミラーを使う者、リターンを使う者
そしておそらく時間を制御するためタイム(時)のカードも必要となるだろう、それを使う者も。
 いずれのカードも相当な魔力が必要となる。言うまでもなく、ケルベロス、ユエ、スピネル、そして
ルビー・ムーンの4人は自分でカードを使うことは出来ない。まして今、エリオルと小狼は膨大な魔力を
消費したばかりだ。

「リターンは私と歌帆が担当します。」
エリオルの言葉に頷く歌帆。膨大な魔力を必要とするリターンは、今のエリオル一人ではきついらしい。
「タイムは・・・相性の良い李小狼、いけますか?」
その問いに小狼は力強く頷く。さくらを助けるため、出来ることは何だってやる決意だ。
「あとはミラー・・・」
そう言って、桃矢の方を見るエリオル。
「さくらさんのお兄さん、お願いします。」
0221無能物書き垢版2019/03/21(木) 23:40:11.74ID:HRCjl+bE0
「えっ!俺?」
驚く桃矢にこくりと頷く。
「あなたとミラーには何か『縁』を感じます。ユエ、彼のサポートを。」
「分かった。」
そう言ってミラーのカードを広い、桃矢に渡す。
赤いリボンが巻かれた少女の図柄を見て、やれやれと息をつく。
それぞれがカードを持ち、向かい合って立つ。

「で、誰が未来に行くんや?」
そのケロの言葉に全員が硬直する、その人選が抜けていた。
本来ならリターンを使う二人が行くのだろうが、これはさくら達を『呼び戻す』ための時間飛翔だ。
リターンのカードはさくら達を引き戻すためにも使い続ける必要がある。
人間でないケロ、ユエ、スピネル、ルビー、そしてモモはカードで飛ぶことは出来ない、となると・・・

 全員が注目する、知世と苺鈴に。
「じゃあ私が・・・」
いそいそとビデオを用意する知世に、苺鈴が平手でツッコミを入れる。
「大道寺さんはダメ!財閥の令状が帰ってこられなくなったらオオゴトでしょうに。」
「ですけど・・・」
「私はいいの、これで結構自由な立場だし。それに・・・他にも理由はあるしね。」

 桃矢の手の中でミラーのカードが発動する。桃矢の背中にはユエが付き、体内の魔力の流れを
調整している、かつて桃矢の力を受け継いだユエだからこそ出来るサポート。
具現化したミラーは、桃矢を見て少し嬉しそうに微笑んだ後、正面のリターンのカードと、
それを使うエリオル達に向き直る。
 次に歌帆がリターンを発動、ミラーはそれを鏡に映し出す。その正反対の能力を持つカードとして。
そしてエリオルがその鏡に映ったさくらカード『フューチャー』に手をかざす。小狼もまた
時間制御のため、カードに剣を突き立て、発動させる。
0222無能物書き垢版2019/03/21(木) 23:40:47.32ID:HRCjl+bE0
「フューチャー!」
「タイム!」
3枚のカードの真ん中にいる苺鈴が、3方からの魔力を受け、うっすらと消えていく。
それを見た知世が苺鈴に叫ぶ。
「苺鈴ちゃん!」
振り向く苺鈴、知世はその顔を見て言葉を続ける。
「他の理由って、いったい何ですの!」
親友の言葉に、苺鈴は手を挙げて返す、消える直前に。

「ずっとさくらに言いたいことがあったのよ、じゃあ、行ってくるわね!」
0223CC名無したん垢版2019/03/22(金) 01:47:26.05ID:HXwfwRoL0
読みたかったパーツがまるで導かれるみたいにはまってく。繋がっていく
どこが無能やねん
有能すぎるわ
0224CC名無したん垢版2019/03/22(金) 02:13:02.51ID:dcKqOXCq0
アニメ劇中のあの音楽と効果音が頭の中で再生される
デデデデッデデデデー♪
0225CC名無したん垢版2019/03/22(金) 10:06:36.80ID:Xo8o9GLu0
大川七瀬がこれ読んだら感服するレベルやんけもうこれ
0226無能物書き垢版2019/03/24(日) 01:04:24.27ID:5OxW+Yck0
>>223-225
ここは無能をおだてて木に登らせるインターネッツですか?いや登るけどw
>>223
ロジックが多いとそのへん苦労しますが、わりとうまく収まりそうです
>>224
1話1話、アニメの1話またはA,Bパートを意識して書いてます、脳内BGMが付くと嬉しい
>>225
いやいや、後出しの二次創作など相手にせず突っ走ってほしいものです

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第21話 さくらとアリスの本の秘密

 さくらと苺鈴は歩く。時の回廊を、とりとめもない思い出話をしながら。
初めて会った時、水に落ちたさくらが、苺鈴が小狼にプレゼントした服を着ていたこと。
香港に来た時、またも水に濡れたさくらが今度は小狼の実家で着替えたこと。
 揚げ物の授業の時、パニックに陥った時に危険を顧みず火を止めてくれたり
ミラーの騒動の時に非行に走ったと勘違いされて叱られたこと。
ビッグのカードの時の巨大さくらの戦いが特撮的で楽しかったこと、
 体育のマット運動で、マラソンで、ケーキ作りで、ゲーセンのモグラ叩きで
いつも張り合ってたこと。

 そして、時間を違えて同じ人を好きになったこと。
0227無能物書き垢版2019/03/24(日) 01:05:14.59ID:5OxW+Yck0
 魔力の有無を除けば、私たち結構似てるのかな、という話になる。
「そういえば、本物の詩之本さんもさくらに似てる、って言ってたわよね、あの人。」
「うん、おっとりな秋穂ちゃんからは想像できないけど・・・」
「もしそうなったら、今度は3人で競争かしら?」
あのお嬢様気質な秋穂が、苺鈴もかくやな態度でさくらたちの勝負に参入してくる姿を
想像して、二人で笑う。
「案外、どおりゃあー!とか言って月面宙返り決めたりして。」
「ぷくくくっ・・・ちょっと苺鈴ちゃんやめてよ、想像しちゃった・・・」
それはそれで楽しそうだ、とさくらは思う。秋穂に宿ったアリスは確かにさくらに
似ていたところがあったが、どちらかというとふんわりな部分が、いや今は苺鈴と一緒だから
ぽややんな部分が似ていたから、そういう部分も似ていたらさぞ楽しいだろう。

「その為にも、彼女を助けないとね。」
「うん。それで、できればアリスちゃんも。」
と、苺鈴がその足を止める、その先には下に降りる階段。
「終点みたいね。」
「うん、先の道が無い・・・海渡さんもここから降りたのかな?」
「多分ね。しっかしさくらって、おばあさんになっても美人よね〜、羨ましい。」
「ほぇ?」
ふと自分の頬に手を当てるさくら。そのほっぺたも手の平もしわしわなのに今更驚く。
「ほぇえぇぇっ!私、おばあさんになってる!」
「気付いてなかったの?」
「でもでも、苺鈴ちゃんはそのまんまだし・・・」
驚くさくらに、少し考えて答える苺鈴。
「あー、多分『来た方法』が違うからかもね。」
0228無能物書き垢版2019/03/24(日) 01:06:26.77ID:5OxW+Yck0
「そうだったの・・・杖が。」
「さっきも試したんだけど、私は階段の下には降りられないみたい。上から見ることは出来るし
腕くらいは掴めるみたいだから、帰りたいときは腕を上に上げなさい、引っ張ってあげるから。」
「うん、じゃあ行ってくる!」
「あ、ちょい待って。一言いっとくけど・・・」
そう言って階段を降りようとするさくらを止める。

「その年で『ほぇー』は止めときなさい、似合わないから。」
「・・・ぷっ!あははははは・・・」
大笑いする二人。さくらは思う、苺鈴ちゃんが追いかけてきてくれて、ホントに良かった。

 さくらは階段を降りる。多分この先は目的の2072年、『時計の国のアリス』が完成した年。
秋穂とアリスの魂を開放する、その方法を探るためにここに来た。階段の最下段に立ち、
後ろの苺鈴を振り向いて手を上げる。笑顔で手を振り返す苺鈴。
 そしてさくらは、その階段の下に身を踊らせる。

−そこは、見たことのない風景。山岳地帯にある湖と、その脇に建つ古風な小屋−

 遠くには雪山、空気は澄み、冷たい。人の気配のない豊かな自然の中に、ぽつんと小屋がある。
さくらはその小屋の前に立つ。ここに来たということは、何か意味があるということ。
こんこん、とドアをノックするが、返事は無い。ノブに手をかけ回す、カギはかかっていない。
きぃ、という音を立ててドアを開ける。
0229無能物書き垢版2019/03/24(日) 01:06:58.34ID:5OxW+Yck0
 殺風景な小屋の中。その隅、窓際に机と安楽椅子がある、そこに座っているのは一人の老人。
さくらを見て、言う。
「・・・来ましたか、木之本さくらさん。」
痩せ型で白髪、精悍な表情が、かつてハンサムだったことを思わせる男性。
「私を、ご存知なんですか?」
さくらが返す。今は自分もお婆さんだ、その上で自分を知ってる人って?

「あなたのことはよく知っていますよ、ふたつの意味で。」
「ふたつ・・・?」
「ひとつは、この世界を崩壊に導いた魅惑の魔女として。」
「え、ええええっ!?」
なにかとんでもない評価を受けて驚くさくら。確かに見かけはお婆さんだが、心はいまだ
十代なのに魅惑とか魔女とか・・・あ!
 さくらは思い出す。自分の魔力が周囲に与えていた影響を。そしてそれが高校生になる頃には
世界を歪めてしまうまでになっていたことを。

「心当たりがあるようですね。」
安楽椅子を回し、さくらに正対して老人は言う。
「世界って・・・崩壊したんですか?」
さくらはこの時代はここしか知らない、今の世界がどうなっているのかは知る由もない。
「人類はね、貴方以外を愛せなくなったんですよ。」
「そんな・・・」
「もう40年くらいになりますかね、この世界に「赤ちゃん」がいなくなってしまったのは。」
老人は語る。さくらの発する魔力は世界中に生きわたり、世界人類すべてがさくらを愛するように
なってしまった。男も女も、若者も老人も子供も、その子供が大人になってからも。
「誰も結婚しない、誰も子供を産まない、ただただ貴方の虜になって生きるだけの存在。
社会は機能しなくなりました。そして、繁殖を忘れた人類は、あと70年もすれば滅ぶでしょう。」
0230無能物書き垢版2019/03/24(日) 01:07:30.02ID:5OxW+Yck0
 さくらは愕然とする。前に降りた時代ですら小狼を失い、身の回りの人間関係は壊れていた。
千春と山崎はただのクラスメイトになり、利佳はかつての好きな人を忘れたかのように
さくらに好意と恋の目を向けていた。
それが今では、人類全てが?
 一瞬気落ちしかけて、ふるふると首を振る。いけない、めげてちゃ駄目だ。
ついさっき苺鈴ちゃんに言ったばかりだ、こんな結末を変えるんだ、私が。

「そして、もうひとつの意味で、私はあなたを知っています。」
老人が続ける、さくらから視線を外さず、かつ、さくらの魔力に魅了されていない目で。
「私と一緒に、時を超えてここに来た人間として、です。」
「ええっ!そ、それじゃあ・・・あなたは」
老人は頷き、さくらを見据えて言う。
「ええ、ユナ・D・海渡です。」

 彼は二年前にここに来て、この時代の自分と融合し記憶を共有する。そしてさくらが来るまで
彼はここで待っていた、やるべきことを進めながら。
彼は机の上にある本をさくらに見せる。見覚えのある表紙、忘れられない色、作り、サイズ、厚さ
そして、その本のタイトル。
「時計の国のアリス!海渡さん見つけたんだ!!」
 この本の秘密を解き、秋穂の魂を救う。その為に二人は時を超え、この時代にまでやってきた。
「見つけたのではありませんよ。」
「・・・え?」
その次の言葉が、この本の謎を雄弁に語る。
「この本は、私が書いたんです。」
0231無能物書き垢版2019/03/24(日) 01:08:02.47ID:5OxW+Yck0
「先ほども言いましたが、この世界はあなたへの愛で壊れてしまっています。」
海渡は語る。彼の目的は変わらない、秋穂を救うこと。
しかしその対象は全く違うものになっていた。
「私は、秋穂さんが好きでした。いえ、好きになろうとしていた、というべきでしょうか。」
彼は秋穂が7歳の時、詩之本家に行き、秋穂に出会った。自分が使うべき『魔法具』として。
それは言い換えれば、彼女とこれから長い時間を一緒に過ごすということ。
「気持ちの良い娘でした。私は昔、人と違う力を持つゆえに暗く歪んでいたんです。
でも、彼女はそれを自然に癒してくれた。その明るさで、笑顔で。」

「いつしか私は、秋穂さんを好きになってしまっていました。おかしいですよね、まだ彼女は
10歳にもなっていなかったのに・・・」
 さくらはふるふると首を振る。知っている、『好き』に年齢は関係ない。かつてのさくらと雪兎のように
先生と生徒で想い想われる仲であったクラスメートのように。
「そして、あの事件が起きました。秋穂さんが本に魂を奪われる事件が。」
ひとつ区切って、意を決して続ける。
「あれは、『今の』私の仕業なんです。」

 この時代に来て、さくらの魔力で壊れたこの世界で、海渡は事件の真相を知る。
あの本は人の魂を食らう本ではない、理不尽な魔力から人の魂を守るシェルターであることを。
「私は、耐えられなかった。秋穂さんが、貴方の虜になることが・・・だからこの本を作ったんです。
時を超えて、貴方がその魔力を撒き散らす前に、秋穂さんを救うために。」
「私の・・・魔力から守るために?」
「ええ、私は秋穂さんを欲した。秋穂さんの心が貴方に奪われるのを止めたかった。
いいえ、本当は私が秋穂さんの『いちばん』になりたかったんです。」
 だから彼はこの本を作り、過去に送る。さくらが魔法に目覚めるその前の時代に。
秋穂やさくらが9歳の時代、さくらがケロと出会い、クロウ・カード集めを始めるその時代に。
0232無能物書き垢版2019/03/24(日) 01:08:35.28ID:5OxW+Yck0
「この本の中には世界があります、私が魔法で作った世界が。閉じ込められた秋穂さんが
寂しくないように・・・いつか私の魂と出会えるその時まで。」
「じゃあ・・・アリスさんは?」
「彼女も、私が作った魂です。秋穂さんとの思い出と、私の彼女に対する想いを込めて。」
さくらは納得する。知り会った秋穂は、その心の中にあるアリスの魂は、常に海渡に恋していた。
それは海渡が秋穂を想う恋心そのままだったのだ。
 本の中に世界がある以上、その中に登場人物は必要だ。アリスを作り、モモを作って
秋穂がその本に入るまでその本を生かせていた。

「この本の中には、もうすでに秋穂さんが入っています、アリスもね。」
さくらから視線を外し、外の窓を見て、こう呟く。
「あとは、私が死ぬだけです。そして、私の魂がその本に入ることが出来れば、再び出会えます、彼女と。」
「・・・そんな!」
さくらは叫ぶ。そんな恋なんて可哀想だ、終わった世界で本の中に閉じこもって一緒になっても
そんなのきっと幸せじゃない。

「海渡さん!」
さくらは海渡に詰め寄り、胸に手を当てて宣言する。
「私、もう決めたんです。世界をこんな風にしないようにやり直すって!」
その言葉にうつろに振り向き、さくらを見て自虐的に笑う。
「無理ですよ、未来を見た以上、その運命は変えられない。もう夢の杖は失われたんですよ。
私たちはもう、あの時代には帰れないんです。」
知っている、夢の杖がもう砕け散って、フューチャーのカードが発動を終えていることを。
だけどさくらは諦めない。自分一人の力じゃどうにもできないことも、一緒にやってくれる人がいることを。
0233無能物書き垢版2019/03/24(日) 01:09:07.18ID:5OxW+Yck0
「海渡さん、秋穂ちゃんともう一度会いたくないですか?こんな世界じゃなく、あの頃に戻って。」
さくらの真剣な提案に、海渡の瞳にわずかに光が灯る。
「もし、もしも海渡さんがそれを望むなら・・・手をあげて下さい、力いっぱい。」
 さくらは両手を天高く突き上げる。
その姿を見た海渡は、そのさくらの意思と決意を感じ取り、立ち上がる。僅かな奇跡を信じさせる
そのさくらの瞳を見て。
「さぁ!」
さくらが再度即する。立ち上がった海渡は、もうすっかり年老いたその腕を、高々と天に掲げる。
夢見た、もうかなわないと思っていた夢を、今だけは信じて!

 さくらの手が、海渡の手が、ぱしっ!と捕まれる。その上から現れた手に。
「な・・・」
「海渡さん、その手につかまって!」
捕まれていないほうの手で、その手を掴むさくら。海渡もそれにならい、その手を掴む。

「いいよ、苺鈴ちゃん!」
0236無能物書き垢版2019/03/25(月) 23:29:56.23ID:xBsJFseB0
>>234
胸熱展開は作者の力量が問われますよね・・・もっとセンス欲しい
>>235
ここからクライマックス突入です、願わくば最後までお付き合い願います。

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第22話 おかえり、さくら

「ぜはーっ、ぜはーっ・・・もう!二人まとめて、引っ張り上げさせないでよ!」
階段の一番下でへたりこみながら抗議する苺鈴。
その際にさくらと海渡がいる。さくらは申し訳なさそうに、海渡は驚きの表情で。
「あはは、ごめーん。」
手を合わせて謝るさくら。そんな二人に海渡が呆然として、問う。
「李苺鈴さん・・・あなたが何故、どうやって?」
息を切らしながら、その質問に答える。
「そうね・・・頑張って来た、とでも言っとくわ。」

 ふぅ、と息を正し、立ち上がって二人を見て言う。
「それで、詩之本さんを助ける方法は見つかったの?」
「え!?あー、何というか、その・・・」
言葉を濁すさくら、海渡が現状を代返する。
「こちらが聞きたいくらいですよ。」
その返事にがくっ、と体を傾ける苺鈴。
「何しに行ってたのよ!」
「あはは、でもなんか、何とかなるような気がするの。」
ふっ、と笑ってさくらを見る苺鈴。相変わらずこの娘は・・・おばあさんだけど。
0237無能物書き垢版2019/03/25(月) 23:30:33.38ID:xBsJFseB0
「ま、いいわ。それじゃ帰るわよ、二人とも。」
行って階段を上がり、時の回廊に戻る苺鈴たち3人。
「でも、どうやって?」
時の回廊は、さくら達が歩くたび、歩いた後が消えて行っていた。進むことは出来ても
後戻りはできない道。現に階段の上は、もう踊り場くらいのスペースしか残っていない。
「何が?」
理解できないといった表情で苺鈴が返す。
「道、あるじゃない。あれを辿っていけば帰れるでしょ?」
苺鈴が示した先、さくらと海渡には空間しか見えない。が、苺鈴には何かが見えているようだ。
「私たちには見えないんですよ。多分、夢の杖が壊れて、フューチャーのカードが
発動していないから、過去と私たちの『縁』が切れているのでしょう。」

 ふむ、という顔で考える苺鈴。縁、ねぇ・・・
魔術の家に生まれた苺鈴にとって、その言葉は馴染み深い。魔術を使う際も、人間構成も。
「んじゃ、手をつないでたら大丈夫なんじゃない?」
そう提案する苺鈴。彼女は帰れるが、さくらと海渡は帰れない。だったら3人が手をつないでいたら
帰れる苺鈴の『縁』に引っ張られて二人も帰れるかもしれない。
 両手をさくらと海渡に差し出す苺鈴。さくらはすっとその手を取る。海渡は少しためらいながら
その手にそっと触れる。それをぐっ、と握り返す苺鈴。

「じゃ、行くわよ!」
両手で二人を引っ張ってダッシュする苺鈴。さくらと海渡は足元のない空間に引っ張り込まれる。が、
そこには床が確かにあった。白と黒のタイルで構成された時の回廊が。
あるいは、杖が壊れたことで『もう戻れない』という思い込みが、二人にこの回廊を見せないで
いたのかも知れない。
0238無能物書き垢版2019/03/25(月) 23:31:31.55ID:xBsJFseB0
 3人は走る、過去に向かって、戻るべき時に向かって。
彼らが通り過ぎた後、その回廊はまるで積み木のように、ガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
まるでもう役目を終えたかのように。
 過去に走るたびに、さくらと海渡は若返っていく。50代、40代、30代・・・そして20代。
そして最初にさくらが下りた階段の際を通過する。小狼が処刑されたあの時代。
あんな未来にはさせない、絶対に!
さくらは通り過ぎながら、決意を新たにする。

 やがて苺鈴が声を上げる。時の回廊がそこで途切れている。その先に向かって掛け、飛ぶ。
「いくわよっ!」
苺鈴が、3人が飛ぶ。何もない空間に向かって、未来を変える決意、その先に向かって。
回廊の先、その下に落ちる3人。足元の霧を突き破り、抜ける。

−そこにあったのは、翼−

 3人は落下する。その『翼』の上に。
「ぐはあぁぁぁぁっっ!」
翼と、その翼の持ち主がクッションになって、3人は無事軟着陸する。
代わりに3人に下敷きになったその翼の持ち主が、いきなり潰されたことによる悲鳴を上げる。
さくらは周囲を見渡す。そこにあったのは懐かしい顔、顔、顔。

「さくら!苺鈴!」
「さくら!」
「さくらちゃん、苺鈴ちゃん!」
「主(あるじ)!」
「木之本さん、李さん!」
0239無能物書き垢版2019/03/25(月) 23:31:59.91ID:xBsJFseB0
 小狼、桃矢、知世、ユエ、観月、エリオル、なくる、スピネル、そしてモモ。
そしてこの場所、あの懐かしい詩之本邸、さくらたちが未来に旅立った、あの部屋。
・・・あれ、誰か足りない?
「ぐ、ぐおぉぉ・・・早よどかんかいっ・・・」
彼らの下敷きになっているのは、本来の獣の姿に戻っているケルベロス。
「こ、こらエリオル、わいに『ここに居(お)れ』つったのは、このためかい・・・」
3人に下敷きになったまま抗議の声を上げるケロ。エリオルはまぁまぁ、という表情で
片手でケロをたしなめる。もう片手で操っていたカード『ミラーに映ったリターン>フューチャー』を
停止させる。

 桃矢も、小狼も、さくら達が無事帰ってきたことを確認し、発動させていたカードを停止させる。
よかった、みんな無事に帰ってこられた。安堵する一同。
と、そんな中さくらは、小狼を正面に見据え、目を潤ませる。
「さくら・・・?」
小狼の問いにさくらは答えない。代わりにその表情はどんどん崩れていく。
感極まってしゃくり上げ、涙をとめどなく落とす、その顔をくしゃくしゃに歪めて。

 それを見て、苺鈴がぽんっ、とさくらの背中を押す。その瞬間に決壊するさくらの感情。
「うわあぁぁぁぁぁん!」
泣き叫び、小狼に駆け寄り、抱き着いて泣く、泣き叫び、愛しい人の名前を呼ぶ。
「小狼君!小狼君だよね、小狼君だ・・・うわあぁぁぁぁん!」
「ど、どうした!?」
小狼の胸にすがり付き、声をあげて泣く。さくらが今の今まで失っていたその顔、体、
そして温もり。
 頭の中でさえほぼ丸一日、彼の死後の世界を過ごしてきた。ましてその体は、小狼がいない世界を
50年以上経験していたのだ。
 愛しい人を、心が、そして体全体が求める、感動する、そこにいる喜びをかみしめる。
小狼君。その言葉が、その存在がさくらの世界を変える。なんて素敵な世界なんだろう、
彼がいる世界が、生きていることが、彼の温度を感じることが、そのすべてがさくらを幸せに浸し、泣かせる。
0240無能物書き垢版2019/03/25(月) 23:32:27.46ID:xBsJFseB0
「おかえり、さくら。」
小狼はそっとさくらの頭を撫でる。彼にはさくらがどんな経験をしてきたかは分からない。
だけど、さくらのその感極まった態度が、未来の旅の過酷さを物語っていた。
「大丈夫だ、俺はずっとここにいるよ、さくらのそばに。」
その一言に、小狼の胸に顔をうずめながら、うんうんと頷くさくら。
「約束だよ・・・本当に、ずっといてね。いなくなったり・・・しないでね。」
ああ、と頷く小狼。

 そんな光景を見て、皆、優しい笑顔を向ける。まぁ知世は恍惚の表情でビデオを向けてるし
桃矢は怒りの血管を頭に浮かべ、ちっ、という表情を隠さないが。
 それを少し距離を置いて海渡は見ていた。二人の姿を自分と秋穂に重ねる。
「羨ましいです・・・」
そう呟く海渡。彼らは無事再会を果たしたが、自分たちは未だ引き裂かれたままだから。

 さくらが、海渡が、真相を皆に語る。さくらの魔力によって壊れた未来。
『時計の国のアリス』が、秋穂を閉じ込めたのではなく、さくらの魔力から逃れるため
海渡がその魔力を惜しみなく注ぎ、生み出した本であること。
 ソファーに横たわる秋穂の体を見て、海渡はこう付け足す。
「結局、私のしたことはみんな裏目に出てしまいました。秋穂さんを幸せにしたいがために
したことが、結局彼女を不幸にしてしまいました・・・」
そんな海渡に、観月はこう語りかける。
「先を読みすぎなんじゃないかしら?」
その言葉に、え?という顔で振り向く海渡。
「今だけ幸せでもいいじゃない。とりあえず秋穂ちゃんの魂を元に戻しましょ。」
0241無能物書き垢版2019/03/25(月) 23:33:01.88ID:xBsJFseB0
「しかし、いったいどうやって?」
その海渡の言葉に、さくらに問う苺鈴。
「さくら、なんとかなるって言ってたわよね。どうするつもり?」
「うん・・・海渡さん言ってたよね。この本の中には『世界』があるって。」
「え、ええ。」
「じゃあ、私たちがその世界に入って、秋穂ちゃんやアリスちゃんを連れ出せばいいんじゃないかな?」
出来るかどうかわからないけど、という表情で頬をかくさくら。
 その提案に全員が息をのむ。もともとこの本は『人の魂を閉じ込める』性質のある本だ。
そんな中に自分から入っていくなど、下手をすれば自殺行為だ。
「ダメだ、危険すぎる!」
そういう小狼の手をそっと取り、自分の胸にあてがうさくら。
「小狼君、一緒に行ってくれるよね。」
「え・・・」
「さっき言ってくれたよね、ずっとそばにいてくれる、って。」
「あ、ああ。」
その返事に満面の笑顔になるさくら。そして、無敵の呪文。

「だったら、絶対大丈夫だよ。小狼君がいっしょだもん。」

「しょうがないわね、ここは私が一肌脱ぎますかね〜」
そう言ったのはモモだ。彼女はもともとこの『時計の国のアリス』の登場人物。
そして有名作品『不思議の国のアリス』における案内人のウサギにあたるキャラクター。
「私が案内してあげるわ。ただし、その世界に入る方法はそっちで考えて。」
入る方法、そんなものがあればとっくに海渡が秋穂の魂を救っていただろう。
秋穂に取り付いていたアリスの魂を返す時は『スピリット』のカードを使ったが
夢の杖を失った今、その方法は使えない。
0242無能物書き垢版2019/03/25(月) 23:33:28.30ID:xBsJFseB0
「その本の入り口は、太陽の魔力と月の魔力で封印されています。入るためには、
その両方の魔力で封印を解く必要があります。」
海渡が語る。小狼の魔力は月のそれだが、さくらの魔力は太陽ではなく星の魔力だ。
しかもさくらはともかく、小狼の魔力では、とても晩年の熟成された海渡の魔力による封印を
破ることは出来ないだろう、難題に沈む一同。

「この世に偶然は無い、全ては必然、だったな、柊沢。」
口を開いたのは桃矢だ。全員が思わぬ発言に注目する。
桃矢は、やれやれ出来すぎだ、という表情で頭をかいて、続ける。
「明日、満月だぞ。」
全員があっ、という顔をする。確かに明日は『中秋の名月』。月の魔力が飛躍的に伸びる特異日。
かつてのユエの『最後の審判』の日がそうであったように。
ひとつの問題、小狼の魔力不足がまず解決する。

「いけるで!満月の日っちゅーんは、日没の直前に月が昇る。月と太陽が両方出てる時やったら
両方の魔力を最大に持っていけるで!」
ケロが言う。その瞬間ならあるいは、さくらと小狼で本の封印を破ることも可能かもしれない。
残る問題は・・・ひとつ。

「しかし、主の魔力はどうする。星の魔力では太陽の魔力の代わりにはならないぞ!」
ユエが最後の問題提起をする。それに対してケロはふふん、と言った表情で返す。
「ワイに任せや。ユエ、忘れたワケやないやろ、あのエリオルの最後の試練を。」
あ、という表情の後、アゴに手を当てて頷くユエ。
「なるほど・・・」
0243無能物書き垢版2019/03/25(月) 23:33:55.68ID:xBsJFseB0
 そして翌日の午後、皆は再び詩之本邸に集結する。さくらは懐かしい星のペンダント『星の杖』を
胸に下げている。腰には昨日返してもらった『さくらカード』が入ったホルスター。
そしてその自然に横に立つ小狼。二人は顔を見合わせ、柔らかに笑う。
 海渡は『時計の国のアリス』を手に、申し訳なさそうに言う。
「本当は、私が行くべきだったのですが、未来の私の魔力で作った本に、今の私では入れません。
未来の私が書いた本の内容を、過去の私が訂正することは出来ないように。」
そんな海渡に、さくらはこう返す。
「大丈夫、海渡さんは秋穂ちゃんのそばにいてあげてください。秋穂ちゃんが目を覚ました時
いちばん近くにいてあげてほしいんです。」
「・・・分かりました。」

「しっかし、知世はどうしたんや?」
昨日のメンツの中で、知世だけがまだ来ていない。と、噂をすれば何とやら、大道寺家の
キャンピングカーが詩之本家の敷地に入ってくる。
その車を見た時、さくらには次の展開が予想できた。
「お待たせしました〜、さぁさくらちゃん、李君、特性コスチュームに着替えて下さいな〜♪」
・・・やっぱり。

 最初に連行されたのは小狼の方だった。出てきた彼が身にまとっていたのは、かつて彼が
纏っていた式服風のグリーンのデザインに、西洋の燕尾服をミックスしたような衣裳。
東洋の魔術師風の印象と西洋紳士のイメージの両方を併せ持つ、凛とした伊達達ち。
 その姿にさくらの目がキラキラと輝く。いtもの小狼のカッコよさが2倍くらい増して見える。
「うわぁ、カッコいいっ!小狼君似合うよ〜。」
「さて、次はさくらちゃんですわ。」
堪能する暇もなく車内に連行されるさくら。ドアを閉め密室になると、知世はさくらに向き直り
改まった態度を取る。
0244無能物書き垢版2019/03/25(月) 23:34:19.97ID:xBsJFseB0
「知世ちゃん?」
おかしい。いつもの知世なら嬉々としてさくらの身だしなみを始めるのだけど。
 知世は肩に下げたポーチを開け、ひとつの小箱を取り出す。
さくらの目を見つめ、優しく語り駆ける。
「さくらちゃん、昨日おっしゃってましたよね。さくらちゃんの魔力が、周りの人を
好きにしてしまう、って。」
「あ、う、うん。」
さくらはそれが良くないことを知っていた。その先にあるのは破滅だったから。
「これを開けてみてくださいな。」
さくらに箱を渡す。どこかで見た箱、どこだったかな・・・思い出せないまま箱を開ける。

「あ・・・」
そこにあったのは、ウサギの形をした消しゴム。
「これ、覚えてる。知世ちゃんに最初にあげた消しゴムだよね。」
「はい。」
柔らかい笑顔で答え、続ける知世。
「私がさくらちゃんを好きになったキッカケですわ。」
「そうなんだ・・・あ!」
一瞬遅れて、さくらは知世の言いたいことを理解する。知世がさくらを好きなのは
決して魔力のせいなんかじゃない、と言うことを。
さくらと知世が、本当の親友であるという証。自分の魔力による洗脳に嫌悪感を感じていた
さくらにとって、その事実は救いだった。
「ありがとう、知世ちゃん・・・」

 昨日さくらが見てきた『未来』を語る時、さくらは本当に辛そうだった。
そんなさくらの為に、知世は本来なら生涯胸の内にしまっておこうと思っていた秘密を
さくらに打ち明ける。それでさくらの心が少しでも軽くなるなら、と。
0245無能物書き垢版2019/03/25(月) 23:34:49.11ID:xBsJFseB0
「さぁ、それではお着換えタイムですわ〜♪」
「ありゃ!」
がっくりとコケるさくら。やっぱりソレは外さないのね・・・

「「おおーっ!」」
さくらの衣裳のお疲労目に、周囲が一斉に声を上げる。白を基調にした半袖のドレス。
胴の部分に金色のラインが入ったコルセットが巻かれ、胸には青紫のアクセントリボン。
スカートには骨組みに金のスリットが入っており、下に流れるように羽根が重なっている。
背中にあるのは、クリアカードでの空を飛ぶ『フライト(飛翔)』のような蝶の羽根。
頭の上には薄い王冠、白い手袋から肩までの間に限定された肌色がなんとも色っぽい。
小狼にの前に立つさくら。どうかな?とは問わない。彼のその表情が明々白々な返事だ。

 二人は旅立つ、これから、危険な旅に。魂を閉じ込める呪われた本の中に。
それでも、この二人の表情と、その衣裳を見ているとそんな不安は微塵も感じない。
「なーんか、これから新婚旅行にでも行くみたいねぇ〜」
 苺鈴の的を得た感想がすべてを物語っている。この先にあるのは、きっとハッピーエンドだけだ。
皆がそう信じていた。

 −そして、陽が傾き、月が出る−
0246CC名無したん垢版2019/03/25(月) 23:45:50.39ID:mlC5RUXR0
うああ…。(°´Д⊂ヽ
おまえ天才やろ…
0247CC名無したん垢版2019/03/26(火) 14:38:08.27ID:n6DsqNny0
今日暑いなぁ
目から汗がでるぜ・・・
0248CC名無したん垢版2019/03/26(火) 17:01:35.24ID:NVEVVPnv0
ちゃんとさくらちゃんの声で聞こえる
0249無能物書き垢版2019/03/28(木) 01:25:46.67ID:jtk3GfxC0
>>246-248
感想ありがとうございます。さて、11話に続いて書きたかった話、例によって長めです。
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第23話 さくらと小狼の円舞曲(ワルツ)

 紅に染まる詩之本家の庭。魔法陣と、その上には1冊の本。その『時計の国のアリス』
を中心に遠巻きに輪を作る、エリオル、観月、スピネル、なくる、桃矢、苺鈴、知世、
そして海渡とその脇のアウトドアチェアーにもたれて眠る秋穂。
 本の西側、夕焼けの中心に赤く火照る太陽を背中に、木之本さくらが立つ。
本の東側、昇ったばかりの赤紫色の満月を背に、李小狼が立つ。

「ほな、始めるで。さくら!」
「うん!」
ケルベロスに促され、さくらは胸のペンダントを外し、手に取る。『星の杖』を。
「レリーズ(封印解除)!」
いつ以来になるか、さくらが『さくらカード』を使うための杖の封印が解除される。
 ケルベロスとユエは顔を見合わせ、頷く。
「よっしゃ、いこか!」
「ああ。」
 そう言うとふたりの守護者は光り輝き、その身を霊体に変え、星の杖に吸い込まれる。
すると、星の杖が二人の力を宿し、大きく、荘厳なデザインに成長する。
 かつてのエリオルの試練、『ライト』と『ダーク』をさくらカードに変える時に
ケロとユエが行った方法。太陽と月の魔力を飛躍的に伸ばす力を杖に与える。
その代償は、目的が果たせなければ永久に杖の中に封じられる、というリスク。

 『時計の国のアリス』の中に入るには、月と太陽の魔力が必要となる。
しかしさくらの力は星の魔力。そこでケルベロスが杖の中に入り、さくらの力を
太陽の魔力に変換する役目を担う。同時にさくらに比して魔力量の劣る小狼の
不足分を補うためにユエも杖と同化したのだ。
0250無能物書き垢版2019/03/28(木) 01:26:20.38ID:jtk3GfxC0
「ケロちゃんユエさん、待ってて。きっと、きっと秋穂ちゃんを助けて、二人を元に戻すから。」
さくらは杖を握りしめ、危険を顧みずにさくらに協力してくれた二人に誓う。
「大丈夫だ。さくらなら・・・」
そう言いかけて言葉を止める、そして言い直す小狼。
「俺たちなら、大丈夫だ。」
「うん!」
 この半年ほどで二人が学んだこと。それは一人よりふたりの力。助け合うこと、信頼し合うこと。
認め合い、力を合わせる。悩みも、思いも、ふたりで分かつ。その想いの頼もしさ。
 思いがすれ違う時、ふたりは自分の思いだけを抱え、悩み、落ち込んだ。
海岸でそれを話した。想い想われることの大切さ、対等の関係で助け合うことの喜び。
未来で小狼を失う経験をした。その彼がいまここにいることの頼もしさ、頼っていい存在の有難さ。

 さくらは星の杖を本の上にかざす。その杖を小狼も握る。そして・・・
「あ、ちょっと待って〜」
止めたのはモモだ。本の際にいた彼女はぴょんぴょんと跳ね、ビデオを構える知世のもとへ。
「それ、貸してくれない?」
「えっと・・・ビデオですか、どうしますの?」
言いながらもモモにビデオカメラを渡す知世。
「これで中から中継してあげるわ、お楽しみに〜。」
ふふん、と笑ってモモが本の際に戻る。その背に知世が声をかける。
「いい絵、お願いしますね。」

「さ、いいわよ。」
モモのその言葉に、さくらと小狼が周りの皆を見回し、言う。
「じゃあ、行ってきます。」
「必ず助け出す!」
二人は向かい合って握った星の杖を上に掲げ、半回転して杖の先を下に向ける。その先の地面には本。

「「『時計の国のアリス』よ!我らをその世界に導け!」」
0251無能物書き垢版2019/03/28(木) 01:27:10.28ID:jtk3GfxC0
魔力をこめ、杖を本に打ち付ける。その瞬間、本が輝き、光の仗が立ち昇る。
さくらと小狼は、ふたりで星の杖を握ったまま、その光に包まれる。
「それじゃあ、Let`s go!」
光の中、モモのその言葉を残し、二人は消える。やがて本から発せられていたの光の仗が収まる。
ことっ、と地面に落ちる本。皆が駆け寄り、本に注目する。

 すると、本は自然に表紙を開き、そこから淡い光を発する。
と、その本の1mくらい上に、まるでVR(バーチャルリアリティ)のような立体映像が浮かび上がる。
 そこは緑の草原、そしてさくらと小狼が星の杖を握ったまま立ち、きょろきょろと周囲を見回す様が
映し出されていた。
「まぁ!」
知世が声を上げる。その映像の隅には、知世が見慣れたビデオカメラのデジタル表示。
「これ、あのウサギの仕業なの?」
苺鈴の問いに知世が答える。
「ええ、なかなかのカメラワーク、これは期待できますわ〜。」

「ここは・・・?」
周囲を見渡し、状況を確認する小狼。どこまでも続く緑の平原と青い空、風は心地よく
ふたりの頬を撫でる。
「ようこそ、時計の国のアリスの世界へ!」
モモがふたりにビデオカメラを向けながら、案内人さながらに言う。
「ここが・・・秋穂ちゃんはどこなの?」
ふっふーん、という顔をしてモモが返す。
「彼女たちはこの世界の最深部よ。あななたちはここ、つまりスタート地点から、
ステージごとの試練を乗り越えていかなければ、秋穂やアリスのもとには辿り着けないわ。

 その説明を聞いたさくらが頬をかき、呆れ汗を流して言う。
「なんか、テレビの番組によくあるよね・・・そういうの。」
がくっ、とコケそうになるモモに、小狼がフォローを入れる。
「面白そうだな、そういうのやってみたかったんだ!」
キラキラした男の子の目で語る小狼。もう彼にさくらの前で自分を隠す必要はない。
0252無能物書き垢版2019/03/28(木) 01:27:51.22ID:jtk3GfxC0
「じゃ、じゃあ最初の試練〜あそこまで行って。」
モモが指さしたのは斜め上、空の上だった。そこにはなぜか薄い大地が空中に浮いて、その上には
荘厳な西洋の城が鎮座していた。
「わ!お城が飛んでる。」
「あそこに行けばいいのか?」
こくりと頷くモモに、小狼はさくらを見て促する。さくらはホルスターから1枚のカードを抜き取り、
放り投げて星の杖で打ち据える。

「フライ(翔)!」
さくらカードを発動させる・・・ハズだった。しかしカードはなんの反応も示さず、その場にはらり、と落ちる。
「え・・・どうして?」
その言葉にモモはやれやれと手を広げる。
「ここの世界に来る時、どうやったか忘れたのかしら?」
その言葉に顔を見合わせるさくらと小狼。確かふたりで杖を振るい、太陽と月の魔力で・・・あ!
「そうか、太陽と月、両方の魔力がなければ駄目なんだ。」
うん、と頷き、フライのカードを拾って小狼の隣に並ぶさくら。小狼は杖を握り、さくらと一緒に
声をそろえ、カードを打ち据える。
「「カードよ、我らをあの城まで運べ、フライっ!!」」

 さくらカードが発動する。しかしさくらの背中に翼は生えない。小狼にも、杖にも。
カードから発した光は一気に巨大な光の玉となる、そしてその光が消えた時、二人の前には
身の丈5メートルはあろうかという巨大な鳥が存在していた。
「なっ・・・!」
驚き、さくらの前に立ち構える小狼。だがさくらはその肩に手を置き、小狼の前に出る。
「フライさん!」
「え?」
嬉しそうな、そして懐かしい顔でその鳥を見る。さくらが最初に封印したクロウ・カード。
カードに戻すまでのその姿は、今目の前にいる巨大な鳥の姿だったから。
0253無能物書き垢版2019/03/28(木) 01:28:25.95ID:jtk3GfxC0
「クエェッ!」
二人を見て、いななくフライ。頭を下げ背中を晒す。
「乗れって。」
「そ、そうか・・・」
さくらと小狼はその背中に乗る。フライは首を回し、ふたりが乗ったのを確認すると。
立ち上がり背筋を伸ばす。そしてぐぐっ、と体を縮めたたと思うと、一気に大地を蹴り、飛び上がる。
「「わぁっ!」」
両翼幅10mを超えようかというその巨大な羽根が、力強く、猛然と空気をかき回す。
嵐のような気流を巻き起こしながら、フライは空に進む。やがて風を受け、羽ばたきを止めて滑空、
上昇気流に乗ると、トンビのように旋回しながら舞い上がっていく。

「(なんだろう、この感じ・・・違う。)」
さくらは違和感を覚えていた。以前フライを封印する時も、こうやって背中に取り付いた経験がある。
しかしその時は、ここまで『飛ぶ』という行為を意識させる飛び方ではなかった。
魔法の力で、まるで泳ぐように空中を飛んでいた。その背中もそのときはあまり意識しなかったが
今ではその筋肉の力強さや、体温の温かさを感じるほどにリアルだ。

 やがて空の城に到着し、滑空して着陸する。いなないて降りるよう催促するフライ。
さくらと小狼は鳥の背中から降りる。と、フライはキューゥ、といななくと、地面を蹴り、
再びその身を大空に舞わせる。二人を残したまま。
「え?あ、フライさん!」
さくらは叫ぶが、フライはそのままどんどん遠ざかっていく。そしてその先には別の鳥の群れ。
フライはその鳥たちに合流すると、嬉しそうに鳴きながら彼らと空のランデブーをする。
サイズが違いすぎるため、若干他の鳥たちには迷惑そうではあるが。
「あはは、お友達だ。」
「ああ、そうだな。」
柔らかな表情でフライを見送る。そして城に向かう二人。
0254無能物書き垢版2019/03/28(木) 01:28:53.24ID:jtk3GfxC0
 詩之本邸の庭。アリスの本。さくら達が城に到達したことで、ページが1枚めくれ、
次の立体映像が現れる。
「まずは1面クリア、ってとこかしら?」
なくるが言う。全員がそのファンタジーな映像を楽しんでいた、一人を除いて。
 柊沢エリオル、彼だけは顔を真っ青にして、その光景を驚愕の汗を流しながら見入る。

 その城の庭園、そこはまるで何年も手入れされてないような有り様だった。
草は生気無く、木々は花はおろか葉っぱさえつけていない。
城の入り口の門は固く閉ざされ、その上からいつのまにか居るモモがビデオを構えている。
「この門、開かないのかな?」
二人は門を触り、いろいろ調べてみるが、その門はそもそも開くようにさえ作られていない。
 モモが二人を撮影しながら声をかける。
「言うまでもないけど、ここの試練はこの城に入る事、頑張って〜」

と、さくらは門の鍵の部分に金属のレリーフを見つける。それは花の形をしていた。
ただ、それは『盛り上がっている』のではなく『えぐれている』彫り方のレリーフ。
ちょうどそこに花を埋め込むスペースでもあるかのように。
ふと、思いついたことを小狼に耳打ちする。彼はうーん、と考えた後、やってみるか、と答える。
「うん!このお庭もこのままじゃ寂しいし。」

 ふたりは杖を構え、カードを放り杖で打ち据える。もうすっかりおなじみのその姿は
ケーキカットのような共同作業に見えた。
「「庭園と鍵を花で満たせ!フラワーっ!!」」
ふたりの魔力を得、カードが発動する。が、花は出ない。代わりに一人の少女がカードから具現化する。
「フラワーさん!」
運動会に現れたその精霊。その時の姿そのままに彼女は現れると、さくらと小狼に向き直る。
そしてふたりの手を取ると、彼女はふたりを振り回すようにして踊る、庭園を。満面の笑顔で。
そして踊りながらフラワーは花粉のような粉を撒き散らす。その粉が舞った樹が、草が、次々と
花を咲かせていく。
0255無能物書き垢版2019/03/28(木) 01:29:25.10ID:jtk3GfxC0
「あははっ、すっごーい!」
「日本の昔話にこういうのあったな。」
踊りながらさくらが、小狼が笑う。庭園に花が咲き乱れ、死んだ城の玄関が生き返ったように明るくなる。
 やがて花で満たされると、フラワーは門の前まで行き、そこでその姿をいばらの枝を持つ草の蕪に変える。
そしていばらが伸び、そこから次々と咲くバラの花。そのうちの一輪の青いバラが、門のレリーフに
近づき、はまる。

 その時だった。ガキン!と何かが入ったような機械音がすると、その門が音を立てて開いていく。
その先には無数の歯車が回っている、機械仕掛けの時計のように。
「あらあら、ここもあっさりクリア?もうヒントいらないかもね〜」
ビデオを回しながらモモが言う。さくらと小狼はフラワーを見る。他の花と楽しそうに
咲き乱れるさまを見て、笑い合い、城の中に進む。

「一体・・・どういうことなんです!」
詩之本邸、突然叫ぶエリオルに全員が注目する。その普段見無い剣幕に、観月やなくるが驚く。
「どうしたの?」
エリオルは理解できないといった表情で、鼻から下を手で押さえてつぶやく。
「太陽の魔力と月の魔力を与えたとしても、こんなことは起こりえない、ありえません・・・」
そこで一度言葉を区切る、周囲の皆も次の言葉を待つ。
「カードに・・・本当の『命』を与えるなんて!」

 城の中、その廊下は動く歯車で埋め尽くされている。機械的なリズムを刻む回廊を進み
ひとつのドアに突き当たる。ドアを開け、中に入る二人。
 ばたん!入るなりいきなり背後のドアが閉められる。小狼が慌ててドアに取り付くが、
いくらノブを回してもビクともしない。
「小狼君、あれ!」
さくらが上を指さして叫ぶ。立方体のその部屋の天井が下がってくる、ゆっくりと。
「吊り天井!」
古来の城などの罠としてメジャーな仕掛け。このままでは二人ともぺしゃんこだ。
0256無能物書き垢版2019/03/28(木) 01:30:07.11ID:jtk3GfxC0
 さくらは1枚のカードを取り出し、小狼と共に杖を振る。
「「天井を押し返せ、パワー(力)っ!」」
カードが発動する。現れたのは一見どう見ても、このピンチには役に立ちそうにない
5歳くらいの可愛い女の子。彼女は二人に笑顔を向けると、むん!とガッツポーズを作る。
「あれ、お願い。」
迫りくる天井を差すさくらに、うんうんと頷くパワー。
ぐっ、としゃがみ込んで力をためると、そこから一気に大ジャンプ!天井にもろ手突きを食らわすと
下がっていた天井が上に向かって吹き飛んだ。まるで発砲スチロールのように。

 頭上には青い空と、吹き飛んだ天井を繋いでいる鎖が見える。パワーはその鎖を辿って
巻き取り機の歯車に取り付くと、今度はその歯車と力比べをはじめる。
周囲には調速機や振り子など、パワーが力比べをする道具がいくつも稼働している。
パワーは楽しそうに、様々な機械と力比べをする。
「楽しそうだねー。」
「行こうか。」
とりあえず先を急ぐさくらと小狼、目の前に現れた階段を斜めに上っていく。

 階段の先には、また部屋があった。今度は罠にかからないように慎重に入る。
そこはテーブルのある小さな部屋だった。机には『eat me』と張り紙がしてある。
その脇には大き目の皿がふたつ、その上には灰色の、三角形の食べ物が湯気を出して鎮座していた。
「こんにゃく?これを食べればいいのか。ここは簡単だな・・・さくら?」
 さくらは目を点にして石化していた。よりによってここで天敵のご登場とは。
「もしかして、こんにゃくが苦手なのか?」
さくらは涙目でこくこく頷く。少しでも苦手なのに、よりによって一皿で電話帳大の特大こんにゃく!

 さくらは一枚のカードを取り出し、小狼に懇願する。
「小狼君、お願い〜」
そのカードを見て笑い、さくらに返す小狼。
「好き嫌いはよくないぞ。」
とか言いつつ杖を握る小狼。さくらは、『やっぱり小狼君優しい』と困り笑顔を向けるが
実は小狼もこんにゃくは苦手だった、ただ躾の厳しい家の出なので、嫌いだからと残すのは許されないから
さくらほど無理ではなかったのだが・・・
0257無能物書き垢版2019/03/28(木) 01:30:38.31ID:jtk3GfxC0
「「美味なる味を付けよ、スウィート(甘)っ!」」
小さな妖精のような少女が登場すると、その杖から粉をこんにゃくに振りかける。
かくしてこんにゃくはこんにゃくゼリーへと変化する、それを美味しそうに口に運ぶさくら。
「これならいけるんだけど・・・」
「帰ったらこんにゃく食べる特訓な。」
小狼もこんにゃくゼリーを頬張りながら、内心してやったり、と喜ぶ。試練とはいえこんなとこで
苦手なこんにゃくを食べたくはなかった。
「うー、小狼君、お兄ちゃんみたい・・・イジワル。」

 こんにゃくを平らげると、出口のドアが現れる。それを開けると・・・そこは、空。
ドアの際には1台のトロッコ、そこからレールが空中を縦横無尽に走っており、そのレールを辿っていくと
向かいの城の塔の部分に繋がっている。これに乗って行けというのは間違いなさそうだが、これは・・・
「わぁっ、ジェットコースターみたい!」
キラキラと目を輝かせるさくら。これを小狼と一緒に乗る楽しい予感に胸躍らせて小狼を見る。
そこには、見事に石化した彼氏がいた。
「え”、もしかして小狼君、ジェットコースター、苦手?」
真っ青な顔でこくこく頷く小狼。さくらカードの入ったホルスターを借り、探る。
1枚のカードを抜き取り、さくらに示す。
「すまない、さくら・・・頼む。」

「「到着まで、彼(我)を眠らせよ、スリープ(眠)っ!」」
スウィート同様、妖精のような少女が登場し、小狼を眠らせる。さくらは小狼を抱えてトロッコに乗り
ブレーキレバーを解除し、トロッコを走らせる。
 猛スピードで上下左右に走るトロッコ。本来ならそのスリルを楽しみたいところだが、
小狼をしっかり抱えてないと、放り出されたら一大事だ。彼をぎゅっ、と抱きしめながら左右のGに耐える。
あ、スリルよりこっちの方がいいかも、と顔を赤らめて笑うさくら。

 スリープはスウィーツと、そしてパワーと合流し、こんにゃくの部屋で楽しそうに遊んでいる。
その映像は、本を通して詩之本邸のみんなにも見えている。
エリオルが彼らを、かつてクロウだった頃のの眷属を、信じられないものを見る目で眺め、言う。
「間違いありません、今の彼女らは、『生物』です。カードの精霊ではありません!」
0258無能物書き垢版2019/03/28(木) 01:31:07.91ID:jtk3GfxC0
 トロッコがゴールに到着する。かたん、と停止すると同時に小狼が目を覚ます。
「あ、着いたか・・・うわぁっ!」
露骨に抱き着いているさくらに驚き、声を上げる。
「あ、ゴメン。落ちるかと思ったから。」
へへっと笑うさくらに、顔を赤らめる小狼。
「い、いや・・・ありがとう。」
照れる顔をそっぽを向いて隠し、トロッコを降りる。さくらは思わぬ嬉しい時間にニンマリする。
こーゆーのを役得って言うのかな?

 その場所にはまるで駅のような標識があった。そこに書かれている文字は・・・
『お化け屋敷』
またまたさくらが石化する番が来た。

 二人は進む、『時計の国のアリス』の世界を。
お化け屋敷をイレイズ(消)で抜け、巨大な楽器が狂った音を演奏するホールはサイレント(静)で黙らせる。
綱渡りの部屋では、ライブラ(秤)を長いポールにしてバランスを取って渡り、
風車式のエレベーターをウィンディ(風)で回し、落とし穴をフロート(浮)で這い上がる。
トランプの兵隊が襲い掛かってきた時は、ファイト(闘)の助っ人と、ソード(剣)、シールド(盾)を
駆使して撃退する。

 そしてその際使われたカード達は皆、生物や道具として実体化し、思い思いにこの世界を楽しんでいる。

「ありえない・・・あのカードはあくまで精霊のはず・・・いくらふたつの、いや、星も含めて3つの魔力と
この本の魔力をもってしても、彼らに命と肉体と、そして寿命を与えるなどという真似は・・・」
エリオルは青い顔でブツブツと呟く。クロウの記憶をいくら探っても、その答えが見つからない。
聡明すぎる彼にとって、理解できない事態ということそのものに慣れない、混乱するエリオル。
0259無能物書き垢版2019/03/28(木) 01:32:09.07ID:jtk3GfxC0
 そんな彼を見て、知世と苺鈴はうふふ、と笑い合う。エリオルに語る知世。
「柊沢君、大事なことが抜けてますわ。」
「・・・え?」
「太陽の魔力と月の魔力を使う、『愛し合う男性と女性』の力ですわ。」
その言葉を聞いて、エリオルの目が点になる。
「は?」

「まぁつまり、あの二人の子供になった、ってワケでしょ、あのカード達は。」
「お二人の愛が生み出した、命を与えたというワケですわ。」
エリオルの眼鏡がずるりと半分落ちる。そんな馬鹿なことが・・・そう言い切るには、彼にも、そして前世の
クロウ・リードにも、恋愛経験も性愛経験も縁が無さすぎた。

「つ、つまり・・・戦いながら子作りしていると!?」
その言葉に知世と苺鈴は『まぁ♪』と顔を赤らめる。すぱんっ!とエリオルの後頭部をひっぱたく観月。
桃矢は桃矢で詩之本家の家壁にパンチをくれている。壊さないでくださいね、と海渡が釘を差す。

 さくらが、小狼が舞う。カードを使う。命を生み出す。
『時計の国のアリス』を舞台に、ふたりの魔法使いが、生命の円舞曲(ワルツ)を踊る。

不可能という言葉を、遥か遠くに置き去りにして−
0260CC名無したん垢版2019/03/28(木) 15:09:20.90ID:Q4xBB+OO0
さくらちゃんが選んだ道なら絶対大丈夫だよ
0261CC名無したん垢版2019/03/28(木) 21:18:58.65ID:gxausHsI0
最高じゃね?
最高ついでに二人のコスチューム絵も見たいわ
絵心もあるってことは知ってるしさ
0262CC名無したん垢版2019/03/28(木) 22:42:35.73ID:DAkjtxmC0
53人の子持ちか…(しみじみ)

読みながらアニメで脳内再生されるくらい違和感ない傑作二次創作だと思います
毎回楽しませてもらってます執筆頑張ってください
0263CC名無したん垢版2019/03/29(金) 07:07:17.26ID:nwsfNg830
桜さんとくまいさんの声で再生される
構成がアニメみたいだから音楽も流れる
是非ともコスが見たい
0264無能物書き垢版2019/03/31(日) 18:18:16.35ID:72N8T1530
>>262
ありがとうございます。あと少しなので最後までお付き合いいただければ幸いです
ちなみに53人ではなくて・・・?
>>261>>263
だーかーらー、絵は苦手だってwまぁ書くけど。
つかさくらのコスはアニメのクリア編の前期OPのつもりだったんだけどなw

そんなわけで、ケロちゃんにおまかせ、その2!
http://imepic.jp/20190331/655910

・・・日曜潰れた、もう描かんぞorz
0266CC名無したん垢版2019/03/31(日) 21:50:39.77ID:r2NqP+Ko0
私も好き!!w

乙でした、ありがとう!
0267無能物書き垢版2019/04/03(水) 01:10:35.63ID:O+OhGSBb0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第24話 さくらと秋穂とアリスの心

 城を抜け、砂漠を潤し、山を駆ける。広大な『時計の国のアリス』の世界を
さくらカードを実体化させながら、次々と走破していくさくらと小狼。
森で追いかけてくる狼の群れをメイズ(迷)で振り切り、激流の川をフリーズ(凍)
で止める。ミニチュアの館が現れればリトル(小)で入り、出たらビッグ(大)で元に戻る。
巨大な振り子ハンマーが行く手をさえぎれば、ループ(輪)で反対側に来ないようにして抜け、
突然の地震はウッド(木)で止め、空から複数の太陽が照り付けた時はクラウド(雲)で涼を取る。

 詩之本邸。アリスの本がまた1ページめくれる。もう残りわずかだ。
映し出された新たな立体映像に見入る一同、その中で柊沢エリオルだけは相変わらず
訝し気な顔を隠さない。
「どうするつもりです・・・彼らが実体化したなら、それはもう人間でも生物でもない。
彼らはいわばUMAに相当する存在、カードであることを捨てて彼らが現代社会で
生きていく方法など皆無です。」
 確かに、今は情報化の時代。インターネットの地図で家や景色すら表示できる時代だ。
ましてや海渡が使っていたように、魔力のある存在を感知する魔法すら存在する。
エリオル達がかくまうにしても限度がある、カードは53枚もあるのだから
0268無能物書き垢版2019/04/03(水) 01:11:01.95ID:O+OhGSBb0
 ごちるエリオルに、なくるが能天気に提案する。
「じゃあさぁ、この本の世界ので暮らせばいいんじゃない?広そうだし。」
「え?」
きょとんとするエリオル、その隣で観月がぽんっ、と手を打つ。
「名案よ、それ。」
そう言って海渡に向き直り、問う。」
「この本って、中に魂がいないと維持できないんでしょ?確か。」
「え、ええ、確かにそうですが・・・」
「なら好都合じゃない?あのカード達がこの中で暮らせば賑やかになるし、秋穂ちゃんも
この中にいなくて済むかも。」
 時計の国のアリス、魂を閉じ込める本。逆に言えば中に魂が無いと存在できない本とも言える。
カードから実体化した53もの魂があれば、あえて秋穂の魂を留めようとはしないかもしれない。

 エリオルは呆然とした表情で立ち上がる。肩を落とし、ジャケットがそこからずるっ、と
ズレて落ちそうになり、止まる。
「この世に偶然は無い、すべては必然、だとしたら・・・」

 天才魔導士クロウ・リードが生み出した生きたカード達。
若き天才ユナ・D・海渡が齢を重ねて生み出した魔法の本の世界。
 クロウカードはさくらカードとなり、さらに実態を持つ生物や道具となった。
彼らは自分たちが生きていける世界を必要としている。
 そして『時計の国のアリス』は生物の魂を必要としている、魔導士が作ったふたつの存在は
お互いがお互いを必要として引きあったのか、木之本さくらと李小狼、そして詩之本秋穂という
存在を結び目として。
「ほらほら、詮索は後!いよいよクライマックスっぽいわよ。」
苺鈴が言う。本が最終章のページを開く。そこに映されたのは、大量の歯車が構成する館。
0269無能物書き垢版2019/04/03(水) 01:11:39.21ID:O+OhGSBb0
 さくらと小狼はついに最深部にある建物に到着する。それは時計の形をした館。
館にも、周囲の庭にも、無数の歯車が絶え間なく動き、時を刻む音を奏でる。
「ここが・・・最深部。」
「ああ、間違いない。」
さくらと小狼が顔を見合わせて頷く。道中でモモに聞いた『時計の館』。
「ここに、秋穂ちゃんが・・・アリスさんがいるのね。」
モモに振り返ってさくらが問う。モモはビデオカメラを構えたまま、こう返す。
「そうよ〜、でも中に入る前に、もうひと試練あるかも〜」

「それは、どんな試練だ?」
小狼が問うが、当然モモが正解を教えるわけもない。手の平を上に向け、首を振る。
「とにかく行こ!小狼君。」
さくらがはやる気持ちを抑えられずに庭に入る門扉に向かう。頷いてあとを追う小狼。
鋳造の門のハンドルを手にかけ、回す。そして扉を開くさくら。
 と、その瞬間、ガチン!という音と共に全ての歯車が停止すると、突然逆回転を始める。
「な、何!?」
「さくら!」
さくらに駆け寄り、その手を取る小狼。その瞬間周囲の景色がぐにゃあぁっ、と歪み、消失する。
しっかりと手を繋いで、周囲の状況に警戒する二人。

 少しの間の後、再び景色がぐにゃっと歪み、現れる。
そこは・・・緑の平原だった。
風は心地よく、遠目には宙に浮かぶ大地と、その上に鎮座する城。遠方には鳥の群れと、
それに交じる1羽の巨大な鳥。
「さくら、ここって・・・まさか。」
さくらは目を点にして、顔をさーっ、と青くする。信じたくない現実、
「ほ、ほえぇぇぇぇっ!振り出しにもどっちゃったあぁぁぁぁっ!!」
0270無能物書き垢版2019/04/03(水) 01:12:04.74ID:O+OhGSBb0
 時計の館の前、モモがため息をついて、一言。
「はい、2週目がんばってね〜。」

「はぁ〜、また1からやり直しかぁ。」
しょんぼりとうなだれるさくら。小狼はそんなさくらを叱咤する。
「しょげててもしょうがないだろ、とにかく行くぞ。さぁ、フライ(翔)を!」
「う、うん・・・。」
仕方なく、といった表情でホルスターからカードを取ろうとする。が・・・
「え!ない・・・フライさんのカードが、というか使ったカードがみんな無いよ〜!」
「なんだって!?」
 よく見れば、はるか遠方で飛んでる大きい鳥はさっき実体化したフライだ。
カードを消費した状態で、文字通りスタート地点に戻されるという理不尽、なんという無理ゲー。

「なんか、前もあったけど・・・やり直すのって疲れるよね。」
「え、前?」
「ほら、小学生の時。なんども同じ日をやり直した事あったでしょ・・・あ。」
「・・・あ。」
さくらは残った7枚のカードを扇状に広げ、そしてその中に件のカードを見つける。
ここに戻されたのは『時計の館』の力。なら、このカードを使えば・・・

 モモは時計の館の前で、リクライニングチェアーに座ってチョコをつまんでいる。
「さてさて、あの状態でまたここに来るのに何日かかるかしら〜」
ムグムグとチョコを頬張るモモの背後で、声。
「ただいま。」
ぶはぁっ!とチョコを豪快に吐き出すモモ。振り向けばそこにはさくらと小狼、そして
ローブに身を纏った一人の老人が立っている。
「ど、どーやって!?」
さくらと小狼は平手でその老人を差す、笑顔で。彼の手柄だ、と。
0271無能物書き垢版2019/04/03(水) 01:12:32.71ID:O+OhGSBb0
 老人は門扉のドアノブに触れ、その仕組みを調べている。
「なるほどな。主(あるじ)様、先ほどはこのノブを左に回しましたな。」
「う、うん・・・」
「このノブ、どうやら左方向、つまり時計と逆に回すと時間を戻される仕組みのようですじゃ。」
「じゃあ、右に回すと時間が進むのか?」
「左様。この門扉にはそもそも鍵などありませぬ、ただ押せば・・・ほれ。」
普通にぎぎぃっ、と開いていく扉、さくらも小狼も目が点になって呆れる。

「他にも時間を進めたり、戻したりする仕掛けがありますな、どれ・・・」
老人はそう言ってその身を輝かせると、ひとつの巨大な歯車に変身する。その中心に顔だけ
のぞかせながら、周囲の歯車にガキンとはまる。
「これで大丈夫ですじゃ、もう時間を操作されることはありますまい。」
歯車の中央の顔がにこりと笑う、なかなかにシュールな光景だが、とりあえず助かった。
「ありがとう、タイム(時)さん。」

「じゃ、私が案内できるのはここまで。あとはあなたたちで何とかしなさいね〜」
モモはイスに座り直し、テーブルの上のチョコをつまんで言う。なるほどそこはモモの本来の
居場所とでも言うように、モモのサイズに合わせたくつろぎ空間が構成されている。
「うん、ありがとう、モモちゃん!」
律義に礼を言うさくら。さぁ、いよいよ二人に会える!

 門扉を抜け、庭を駆け、館の入り口のドアを開ける。中は、廊下。
白と黒のタイルが交互に、チェック模様に並んでいる。さくらはその廊下に見覚えがあった。
 そう、未来に言った時に通った『時の回廊』、あの通路にそっくりだったから。
悲しい記憶を思い出し、小狼の手を取り、ぎゅっ、と握る。さくらの不安を察し、その手を
力強く握り返す小狼。
0272無能物書き垢版2019/04/03(水) 01:13:04.89ID:O+OhGSBb0
 二人は歩く、その廊下を。周囲には時計の歯車と、それが刻む針の音。
やがてひとつのドアに突き当たると、それを慎重に押し開く二人。
ぎぃぃっ、と鈍い音を立てて開く扉、そこは広い部屋、地面に白黒のタイルが並べられ
8×8のマス目を刻んでいた。そのいくつかには、黒と白の駒、チェスの駒だ!

「兵士(ポーン)、bの8へ!」
女の子の声、上から聞こえる。それを見上げる二人。そこには、二人のよく知る少女が
まるでビーチバレーの審判が座るような、高い高いイスに腰かけていた。
「秋穂ちゃん!」
さくらは叫ぶが、秋穂はさくら達を一瞥すると、興味なさそうに再び視線を前に戻す。
 真っ白なそのイスの下、チェックのタイルには、チェスの駒。
白いポーンが一歩前に動き、そこにいる黒のナイトを倒す。

 ドクン!と心臓の音のような嫌な響きがする。その方向を見上げると、ちょうど秋穂と
向かい合うようにして黒く高いイスがある。そこに座っているのは、秋穂と同じ金髪の少女。
胸を抑え、苦しそうな表情。それでも彼女は足下のコマに指示を出す。
「クィーン(女王)、bの8!」
黒のクィーンが白のポーンを倒す。と、またドクン!という心音のような音。
見上げるとコマを取られた秋穂が苦しそうに胸を押さえている。
「はぁ、はぁ・・・」
苦しそうに息を継ぎながらも、秋穂は眼下のチェスの配列を見て次の一手を思案する。

「さくらさん、李さん・・・どうしてここに?」
「「え?」」
呼びかけに二人が同時に反応する。見上げた先は黒いイスに座っている金髪の少女。
こちらに気づいて声をかけてきたようだ。
「私です、秋穂です・・・あ。」
言ってなにかに気づいたようにしょげかえる少女。自分の言ったことが間違いであるように。
0273無能物書き垢版2019/04/03(水) 01:13:32.44ID:O+OhGSBb0
「そうか、彼女がアリスなんだ。詩之本の体の中にいた・・・」
小狼の言葉にさくらも頷く。彼女は9歳の時から本物と入れ替わり詩之本秋穂として
存在していた、元々はモモ同じこの世界を維持するための魂。
「え・・・何故それをご存知なのですか?」
「あ、まぁ、色々あってね。」
苦笑いでさくらが返す。

「ビショップ!eの5!」
秋穂の声が二人の会話を中断する。白いビショップが黒いルックを倒す。
ドクン!
その音と同時に、アリスが顔をゆがめ、胸を抑える。
「アリスちゃん、どうしたの?」
その問いには答えす、アリスはうつむいたまま胸を抑え、絞り出すような声で言う。
「いやだ・・・負けたくない。この世界にいたい、帰りたくない!」
そして盤面を見下ろし、駒に指示を出す。
「クィーン!dの3へ!」
 再びクィーンがナイトを倒す。またドクンという音、そして苦しそうに胸を抑える
白いイスの上の秋穂。
「今更、よく言うわね・・・貴方が私をここに閉じ込めておいて。」

 さくらは二人を交互に見上げ、心配そうな表情をする。
「ど、どうしたの二人とも。なんか苦しそうだよ、どこか痛いの?」
その隣で小狼が説明する、驚愕の表情で。
「あのコマを取られるたびに、取られた方の魂が削られていってる・・・」
「ええっ!?」
「たぶん、負けたほうはこの世界に存在できなくなるんだ。」
ふたりをちらりと目にして秋穂が言う。
「正解よ。負けたほうは元の世界に戻されるのよ、『詩之本秋穂』としてね。」
0274無能物書き垢版2019/04/03(水) 01:13:58.60ID:O+OhGSBb0
「え?どうして・・・」
さくらにも、小狼にも分からない。秋穂もアリスもまるで『元の世界に帰りたくない』
と言っているようだ。
 ただひとつの心当たり、アリスの魂をクリアカード『スピリット』で戻した時
秋穂の魂は帰ってこなかった、アリスの魂もまたしかり。
両者が『帰りたくない』と思っていたから帰ってこなかったと言うことなのか?

「どうして?どうして帰りたくないの?海渡さん待ってるよ!」
そのさくらの言葉に、ふたりはびくっ!と反応する。秋穂は怒りの目で、アリスは
悲しげな眼をして。
「ふん!」
そっぽを向いてそう吐き捨てたのは秋穂だ。
「私は『魔法具』なのよ。あの日も彼は私にこの本を与えて、ここに私を閉じ込めた、
4年間もね!」
「え・・・違うよ秋穂ちゃん!海渡さんはそんなつもりじゃ」
「違わないわ!この本を作ったのがアイツだっていうのは分かってるんだから!」
 彼女は誤解している。しかしそれも無理もない事、海渡に贈られた本に閉じ込められ
その本を作ったのもまた彼であること、詩之本家の『魔法具』である自分ととそれを使う
『マスター』の関係であること、その判断材料ならどう考えても彼女は海渡に弄ばれている、
という結論にしか行きつきようが無い。

「私は・・・海渡さんに必要ないと判断されたんです。」
アリスが顔を抑えて、涙声で語る。アリスが秋穂と入れ替わってから、海渡は何とか秋穂の魂を
取り戻そうとしていた。それは言い換えれば、アリスの魂を本の中へ追い返そうと
していたと言うこと。
それは海渡に恋していたアリスにとっては耐え難い行為、彼の自分に対する『拒否』。
そんな過程を経てこの本に再び押し込められた彼女には、今更海渡に会う気が起こらない、
心の奥底の恋心は少しも萎えてないないのに。
0275無能物書き垢版2019/04/03(水) 01:14:33.99ID:O+OhGSBb0
「違うよ、ふたりとも誤解してる!」
さくらは叫ぶが、二人は魂を削るチェスを続ける。これに勝てばもう辛い現実に戻らなくて済む、
その思いに呪われ、ただ勝つために心をすり減らしていく。
「さくら、止めるぞ。」
「どうやって?」
小狼はさくらのホルスターを取り、2枚のカードを手にする。
「このチェス、どうやら東洋魔術のものらしい。なら同じ術式で止められるハズだ。」
2枚のカードを放り投げ、さくらに発動の言霊を教え、唱和しつつ杖を打ち下ろす。
「「陰と陽を溶け合わせ、融和せよ!ライト(光)、ダーク(闇)っ!」」

 カードが輝き、やがて二人の成人女性の姿を取る。二人は宙に浮かび、まるで泳ぐように
お互いを逆さに見ながら回転をはじめ、やがて白と黒の演舞、陰陽紋太極図となる。
その力を受け、足元のチェスの駒も、その下の盤面も、白と黒の色を失い、まるでガラスのような
透明な色になっていく。
そしてそのまま消えて行くチェスの駒、そしてふたりが座る背の高いイス。それにより
秋穂が、アリスが、ふわりと地面に着地する。

「・・・消えた?」
呆然と周囲を見渡す秋穂。地面に降りたことで初めてさくら達と同じ高さの目線になる。
「あなたたち、あの娘の知り合い?」
アリスを差してそう問う秋穂にさくらが答える。
「うん、貴方を・・・ううん、ふたりを連れ戻しに来たの。」
0276無能物書き垢版2019/04/03(水) 01:15:03.25ID:O+OhGSBb0
「え・・・私も、ですか?さくらさん。」
不思議そうに答えるアリス。彼女はモモ同様もともとここの住人だ、一時期幸運にも
秋穂の体を得て外の世界を体験できた。そしてさくらと出会い、様々な楽しい体験をした。
 でもそれは本来なら『あっちの』秋穂がするはずの経験。それを奪った自分には
ただでさえ戻る資格はない、まして自分は好きな人に拒絶されここに来さされたのだ。

「秋穂ちゃん、アリスさん、ふたりは同じ『詩之本秋穂』さんなんだよ。」
 その肉体と魂を持ち、本人として生まれた秋穂。
海渡に想われ、その秋穂への思いを具現化して生まれたアリス。
人を想う存在と、人に想われる存在、どっちが偽物なんてない、二人とも本物なんだよ。
ただ思いがすれ違い、食い違ったために遠ざかってしまった、そんな二人。

 だけど、二人の心は固く閉ざされ、さくら達の説得にも応じようとはしなかった。
何よりさくらと小狼が相思相愛なのは見て取れたから、それが余計に二人の心の傷に
痛みを与える。自分にだって好きな人はいる、しかし私たちはその人に拒絶された存在だから。

 二人の悲しみは理解できる。でも今のさくらも小狼もそれを乗り越えるアドバイスは思いつかない。
ただ辛いよね、と思う。好きな人に思いが届かないことの辛さ−

 と、さくらのカードホルスターが輝き、中から2枚のカードがゆっくり出てくる。
さくらと小狼の前で停止する、まるで使ってもらえるのを待つかのように。

−アロー(矢)−
−ホープ(希望)−
0277CC名無したん垢版2019/04/03(水) 06:47:12.11ID:1HyGYzpM0
なんかこれが本編のような気がしてきた
0278CC名無したん垢版2019/04/03(水) 12:03:44.12ID:6+BkiAKd0
劇場版カードキタ━(゚∀゚)━!
0279CC名無したん垢版2019/04/03(水) 20:25:47.12ID:hGiLqSVQ0
残り7枚から時、光、闇、矢、希望登場
あとの2枚は何だろう
楽しみにしてます
0280CC名無したん垢版2019/04/05(金) 01:04:14.91ID:hf2calju0
>>277
本編より確実に優れていることがひとつ!展開の速さw(それだけかいっ!)
>>278
よく分かるなぁ、そう狙ってました。
>>279
その答えは、この後すぐ!(そしてCMw)

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第25話 さくらとアリスのラストページ


 アロー(矢)とホープ(希望)。
さくらと小狼の魔力により具現化し、実体化したふたりの少女。
アローはアリスに、ホープは秋穂に歩み寄り、その前で止まる。

「な、なんなの、この子?」
秋穂はカードから実体化した二人を見て驚く。先ほどのライトとダークを発現させた時は
チェスに夢中であまり気にならなかっただけに今回は衝撃的のようだ。
ホープは秋穂には答えす、アリスの前のアローの方を見て促す。まずはそっち、と。

 アリスは秋穂よりは理解していた、元々この本に憑く精霊である彼女は、知識としてではなく
実感として目の前の少女が、精霊から実在の生物に昇華した存在であると。
アローはアリスを見て、ややつたない言葉を紡ぐ。
「待ってても、だめ。」
え?という顔をするアリスに、アローは続ける。
「私、知っている。ずっと待ってた人、その人がもういないのも気付かづに、待ち続けて
そして、願いが叶わなかった人。」
 アローがさくらを主としてから最初に使役された時。相対したのは好きな人を待ち続けた女性の
悲しい、そして歪んだ心。壊れた体、アリスと同じように本の世界で意中の人を待ち、
主に諭され、その事実を知って悲しみに消えた哀れな女(ひと)。
0281無能物書き(>>280名前入れ忘れorz垢版2019/04/05(金) 01:05:17.08ID:hf2calju0
「好きな人は、待ってても手に入らない、そして、後悔する。きっと、あの人みたいに。」
そんなアローの言葉にアリスは顔をゆがめ、ぎゅっ、と胸の服を握る。
「でも、海渡さんは・・・私を拒絶したの。」
うつむいて涙声で話す。私が彼を思っても彼は私を想ってくれない、その先には悲しい結末が
待っているだけだ、と自分に言い聞かせるアリス。
 ふと、うつむいてるアリスに、アローが何かを差し出す気配がした、顔を上げるアリス。
のばされたアローの手の中にあったのは、一本の『矢』。
矢尾には優しい、丸みを帯びた羽根、そして矢じりにはピンク色をしたハートの刃。

「これは・・・?」
「好きなら、自分から言う。それでもだめなら、この矢を使う。」
それはおとぎ話によくあるキューピットの矢、そんなデザインの矢をそっとアリスに渡す。
「言わなければ伝わらない、何も変わらない、そして、あの人のようになる。きっと。」
あ・・・という顔をするアリス。そうだ、このままここにいても悲しみに堕ちていくしかない。
だけど、もしあの人に自分の思いを伝えることが出来たら、私も変われるかもしれない、
精霊から実体化を果たした、目の前の彼女のように。
 それは怖い、そして勇気がいる。勇気、それはアリスに最も足りなかったこと、
秋穂の肉体を得てもいつも引け目を感じ、控えめに過ごしてきたアリス。
他人の後ろに立ち、「すごいです」と人を持ち上げ、目立たないようにしてきた。

 それは勇気が無かったから、自分を出すことが怖かったから。
借り物の体の自分には、本の精霊でしかない自分では、自分を出す勇気を持てなかった。
アリスはその矢をぎゅっ、と握る。その矢じりのハートに自分の心を重ねる。
勇気、その心を、決意を。
「私、やってみます。」
力強くそう答えるアリス。向かい合うアローは優しく笑う。
そしてホープと秋穂に向け、どうぞ、と手を出す。
0282無能物書き垢版2019/04/05(金) 01:05:51.26ID:hf2calju0
 その動作を受け、ホープは秋穂に向かい合う。秋穂は一歩後ずさり、ホープを見る。
「な、何よ。」
ホープは自分の胸に手を当て、悲しい目で語りかける。
「私は、あなたと似ている。」
「え?」
「あなたは自分を『道具』だと言った。私もそうなの。クロウカードの陰陽のバランスを
取るための『道具』。」
言葉なく聞き入る秋穂に続けるホープ。
「私は生み出されてすぐ閉じ込められた。何もすることも許されずに、一人ぼっちで。
寂しかった、とっても。」

「どうして・・・」
「私は『無くす』存在だった。私が外に出ると、いろんなものが『無くなる』の。
物も、人も、心さえも。そういうふうに『作られた』から。」
「な、何よそれぇっ!」
その理不尽な存在、非情な仕打ちに秋穂は叫ぶ。そこに存在するだけで周囲の物を
失っていくなんて、そんなの悲しすぎると。
「でも、私は動いた。たとえ誰かを不幸にしても、自分を見てほしかった、知ってほしかった。
そして、主(あるじ)は私を見てくれた。」
自分の胸にあるハートマークを優しく撫でるホープ。
「私はこの心を主にもらった、そして私が消したものを元に戻してくれた。
私には友達が出来た。私は変われたの、文字通り『ナッシング』から『ホープ』に。

 無くす者から希望を持つ者へ。そのキッカケは、封印を解かれた彼女が動いたから。
「あなたもそう。道具であっても、それに嘆いては何も変わらない。」
魔法具、それが秋穂に課せられた十字架、魔法の家で魔力を持たず生まれてきた彼女の宿命への罰。
でもそれを嫌って引きこもっていても何も変わらない、変えるのは自分しかないのだ。
0283無能物書き垢版2019/04/05(金) 01:06:20.50ID:hf2calju0
 秋穂はホープを見返し、思う。確かに自分は魔力が無い、魔法具だ。そう、不幸な少女だ。
でも目の前にいるこの娘は自分よりもっと辛い世界で生きてきたんだ、そう思うと
自分が不幸に甘えている存在に思えてくる。
「私ね、本当はずっと確かめたかったの、海渡の真意を。でも考えれば考えるほど悪い方向にしか
いかなくて・・・」
「その答えは、彼女が知ってる。」
「え?」
言ってホープが、秋穂が、アリスを見る。そう、海渡の秋穂に対する恋心を具現化した少女。

「彼女を受け入れて、それできっとあなたは知る、いちばん知りたかったことを。」

 さくらが、小狼が、ライトとダークが、アローとホープが見守る中、秋穂とアリスは
ゆっくりと近づいていく。
お互いが予感していた、この人とひとつになれば、きっと願いが叶う。勇気が持てる、真実を知れる、と。
 ふたりの距離が詰まる。3m、2m、1m、やがて目の前まで接近し、それでも止まらない。
ふたりはすぅっ、と重な・・・

−ごちんっ!−

 鈍い音と共に、頭を抱えてうずくまる秋穂とアリス。さくらは派手にずっこけて、小狼も
がくっ、と体を傾ける。
「あ、あはは。そのまま合体するのかと思った。」
「そ、そんなアニメみたいなことが起こるはずないだろう!」
リアリストを気取る小狼だが、周りから見ればさくらと同じ期待をしていたのはバレバレだ。
思わずクスクス笑うライトとダーク。
0284無能物書き垢版2019/04/05(金) 01:06:55.49ID:hf2calju0
「ちょっと、どうすればいいのよ!」
額を抑えながら秋穂がホープに抗議する。ホープはさくらの方を、その腰のカードホルスターを
すっ、と指さす。
「ほぇ、カード?」
さくらは腰のカードを取り出す、最後の2枚を。

−ツイン(双)−
−ミラー(鏡)−

 さくらはぱぁっ、と明るい顔でカードを見る。
「そっか!ツインさんを使えば秋穂ちゃんもアリスちゃんも2人に増えて4人、ミラーさんを使えば
2倍の8人に!って・・・あれ?」
さくらの頭の中に、杖の中にいるケルベロスの強烈なツッコミが聞こえた気がした。
増やしてどないすんねん!!!と。
さくらの背後ではライトが困り顔ででっかい汗を額から頬にスライドさせる。

 小狼の後ろにいたダークが背後から顔を近づけ、そっと彼にささやく。
「貴方なら分かるはずよ。思い出して、あの娘の使い方。」
そう言われて小狼はさくらの持つ2枚のカードを見る。ツインの方の絵柄はふたり、
ミラ−には鏡の少女がひとり。ダークの『あの娘』という言葉に、意識をミラーに向ける。
「・・・そうか!」
ミラーの性質。コピーを生み出す、光を反射する、そしてカードの性質を反転させる。
つい先日『リターン(戻)』を反転させて『フューチャー(先)』を生み出し、苺鈴を
未来に送ったように。

「ほぇ〜、そんなこと出来るんだ。」
小狼の説明にさくらが感心する。
「ツインはひとつのものをふたつに分けるカードだ、その性質が逆になれば・・・」
向かい合い、次のセリフを自然にハモらせる二人。
「「ふたりを、一人にするカードになる!!」」
0285無能物書き垢版2019/04/05(金) 01:07:53.19ID:hf2calju0
「「彼のカードの能力を逆転させよ、ミラー(鏡)っ!」」
カードを打ち据え、そこから一人の少女が具現化する。胸に鏡を抱いた娘。
そして宙に浮かぶ最後の1枚のカード、ツインを鏡に映す。そこに映るカードの文字、

−FUSION(合)−

「「ふたつの魂をひとつに!フュージョンっ!!」」
鏡の中のカードを打ち据えるさくらと小狼。鏡に映るカードが輝き、中からピエロの姿をした
少年とも少女とも取れる中性的な子供が二人現れる。
 一人は秋穂に、一人はアリスに向かうと、手を繋ぎ踊り始める。秋穂もアリスも自然にそのダンスに
合わせて動く。まるで舞踏会のように踊りながら少しずつ接近していく二組。
「「5・4・3・2・1」」
ツインがカウントダウンを唱和し、回転の流れからふたりを押し出し、体当たりにもっていく。
衝突する瞬間、ツインが両手を広げて叫ぶ。
「「ゼロ!」」
 接触した瞬間、光に包まれるふたり。そしてその光が収まった時、そこには一人の少女、
詩之本秋穂だけが座っていた。自分の手を、姿を、きょろきょろと見る。
くるくる巻きにした髪型、手に持ったキューピットの矢。彼女は秋穂でありアリスでもある。
その後ろではツインがイェーイ!とハイタッチをする。

「ちょっと、何よコレ・・・」
立ち上がった秋穂が言う。目から涙をぽろぽろとこぼしながら。
「何よもう、海渡ったら。本っ当に奥手なんだから・・・」
私もだ、と心の中で想う。今の彼女にあるもの、それは海渡の自分に対する恋心と
現実に立ち向かう勇気。秋穂が知らなかったことをアリスが教え、アリスに無かったものを
秋穂が埋める。

 ひとしきり泣いた後、秋穂はみんなに向き直り、涙をぬぐって言う。
「ありがとう皆さん。私、帰ります!」
その言葉にさくらも小狼も、カード達も皆うんうんと頷く。

 一行は廊下を抜け、ドアをぎぃっ、と開ける。そして時計の館の外に出る。
0286無能物書き垢版2019/04/05(金) 01:08:30.84ID:hf2calju0
ぱん、ぱん、ぱんっ!
とたんに鳴り響くクラッカーの音。秋穂も、さくらも、小狼も、紙テープや紙吹雪を
頭からいくつもかぶる。
「クリアおめでとーーーーっ!!」
そう叫んで紙吹雪の中を跳ねるのはモモだ。タキシードを着こんで杖を持ち、踊る。
そしてその後ろにも大勢の者たちが彼らを祝福する。それはさくらと小狼が生み出した
さくらカードの精霊たち、そしてこの『時計の国のアリス』の住人たち。
トランプの兵隊も、森で追われた狼たちも、ウィンディ、ウォーティ、ファイアリー、アーシーの
4大元素をはじめとするカード達も、みんな大喜びでこの達成を祝う。

「あははっ、みんなー、やったよーっ!」
さくらが喜んで手を振り返す。そんなさくらを見て負けじと秋穂も手を振る。
小狼は達成感と、その二人を見て思わず笑顔になる。
と、突然3人は背後から抱き着かれる。さくらをライトが、小狼をダークが、そして秋穂をホープが
抱きかかえて、みんなの上空に運ぶ。

「さぁ、胴上げの時間よ♪」
ライトがそう言った瞬間、3人は大勢の中に落とされる。無数の手に受け止められた3人は
そのまま何度も上空に放り上げられ、落とされる。
−わっしょい!わっしょい!わっしょい!−

 時計の国のアリス、その世界でのささやかなパレードが見る者を魅了する。
それはつかの間の祝福、救われた少女の、報われた少年の、そして新たな命を与えられた
精霊たちに対する、福音−
0287無能物書き垢版2019/04/05(金) 01:10:02.21ID:hf2calju0
 宴は終わり、別れの時。

「ほぇ!カードさんたちみんな、この世界に残るの!?」
驚くさくらに、ウィンディが漂いながら髪をかき上げ、答える。
「この姿で『そっち』に行ったら大騒ぎでしょ?」
「この世界って面白いんだ!もっといたいし!」
ファイアリーが生意気そうにそう続ける。
「そっか、そうだよね・・・」
少し寂し気に返すさくら。
「あら、ずっとお別れじゃないでしょ?」
ライトに続いてダークが続ける。
「またいらっしゃい、この世界に。いつでも大歓迎よ!」
モモがそれに賛同し、語る。
「この本は貴方のそばに置いてもらって。いつでもピクニック気分で来ていいから〜」
その言葉にさくらの表情がほころぶ。

「じゃあ、いつでも会えるんだ。」
ニコッと笑う、みんなも笑顔を返す。
「この世界、こんだけゲストが来たら多分ガラッと変わるわよ〜」
モモの言葉に小狼が驚く。
「え・・・じゃあ、次はもっと難しくなってるのか?」
「そうかもね〜。ま、こうご期待ってことで〜」
そして秋穂に向かい、告げる。
「秋穂も来なさい、あの頑固者も連れてね〜」
その言葉に満面の笑顔を返す秋穂。
「うん!」

と、そのスキにホープがさくらと小狼に近づき、耳元で囁く。
「もしよければ、結婚式とか新婚旅行もこちらで。」
そのセリフにふたりがぼふっ!と赤面する。
 周囲の全員がクスクス笑う、微笑ましく初々しいカップル、カードだった者たちの
父親と母親の初々しさに。
0288無能物書き垢版2019/04/05(金) 01:11:24.88ID:hf2calju0
「あ、あとこれ。」
未だ赤面冷めやらぬさくらに、ホープが銀色のネックレスをさくらの首にかける。
「ほぇ、これは?」
楕円形のペンダント部分には開閉のポッチがある。それを押すとふたつにパカッと開く。
しかし中には何もない、表面は鏡のように磨かれた銀色が、さくらの顔を映し出す。
「それを必要としている人がいます、その方に差し上げて。」
横からダークがそう語る。そしてホープとダークがすっ、と離れると、さくら達の足元から
1艘のボートが現れ、3人を乗せたまま宙に浮かぶ。

「では、お元気で。」
ライトがそう告げ、にこやかに手をあげる。それに対応して皆も元気よく手を振る。
「まーたねーっ!」
その瞬間、ボートは勢いよく上昇を始める。またたく間に小さくなっていくみんな。
さくらはボートの淵に乗り出し、みんなに手を振る、そして叫ぶ。
「絶対また来るから!絶対だよーーーっ!!」
小狼も秋穂も手を振る、そして叫ぶ。
「俺もまた来るよーっ!絶対にーっ!」
「楽しみに待っててねーーーっ!!」

 ボートは飛ぶ、アリスの世界を。
美しい平原、荒涼たる砂漠、広いお城、それらの景色をまるでエンディングロールのように
見せながら、魔法の絨毯のように。
 やがて景色が消え、白い世界に包まれる。音のない、色のない世界。
そこにあるのは、一つの言葉。

 −Fin−

 そして3人は、友枝町に、詩之本邸に帰る。さくらと小狼は本からまるで放り出されるように。
秋穂はその魂が、チェアーに眠る本体に宿るように−
0290CC名無したん垢版2019/04/05(金) 13:21:25.54ID:9D1g2/090
劇2のみならず劇1までもぶっこんでくるとは…
もうこれアニメ化しよ?
0291CC名無したん垢版2019/04/06(土) 17:38:43.83ID:kARdMGhh0
そういや劇1の占い師も本の中にいたんだよな
井戸の印象が強くて忘れてた。
0292CC名無したん垢版2019/04/07(日) 22:07:23.43ID:2t3ZP2UQ0
>>290
脳内ではいつもアニメ化されてるんですがねぇw

さて、いよいよあと2話!最後までお付き合いください。

 どさ、どさっ!
閉じられたアリスの時計の本の横、突然空中からさくらと小狼が出現し、
そのまま尻もちをつく。
「さくら!」
「さくらちゃん、李君!」
「木之本さん、大丈夫?」
居並ぶ面々が二人を心配する。さくらはお尻を抑え、さすりながら立ち上がる。
「あいたた・・・あ、帰ってこれた!」
周囲はまだ薄暗い。日の出前の早朝、さくら達が本に突入してからほぼ半日。

 と、さくらの持っていた星の杖が光り輝く。しばらく光を発した後、そこから2筋の
光が分離し、ふたりの守護者が姿を現す。
「ケロちゃん、ユエさん!良かった。無事に戻れた!」
ふたりは一息置いて、さくらの方に向き直る。
「ああ、ま、さくらとワイの実力やったら当然やな!」
きっちりユエと小狼を抜いて自慢するケルベロス。その頭上に小さな光が灯る、
それはすぐに形を成し、ケルベロスの後頭部に落下する。
 
ごいんっ!
0293無能物書き(>>292また名前入れ忘れorz垢版2019/04/07(日) 22:08:11.55ID:2t3ZP2UQ0
 不意打ちを食らって突っ伏すケロ。落ちてきたのは知世がモモに貸したビデオカメラだ。
「な、なんやワイ・・・こんなんばっかや。」
後頭部を抑えてごちるケロ。そのビデオを知世が回収して微笑む。
「これは視聴が楽しみですわ。」
そのセリフにはっ!と反応するケロ。
「しもた!ワイそん中でずっと杖やないかーっ!」
笑いに包まれる一同。ケロだけはさくらにもっかい行こうで、と無茶振りをする。

「そうだ、詩之本は!?」
小狼の言葉に、全員が一斉に秋穂の眠るアウトドアチェアーに注目する。
傍らでは海渡が心配そうにその表情を覗き込んでいる。
「起きません、眠ったままです。」
「そんな!どうして・・・」
 確かに秋穂の魂は戻ってきたはずだ。なのにどうして起きないのか、もしかすると
秋穂とアリスが合体したことが何か悪い影響を与えてしまったのか・・・?

 観月が秋穂をじっ、と見る。そして指を一本立てて、にっこり笑って言う。
「やっぱりここは、王子様のキスで起こすべきじゃないかしら?」
周囲が一斉にえっ!?という反応をする。お約束だけど、それで本当に?
 そういいつつも、周囲が海渡に注目する。
「え、私・・・ですか?」
「あんた意外に誰がいるのよ!」
苺鈴がぴしゃりと一言。他のみんなもうんうんと頷く。
0294無能物書き垢版2019/04/07(日) 22:08:35.78ID:2t3ZP2UQ0
 みんなが注目する中、顔を赤らめた海渡が秋穂を覗き込む。彼女は穏やかに寝息を立て
無防備に唇を少し開けている。まるでキスされるのを待つかのように。
ごくっ、と生唾を飲み込み、一歩引く海渡。しかし後ろを見れば全員が『行け!』と
圧をかけてくる(特に女性陣)。
 はぁ、とため息一つついて、海渡が秋穂に顔を近づける。一同興味津々で注視する。
特にさくらと小狼は学芸会で身に覚えのあるシーンを思い出し、並んで赤面しながら
次の展開を待つ。
やがて海渡の顔が秋穂に重なり、唇が触れようとしたその時!

「あーーーっもう!、あなたたち、空気を読んで消えなさいよーーーっ!!!」
秋穂が突然叫ぶ、真っ赤な顔で。さくら達を見ながら、普段観ない怒りの表情で。
 その抗議に全員が、あっ、という表情をする。一息置いてばたばたと家の裏に引っ込む面々。
観月だけは笑顔で、ごゆっくり、という表情でひらひら手を振って退散する。
家の反対側に集まると、やがて一同は笑いをこらえきれずに吹き出し、大笑いする。
「あはははは・・・良かった。」
「起きてたんだ、やるわねー詩之本さん。」
「まぁ今回は撮影は控えておきましょう。」
ひとしきり笑い、さくらと小狼は顔を見合わせ、言う。
「良かったな。」
「うんっ!」

 朝日が昇る。詩之本邸を、海渡と秋穂を、黄金色の朝日が照らす。
やっと会えた、やっと戻ってこられた、ようやく気持ちが通じ合った。
魔法に翻弄され、紆余曲折を経た二人が今、唇を重ねる。澄み渡る朝日の中で−
0295無能物書き垢版2019/04/07(日) 22:09:03.89ID:2t3ZP2UQ0
 テーブルの上に、海渡がお茶とお菓子を置き、皆を見て一言。
「本当にお世話になりました。みなさんのおかげです。」
「ありがとね、さくらさん、みなさん。」
秋穂も続く。アリスの時とは若干違った物言いに違和感があるが、これが本来の
秋穂なんだろうと皆が顔を見合わせて頷く。
 テーブルの傍らには『時計の国のアリス』の本。秋穂はそれを取り、さくらに差し出す。
「じゃ、これ。モモが言ってた通り、あなたに預けるわ。」
「いいの?」
「うん!ただしその中に行くときは声かけてよね。」
「もちろん!」
本を受け取り、胸に抱えて笑顔のさくら。この本の中にはカードさん達と、彼らが暮らす
世界がある。いつかまた行く世界が。

 柊沢エリオルが、ふとさくらを見て驚く。そして立ち上がり、言う。
「さくらさん!あなた・・・まさか!?」
「ほぇ?」
エリオルはさくらに近づき、手をかざして続ける。驚愕の表情で。
「魔力が・・・失われています。」
「「ええっ!?」」
皆が驚く。しかしケルベロスとユエだけは平静を保っている。ケロがさらに一言。
「さくらだけやない、小僧もやで。」
「え、あ・・・俺も?」
小狼が自分の両手を見て固まる。一息置いて宝玉を取り出し、精神集中するが
宝玉は光らず、剣も出なかった。
0296無能物書き垢版2019/04/07(日) 22:09:35.51ID:2t3ZP2UQ0
 呆然として顔を見合わせるさくらと小狼。ふたりに手をかざし、海渡が告げる。
「完全に失ったわけではなさそうですね、普通の人なみの魔力まで落ち込んでいます。」
一体なぜ、という一同に、ユエが解説を与える。
「カード達に魔力を、命を分け与えたのだ、失われて当然だろう。」
え?という表情のさくらと小狼。逆に知世や苺鈴、なくるや観月は、あ、そうか、という表情。
「命を・・・与えた?」
「お気づきにならなかったのですか?」
「さくらと小狼の魔力を得て、あなたたちの子供になったのよ、あのカードたち。」
「「え・・・ええーーーーーっ!!」」
さくらと小狼の驚き声がハモる。なくるが「子だくさんね〜」とからかうと
おなじみ瞬間湯沸かし器のように居並んで赤面する二人。

「あ!ということは・・・」
エリオルがケロとユエを見る。彼らはさくらの守護者、さくらの魔力が糧であり、生命エネルギー。
特にユエは自分で魔力を生み出せない、さくらの魔力が失われれば・・・
「んー、ワイらか?心配ないで。」
ケロ(小)がお菓子を頬張りながら返す。ユエがそれに続く。
「主(あるじ)と李小狼の魔力で変化したのは、何もカード達だけではない、ということだ。」
言ってテーブルからチョコをひとつまみ取り、その口に放り込む。
「ふむ・・・『食べる』という感覚も悪くないな。」

 その光景を見てエリオルが固まる。引きつった表情で辛うじて絞り出す。
「ユエが・・・物を食べた!?しかも、エネルギーを魔力に・・・?」
「そのようだな、私もケルベロスと同じ、主の魔力に頼らなくても存在できるようだ。」
ユエが返す、そして立ち上がり、さくらと小狼の前に立つ。
「だが、本当に驚くのはここからだ。」
 ユエの言葉に体を硬直させるさくらと小狼。隣りではケロがむっふっふ、という顔をして
次の展開を待つ。
0297無能物書き垢版2019/04/07(日) 22:10:08.82ID:2t3ZP2UQ0
 ユエはふたりに背中を向け、体を青白く輝かせる。そして羽根を丸める。
それはいままで何度も見た、ユエが雪兎に戻る時のアクション。
だけど、今回はいつもとは違っていた。羽根はユエを包まずに、その背中の何もない空間を
包み込む。まるで背中に繭(まゆ)かランドセルでも背負うかのように。
 そして一層まばゆく輝くと、その羽根をほどく。その中にはひとりの青年、華奢な体。
端正な顔に眼鏡をかけた、さくらのよく知る人物。
「雪兎さん!」

「分離・・・した???」
次々起こる理解を超える現象に凍り付くエリオル。もともと表と裏の存在であるユエと雪兎が
別々の存在としてそこに立っている。もはやエリオルにいつものクールさは無く、引きつった顔と
頭の上のハテナマークが彼のキャラを完全に変えていた。

 雪兎は居ずまいを正すと、さくらと小狼に向けて一歩踏み出す。そしてふたりをじっ、と見る。
「雪兎・・・さん?」
「あ、あの・・・」
じっと見られて硬直するさくらと小狼。雪兎はふたりを見るその表情が、徐々に崩れていく。
そして雪兎は前方に倒れ込み、がばぁっ、とさくらと小狼に抱き着く。

「ありがとう、ありがとう・・・ありがとおぉぉぉっ!!」
突如、号泣する雪兎。ふたりも、周囲の人間もそのリアクションに固まる。ケロとユエを除いて。
「ほ、、ほえええっ!?」
「ど、どうしたんですか?」
雪兎は泣きながら、二人に言葉を紡ぐ。感謝の言葉を。
「僕は、僕は・・・人間になれたんだよ、ふたりのおかげで・・・ありがとう、ありがとうっ・・・」
「「えええっ!?」」
「ずっと・・・ずっと、コンプレックスだったんだ・・・僕が、人間じゃないことに・・・
子供の頃なんて無くて、僕のお爺さんとお婆さんなんて、本当はいなくて・・・」
0298無能物書き垢版2019/04/07(日) 22:11:26.71ID:2t3ZP2UQ0
 月城雪兎。クロウカードの守護者ユエの『表の顔』として、この世界にその存在を許された
偽りの存在。やがて来る『最後の審判』の為に、さくらのそばに居るための『作られた』存在。
 いつも明るく笑って、悩みなどおくびにも見せず、そこに居ただけの人形。
さくらの魔力が少なくなった時は、その存在さえ消えかけ、桃矢の力をもらってようやく存続を
許された希薄な存在。
 そんな彼の心の闇、それは人間への憧れ。ずっと決してかなわないと思っていた願い。
そんな彼の願いは、さくらと小狼によって叶えられた。カード達と同様『思い合う男女』の魔力によって
彼は人間としての肉体と、存在と、そして寿命を与えられた。

「あ・・・」
さくらは気づく。そんな雪兎の悩みに、そしてそれを解消してあげた自分たちの功績に。
「・・・よかった。」
さくらはかつて海岸で小狼に話したことを思い出していた。自分じゃ雪兎の力になれない、彼の悩みを
解決してあげられらい、そもそも雪兎は自分なんかに自分の悩みを見せたりしない。
 そんな自分が雪兎の願いを叶えられた、雪兎にいっぱいいっぱい大切なものをもらったさくらが
初めて雪兎に恩返しができた。そんな思いがさくらにその答えを返させる。
「私、ずっと思ってたの。雪兎さんには貰ってばかりで、なんにもかえせない。そんな自分は
やっぱり子供なんだ、って。」
「・・・え?」
「だから嬉しい。私が雪兎さんの役に立てたことが。」
0299無能物書き垢版2019/04/07(日) 22:11:55.71ID:2t3ZP2UQ0
「俺も同じです。」
小狼が雪兎にそう語る。雪兎はふたりから離れ、小狼の方を見る。
「貴方の泰然自若とした態度は、いつも見習うべき自分の手本だと思っていました。
そんな貴方のお役に立てたのなら・・・俺も、嬉しいです。」
 彼にはそういう見本とも言うべき人間がいた。李家の執事である偉(ウェイ)。彼はいつも
泰然自若としてにこやかな笑顔を絶やさなかった。だがそれは齢を重ねた彼だからこそだと思っていた。
 だが、小狼は自分とそれほど変わらない年齢でそれを成す人物に出会う。そう、雪兎だ。
桃矢との喧嘩を自然に止め、さくらへの思いにいち早く気付き、いつも笑顔で応援してくれた。
自分自身の存在のあやうさ、儚さを常に隠して明るく振る舞うその存在は、魔力の魅了を抜きにしても
小狼に『尊敬できる人間像』を見せてくれていた。

 雪兎は眼鏡をはずして涙をぬぐうと、さくらと小狼を交互に見つめ、もう一度言う。
「本当に、ありがとう。僕は今日、本当に生まれることが出来た。」
その言葉に笑って頷くさくらと小狼。今、二人ははじめて雪兎と同じ目線で相対できた気がした。

 ふと、雪兎はさくらの胸にかかるネックレスを見る。これは・・・
後ろにいる桃矢をちらりと見る。彼も雪兎が人間に慣れたことを喜んでくれている、
ただ、このネックレスは・・・
「ねぇさくらちゃん、そのネックレス、僕にもらえないかな?」
突然の雪兎の提案、彼がさくらに何かを求めるのは珍しい。ただ、このネックレスを
ホープにもらった時こう言われていたのを思い出す。

−それを必要としている人がいます、その方に差し上げて−
0300無能物書き垢版2019/04/07(日) 22:12:35.29ID:2t3ZP2UQ0
「いいですよ。」
さくらは笑顔でそのネックレスを外し、雪兎に手渡す。
「ありがとう!」
そう言ってネックレスを受け取り、ちらっと桃矢を見て笑う。桃矢は普段見せない思わせぶりな
雪兎の表情に、頭にハテナマークを浮かべている。

「ふぁ、さすがに徹夜は疲れたわ。帰って寝ましょ。」
そう提案したのは苺鈴だ。そういえば夕方からアリスの本に突入し、今は早朝。
みんな眠気も疲れもピークに来ている。
「そうね、幸い今日は日曜だし、ゆっくり休みましょ。」
観月の言葉で、その場は解散となる。と、苺鈴は桃矢と共に帰ろうとするさくらに尋ねる。
「ねぇさくら、これで本当に良かったの?魔力を失っちゃって。」
さくらはその言葉に笑顔で返す。
「うん、苺鈴ちゃんも言ってたじゃない。」
そう言って一呼吸おいて、力強くこう続ける。

「翼が無いなら走っていくよ、行きたいところまで!」
0301無能物書き垢版2019/04/07(日) 22:14:05.71ID:2t3ZP2UQ0
>>262
というわけで、54人目は彼でした。
いよいよ次回最終回、お楽しみに。
0302無能物書き垢版2019/04/07(日) 22:15:54.21ID:2t3ZP2UQ0
ぎゃあぁぁぁ・・・タイトル抜けてるorz
以下を>>292の冒頭に付けてください・・・やっちまったよw

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第26話 さくらと魔法の終わる日
0303CC名無したん垢版2019/04/08(月) 07:50:18.43ID:plozWfb20
いい話をありがとう👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨
次回で終わるのは寂しいけど楽しみにしてる
0304CC名無したん垢版2019/04/08(月) 19:12:34.97ID:wQQX4Se50
どんだけ愛があるねん...
雪兎とウェイが似てるとか普通気付かんやろ。
言われてみたらめっちゃ似てるし。
0305無能物書き垢版2019/04/12(金) 22:41:21.69ID:yhCs9aXY0
いよいよ最終回、私の妄想もここで打ち止めですw
読んでくれた人ありがとー。

「ふぅ・・・これでよろしいですかな?」
トントンと自分の肩を叩く初老の紳士、偉望(ウェイ・ワン)。その足元には、
まるでイモムシのごとく地面に突っ伏している者が4名、いずれも魔導士としては高位の、
紫や銀色のローブを纏った若者たち。
後ろ手に魔力による拘束の呪を手錠のようにはめられ、うつ伏せに倒れてその紳士を睨(ね)めつける。

 イギリスのロンドン、魔法協会本部。その地下の広い部屋、主に魔法の儀式や実験、
または実戦などの場として使われるスペース。
 その正面の机には、いかにも年経た魔法使いというい風貌の老婆が、やれやれとため息をつき
書類にペンを走らせる。、
「魔道具『夢の杖』および『輪廻の時計』を魔導士ユナ・D・海渡に譲渡した事を認む、と。
これでよろしいですね、ウェイ。」
その書類を差し出す老婆。
「結構でございます、ライマー・D・シュタイフィーネ会長。」
うやうやしくそれを受け取るウェイ。その光景に地面に倒れたひとりが怒りの声を上げる。
「か、会長!待ってください、そんなことを認めたら・・・」
0306無能物書き垢版2019/04/12(金) 22:41:59.13ID:yhCs9aXY0
「お黙り!」
老婆が一括して若者を黙らせる、杖をどん!と地面に打ち付け、続ける。
「自分から言い出しておいてそのザマは何だい!それでよく『D』の称号を名乗れたものだよ。」
ぐっ、とうめいて顔を伏せる若者、アイン・D・スティ。魔法協会の若き精鋭の一人であり、
最高位の『D』の称号を与えられ、次代のリーダーとして期待された人物。
 また、協会から魔道具を盗んだユナ・D・海渡を敵視する派閥の一人でもある、倒れている
他の3人も彼ら同様、海渡を断罪しようと敵視していた高位の魔術師。
 彼ら4人の魔力なら、後ろ手に拘束している呪などテイッシュのように破ることが出来るはずだ。
しかし今はそれが出来ない、ウェイに腕をひねられ、腕の腱を伸ばされ、体術で組み伏せられた状態で
仕掛けられた呪は、はずそうとする以前に腕がつって動かせず、痛みで魔力の集中もままならない。

 今朝がた魔法協会を訪れた来客、それは香港で名うての魔道の名家、李家の頭領の女性、李夜蘭と
その執事の老人ウェイ、そして夜蘭の弟子の王林杏とステラ・ブラウニーの4名。
 彼らが求めたのは、ユナ・D・海渡への敵対行為の終了と、そのために彼が盗んだ魔道具の所有権を
海渡に移すこと。むろんその真意は秋穂や、その友人である小狼やさくらに魔法協会との確執を
生まないための配慮。
 それは無論、海渡を敵視するアイン達には受け入れられるものではなかった。相手が香港を代表する
魔術師ということが逆に彼らに蛮勇を誘発する、自信家にありがちな自惚れ。
 魔術の世界は実力が全て、要求を通したいなら実力を示せ、我々と戦って勝ったなら
その要求を聞き入れてやろう、と自信満々に対決を挑んできたのだ、負けることなど微塵も考えずに。
0307無能物書き垢版2019/04/12(金) 22:42:32.34ID:yhCs9aXY0
 で、今この状況。4対4のはずが、最初に出てきたウェイに4人まとめてねじ伏せられて
あえなく要求は通されたわけである。
 隅のソファーには中国式の魔術の衣裳を纏った李夜蘭が無表情で鎮座している。
傍らにいる林杏とステラは出番が無い事にほっとしつつ、迂闊にウェイの相手を引き受けた4人に
同情の目を向けている。

「あ、あなた、一体何者なの?」
倒れている4人のうち唯一の女性魔導士がウェイに問う。それはせめて自分たちをこんな惨めな目に
合わせた人物が、それ相応の者であってほしいという慰め。
「わたくしは会長とは魔法学校(マジックアカデミー)の同期でしてな。」
そのウェイの言葉に、4人は少し溜飲が下がる気がした。この会長と同期の人物ならそれなりに・・・
「もっとも会長は首席で卒業されましたが、私は途中で強制退学でしたよ、魔力不足でね。」
 4人の表情が絶望に代わる。彼らもまたアカデミーを首席や次席で卒業した優等生であり、
その自負もある。それがはるか昔とはいえ、魔力不足による落ちこぼれ相手にこの体たらくとは。

 彼らは知らない。かつてウェイがその結果にどれほど屈辱を感じ、どれほどの努力と研鑽を経て
今の強さを身につけたか。魔法で足りない分を鍛えた肉体や技、心理学や洞察力で補い、
悔しさをバネにしてここまで上り詰めたのかを。そういったことを理解するには、4人はまだ若かった。
 そしてそんな彼の経験が、クロウカード争いに敗れた小狼を立ち直らせ、魔力を持たない苺鈴の
良い指針となったのだ。
0308無能物書き垢版2019/04/12(金) 22:43:02.37ID:yhCs9aXY0
「(まぁ、あの子たちにはいい薬になったでしょう、感謝しますよ)」
会長がそっとウェイに耳打ちする。最近の彼らの増長ぶりには彼女も手を焼いていたらしい。
ウェイは微笑みで返すと、夜蘭に向き直り、報告する。
「では奥様、終わりました。御足労をかけて申し訳ございませんでした。」
うやうやしく一礼するウェイに対し、無表情ながら少し嬉しそうな色を浮かべ、立ち上がる夜蘭。
その横で林杏とステラが何かに期待する眼差しでウェイを見る。それを察してウェイが続ける。
「どうですかな、せっかくイギリスまで来たのですから、みなさんで見聞を広められては。」
 要するにせっかく来たのだから観光していこうと言うことだ。夜蘭は手持ちの扇子を口に当て
やれやれ、という表情で告げる。
「いいでしょう。」
やった!と飛び跳ねる林杏とステラ。

 部屋を出る直前、ようやく枷を外し立ち上がったアインがウェイを呼び止める。
香港に帰る前にもう一度勝負しろ、と食ってかかる彼の要求を、ウェイは笑顔で了承した。
3日後、再勝負でも全く歯が立たず、再びねじ伏せられるアイン達。
 後に彼らはウェイに弟子入りし、自らを鍛えなおす。そして27年の後にその実力をもって
人々の知らない世界の危機を救う英雄になるのだが、それはまた別のお話。
0309無能物書き垢版2019/04/12(金) 22:43:36.37ID:yhCs9aXY0
 季節は流れ、冬。
友枝町にもちらちらと雪の舞い踊る、そんな寒い日のこと。

「おーい桃矢ー、こっちこっちー」
オープンカフェに立つ雪兎が手をぶんぶんと振り、親友を呼ぶ。そこに小走りで駆けてくる桃矢。
「どうしたぁ?ユキ、いきなり呼び出して。」
またなんか企んでるのか?といった表情で雪兎を見る桃矢。
「うん、紹介したい人がいるんだ、桃矢に。」
「紹介したい奴・・・?」
いぶかしがる桃矢。と、彼は雪兎の後ろに隠れている人間に気が付く。雪兎にひしっ、と
しがみ付く少女に。
「うん、ぼくの妹!」
「はぁ!?」
雪兎に妹?そもそもこないだ人間になったばかりの雪兎に肉親はいないはずだが・・・
いぶかしがる桃矢の前に、雪兎は後ろの少女の背中を押し、立たせる。
「ほら、挨拶して。」

 その姿を見て桃矢が、げっ!と固まる。大人しそうな整った顔立ち、緑がかった長い髪には
見覚えある赤いリボン。
「月城、鏡(つきしろ、かがみ)と申します、はじめまして、桃矢さん・・・」
顔を赤らめながら頭を下げる鏡。桃矢は頭を抱えて特大のため息一つ。
「はじめまして、じゃねーだろ・・・」
 どこからどう見ても彼女はクロウカード改め、さくらカードのミラー(鏡)だ。
彼女だけは本の中で生きていくことを選ばなかったらしい。よく見れば、さくら達が本から
帰ってきた時に持っていたネックレスを首に巻いている、どうやらペンダント部分に
化けていたようだ。
 どーすんだよこれ、といった表情で雪兎を見る桃矢。
0310無能物書き垢版2019/04/12(金) 22:44:02.92ID:yhCs9aXY0
「まぁ、これからいろいろ大変だから、協力よろしくね、桃矢♪」
桃矢が見抜いてることを見越した上で理解を求める。彼女は普通の人間ではない、さくらが
ケロを隠して居候させてる苦労を桃矢も請け負うハメになりそうだ。

 と、雪兎のスマホが鳴る。電話を取って二言三言話し、切る。
「ごめん桃矢、急用ができたから、あとよろしくねー。」
そう言って名前のごとく脱兎する雪兎。とりつくシマも無くふたりきりにされてしまった。
 今の絶対嘘電話だろ、と毒づく桃矢の横で、 鏡は人差し指を胸の前でちょんちょん合わせて
桃矢のアクションを待っている、赤い顔で。
桃矢はやれやれ、という顔をしてひと息つくと、鏡の頭にぽんっ、と手を置く。
「んじゃ、そのへん散歩でもすっか。」
「は・・・はいっ!」
嬉しそうに桃矢を追いかける鏡。桃矢はまたややこしい事態になりそうだ、と頭をかく。
 
 でもまぁ、それも面白いかもしれない。
0311無能物書き垢版2019/04/12(金) 22:44:38.37ID:yhCs9aXY0
 ホールに響く美しい合唱の声。春の音楽発表会、現在は友枝中学コーラス部の演唱中。
歌の区切りの部分で一人の少女が前に出る、そしてそこから切なく、悲しい歌詞を紡ぐ大道寺知世。
彼女のソロが終わるころ、入れ替わりにひとりの少女が前に出る。そして前任の悲しい歌から
まるで立ち直るような力強さで歌い上げる、人間の強さを感じさせる声量、歌詞で。

 詩之本秋穂。かつてこの体を奪っていたアリスが入部したコーラス部、本人はむしろ運動系の
部活に入りたかったところだが、入ってしまったものは仕方ない、やるなら徹底的に、と考えた彼女は
先輩の米田歩や、その母で吹奏楽部顧問の米田先生(元オペラ歌手)に師事し、歌唱力を
鍛えに鍛えていった。その結果、まだ2年にして知世と双璧の戦力として抜擢されるほどになる。

 その歌を観客席の最前列で聞きながら、じんわりとした感動を噛みしめるユナ・D・海渡。
彼女は帰ってきた。自分の恋心を受け入れてくれた、アリスと共に。
そして昔から変わらぬその行動力で毎日をたくましく生きている。その歌唱力、コミュ力、
そしてそれを生み出す人間力。
「魔法具?そんなちっぽけなもので括るような人じゃないですよ、秋穂さんは。」
ヒザの上に乗せているウサギのぬいぐるみに語る。ねぇモモ、と。

 やがて合唱が終わる。万雷の拍手が会場を包む、海渡は席を立ち、帰途に就く。
彼女の為においしい紅茶を淹れる為に。そして話そう、今日の合唱の事を。
二人きり、で。
0312無能物書き垢版2019/04/12(金) 22:45:07.17ID:yhCs9aXY0
『次は友枝中、チアリーディング部による演技です!』
 夏の日差しが照り付けるグラウンド、さくら達チア部のメンバーがフィールドに出る。
フィールドの外には、ユニフォームを身にまとった友枝中ラクロス部の一同が拍手する。
その選手のひとりをちら、と見るさくら。昨年冬から入部した小狼がそこにいる。目が会い、微笑む。
よし、出番だとテンションを上げるさくら。すぐ横では千春が同じように山崎を見て
にこっ、と笑顔を見せる。

 中学生ラクロス関東大会決勝のハーフタイムを使った応援合戦、先に対戦相手の頼位南中の
応援が終わり、友枝チア部の番が来た。
 昨年のラクロス全国覇者である頼位南中に前半1点ビハインドで折り返している友枝ラクロス部。
去年はワンサイドゲームで惨敗した相手に、ここまで善戦できている要因の一つが、抜群の運動神経と
格闘技経験を生かしてフィールドを駆ける新戦力、李小狼の存在であった。
決して大きくないその体躯で、巧みに小回りを利かせディフェンスをすり抜け、ポイントゲッターの
山崎たちに的確なパスを出す。その活躍は見る者にとって、さくらならずとも輝いていた。

 特別な力を持つがゆえに『仲間と競い、共に戦う』ことが出来なかった小狼。しかしアリスの
本の世界で魔力を無くした小狼は、その枷を外された。彼は魔力と引き換えに『少年の青春』を
手に入れることが出来たのだ。
 そして今、さくらはそんな小狼に勇気と応援を送るため、フィールドに立つ。
魔力を失ったさくらは、もうその魔力で他人を魅了する心配はない。小狼を、友枝中ラクロス部を
奮い立たせるのは純粋な自分の、自分たちの演技。

 小狼君が頑張っている、そんな小狼君に何かをしてあげられる、そんな誇りと嬉しさを胸に
さくらは踊り、舞う。夏の太陽に汗をきらめかせて。

−フレー、フレー、ト・モ・エ・ダッ!−
0313無能物書き垢版2019/04/12(金) 22:45:35.12ID:yhCs9aXY0
「で、結局負けたんかい。」
『まぁ仕方あるまい、相手は全国屈指の強豪だ。李小狼が入ったからと言って、劇的に
差が埋まるものではないだろう。』
 ケルベロスとユエがノートパソコンの画面を通して話している、さくらが留守の時は
わりとお馴染の日常。
以前と違うのは画面の向こうでユエが茶菓子をつまんで食べていることだ。こっち側の
ケロも負けじとクッキーを頬張って返す。
「しっかしお前、そんなに食って家計は大丈夫なんか?ゆきうさぎもめっちゃ食うのに・・・」
『ああ、鏡(かがみ)が食べ物を倍に増やしてくれるので問題はない。』

 その言葉にぶふぉっ!とクッキを吐き出すケロ。
「なんやてぇ、それはズルいで!つかワイにもちょい寄こせや!」
赤いおはぎを頬張るユエに抗議するケロ。どうも木之本家は洋菓子がメインなので、
和菓子メインの月城家のおやつが美味しそうに見えて仕方ない。

 そんな講義をさらっと流して、お茶をすすりつつ続けるユエ。
『で、主(あるじ)は今日、李小狼と逢引きか。』
「普通にでーとって言わんかい!まぁ小僧も大会が終わって部活も休みやし、ええんちゃうか?」
『そうか・・・』
それだけ言って茶を飲み干し、ふぅ、とひと息ついて遠くを見るユエ。
「なんや、いきなりたそがれてからに。」
『いや・・・主が魔法を使えなくなって、我らの日常はこのままこんな感じでずっと続くのかと
思ってな。』
0314無能物書き垢版2019/04/12(金) 22:46:04.00ID:yhCs9aXY0
「なんや、そんなこと心配しとったんかい。」
その言葉に無言でケロを見返す、画面越しに。
「ええか、さくらは運命に導かれてワイと出会うたんや、そして様々な経験や出会いをして
立派なカードキャプターになった。」
一度言葉を区切って、こう付け加える。

「その『縁』が、そーかんたんに切れると思うか?」
『・・・どういう、ことだ?』
「さくらの魔力は完全に無くなったワケやないやろ。今はまだ普通の人並みやけど、いつかまたさくらは
魔法を使い、カードを追いかけるようになる!あの本も、中のカード達も待っとるコトやしな。」
 後ろ手に指さす先、引き出しの中の2冊の本、クロウカードの本と時計の国のアリス。
そこにはカード達との約束、いつかまた会う、その為には魔力が必要なのだ。
さらにその際にある数枚の透明な『クリアカード』。彼らもまた、主の復活を心待ちにしているのだから。

『なんだと!それは・・・いつのことだ!』
守護者として聞き捨てならないその話に、思わず声を荒げるユエ。」
「さぁな、それはワイにも分からん。もしかしたら明日かもしれんし、50年先かもしれん。
それでも必ずその時はくるで。なんつってもさくらは・・・」


 −カードキャプターさくら、やからなぁー



カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

最終話 さくらと小狼と魔法と、そしてこれから
0315無能物書き垢版2019/04/12(金) 22:55:12.80ID:yhCs9aXY0
以上、お付き合いいただきありがとうございました。
最終話でウェイがいい仕事をするのは「さくらカード編」からの伝統ですw
0316CC名無したん垢版2019/04/12(金) 23:19:12.33ID:a2Wz3juq0
素晴らしいお話をありがとうございました…!!
世界中のCCさくらファンにすごくいい二次創作がここにあるぞー!と叫びたいところだけどやめときます
0317CC名無したん垢版2019/04/13(土) 00:55:54.30ID:g2oDJUSH0
さくらカード編最終話みたいにダイジェストが流れていくところまで見えた
大変に読み応えのあるSSでした
素晴らしい作品をありがとう

SS界のDの称号を進呈するんで、スピンオフで27年後のエピソードもよろしくw
0318CC名無したん垢版2019/04/13(土) 19:54:50.90ID:TFnKB0Ll0
完走乙でした。
もういちど最初から一気読みしてみたけど、ホント凄いなこれ。
ちゃんとクリアカード編の流れから続いて、旧作のエピソードもいっぱいあって
伏線をあちこちに張ってきっちり回収、起承転結もしっかりしてて

何より評価したいのは、きっちり完結させてること。
こういうSSって、たいていは未完で終わるんだよなぁ。
書く人が飽きたり、収集がつかなくなったりして。

無能物書きさん、っていう名前からして、もしかしてプロの方?
別作品とかあったらぜひ見たいです。

>>316さん
いや叫ぼうよw作者さんもとりあえず小説投稿サイトとかに
投稿してみたら?
0320CC名無したん垢版2019/04/14(日) 11:05:05.41ID:ipGE6uU+0
>>319
何故ここに貼る?
酷い絵なのに上手いのがまたアレだな。
画像スレ立てれば?
0321無能物書き垢版2019/04/14(日) 19:26:08.17ID:HUQnSvDW0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

おまけ ケロちゃんにおまかせ

こにゃにゃちわ〜!みんな元気にしとったか?
さて、SS「魔法の終わる日」最後まで見てくれてありがとな〜。
ここからは作者を代弁して、わいが作品や作者について語ったるでぇ!
ん、そんなんいらん?まぁそんないけず言わんと、物書きっちゅうのは書き終えた後
そんなことを色々語りたがるもんや。

 まぁ多くの人がアニメ「カードキャプターさくら・クリアカード編」に対して
物足りなさっつーか、消化不良を感じたと思う、作者もそんな奴の一人なんや。
2クール作品にしては進行ゆっくりやな〜と思っとったら、結局最終話でもなんも明かされず
「え、これでクリア編終わり・・・終わり?」って、どっかの金持ちみたいな感想を持ったと。
 旧作の時代やったらまぁ、二期に期待するところやけど、今の時代に放映枠をそんな贅沢に
取れるかっちゅーと正直望み薄やし、原作「なかよし」の進行に期待するしかないかと思たんや。

 ただ作者は妄想癖っつーか、「不満なら自分が続きを考える」っていう身の程知らずなトコあって
それで他の板とかでもSSを投稿したことがあったんや。
ただ、この板にはSSスレが無かったもんで、前にあったスレ「さくらと小狼でお泊り」で
いくつかSSを試し書きした後、このスレを立てて>>2->>14で試運転をやって、手ごたえ感じたもんで
>>40からこの「魔法の終わる日」の連載を開始したんや。

 基本コンセプトはクリアカード編のOPにある歌詞「翼が無ければ走っていくわ行きたいところまで」
を軸に、アニメのクリア編の続きに旧作のエッセンスを存分に織り込んで、さくらと小僧の成長を
描こうっちゅう狙いやった。
0322無能物書き垢版2019/04/14(日) 19:26:39.29ID:HUQnSvDW0
 特に力が入ったんは11話やな。前半はこの話にこぎつける為に書き続けたと言ってええわな。
この話だけで旧作のエピソードがいくつも入っとるで。特に小僧の「空白の夏休み」は
作者的にうまく作れたエピソードやと思っとる。ちゅーもしたし、その後で小僧が
自分の弱さを好きな人に告白するのは、仲を深めるためのええ話やと思うやろ?(ドヤ顔)

 そこを境に、秋穂や海渡の謎に迫ることになるんやけど・・・いかんせん作者の頭では
CLAMP様の発想に及ぶワケないし、全然先が読めんかったんや。
せやからこの辺は自由にこの二人の設定を立てたで、まぁどの二次創作を調べても
あの秋穂が偽物だったなんてゆー話はお目にかかれんやろなぁ、さすが作者、ひねくれとる。
 あとはアリスやから、やっぱ本に入るイベントは必要不可欠やな。ちなみに中で秋穂とアリスが
チェスをしとったんはCLAMP様作品「鏡の国の美幸ちゃん」のパロディやけど、気ぃ付いたか〜?

 前述の通り作者は以前にも別板でSS書いたことがあったし、昔はホームページも持っとった。
ただプロっちゅーワケやない、そもそも作者の文章で金が取れたら苦労はせんわな、あくまで趣味や。
 アニメ違うけどもし興味があったら、作者の別作品も見てくれると嬉しいで、ここに保管されとるで。
https://wikiwiki.jp/arte/オリジナル主人公
こっちでのコテハンは「三流F職人」や、3作品を書き上げとるで。宣伝スマンな〜。
0323無能物書き垢版2019/04/14(日) 19:27:05.38ID:HUQnSvDW0
 こっからは場を借りてレスしていくで。
>>316
そう叫びたいと思わせるだけでも書いた価値あるで〜、ホンマありがとな。
>>317
常にアニメ化した情景を意識して書くんで、そう言ってもらえて光栄や。
ただ、アイン達の話は正直まーーったく考えてへんで!(威張る)
>>318
わざわざ読み返して貰えるとは光栄の極みやで(感涙)・・・
調べてみたけど、ハーメルンとかに投稿してもええかなって思っとる。
スレがいつ落ちるかわからんしなぁw

 ま、そんなワケや。ここまで長々と付き合うてもろてありがとな。
あとこのスレ、意外に作者以外に書く人がおらん、遠慮せずどんどん投稿したってや〜。

ほな、また!(ぇ
0324CC名無したん垢版2019/04/15(月) 00:47:12.97ID:jFa0G6MI0
自分も11話好きだな
最終話で偉がどれだけ苦労したのかも明かされて、さらにいいエピソードになったと思う
てか、こんなにいいSS連載されてたら横入り無理っしょw
0325CC名無したん垢版2019/04/15(月) 18:05:17.47ID:mpqMNw6X0
>チェスをしとったんはCLAMP様作品「鏡の国の美幸ちゃん」
うわ懐かしいwマリ姉が声やってたアレだ
0326無能物書き(三流FLASH職人)垢版2019/04/15(月) 23:45:02.00ID:GlOvbeKO0
というわけで小説投稿サイト「ハーメルン」に
投稿開始しました、掲載サイトへの報告義務があるらしいので。
よければあっちにも感想下さい(アツカマシイ
0328木之本さくら垢版2019/05/17(金) 19:29:45.14ID:fyHhL/tB0
ほしゅほしゅ
0330CC名無したん垢版2019/06/20(木) 20:36:01.26ID:qnPPabBW0
まだかな〜
0331CC名無したん垢版2019/07/11(木) 16:53:45.13ID:PnL/32tW0
意外にSS来ないなぁ...
0337CC名無したん垢版2019/09/09(月) 08:21:45.41ID:YbI+YMPh0
山崎が逞しいw
0340エンド・オブ・クリアカード ◆WSgPeEy3kM 垢版2019/10/12(土) 20:57:38.17ID:a3TounsW0
ー予告編ー

ようやく海渡の望むカードを与え、秋穂を救ったさくら、だが、さくらの魔力はなお、5000年を経ても止まることは無かった!
「カードキャプターさくら」シリーズ最終章!
10月末連載予定!
0342CC名無したん垢版2019/10/30(水) 23:22:59.01ID:nv+huS8y0
まだかなーwktk
0343エンド・オブ・クリアカード ◆WSgPeEy3kM 垢版2019/10/31(木) 22:00:55.39ID:9Wcs1rWm0
海渡「このカードです。これが欲しかったんです。ありがとうございました。」
秋穂「すごいですさくらさん!このカードを生み出せるなんて」
海渡秋穂「「ではこれで。またどこかでお会いしましょう。」」
ピシュン
小狼「消えた・・・」
苺鈴「しっかし迷惑な二人組だったわねー?」
奈緒子「でも個人的にはよだれが止まらないくらいの体験だったね」
知世「さくらちゃん。これで再び平和な日々が帰ってきますわね。」

知世「さくらちゃん?」

知世「またカードが・・・

さくら「止まんないや。私の力」
ズゴォーン!!

ー五千年後 しし座星雲片A85ー
ビーッビーッビー
「状況報告!俺の艦はどうなってやがんだ!」
ミツギ「後ろです!ムズクが出た!方位202!距離3000キロ!艦長!退避、退避です!」
「そんなんにビビってたらいつの間にか喰らい尽くされちまうぞ!」
ミツギ「艦長!数が」
「構うな!撃って撃って撃ちまくれ!」
ミツギ「もうダメです!」
ペトム「あの惑星に突っ込むんですか!?
「うるさい!断熱圧縮で焼き切ってやる!しっかり捕まっとれお前ら!」
ゴォォォォォォォ
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」
ズドンメキィバリバリ

続く
0344エンド・オブ・クリアカード ◆WSgPeEy3kM 垢版2019/11/07(木) 22:07:54.85ID:vcfWIOVN0
俺はどうやら船から放り出されたらしい。
しかし全身が痛い。どうやら俺はまだ死なずに生きているらしい。そして一考えつける程の大気があるのもわかった。船は何処だ。
「あいてててて…」
俺は憮然とした表情で小高い丘へ登った。
そこで大体の風景を把握する。
暗い野原と光りそして気泡のたった沼地が幾つかあり、俺の船は見当たらなかった。

おや、遠くにこちらへ近づく青い何かがある。
あれは何だ。
見られているのか、と思った次の瞬間

ドバァーーーッッ!!
と音を立て水流を撒き散らす『そいつ』がいっぺんに距離を取った。
ヤバい。これはヤバイぞ。逃げる事にした。
が、一気に周りこまれ俺はそいつに取り込まれた!
一瞬苦しかったが、すぐに頭部は出された。
『そいつ』は俺に質問した。
そいつ「おい、貴様何をしに来たんだ?」
俺は答える。「いまどき蠕動運動システム入りのボロ船から放り出された!俺は流れ者だ!」たしかそう答えた。

続く
0345エンド・オブ・クリアカード ◆WSgPeEy3kM 垢版2019/11/14(木) 22:59:26.78ID:M327oYfI0
「小惑星で仲間と落ち合う途中なんだ!だから解放してくれ!こんなとこには用は無い!」
そいつ「駄目だね。信用できんわ。そうこうしてるうちにここを道楽ついでに破壊するんだろ。そういうやつは多い。」
その時だ
ズォン!メキメキィィ
そいつ「あ、いっけね。餌忘れてた。ちょうどそいつでいいや。」
目の前に現れたのは黒い大きな影そのものだった。牙には

「俺の船が…」

つづく
0346エンド・オブ・クリアカード ◆WSgPeEy3kM 垢版2019/11/21(木) 21:38:01.64ID:MCyS04a/0
そいつは肌は岩のようで黒く、シルエットだけ見るとまるで「ヘビ」とかいう生物そのものだった!
ツォーチィ「紹介が遅れたな。私はツォーチィと言う。だが私の名前とこの星を知った以上消えて貰おうか!」
俺はツォーチィから放り出された!
ヘビ?「グォオオオオオオオオオンッ!」
咆哮の後奴は火を吹いた!
「あぶね!」
船が落ちる!まずい!

その瞬間、勢いつけて船は急旋回した!
「よし、中の奴らは生きてんだな!今度はこっちの番だ!」
俺はひとまずヘビのようなものから逃げながら船を追った。

つづく
0347エンド・オブ・クリアカード ◆WSgPeEy3kM 垢版2019/11/28(木) 19:53:50.70ID:KAR24pP80
俺は走りに走った。するとどうだろう。断崖絶壁だ。

船が高速で向かってくる。


チャンスは一度きりだ。

俺は懐からカードを取り出した。
「そう!こいつなら!」
俺は有りったけの力を振り絞りジャンプした!
うまく取り付けた!

ペトム「あっ艦長!」
ミツギ「おかえりー」
「…はぁ。ただいま。
お前ら、例のアレやるぞ」
ペトム「またやるんですか?」
「しょうがないだろ。」
ミツギ「イキますよ!しっかりベルト留めてくださいよ!」

ツォーチィ「なにやってんだあいつら」

「「「いくぜ!!これが俺らの!ビッグタイフーンドリルブリーカー!!!!」」」
船は急回転する!


つづく
0348CC名無したん垢版2019/12/01(日) 10:11:42.80ID:D4+1Smhh0
NTR物の広告嫌い。死滅して欲しい。
0349エンド・オブ・クリアカード ◆WSgPeEy3kM 垢版2019/12/05(木) 21:58:37.14ID:Y5JaQ/hz0
グギャああああああああ
奴の体はバラバラに四散し、そこから三つのカードへと変貌した。
ミツグ「やりましたねぇ!艦長!」
ペトム「これで6枚目かぁ」
さてと、まだやることは残ってる。
俺はツォーチィとか言うのを見る
「すると奴も…?」

つづく
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