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【妄想を】CCさくらSSスレ【垂れ流せ】
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0001CC名無したん
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2018/11/06(火) 20:56:10.87ID:dLExxYrD0
カードキャプターさくらのSSを投稿するスレです。
書式、構成等の上手下手は問いません、好き勝手に書きなぐりましょうw
ただし来た人が引くようなエログロは勘弁な。
参考スレ
【禁断】小狼×知世をひっそり語るスレ【村八分】
https://mao.5ch.net/test/read.cgi/sakura/1523196233/l50
0198無能物書き
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2019/03/16(土) 01:51:35.20ID:vLMAiT+e0
「ええっ!そんな・・・」
ソファーに駆け寄り、秋穂をゆり動かすさくら。
「秋穂ちゃん、しっかり!私だよ、さくらだよ、起きて、起きてってば!」
そんなさくらを見て感情を高ぶらせる小狼。つかつかと歩み寄り、海渡の前に立ち、睨む。
「どういうことだ!アリスを本に返せば、詩之本は帰ってくるんじゃなかったのか!」
「・・・もちろんそのはずでした。しかし、現実に彼女の魂は戻ってきませんでした。」
「くっ!」
怒りに任せ、拳を作る小狼。その手を桃矢が抑える。
「じゃあ、どうやったら彼女は戻ってくるんだ?」
「それが分かってれば、とっくにやってるわよ。」
モモが口を挟む、投げやりな声で。

 ソファーではエリオルが秋穂を診察している、傍らで不安そうに見守るさくらと知世。
瞳を覗き込み、脈を計り、手をかざして魂のありかを探る。
「どうやら、完全に魂を失っています。このままでは彼女は一生、目を覚ましませんよ。」
立ち上がり、海渡に向かって言い放つ。
「先走りましたね、貴方のやったことは完全に裏目に出たようです。」
厳しい言葉に、海渡は反論しない、出来るはずもない、その通りだ。
「なぁ、なんか方法は無いんか?心当たりとか。そもそも秋穂はホンマにその本の中に
おるんか?」
ケロが問う。少し前なら確信をもってイエスを言えた海渡だが、今となってはそれも怪しい。

「手がかりが、ひとつだけあります。」
ややあって海渡が口を開く。その言葉に皆が注目し、次の言葉を待つ。
海渡は本を開き、一番後ろのページを開く。厚紙でできた本の外回り、そこに印字された文字。
−〇△◇〇 2072−
見知らぬ文字の後の数字、それだけが広い裏表紙の真ん中に小さく書かれている。
雪兎がそれをの祖き込み、アゴに手を当てて言う。
「発行年、かな?」
「え?つまり、この本が書かれた年月日?」
なくるが続く。その言葉にこくり、と頷く海渡。
0199無能物書き
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2019/03/16(土) 01:52:04.66ID:vLMAiT+e0
「え・・・2072、って、ほえええーーーっ!?」
「まさか、この本って・・・」
さくらと小狼の言葉に、目線を合わせずに答える海渡。
「ええ、おそらくは『未来』に書かれた本なのでしょう。」
「はぁ?何言うとんねん。未来に書かれた本がなんで今ここにあるっちゅーんや。」
反論するケロを制して、観月がずいっ、と前に出る。
「そう、だから・・・『時計の国のアリス』なわけなのね。」

 時間を超える魔道具。魔法の中でも超高等な技術で作られた、極めてまれなアイテム。
クロウ・さくらカードの『リターン』や、海渡が魔法協会から奪った懐中時計と同じ能力を持つその本。
まだまだ謎な部分はあるが、この本の一つの謎がそこにあるような気にさせる。

「未来に行って、その本を書いた人物に会えば、何かが分かるかもしれません。ですが・・・」
海渡はテーブルに置かれたままの懐中時計に目をやる。かつてエリオルの魔力と張り合い
その際に出来たひび割れが痛々しい時計を。
「もう、使えないのですか?その時計は。」
エリオルの問いに海渡が頷く。
「少しくらいの時間操作はできますが、未来に行くほどの魔力は失われてしまっています。」
がっくりと肩を落とす一同。

「あ!」
さくらは思わず声を上げる。全員の注目を浴びながら、ポケットのホルスターから1枚の
クリアカードを取り出す。そして無言で皆にそのカードを差し出し、見せる。
0200無能物書き
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2019/03/16(土) 01:52:37.37ID:vLMAiT+e0
−Future(先)−

「今朝、封印したの。これって『未来』っていう意味だよね。」
悲しい夢から覚めた今朝、自然にさくらの前に現れたそのカード、まるでこの時のために
用意されたように。
 皆がそのカードを覗き込む。その図柄には少年とも少女とも取れる、ローブを被った
子供が描かれていた。そのカードを見て海渡が、モモが驚愕する。
「このローブは・・・」
モモはいち早く、その部屋のクローゼットに向かう。扉を開けて、ハンガーにかかった
一着の服を持ってくる。
「これは、詩之本家に代々伝わるローブです。」
全員が驚く。それはまさに今、さくらが示したカードと同じローブだったから。

「偶然とは思えませんね・・・」
エリオルが頭をひねってそう言う。もしこの時のために用意されたカードなら
ここで使うべきカードなのかも知れない。
 しかし、その雰囲気に小狼がストップをかける。
「ダメだ!これ以上さくらがカードを使ったら・・・まして時間操作のカードは!」
必要とする魔力の量がケタはずれに多い。リターンの時も月峯神社の桜の木の魔力を借りて
やっと過去に飛ぶことが出来た。しかも、魔力を消費すればするほど、回復の幅も大きくなる。
今のさくらがそんな膨大な魔力を使えば、回復したのちの魔力は確実にさくらをより不幸にする。
小狼にとってとても承諾できる行為ではなかった。

「しかし、他に方法がありません。秋穂さんを見捨てるなら話は別ですが・・・」
海渡は脅迫めいた態度を隠さず、さくらに問う。だが嘘ではない、秋穂の魂の行方を突き止めない限り
彼女を救う手立てはないのもまた事実なのだ。
0201無能物書き
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2019/03/16(土) 01:53:09.98ID:vLMAiT+e0
 さくらはすぅっ、と息を吸い込み、深呼吸する。そして小狼の方に向き直り、言う。
「ありがとう、小狼君。心配してくれて。」
ひと息ついて続けるさくら。
「でも、私は秋穂ちゃんを助けたい、アリスさんも。未来に行ってこの本を書いた人に会えば
その方法がわかるかもしれない。だから・・・やってみる!」
「さくら・・・」
その決意の瞳を見て、小狼は何も言えない。昔からそうだ、さくらは誰かのために常に
損な役割を引き受けてきた。ソードに操られたクラスメイトを傷付けないように助け、
タイムの潜む時計塔を壊さずに時間の流れを元に戻した、それで余計に苦労する羽目になっても。

「わかった、だけど必ず、無事で返ってきてくれ。」
「うん!」
不安は尽きない。小狼も、そしてさくらも。
だからこういう時は、さくらは無敵の呪文を使う、懐かしいあの言葉を。

「絶対、だいじょうぶ、だよ。」


 さくらと海渡は向かい合って位置する。今の膨大な魔力を持つさくらと、稀代の天才魔術師の
海渡の魔力をもってすれば、時間をめぐるカードの発動も可能だろう。
何より秋穂を助けたいと願うこの二人が未来に飛ぶ、その意志こそが成功の原動力になるだろう。
さくらはカードを空中に放り投げ、夢の杖を打ち据え、発動させる。

「我らを未来へ送れ、フューチャーっ!!」
その瞬間、ローブを被った精霊がカードから飛び出し、そのローブが広がってさくらと海渡を包む、
やがてローブはまるでテントのように二人を包み込み、光り輝き、そして消えていく。
0202無能物書き
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2019/03/16(土) 01:53:33.84ID:vLMAiT+e0
 その時だった、そのローブの精霊が発した一言と共に、不快な金属音が部屋に響く。

「お前はもう、戻れない」
−ぱきいぃぃぃぃ・・・ん−

 やがて消えるさくら達。後に残された者たちが見た物は、部屋の中央に散乱している破片、
つい先ほどまでさくらが振るっていた杖だった物体、魔法を発動させるのに必要不可欠なアイテム。

−砕け散った、『夢の杖』の残骸−
0204CC名無したん
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2019/03/16(土) 09:26:05.11ID:GyDSS+ex0
去年か一昨年のさくらフェスでもケロの正体について言及があって
久川さん(ケロの声優)が「犬だよ」って言って出演者が驚くっていうくだりがあったな

しかし、確かに月は都合が悪くなると雪兎になって逃げそう!
0205無能物書き
垢版 |
2019/03/18(月) 00:23:00.10ID:ZhiMbkbm0
>>203
ああごめん、不穏な展開はこっからがピーク・・・
>>204
やっぱ犬だったんだ、あの体格ならそーとーゴツい犬だなぁ、飼いたくねぇw
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」
第19話 さくらと壊れた未来

 そこは、白と黒のタイルがチェック柄に2列並んで、遥か向こうまで宙に浮かんで
真っすぐに続いている。
 タイルの外は下。霧に包まれてどこまで落ちるかすら分からない。まるで雲海の上に浮かぶ
板の道のように、その幅1mほどの足場の上にさくらと海渡は立っていた。
「ここは?」
後ろを振り返れば、足場はもうない。先に進むしかなさそうだ。
さくらと海渡は一歩踏み出す。その時二人は理解する。進んだのは「距離」ではなく「時間」。
歩くほどに二人の時間が進んでいくのがわかる、もし魔法や車などで猛スピードで進んだら
自分の老化すら自覚するだろう。

「これは・・・時間の回廊とでも言いましょうか。」
「うん、先に進むたびに、自分の時間が進むのが分かる。」
自分の手をじっと見て、やがて決意する海渡。
「2072年に着く頃は、私はもうお爺さんですね、これは。」
そう言って歩みを速める海渡、たとえ自分がどうなろうと、彼にとって迷いにはならない、
さくらを置いて、すたすたと進む。さくらが追いかけようとした時、その姿が霧に消える。

「え、あ!海渡さん、待って!!」
小走りに追いかけるが、海渡の姿は見えない。進むごとに変化する自分の体を恐れ、歩みを止める。
と、タイルの道の際に、下に降りる階段がある、いつの間に・・・
「こっちに行ったのかな?」
さくらは恐る恐るその階段を降りる。霧に包まれた『下』へと。やがて足元しか見えなくなり
さらに降りて霧の下へと抜ける。

 −そこにあったのは、友枝町−
0206無能物書き
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2019/03/18(月) 00:23:38.57ID:ZhiMbkbm0
「さくら!起きんかーい!」
「ほぇ!?」
目が覚めた。いつものベッド、ケロに怒鳴り起こされるいつもの朝。
服を着替えて荷物をまとめ、階段を降りる。テーブルにはいつもの藤隆と桃矢、
そして写真立ての中の撫子。
「今日から高校生ですね。」
そうだ、今日から私も高校生。さすがにお兄ちゃんももう私を怪獣とか言わない、
そりゃそうだ、もうお兄ちゃんも社会人なんだから。
「行ってきます。」
笑顔の二人に見送られ家を出る。そしてさくらは目にする、耳にする。非日常を。

「きゃあーっ!」
「来た来たーっ!」
「さくら様よ、さくら様がご登校ですわ。」
「「おはようございまーす!!」」
「今日も素敵ねー♪」
「そりゃそうよ、なんてったってさくら様ですもの。」
「こっち見たわ、あはぁ、嬉しい♪」

「ほえっ!?」
戦慄するさくら。なんと家を出た道路に大勢の人が待ち構えていた。彼らは全員が
さくらに好意と、憧れと、恋慕の瞳を向けている。
「な、何?なんなの・・・」
 大勢に囲まれ、詰め寄られる。その異様な空気に背筋が寒くなるさくら。
よく見るとそれは知らない人もいるが、大半はさくらも知る近所の人達だ。
分からないのは彼らの態度だ、老若男女の別なく、さくらに上気した意志を向ける。
「わ、私、学校行かなきゃ・・・どいて下さいっ!」
不気味な怖さに怯え、人をかき分けて駆け出すさくら。「どいて」の一言に
まるでモーゼのように道を開ける人の海。
0207無能物書き
垢版 |
2019/03/18(月) 00:24:08.81ID:ZhiMbkbm0
 走ってる最中も、四方からさくらを称賛する声と、好意の圧が押し寄せる。
知らない、こんな世界は知らない。まるで世の中全員が知世ちゃんになったような、
いや、それ以上に強く、おぞましさすら感じる好意を、全ての人間がさくらに向けてくる。

 走り、校門をくぐり、教室に入る。そこにいたのは知世、奈緒子、千春、山崎、利佳、
おなじみの面々と、そして新たなクラスメート。

 彼らはさくらを待ち構えていたように、ドアの周りを取り囲み、さくらを包囲する形で
一斉に唱和する。
「「おはようございます、さくらちゃん」」
「ひっ!!」
思わず悲鳴を上げる。皆も同じだ、知世も、利佳も、奈緒子も、山崎すらも、まるでさくらしか
見えてないと言った表情を向け、囲む。

「み、みんな・・・何か変だよ。」
冷や汗をかきながら一歩引くさくら。
「何がですの?あ、いえ。そもそもそんなことどうでもいいですわ。それより今日も
本当に可愛いですわ〜♪」
知世が答える、どこか朦朧とした目で、頬を染めて。まるで恋する少女のように。
「ホントホント、さくらちゃん素敵ねー。」
同じ表情で、奈緒子と利佳がうなずき合う。その横では山崎が普段閉じてる目を開いて
さくらに熱い視線を送る。
「え、あ・・・山崎君?そういう目は千春ちゃんに・・・」
「なんで?」
真顔で答え、千春を見る山崎。千春も顔を見合わせ、ふたりして頭でハテナマークを作る。
「山崎君なんかどうでもいいわよ、それよりさくらちゃん、今日もホント美人ね〜。」
そう返す千春。さくらは自分の血の気がさーっ、と引く音を聞いた。
0208無能物書き
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2019/03/18(月) 00:24:39.31ID:ZhiMbkbm0
 授業が始まり、知らないはずの高校生の勉強を進める。何も頭に入っては来ない、
代わりに来るのは先生からすら向けられる好意。怖い、怖いよ。なんなの一体・・・

 放課後のチャイムと共に、さくらはまた皆に取り囲まれる。怖い、誰か、誰か助けて!
そこでさくらは、ひとつの失念していた事を思い出す。いつも私を助けてくれた存在を。
「ねぇ!小狼君は、小狼君はどこ?」
 そのさくらの言葉に、全員がきょとんとした表情を向ける。知らないの?と言わんばかりに。
やがて知世がさくらに向き、言う。
「李君なら、東京タワーですわ。ご存知かと思っていましたが・・・」
「・・・え?」
東京タワー?どうしてそんな所に。あそこに就職でもしたのかな・・・
「まぁでも仕方ないわよねぇ。」
「うんうん、さくらちゃんを独占しようなんて、許せないよねー。」
「まぁ当然の処置だよね。」

「・・・ねぇ、何それ、なんの話?」
さくらが千春たちに詰め寄る。が、彼女らはさくらとの距離が近づいたことを喜ぶばかりで
周囲も「いーなー」と声を出すだけだ。
 駄目だ、ここにいても何もわからない。そう判断したさくらは教室から飛び出す。
東京タワー、あそこに小狼君がいる。行くんだ、今からでも。

「フライ!(翔)」
カードを使うでもなく、ただそう叫ぶ。さくらの背中に翼が生え、虚空に舞い上がる。
0209無能物書き
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2019/03/18(月) 00:25:15.53ID:ZhiMbkbm0
 オレンジ色に染まる空と、世界。
空を飛んでいても届いてくる、下界にいる人たちの私への好意、まるで影絵のような人々が、
口を三日月のようにゆがめて笑っている。
誰も私が空を飛んでいることに驚かない、そもそもそんなことに興味も無い、それが分かる。
彼らの興味はひとつ、私への・・・

 思考を振り払い、怖気に耳を塞ぎ、飛ぶ。地平の向こうに見える東京タワーへ向けて。
その天頂部分のアンテナ、一本の線が伸びている、その一番上に、一本の横線が入っている
まるで東京タワーの一番上に、十字架が記されているように。

人がいる、あの十字架に磔にされている。誰かが。

さくらはそれが誰なのか知っていた。夢で見ていた。でも、それが逆夢であることを信じ、飛ぶ。
しかし近づくにつれてその期待はどんどん崩れ落ちていく。さくらの顔がこわばり、震え、
嗚咽と涙が漏れる。距離がゼロになった時、わずかな希望も絶望へと変わる。

「いやあぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!」

東京タワーの天頂で、磔にされている少年、李小狼。
目は光を失い、体にはわずかな温もりも維持していない。
死んでいる、さくらの愛しい人が。さくらが誰より好意を向けてほしかった、大事な人が。
「どうして、どうして、どうしてっ!」
小狼の目の前に浮いたまま泣き崩れるさくら。
0210無能物書き
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2019/03/18(月) 00:25:43.42ID:ZhiMbkbm0
「そりゃあまぁ、さくらちゃんは『みんなの』さくらちゃんだからね。」
その声、知ってるその声、知ってる人。下から聞こえた、涙をぬぐい、さらに溢れる涙を拭いて
下を見る。
「・・雪兎さん。」
展望台の上に立ち、さくらを見上げる雪兎。かつてユエと対峙したその場所に笑顔で立っている。
その際からひょっこり顔を出すケロ。
「せやせや。なのにあの小僧ときたら、さくらの『いちばん』になろうやなんて、
とんでもないやっちゃ。」
うんうんと雪兎も頷く。

「どうして?雪兎さん、私の『いちばん』の人がきっと見つかるって・・・小狼君がそうだって聞いて
応援してくれたのに・・・」
雪兎とケロが顔を見合わせ、やれやれ、と言う表情でさくらを見る。
「何言うとるんや、さくら。そもそもさくらの願いやったやろ。みんなと『なかよし』に
なりたいっちゅうのは。」
「さくらちゃんは魔法でその願いを叶えたからね、世界人類の『いちばん』でなくちゃダメだよ。」

「え・・・そんな。私そんな願いを叶えたの?」
「さくら自身がやったわけやないけどな、さくらの体から溢れ出る『魔力』がそうさせたんや。」
「そんな!勝手だよ。私はそこまで望まないよ!」
「魔力っていうのは、そういうものなんだよ。その人の心の中にある願いを叶えてくれる、
素晴らしい力なんだ。」
雪兎が笑顔でそう答える。素晴らしい力?これが?
0211無能物書き
垢版 |
2019/03/18(月) 00:26:11.14ID:ZhiMbkbm0
 さくらは目の前の小狼に視線を戻す。現実は変わらない。彼が死んでいるのも、
下界の人々が、さくらに理不尽な行為を向けているのも。
「このため、だったの・・・だから小狼君は私が魔力を強くするのを、止めたの?」
思い出す。なでしこ祭の時、一緒に飛びたいといった自分の愚かさを。
知世の家で見たビデオ、懸命に結界を張り、自分の魔力を封じてくれていた小狼たちの奮闘を。

 世界が壊れてしまった、私が壊してしまった。
そして、愛する人も、私のせいでこんな目にあってしまった。

 さくらは小狼に近づき、すがりつく。すでに体温は無く、異臭すらするその躰に。
「ごめん・・・小狼君。私、バカだよ、世界一の・・・バカだ。」
魔法を使った、魔力を高めた。その結果がこれだ。そして今この時も、魔法を使って飛んでいる。
どれほどバカなんだろう、私は。
 さくらは小狼にそっとキスをする。そして離れ、彼に正対し、涙を流して、告げる。

「ごめんね、ありがとう。」

さくらは魔法を解く、東京タワーの天頂で。
せめてこの愚かな魔法使いが落ちて死ねば、少しは彼の魂が浮かばれることを祈って−

薄れる意識の中、さくらはその手を誰かに捕まれる、そして声を聞く。

−無敵の呪文はどうしたのよ!−
0212無能物書き
垢版 |
2019/03/18(月) 00:31:42.44ID:ZhiMbkbm0
やっと>>40の伏線回収、こっから巻きに入ります。あと4〜5話かな?
0214無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:36:16.03ID:HRCjl+bE0
苺鈴ちゃん好きすぎる。ということで苺鈴回。
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第20話 さくらと苺鈴の素敵な魔法

「ちょっと、重いわよ、もう片方の手もあげなさい!」
「・・・え?」
さくらは右手を誰かに捕まれ、空中にぶら下がっている。その手の先は霧に隠れ、
誰なのかは分からない。ちょうどその手の上に濃い雲がかかっているかのように。
 さくらは言われるまま左手も上げる。と同時にその左手もばしっ、とつかまれる、
「はぁーーっ!」
気合一閃、さくらはそのまま一気に持ち上げられ、雲の中へ。霧をすり抜けると
そこは昨日さくらが下りてきた階段と、その上には白黒の通路、時の回廊。
そして、さくらを引き上げたのは、彼女も良く知る人物。

「苺鈴ちゃん!」
苺鈴は階段の踊り場でヒザをつき、ふぅっ、と一息つくと、きっ、とさくらを睨み、叱る。
「ちょっと!何やってんのよ、こんなトコで折れてる場合じゃないでしょ!」
「え・・・あ。」
さくらはぱちくり、とまばたきして苺鈴を見る。そしてふるふると震えながら、涙目になっていく。
「どうしたの?」
苺鈴の言葉にかまわず、がばぁっ、と抱き着くさくら。
「よかったぁー、苺鈴ちゃんはいつもの苺鈴ちゃんだよぉー」
「え、え?ええーっ!?」

「ふーん、みんなが貴方を好きな世界、ねぇ。」
「うん・・・」
時の回廊を歩きながら話す二人。先を行く苺鈴の背中を追いかけ、とぼとぼと付いて行く。
「みんな、おかしくなっちゃった。それに、小狼君が・・・」
うつむいて涙声で話すさくら。二人は先に歩いている、時の回廊を未来へ。
つまり、この先の時代に李小狼はいない、どこまで進んでも。
0215無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:37:00.83ID:HRCjl+bE0
「私、苺鈴ちゃんがうらやましい。魔法なんてなくても、しっかりしてて、カッコよくって。」
独白するように、聞いてほしいように、さくらは呟く。
「なんで魔法なんて使えたんだろう、こんな力が無ければ、こんなことにならなかったのに。」
と、くるっ、と振り向き、さくらを見る苺鈴。凛とした目で。
「贅沢よ、それ。」
「え・・・?」

 苺鈴は語る。魔法の一族である李家に生まれ、魔力を持たない苺鈴がどれだけ肩身の狭い
想いをしてきたか。
小狼の婚約者として彼と並び立つ資格のない自分を、どれほど嘆いたか。
「だから体を鍛えたのよ。魔力なんて無くても負けないくらい強くなろう、って。」

 しかしクロウ・カード集めの時、彼女は自分の努力が徒労であったことを思い知る。
さくらと小狼のカード争奪戦に割って入ることはできず、ソングのカードの時は知世にすら
後れを取った。シュートのカードの時に至っては自分の不注意で小狼を傷つけてしまった。
「でもでも、ツインのカードの時はうまくいったじゃない。」
さくらのフォローに、苺鈴は冷めた返事を返す。
「あれは同じ武術を学んでただけよ、正直ウェイの門下生なら誰でもできるわ。」
「そんな、こと・・・」
「さくらは『私にしかできないことがある』って言った。小狼は『お前がいて迷惑なことは無い』
って言った。」
そこで言葉を区切り、一度目を伏せてから、顔を上げて言う。

「それは、『持ってる人』の言う事よ!」
さくらはその表情に、胸を矢で貫かれたような、ずきり、とした痛みを覚えた。
0216無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:37:33.21ID:HRCjl+bE0
「『持ってる人』に言われても、そんなの慰めでしか無いわ。私がクロウ・カード集めの時
さくらにも小狼にも負けずにカードを手に入れられた時があった?」
言葉に詰まるさくらに、苺鈴はこう続ける。
「さっき何て言った?私が羨ましい、ですって!?私はずっと昔から思ってたわよ!
さくらが羨ましいって!魔力を持つあなたが、あのヌイグルミ(ケロ)に選ばれたさくらが!」
そう吐き捨てる苺鈴。言葉を紡ぐたびに感情的になっていく気持ちを抑えられずに、叫ぶ。

「あんたは特別なのよ!カードに受け入れられ、小狼に受け入れられ、皆に受け入れられる。
それを自覚しなさいっ!!」
苺鈴の叫びがさくらの胸に響く。さくらはいつか小狼が話してくれた言葉を思い出す。

−特別な力を持つって言うのは、そういう事なんだ−

 特別な力、それは他人に劣等感を感じさせる、否応なしに。
普通なら『仕方ない』と諦めることも出来ただろう。しかし魔法の一族に生まれながら
それを持たない、その悔しさを努力で埋めようと頑張ってきた苺鈴にとって、その心は、矜持は、
さくらが思う以上に傷ついていたのだ。
「私・・・どうすれば、いいの?」
顔を伏せたままさくらが呟く。自分の魔力が人を魅了し、人を傷つける。
そんなさくらに苺鈴は声のトーンを下げて、語る。
0217無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:38:05.47ID:HRCjl+bE0
「ねぇ、ライト兄弟って知ってる?」
「ほぇ?う、うん。初めて飛行機で空を飛んだ人、だよね。」
「じゃあ、オットー・リリエンタールは?」
さくらはふるふると首を振る。
「フランツ・ライヒェルトとか、イスマーイール・ブン・ハンマード・ジャウハリーは?」
全然知らないよ、と言った表情で苺鈴を見つめるさくら。
「今言った人、みんな天才よ。当時のトップクラスのね。そして、空を飛ぶことを夢見て・・・」
「それで?」
「落っこちて死んじゃったの。」
えっ、という顔で驚くさくら。
「ライト兄弟が飛行機っていう機械にしがみついて空を飛ぶまで、他にも多くの天才や偉人たちが
命を落としたのよ。そんな空を飛ぶ、っていう行為を魔法使はいかにもたやすくやっちゃう。
これだけでも、自分がいかに『持ってる』人間か理解できるでしょ?」

 さくらは痛切する。初めてフライのカードを封印し、ケロに勧められるまま空を飛んだ。
さくらカードに変える時は杖の羽から背中に羽を移した。クリアカード『フライト』では
蝶のように空を舞い、ミラーでコピーして小狼すら一緒に飛んだ。
 全ては『特別な』ことだ。人間は飛べない、自分の力では決して。心から『空を飛びたい』と
思う人にとってそれはあまりに理不尽で、差別的で、屈辱的な能力。
魔力に選ばれた一握りの人間だけが成し得る、理不尽で不公平な奇跡。

「李家に伝わる家訓の一つなの。自分がいかに特別な人間か理解するためのいい実例だ、って。
もっとも、私には必要なかったけどね。」
そう言ってペロッと舌を出す苺鈴。
「大事なのは、あなたがその力とどう付き合っていくのか、真剣に考える事。
ただダダ洩れにしてるだけじゃ、そりゃあちこちおかしくなっちゃうでしょ!」
0218無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:38:33.59ID:HRCjl+bE0
 その苺鈴の言葉に、さくらは呆然として顔を上げる。
「じゃあ・・・そうすれば未来を、変えられるの?」
「さぁね。」
背を向け、そっけなく言う苺鈴。そもそも魔力の無い苺鈴に、この魔法で超えてきた未来が
不変なのかそうでないのかなんて分かるはずがない。
「でもね、私だったら諦めないわ。」
「え?」
「私には魔力が無い、だから空は飛べない。だったら空を飛ぶより速く走って、彼らより早く
目的地についてみせるわ。」
 さくらの心に、苺鈴の思いが染み渡る。どんな理不尽にも諦めない、その強い心が。
「さくらはどうなの?諦めてこの未来を受け入れる?それとも・・・」
振り向いて言う苺鈴に、さくらの目の前が開ける。そうだ、私の前にどんな困難にもめげずに
挑める人間がいる。手本にするべき、指針となるべき友達が。
「苺鈴ちゃん、ありがとう。私、やってみる。小狼君も、秋穂ちゃんも、そして私も助けられる世界を。」

 もう迷いはない、やるべきこと。それを成し、帰る。

−絶対、だいじょうぶだよ−
0219無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:39:05.52ID:HRCjl+bE0
 詩之本家、砕け散った『夢の杖』の周りに駆け寄り、全員が驚きの表情を見せる。
「これは・・・」
エリオルが嘆く。と、その上に浮いていたクリアカード『フューチャー』が、その輝きを失い
1枚のカードに戻って、ひらりと床に落ちる。
「大変なことになりました。」
目の前の現実に愕然としながら、エリオルは続ける。

「どういうことだ!」
桃矢が問う。杖が失われ、カードが発動を終えたことが、最悪の結末を予感させる。
「このままでは、さくらさんは・・・二人は戻ってこられません。」
「何ですって!?」
驚きの言葉を上げる苺鈴、他の全員も悪い予感を隠せない。
「どうすればいい?」
小狼の問いに、しばし考え込んで答えるエリオル。
「誰かが未来に行って、連れ戻すしかありません。」
「未来へ・・・どうやって?」
小狼の問いにエリオルが返す。
「まず、さくらカードを元に戻します、準備を!」

 小狼は一度アパートに戻り、さくらカードの精霊が宿るクマのぬいぐるみを取ってくる。
雪兎は再びユエに戻り、預かっていたさくらカードの「原紙」ともいえる透明なカードを持ってくる。
再び詩之本家、床にカードを並べ、小狼が精霊を一気に開放する。
「あまたの精霊たちよ、汝らのあるべき姿に戻れ、さくらカードっ!」
エリオルが杖で精霊たちを照らす、それにこたえて精霊たちは、それぞれのカードに戻っていく。
0220無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:39:42.66ID:HRCjl+bE0
「ふぅ。」
「くっ・・・」
膨大な魔力を使ったエリオルと小狼は、その場にへたり込む。
「それで、これからどーするんや!さくらカードに未来にいくカードなんかないで。」
そのケロの質問に答えたのは、エリオルではなく観月だった。
「でも、その反対の能力を持つカードならあるわ。」
「そらまぁ・・・リターン(戻)ならあるけど、過去に行ってもしゃあないやろ!逆や逆!」
そこまで聞いて、あ!という表情でエリオルを見る小狼。

「ミラー(鏡)のカードか!」
分身を生む、光を跳ね返す等、さまざまな鏡の能力を持つミラーのカード。
その能力を応用して、過去に戻るリターンの能力を反転させ、未来に送ることが狙いだ。
「しかし・・・」
果たして本当にそんなことが可能なのか、仮にできるとしても、ミラーを使う者、リターンを使う者
そしておそらく時間を制御するためタイム(時)のカードも必要となるだろう、それを使う者も。
 いずれのカードも相当な魔力が必要となる。言うまでもなく、ケルベロス、ユエ、スピネル、そして
ルビー・ムーンの4人は自分でカードを使うことは出来ない。まして今、エリオルと小狼は膨大な魔力を
消費したばかりだ。

「リターンは私と歌帆が担当します。」
エリオルの言葉に頷く歌帆。膨大な魔力を必要とするリターンは、今のエリオル一人ではきついらしい。
「タイムは・・・相性の良い李小狼、いけますか?」
その問いに小狼は力強く頷く。さくらを助けるため、出来ることは何だってやる決意だ。
「あとはミラー・・・」
そう言って、桃矢の方を見るエリオル。
「さくらさんのお兄さん、お願いします。」
0221無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:40:11.74ID:HRCjl+bE0
「えっ!俺?」
驚く桃矢にこくりと頷く。
「あなたとミラーには何か『縁』を感じます。ユエ、彼のサポートを。」
「分かった。」
そう言ってミラーのカードを広い、桃矢に渡す。
赤いリボンが巻かれた少女の図柄を見て、やれやれと息をつく。
それぞれがカードを持ち、向かい合って立つ。

「で、誰が未来に行くんや?」
そのケロの言葉に全員が硬直する、その人選が抜けていた。
本来ならリターンを使う二人が行くのだろうが、これはさくら達を『呼び戻す』ための時間飛翔だ。
リターンのカードはさくら達を引き戻すためにも使い続ける必要がある。
人間でないケロ、ユエ、スピネル、ルビー、そしてモモはカードで飛ぶことは出来ない、となると・・・

 全員が注目する、知世と苺鈴に。
「じゃあ私が・・・」
いそいそとビデオを用意する知世に、苺鈴が平手でツッコミを入れる。
「大道寺さんはダメ!財閥の令状が帰ってこられなくなったらオオゴトでしょうに。」
「ですけど・・・」
「私はいいの、これで結構自由な立場だし。それに・・・他にも理由はあるしね。」

 桃矢の手の中でミラーのカードが発動する。桃矢の背中にはユエが付き、体内の魔力の流れを
調整している、かつて桃矢の力を受け継いだユエだからこそ出来るサポート。
具現化したミラーは、桃矢を見て少し嬉しそうに微笑んだ後、正面のリターンのカードと、
それを使うエリオル達に向き直る。
 次に歌帆がリターンを発動、ミラーはそれを鏡に映し出す。その正反対の能力を持つカードとして。
そしてエリオルがその鏡に映ったさくらカード『フューチャー』に手をかざす。小狼もまた
時間制御のため、カードに剣を突き立て、発動させる。
0222無能物書き
垢版 |
2019/03/21(木) 23:40:47.32ID:HRCjl+bE0
「フューチャー!」
「タイム!」
3枚のカードの真ん中にいる苺鈴が、3方からの魔力を受け、うっすらと消えていく。
それを見た知世が苺鈴に叫ぶ。
「苺鈴ちゃん!」
振り向く苺鈴、知世はその顔を見て言葉を続ける。
「他の理由って、いったい何ですの!」
親友の言葉に、苺鈴は手を挙げて返す、消える直前に。

「ずっとさくらに言いたいことがあったのよ、じゃあ、行ってくるわね!」
0223CC名無したん
垢版 |
2019/03/22(金) 01:47:26.05ID:HXwfwRoL0
読みたかったパーツがまるで導かれるみたいにはまってく。繋がっていく
どこが無能やねん
有能すぎるわ
0224CC名無したん
垢版 |
2019/03/22(金) 02:13:02.51ID:dcKqOXCq0
アニメ劇中のあの音楽と効果音が頭の中で再生される
デデデデッデデデデー♪
0225CC名無したん
垢版 |
2019/03/22(金) 10:06:36.80ID:Xo8o9GLu0
大川七瀬がこれ読んだら感服するレベルやんけもうこれ
0226無能物書き
垢版 |
2019/03/24(日) 01:04:24.27ID:5OxW+Yck0
>>223-225
ここは無能をおだてて木に登らせるインターネッツですか?いや登るけどw
>>223
ロジックが多いとそのへん苦労しますが、わりとうまく収まりそうです
>>224
1話1話、アニメの1話またはA,Bパートを意識して書いてます、脳内BGMが付くと嬉しい
>>225
いやいや、後出しの二次創作など相手にせず突っ走ってほしいものです

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第21話 さくらとアリスの本の秘密

 さくらと苺鈴は歩く。時の回廊を、とりとめもない思い出話をしながら。
初めて会った時、水に落ちたさくらが、苺鈴が小狼にプレゼントした服を着ていたこと。
香港に来た時、またも水に濡れたさくらが今度は小狼の実家で着替えたこと。
 揚げ物の授業の時、パニックに陥った時に危険を顧みず火を止めてくれたり
ミラーの騒動の時に非行に走ったと勘違いされて叱られたこと。
ビッグのカードの時の巨大さくらの戦いが特撮的で楽しかったこと、
 体育のマット運動で、マラソンで、ケーキ作りで、ゲーセンのモグラ叩きで
いつも張り合ってたこと。

 そして、時間を違えて同じ人を好きになったこと。
0227無能物書き
垢版 |
2019/03/24(日) 01:05:14.59ID:5OxW+Yck0
 魔力の有無を除けば、私たち結構似てるのかな、という話になる。
「そういえば、本物の詩之本さんもさくらに似てる、って言ってたわよね、あの人。」
「うん、おっとりな秋穂ちゃんからは想像できないけど・・・」
「もしそうなったら、今度は3人で競争かしら?」
あのお嬢様気質な秋穂が、苺鈴もかくやな態度でさくらたちの勝負に参入してくる姿を
想像して、二人で笑う。
「案外、どおりゃあー!とか言って月面宙返り決めたりして。」
「ぷくくくっ・・・ちょっと苺鈴ちゃんやめてよ、想像しちゃった・・・」
それはそれで楽しそうだ、とさくらは思う。秋穂に宿ったアリスは確かにさくらに
似ていたところがあったが、どちらかというとふんわりな部分が、いや今は苺鈴と一緒だから
ぽややんな部分が似ていたから、そういう部分も似ていたらさぞ楽しいだろう。

「その為にも、彼女を助けないとね。」
「うん。それで、できればアリスちゃんも。」
と、苺鈴がその足を止める、その先には下に降りる階段。
「終点みたいね。」
「うん、先の道が無い・・・海渡さんもここから降りたのかな?」
「多分ね。しっかしさくらって、おばあさんになっても美人よね〜、羨ましい。」
「ほぇ?」
ふと自分の頬に手を当てるさくら。そのほっぺたも手の平もしわしわなのに今更驚く。
「ほぇえぇぇっ!私、おばあさんになってる!」
「気付いてなかったの?」
「でもでも、苺鈴ちゃんはそのまんまだし・・・」
驚くさくらに、少し考えて答える苺鈴。
「あー、多分『来た方法』が違うからかもね。」
0228無能物書き
垢版 |
2019/03/24(日) 01:06:26.77ID:5OxW+Yck0
「そうだったの・・・杖が。」
「さっきも試したんだけど、私は階段の下には降りられないみたい。上から見ることは出来るし
腕くらいは掴めるみたいだから、帰りたいときは腕を上に上げなさい、引っ張ってあげるから。」
「うん、じゃあ行ってくる!」
「あ、ちょい待って。一言いっとくけど・・・」
そう言って階段を降りようとするさくらを止める。

「その年で『ほぇー』は止めときなさい、似合わないから。」
「・・・ぷっ!あははははは・・・」
大笑いする二人。さくらは思う、苺鈴ちゃんが追いかけてきてくれて、ホントに良かった。

 さくらは階段を降りる。多分この先は目的の2072年、『時計の国のアリス』が完成した年。
秋穂とアリスの魂を開放する、その方法を探るためにここに来た。階段の最下段に立ち、
後ろの苺鈴を振り向いて手を上げる。笑顔で手を振り返す苺鈴。
 そしてさくらは、その階段の下に身を踊らせる。

−そこは、見たことのない風景。山岳地帯にある湖と、その脇に建つ古風な小屋−

 遠くには雪山、空気は澄み、冷たい。人の気配のない豊かな自然の中に、ぽつんと小屋がある。
さくらはその小屋の前に立つ。ここに来たということは、何か意味があるということ。
こんこん、とドアをノックするが、返事は無い。ノブに手をかけ回す、カギはかかっていない。
きぃ、という音を立ててドアを開ける。
0229無能物書き
垢版 |
2019/03/24(日) 01:06:58.34ID:5OxW+Yck0
 殺風景な小屋の中。その隅、窓際に机と安楽椅子がある、そこに座っているのは一人の老人。
さくらを見て、言う。
「・・・来ましたか、木之本さくらさん。」
痩せ型で白髪、精悍な表情が、かつてハンサムだったことを思わせる男性。
「私を、ご存知なんですか?」
さくらが返す。今は自分もお婆さんだ、その上で自分を知ってる人って?

「あなたのことはよく知っていますよ、ふたつの意味で。」
「ふたつ・・・?」
「ひとつは、この世界を崩壊に導いた魅惑の魔女として。」
「え、ええええっ!?」
なにかとんでもない評価を受けて驚くさくら。確かに見かけはお婆さんだが、心はいまだ
十代なのに魅惑とか魔女とか・・・あ!
 さくらは思い出す。自分の魔力が周囲に与えていた影響を。そしてそれが高校生になる頃には
世界を歪めてしまうまでになっていたことを。

「心当たりがあるようですね。」
安楽椅子を回し、さくらに正対して老人は言う。
「世界って・・・崩壊したんですか?」
さくらはこの時代はここしか知らない、今の世界がどうなっているのかは知る由もない。
「人類はね、貴方以外を愛せなくなったんですよ。」
「そんな・・・」
「もう40年くらいになりますかね、この世界に「赤ちゃん」がいなくなってしまったのは。」
老人は語る。さくらの発する魔力は世界中に生きわたり、世界人類すべてがさくらを愛するように
なってしまった。男も女も、若者も老人も子供も、その子供が大人になってからも。
「誰も結婚しない、誰も子供を産まない、ただただ貴方の虜になって生きるだけの存在。
社会は機能しなくなりました。そして、繁殖を忘れた人類は、あと70年もすれば滅ぶでしょう。」
0230無能物書き
垢版 |
2019/03/24(日) 01:07:30.02ID:5OxW+Yck0
 さくらは愕然とする。前に降りた時代ですら小狼を失い、身の回りの人間関係は壊れていた。
千春と山崎はただのクラスメイトになり、利佳はかつての好きな人を忘れたかのように
さくらに好意と恋の目を向けていた。
それが今では、人類全てが?
 一瞬気落ちしかけて、ふるふると首を振る。いけない、めげてちゃ駄目だ。
ついさっき苺鈴ちゃんに言ったばかりだ、こんな結末を変えるんだ、私が。

「そして、もうひとつの意味で、私はあなたを知っています。」
老人が続ける、さくらから視線を外さず、かつ、さくらの魔力に魅了されていない目で。
「私と一緒に、時を超えてここに来た人間として、です。」
「ええっ!そ、それじゃあ・・・あなたは」
老人は頷き、さくらを見据えて言う。
「ええ、ユナ・D・海渡です。」

 彼は二年前にここに来て、この時代の自分と融合し記憶を共有する。そしてさくらが来るまで
彼はここで待っていた、やるべきことを進めながら。
彼は机の上にある本をさくらに見せる。見覚えのある表紙、忘れられない色、作り、サイズ、厚さ
そして、その本のタイトル。
「時計の国のアリス!海渡さん見つけたんだ!!」
 この本の秘密を解き、秋穂の魂を救う。その為に二人は時を超え、この時代にまでやってきた。
「見つけたのではありませんよ。」
「・・・え?」
その次の言葉が、この本の謎を雄弁に語る。
「この本は、私が書いたんです。」
0231無能物書き
垢版 |
2019/03/24(日) 01:08:02.47ID:5OxW+Yck0
「先ほども言いましたが、この世界はあなたへの愛で壊れてしまっています。」
海渡は語る。彼の目的は変わらない、秋穂を救うこと。
しかしその対象は全く違うものになっていた。
「私は、秋穂さんが好きでした。いえ、好きになろうとしていた、というべきでしょうか。」
彼は秋穂が7歳の時、詩之本家に行き、秋穂に出会った。自分が使うべき『魔法具』として。
それは言い換えれば、彼女とこれから長い時間を一緒に過ごすということ。
「気持ちの良い娘でした。私は昔、人と違う力を持つゆえに暗く歪んでいたんです。
でも、彼女はそれを自然に癒してくれた。その明るさで、笑顔で。」

「いつしか私は、秋穂さんを好きになってしまっていました。おかしいですよね、まだ彼女は
10歳にもなっていなかったのに・・・」
 さくらはふるふると首を振る。知っている、『好き』に年齢は関係ない。かつてのさくらと雪兎のように
先生と生徒で想い想われる仲であったクラスメートのように。
「そして、あの事件が起きました。秋穂さんが本に魂を奪われる事件が。」
ひとつ区切って、意を決して続ける。
「あれは、『今の』私の仕業なんです。」

 この時代に来て、さくらの魔力で壊れたこの世界で、海渡は事件の真相を知る。
あの本は人の魂を食らう本ではない、理不尽な魔力から人の魂を守るシェルターであることを。
「私は、耐えられなかった。秋穂さんが、貴方の虜になることが・・・だからこの本を作ったんです。
時を超えて、貴方がその魔力を撒き散らす前に、秋穂さんを救うために。」
「私の・・・魔力から守るために?」
「ええ、私は秋穂さんを欲した。秋穂さんの心が貴方に奪われるのを止めたかった。
いいえ、本当は私が秋穂さんの『いちばん』になりたかったんです。」
 だから彼はこの本を作り、過去に送る。さくらが魔法に目覚めるその前の時代に。
秋穂やさくらが9歳の時代、さくらがケロと出会い、クロウ・カード集めを始めるその時代に。
0232無能物書き
垢版 |
2019/03/24(日) 01:08:35.28ID:5OxW+Yck0
「この本の中には世界があります、私が魔法で作った世界が。閉じ込められた秋穂さんが
寂しくないように・・・いつか私の魂と出会えるその時まで。」
「じゃあ・・・アリスさんは?」
「彼女も、私が作った魂です。秋穂さんとの思い出と、私の彼女に対する想いを込めて。」
さくらは納得する。知り会った秋穂は、その心の中にあるアリスの魂は、常に海渡に恋していた。
それは海渡が秋穂を想う恋心そのままだったのだ。
 本の中に世界がある以上、その中に登場人物は必要だ。アリスを作り、モモを作って
秋穂がその本に入るまでその本を生かせていた。

「この本の中には、もうすでに秋穂さんが入っています、アリスもね。」
さくらから視線を外し、外の窓を見て、こう呟く。
「あとは、私が死ぬだけです。そして、私の魂がその本に入ることが出来れば、再び出会えます、彼女と。」
「・・・そんな!」
さくらは叫ぶ。そんな恋なんて可哀想だ、終わった世界で本の中に閉じこもって一緒になっても
そんなのきっと幸せじゃない。

「海渡さん!」
さくらは海渡に詰め寄り、胸に手を当てて宣言する。
「私、もう決めたんです。世界をこんな風にしないようにやり直すって!」
その言葉にうつろに振り向き、さくらを見て自虐的に笑う。
「無理ですよ、未来を見た以上、その運命は変えられない。もう夢の杖は失われたんですよ。
私たちはもう、あの時代には帰れないんです。」
知っている、夢の杖がもう砕け散って、フューチャーのカードが発動を終えていることを。
だけどさくらは諦めない。自分一人の力じゃどうにもできないことも、一緒にやってくれる人がいることを。
0233無能物書き
垢版 |
2019/03/24(日) 01:09:07.18ID:5OxW+Yck0
「海渡さん、秋穂ちゃんともう一度会いたくないですか?こんな世界じゃなく、あの頃に戻って。」
さくらの真剣な提案に、海渡の瞳にわずかに光が灯る。
「もし、もしも海渡さんがそれを望むなら・・・手をあげて下さい、力いっぱい。」
 さくらは両手を天高く突き上げる。
その姿を見た海渡は、そのさくらの意思と決意を感じ取り、立ち上がる。僅かな奇跡を信じさせる
そのさくらの瞳を見て。
「さぁ!」
さくらが再度即する。立ち上がった海渡は、もうすっかり年老いたその腕を、高々と天に掲げる。
夢見た、もうかなわないと思っていた夢を、今だけは信じて!

 さくらの手が、海渡の手が、ぱしっ!と捕まれる。その上から現れた手に。
「な・・・」
「海渡さん、その手につかまって!」
捕まれていないほうの手で、その手を掴むさくら。海渡もそれにならい、その手を掴む。

「いいよ、苺鈴ちゃん!」
0236無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:29:56.23ID:xBsJFseB0
>>234
胸熱展開は作者の力量が問われますよね・・・もっとセンス欲しい
>>235
ここからクライマックス突入です、願わくば最後までお付き合い願います。

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第22話 おかえり、さくら

「ぜはーっ、ぜはーっ・・・もう!二人まとめて、引っ張り上げさせないでよ!」
階段の一番下でへたりこみながら抗議する苺鈴。
その際にさくらと海渡がいる。さくらは申し訳なさそうに、海渡は驚きの表情で。
「あはは、ごめーん。」
手を合わせて謝るさくら。そんな二人に海渡が呆然として、問う。
「李苺鈴さん・・・あなたが何故、どうやって?」
息を切らしながら、その質問に答える。
「そうね・・・頑張って来た、とでも言っとくわ。」

 ふぅ、と息を正し、立ち上がって二人を見て言う。
「それで、詩之本さんを助ける方法は見つかったの?」
「え!?あー、何というか、その・・・」
言葉を濁すさくら、海渡が現状を代返する。
「こちらが聞きたいくらいですよ。」
その返事にがくっ、と体を傾ける苺鈴。
「何しに行ってたのよ!」
「あはは、でもなんか、何とかなるような気がするの。」
ふっ、と笑ってさくらを見る苺鈴。相変わらずこの娘は・・・おばあさんだけど。
0237無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:30:33.38ID:xBsJFseB0
「ま、いいわ。それじゃ帰るわよ、二人とも。」
行って階段を上がり、時の回廊に戻る苺鈴たち3人。
「でも、どうやって?」
時の回廊は、さくら達が歩くたび、歩いた後が消えて行っていた。進むことは出来ても
後戻りはできない道。現に階段の上は、もう踊り場くらいのスペースしか残っていない。
「何が?」
理解できないといった表情で苺鈴が返す。
「道、あるじゃない。あれを辿っていけば帰れるでしょ?」
苺鈴が示した先、さくらと海渡には空間しか見えない。が、苺鈴には何かが見えているようだ。
「私たちには見えないんですよ。多分、夢の杖が壊れて、フューチャーのカードが
発動していないから、過去と私たちの『縁』が切れているのでしょう。」

 ふむ、という顔で考える苺鈴。縁、ねぇ・・・
魔術の家に生まれた苺鈴にとって、その言葉は馴染み深い。魔術を使う際も、人間構成も。
「んじゃ、手をつないでたら大丈夫なんじゃない?」
そう提案する苺鈴。彼女は帰れるが、さくらと海渡は帰れない。だったら3人が手をつないでいたら
帰れる苺鈴の『縁』に引っ張られて二人も帰れるかもしれない。
 両手をさくらと海渡に差し出す苺鈴。さくらはすっとその手を取る。海渡は少しためらいながら
その手にそっと触れる。それをぐっ、と握り返す苺鈴。

「じゃ、行くわよ!」
両手で二人を引っ張ってダッシュする苺鈴。さくらと海渡は足元のない空間に引っ張り込まれる。が、
そこには床が確かにあった。白と黒のタイルで構成された時の回廊が。
あるいは、杖が壊れたことで『もう戻れない』という思い込みが、二人にこの回廊を見せないで
いたのかも知れない。
0238無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:31:31.55ID:xBsJFseB0
 3人は走る、過去に向かって、戻るべき時に向かって。
彼らが通り過ぎた後、その回廊はまるで積み木のように、ガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
まるでもう役目を終えたかのように。
 過去に走るたびに、さくらと海渡は若返っていく。50代、40代、30代・・・そして20代。
そして最初にさくらが下りた階段の際を通過する。小狼が処刑されたあの時代。
あんな未来にはさせない、絶対に!
さくらは通り過ぎながら、決意を新たにする。

 やがて苺鈴が声を上げる。時の回廊がそこで途切れている。その先に向かって掛け、飛ぶ。
「いくわよっ!」
苺鈴が、3人が飛ぶ。何もない空間に向かって、未来を変える決意、その先に向かって。
回廊の先、その下に落ちる3人。足元の霧を突き破り、抜ける。

−そこにあったのは、翼−

 3人は落下する。その『翼』の上に。
「ぐはあぁぁぁぁっっ!」
翼と、その翼の持ち主がクッションになって、3人は無事軟着陸する。
代わりに3人に下敷きになったその翼の持ち主が、いきなり潰されたことによる悲鳴を上げる。
さくらは周囲を見渡す。そこにあったのは懐かしい顔、顔、顔。

「さくら!苺鈴!」
「さくら!」
「さくらちゃん、苺鈴ちゃん!」
「主(あるじ)!」
「木之本さん、李さん!」
0239無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:31:59.91ID:xBsJFseB0
 小狼、桃矢、知世、ユエ、観月、エリオル、なくる、スピネル、そしてモモ。
そしてこの場所、あの懐かしい詩之本邸、さくらたちが未来に旅立った、あの部屋。
・・・あれ、誰か足りない?
「ぐ、ぐおぉぉ・・・早よどかんかいっ・・・」
彼らの下敷きになっているのは、本来の獣の姿に戻っているケルベロス。
「こ、こらエリオル、わいに『ここに居(お)れ』つったのは、このためかい・・・」
3人に下敷きになったまま抗議の声を上げるケロ。エリオルはまぁまぁ、という表情で
片手でケロをたしなめる。もう片手で操っていたカード『ミラーに映ったリターン>フューチャー』を
停止させる。

 桃矢も、小狼も、さくら達が無事帰ってきたことを確認し、発動させていたカードを停止させる。
よかった、みんな無事に帰ってこられた。安堵する一同。
と、そんな中さくらは、小狼を正面に見据え、目を潤ませる。
「さくら・・・?」
小狼の問いにさくらは答えない。代わりにその表情はどんどん崩れていく。
感極まってしゃくり上げ、涙をとめどなく落とす、その顔をくしゃくしゃに歪めて。

 それを見て、苺鈴がぽんっ、とさくらの背中を押す。その瞬間に決壊するさくらの感情。
「うわあぁぁぁぁぁん!」
泣き叫び、小狼に駆け寄り、抱き着いて泣く、泣き叫び、愛しい人の名前を呼ぶ。
「小狼君!小狼君だよね、小狼君だ・・・うわあぁぁぁぁん!」
「ど、どうした!?」
小狼の胸にすがり付き、声をあげて泣く。さくらが今の今まで失っていたその顔、体、
そして温もり。
 頭の中でさえほぼ丸一日、彼の死後の世界を過ごしてきた。ましてその体は、小狼がいない世界を
50年以上経験していたのだ。
 愛しい人を、心が、そして体全体が求める、感動する、そこにいる喜びをかみしめる。
小狼君。その言葉が、その存在がさくらの世界を変える。なんて素敵な世界なんだろう、
彼がいる世界が、生きていることが、彼の温度を感じることが、そのすべてがさくらを幸せに浸し、泣かせる。
0240無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:32:27.46ID:xBsJFseB0
「おかえり、さくら。」
小狼はそっとさくらの頭を撫でる。彼にはさくらがどんな経験をしてきたかは分からない。
だけど、さくらのその感極まった態度が、未来の旅の過酷さを物語っていた。
「大丈夫だ、俺はずっとここにいるよ、さくらのそばに。」
その一言に、小狼の胸に顔をうずめながら、うんうんと頷くさくら。
「約束だよ・・・本当に、ずっといてね。いなくなったり・・・しないでね。」
ああ、と頷く小狼。

 そんな光景を見て、皆、優しい笑顔を向ける。まぁ知世は恍惚の表情でビデオを向けてるし
桃矢は怒りの血管を頭に浮かべ、ちっ、という表情を隠さないが。
 それを少し距離を置いて海渡は見ていた。二人の姿を自分と秋穂に重ねる。
「羨ましいです・・・」
そう呟く海渡。彼らは無事再会を果たしたが、自分たちは未だ引き裂かれたままだから。

 さくらが、海渡が、真相を皆に語る。さくらの魔力によって壊れた未来。
『時計の国のアリス』が、秋穂を閉じ込めたのではなく、さくらの魔力から逃れるため
海渡がその魔力を惜しみなく注ぎ、生み出した本であること。
 ソファーに横たわる秋穂の体を見て、海渡はこう付け足す。
「結局、私のしたことはみんな裏目に出てしまいました。秋穂さんを幸せにしたいがために
したことが、結局彼女を不幸にしてしまいました・・・」
そんな海渡に、観月はこう語りかける。
「先を読みすぎなんじゃないかしら?」
その言葉に、え?という顔で振り向く海渡。
「今だけ幸せでもいいじゃない。とりあえず秋穂ちゃんの魂を元に戻しましょ。」
0241無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:33:01.88ID:xBsJFseB0
「しかし、いったいどうやって?」
その海渡の言葉に、さくらに問う苺鈴。
「さくら、なんとかなるって言ってたわよね。どうするつもり?」
「うん・・・海渡さん言ってたよね。この本の中には『世界』があるって。」
「え、ええ。」
「じゃあ、私たちがその世界に入って、秋穂ちゃんやアリスちゃんを連れ出せばいいんじゃないかな?」
出来るかどうかわからないけど、という表情で頬をかくさくら。
 その提案に全員が息をのむ。もともとこの本は『人の魂を閉じ込める』性質のある本だ。
そんな中に自分から入っていくなど、下手をすれば自殺行為だ。
「ダメだ、危険すぎる!」
そういう小狼の手をそっと取り、自分の胸にあてがうさくら。
「小狼君、一緒に行ってくれるよね。」
「え・・・」
「さっき言ってくれたよね、ずっとそばにいてくれる、って。」
「あ、ああ。」
その返事に満面の笑顔になるさくら。そして、無敵の呪文。

「だったら、絶対大丈夫だよ。小狼君がいっしょだもん。」

「しょうがないわね、ここは私が一肌脱ぎますかね〜」
そう言ったのはモモだ。彼女はもともとこの『時計の国のアリス』の登場人物。
そして有名作品『不思議の国のアリス』における案内人のウサギにあたるキャラクター。
「私が案内してあげるわ。ただし、その世界に入る方法はそっちで考えて。」
入る方法、そんなものがあればとっくに海渡が秋穂の魂を救っていただろう。
秋穂に取り付いていたアリスの魂を返す時は『スピリット』のカードを使ったが
夢の杖を失った今、その方法は使えない。
0242無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:33:28.30ID:xBsJFseB0
「その本の入り口は、太陽の魔力と月の魔力で封印されています。入るためには、
その両方の魔力で封印を解く必要があります。」
海渡が語る。小狼の魔力は月のそれだが、さくらの魔力は太陽ではなく星の魔力だ。
しかもさくらはともかく、小狼の魔力では、とても晩年の熟成された海渡の魔力による封印を
破ることは出来ないだろう、難題に沈む一同。

「この世に偶然は無い、全ては必然、だったな、柊沢。」
口を開いたのは桃矢だ。全員が思わぬ発言に注目する。
桃矢は、やれやれ出来すぎだ、という表情で頭をかいて、続ける。
「明日、満月だぞ。」
全員があっ、という顔をする。確かに明日は『中秋の名月』。月の魔力が飛躍的に伸びる特異日。
かつてのユエの『最後の審判』の日がそうであったように。
ひとつの問題、小狼の魔力不足がまず解決する。

「いけるで!満月の日っちゅーんは、日没の直前に月が昇る。月と太陽が両方出てる時やったら
両方の魔力を最大に持っていけるで!」
ケロが言う。その瞬間ならあるいは、さくらと小狼で本の封印を破ることも可能かもしれない。
残る問題は・・・ひとつ。

「しかし、主の魔力はどうする。星の魔力では太陽の魔力の代わりにはならないぞ!」
ユエが最後の問題提起をする。それに対してケロはふふん、と言った表情で返す。
「ワイに任せや。ユエ、忘れたワケやないやろ、あのエリオルの最後の試練を。」
あ、という表情の後、アゴに手を当てて頷くユエ。
「なるほど・・・」
0243無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:33:55.68ID:xBsJFseB0
 そして翌日の午後、皆は再び詩之本邸に集結する。さくらは懐かしい星のペンダント『星の杖』を
胸に下げている。腰には昨日返してもらった『さくらカード』が入ったホルスター。
そしてその自然に横に立つ小狼。二人は顔を見合わせ、柔らかに笑う。
 海渡は『時計の国のアリス』を手に、申し訳なさそうに言う。
「本当は、私が行くべきだったのですが、未来の私の魔力で作った本に、今の私では入れません。
未来の私が書いた本の内容を、過去の私が訂正することは出来ないように。」
そんな海渡に、さくらはこう返す。
「大丈夫、海渡さんは秋穂ちゃんのそばにいてあげてください。秋穂ちゃんが目を覚ました時
いちばん近くにいてあげてほしいんです。」
「・・・分かりました。」

「しっかし、知世はどうしたんや?」
昨日のメンツの中で、知世だけがまだ来ていない。と、噂をすれば何とやら、大道寺家の
キャンピングカーが詩之本家の敷地に入ってくる。
その車を見た時、さくらには次の展開が予想できた。
「お待たせしました〜、さぁさくらちゃん、李君、特性コスチュームに着替えて下さいな〜♪」
・・・やっぱり。

 最初に連行されたのは小狼の方だった。出てきた彼が身にまとっていたのは、かつて彼が
纏っていた式服風のグリーンのデザインに、西洋の燕尾服をミックスしたような衣裳。
東洋の魔術師風の印象と西洋紳士のイメージの両方を併せ持つ、凛とした伊達達ち。
 その姿にさくらの目がキラキラと輝く。いtもの小狼のカッコよさが2倍くらい増して見える。
「うわぁ、カッコいいっ!小狼君似合うよ〜。」
「さて、次はさくらちゃんですわ。」
堪能する暇もなく車内に連行されるさくら。ドアを閉め密室になると、知世はさくらに向き直り
改まった態度を取る。
0244無能物書き
垢版 |
2019/03/25(月) 23:34:19.97ID:xBsJFseB0
「知世ちゃん?」
おかしい。いつもの知世なら嬉々としてさくらの身だしなみを始めるのだけど。
 知世は肩に下げたポーチを開け、ひとつの小箱を取り出す。
さくらの目を見つめ、優しく語り駆ける。
「さくらちゃん、昨日おっしゃってましたよね。さくらちゃんの魔力が、周りの人を
好きにしてしまう、って。」
「あ、う、うん。」
さくらはそれが良くないことを知っていた。その先にあるのは破滅だったから。
「これを開けてみてくださいな。」
さくらに箱を渡す。どこかで見た箱、どこだったかな・・・思い出せないまま箱を開ける。

「あ・・・」
そこにあったのは、ウサギの形をした消しゴム。
「これ、覚えてる。知世ちゃんに最初にあげた消しゴムだよね。」
「はい。」
柔らかい笑顔で答え、続ける知世。
「私がさくらちゃんを好きになったキッカケですわ。」
「そうなんだ・・・あ!」
一瞬遅れて、さくらは知世の言いたいことを理解する。知世がさくらを好きなのは
決して魔力のせいなんかじゃない、と言うことを。
さくらと知世が、本当の親友であるという証。自分の魔力による洗脳に嫌悪感を感じていた
さくらにとって、その事実は救いだった。
「ありがとう、知世ちゃん・・・」

 昨日さくらが見てきた『未来』を語る時、さくらは本当に辛そうだった。
そんなさくらの為に、知世は本来なら生涯胸の内にしまっておこうと思っていた秘密を
さくらに打ち明ける。それでさくらの心が少しでも軽くなるなら、と。
0245無能物書き
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2019/03/25(月) 23:34:49.11ID:xBsJFseB0
「さぁ、それではお着換えタイムですわ〜♪」
「ありゃ!」
がっくりとコケるさくら。やっぱりソレは外さないのね・・・

「「おおーっ!」」
さくらの衣裳のお疲労目に、周囲が一斉に声を上げる。白を基調にした半袖のドレス。
胴の部分に金色のラインが入ったコルセットが巻かれ、胸には青紫のアクセントリボン。
スカートには骨組みに金のスリットが入っており、下に流れるように羽根が重なっている。
背中にあるのは、クリアカードでの空を飛ぶ『フライト(飛翔)』のような蝶の羽根。
頭の上には薄い王冠、白い手袋から肩までの間に限定された肌色がなんとも色っぽい。
小狼にの前に立つさくら。どうかな?とは問わない。彼のその表情が明々白々な返事だ。

 二人は旅立つ、これから、危険な旅に。魂を閉じ込める呪われた本の中に。
それでも、この二人の表情と、その衣裳を見ているとそんな不安は微塵も感じない。
「なーんか、これから新婚旅行にでも行くみたいねぇ〜」
 苺鈴の的を得た感想がすべてを物語っている。この先にあるのは、きっとハッピーエンドだけだ。
皆がそう信じていた。

 −そして、陽が傾き、月が出る−
0246CC名無したん
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2019/03/25(月) 23:45:50.39ID:mlC5RUXR0
うああ…。(°´Д⊂ヽ
おまえ天才やろ…
0247CC名無したん
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2019/03/26(火) 14:38:08.27ID:n6DsqNny0
今日暑いなぁ
目から汗がでるぜ・・・
0248CC名無したん
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2019/03/26(火) 17:01:35.24ID:NVEVVPnv0
ちゃんとさくらちゃんの声で聞こえる
0249無能物書き
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2019/03/28(木) 01:25:46.67ID:jtk3GfxC0
>>246-248
感想ありがとうございます。さて、11話に続いて書きたかった話、例によって長めです。
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第23話 さくらと小狼の円舞曲(ワルツ)

 紅に染まる詩之本家の庭。魔法陣と、その上には1冊の本。その『時計の国のアリス』
を中心に遠巻きに輪を作る、エリオル、観月、スピネル、なくる、桃矢、苺鈴、知世、
そして海渡とその脇のアウトドアチェアーにもたれて眠る秋穂。
 本の西側、夕焼けの中心に赤く火照る太陽を背中に、木之本さくらが立つ。
本の東側、昇ったばかりの赤紫色の満月を背に、李小狼が立つ。

「ほな、始めるで。さくら!」
「うん!」
ケルベロスに促され、さくらは胸のペンダントを外し、手に取る。『星の杖』を。
「レリーズ(封印解除)!」
いつ以来になるか、さくらが『さくらカード』を使うための杖の封印が解除される。
 ケルベロスとユエは顔を見合わせ、頷く。
「よっしゃ、いこか!」
「ああ。」
 そう言うとふたりの守護者は光り輝き、その身を霊体に変え、星の杖に吸い込まれる。
すると、星の杖が二人の力を宿し、大きく、荘厳なデザインに成長する。
 かつてのエリオルの試練、『ライト』と『ダーク』をさくらカードに変える時に
ケロとユエが行った方法。太陽と月の魔力を飛躍的に伸ばす力を杖に与える。
その代償は、目的が果たせなければ永久に杖の中に封じられる、というリスク。

 『時計の国のアリス』の中に入るには、月と太陽の魔力が必要となる。
しかしさくらの力は星の魔力。そこでケルベロスが杖の中に入り、さくらの力を
太陽の魔力に変換する役目を担う。同時にさくらに比して魔力量の劣る小狼の
不足分を補うためにユエも杖と同化したのだ。
0250無能物書き
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2019/03/28(木) 01:26:20.38ID:jtk3GfxC0
「ケロちゃんユエさん、待ってて。きっと、きっと秋穂ちゃんを助けて、二人を元に戻すから。」
さくらは杖を握りしめ、危険を顧みずにさくらに協力してくれた二人に誓う。
「大丈夫だ。さくらなら・・・」
そう言いかけて言葉を止める、そして言い直す小狼。
「俺たちなら、大丈夫だ。」
「うん!」
 この半年ほどで二人が学んだこと。それは一人よりふたりの力。助け合うこと、信頼し合うこと。
認め合い、力を合わせる。悩みも、思いも、ふたりで分かつ。その想いの頼もしさ。
 思いがすれ違う時、ふたりは自分の思いだけを抱え、悩み、落ち込んだ。
海岸でそれを話した。想い想われることの大切さ、対等の関係で助け合うことの喜び。
未来で小狼を失う経験をした。その彼がいまここにいることの頼もしさ、頼っていい存在の有難さ。

 さくらは星の杖を本の上にかざす。その杖を小狼も握る。そして・・・
「あ、ちょっと待って〜」
止めたのはモモだ。本の際にいた彼女はぴょんぴょんと跳ね、ビデオを構える知世のもとへ。
「それ、貸してくれない?」
「えっと・・・ビデオですか、どうしますの?」
言いながらもモモにビデオカメラを渡す知世。
「これで中から中継してあげるわ、お楽しみに〜。」
ふふん、と笑ってモモが本の際に戻る。その背に知世が声をかける。
「いい絵、お願いしますね。」

「さ、いいわよ。」
モモのその言葉に、さくらと小狼が周りの皆を見回し、言う。
「じゃあ、行ってきます。」
「必ず助け出す!」
二人は向かい合って握った星の杖を上に掲げ、半回転して杖の先を下に向ける。その先の地面には本。

「「『時計の国のアリス』よ!我らをその世界に導け!」」
0251無能物書き
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2019/03/28(木) 01:27:10.28ID:jtk3GfxC0
魔力をこめ、杖を本に打ち付ける。その瞬間、本が輝き、光の仗が立ち昇る。
さくらと小狼は、ふたりで星の杖を握ったまま、その光に包まれる。
「それじゃあ、Let`s go!」
光の中、モモのその言葉を残し、二人は消える。やがて本から発せられていたの光の仗が収まる。
ことっ、と地面に落ちる本。皆が駆け寄り、本に注目する。

 すると、本は自然に表紙を開き、そこから淡い光を発する。
と、その本の1mくらい上に、まるでVR(バーチャルリアリティ)のような立体映像が浮かび上がる。
 そこは緑の草原、そしてさくらと小狼が星の杖を握ったまま立ち、きょろきょろと周囲を見回す様が
映し出されていた。
「まぁ!」
知世が声を上げる。その映像の隅には、知世が見慣れたビデオカメラのデジタル表示。
「これ、あのウサギの仕業なの?」
苺鈴の問いに知世が答える。
「ええ、なかなかのカメラワーク、これは期待できますわ〜。」

「ここは・・・?」
周囲を見渡し、状況を確認する小狼。どこまでも続く緑の平原と青い空、風は心地よく
ふたりの頬を撫でる。
「ようこそ、時計の国のアリスの世界へ!」
モモがふたりにビデオカメラを向けながら、案内人さながらに言う。
「ここが・・・秋穂ちゃんはどこなの?」
ふっふーん、という顔をしてモモが返す。
「彼女たちはこの世界の最深部よ。あななたちはここ、つまりスタート地点から、
ステージごとの試練を乗り越えていかなければ、秋穂やアリスのもとには辿り着けないわ。

 その説明を聞いたさくらが頬をかき、呆れ汗を流して言う。
「なんか、テレビの番組によくあるよね・・・そういうの。」
がくっ、とコケそうになるモモに、小狼がフォローを入れる。
「面白そうだな、そういうのやってみたかったんだ!」
キラキラした男の子の目で語る小狼。もう彼にさくらの前で自分を隠す必要はない。
0252無能物書き
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2019/03/28(木) 01:27:51.22ID:jtk3GfxC0
「じゃ、じゃあ最初の試練〜あそこまで行って。」
モモが指さしたのは斜め上、空の上だった。そこにはなぜか薄い大地が空中に浮いて、その上には
荘厳な西洋の城が鎮座していた。
「わ!お城が飛んでる。」
「あそこに行けばいいのか?」
こくりと頷くモモに、小狼はさくらを見て促する。さくらはホルスターから1枚のカードを抜き取り、
放り投げて星の杖で打ち据える。

「フライ(翔)!」
さくらカードを発動させる・・・ハズだった。しかしカードはなんの反応も示さず、その場にはらり、と落ちる。
「え・・・どうして?」
その言葉にモモはやれやれと手を広げる。
「ここの世界に来る時、どうやったか忘れたのかしら?」
その言葉に顔を見合わせるさくらと小狼。確かふたりで杖を振るい、太陽と月の魔力で・・・あ!
「そうか、太陽と月、両方の魔力がなければ駄目なんだ。」
うん、と頷き、フライのカードを拾って小狼の隣に並ぶさくら。小狼は杖を握り、さくらと一緒に
声をそろえ、カードを打ち据える。
「「カードよ、我らをあの城まで運べ、フライっ!!」」

 さくらカードが発動する。しかしさくらの背中に翼は生えない。小狼にも、杖にも。
カードから発した光は一気に巨大な光の玉となる、そしてその光が消えた時、二人の前には
身の丈5メートルはあろうかという巨大な鳥が存在していた。
「なっ・・・!」
驚き、さくらの前に立ち構える小狼。だがさくらはその肩に手を置き、小狼の前に出る。
「フライさん!」
「え?」
嬉しそうな、そして懐かしい顔でその鳥を見る。さくらが最初に封印したクロウ・カード。
カードに戻すまでのその姿は、今目の前にいる巨大な鳥の姿だったから。
0253無能物書き
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2019/03/28(木) 01:28:25.95ID:jtk3GfxC0
「クエェッ!」
二人を見て、いななくフライ。頭を下げ背中を晒す。
「乗れって。」
「そ、そうか・・・」
さくらと小狼はその背中に乗る。フライは首を回し、ふたりが乗ったのを確認すると。
立ち上がり背筋を伸ばす。そしてぐぐっ、と体を縮めたたと思うと、一気に大地を蹴り、飛び上がる。
「「わぁっ!」」
両翼幅10mを超えようかというその巨大な羽根が、力強く、猛然と空気をかき回す。
嵐のような気流を巻き起こしながら、フライは空に進む。やがて風を受け、羽ばたきを止めて滑空、
上昇気流に乗ると、トンビのように旋回しながら舞い上がっていく。

「(なんだろう、この感じ・・・違う。)」
さくらは違和感を覚えていた。以前フライを封印する時も、こうやって背中に取り付いた経験がある。
しかしその時は、ここまで『飛ぶ』という行為を意識させる飛び方ではなかった。
魔法の力で、まるで泳ぐように空中を飛んでいた。その背中もそのときはあまり意識しなかったが
今ではその筋肉の力強さや、体温の温かさを感じるほどにリアルだ。

 やがて空の城に到着し、滑空して着陸する。いなないて降りるよう催促するフライ。
さくらと小狼は鳥の背中から降りる。と、フライはキューゥ、といななくと、地面を蹴り、
再びその身を大空に舞わせる。二人を残したまま。
「え?あ、フライさん!」
さくらは叫ぶが、フライはそのままどんどん遠ざかっていく。そしてその先には別の鳥の群れ。
フライはその鳥たちに合流すると、嬉しそうに鳴きながら彼らと空のランデブーをする。
サイズが違いすぎるため、若干他の鳥たちには迷惑そうではあるが。
「あはは、お友達だ。」
「ああ、そうだな。」
柔らかな表情でフライを見送る。そして城に向かう二人。
0254無能物書き
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2019/03/28(木) 01:28:53.24ID:jtk3GfxC0
 詩之本邸の庭。アリスの本。さくら達が城に到達したことで、ページが1枚めくれ、
次の立体映像が現れる。
「まずは1面クリア、ってとこかしら?」
なくるが言う。全員がそのファンタジーな映像を楽しんでいた、一人を除いて。
 柊沢エリオル、彼だけは顔を真っ青にして、その光景を驚愕の汗を流しながら見入る。

 その城の庭園、そこはまるで何年も手入れされてないような有り様だった。
草は生気無く、木々は花はおろか葉っぱさえつけていない。
城の入り口の門は固く閉ざされ、その上からいつのまにか居るモモがビデオを構えている。
「この門、開かないのかな?」
二人は門を触り、いろいろ調べてみるが、その門はそもそも開くようにさえ作られていない。
 モモが二人を撮影しながら声をかける。
「言うまでもないけど、ここの試練はこの城に入る事、頑張って〜」

と、さくらは門の鍵の部分に金属のレリーフを見つける。それは花の形をしていた。
ただ、それは『盛り上がっている』のではなく『えぐれている』彫り方のレリーフ。
ちょうどそこに花を埋め込むスペースでもあるかのように。
ふと、思いついたことを小狼に耳打ちする。彼はうーん、と考えた後、やってみるか、と答える。
「うん!このお庭もこのままじゃ寂しいし。」

 ふたりは杖を構え、カードを放り杖で打ち据える。もうすっかりおなじみのその姿は
ケーキカットのような共同作業に見えた。
「「庭園と鍵を花で満たせ!フラワーっ!!」」
ふたりの魔力を得、カードが発動する。が、花は出ない。代わりに一人の少女がカードから具現化する。
「フラワーさん!」
運動会に現れたその精霊。その時の姿そのままに彼女は現れると、さくらと小狼に向き直る。
そしてふたりの手を取ると、彼女はふたりを振り回すようにして踊る、庭園を。満面の笑顔で。
そして踊りながらフラワーは花粉のような粉を撒き散らす。その粉が舞った樹が、草が、次々と
花を咲かせていく。
0255無能物書き
垢版 |
2019/03/28(木) 01:29:25.10ID:jtk3GfxC0
「あははっ、すっごーい!」
「日本の昔話にこういうのあったな。」
踊りながらさくらが、小狼が笑う。庭園に花が咲き乱れ、死んだ城の玄関が生き返ったように明るくなる。
 やがて花で満たされると、フラワーは門の前まで行き、そこでその姿をいばらの枝を持つ草の蕪に変える。
そしていばらが伸び、そこから次々と咲くバラの花。そのうちの一輪の青いバラが、門のレリーフに
近づき、はまる。

 その時だった。ガキン!と何かが入ったような機械音がすると、その門が音を立てて開いていく。
その先には無数の歯車が回っている、機械仕掛けの時計のように。
「あらあら、ここもあっさりクリア?もうヒントいらないかもね〜」
ビデオを回しながらモモが言う。さくらと小狼はフラワーを見る。他の花と楽しそうに
咲き乱れるさまを見て、笑い合い、城の中に進む。

「一体・・・どういうことなんです!」
詩之本邸、突然叫ぶエリオルに全員が注目する。その普段見無い剣幕に、観月やなくるが驚く。
「どうしたの?」
エリオルは理解できないといった表情で、鼻から下を手で押さえてつぶやく。
「太陽の魔力と月の魔力を与えたとしても、こんなことは起こりえない、ありえません・・・」
そこで一度言葉を区切る、周囲の皆も次の言葉を待つ。
「カードに・・・本当の『命』を与えるなんて!」

 城の中、その廊下は動く歯車で埋め尽くされている。機械的なリズムを刻む回廊を進み
ひとつのドアに突き当たる。ドアを開け、中に入る二人。
 ばたん!入るなりいきなり背後のドアが閉められる。小狼が慌ててドアに取り付くが、
いくらノブを回してもビクともしない。
「小狼君、あれ!」
さくらが上を指さして叫ぶ。立方体のその部屋の天井が下がってくる、ゆっくりと。
「吊り天井!」
古来の城などの罠としてメジャーな仕掛け。このままでは二人ともぺしゃんこだ。
0256無能物書き
垢版 |
2019/03/28(木) 01:30:07.11ID:jtk3GfxC0
 さくらは1枚のカードを取り出し、小狼と共に杖を振る。
「「天井を押し返せ、パワー(力)っ!」」
カードが発動する。現れたのは一見どう見ても、このピンチには役に立ちそうにない
5歳くらいの可愛い女の子。彼女は二人に笑顔を向けると、むん!とガッツポーズを作る。
「あれ、お願い。」
迫りくる天井を差すさくらに、うんうんと頷くパワー。
ぐっ、としゃがみ込んで力をためると、そこから一気に大ジャンプ!天井にもろ手突きを食らわすと
下がっていた天井が上に向かって吹き飛んだ。まるで発砲スチロールのように。

 頭上には青い空と、吹き飛んだ天井を繋いでいる鎖が見える。パワーはその鎖を辿って
巻き取り機の歯車に取り付くと、今度はその歯車と力比べをはじめる。
周囲には調速機や振り子など、パワーが力比べをする道具がいくつも稼働している。
パワーは楽しそうに、様々な機械と力比べをする。
「楽しそうだねー。」
「行こうか。」
とりあえず先を急ぐさくらと小狼、目の前に現れた階段を斜めに上っていく。

 階段の先には、また部屋があった。今度は罠にかからないように慎重に入る。
そこはテーブルのある小さな部屋だった。机には『eat me』と張り紙がしてある。
その脇には大き目の皿がふたつ、その上には灰色の、三角形の食べ物が湯気を出して鎮座していた。
「こんにゃく?これを食べればいいのか。ここは簡単だな・・・さくら?」
 さくらは目を点にして石化していた。よりによってここで天敵のご登場とは。
「もしかして、こんにゃくが苦手なのか?」
さくらは涙目でこくこく頷く。少しでも苦手なのに、よりによって一皿で電話帳大の特大こんにゃく!

 さくらは一枚のカードを取り出し、小狼に懇願する。
「小狼君、お願い〜」
そのカードを見て笑い、さくらに返す小狼。
「好き嫌いはよくないぞ。」
とか言いつつ杖を握る小狼。さくらは、『やっぱり小狼君優しい』と困り笑顔を向けるが
実は小狼もこんにゃくは苦手だった、ただ躾の厳しい家の出なので、嫌いだからと残すのは許されないから
さくらほど無理ではなかったのだが・・・
0257無能物書き
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2019/03/28(木) 01:30:38.31ID:jtk3GfxC0
「「美味なる味を付けよ、スウィート(甘)っ!」」
小さな妖精のような少女が登場すると、その杖から粉をこんにゃくに振りかける。
かくしてこんにゃくはこんにゃくゼリーへと変化する、それを美味しそうに口に運ぶさくら。
「これならいけるんだけど・・・」
「帰ったらこんにゃく食べる特訓な。」
小狼もこんにゃくゼリーを頬張りながら、内心してやったり、と喜ぶ。試練とはいえこんなとこで
苦手なこんにゃくを食べたくはなかった。
「うー、小狼君、お兄ちゃんみたい・・・イジワル。」

 こんにゃくを平らげると、出口のドアが現れる。それを開けると・・・そこは、空。
ドアの際には1台のトロッコ、そこからレールが空中を縦横無尽に走っており、そのレールを辿っていくと
向かいの城の塔の部分に繋がっている。これに乗って行けというのは間違いなさそうだが、これは・・・
「わぁっ、ジェットコースターみたい!」
キラキラと目を輝かせるさくら。これを小狼と一緒に乗る楽しい予感に胸躍らせて小狼を見る。
そこには、見事に石化した彼氏がいた。
「え”、もしかして小狼君、ジェットコースター、苦手?」
真っ青な顔でこくこく頷く小狼。さくらカードの入ったホルスターを借り、探る。
1枚のカードを抜き取り、さくらに示す。
「すまない、さくら・・・頼む。」

「「到着まで、彼(我)を眠らせよ、スリープ(眠)っ!」」
スウィート同様、妖精のような少女が登場し、小狼を眠らせる。さくらは小狼を抱えてトロッコに乗り
ブレーキレバーを解除し、トロッコを走らせる。
 猛スピードで上下左右に走るトロッコ。本来ならそのスリルを楽しみたいところだが、
小狼をしっかり抱えてないと、放り出されたら一大事だ。彼をぎゅっ、と抱きしめながら左右のGに耐える。
あ、スリルよりこっちの方がいいかも、と顔を赤らめて笑うさくら。

 スリープはスウィーツと、そしてパワーと合流し、こんにゃくの部屋で楽しそうに遊んでいる。
その映像は、本を通して詩之本邸のみんなにも見えている。
エリオルが彼らを、かつてクロウだった頃のの眷属を、信じられないものを見る目で眺め、言う。
「間違いありません、今の彼女らは、『生物』です。カードの精霊ではありません!」
0258無能物書き
垢版 |
2019/03/28(木) 01:31:07.91ID:jtk3GfxC0
 トロッコがゴールに到着する。かたん、と停止すると同時に小狼が目を覚ます。
「あ、着いたか・・・うわぁっ!」
露骨に抱き着いているさくらに驚き、声を上げる。
「あ、ゴメン。落ちるかと思ったから。」
へへっと笑うさくらに、顔を赤らめる小狼。
「い、いや・・・ありがとう。」
照れる顔をそっぽを向いて隠し、トロッコを降りる。さくらは思わぬ嬉しい時間にニンマリする。
こーゆーのを役得って言うのかな?

 その場所にはまるで駅のような標識があった。そこに書かれている文字は・・・
『お化け屋敷』
またまたさくらが石化する番が来た。

 二人は進む、『時計の国のアリス』の世界を。
お化け屋敷をイレイズ(消)で抜け、巨大な楽器が狂った音を演奏するホールはサイレント(静)で黙らせる。
綱渡りの部屋では、ライブラ(秤)を長いポールにしてバランスを取って渡り、
風車式のエレベーターをウィンディ(風)で回し、落とし穴をフロート(浮)で這い上がる。
トランプの兵隊が襲い掛かってきた時は、ファイト(闘)の助っ人と、ソード(剣)、シールド(盾)を
駆使して撃退する。

 そしてその際使われたカード達は皆、生物や道具として実体化し、思い思いにこの世界を楽しんでいる。

「ありえない・・・あのカードはあくまで精霊のはず・・・いくらふたつの、いや、星も含めて3つの魔力と
この本の魔力をもってしても、彼らに命と肉体と、そして寿命を与えるなどという真似は・・・」
エリオルは青い顔でブツブツと呟く。クロウの記憶をいくら探っても、その答えが見つからない。
聡明すぎる彼にとって、理解できない事態ということそのものに慣れない、混乱するエリオル。
0259無能物書き
垢版 |
2019/03/28(木) 01:32:09.07ID:jtk3GfxC0
 そんな彼を見て、知世と苺鈴はうふふ、と笑い合う。エリオルに語る知世。
「柊沢君、大事なことが抜けてますわ。」
「・・・え?」
「太陽の魔力と月の魔力を使う、『愛し合う男性と女性』の力ですわ。」
その言葉を聞いて、エリオルの目が点になる。
「は?」

「まぁつまり、あの二人の子供になった、ってワケでしょ、あのカード達は。」
「お二人の愛が生み出した、命を与えたというワケですわ。」
エリオルの眼鏡がずるりと半分落ちる。そんな馬鹿なことが・・・そう言い切るには、彼にも、そして前世の
クロウ・リードにも、恋愛経験も性愛経験も縁が無さすぎた。

「つ、つまり・・・戦いながら子作りしていると!?」
その言葉に知世と苺鈴は『まぁ♪』と顔を赤らめる。すぱんっ!とエリオルの後頭部をひっぱたく観月。
桃矢は桃矢で詩之本家の家壁にパンチをくれている。壊さないでくださいね、と海渡が釘を差す。

 さくらが、小狼が舞う。カードを使う。命を生み出す。
『時計の国のアリス』を舞台に、ふたりの魔法使いが、生命の円舞曲(ワルツ)を踊る。

不可能という言葉を、遥か遠くに置き去りにして−
0260CC名無したん
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2019/03/28(木) 15:09:20.90ID:Q4xBB+OO0
さくらちゃんが選んだ道なら絶対大丈夫だよ
0261CC名無したん
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2019/03/28(木) 21:18:58.65ID:gxausHsI0
最高じゃね?
最高ついでに二人のコスチューム絵も見たいわ
絵心もあるってことは知ってるしさ
0262CC名無したん
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2019/03/28(木) 22:42:35.73ID:DAkjtxmC0
53人の子持ちか…(しみじみ)

読みながらアニメで脳内再生されるくらい違和感ない傑作二次創作だと思います
毎回楽しませてもらってます執筆頑張ってください
0263CC名無したん
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2019/03/29(金) 07:07:17.26ID:nwsfNg830
桜さんとくまいさんの声で再生される
構成がアニメみたいだから音楽も流れる
是非ともコスが見たい
0264無能物書き
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2019/03/31(日) 18:18:16.35ID:72N8T1530
>>262
ありがとうございます。あと少しなので最後までお付き合いいただければ幸いです
ちなみに53人ではなくて・・・?
>>261>>263
だーかーらー、絵は苦手だってwまぁ書くけど。
つかさくらのコスはアニメのクリア編の前期OPのつもりだったんだけどなw

そんなわけで、ケロちゃんにおまかせ、その2!
http://imepic.jp/20190331/655910

・・・日曜潰れた、もう描かんぞorz
0266CC名無したん
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2019/03/31(日) 21:50:39.77ID:r2NqP+Ko0
私も好き!!w

乙でした、ありがとう!
0267無能物書き
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2019/04/03(水) 01:10:35.63ID:O+OhGSBb0
カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第24話 さくらと秋穂とアリスの心

 城を抜け、砂漠を潤し、山を駆ける。広大な『時計の国のアリス』の世界を
さくらカードを実体化させながら、次々と走破していくさくらと小狼。
森で追いかけてくる狼の群れをメイズ(迷)で振り切り、激流の川をフリーズ(凍)
で止める。ミニチュアの館が現れればリトル(小)で入り、出たらビッグ(大)で元に戻る。
巨大な振り子ハンマーが行く手をさえぎれば、ループ(輪)で反対側に来ないようにして抜け、
突然の地震はウッド(木)で止め、空から複数の太陽が照り付けた時はクラウド(雲)で涼を取る。

 詩之本邸。アリスの本がまた1ページめくれる。もう残りわずかだ。
映し出された新たな立体映像に見入る一同、その中で柊沢エリオルだけは相変わらず
訝し気な顔を隠さない。
「どうするつもりです・・・彼らが実体化したなら、それはもう人間でも生物でもない。
彼らはいわばUMAに相当する存在、カードであることを捨てて彼らが現代社会で
生きていく方法など皆無です。」
 確かに、今は情報化の時代。インターネットの地図で家や景色すら表示できる時代だ。
ましてや海渡が使っていたように、魔力のある存在を感知する魔法すら存在する。
エリオル達がかくまうにしても限度がある、カードは53枚もあるのだから
0268無能物書き
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2019/04/03(水) 01:11:01.95ID:O+OhGSBb0
 ごちるエリオルに、なくるが能天気に提案する。
「じゃあさぁ、この本の世界ので暮らせばいいんじゃない?広そうだし。」
「え?」
きょとんとするエリオル、その隣で観月がぽんっ、と手を打つ。
「名案よ、それ。」
そう言って海渡に向き直り、問う。」
「この本って、中に魂がいないと維持できないんでしょ?確か。」
「え、ええ、確かにそうですが・・・」
「なら好都合じゃない?あのカード達がこの中で暮らせば賑やかになるし、秋穂ちゃんも
この中にいなくて済むかも。」
 時計の国のアリス、魂を閉じ込める本。逆に言えば中に魂が無いと存在できない本とも言える。
カードから実体化した53もの魂があれば、あえて秋穂の魂を留めようとはしないかもしれない。

 エリオルは呆然とした表情で立ち上がる。肩を落とし、ジャケットがそこからずるっ、と
ズレて落ちそうになり、止まる。
「この世に偶然は無い、すべては必然、だとしたら・・・」

 天才魔導士クロウ・リードが生み出した生きたカード達。
若き天才ユナ・D・海渡が齢を重ねて生み出した魔法の本の世界。
 クロウカードはさくらカードとなり、さらに実態を持つ生物や道具となった。
彼らは自分たちが生きていける世界を必要としている。
 そして『時計の国のアリス』は生物の魂を必要としている、魔導士が作ったふたつの存在は
お互いがお互いを必要として引きあったのか、木之本さくらと李小狼、そして詩之本秋穂という
存在を結び目として。
「ほらほら、詮索は後!いよいよクライマックスっぽいわよ。」
苺鈴が言う。本が最終章のページを開く。そこに映されたのは、大量の歯車が構成する館。
0269無能物書き
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2019/04/03(水) 01:11:39.21ID:O+OhGSBb0
 さくらと小狼はついに最深部にある建物に到着する。それは時計の形をした館。
館にも、周囲の庭にも、無数の歯車が絶え間なく動き、時を刻む音を奏でる。
「ここが・・・最深部。」
「ああ、間違いない。」
さくらと小狼が顔を見合わせて頷く。道中でモモに聞いた『時計の館』。
「ここに、秋穂ちゃんが・・・アリスさんがいるのね。」
モモに振り返ってさくらが問う。モモはビデオカメラを構えたまま、こう返す。
「そうよ〜、でも中に入る前に、もうひと試練あるかも〜」

「それは、どんな試練だ?」
小狼が問うが、当然モモが正解を教えるわけもない。手の平を上に向け、首を振る。
「とにかく行こ!小狼君。」
さくらがはやる気持ちを抑えられずに庭に入る門扉に向かう。頷いてあとを追う小狼。
鋳造の門のハンドルを手にかけ、回す。そして扉を開くさくら。
 と、その瞬間、ガチン!という音と共に全ての歯車が停止すると、突然逆回転を始める。
「な、何!?」
「さくら!」
さくらに駆け寄り、その手を取る小狼。その瞬間周囲の景色がぐにゃあぁっ、と歪み、消失する。
しっかりと手を繋いで、周囲の状況に警戒する二人。

 少しの間の後、再び景色がぐにゃっと歪み、現れる。
そこは・・・緑の平原だった。
風は心地よく、遠目には宙に浮かぶ大地と、その上に鎮座する城。遠方には鳥の群れと、
それに交じる1羽の巨大な鳥。
「さくら、ここって・・・まさか。」
さくらは目を点にして、顔をさーっ、と青くする。信じたくない現実、
「ほ、ほえぇぇぇぇっ!振り出しにもどっちゃったあぁぁぁぁっ!!」
0270無能物書き
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2019/04/03(水) 01:12:04.74ID:O+OhGSBb0
 時計の館の前、モモがため息をついて、一言。
「はい、2週目がんばってね〜。」

「はぁ〜、また1からやり直しかぁ。」
しょんぼりとうなだれるさくら。小狼はそんなさくらを叱咤する。
「しょげててもしょうがないだろ、とにかく行くぞ。さぁ、フライ(翔)を!」
「う、うん・・・。」
仕方なく、といった表情でホルスターからカードを取ろうとする。が・・・
「え!ない・・・フライさんのカードが、というか使ったカードがみんな無いよ〜!」
「なんだって!?」
 よく見れば、はるか遠方で飛んでる大きい鳥はさっき実体化したフライだ。
カードを消費した状態で、文字通りスタート地点に戻されるという理不尽、なんという無理ゲー。

「なんか、前もあったけど・・・やり直すのって疲れるよね。」
「え、前?」
「ほら、小学生の時。なんども同じ日をやり直した事あったでしょ・・・あ。」
「・・・あ。」
さくらは残った7枚のカードを扇状に広げ、そしてその中に件のカードを見つける。
ここに戻されたのは『時計の館』の力。なら、このカードを使えば・・・

 モモは時計の館の前で、リクライニングチェアーに座ってチョコをつまんでいる。
「さてさて、あの状態でまたここに来るのに何日かかるかしら〜」
ムグムグとチョコを頬張るモモの背後で、声。
「ただいま。」
ぶはぁっ!とチョコを豪快に吐き出すモモ。振り向けばそこにはさくらと小狼、そして
ローブに身を纏った一人の老人が立っている。
「ど、どーやって!?」
さくらと小狼は平手でその老人を差す、笑顔で。彼の手柄だ、と。
0271無能物書き
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2019/04/03(水) 01:12:32.71ID:O+OhGSBb0
 老人は門扉のドアノブに触れ、その仕組みを調べている。
「なるほどな。主(あるじ)様、先ほどはこのノブを左に回しましたな。」
「う、うん・・・」
「このノブ、どうやら左方向、つまり時計と逆に回すと時間を戻される仕組みのようですじゃ。」
「じゃあ、右に回すと時間が進むのか?」
「左様。この門扉にはそもそも鍵などありませぬ、ただ押せば・・・ほれ。」
普通にぎぎぃっ、と開いていく扉、さくらも小狼も目が点になって呆れる。

「他にも時間を進めたり、戻したりする仕掛けがありますな、どれ・・・」
老人はそう言ってその身を輝かせると、ひとつの巨大な歯車に変身する。その中心に顔だけ
のぞかせながら、周囲の歯車にガキンとはまる。
「これで大丈夫ですじゃ、もう時間を操作されることはありますまい。」
歯車の中央の顔がにこりと笑う、なかなかにシュールな光景だが、とりあえず助かった。
「ありがとう、タイム(時)さん。」

「じゃ、私が案内できるのはここまで。あとはあなたたちで何とかしなさいね〜」
モモはイスに座り直し、テーブルの上のチョコをつまんで言う。なるほどそこはモモの本来の
居場所とでも言うように、モモのサイズに合わせたくつろぎ空間が構成されている。
「うん、ありがとう、モモちゃん!」
律義に礼を言うさくら。さぁ、いよいよ二人に会える!

 門扉を抜け、庭を駆け、館の入り口のドアを開ける。中は、廊下。
白と黒のタイルが交互に、チェック模様に並んでいる。さくらはその廊下に見覚えがあった。
 そう、未来に言った時に通った『時の回廊』、あの通路にそっくりだったから。
悲しい記憶を思い出し、小狼の手を取り、ぎゅっ、と握る。さくらの不安を察し、その手を
力強く握り返す小狼。
0272無能物書き
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2019/04/03(水) 01:13:04.89ID:O+OhGSBb0
 二人は歩く、その廊下を。周囲には時計の歯車と、それが刻む針の音。
やがてひとつのドアに突き当たると、それを慎重に押し開く二人。
ぎぃぃっ、と鈍い音を立てて開く扉、そこは広い部屋、地面に白黒のタイルが並べられ
8×8のマス目を刻んでいた。そのいくつかには、黒と白の駒、チェスの駒だ!

「兵士(ポーン)、bの8へ!」
女の子の声、上から聞こえる。それを見上げる二人。そこには、二人のよく知る少女が
まるでビーチバレーの審判が座るような、高い高いイスに腰かけていた。
「秋穂ちゃん!」
さくらは叫ぶが、秋穂はさくら達を一瞥すると、興味なさそうに再び視線を前に戻す。
 真っ白なそのイスの下、チェックのタイルには、チェスの駒。
白いポーンが一歩前に動き、そこにいる黒のナイトを倒す。

 ドクン!と心臓の音のような嫌な響きがする。その方向を見上げると、ちょうど秋穂と
向かい合うようにして黒く高いイスがある。そこに座っているのは、秋穂と同じ金髪の少女。
胸を抑え、苦しそうな表情。それでも彼女は足下のコマに指示を出す。
「クィーン(女王)、bの8!」
黒のクィーンが白のポーンを倒す。と、またドクン!という心音のような音。
見上げるとコマを取られた秋穂が苦しそうに胸を押さえている。
「はぁ、はぁ・・・」
苦しそうに息を継ぎながらも、秋穂は眼下のチェスの配列を見て次の一手を思案する。

「さくらさん、李さん・・・どうしてここに?」
「「え?」」
呼びかけに二人が同時に反応する。見上げた先は黒いイスに座っている金髪の少女。
こちらに気づいて声をかけてきたようだ。
「私です、秋穂です・・・あ。」
言ってなにかに気づいたようにしょげかえる少女。自分の言ったことが間違いであるように。
0273無能物書き
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2019/04/03(水) 01:13:32.44ID:O+OhGSBb0
「そうか、彼女がアリスなんだ。詩之本の体の中にいた・・・」
小狼の言葉にさくらも頷く。彼女は9歳の時から本物と入れ替わり詩之本秋穂として
存在していた、元々はモモ同じこの世界を維持するための魂。
「え・・・何故それをご存知なのですか?」
「あ、まぁ、色々あってね。」
苦笑いでさくらが返す。

「ビショップ!eの5!」
秋穂の声が二人の会話を中断する。白いビショップが黒いルックを倒す。
ドクン!
その音と同時に、アリスが顔をゆがめ、胸を抑える。
「アリスちゃん、どうしたの?」
その問いには答えす、アリスはうつむいたまま胸を抑え、絞り出すような声で言う。
「いやだ・・・負けたくない。この世界にいたい、帰りたくない!」
そして盤面を見下ろし、駒に指示を出す。
「クィーン!dの3へ!」
 再びクィーンがナイトを倒す。またドクンという音、そして苦しそうに胸を抑える
白いイスの上の秋穂。
「今更、よく言うわね・・・貴方が私をここに閉じ込めておいて。」

 さくらは二人を交互に見上げ、心配そうな表情をする。
「ど、どうしたの二人とも。なんか苦しそうだよ、どこか痛いの?」
その隣で小狼が説明する、驚愕の表情で。
「あのコマを取られるたびに、取られた方の魂が削られていってる・・・」
「ええっ!?」
「たぶん、負けたほうはこの世界に存在できなくなるんだ。」
ふたりをちらりと目にして秋穂が言う。
「正解よ。負けたほうは元の世界に戻されるのよ、『詩之本秋穂』としてね。」
0274無能物書き
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2019/04/03(水) 01:13:58.60ID:O+OhGSBb0
「え?どうして・・・」
さくらにも、小狼にも分からない。秋穂もアリスもまるで『元の世界に帰りたくない』
と言っているようだ。
 ただひとつの心当たり、アリスの魂をクリアカード『スピリット』で戻した時
秋穂の魂は帰ってこなかった、アリスの魂もまたしかり。
両者が『帰りたくない』と思っていたから帰ってこなかったと言うことなのか?

「どうして?どうして帰りたくないの?海渡さん待ってるよ!」
そのさくらの言葉に、ふたりはびくっ!と反応する。秋穂は怒りの目で、アリスは
悲しげな眼をして。
「ふん!」
そっぽを向いてそう吐き捨てたのは秋穂だ。
「私は『魔法具』なのよ。あの日も彼は私にこの本を与えて、ここに私を閉じ込めた、
4年間もね!」
「え・・・違うよ秋穂ちゃん!海渡さんはそんなつもりじゃ」
「違わないわ!この本を作ったのがアイツだっていうのは分かってるんだから!」
 彼女は誤解している。しかしそれも無理もない事、海渡に贈られた本に閉じ込められ
その本を作ったのもまた彼であること、詩之本家の『魔法具』である自分ととそれを使う
『マスター』の関係であること、その判断材料ならどう考えても彼女は海渡に弄ばれている、
という結論にしか行きつきようが無い。

「私は・・・海渡さんに必要ないと判断されたんです。」
アリスが顔を抑えて、涙声で語る。アリスが秋穂と入れ替わってから、海渡は何とか秋穂の魂を
取り戻そうとしていた。それは言い換えれば、アリスの魂を本の中へ追い返そうと
していたと言うこと。
それは海渡に恋していたアリスにとっては耐え難い行為、彼の自分に対する『拒否』。
そんな過程を経てこの本に再び押し込められた彼女には、今更海渡に会う気が起こらない、
心の奥底の恋心は少しも萎えてないないのに。
0275無能物書き
垢版 |
2019/04/03(水) 01:14:33.99ID:O+OhGSBb0
「違うよ、ふたりとも誤解してる!」
さくらは叫ぶが、二人は魂を削るチェスを続ける。これに勝てばもう辛い現実に戻らなくて済む、
その思いに呪われ、ただ勝つために心をすり減らしていく。
「さくら、止めるぞ。」
「どうやって?」
小狼はさくらのホルスターを取り、2枚のカードを手にする。
「このチェス、どうやら東洋魔術のものらしい。なら同じ術式で止められるハズだ。」
2枚のカードを放り投げ、さくらに発動の言霊を教え、唱和しつつ杖を打ち下ろす。
「「陰と陽を溶け合わせ、融和せよ!ライト(光)、ダーク(闇)っ!」」

 カードが輝き、やがて二人の成人女性の姿を取る。二人は宙に浮かび、まるで泳ぐように
お互いを逆さに見ながら回転をはじめ、やがて白と黒の演舞、陰陽紋太極図となる。
その力を受け、足元のチェスの駒も、その下の盤面も、白と黒の色を失い、まるでガラスのような
透明な色になっていく。
そしてそのまま消えて行くチェスの駒、そしてふたりが座る背の高いイス。それにより
秋穂が、アリスが、ふわりと地面に着地する。

「・・・消えた?」
呆然と周囲を見渡す秋穂。地面に降りたことで初めてさくら達と同じ高さの目線になる。
「あなたたち、あの娘の知り合い?」
アリスを差してそう問う秋穂にさくらが答える。
「うん、貴方を・・・ううん、ふたりを連れ戻しに来たの。」
0276無能物書き
垢版 |
2019/04/03(水) 01:15:03.25ID:O+OhGSBb0
「え・・・私も、ですか?さくらさん。」
不思議そうに答えるアリス。彼女はモモ同様もともとここの住人だ、一時期幸運にも
秋穂の体を得て外の世界を体験できた。そしてさくらと出会い、様々な楽しい体験をした。
 でもそれは本来なら『あっちの』秋穂がするはずの経験。それを奪った自分には
ただでさえ戻る資格はない、まして自分は好きな人に拒絶されここに来さされたのだ。

「秋穂ちゃん、アリスさん、ふたりは同じ『詩之本秋穂』さんなんだよ。」
 その肉体と魂を持ち、本人として生まれた秋穂。
海渡に想われ、その秋穂への思いを具現化して生まれたアリス。
人を想う存在と、人に想われる存在、どっちが偽物なんてない、二人とも本物なんだよ。
ただ思いがすれ違い、食い違ったために遠ざかってしまった、そんな二人。

 だけど、二人の心は固く閉ざされ、さくら達の説得にも応じようとはしなかった。
何よりさくらと小狼が相思相愛なのは見て取れたから、それが余計に二人の心の傷に
痛みを与える。自分にだって好きな人はいる、しかし私たちはその人に拒絶された存在だから。

 二人の悲しみは理解できる。でも今のさくらも小狼もそれを乗り越えるアドバイスは思いつかない。
ただ辛いよね、と思う。好きな人に思いが届かないことの辛さ−

 と、さくらのカードホルスターが輝き、中から2枚のカードがゆっくり出てくる。
さくらと小狼の前で停止する、まるで使ってもらえるのを待つかのように。

−アロー(矢)−
−ホープ(希望)−
0277CC名無したん
垢版 |
2019/04/03(水) 06:47:12.11ID:1HyGYzpM0
なんかこれが本編のような気がしてきた
0278CC名無したん
垢版 |
2019/04/03(水) 12:03:44.12ID:6+BkiAKd0
劇場版カードキタ━(゚∀゚)━!
0279CC名無したん
垢版 |
2019/04/03(水) 20:25:47.12ID:hGiLqSVQ0
残り7枚から時、光、闇、矢、希望登場
あとの2枚は何だろう
楽しみにしてます
0280CC名無したん
垢版 |
2019/04/05(金) 01:04:14.91ID:hf2calju0
>>277
本編より確実に優れていることがひとつ!展開の速さw(それだけかいっ!)
>>278
よく分かるなぁ、そう狙ってました。
>>279
その答えは、この後すぐ!(そしてCMw)

カードキャプターさくらSS「魔法の終わる日」

第25話 さくらとアリスのラストページ


 アロー(矢)とホープ(希望)。
さくらと小狼の魔力により具現化し、実体化したふたりの少女。
アローはアリスに、ホープは秋穂に歩み寄り、その前で止まる。

「な、なんなの、この子?」
秋穂はカードから実体化した二人を見て驚く。先ほどのライトとダークを発現させた時は
チェスに夢中であまり気にならなかっただけに今回は衝撃的のようだ。
ホープは秋穂には答えす、アリスの前のアローの方を見て促す。まずはそっち、と。

 アリスは秋穂よりは理解していた、元々この本に憑く精霊である彼女は、知識としてではなく
実感として目の前の少女が、精霊から実在の生物に昇華した存在であると。
アローはアリスを見て、ややつたない言葉を紡ぐ。
「待ってても、だめ。」
え?という顔をするアリスに、アローは続ける。
「私、知っている。ずっと待ってた人、その人がもういないのも気付かづに、待ち続けて
そして、願いが叶わなかった人。」
 アローがさくらを主としてから最初に使役された時。相対したのは好きな人を待ち続けた女性の
悲しい、そして歪んだ心。壊れた体、アリスと同じように本の世界で意中の人を待ち、
主に諭され、その事実を知って悲しみに消えた哀れな女(ひと)。
0281無能物書き(>>280名前入れ忘れorz
垢版 |
2019/04/05(金) 01:05:17.08ID:hf2calju0
「好きな人は、待ってても手に入らない、そして、後悔する。きっと、あの人みたいに。」
そんなアローの言葉にアリスは顔をゆがめ、ぎゅっ、と胸の服を握る。
「でも、海渡さんは・・・私を拒絶したの。」
うつむいて涙声で話す。私が彼を思っても彼は私を想ってくれない、その先には悲しい結末が
待っているだけだ、と自分に言い聞かせるアリス。
 ふと、うつむいてるアリスに、アローが何かを差し出す気配がした、顔を上げるアリス。
のばされたアローの手の中にあったのは、一本の『矢』。
矢尾には優しい、丸みを帯びた羽根、そして矢じりにはピンク色をしたハートの刃。

「これは・・・?」
「好きなら、自分から言う。それでもだめなら、この矢を使う。」
それはおとぎ話によくあるキューピットの矢、そんなデザインの矢をそっとアリスに渡す。
「言わなければ伝わらない、何も変わらない、そして、あの人のようになる。きっと。」
あ・・・という顔をするアリス。そうだ、このままここにいても悲しみに堕ちていくしかない。
だけど、もしあの人に自分の思いを伝えることが出来たら、私も変われるかもしれない、
精霊から実体化を果たした、目の前の彼女のように。
 それは怖い、そして勇気がいる。勇気、それはアリスに最も足りなかったこと、
秋穂の肉体を得てもいつも引け目を感じ、控えめに過ごしてきたアリス。
他人の後ろに立ち、「すごいです」と人を持ち上げ、目立たないようにしてきた。

 それは勇気が無かったから、自分を出すことが怖かったから。
借り物の体の自分には、本の精霊でしかない自分では、自分を出す勇気を持てなかった。
アリスはその矢をぎゅっ、と握る。その矢じりのハートに自分の心を重ねる。
勇気、その心を、決意を。
「私、やってみます。」
力強くそう答えるアリス。向かい合うアローは優しく笑う。
そしてホープと秋穂に向け、どうぞ、と手を出す。
0282無能物書き
垢版 |
2019/04/05(金) 01:05:51.26ID:hf2calju0
 その動作を受け、ホープは秋穂に向かい合う。秋穂は一歩後ずさり、ホープを見る。
「な、何よ。」
ホープは自分の胸に手を当て、悲しい目で語りかける。
「私は、あなたと似ている。」
「え?」
「あなたは自分を『道具』だと言った。私もそうなの。クロウカードの陰陽のバランスを
取るための『道具』。」
言葉なく聞き入る秋穂に続けるホープ。
「私は生み出されてすぐ閉じ込められた。何もすることも許されずに、一人ぼっちで。
寂しかった、とっても。」

「どうして・・・」
「私は『無くす』存在だった。私が外に出ると、いろんなものが『無くなる』の。
物も、人も、心さえも。そういうふうに『作られた』から。」
「な、何よそれぇっ!」
その理不尽な存在、非情な仕打ちに秋穂は叫ぶ。そこに存在するだけで周囲の物を
失っていくなんて、そんなの悲しすぎると。
「でも、私は動いた。たとえ誰かを不幸にしても、自分を見てほしかった、知ってほしかった。
そして、主(あるじ)は私を見てくれた。」
自分の胸にあるハートマークを優しく撫でるホープ。
「私はこの心を主にもらった、そして私が消したものを元に戻してくれた。
私には友達が出来た。私は変われたの、文字通り『ナッシング』から『ホープ』に。

 無くす者から希望を持つ者へ。そのキッカケは、封印を解かれた彼女が動いたから。
「あなたもそう。道具であっても、それに嘆いては何も変わらない。」
魔法具、それが秋穂に課せられた十字架、魔法の家で魔力を持たず生まれてきた彼女の宿命への罰。
でもそれを嫌って引きこもっていても何も変わらない、変えるのは自分しかないのだ。
0283無能物書き
垢版 |
2019/04/05(金) 01:06:20.50ID:hf2calju0
 秋穂はホープを見返し、思う。確かに自分は魔力が無い、魔法具だ。そう、不幸な少女だ。
でも目の前にいるこの娘は自分よりもっと辛い世界で生きてきたんだ、そう思うと
自分が不幸に甘えている存在に思えてくる。
「私ね、本当はずっと確かめたかったの、海渡の真意を。でも考えれば考えるほど悪い方向にしか
いかなくて・・・」
「その答えは、彼女が知ってる。」
「え?」
言ってホープが、秋穂が、アリスを見る。そう、海渡の秋穂に対する恋心を具現化した少女。

「彼女を受け入れて、それできっとあなたは知る、いちばん知りたかったことを。」

 さくらが、小狼が、ライトとダークが、アローとホープが見守る中、秋穂とアリスは
ゆっくりと近づいていく。
お互いが予感していた、この人とひとつになれば、きっと願いが叶う。勇気が持てる、真実を知れる、と。
 ふたりの距離が詰まる。3m、2m、1m、やがて目の前まで接近し、それでも止まらない。
ふたりはすぅっ、と重な・・・

−ごちんっ!−

 鈍い音と共に、頭を抱えてうずくまる秋穂とアリス。さくらは派手にずっこけて、小狼も
がくっ、と体を傾ける。
「あ、あはは。そのまま合体するのかと思った。」
「そ、そんなアニメみたいなことが起こるはずないだろう!」
リアリストを気取る小狼だが、周りから見ればさくらと同じ期待をしていたのはバレバレだ。
思わずクスクス笑うライトとダーク。
0284無能物書き
垢版 |
2019/04/05(金) 01:06:55.49ID:hf2calju0
「ちょっと、どうすればいいのよ!」
額を抑えながら秋穂がホープに抗議する。ホープはさくらの方を、その腰のカードホルスターを
すっ、と指さす。
「ほぇ、カード?」
さくらは腰のカードを取り出す、最後の2枚を。

−ツイン(双)−
−ミラー(鏡)−

 さくらはぱぁっ、と明るい顔でカードを見る。
「そっか!ツインさんを使えば秋穂ちゃんもアリスちゃんも2人に増えて4人、ミラーさんを使えば
2倍の8人に!って・・・あれ?」
さくらの頭の中に、杖の中にいるケルベロスの強烈なツッコミが聞こえた気がした。
増やしてどないすんねん!!!と。
さくらの背後ではライトが困り顔ででっかい汗を額から頬にスライドさせる。

 小狼の後ろにいたダークが背後から顔を近づけ、そっと彼にささやく。
「貴方なら分かるはずよ。思い出して、あの娘の使い方。」
そう言われて小狼はさくらの持つ2枚のカードを見る。ツインの方の絵柄はふたり、
ミラ−には鏡の少女がひとり。ダークの『あの娘』という言葉に、意識をミラーに向ける。
「・・・そうか!」
ミラーの性質。コピーを生み出す、光を反射する、そしてカードの性質を反転させる。
つい先日『リターン(戻)』を反転させて『フューチャー(先)』を生み出し、苺鈴を
未来に送ったように。

「ほぇ〜、そんなこと出来るんだ。」
小狼の説明にさくらが感心する。
「ツインはひとつのものをふたつに分けるカードだ、その性質が逆になれば・・・」
向かい合い、次のセリフを自然にハモらせる二人。
「「ふたりを、一人にするカードになる!!」」
0285無能物書き
垢版 |
2019/04/05(金) 01:07:53.19ID:hf2calju0
「「彼のカードの能力を逆転させよ、ミラー(鏡)っ!」」
カードを打ち据え、そこから一人の少女が具現化する。胸に鏡を抱いた娘。
そして宙に浮かぶ最後の1枚のカード、ツインを鏡に映す。そこに映るカードの文字、

−FUSION(合)−

「「ふたつの魂をひとつに!フュージョンっ!!」」
鏡の中のカードを打ち据えるさくらと小狼。鏡に映るカードが輝き、中からピエロの姿をした
少年とも少女とも取れる中性的な子供が二人現れる。
 一人は秋穂に、一人はアリスに向かうと、手を繋ぎ踊り始める。秋穂もアリスも自然にそのダンスに
合わせて動く。まるで舞踏会のように踊りながら少しずつ接近していく二組。
「「5・4・3・2・1」」
ツインがカウントダウンを唱和し、回転の流れからふたりを押し出し、体当たりにもっていく。
衝突する瞬間、ツインが両手を広げて叫ぶ。
「「ゼロ!」」
 接触した瞬間、光に包まれるふたり。そしてその光が収まった時、そこには一人の少女、
詩之本秋穂だけが座っていた。自分の手を、姿を、きょろきょろと見る。
くるくる巻きにした髪型、手に持ったキューピットの矢。彼女は秋穂でありアリスでもある。
その後ろではツインがイェーイ!とハイタッチをする。

「ちょっと、何よコレ・・・」
立ち上がった秋穂が言う。目から涙をぽろぽろとこぼしながら。
「何よもう、海渡ったら。本っ当に奥手なんだから・・・」
私もだ、と心の中で想う。今の彼女にあるもの、それは海渡の自分に対する恋心と
現実に立ち向かう勇気。秋穂が知らなかったことをアリスが教え、アリスに無かったものを
秋穂が埋める。

 ひとしきり泣いた後、秋穂はみんなに向き直り、涙をぬぐって言う。
「ありがとう皆さん。私、帰ります!」
その言葉にさくらも小狼も、カード達も皆うんうんと頷く。

 一行は廊下を抜け、ドアをぎぃっ、と開ける。そして時計の館の外に出る。
0286無能物書き
垢版 |
2019/04/05(金) 01:08:30.84ID:hf2calju0
ぱん、ぱん、ぱんっ!
とたんに鳴り響くクラッカーの音。秋穂も、さくらも、小狼も、紙テープや紙吹雪を
頭からいくつもかぶる。
「クリアおめでとーーーーっ!!」
そう叫んで紙吹雪の中を跳ねるのはモモだ。タキシードを着こんで杖を持ち、踊る。
そしてその後ろにも大勢の者たちが彼らを祝福する。それはさくらと小狼が生み出した
さくらカードの精霊たち、そしてこの『時計の国のアリス』の住人たち。
トランプの兵隊も、森で追われた狼たちも、ウィンディ、ウォーティ、ファイアリー、アーシーの
4大元素をはじめとするカード達も、みんな大喜びでこの達成を祝う。

「あははっ、みんなー、やったよーっ!」
さくらが喜んで手を振り返す。そんなさくらを見て負けじと秋穂も手を振る。
小狼は達成感と、その二人を見て思わず笑顔になる。
と、突然3人は背後から抱き着かれる。さくらをライトが、小狼をダークが、そして秋穂をホープが
抱きかかえて、みんなの上空に運ぶ。

「さぁ、胴上げの時間よ♪」
ライトがそう言った瞬間、3人は大勢の中に落とされる。無数の手に受け止められた3人は
そのまま何度も上空に放り上げられ、落とされる。
−わっしょい!わっしょい!わっしょい!−

 時計の国のアリス、その世界でのささやかなパレードが見る者を魅了する。
それはつかの間の祝福、救われた少女の、報われた少年の、そして新たな命を与えられた
精霊たちに対する、福音−
0287無能物書き
垢版 |
2019/04/05(金) 01:10:02.21ID:hf2calju0
 宴は終わり、別れの時。

「ほぇ!カードさんたちみんな、この世界に残るの!?」
驚くさくらに、ウィンディが漂いながら髪をかき上げ、答える。
「この姿で『そっち』に行ったら大騒ぎでしょ?」
「この世界って面白いんだ!もっといたいし!」
ファイアリーが生意気そうにそう続ける。
「そっか、そうだよね・・・」
少し寂し気に返すさくら。
「あら、ずっとお別れじゃないでしょ?」
ライトに続いてダークが続ける。
「またいらっしゃい、この世界に。いつでも大歓迎よ!」
モモがそれに賛同し、語る。
「この本は貴方のそばに置いてもらって。いつでもピクニック気分で来ていいから〜」
その言葉にさくらの表情がほころぶ。

「じゃあ、いつでも会えるんだ。」
ニコッと笑う、みんなも笑顔を返す。
「この世界、こんだけゲストが来たら多分ガラッと変わるわよ〜」
モモの言葉に小狼が驚く。
「え・・・じゃあ、次はもっと難しくなってるのか?」
「そうかもね〜。ま、こうご期待ってことで〜」
そして秋穂に向かい、告げる。
「秋穂も来なさい、あの頑固者も連れてね〜」
その言葉に満面の笑顔を返す秋穂。
「うん!」

と、そのスキにホープがさくらと小狼に近づき、耳元で囁く。
「もしよければ、結婚式とか新婚旅行もこちらで。」
そのセリフにふたりがぼふっ!と赤面する。
 周囲の全員がクスクス笑う、微笑ましく初々しいカップル、カードだった者たちの
父親と母親の初々しさに。
0288無能物書き
垢版 |
2019/04/05(金) 01:11:24.88ID:hf2calju0
「あ、あとこれ。」
未だ赤面冷めやらぬさくらに、ホープが銀色のネックレスをさくらの首にかける。
「ほぇ、これは?」
楕円形のペンダント部分には開閉のポッチがある。それを押すとふたつにパカッと開く。
しかし中には何もない、表面は鏡のように磨かれた銀色が、さくらの顔を映し出す。
「それを必要としている人がいます、その方に差し上げて。」
横からダークがそう語る。そしてホープとダークがすっ、と離れると、さくら達の足元から
1艘のボートが現れ、3人を乗せたまま宙に浮かぶ。

「では、お元気で。」
ライトがそう告げ、にこやかに手をあげる。それに対応して皆も元気よく手を振る。
「まーたねーっ!」
その瞬間、ボートは勢いよく上昇を始める。またたく間に小さくなっていくみんな。
さくらはボートの淵に乗り出し、みんなに手を振る、そして叫ぶ。
「絶対また来るから!絶対だよーーーっ!!」
小狼も秋穂も手を振る、そして叫ぶ。
「俺もまた来るよーっ!絶対にーっ!」
「楽しみに待っててねーーーっ!!」

 ボートは飛ぶ、アリスの世界を。
美しい平原、荒涼たる砂漠、広いお城、それらの景色をまるでエンディングロールのように
見せながら、魔法の絨毯のように。
 やがて景色が消え、白い世界に包まれる。音のない、色のない世界。
そこにあるのは、一つの言葉。

 −Fin−

 そして3人は、友枝町に、詩之本邸に帰る。さくらと小狼は本からまるで放り出されるように。
秋穂はその魂が、チェアーに眠る本体に宿るように−
0290CC名無したん
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2019/04/05(金) 13:21:25.54ID:9D1g2/090
劇2のみならず劇1までもぶっこんでくるとは…
もうこれアニメ化しよ?
0291CC名無したん
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2019/04/06(土) 17:38:43.83ID:kARdMGhh0
そういや劇1の占い師も本の中にいたんだよな
井戸の印象が強くて忘れてた。
0292CC名無したん
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2019/04/07(日) 22:07:23.43ID:2t3ZP2UQ0
>>290
脳内ではいつもアニメ化されてるんですがねぇw

さて、いよいよあと2話!最後までお付き合いください。

 どさ、どさっ!
閉じられたアリスの時計の本の横、突然空中からさくらと小狼が出現し、
そのまま尻もちをつく。
「さくら!」
「さくらちゃん、李君!」
「木之本さん、大丈夫?」
居並ぶ面々が二人を心配する。さくらはお尻を抑え、さすりながら立ち上がる。
「あいたた・・・あ、帰ってこれた!」
周囲はまだ薄暗い。日の出前の早朝、さくら達が本に突入してからほぼ半日。

 と、さくらの持っていた星の杖が光り輝く。しばらく光を発した後、そこから2筋の
光が分離し、ふたりの守護者が姿を現す。
「ケロちゃん、ユエさん!良かった。無事に戻れた!」
ふたりは一息置いて、さくらの方に向き直る。
「ああ、ま、さくらとワイの実力やったら当然やな!」
きっちりユエと小狼を抜いて自慢するケルベロス。その頭上に小さな光が灯る、
それはすぐに形を成し、ケルベロスの後頭部に落下する。
 
ごいんっ!
0293無能物書き(>>292また名前入れ忘れorz
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2019/04/07(日) 22:08:11.55ID:2t3ZP2UQ0
 不意打ちを食らって突っ伏すケロ。落ちてきたのは知世がモモに貸したビデオカメラだ。
「な、なんやワイ・・・こんなんばっかや。」
後頭部を抑えてごちるケロ。そのビデオを知世が回収して微笑む。
「これは視聴が楽しみですわ。」
そのセリフにはっ!と反応するケロ。
「しもた!ワイそん中でずっと杖やないかーっ!」
笑いに包まれる一同。ケロだけはさくらにもっかい行こうで、と無茶振りをする。

「そうだ、詩之本は!?」
小狼の言葉に、全員が一斉に秋穂の眠るアウトドアチェアーに注目する。
傍らでは海渡が心配そうにその表情を覗き込んでいる。
「起きません、眠ったままです。」
「そんな!どうして・・・」
 確かに秋穂の魂は戻ってきたはずだ。なのにどうして起きないのか、もしかすると
秋穂とアリスが合体したことが何か悪い影響を与えてしまったのか・・・?

 観月が秋穂をじっ、と見る。そして指を一本立てて、にっこり笑って言う。
「やっぱりここは、王子様のキスで起こすべきじゃないかしら?」
周囲が一斉にえっ!?という反応をする。お約束だけど、それで本当に?
 そういいつつも、周囲が海渡に注目する。
「え、私・・・ですか?」
「あんた意外に誰がいるのよ!」
苺鈴がぴしゃりと一言。他のみんなもうんうんと頷く。
0294無能物書き
垢版 |
2019/04/07(日) 22:08:35.78ID:2t3ZP2UQ0
 みんなが注目する中、顔を赤らめた海渡が秋穂を覗き込む。彼女は穏やかに寝息を立て
無防備に唇を少し開けている。まるでキスされるのを待つかのように。
ごくっ、と生唾を飲み込み、一歩引く海渡。しかし後ろを見れば全員が『行け!』と
圧をかけてくる(特に女性陣)。
 はぁ、とため息一つついて、海渡が秋穂に顔を近づける。一同興味津々で注視する。
特にさくらと小狼は学芸会で身に覚えのあるシーンを思い出し、並んで赤面しながら
次の展開を待つ。
やがて海渡の顔が秋穂に重なり、唇が触れようとしたその時!

「あーーーっもう!、あなたたち、空気を読んで消えなさいよーーーっ!!!」
秋穂が突然叫ぶ、真っ赤な顔で。さくら達を見ながら、普段観ない怒りの表情で。
 その抗議に全員が、あっ、という表情をする。一息置いてばたばたと家の裏に引っ込む面々。
観月だけは笑顔で、ごゆっくり、という表情でひらひら手を振って退散する。
家の反対側に集まると、やがて一同は笑いをこらえきれずに吹き出し、大笑いする。
「あはははは・・・良かった。」
「起きてたんだ、やるわねー詩之本さん。」
「まぁ今回は撮影は控えておきましょう。」
ひとしきり笑い、さくらと小狼は顔を見合わせ、言う。
「良かったな。」
「うんっ!」

 朝日が昇る。詩之本邸を、海渡と秋穂を、黄金色の朝日が照らす。
やっと会えた、やっと戻ってこられた、ようやく気持ちが通じ合った。
魔法に翻弄され、紆余曲折を経た二人が今、唇を重ねる。澄み渡る朝日の中で−
0295無能物書き
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2019/04/07(日) 22:09:03.89ID:2t3ZP2UQ0
 テーブルの上に、海渡がお茶とお菓子を置き、皆を見て一言。
「本当にお世話になりました。みなさんのおかげです。」
「ありがとね、さくらさん、みなさん。」
秋穂も続く。アリスの時とは若干違った物言いに違和感があるが、これが本来の
秋穂なんだろうと皆が顔を見合わせて頷く。
 テーブルの傍らには『時計の国のアリス』の本。秋穂はそれを取り、さくらに差し出す。
「じゃ、これ。モモが言ってた通り、あなたに預けるわ。」
「いいの?」
「うん!ただしその中に行くときは声かけてよね。」
「もちろん!」
本を受け取り、胸に抱えて笑顔のさくら。この本の中にはカードさん達と、彼らが暮らす
世界がある。いつかまた行く世界が。

 柊沢エリオルが、ふとさくらを見て驚く。そして立ち上がり、言う。
「さくらさん!あなた・・・まさか!?」
「ほぇ?」
エリオルはさくらに近づき、手をかざして続ける。驚愕の表情で。
「魔力が・・・失われています。」
「「ええっ!?」」
皆が驚く。しかしケルベロスとユエだけは平静を保っている。ケロがさらに一言。
「さくらだけやない、小僧もやで。」
「え、あ・・・俺も?」
小狼が自分の両手を見て固まる。一息置いて宝玉を取り出し、精神集中するが
宝玉は光らず、剣も出なかった。
0296無能物書き
垢版 |
2019/04/07(日) 22:09:35.51ID:2t3ZP2UQ0
 呆然として顔を見合わせるさくらと小狼。ふたりに手をかざし、海渡が告げる。
「完全に失ったわけではなさそうですね、普通の人なみの魔力まで落ち込んでいます。」
一体なぜ、という一同に、ユエが解説を与える。
「カード達に魔力を、命を分け与えたのだ、失われて当然だろう。」
え?という表情のさくらと小狼。逆に知世や苺鈴、なくるや観月は、あ、そうか、という表情。
「命を・・・与えた?」
「お気づきにならなかったのですか?」
「さくらと小狼の魔力を得て、あなたたちの子供になったのよ、あのカードたち。」
「「え・・・ええーーーーーっ!!」」
さくらと小狼の驚き声がハモる。なくるが「子だくさんね〜」とからかうと
おなじみ瞬間湯沸かし器のように居並んで赤面する二人。

「あ!ということは・・・」
エリオルがケロとユエを見る。彼らはさくらの守護者、さくらの魔力が糧であり、生命エネルギー。
特にユエは自分で魔力を生み出せない、さくらの魔力が失われれば・・・
「んー、ワイらか?心配ないで。」
ケロ(小)がお菓子を頬張りながら返す。ユエがそれに続く。
「主(あるじ)と李小狼の魔力で変化したのは、何もカード達だけではない、ということだ。」
言ってテーブルからチョコをひとつまみ取り、その口に放り込む。
「ふむ・・・『食べる』という感覚も悪くないな。」

 その光景を見てエリオルが固まる。引きつった表情で辛うじて絞り出す。
「ユエが・・・物を食べた!?しかも、エネルギーを魔力に・・・?」
「そのようだな、私もケルベロスと同じ、主の魔力に頼らなくても存在できるようだ。」
ユエが返す、そして立ち上がり、さくらと小狼の前に立つ。
「だが、本当に驚くのはここからだ。」
 ユエの言葉に体を硬直させるさくらと小狼。隣りではケロがむっふっふ、という顔をして
次の展開を待つ。
0297無能物書き
垢版 |
2019/04/07(日) 22:10:08.82ID:2t3ZP2UQ0
 ユエはふたりに背中を向け、体を青白く輝かせる。そして羽根を丸める。
それはいままで何度も見た、ユエが雪兎に戻る時のアクション。
だけど、今回はいつもとは違っていた。羽根はユエを包まずに、その背中の何もない空間を
包み込む。まるで背中に繭(まゆ)かランドセルでも背負うかのように。
 そして一層まばゆく輝くと、その羽根をほどく。その中にはひとりの青年、華奢な体。
端正な顔に眼鏡をかけた、さくらのよく知る人物。
「雪兎さん!」

「分離・・・した???」
次々起こる理解を超える現象に凍り付くエリオル。もともと表と裏の存在であるユエと雪兎が
別々の存在としてそこに立っている。もはやエリオルにいつものクールさは無く、引きつった顔と
頭の上のハテナマークが彼のキャラを完全に変えていた。

 雪兎は居ずまいを正すと、さくらと小狼に向けて一歩踏み出す。そしてふたりをじっ、と見る。
「雪兎・・・さん?」
「あ、あの・・・」
じっと見られて硬直するさくらと小狼。雪兎はふたりを見るその表情が、徐々に崩れていく。
そして雪兎は前方に倒れ込み、がばぁっ、とさくらと小狼に抱き着く。

「ありがとう、ありがとう・・・ありがとおぉぉぉっ!!」
突如、号泣する雪兎。ふたりも、周囲の人間もそのリアクションに固まる。ケロとユエを除いて。
「ほ、、ほえええっ!?」
「ど、どうしたんですか?」
雪兎は泣きながら、二人に言葉を紡ぐ。感謝の言葉を。
「僕は、僕は・・・人間になれたんだよ、ふたりのおかげで・・・ありがとう、ありがとうっ・・・」
「「えええっ!?」」
「ずっと・・・ずっと、コンプレックスだったんだ・・・僕が、人間じゃないことに・・・
子供の頃なんて無くて、僕のお爺さんとお婆さんなんて、本当はいなくて・・・」
0298無能物書き
垢版 |
2019/04/07(日) 22:11:26.71ID:2t3ZP2UQ0
 月城雪兎。クロウカードの守護者ユエの『表の顔』として、この世界にその存在を許された
偽りの存在。やがて来る『最後の審判』の為に、さくらのそばに居るための『作られた』存在。
 いつも明るく笑って、悩みなどおくびにも見せず、そこに居ただけの人形。
さくらの魔力が少なくなった時は、その存在さえ消えかけ、桃矢の力をもらってようやく存続を
許された希薄な存在。
 そんな彼の心の闇、それは人間への憧れ。ずっと決してかなわないと思っていた願い。
そんな彼の願いは、さくらと小狼によって叶えられた。カード達と同様『思い合う男女』の魔力によって
彼は人間としての肉体と、存在と、そして寿命を与えられた。

「あ・・・」
さくらは気づく。そんな雪兎の悩みに、そしてそれを解消してあげた自分たちの功績に。
「・・・よかった。」
さくらはかつて海岸で小狼に話したことを思い出していた。自分じゃ雪兎の力になれない、彼の悩みを
解決してあげられらい、そもそも雪兎は自分なんかに自分の悩みを見せたりしない。
 そんな自分が雪兎の願いを叶えられた、雪兎にいっぱいいっぱい大切なものをもらったさくらが
初めて雪兎に恩返しができた。そんな思いがさくらにその答えを返させる。
「私、ずっと思ってたの。雪兎さんには貰ってばかりで、なんにもかえせない。そんな自分は
やっぱり子供なんだ、って。」
「・・・え?」
「だから嬉しい。私が雪兎さんの役に立てたことが。」
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