多くの数学者を引きつける

現在は「ハドヴィガー=ネルソン問題」と呼ばれる、平面の彩色数を見つけるこの問題は、数多くの業績を残したことで有名な数学者ポール・エルデシュを含む多くの数学者の興味をかき立ててきた。

研究者らはすぐに、可能性を絞り込んだ。頂点が無限個ある、この無限グラフを彩色できる色数は、4、5、6、7のいずれかであるのを明らかにしたのだ。
その後の数十年間では、ほかの研究者らが部分的な結果をいくつか証明したものの、色数の範囲については誰も変更できなかった。

そして、「現在生きている人間の寿命は1,000歳まで延びる」との主張で知られる生物医学・老化学者のオーブリー・デ=グレイ[日本語版記事]が2018年4月、
科学論文のプレプリント投稿サイト「arxiv.org」に論文を掲載した。論文のタイトルは「平面の彩色数は5以上(The Chromatic Number of the Plane Is at Least 5)」である。

デ=グレイはこの論文のなかで、4色だけで彩色するのは不可能な単位距離グラフ(Unit distance graph:平面上ですべての辺が同じ長さとなるよう描けるグラフ)の構築方法を説明している。
この発見は、この難問探求における初めての大きな前進を示すものだ。この難問が発表された直後を除き、解決につながる動きはこれまでほとんどなかった。

「わたしは並外れて運がよかったのです」と、デ=グレイは言う。「60年来の難問の解決法を考えつくなんて、日常でよくあるわけではありませんから」

愛好家が「数学の新たな側面」を増やす
数学分野の先駆者という意味では、デ=グレイはそれとはまったく無縁の人物に見える。
彼は「老化を止める」技術の開発を目標とするSENS研究財団の共同創立者兼最高科学責任者を務めている。

デ=グレイが今回の平面問題の彩色数にたどり着いたのは、ボードゲームを通じてだった。
オセロのプレイヤーだったデ=グレイは数十年前、同じゲームの愛好家だった数学者数人と知り合いになった。そこで数学者たちからグラフ理論を紹介されて以来、折に触れて考察している。