「わかった」
 小角は、やおら立ち上がると、持っていた杖を地面に打ちつけた。「とーん」と快い音とともに、突き立てた杖の下から清らかな水が湧き出した。
 小角は、柄杓で水を汲み上げると、今度は弱りきった大蛇の体にかけてやった。すると大蛇は、1メートル弱の普通の赤蛇に。
「これからは、人の目に触れぬ場所で安穏に暮らせ」
 小角が言って聞かせると、元大蛇はかすかに頷いて深い草むらに消えていった。それからは、小石原の里に平和が戻ったとのこと。役の行者というお方は、鍛えられた精神力で、弱い立場のものを救った偉いお坊さんなのである。