そこは大和の山岳で鍛えぬいた小角である、騒がず座り込んで香精童子の力も得て呪文を唱えた。
「ノウマクサマンダラ バサラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウンタラ カンタラ エーイ」
 その世界で頂点を極めた者のみに与えられた毒蛇封じの呪文であった。
「エーイ!」
 沼全体が震え上がるような気合で九字を切ると、あれほど猛っていた大蛇の鎌首が勢いをなくしてうなだれてしまった。
「もう人さまに悪さはしまっせんけん、どうか許してもらいたか」
 大蛇の哀れみの声が、研ぎ澄まされた小角の耳に届いた。