思案の末に役小角は、家来の赤鬼・青鬼に命じて薪を集めさせ、頃合を見て火をつけさせた。天に向かって白煙が立ち上ると、遥か東の空から数十羽のカラスが飛んできた。カラスはカラスでも、修験の衣装を身につけたカラス天狗どもである。
 小角はカラス天狗に羽ばたきを命じると、火勢はますます強くなり、煙は広大な沼中を覆った。それまで控えていたクロが、ありったけの声で吠え立てたから、草むらに隠れていた大蛇もたまらない。10間(18b)もある体をのっそりもちあげた。せっかくの昼寝を邪魔された大蛇は、いぶし作戦を仕掛けた役小角が許せなくて、真っ赤な口をあけ2枚の舌をチョロチョロさせながら襲い掛かってきた。