2 追加的コスト
 勝訴の可能性が高い被告も、通常は自分のために弁護士に依頼しています。そして、自己の負担で弁護士費用を支払っています。
 このコストは、前回のブログでも書いたように、いわゆるサンク・コストですから、和解をしても回避することができないので、和解の動機にはなりえません。

 しかし、被告が原告にいくらかの和解金を支払うことで、追加的コストを回避することができるのであるならば、その追加的コストを下回る和解金を支払うことは、極めて合理的な行動になります。
 では、和解しなかった場合の被告の追加的コストは何でしょうか。それは敗訴した原告が控訴したために、次の控訴審で被告が支払わなければならない弁護士費用等です。
 控訴するために裁判所に支払う印紙や予納郵券の費用は控訴人である原告が負担しますので、被告のコストではありません。
 しかし、弁護士費用のほか、弁護士との打ち合わせに要した時間、移動交通費、弁護士に支払う実費等は被告のコストになりえます。このうち、最も高額なのは、おそらく弁護士費用でしょう。
 仮に、原告に控訴された場合に、被告が控訴審の弁護士に支払う費用が50万円かかると仮定しましょう。この費用は、もし控訴されたら支払うことになる将来的費用なので、サンクコストではありません。
 したがって、和解してしまえば、被告は原告による控訴を回避できるので、この追加的コストも回避できることになります。
 ただし、条件があります。和解金が追加的コストよりも低いことです。先の例だと、50万円未満の和解金であれば、被告は、勝訴判決をもらうよりも、原告に和解金を支払ったほうが得です。
 これが勝訴できる被告の和解動機です。

 これに対し、濫訴した原告にとっては、自己が負担した訴訟費用を少しでも上回れば訴訟の収支を黒字にできますから、これまた和解動機を持つことになります。このように、

原告の訴訟費用<和解金額<被告の追加的コスト

 という条件が満たされれば、和解が成立する余地が生まれます。いくら原告の勝訴率が低く、被告の勝訴率が高くても、和解した方が経済的に合理的だからです。
 このようにして濫訴は起こされます。