優男のようで精悍さを感じさせる顔立ち。
すこしつんつんした毬栗みたいな短めの黒髪。
総合的に言えば美形。アンナが喜びそうだな、と思った。
レインが勇者になった時、王城で見せられた"伝承の勇者"の肖像画にそっくりだ。

「私の名はアルス。君達には顔と名を明かすが、魔王軍にはなるべく悟られたくない。
 もし名前を呼ぶことがあれば連中が名付けた『仮面の騎士』で頼みたい」

そう言って、アルスは静かに仮面を被り直した。
腕が震える。顔といい、名といい、1000年前に世界を救った勇者その人ではないか。
最初の勇者は魔を打ち払った後天界へ昇ったと聞く。これはお伽話にもある公然たる事実だ。

天界とは神々の住まう場所。物質世界から解放された彼に寿命など関係なかろう。
確証はないが確信した。アルスは間違いなくかつて世界を救った勇者だ。

「や、やはり貴方はあの"伝承の勇者"だったんですね……!」

「……そうだな。君達に隠し事をしても意味などない。
 魔王の復活を許した私に、名乗る資格はないが……。
 確かにかつて勇者と呼ばれていた。もう大昔の話になる」

仮面の騎士の肯定を得て、これで正体が確定した。
彼こそはかつて魔王を倒した本物の勇者、アルスなのだ。
現実味に欠けるような気もするが――この期に及んで嘘は言わないだろう。

「クロム、マグリット。悪いけれど俺は仮面の騎士を旅に同行させたい。
 我儘だけど……俺は強くなりたい。この人に修行を手伝ってほしいんだ」

ダメもとでレインは頼んだ。不信感を抱いている二人のことだ。断られる気もする。
その場合、仮面の騎士は"風月飛竜"の攻略法だけ伝えて去ることになるだろう。
だが正体が判明した以上、レインは彼に聞きたいことも沢山あった――。
例えば、未だ謎多き『魔王』に関する情報などがそうだ。


【仮面の騎士:名前はアルス。正体は大昔の勇者。質問があれば答えます】
【レインの頼み:修行を手伝って貰いたいから仮面の騎士を旅に同行させたい】