深海に沈んだように意識は深い底へと落ちていく。
ああ、またこれか。諦念にも似た感情は高い壁にぶつかったようで。
しょせん自分はこの程度なんだと久々に思い知らされた。
もしかしたら……自分は大幹部に一生勝てないのでは?

だけど諦めない。諦めるわけにはいかない。
魔王を倒すという果たしたい約束があるから。
何度でも、奴が待ってる場所へ手を伸ばすだけだ。
やがて意識は深淵から急上昇をはじめ――……。

「……はっ!」

目覚めた眼で見上げた空はいつもの快晴だった。
起き上がると仮面の騎士がどこ吹く風で佇んでいる。
対して、クロムとマグリットが不信を露にした態度でそこにいた。

原因は仮面の騎士の正体が分からないという、不審さが原因なのだろう。
剣呑な空気を断ち切るように、レインは起き上がって話はじめた。
気絶の影響で変身召喚はすでに解けている。

「いてて……風の大幹部の戦術は理解しました。
 でも……俺の実力じゃそもそも次の大陸で通用するかどうか……」

仮面の騎士は沈黙を保ったままレインの方へちらと顔を向ける。

「……だからもう一回。もう一回やりませんか。
 以前に貴方は俺に言いましたよね。可能な限り強くなってもらうと。
 ならせめて、その手伝いはしてください。一人で剣の素振りでもしろって言うんですか?」

この手合わせ、レイン個人として到底納得がいくものではなかった。
何せ、試しも兼ねていたのに、一人無様に気を失ってしまったのだから。
凄い勢いで仮面の騎士に詰め寄ると、話を続ける。

「嫌とは言わせませんよ。極端な話、俺は貴方の正体なんてどうでもいい!
 魔王を倒すためなら、どんな手段だって使うし、どんなことだってする覚悟です!」