そんな話をして、スフィカは少し前向きな気持ちになれた。
その時、若い男女の2人組がラントロックに声を掛ける。

 「や、ラントじゃないか!」

ラントロックは振り向いた。
女性の方には見覚えがある。
フィーゴ・ササンカだ。
着物姿のボルガ地方の伝統的な格好では無く、常夏の地に合わせた、露出の多い服を着ている。
暑ければ、それなりの格好をするのは当然の事だと、ラントロックは疑問に思わなかったが、
当のササンカにとっては大きな変化である。
ボルガ地方民はグラマー地方に次いで、肌を露出したがらない傾向にあり、特に伝統的な価値観を、
重視する人間は、その傾向が強い。
隠密魔法使いの集団は、その極地である。
ササンカは村を抜けた事で、外の文化に馴染んだのだ。
それは扨て置き、問題は男性の方である。
ラントロックは男性の方に見覚えが無かった。
しかし、彼の纏う魔力の流れは知っている。

 「レノック……さん?」

 「そうだよ、レノック・ダッバーディーだ。
  何時もの姿じゃなくて悪かったね」

レノックは爽やかに笑い、ラントロックに問い掛けた。

 「こんな所で何をしてるんだい?
  隣の子は……」

彼はラントロックの隣のフードを被ったスフィカの顔を覗き込もうとする。