スフィカは俯いた儘で、何も答えなかった。
ラントロックは怪訝な顔になって問う。

 「……スフィカさん?」

 「本当は、人間に成るのが怖いんだ。
  本当に人間に成れるのかも。
  もし、失敗したら、どう仕様か……。
  そんな事ばかり考えてしまう」

深刻に悩む彼女に、ラントロックは言う。

 「もし成れなくても大丈夫。
  俺はスフィカさんを見捨てたりしないよ。
  どこかで潜(ひっそ)りと暮らそう。
  禁断の地みたいな、共通魔法使いの目の届かない所で、静かに暮らすんだ」

 「有り難う、トロウィヤウィッチ」

スフィカに感謝されたラントロックは、少し困った顔をした。

 「『トロウィヤウィッチ』じゃなくて……。
  スフィカさんも俺を名前で呼んでくれないか?
  俺は『ラントロック・アイスロン』だ。
  『トロウィヤウィッチ』は魔法使いの名前、バーティフューラーは一族の名前。
  俺自身はラントロック」

 「ラントロック?」

 「そう、ラントロック。
  長いならラントで構わない」

 「分かったよ、ラント」