「俺だから良かったものの、他の奴だったらどうするんだよ」
近くの商店街に向かう道を歩きながら風太郎は溜息をつく。
2人の手は違和感なく繋がれており、照れは見えない。
「いいの、どうせあの家には私達の誰かかマネージャーさんか」
「君以外来ないんだから」
繋いだ手に力が込められる。
それは信頼、そして愛情。
「まあ、その、それなら」
手を強く握り返すと、風太郎は照れたようにそっぽを向く。
「〜♪」
その表情に満足したのか一花は楽しそうに歩みを進める。
そんな一花を見て風太郎も自然と笑みを浮かべる。
「そうだ!折角買い物するんだし、この間欲しいって言ってた小説をおねーさんが買ってあよう」
「あのなぁ...」
風太郎は呆れた溜息を吐く。
「前に一花自身が言った通りその貢ぎ癖治せよ」
「うう...」
昔からこうだと一花は反省する。
機嫌が良くなると特に相手に尽くしたくなる。
自身でも悪癖という認識はあるし、風太郎にも幾度となく咎められている。
でも癖はなかなか抜けない。
「それに、」
風太郎はそっぽを向きながらも素直な言葉を繋ぐ。
「そういう所で好きになったって見られたくないだろ。俺はちゃんと俺の一番が一花だからここに居るんだし」
言ってみてどことなく臭さを感じつつ、風太郎は一花の顔を覗いてみる。
「...」
白く艶やかなその頬には涙か伝っていて、風太郎はキャンプファイヤーを思い出す。
美しささえ覚えた涙、今となってはあの理由は分かっている。
風太郎の心無い言葉が一花の心を傷付けた、その痛みの涙。
しかし今回の涙は記憶と一つだけ異なっている。
「風太郎!」
一花が風太郎に抱きつく。
往来は少ない道とは言え人目がゼロな訳では無い。
しかし一花にはそんな事は見えていなかった。
「大好きだよ、私風太郎が好きで良かった。風太郎に好きになってもらえて良かった」
風太郎は一花の背中に手を回す。
「俺も一花が好きだ」
「風太郎...」
一花の顔が風太郎に迫り...


「な、なんだこの夢は...」
妙に明確で、リアリティのある夢に風太郎は飛び起きる。
「悩みすぎたか...」
風太郎は気を取り直して眠りにつく。