「...」
ノートの上にシャープペンシルを投げ捨てると、風太郎はぼんやりと天井を見つめる。
ある事があってからこうする事が増えた事は風太郎にも自覚出来ていた。

『あんたを好きって言ったの』

告白、だったのは言うまでもなかった。
その場で返事なりをして解決出来ていれば良かったのかもしれないが、問題は重要さに見合わずあっさりと回答が先延ばしになっていた。
(二乃がな...)
信じられないという気持ちと、どこか報われたような気持ち、様々な感情が日常のそこかしこで顔を出す。
勉強は殆ど手につかなくなっていた。

「お兄ちゃん!」
風太郎の背後から声が聞こえる。
「らいはか...」
「またぼーっとしてる。100点取れなかったからって落ち込まないでよね」
勿論的外れな推測だが風太郎にはそれが嬉しかった。
自分がどう有るべきか思い出させてくれる、それがありがたかった。
「たまには調子の悪い時もあるだけだ。次は満点御礼にしてやるさ」
そんな風太郎をみるとらいははほっとしたような笑顔を浮かべる。
「その意気だよ! 成績落ちたら五月さん達の家庭教師もクビになっちゃうかもしれないし」
その言葉にギクリとする。
五月の名前を聞けば必然的に全員の顔が頭をチラつく。
勿論その中には頭を悩ませる元凶の二乃もいる。
「会えなくなったらお兄ちゃんも寂しいでしょ?」
らいはは無邪気にそう言う。
寂しくないかと聞かれれば勿論寂しい、とは思う。
それがどういう感情かと聞かれると...、心にモヤモヤが溜まるのも事実だった。
「まあ、もしお兄ちゃんが五月さん達の誰かと付き合うなんて事になれば別かもしれないけど、それは無いよね」
『付き合う』
その言葉に風太郎の心は締め付けられる。
そう、回答しだいではそんな未来があるのかもしれないのだから。

その夜布団に潜った風太郎は何となく考えていた。
「付き合う、か...」
そんな事になるのかは分からない、ただその可能性は提示された。
全く分からない未来、自分はどうなるのだろうか。
漠然とした不安を感じながらも、少しの胸の高鳴りを聞いていると眠気が襲ってくる。
「そんな未来があるなら...」