【五等分の花嫁ss】五等分の未来
注意点
原作7巻プラスα時点での関係になります
単行本派の方は若干のネタバレになります
1人1日で書くので力尽きたらごめんなさい
誤字脱字は目をおつぶり下さい 「...」
ノートの上にシャープペンシルを投げ捨てると、風太郎はぼんやりと天井を見つめる。
ある事があってからこうする事が増えた事は風太郎にも自覚出来ていた。
『あんたを好きって言ったの』
告白、だったのは言うまでもなかった。
その場で返事なりをして解決出来ていれば良かったのかもしれないが、問題は重要さに見合わずあっさりと回答が先延ばしになっていた。
(二乃がな...)
信じられないという気持ちと、どこか報われたような気持ち、様々な感情が日常のそこかしこで顔を出す。
勉強は殆ど手につかなくなっていた。
「お兄ちゃん!」
風太郎の背後から声が聞こえる。
「らいはか...」
「またぼーっとしてる。100点取れなかったからって落ち込まないでよね」
勿論的外れな推測だが風太郎にはそれが嬉しかった。
自分がどう有るべきか思い出させてくれる、それがありがたかった。
「たまには調子の悪い時もあるだけだ。次は満点御礼にしてやるさ」
そんな風太郎をみるとらいははほっとしたような笑顔を浮かべる。
「その意気だよ! 成績落ちたら五月さん達の家庭教師もクビになっちゃうかもしれないし」
その言葉にギクリとする。
五月の名前を聞けば必然的に全員の顔が頭をチラつく。
勿論その中には頭を悩ませる元凶の二乃もいる。
「会えなくなったらお兄ちゃんも寂しいでしょ?」
らいはは無邪気にそう言う。
寂しくないかと聞かれれば勿論寂しい、とは思う。
それがどういう感情かと聞かれると...、心にモヤモヤが溜まるのも事実だった。
「まあ、もしお兄ちゃんが五月さん達の誰かと付き合うなんて事になれば別かもしれないけど、それは無いよね」
『付き合う』
その言葉に風太郎の心は締め付けられる。
そう、回答しだいではそんな未来があるのかもしれないのだから。
その夜布団に潜った風太郎は何となく考えていた。
「付き合う、か...」
そんな事になるのかは分からない、ただその可能性は提示された。
全く分からない未来、自分はどうなるのだろうか。
漠然とした不安を感じながらも、少しの胸の高鳴りを聞いていると眠気が襲ってくる。
「そんな未来があるなら...」 一花の場合
「ほら、起きろって」
風太郎は布団を揺する。
布団の主は中で身悶えしながらも、外に出てくる気配はない。
「おい」
さらに揺するのを強くする。
「ん〜」
小さな声が中から聞こえるがそれでも出てくる気配はない。
「一花!」
朝の大事な時間が潰される事に耐えかねた風太郎は掛け布団を掴むと一気に剥ぎ取る。
ゴロゴロと音を立てて布団の主が肌色を晒して溢れてくる。
「はぁ...」
昔から変わらず全裸になる癖は抜けていない、それどころか一人暮らしになってからは悪化している気配もあった。
「まだ早いよぉ...」
目を擦りながら一花はゆっくりと起き上がる。
その途中、自分が全裸な事に気付き一花は恥ずかしそに胸元を隠す。
「あはは...」
照れながらも目の前の風太郎に気付くと一花はイタズラな笑みを浮かべる。
「朝からしたかったの?」
「起きろ」
風太郎は一花の頭を軽く叩くと、手近に有ったバスタオルを投げつける。
「早く着替えてこいよ、出掛けるんだろ?」
こんな光景慣れ切ってる、そんな風太郎の仕草に一花は不貞腐れた表情を浮かべる。
しかし直後にある事に気付くと一花は表情をニヤケさせた。
「したかった、って所は否定しないんだね」 「俺だから良かったものの、他の奴だったらどうするんだよ」
近くの商店街に向かう道を歩きながら風太郎は溜息をつく。
2人の手は違和感なく繋がれており、照れは見えない。
「いいの、どうせあの家には私達の誰かかマネージャーさんか」
「君以外来ないんだから」
繋いだ手に力が込められる。
それは信頼、そして愛情。
「まあ、その、それなら」
手を強く握り返すと、風太郎は照れたようにそっぽを向く。
「〜♪」
その表情に満足したのか一花は楽しそうに歩みを進める。
そんな一花を見て風太郎も自然と笑みを浮かべる。
「そうだ!折角買い物するんだし、この間欲しいって言ってた小説をおねーさんが買ってあよう」
「あのなぁ...」
風太郎は呆れた溜息を吐く。
「前に一花自身が言った通りその貢ぎ癖治せよ」
「うう...」
昔からこうだと一花は反省する。
機嫌が良くなると特に相手に尽くしたくなる。
自身でも悪癖という認識はあるし、風太郎にも幾度となく咎められている。
でも癖はなかなか抜けない。
「それに、」
風太郎はそっぽを向きながらも素直な言葉を繋ぐ。
「そういう所で好きになったって見られたくないだろ。俺はちゃんと俺の一番が一花だからここに居るんだし」
言ってみてどことなく臭さを感じつつ、風太郎は一花の顔を覗いてみる。
「...」
白く艶やかなその頬には涙か伝っていて、風太郎はキャンプファイヤーを思い出す。
美しささえ覚えた涙、今となってはあの理由は分かっている。
風太郎の心無い言葉が一花の心を傷付けた、その痛みの涙。
しかし今回の涙は記憶と一つだけ異なっている。
「風太郎!」
一花が風太郎に抱きつく。
往来は少ない道とは言え人目がゼロな訳では無い。
しかし一花にはそんな事は見えていなかった。
「大好きだよ、私風太郎が好きで良かった。風太郎に好きになってもらえて良かった」
風太郎は一花の背中に手を回す。
「俺も一花が好きだ」
「風太郎...」
一花の顔が風太郎に迫り...
「な、なんだこの夢は...」
妙に明確で、リアリティのある夢に風太郎は飛び起きる。
「悩みすぎたか...」
風太郎は気を取り直して眠りにつく。 「〜〜♪」
眠から覚めるとオーブンから漂う甘い香りに乗せて、ご機嫌な鼻歌が聞こえてくる。
「寝ちまってたか...」
突っ伏していた机の上では読みかけていた新聞紙が涎でひしゃげている。
「あ、起きた?風太郎」
キッチンから顔を出した二乃は風太郎の顔を見るとエプロンを外して近付いてくる。
「もー、顔にヨダレ付いてるよ」
机の脇に置かれたティッシュを数枚取ると、二乃は慣れたように風太郎の頬を拭き取る。
「あ、すまん」
「良いわよ、別に」
二乃はティッシュを少し離れたゴミ箱向けて放り投げ、綺麗にそれが収まると小さくガッツポーズを決めた。
「家にいる時間が長いと、こういうのが上手くなっちゃうわよ」
そう言うと二乃は愛おしそうに少し膨らんだお腹を撫でる。
「無理してないか? 安定期になったとは言えさ」
「そっちこそ、疲れてるんでしょ?」
そう言いながら二乃は手際よく机の上を片付ける。
「丁度焼けた所だからお茶にしましょう」 机の上にはカスタードクリームをふんだんに詰め込んだシュークリームが置かれている。
風太郎がそれを持つと、焼きたての生地の温もりがまだ手に伝わってくる。
「本物のパティシエのスイーツがおやつに食えるってのは贅沢だよな」
風太郎は指に付いた粉砂糖を舐めとる。
「私の同僚なんかは家では絶対に作らない!って子も居たけどね。私の場合はどっちかというと手技を忘れないためなのが大きいけど」
そう言い終わると二乃は慌てて付け足す。
「でもでも、風太郎に作るのが嫌なんじゃないわよ? 旦那様には何時だって手料理を食べて欲しいし」
二乃はそう言って甘い笑顔を浮かべる。
「俺も食べれて嬉しいよ。これで明日からまた仕事頑張れそうだ」
風太郎は机の上にある二乃の手を取ると小さく握る。
言葉はなくとも二乃もその手を握り返す。
甘い匂いと時間が二人きりのリビングに流れる。
「私ね、色んなスイーツを作れるようになったけど、シュークリームが一番好きなんだ」
「そうなのか?」
昔から二乃は多種多様なスイーツを作るのを見ていた風太郎は聞き返す。
「2人で初めて一緒に作ったからね。風太郎はキンタロー君の姿だったけど」
そう言われて風太郎は高校時代のワンシーンを思い出す。
勘違いと嘘で怒らせたあの日。
二乃の告白。
真っ赤な顔でも分かる真っ直ぐな瞳。
必死に振り向かせようとしてくれた愛情。
「今なら分かるな〜。風太郎が優しくて私を傷付けない様にしてくれてたんだって。あの時はあんな終わり方だったけどね」
「まあ、あの時は俺はしっかりと二乃の事見れてなかったから...」
素直に風太郎は答える。
「今、しっかりと見てくれてるなら良いのよ。だって誰でもなく、私を選んでくれたんだから」
二乃はそう言うと繋いだ手の指を絡める。
「出来てからご無沙汰だったからさ」
二乃はつないだ手は話さず少し俯いて囁く。
「もう少し甘いのがほしいなーなんて」
その言葉に2人の顔はゆっくりと近づいて...
「........」
風太郎は天井を見つめる。
「なんで、こんな夢ばっかり...」
「いや、悩みすぎてるからか...」
不思議な夢に頭を悩ませながら風太郎は再び眠りに落ちる 新緑の香りが風太郎の鼻腔をくすぐる。
少し遅れて女の子特有の甘い香りがやって来る。
「起きた?」
風太郎が目を開けると、そこには透き通るような青空と見つめて来る優しい笑顔。
「あ〜、スマン三玖」
後頭部から伝わる温もりとその景色から風太郎は膝枕されている事に気付き、慌てて起き上がる。
「別に良かったのに」
三玖は少し不満げに言うが、直ぐに笑顔を浮かべる。
「こんなにいい天気だと仕方ないよね」
三玖はそう言うと目をつぶる。
春の心地よい暖かさに包まれた公園。
ピクニックシートの下の柔らかな芝生。
穏やか、という言葉を具現化した様な環境がそこには広がっていた。
「公園デートにして良かったな」
風太郎は起き上がり、三玖と同じ様に目をつぶる。
風の音、僅かに聞こえる賑やかな子供の声。
そっと重ねられらた手。
「うん...」
三玖は小さく答えると、重ねた手の指を絡める。
「風太郎はあったかいね」
「三玖の方があったかいと思うけどな」
その存在を確かめるように風太郎はそっと指を沿わせる。
「風太郎の方が風邪引きにくいからあったかいよ」
「そんな理由かよ...」
他愛のない会話が繰り返される。
時々笑い、たまに拗ねてみたり、指先同士でイタズラしてみたり。
優しい時間だけが流れていく。 「お茶入れようか?」
ひとしきり話し終えた頃、三玖は水筒を取り出す。
「そうだな、時間もいいし弁当も食べようか」
風太郎のその言葉に三玖はピクリと肩を震わせる。
「60点ぐらいでお願いします...」
そう言いながら三玖は鞄からおずおずと弁当を取り出す。
可愛らしい花柄をあしらった包みを解くと、綺麗な三角形に握られたおにぎりと、幾つかのタッパーが現れる。
「して今日のメニューは?」
風太郎が聞くと三玖はタッパーの蓋を開けながら説明する。
「自信作のおにぎりに卵焼きとソーセージ、プチトマト。あと少し挑戦してみた唐揚げに、デザートはうさぎりんご」
「自信作が殆ど調理してない物だな」
綺麗に盛り付けられた自信作と、少し彩りに怪しさが見える唐揚げがピクニックシートの上に並べられる。
「そんなことは無い。焼いたり洗ったり、大変だった」
三玖は水筒の緑茶をカップに注ぎ、それぞれの前に置く。
「じゃあ頂きます」
「頂きます」
風太郎は箸を卵焼きに伸ばし、一口で口に収める。
その行動を三玖はしっかりと見つめ、反応を伺っている。
「美味いな。さすが自信作だ」
「...」
照れた笑顔を浮かべながら、三玖は小さくガッツポーズをする。
「一杯練習したからね」
「学生時代から考えると大躍進だな」
続いて風太郎は唐揚げに手を伸ばす。
少し衣に焦げが見えるが、下味の醤油のいい香りが漂う。
「そんなに見られるとな...」
三玖は箸を動かすことなく風太郎の一挙手一投足に意識を向けている。
「風太郎の女の子に求める物第2位だから」
高校時代に少し悪ふざけで言ったことをしっかり覚えている三玖に苦笑しながら、風太郎は唐揚げをかじる。
「美味いな。俺好みだ」
その言葉に三玖は胸を撫で下ろす。
「風太郎の美味しいは幅広いけど、私にはとっても嬉しいな」
そう言って三玖は唐揚げを食べ始める。
「やっぱり60点だね...」
「俺は美味いんだけどな」
昔から変わらない少しズレた基準に三玖は小さく笑みを浮かべる。
「もっと上手くなるね。風太郎が毎日食べたくなるように」
食事を終えた後、2人は並んで景色を見ていた。
「そう言えばさっきのもっと上手くなるって話。別に焦ったりする必要ないんだぞ」
「どうして? 早いに越した事はないと思うけど」
三玖の言葉に風太郎は少し言葉を飲んだあと続ける。
「これからはずっと一緒なんだからさ。時間は沢山あるって事だよ」
言い終えると風太郎は三玖の左手薬指のリングを軽く叩く。
永遠を誓った2人が付けるエンゲージリング。
ほんの数日前、風太郎はそれを渡していた。
「そう、だね...」
三玖は愛おしそうに左手を抱きしめる。
ずっと思った恋心、見つけれもらって、助け合って、ゆっくりと三玖のスピードで歩んできた恋路。
「ねぇ、風太郎...」
「なんだ?」
風太郎が三玖の方を向くと、愛おしい顔が近づいてきて...
「夢、だな...」
風太郎は三度布団から飛び起きる。
悪夢では決してないが、あまりにもあの姉妹の夢を一日で見すぎている。
「悩みすぎなのか...」
しかし流石にここで終わりだろうと風太郎はまたまたまた眠りにつく。 >>11
今のssって殆どpixivとかに投稿されるしそんな増えない気も