メイファンは二人の会話を陰に隠れて聞いていた。
ララを探すのを手伝ってほしいと思い、リウに助けを求めに来たところだった。
『日本……?』
気を消すのはメイファンの得意技だ。リウは聞かれていることにまったく気づかずに、話を続けた。
「僕はもうこの国にいられない。罪をいくつも重ねてしまった」
「アンタの罪じゃねェだよぅ!」
「そんなことわかっちゃ貰えないさ。日本に住んでいる友達が何人かいるんだ。彼らを頼ろうと思う」
「アンタ……この国にいれば、国民的英雄なのに、勿体ねェだ」
「僕は反中国共産党なんだよ。元々この国に馴染んではいない」
「そうかァ〜」
「リーラン、君にも一緒に日本へついて来てほしい」
「……オデなんか連れて歩いて恥ずかしくねェだか?」
急に二人は沈黙した。メイファンにはリウがジンチンにキスをしたのがわかった。
「君は綺麗だ」リウは真剣な声で言った。「今、生きている人間で君より綺麗な女性を僕は一人も知らない」
『畜生』なぜだかメイファンはとても悔しかった。『どんな美人だ』
壁から覗き見をして、思わず声を上げてしまった。「ヒッ!」
「メイ!」リウに気づかれた。
メイファンは姿を見せ、ジンチンをまじまじと見た。見た目が醜いだけのものなんかすぐに見慣れてしまった。
「聞いていたのか」
「フン……。貴様、日本なんかへ行くのか」
「世話になったな。何の礼も出来ずに行くが、すまない」
「フン」メイファンはなるべくリウを見ないようにして言った。「これで完全に敵同士だな」
「そうだな」リウはまっすぐに見て、言った。「お前は中国共産党の家族、俺は国外から中国民主化を企む戦士だ」
「中国共産党なんかどーでもいい。ただ、仕事でお前を殺しに行くことはあり得る」
「いつでも来いよ」リウは笑った。「また殺し合おうぜ、俺の最高の妹」
「チッ」メイファンは顔を伏せてしまった。「日本なんか行くなよ。中国人嫌いがいっぱいいて、いじめられるらしいぜ」
「俺がいじめられるタイプに見えるか?」
「シューフェンさん置いて行くのかよ? ひでぇ奴だな」
「もちろん連れて行く。位牌も、髪の毛も、形見のネックレスも」
「私は!」メイファンはそう叫んでから何が言いたかったかわからなくなってしまった。「私は……行かねーからな」
「いや、いつでも遊びに来いよ」リウはニヤニヤと笑った。「俺はお前のお兄ちゃんだからな」
突然メイファンは走り出した。寺院の角を曲がり、公園を抜け、足に『気』を込めて、走って、走って、走り続けた。
リウが行く国はそんなに遠くではない。しかしその距離よりも遥かに遠い所へ行ってしまうような気持ちがして。