ふとあの白梅の咲く寺院の裏庭へ行ってみたくなり、足を運んだリウは驚いてしまった。
口の周りの肉が齧り取られたままの姿のジンチンが、あの時と同じように石のベンチに座っていたのだ。
「ジンチンさん」
声を掛ける前から彼女はリウに気づき、嬉しそうに笑っていた。
「よかった。また会えただなァ」
「病院には行っていないのですか!?」
「必要ねェだよ。元々ひでェ顔だァ」
ジンチンはそう言って、裂けた口を大きく開け、黄色い歯を剥き出しにして笑った。リウはその顔を心から美しいと思った。
「僕が連れて行こう。僕がつけた傷だ」
「いいってェ。それより……」ジンチンはリウの中を覗き、言った。「ララちゃん、無事に出ただな?」
「ええ、彼女の一番好きな、愛くるしい顔をした妹の中へ無事帰りました」
「よかったァ」ジンチンは心から嬉しそうに笑った。「本当によかったァ」
「隣に座っても?」
「オデなんかの……」ジンチンは頬を染めた。「本当に……オデなんかの隣でよかったら」
どこかで聞いた台詞だった。などと記憶を辿るまでもなく、リウにはわかった。
(『こんな私で……』シューフェンは泣きながら笑顔を浮かべた。『本当に……こんな私でよろしければ』)
そうだ。プロポーズをしたシューフェンの返答の言葉だ。
リウはジンチンの横顔を激しく見つめた。
自分にはジンチンやメイファンのように、ララが誰かの身体の中にいてもはっきりとわかることは出来ない。
もしかして……リウは思わずにいられなかった。もしかして、ジンチンの中には、シューフェンがいるのではないのか?