リレー小説「中国大恐慌」
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
2018年11月21日、中国東部を超巨大規模の停電が襲った。
北京周辺から上海周辺にかけて、地上から電気が消え、人々はパニックに陥った。
これはそんな架空の中国が舞台の物語である。
主人公の名前は李青豪(リー・チンハオ)。
29歳の青年である。通称は「ハオさん」。
愛称は「ハオ」。 チョンボは高級フカヒレが
食べたくなった。
「ここが、珍門飯店か」 チョンボ「ビール下さい」
店員「冷たいビール? それとも常温?」
チョンボ「ホットで」 「妹はあなたのことをかなり気に入ってるみたいですよ」
ララは手当てをしながら喋った。
「いや、俺、殺されそうになったこと何べんもあるんだけど……」
「でも殺されていないでしょう?」
「え……うん」
「それが証拠ですよ。妹が本気ならあなた程度、ものの0.5秒で首が落ちてます」
「あっ、そう」
ララの二の腕がハオの胸に当たる。黒髪から立ち昇るいい匂いが鼻をくすぐった。
「でっ、でも何で俺なんか気に入ったんだろう」
「ハオさん、彼女さんがいるんですって?」
そう言いながらララは見上げて来た。胸の先っちょがハオの膝に触れた。
ハオは一瞬、彼女などいないことにしようとして思いとどまり、「いるよ」と答えた。
「その彼女さんのことをとても大事に思っているとか」
ララはピチピチの青いチャイナ服を着ており、露出も少なめだったが、基本全裸のメイファンよりも断然エロかった。
『フェロモンムンムンって聞いて想像してたのとはタイプが違うけど、これは確かに……』
「ハオさん?」ララはハオの足に乗っかって不思議そうに見上げて来た。
「あっ、ああ……。うん、大事だと思ってるよ」
「そういうとこですよ」
ララは立ち上がるとハオの顔に薬を塗りはじめた。喋るたびにいちいち吐息がかかる。
「妹は女を道具のようにしか見られない男性が嫌いなんです」
下に降ろした指先がハオの如意棒をつんと突いたが、わざとではないようだった。
「だから彼女さんに一筋なハオさんのことをお気に入りなんだと思いますよ」
髪の毛の中を怪我していないか確認するためにララはハオに抱きつく形になった。胸の膨らみが直撃する。
『天然フェロモン娘か!!!』
そう思いながらハオはなんとか冷静な口調で言った。
「でもあいつ、俺に君を紹介するとか言ってたぜ?」
「フフ、試したんですよ」
「試した?」
「そこで『お願いします』とか答えてたら、たぶん貴方の生命はそこまでだったと思います」
「!」
「だから気をつけてくださいね、ハオさん。他の女に気を向けるようなことがあったら、妹はすぐにでも貴方の首を飛ばしますよ」
「!」 その頃シューフェンは病院の待合室のベンチに座っていた。
その虚ろな目で床をぼんやりと見つめている。
「…ううっ」
シューフェンの目から大粒の涙がぽろぽろ流れ出す。 「やっぱりハオ君だったの?」
友達のジァティンが背中をさする。シューフェンは首を横に振った。
海岸で発見された首なし死体がハオの免許証を持っており、住所がシューフェンのアパートになっていたため、知らせが来たのだ。
検死室で対面した遺体はハオのものだとは思えなかった。
同じぐらい逞しくはあり、身長も同じぐらいだったのだが、シューフェンにはどうもはっきりとは言えない違和感があった。
しかしこれだけひどい有り様では違和感があって当然とも言え、彼女はただ泣くしか出来ないのだった。 シューフェンはその日から一人でいる時でも化粧をするようになった。
ハオがいつひょっこり帰って来ても綺麗な顔を見せられるように。
あれがハオではないと自分に言い聞かせるために。
それはまた自分に会いに来てくれるかもしれないリウのためではない、と言い切ることはしかし出来なかった。 そんなシューフェンに更なる不幸が訪れる。
いつの頃からか咳や痰の症状が出るようになった。
最初は「風邪かな?」とシューフェンは気にしなかったが3週間も4週間も症状が収まる気配がなく、やがて痰に血が混じるようになったので
不安になった彼女は1度病院で診察を受けるとこにする。
検査の結果、肺癌に犯されていることが分かり、膵臓への転移も確認された。 メイファンは青竜刀を研いでいた。
「さすがに大の男の首をはねると刃こぼれするな」
次の瞬間、ぴくりと眉を動かすとその場から消えた。
玄関ホールでスーツ姿の男が二人会話している。
「あそこの店のビァンビァン麺、絶品だぜ」
「へぇ、是非今から食いに行こう」
そう言って玄関から出て行く二人について出ようとするランニングシャツにトランクス一丁姿の男をメイファンは背後から棒で突いた。
「懲りん奴だな」
「帰らせてくれ!」振り向いたハオは泣いていた。「よくない予感がするんだ! シューフェンに何かあったのかもしれないんだ!」 アリアとその家族は、表向きは夢を見て帝都にやってきたものの路頭に迷った田舎者たちに善意を施していたが
裏では彼らを相手に残虐な実験や拷問を繰り返して嬲り殺すことを楽しんでいるサディスト一家であり
その犠牲者の中に道中で離れ離れになったタツミの幼馴染サヨとイエヤスを見つける。 「それは嘘だな。お前はシューフェンのもとに帰りたいだけだろう?」
ハオはギクリとした。
事実、シューフェンによくないことが起きたというのは
涙がでるほどマジでここから出ていきたいハオの嘘だった。
「ヤダヤダァーッ、おれおうち帰るのっ、かえりたいよぉ…かいりたああい…うええあああ…」
ハオはメイファンに腕を捕まれ部屋に引きずられながら、
ハオは床に寝そべり子供のように手をジタバタさせて大泣きした。
ハオはまさかシューフェンに逃れられぬ死の宿命が訪れようとしているとは
本気で思っていなかったのだ。 メイファンは言った、「そんなに心配なら連絡すればいいじゃないか」
「したさ」ハオは少し考えてから言った、「でも上海、今、電気ねーし」
もちろんハオはスマホを使ってあれもこれも試してみていた。
しかし大停電中の上海にいるメイファンに電話は繋がらないし、メールを送っても返信はなかった。
それどころか自分の故郷の村に電話をかけても、広州の局番で適当に知らない番号にかけても繋がらないのだった。
「ここ、妨害電波みたいなの出てるよな?」
「検閲だ」
「グーグルマップみたらここは上海だった。でも誰も上海語喋ってねーし、大体上海なら電気ついてんのおかしいだろ」
「詮索するな」
「とにかく連絡しろって言われても出来ねーんだよ!」
「手紙を書けばいいだろう」
「え」
「出しておいてやるぞ。ただし、もちろん私の検閲つきで、だ」 ハオの部屋で、メイファンに見張られながら手紙を書くことになった。
「ところでお前の彼女の名前、ビーフンだったかな」
「シューフェンだ」
机に向かうハオの横で、ベッドの上にいつものように全裸で胡座をかきながらメイファンは楽しそうだ。
「手紙なんて書くの何年振りだろう」ハオはペンを持ったまま固まっていた。「何書いたらいいやら……書きたいこと多すぎて……」
「よし、まずは私の言う通りに書き出せ」
「……やってみるよ」
「ビーフン」
「シューフェンな」
「俺、新しい彼女できた」
「殺すぞ」
「美人姉妹の姉のほうだ。名前はララ」
「ララだって怒るぞ、それ」
「アニメから抜け出したような可愛いひとだ」
「……」
「否定せんのか?」
「別に」
「ちなみに妹もCGと見間違うほどの美少女だ」
「ふざけるな」
「妹から俺は虫ケラ扱いされているが、ララはとても優しい。俺は彼女を深く愛してしまった。どうか俺のことは忘れて……」
ハオは机を強く叩いた。
「俺の手紙だ! 黙ってろ!」 「ラーメンおごってください」
みすぼらしい少年が私に言い寄ってきた。
文官の私は身なりをきちんとしているから金があるだろうと思ったのだろう。
しかし私は見知らぬこんな小汚ない浮浪児に食事をご馳走してやる道理など無いのだ。
「どきなさい」
私は鬱陶しそうに少年の手を払うと道を進んで行く。
「お願いです。もう3日も何も食って無いんです。どうかお慈悲を…」
少年は私の腰にまとわり着いてきて離そうとしない。
実に不快だ。
「ええい、鬱陶しい乞食め。放さんか!!」
私は懐から財布を取り出し金子を地面に叩き付けた。 『シューフェン、元気か。突然いなくなってすまない』
「拉致されてるとか書くなよ。もちろん習近平のこともだ」
「わかってるよ、糞」
ハオは続きを読み上げながら書いた。
『俺は今、鬼のような先生について散打の特訓をしている』
「散打だと?」メイファンが口を挟んだ。「まぁ、いいか。殺し屋ににるための特訓をしているとは書けんしな」
『事情あって場所は言えないが』
「よしよし」
『もしよかったら去年の11月20日に一緒に食べに行ったものを思い出して欲しい』
「なんか暗号臭いな、それ。削除しろ」
チッと舌打ちしてハオは続けた。
『俺は元気でやっている。心配しないで欲しい』
「……」
『俺が愛しているのはお前だけだ、シューフェン。どうかおれの帰りを待っていて欲しい』
「おい」
「なんだ」
「お前は一生ビーフンの元には帰れんのだぞ。これは決定事項だ。それなら気を持たせるよりきっぱり別れを告げるほうが彼女のため……」
「ほっといてくれ!」ハオはさらに強く机を叩いた。「俺の手紙だ! 気が散る! 黙れ!」
メイファンは素直に黙った。
『なぁ、最後に交わした言葉、覚えてるか?』
『お前は女優のファン・ビンビンと自分とどっちが綺麗かと聞き、俺はファン・ビンビンと言った』
「そんなこと言ったのかよ」メイファンは小声で呟いた。
『あれは本心だ』
「正気か」
『だけどもしファン・ビンビンとお前を選べるとしても、俺は間違いなくお前のほうを選ぶ』
「……」
『俺の運命の相手はお前だからだ。俺にとってだけは、お前は世界一の女なんだ。俺の帰る場所はお前だけだ』
「…………」
『愛している』
「ズッキュゥゥゥン!」メイファンの心臓から音が鳴った。
「なななななんだなんだ銃声がしたぞ!?」
「知らんな」メイファンは無表情で言った。「私には聞こえなかった」 その後、メイファンの地獄の特訓を受け、ハオは自分の部屋でララを待っていた。
ノックの音がし、ララが入って来る。今日は黄色いチャイナ服で、やはり露出は少なめだった。
「ハオさん、知ってます? 日本語では治療のことを『体に手を当てる』と言うんですって。さぁ、今日もいっぱい私の手を当てて治療してあげますね」
するとハオは突然、ララをベッドに押し倒した。
「きゃっ!?」
「しっ」ハオは怖い顔をして言った。「聞くなら君しかいないと思って待っていた、ララ」
「聞く? 何をですか?」
「ここは西安だろう? 違うか?」
ララは泣きそうな目をしながら首を傾げ、無言で笑った。
「さっき玄関でスーツ姿の二人の会話を聞き、確信した。ビァンビァン麺は西安の食べ物だ」
「ハオさん」ララはおかしそうに口を開けて笑った。「今時ビァンビァン麺なんてチェーン展開して中国各地で食べられますよ」
「いや、それで繋がったんだ」
「繋がった?」 「西安……。あるいは、隣の咸陽(かんよう)かもしれない。何にしろ、昔に長安があった場所であり、さらに古くは秦の始皇帝が城を構えていた地域だ。
習近平は北京からここへ密かに都を移した。それには理由がある」
「どんな理由ですか?」
「あいつは現代の始皇帝になろうとしているんだ」
「始皇帝って……」ララはくすっと笑った。「中華統一はとっくにそれてますよ?」
「だから習がしようとしているのは……」ハオは真顔で言った。「全世界統一だ」
ララの顔から笑いが消えた。
「アメリカに隕石が落ち、日本の文明が崩壊している今、習は何かをしようとしているんだ」
「そんなこと」ララは言った。「国連がさせるわけがないでしょう」
「うん、だけど……」
「ハオさん」
「ん?」
「ハオさんのこと、正直アホだと思ってましたけど……」
「そうなの?」
「本当にアホだったんですね」
「ハァ?」
「さぁ、手当てをしましよう。起きて起きて。座って座って」
「いや、聞いてくr……」
「私、ハオさんに危険な目に遭ってほしくないです」ララは傷薬をハオの瞼に塗りながら言った。「ハオさんのこと、好きだから」 これが私と愛弟子『チャド』の出会いであった。
私は小汚ない少年に飯を食わせてやると屋敷に連れ帰り風呂に入れてやった。
髪を結いちゃんとした服を着せてやると中々どうして気品のある少年ではないか。
私はチャドに文字を教え学問を教えた。
武芸を習わせた。
そして、10年の歳月が流れ彼は立派な青年へと成長した。
一流の学校を首席で卒業し官僚の職に就いた。
実に誇らしかった。私が育てた少年が国を動かしているのだ。
しかし、それは間違っていた…
チャドは覇王になり国を恐怖で支配したのだ。 手当てを終え、ララはハオの部屋を出ると、物置部屋に入った。
中には鏡台が置かれてあり、彼女はその前に立ち、ルンルンと歌いながら服を脱いだ。
服で覆われていた部分が黒い。露出していた手足の白さと辻褄が合わない。
目を閉じ、彼女が気の流れを操作すると黒色は生き物のように動き出し、身体中にまんべんなく散り、ララは褐色の肌になった。
綺麗な黒髪をバサバサと手でかき乱し、侍のように後ろでくくり、鏡に向かって獣のように鋭い目を向けた。
「私は、私」
呪文のようにそう唱え、メイファンは自分にかけていた暗示を解く。
「私は私、ラン・メイファン」 その頃リウは広州にいた。
ホテルの一室でソファーに取り巻きの男5人に囲まれて座り、TVを見ていた。
『サクラパさんはこの度中国を襲った大停電に心を痛め、中国の人々を元気づけたいとの思いから、この試合を申し込んだ、とのことです』
アナウンサーの女性がカンペを見ながら語った。
画面の右上端にはテロップがあり、そこには(日本の英雄格闘家ジョー・サクラバがリウ・パイロンに挑戦する!)と書かれていた。
「日本じゃ有名人なんですかね」取り巻きの一人が呟いた。
「恥ずかしながら俺は知らなかった」リウが答える。「ジョー……シャクラパ? 名前もまだよく覚えられん」
「日本人と闘るのは初めてでしたかね?」
「いや、4年前に柔道のクガ・ヨシヒコと闘った。素晴らしい格闘家だったな。強かったし、何より高潔な精神の持ち主だった」
「あ、ジョーが出て来ましたよ」 オレンジ色に短い髪を染めた30歳代半ばくらいの髭面の男が登場し、一通りインタビューを受けた後、報道陣からの質問攻めが始まった。
ーー中国で好きな格闘家はいますか?
サクラバは照れたような笑いを浮かべながら答えた。
『ブルース・リーとジャッキー・チェン以外誰も知らないな。ってか有名な人、いないでしょ?』
「ん?」取り巻き達が眉をしかめる。
ーーまさかリウ・パイロンのことも知らなかった?
『今回プロモーターから話を受けて初めて知ったよ。やっぱりアレでしょ。アチョーとか叫ぶ人でしょ?』
「おいおいおいおい」
「まぁ、そう言えば俺も日本の有名な格闘家っていったら波動拳のリュウぐらいしか知らんよな」
取り巻き達が哄笑する。
報道陣がざわざわし始め、質問が飛び交った。
ーーじゃあリウの動画とかも見てないってこと?
ーー中国の格闘界に関してのあなたの認識はどの程度?
ーーリウが4年前、柔道のクガ選手を倒したことはご存知ですか?
『まぁ、空閑さん、もう40歳越えてたでしょ? そりゃ仕方ないよ』
『中国の格闘技は……俺が見る限りアレだね、技が軽い。見た目はやたら派手だが威力がない』
「コイツ映画の話でもしてんのか?」
「そりゃ見せる用の技だもんな」
ーーリウに勝つ自信はありますか?
『自信っていうか、勝てない理由がないと思う。予告しとくよ。開始から俺はノーガードで彼の攻撃を3発だけ受けてあげる』
「なんだと?」取り巻きが殴りかかろうというように立ち上がった。
『それで俺を倒せたら彼の勝ち。無名のローカルヒーローへの俺からのささやかなプレゼントだ。リウって名前、プレゼントって意味だって聞いたからさ』 サクラバが画面から消え、取り巻き達は恐る恐るリウの顔を見た。リウは心地良さそうに笑っていた。
「なめくさった日本人でしたね」
「この場にいたら殴ってやるとこですよ」
「いいよ、いいよ」リウはニコニコ笑いながら言った。
リウがこんな風な笑いを浮かべる時がもっとも恐ろしいんだということを取り巻き達はよく知っていた。
「クガさんは礼節を重んじる人だったなぁ……。あれこそ格闘家だ」
リウはソファーに身を埋めたまま言った。
「俺は礼節を重んじる人には礼節をもって応える。最上級の、ね」
笑いながらリウのこめかみには極太の血管が浮き出していた。
「だから無礼な相手には最高の無礼で応えてやるさ」 続いてテレビ画面にケン・リュックマンが映し出された。
「おおっ!?」
「ケンだ!」
「ケン・リュックマン!」
素手でミサイルに触れるという恐るべき地球最強の男、アメリカが生んだスーパーサイバー戦士、ケン・リュックマン。
「いつかは、俺も、挑戦できるのだろうか」リウはうっとりしながら美しい男の肉体に見惚れた。 ⊂〜っ c〜⊃
\ \ /⌒ヽ / /
\ \ ( ^ω^)/ /
\ | |__| | /
( /⌒\
|__ (;;;_^ω^ ) <おっおっおっ
/ 丿 !
/ (___,.ノ
/ /⌒ヽ、 \ ジョー・サクラバはVTRを観終えると、怯えるような顔をして黙りこくった。
なんだよこれ、むちゃむちゃ強いじゃん。しかもやたらいいガタイしてんじゃん。無駄な動きに軽い打撃の白髪のおじいちゃんとかだと思ってたのに……
ってか中国拳法っていうより投げ技ありのキックボクシングじゃん、コレ。騙された!
「この攻撃を3発、ノーガードで受けるのか」ゴージャス哀川が横からしゃしゃり出て言った。「死ぬんじゃね?」
「どうしよう」
「撤回する?」
「そんなのカッコ悪いよ」
「じゃあ、ノーガードで受けると思わせといてカウンターとか?」
「いいね」ジョー・サクラバの目がキラリと光った。
「そんなことをしてみろ」一徹が口を挟んだ。「今の中国の日本人に対する悪感情は知ってるよな?」
「日本鬼子め! やはり日本人は卑劣な悪魔だ! とか言われるかな」ゴージャス哀川が他人事のように笑う。
「それが原因で戦争勃発したりしてな」
「……とりあえず日本帰ろっか」
「試合は1ヶ月後だしな」 稽古場にいつものように全裸で向かい合って立つハオとメイファン。
「行くぞ」
そう言って無表情に繰り出すメイファンの棒をハオは捌く。
しかし捌けるのはせいぜい10回に2〜3回だ。鎖骨に、腿に、いつものように青アザが出来て行く。
「よし、終わりだ。大分捌けるようになったな」
ハオは痛いとも言わず、泣きもせず、ありがとうございましたも言わずに部屋へ帰ろうとする。
「待て。自分がみるみる強くなっているのはわかるか?」
「まぁね……」
「そこでだ、ちょいとスパーリングをやってみんか」
「やだ」
「お前に選択権はないぞ」
「じゃあ聞くなよ」
「散打の選手を一人拉致って来た。今日から毎日そいつとスパーリングをやれ。自分がどれだけ強くなっているのかがよくわかるはずだ」
「散打だって?」ハオの目が少し輝いた。「有名な選手か?」
「入って来い」
メイファンがそう言うと扉を開けて筋肉モリモリの黒人が入って来た。
「ジェームス・ブレットさんだ。ライトヘビー級の国内97位」
「何だ、その筋肉」ハオはジェームスの胸を指で突いた。「お飾りかよ?」
「おまけに頭の中まで筋肉だぞ」メイファンは面白くもなさそうに言った。
「ココの暮ラシは快適デス」ジェームスは一人で喋り出した。「3食昼ゴハン付きサイコー」
「昼寝じゃねぇのかよ」
「早速始めるぞ。オープンフィンガーグローブを付けろ」
「要らねぇよ」
「付けろ」
「じゃあ俺だけ付ける。そいつには要らん」 メイファンが口でゴングを鳴らし、スパーリングが始まった。
「本気で来いよ?」ハオは言った。
「スパーリング、スパーリング」青いヘッドギアを着けたジェームスは楽しそうに身体を揺らした。
ジャブの嵐をハオは軽々とすべて手で弾いた。
「オー! 素っ晴らしい反射神経ネ!」
試しにとばかりジェームスは左ガードを視線で誘い、右フックを打ち込む。
「眠てぇな」ハオはその腕を掴み、バレリーナのようにジェームスをくるくると回した。「こんなのしかいなかったのかよ」
「フン、プロを舐めると痛い目見るヨ」
ジェームスは余裕の表情を作ってそう言ったが、明らかにプライドを傷つけられて怒っていた。
「必殺! 弾丸キーック!!」
「漫画か」ハオは直線的なキックを真上に飛んで避けると足の上に乗った。
「ワイヤーアクションか」メイファンが呆れた。
「ムキーーーッ!」激昂してストレートを出して来たジェームスの顔面にハオの拳がクリーンヒットした。
「すまん、弱すぎたな」
一発KOされたジェームスの首をはねながらメイファンが言った。
「散打なんぞから連れて来たのが間違いだった。次は殺し屋を拉致って来ることにしよう」 「いや、散打がいい」ハオはリクエストした。「もっと上位の奴連れて来い」
「何でもそうだが」メイファンは言った。「真の実力者というのは表向きは無名なもんだぞ」
「なぁ、俺、散打の選手になりたい」
「アホか」
「華やかな世界にデビューして、シューフェンを幸せにしてやるんだ」
「武術の達人が最も金を稼げる仕事が何か知っているか?」
「殺し屋だろ」
「そうだ。だから……」
「そんな表向きに名前を知って貰えないような、世間様に顔向け出来ないような、しかも他人を不幸にする仕事なんかやだねったら、やだね」
「王子か」
「とにかくスパーリングするなら散打がいい。あれだ、リウ・パイロン拉致って来い」
メイファンの無表情がその名を聞いて崩れた。泣きそうな顔に見えた。
「そうだ、さっきお前、真の実力者は表舞台にいないとか言ったな? リウ・パイロンなんかも大したことないのか?」
「いや、あれは天才だ」
珍しく他人を褒めるメイファンにハオは少しびっくりした。
「じゃあ、お前とリウだったらどっちが強い?」
「リウ・パイロンには……」メイファンは目を伏せた。「私は勝てない」 「なっ、何だよ……」
初めて見る弱々しいメイファンにハオはたじろいだ。
ややあってメイファンは顔を上げ、「そうか」と呟いた。
そしてハオに向かって言った。
「私では勝てないが、お前なら勝てる。もちろん今はまだ虎とミジンコほどの実力差があるが……」
「あ?」
「お前、やはり散打の選手になれ。私が許す。そして王座決定戦まで勝ち進み、リウと闘え」
「まじで? いいの?」
「その代わり、勝て。勝つにとどまらず、事故を装って殺せ」 ガラッと扉が開き、そこへ一人の男が入って来た。
「世界最強、それは誰だ?」
「あっ、ケン・リュックマン」
「ケン・リュックマン。それは貴方です」
ハオとメイファンはうっとりと逞しい男の肉体に見惚れた。 ,x '"::::::::::::::::::::
,、'":::::::::::::,, x-‐ ァ:
,,x '"::::::,,、- '" |:::
`"i`ー'" ヾ
! 、 、,,,,,,,,,;;;;;;;;;彡ミ
|,,,,ノi `ーヾ;; '"----、
ヾ::ヽ -┴'~
~|:/ ' ' ' `ー ' "'"
/_
l '' ) i
ヽ,,、'~` U
゙, __ ,-、_,ノ`
|/ ゙, `'" ,,y
|/ 彡 ゙、`-'"
/|/ i
/ ! ,, -'"
| `ー '"|::
| /|||ヽ
/|||||/ 「我が国には中国伝統武術などと謳ったオカルト団体のごときエセ格闘家が多いことは事実だ」
リウ・パイロンはTVのインタビューで答えた。
「だからジョー・サクラバ先生があんな発言をしたのにも仕方ないと頷けるところはある」
「しかし、対戦相手のことをろくに知ろうともしない彼の人間性に私は疑問を持たざるを得ない」
「彼は試合開始から3発ノーガードで私の攻撃を受けると予告した」
「私は最初の3発をそれぞれデコピン、猫だまし、壁ドンで行こうと思っている」 ハオは稽古という名の拷問が終わると
汗を流すため入浴する。メイファンも一緒だ。
体を洗う時はいつもメイファンからで、基本的にはハオの手で洗い、彼女自身はほとんど何もしない。
最初は加減がわからず文句を言われたりムラムラしたり、色々ツッコんだものだが今は何もない。
この段階ではハオは入浴することは出来ない。
入浴出来るのはメイファンが風呂から上がった彼女の体を拭ききってからだ。 「今日はハオさん、なんだかご機嫌ですね」
ララはハオの背中をマッサージしながら言った。
「そうかい? まあ、ね。そうだな」
ハオは稽古の後にララがやって来るのを楽しみにするようになっていた。
ララの白くてすべすべの手が女性らしい動きで自分の身体を癒してくれるこの時が毎日待ち遠しかった。
「何かいいことでもあったんですか?」
「うん、まず、シューフェンに手紙を書いたんだ」
「彼女さんに? わぁ〜」
「でもあれ、本当に出してくれたのかな。メイファンの奴……」
「出してくれると言ったのでしょ?」
「うん、でも……」
「メイは……妹は、そんな嘘をつく娘じゃないですよ。これは絶対です」
「そうか、ララがそう言うなら安心だな。ただ、返信は期待してない。どうせ住所なんか書いてないだろうから」
「それでいいんですか?」
「よくはないけど、俺が無事だと伝えられただけでも嬉しいよ」
「たぶん……返信、来ますよ」ララは優しく微笑んだ。
「そうかな。来てもニセモノだったりして。まぁ、ニセモノでもすぐわかるんだけどね」
「愛の力で?」
「そう。俺はシューフェンが世界のどこにいても探し出せる自信があるんだ」
「キュン」とララの胸のあたりから音がした。
「ん? ララ、今、お腹鳴った?」
「えへへ。少しお腹空いちゃいました」 「あと、いいことのもうひとつは、散打の選手になってリウ・パイロンと闘うことをメイファンが許可してくれたんだ」
「リウ・パイロン?」ララはなぜか痛そうに顔を歪めた。「うーん。格闘技のことはよく知りません」
「な? 運動音痴のララでも格闘家だってことは知ってるだろ? それほどの有名人だよ」
「へぇ……」ララは面白くなさそうな顔をした。
「一気にモチベーション上がったよ。自分は何のためにここにいるんだろう? ってずっと思ってたけど、目的がはっきりした感じ」
「ハオさん」
「ん?」
「私のこと運動音痴って言ったけど、失礼ね。私だって、実はボクシングが出来るんですよ」
「嘘だね」「嘘ですけど」二人は声を揃えて言った。
「ちょっ! 何でわかったんですかぁ?」ララは枕でハオを叩いた。
「筋肉とかね、何より反射速度を見ればその人が鈍いかどうかなんてすぐわかるもんだよ」
そう言いながらハオはララの顔面に拳を入れた。実際にはその予備動作を見せただけだが、ララはぴくりともせずに緩みきった顔をしていた。
「ほらね」
「何が?」
攻撃されたことに気づきもしないララをハオは可愛いと思った。
「女の子はそれでいいんだよ。メイファンみたいなのは女とは呼べない」
「メイだって女の子です。ああ見えてあの娘、本当に優しいんですよ。本当に」
「いや、あれはバケモノ。ララが何とフォローしようと俺の見立ては変えられない」
「バケモノ?」
「うん。しかし、あんなバケモノの妹がいて、なんでララはそんなに運動神経鈍いんだ?」
ハオはからかうように笑ったが、ララの様子を見て止めた。
「バケモノは……」
「うん?」
「私のほうなんです」 未だに慣れないのがひとつある。それは…
「…ふぅ、ハオ綺麗にしろ」
メイファンは立ち上がるとハオが手前に来るように体の向きを変える。
「…」
ハオは一瞬ためらい、顔をひきつらせながら彼女の前にしゃがみ、
局所を舐め始めた。小水の匂いが鼻を突く。
「…んんっ」
この時彼女は悩ましげな声をあげ体を震わせることが多いが気にしてはいけない。
「よろしい。後ろもやれ」
メイファンがそういうとハオは後ろに回り、彼女の尻朶に手を添え、顔を寄せる。ハオの舌が桜色の菊座を這い、付着した汚れを舐めとっていく。
仕上げは紙で優しく丁寧に拭き取って作業は終わりだ。
この行為は洗体も含めハオから反抗心をなくし服従させるのが目的だった。
今やハオの心は屈服しかけ、シューフェンのことも忘れつつあった。 ハオはメイファンのことをバケモノだと口では忌み嫌っていた。
しかし心の底ではメロメロだった。
認めたくなかった。このままいけばシューフェンのことを忘れてしまうのではないかと不安になるほどだった。 「上海へ行く仕事はないのか?」
リウはマネージャーのワンに聞いた。
「ないよ」
「あれからもう三ヶ月だ」
毎日のように同じことを聞く散打王にワンはまた溜め息を吐いた。
「もう諦めなって。一回会っただけの女だろ?」
「いや、夢の中で何度も会ってる」
「何がそんなにいいの? 相当具合よかったわけ?」
「彼女を侮辱するな」
休みが取れれば自家用の飛行機で上海まで飛びたかった。しかし日本人格闘家との特別マッチも決まり、トレーニングやら取材やらで忙しくなっていた。
車の窓から広州の町並みを眺める。美しい女はチラホラと歩いていたが、リウは興味を示さなかった。
「俺さ」ワンが口を開いた。
「なんだ」リウは頬杖をついて外を眺めながら聞く。
「お前は女を食い物にして強くなって来た奴だと思ってるんだよね」
「その通りだ」
「お前は女に本気で惚れたことなんかなかった。どんな美人でも一回ヤッたら捨てて来た。それを自信に変えて強くなって来たんだ」
「そうだな」リウは平然と答えた。「女は自分を磨くためのただの道具だ」
「最近、お前、ちょっと弱くなってると思うんだよね」
リウは返事をしなかった。
「だめだよ、本気で惚れちゃったりしたら。お前みたいな奴はきっと他のこと手につかなくなっちゃうよ」
「シューフェン?」窓の外を見ていたリウが目を見開いた。「止めろ! 車を止めろ!」 「シューフェン!」
住み始めたばかりの広州の町で後ろから名前を呼ばれても、彼女は自分のことだとは思わなかった。
ありふれた名前でもないのに、そんな名前のひとが他にもいるんだなぁ、と思った彼女の肩を、ごっつい掌が乱暴に掴んだ。
「シューフェン!」 「リウ?」
「やっぱりシューフェンだ!」リウは子供のように笑った。
荒い息が収まると、リウは聞いた。「なぜ広州に?」
「引っ越して来たの」
「誰かと?」
「ううん、一人で」
「仕事?」
シューフェンは首を横に振った。
「ある人が……移り住もうって言ったことがあるから」
リウは意味がわからず黙ったが、再び笑顔で言った。
「とにかく会えてよかった! もう会えないかと思っていた」
「あの日、なぜすっぽかしたか、聞かないの?」
「どうでもいいよ。今、君に再会できた喜びで心は一杯さ」
シューフェンは微笑みを浮かべ、すぐに自分が化粧をしていないことに気がついた。
「あ、私……すっぴんだったわ」
「似合うよ」リウはシューフェンを真っ直ぐ見つめて優しく笑った。「君には素顔がよく似合う」 ハオは道場でいつものようにメイファンと向かい合って立っている。もちろん今日も二人とも全裸だ。
しかし今日は様子が違った。いつもはメイファンの裸に畏れ以外のものは何も感じないのだが、
いつも服で身体を隠しているララの全裸をそこに重ねてつい想像してしまったのだ。
ララは自分のことを「バケモノ」と言った。
その理由をハオが聞くと恥ずかしそうに黙った。
しつこくハオが問い詰めると、ララはついに白状したのだった。
「私、牛のバケモノなんです」
「牛? っていうと牛魔王か何か?」
「そうです」
「ほう? そんな強そうには見えないが……」
「脱いだら胸が牛みたいなんです」
「ファッ!?」
「これ、信じられないぐらい詰め込んでるんです」
目の前のメイファンは巨乳というよりは美乳だが、乳首はピンク色をしている。
牛というよりは完全に黒豹だが、顔がララに似すぎている。
ハオは股間を押さえて前かがみになりながら、必死で想像上のララをかき消そうとした。
『こらっ! ハオ、お前はシューフェン一筋だろ!』
そしてシューフェンの怒った顔を想像したが、そこからシューフェンとのエッチな思い出が溢れ出し、ますますヤバいことになってしまった。
「おい」メイファンが低い声で言った。
「はっ……はい」
「手をどけてみろ」
「いやっ……! 違うんです、これは……」
「どけろ。気をつけ!」
気をつけをしたハオの股間から天を向いて最大化している如意棒をメイファンはしばらく目を見開いてじっと見つめた。
やがてうっすらと笑いを浮かべると命令した。
「仕舞え」
「はっ……はいっ」
「3秒で仕舞わんと斬り落とす」
「!」 続いてテレビ画面にケン・リュックマンが映し出された。
「おおっ!?」
「ケンだ!」
「ケン・リュックマン!」
素手でミサイルに触れるという恐るべき地球最強の男、アメリカが生んだスーパーサイバー戦士、ケン・リュックマン。
「いつかは、俺も、挑戦できるのだろうか」リウはうっとりしながら美しい男の肉体に見惚れた。 2018年11月21日、中国東部を超巨大規模の停電が襲った。
北京周辺から上海周辺にかけて、地上から電気が消え、人々はパニックに陥った。
これはそんな架空の中国が舞台の物語である。
主人公の名前はケン・リュックマン。
頭をリュックに化けたミミックに食いちぎられたが、逆にミミックの精神を乗っ取り、千切れた頭部にリュックを装着した。 「俺には何もない」
殺し屋ジャン・ウーはゴキブリの這い回る部屋で酒に溺れながら呟いた。
「俺には何もないんだ……。ケン・リュックマン、あんたを除いては!」 「さて、今後の予定だが」メイファンは言った。「お前にはピヤーと闘って貰う」
「ピヤー? 聞いたことねぇな、何人? インドネシアかどっか?」
「虎だ」
「なんだ、虎か」ハオは安心した。「っていうかお前、何頭飼ってんだよ、虎」
「二頭だけだ。まぁ、一頭死んだので今は一頭だけだな」
「お前が殺したんじゃねぇか」
「小松の攻撃を捌ききった自分だから楽勝とか思っているか?」
「そうだな。おまけにあの時より大分強くなってるし」
「言っておくがピヤーは小松と違い、ただの人喰い虎ではない。武術を体得した人喰い虎だ」
「へ?」
「フェイントも使えば足技も使う。歩方も完璧に会得している。普通に考えれば人間が敵う相手ではない」
「は?」
「しかも殺されるか、お前を喰うまで攻撃をやめない」
「デスマッチ!」
「ピヤーを倒せたら、習のコネを使ってお前を散打界にデビューさせるつもりだ」
「やだ! 最後の難関高すぎ!」
ハオは泣き出した。
「お前に拒否権はないぞ」
「やっぱり帰る! シューフェンとこに帰してくれ!」
「そうか、それなら今、ここにピヤーを連れて来るまでだ」
「いやー!!」
「ならば修行を始めろ」
「なぜ殺し合いをさせるの!? お前には人の優しさ、ないの!?」
「そうだな。どちらが死んでも私は悲しい」
「そんなら……!」
「逆に言えば」メイファンは笑った。「どちらが勝っても私は嬉しいということだ。楽しみだなっ」 上海の手下から電話がかかって来た。
メイファンは電話に出ると、言った。「何? 引っ越しただと?」
メイファンはハオの書いた手紙をちゃんと出していた。上海の手下にまず送り、シューフェンから返信があれば仮の住所に届くことになっていた。
しかしその手紙が帰って来たというのだ。日本と違い、中国には引っ越し先へ郵便物を転送するサービスはない。
「うーん。ピヤーに喰い殺される前にビーフンからの返信をハオに届けてやりたかったが……」
メイファンはしばらく考え、顔を上げた。
「仕方がない。代わりに私が書こう」 『ハイ、ハオ。私はビーフンよ。お手紙ありがとう。いつもあなたから元気を貰っています』
「なかなかいい書き出しだな、我ながら」メイファンは得意になった。
『ところで去年の11月20日に一緒に食べに行ったものって何だったっけ? 覚えてる? 覚えてたら教えて? 気になって眠れんのだ』
「これだけははっきりさせとかんとな」メイファンは>>116のことが気になって仕方がなかったのだ。
筆が乗って来たところでララが口を挟んだ。
「ねぇメイ。ハオさん、ニセモノの返信はすぐわかるって言ってたよ」
「何だ起きてたのか、ララ。そんなもの口だけだ。わかるものか」
「どうかなぁ。少なくともあんまり長々と書かないほうがいいとは思うよ?」
「フン」メイファンは水を差され、つまらなくなって筆を投げた。「そんなら姉ちゃんが書いたらいいだろ」
そう言うとメイファンは気の流れの中に潜り、身体の中心にただの黒色となって固まった。
「ええ〜??」ララはいきなり交替させられ、うろたえた。「とりあえず服、服」
衣装箪笥を開けるといつも通りメイファンのチャイナ服しかなかった。
メイファンからララに精神が交替する時、彼女は少し身体が大きくなる。そのためどの服を着てもピチピチだった。
「仕方がないなぁ……頑張るか」
メイファンは身体の中で黙ってしまった。機嫌を損ねたのか、眠ったのか。
「うーん、うーん……」
『ハオ、私…』と書き出したものの、それ以下が思い浮かばず、ララは固まってしまった。
そして夜が明け、8時間悩んだ末、遂に決定した。
「うん、これだけでいいんじゃない?」
「そうだな」メイファンも同意した。「これならバレようがない上、謎めいていて奥深い」
「あとは筆跡でバレないかな?」
「新聞紙とかから切り取って貼ればいいんじゃないか?」
「それじゃ脅迫状だよ」
「ならばビーフンの書いたものを何か手下に探させよう」
「頼んだよ、メイ。じゃあ私、寝るね。疲れた……」
そう言うとララはすぐに眠りに落ちた。崩れ落ちようとする身体にメイファンが戻り、鋭い目を開く。
身体は比較的黒くなり、チャイナ服は誂えサイズになった。
「さぁ、今日もビシビシ行くぞ」 そこへ白馬に乗って一人の男がやって来た。
「やぁ、お嬢さん方、私の名前を知ってるかい?」
「もちろんよ、ケン・リュックマン」
「知らない者はいないわ、ケン・リュックマン」
二人は逞しい男の肉体に見惚れ、下半身を濡らした。 「はあ、はあ、どうにか脱出出来たぞ」
ハオはメイファンの監視から逃れ玄関の外へ脱走していた。
ハオはメイファンに見つからないように当てもなく歩き続ける。だか違和感に気づく。
「…暗いな。今は夜なのかな?」
辺りには明かりはない。ハオは空を見上げても星ひとつ見えない暗黒が広がっていだけだ。
「…痛っ!」
ハオは何かにぶつかった。ハオは前に手を伸ばすと塀のようなものが確認できる。
(ブロック塀?違うな。コンクリート壁…うーん、なんか鉄っぽい。) 「…メイファンのところへ帰りたい。」
ハオはポツリと呟いた。ハオが家を飛び出してから二時間を越えていたが歩いても歩いても闇の世界が広がっているばかりで人っ子一人いない。
「疲れた、足が痛い。」
ハオは立ち止まり、壁にもたれ掛かるように座り込んだ。
「…ウチに帰りたい。メイファンのところに帰りたい。」
何かを忘れている気がするが思い出せない。
(…そういえば何で家を飛び出したんだっけ?)
やはり思い出せない 「はぁ、おかしいなあ。」
ハオは溜息を付いた。
「前回外に出たときは普通に通行人が歩いていたし、この家は町の中にあるはずなのに誰もいないし、他の家も見当たらない。うーん」
辺りは相変わらず真っ暗で物音一つ聞こえない。
「夢の中にしては、妙にリアルだしなあ」
先ほど歩いていて壁にぶつかった際の痛みは現実そのものだったことを思い出す。。 そこへ黒い忍者装束に身を包んだ男が上から降りて来た。
「やぁ、何かお困りかな?」
「あっ、ケン・リュックマン!?」
「そう、私はケン・リュックマン」
それだけ言うとケン・リュックマンは印を結び、ドロンと消えてしまった。 「待ってくれ!」
チョンボはケンの後を追いかけた。 「何だったんだ……」
ハオが茫然としていると、暗闇の中からメイファンの声がした。
「ハオ」
「メイファン!?」ハオは思わず涙混じりに喜びの声を上げた。
「お前の成長ぶりには驚かされる。まさか私に気を悟らせずに外へ出られるまでになっているとはな……」
目を凝らすと、薄明かりを背に立っているメイファンのシルエットがようやく見えて来た。
左手にはどうやら青龍刀を、右手にはスイカのようなものをぶら下げて、颯爽と立っている。
その時、突然に水銀灯の明かりが点いた。
ハオは一瞬目が眩んだが、やがてメイファンの姿をはっきりと見た。
鬼の形相でこちらを睨み、顔は血にまみれ、左手にはやはり青龍刀を、右手には黒い髪をひっ掴み、ララの生首をぶら下げていた。
「ララ!? うわっ! うわぁぁぁ!?」
「お前の監視を怠ったので首をはねた。お前が逃げようとしたせいだ、可哀想に」
「なっ、何で……お前の姉さんだぞ!?」
「私は役に立たない人間は親であろうと姉であろうと殺す。覚えておくんだな」
「女を道具のようにしか考えない男は嫌いなくせにか!? うっ……うひぃぃぁぁぁぁ!!」
「いいから戻れ」メイファンは青龍刀で帰りの方向を示した。「二度と逃げようなどと思うな」 「あれ、メイファンどこなの?」
しかし、メイファンの指し示した方向には何もなく、ハオはメイファンの方へ向く。
「…バカな、間違えたかな」
これにはメイファンも困惑せざるを得なかった。
歩けども歩けども先には夜の闇より暗い漆黒が広がるばかりである。
「ハオ、お前のせいだぞ。」
メイファンは眉間にシワを寄せ、持っていた青竜刀で前を歩いているハオのケツをツンツンとついた。
ケツに痛みを感じたハオは喘ぎ声のような悲鳴をあげ、前にピョンピョンと跳ねた。 「何だったんだ……」
ハオが茫然としていると、暗闇の中からメイファンの声がした。 「いやいや、あんたキョンシーですやん」
そう言ってララの額にお札を貼りつける ビー・ドンファンという若い格闘家が宣言をする。
「俺は中国にはびこるインチキ伝統武術の使い手と片っ端から勝負してやる。そして奴らのインチキを世間の明るみに出してやる。『胡散臭い中国』のイメージを払拭するのだ!」
ドンファンが語り終えると壇上に散打王リウ・パイロンが上がり、二人で肩を組んだ。 「何だったんだ……」
ホイホンが茫然としていると、暗闇の中からミンミンの声がした。 リウはマイクを手にすると語り始めた。
「私はビー・ドンファン君を指示する!」
会場から拍手が湧き起こった。
「先日、私と対戦することの決まった日本のある格闘家が言った、『中国の武術は見た目は派手だが軽い、実戦では使えない』と。
彼に罪はない。彼は知らないのだ、今、中国にようやく現代化の波が押し寄せていることを。彼はいつまでも中国は胡散臭く、
四千年の歴史とやらに固執し、強そうなのは見た目だけのハリボテで、インチキや不正がまかり通る国だと思っているのだ。
実際それは否定できない。見ろ、そこら中に妖しげな伝統武術の看板を掲げて、道場に閉じ籠って「我々は最強だ」などと
うそぶいている輩のなんと多いことか? 奴らは決して対外試合をしない。奴らがやることと言えば演武か、内輪での試合
ばかりだ。それでいて「我々はこんなに凄い」とアピールするための動画を撮ってYouTubeに流しまくっている」
会場から笑いが起こった。
リウも一緒になってひとしきり笑うと、話を続けた。
「日本の作り話の中にいまだにニンジャが存在するように、中国でも作り話の中になら妖しげな中国伝統武術があってもいい。
しかし、我々は現実を見よう。気を飛ばして相手を攻撃するような技は存在しない。髪の毛を針のように硬くして武器にする
ことなど不可能だ。酔えば酔うほど強くなるなどとそんなわけはない。無敗神話をもつ武術家の対外試合を少なくとも俺は
見たことがない。ビー・ドンファン君のように俺は奴らに対外試合を申し込みはしないが、俺は現実に、みんなの目の前で
無敗神話を作ってみせる。タイトル戦ではないが、次のジョー・サクラバ戦も勝って、中国の散打は現実に強いのだという
ことを世界に示してみせよう」 手が上がり、一人の女性が質問をした。
「中国には裏社会があり、そこにいる武術家達は本当に凄まじいほどに強い、という噂がありますよね?
それに関してどう思われますか?」
「裏社会の殺し屋のことか?」リウは即答した。「そんなものはいない」 リウが立食会場に入るとカーテンの影から呼び止める者がいた。
「ようリウ、久しぶりだぁな」
「ジャン・ウーじゃないか。何だってこんな明るい所に?」
「いや、仕事じゃにゃぁよ。たまには旧友に会いに明るい所へ出て来たっていいじゃにゃぁか」
「……相変わらず現代中国人とはかけ離れたナリをしているな」
ジャンは昔のカンフー映画に出て来るような汚いカンフー着を身に纏い、赤いほっぺたに白い髭を生やしていた。
「しかし言うじゃにゃあか、裏の殺し屋なぞ存在しない? カハハ、お前の台詞とは思えん」
「フン」
「前から不思議だったんじゃが、なぜお前は黒色悪夢を庇う?」
「黒色悪夢……」リウは真顔で言った。「なんだそれ」
「お前の師匠のことよ、忘れたか?」
「あぁ……」リウはようやく理解した。「お前らのその通り名で呼び合う癖にはついて行けんな」
「なぜ庇う?」
「ラン・メイファン老師は今でも俺の心の師だよ。だからさ」
「しかしお前、食ったろう」
リウは記憶をたどり、その時のことを再び味わい、ニヤリと笑った。
「そう。未だにあれ以上の美味は味わってないな」 辺り一面の闇の中、男が追っ手から逃げていた。
「はあ・・・はあ・・・ぜぇぜえ・・・」
タンクトップにトランクスという格好で、いまいちぱっとしない中年男といった感じだ。男の名前は李青豪(リー・チンハオ)。ニートだ。
その後ろから女が追いかけてくる。女は朴刀を振りかざし、呪詛の言葉を吐き男を追いかけていた。女の名前はラン・メイファン、自称17歳。 「29歳は中年じゃねぇぞぉぉぁぁああ!!!」ハオ及び全国の29歳の皆さんが>>168の首をストンピングした。 メイファンはハオを見失ってしまった。
彼女は憎悪と怒りに満ちた叫び声が辺りに虚しく響き渡る。 「お困りのようですねぇ。けひゃひゃ」
黒頭巾の老婆がメイファンに話しかけてきた。 「やぁ、すまない。待たせたね」
リウが声を掛けた時、シューフェンはまさに蟹焼売を真っ赤な口の中に入れるところだった。
「素敵なパーティーね」慌てて焼売を皿に戻すと、照れながらそう言った。「ところでこれ……何のパーティー……だっけ」
「新しい中国の未来を望む会……かな。グループの名前はまだないんだ」リウはにっこりと笑った。
「主催者は……あなた?」
「イエス!」
「クールね」
「いいだろう?」
リウはおどけながら蟹焼売を10個皿に取ると、シューフェンに言った。
「さぁ、これを早食い競争したら行こう」
「勝てるわけないわ」シューフェンは呆れ顔で笑った。
「僕は10個、君は君が食べたい個数で勝負。これでどうだい?」
「わかった。じゃあ……」シューフェンは皿に12個取った。
「凄いよ!」リウは大笑いした。「しかもでかい!」
「じゃあ競争よ、イー、アール、サン……」
「ちょっちょっちょっと待ってくれ!」
「怖じ気づいたの?」シューフェンは悪戯っぽく笑う。
「オナラが出る前に、先に電話しとくよ」
「オナラじゃなくてゲップてしょ」シューフェンは声を上げて笑った。
「もしもし、ホーク兄かい? 約束の時間に行けそうだ。パーティー抜け出したらそっちへ行くよ。あぁ、もちろん、彼女を連れて」 パーティーの壇上に一人の男が上がった。
「やぁ諸君! 私の名前を言ってみろ」
「あっ、ケン・リュックマン!」
「最強の格闘家ケン・リュックマン!」
「でもケン・リュックマンが闘ってるとこって誰か見たことある?」
「や、やべっ」そう言うとケン・リュックマンは逃げ出した。 「ここって地下なの?」
ハオは肩を上下させ階段を登っていた。長い長い先の見えない中空階段だ。1歩1歩歩く度に足音が周囲に反響する。
ハオは立ち止まり、汗を拭うと大きく息を吐いた。
「随分上まで来たけど、何処まで続くんだ。」
ハオは手すりに手を置いて吹き抜けの下を覗いていた。しばらくぼんやりしていると階段室の鉄の扉が開く、メイファンだ。
ハオは逃げようとしたがその前に上を向いた彼女と目が合ってしまう。
「ぜぇぜぇ…み〜つけたぁ」
メイファンはニタリと口端を吊り上げ、白い牙を見せる。
その目は血走り狂気に満ちていた。
「ヒェッ」
ハオは小さく悲鳴を上げ、階段を慌てて駆け上がる。 メイファン「さあ、逃げろ逃げろっ!凄惨な死が迫ってきているぞ。」
ハオ「ぱああああああっ!」 ハオ「シューフェン! 俺を守ってくれ!
そして俺は必ず君の元へ帰る! だからそれまでどうか他の男と腰の振りあっこなんかしないで待っていてくれ!」 ケン・リュックマン「むうっ 出るっ!」
ドピュドピュ
メイファン「あん、相変わらず早いわねえ」 リウは高級ドイツ車の後部座席にシューフェンを乗せ、自分は珍しく助手席に座った。
「綺麗に化粧して来てくれたけど、すまない、一度落として貰うよ」
「え?」
すっぴんで中国映画の巨匠ツイ・ホークに会えということだろうか。意図がわからずにいるシューフェンにリウは驚かすように言った。
「香港からジョアンナ・ポンが来てるんだ。彼女が君に最高のメイクをしてくれる」
「ええーっ!?」
メイクアップ・アーティストという裏方の仕事をしていながら、その顔も名前も知らない者はまずいない。
そんな世界トップクラスのジョアンナが自分にメイクをしてくれるというのだ、シューフェンは夢を見ているような気がして来た。 メイファン「結局は、奴と同じと言うことかリー・チンハオっ。お前も私の元から去るのか!?」
メイファン「許さん…許さんぞ。捕まえたら四肢を切り落として達磨にしてやるっ!」
ハオ「びええぇっっ!」 チョンボ
「ときどき恐くなるんだよな。目がさめたらここじゃないどこかで、エルオーネがいなくて……」
ホイホン
「レインもいなくて?」
チョンボ
「オレ、どうしちまったんだろうな。こんな気持ち……なんだこれ?ああ、目が覚めてもこの部屋でありますように!このちっこいベッドで目が覚めますように!」
ホイホン
「変わったな、チョンボくん」 「ネイホゥ」
シューフェンは広東語でこんにちはと挨拶をした。
「ネイホゥ、ネイホゥ〜」
ネイティブのアクセントでジョアンナは挨拶を返し、ニコニコ笑いながら握手を返して来た。
「ニーハオで通じるよ」リウが横から笑った。
ここは広州郊外にあるスタジオ。その一室でジョアンナ・ポンはシューフェンを待っていた。
眼鏡をかけ、そばかすだらけの顔にひっつめ髪の彼女は、美人とはとても呼べないが、TVや雑誌でしばしば見る顔が目の前にあるのは不思議な感じがした。
彼女は広東語ではなく普通話で喋った。
「ニーハオ、シューフェン。リウから聞かされてた通りのいい女ね。っていうかいい骨格してる。最高だわ、この骨格」
「広州まで来た甲斐があったろう?」リウが言った。
「こんな骨格に出会えるなんて予想外よ。腕がなるなぁ」
さんざん骨格を誉められ、シューフェンは何と答えたらいいやらわからず、ただ笑っていた。
ジョアンナはTVに出る時でもほぼすっぴんのナチュラルメイクで、それがかえって「自分に合うメイクをさすがに知っている」という評判だったが、
目の前の彼女はそれを深く頷かせるほどに魅力的な女性だった。
「さぁ、早速だけどその骨格にお化粧させてちょうだい。殿方はお外で少し待っててね」 ほんの10分もかからずにジョアンナは顔を覗かせた。
「完成よ、リウ。中に入ってもいいわ」
リウがメイクルームに入るとそこに雪の妖精が立っていた。
あまりに透き通ったその肌は、あまりに儚く、そこにあってそこに存在していないもののように見えた。
リウはしばらく言葉を失っていたが、ようやく「綺麗だ」とだけ言うことが出来た。
「これ……私なのね」そう呟くシューフェンの目から、なぜか涙がひとつ零れた。
「光栄だわ、泣くほど気に入ってもらえるなんて」ジョアンナが明るい笑顔で言った。
「綺麗だよ、本当に……何ていうか……」リウはいつものように上手い言葉が出て来ずに困っているようだった。
「ファン・ビンビンとどっちが綺麗?」
思わず言ってしまってから気恥ずかしくなり、ぺろりと舌を出しながら「なんてね」と言おうとしたシューフェンよりも先にリウが答えた。
「もちろん君だ」 殺風景な部屋。その中央にはベッドが置かれ
男が仰向けに横たわり、その横に少女が抱きつくようにすやすや眠っていた。
男の目は虚ろでただ天井を眺めている。
男の手足は折れているようで、添え木ごと包帯が何重にも巻かれていたほか、
体のあらゆる箇所にある血の滲む包帯がなんとも痛々しい。
男の名はリー・チンハオ。通称ハオ。ここから逃げ出す為脱走したのだが失敗し重傷を負ってしまったのだ。
そしてその横にいる美少女はラン・メイファン。ハオをここに閉じ込め、彼にこのような仕打ちをした張本人だ。 社交辞令の口調だった。
ツイ・ホークはシューフェンと握手をしながら「なんと美しい人だ」と言った。
が、その顔には「この程度の美人などいくらでも見慣れている」と書いてあった。
「主役は元々ファン・ピンピンの予定だったけど、ニュースで知っての通り、巨額脱税事件であんなことになってしまってね」
「代役で売り出し中のジョイ・ウェンにお願いしたんだが、これも今回の大停電絡みでへそを曲げ、降りてしまった」
「そこへリウから『いい女優の卵がいる』と聞き、君を待っていたんだよ」
ツイ・ホークの話にシューフェンは頭の中が大混乱してしまった。
なななな何、そのビッグネームばっかり出て来る壮大な話、聞いてない、それでどうして素人の私のところに話が来ちやうの???
ただの女優オーディションみたいなのだと思ってたのに、これじゃ私、既に期待の大新人みたいじゃない。場違いだ、場違いもいいとこだわ、私!
シューフェンは助けを求めるようにリウを振り返った。リウは少し意地悪そうにクックツクと笑っていた。
「演技歴はどれくらい?」
ホークの質問にシューフェンは顔を真っ赤にし、しどろもどろに答えた。
「高校の時、演劇部でした」
暫しの沈黙が部屋に漂った。あまりの居心地の悪さにシューフェンは思わず謝った。
「ごごごめんなさい! 素人です! 失礼します!」
「いや、いいよ」ホークは笑って見せた。「変なこだわりのある経験者よりよっぽどいい」
「とりあえず、ピンと来たかい?」リウがホークに聞いた。
「いや、悪いが今のところ……」ホークは正直に答えた。「しかし天下の散打王が魅了された女性だ、何か持っているんだと期待しているよ」
そう言うとホークは机の上にあった台本を手に取り、シューフェンに渡した。
「テストだ。とりあえずここの蛍光ペンで囲んだところを読んでみてくれ」 あらすじを聞かされてシューフェンは少しびっくりした。
舞台は上海。主人公は不治の病に冒された余命半年の女性、ツァイイー。同居人の恋人は冴えないニートだが、彼の優しさを深く愛していた。
やがて彼に病のことを打ち明けずに死んだ彼女は幽霊となるが、冥界の魔王の息子と相愛関係になり、強大な魔力を使えるようになる。
彼女を追って魔界までやって来た彼は魔王の息子と対決する。激しい戦いの末に勝敗は決し、最後に彼女が選んだ人は……
『余命半年……私と同じだ』シューフェンは主人公に共鳴した。 ツイ・ホーク「ちなみに魔界の王子役には台湾のアクション俳優ワン・リー、彼氏役には『格闘神』ケン・リュックマンを予定している」
シューフェン「ケ、ケン・リュックマン!」
リウ「何だって? ケン・リュックマン!?」
二人は逞しい男の胸筋を思い浮かべて恍惚とした」 湯ババア「千鳥のノブか、贅沢な名だね。お前の名前は今から千だよ!」
大吾「するとババア、わしの名前は何になるんじゃ」
ノブ「千鳥は芸名じゃあ、そしてお前雇い主にババアはあかん」 マクドに入った。だが味が変だった。
「これ、なんの肉使ってんだ?」 ある店のラーメンを食べ、僕は不思議に思った。
「麺は熱々なのにスープはぬるい。これってわざとなのかな??」 簡素なベッドにハオが拘束されている。彼は何も身に付けていない。ハオはと脱走に失敗してしまった彼はこれから罰を受けるのだ。
その横でメイファンが豹のような鋭い目で彼を見つめ、手には錘が握られている。
「お前はシューフェン一筋のはずなのに私と体を重ねる形で彼女を裏切った。」
メイファンの口調は冷静だった。メイファンは錘をハオの右足の脛に錘を振り下ろすと鈍い音を立てて潰れ、どす黒く変色した。
「ギャアアッ!足っ!俺の足っ!」
脛を砕かれたハオは断末魔をあげ、もだえ苦しみ拘束具をガチャガチャと鳴らした。
「そして、そのようなことをしておきながら私を捨ててここから逃げようとした。そう。リウ・パイロンのようにな。」
「そ、それはお前のでっち上げだ!俺はし…」
メイファンはハオの反論を遮る錘を左足に振り下ろし粉砕すると彼は再び絶叫し、口から泡を吹きながら気絶した。
「おっとまだ眠るには早いぞ、チンハオ?」
メイファンはつかさず桶でハオの顔に水をかけ
彼を覚醒させた。
「ゴホッゴホッゴホッ…ち、ちく、畜生!」
ハオは水を吸い込んでしまったのか大きく咳き込んだ。
「た、確かに、おおお前を抱く妄想はしたさ。だけど、あくまで妄想だ。それをお前は事実だと捏造しただけじゃねえか、このキチガイ女めっ!」
「捏造だと?それは都合の悪いことをなかったことにしたいお前の願望だ。」
メイファンは険しい表情で左腕を打ち砕いた。ハオは呻き声を上げると嗚咽した。 「…ゆ、許して、もう逃げ出さない、メイファンだけを見るから、やめて、やめてよ。」
ハオは拷問の記憶が蘇ると唯一動く右手で顔を覆い、体をガタガタ震わせながら涙を流した。 ミンメイ「なにか言ってもらおうだなんて思ってないわ。話を聞いてくれるだけでいいのよ」
チョンボ「だったら壁にでも話していろよ」 ....::::::::::
彡⌒ミ....:::::::::髪も仏もキャッシュバックもない…
(/ヨミヽ)、....:::::::
―─(,ノ―ヽノ―― 二ヶ月後ハオの骨折は完治したが、折れた心は完治しなかった。
メイファンの心はあの日を境に壊れてしまい厳しい訓練を行うこともなくなった。 シューフェンは台本読みを終えても、まだぽろぽろと涙をこぼしていた。
「やめてくれよな」リウが涙目で笑いながら言った。「本当に君が半年後に消えてしまうんじゃないかと思ったよ」
「ツァイイーだ!」ツイ・ホークが忙しく涙を拭きながら拍手をした。「僕のイメージ通りなんてものじゃない。君はツァイイーそのものだよ!」
「ピンと来たか?」リウがホークに再び尋ねる。
「いや」ホークはシューフェンに言ったのに「ヒロイン役は君しかいないと思う。引き受けてくれるかい?」
シューフェンはおどおどしながら答えた。
「先に聞いておけばよかったんだけど……」
「ん?」男二人が声を揃える。
「撮影期間ってどのぐらいかかるんですか?」
「実は主演女優がドタキャンする前にほぼ完成してるんだ、この作品。だからあとは君次第さ」
「私次第……」
「君が頑張ってくれれば半年以内、君が鈍ければ1年以上かかるだろうね」ホークはそう言って笑った。
シューフェンも輝くほどに笑い、ぺこりと頭を下げた。
「私、頑張ります。どうぞよろしくお願……あっ!」
「どうした?」
急に顔を歪め、お腹を押さえたシューフェンを心配し、二人は声をかけた。
「ごめんなさい、お昼に蟹焼売食べすぎちゃって……」
シューフェンは激痛の収まらないお腹から手を離し、冗談っぽく笑った。
「ごめん、僕が早食い競争なんかさせたから」リウが恐縮して頭を下げた。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています