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619コメント1454KB
TRPG系実験室 2
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0001創る名無しに見る名無し
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2018/09/07(金) 22:56:07.99ID:c8v0uQxh
TRPG関係であれば自由に使えるスレです
他の話で使用中であっても使えます。何企画同時進行になっても構いません
ここの企画から新スレとして独立するのも自由です
複数企画に参加する場合は企画ごとに別のトリップを使うことをお勧めします。
使用にあたっては混乱を避けるために名前欄の最初に【】でタイトルを付けてください

使用方法(例)
・超短編になりそうなTRPG
・始まるかも分からない実験的TRPG
・新スレを始めたいけどいきなり新スレ建てるのは敷居が高い場合
・SS投下(万が一誰かが乗ってきたらTRPG化するかも?)
・スレ原案だけ放置(誰かがその設定を使ってはじめるかも)
・キャラテンプレだけ放置(誰かに拾われるかも)
0468エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/07/22(木) 12:52:26.82ID:ltznPIoQ
救出に向かったダヤンがウォドレーを担いで戻ってきた。
正直後先考えずに助けたわけで、この後どうするかは考えてない。
どこへ逃げれば出口があるのか……エール達はそれすら知らないのだ。
このままでは捕まるのも時間の問題と言えよう。

>「アイツ、闇の欠片持ってた……!」

「え……?向こうの『湖の乙女』が闇の欠片を……!?」

『湖の乙女』の正体の謎が深まるばかりである。
憶測で語るのは可能だが、今ここで論じても仕方ない。
今の問題はどうやってこの局面を生き残るかだ。

>「通りで以前とは段違いの力を感じるわ……! 大変、破壊しなければ……!」

以前という呟きにエールは引っ掛かりを覚えた。
魔物を引き連れ自分と同じ『湖の乙女』を名乗る存在を知っていながら放置していたのか。
この人……やっぱ全然管理の仕事をしていない。というより権能を失って何もできないのか。

出口も分からず、逃げ場所もない。
ウォドレーを助けたいなら戦うしかない状況だ。
いや……同じく湖に無断で踏み入ったエールとダヤンだ。
もう一人の『湖の乙女』から言わせれば判決は死刑に違いない。

>「ここはあちらが作った神殿……。ここで戦えばあちらの有利になってしまうかも……」

「地の利ってやつですね。あ……そうだ。
 ここに来る前に丁度良さそうな場所があったはず……!」

エールの発案により『ある場所』まで後退する一同。
先細りした巨大な柱がいくつも並ぶ、鍾乳洞のような場所である。
ここなら柱に身を隠せるのでダヤンの斥候としての特性も活かせる。
戦いのステージには申し分ないだろう。

「やばっ……もう追手が来たよ。作戦会議の時間もないみたい……!」

手持ちの双眼鏡(※エヴァーグリーンで揃えた持ち物のひとつ)で確認する。
神殿内にいた二匹の魔物、マーマンだ。後方には『湖の乙女』まで控えている。
まずは数の不利をひっくり返さなければどうにもならない。

「管理人さんと私でウォドレーさんを守りましょう。
 ダヤンは柱の陰に隠れていて。不意をついて敵を仕留めるポジションね!」

短い時間内ではそれぐらいしか思いつかなかった。
管理人はどこまで戦えるか未知数なので当てにできない。
ここは自分とダヤンでなんとかしなければ、と覚悟を決める。
0469エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/07/22(木) 12:54:18.55ID:ltznPIoQ
先細りした巨大な柱の陰で張っているとまずマーマンが先行して泳いでやってきた。
ここは息のできる魔法的な水中空間だ。ダヤンがウォドレーを担いだ時のように浮力が働く。
だから普通に歩くこともできればああいう風に泳いで移動もできるのか、とエールは納得した。

(もう一人の『湖の乙女』は遥か後方……まずはマーマンから仕留める!)

水中と同じ挙動ができるという事はマーマン本来の力が発揮できるということ。
素早く、獰猛で、武器を持ち、時には魔法さえも行使してくる厄介な敵ということ。
だが運の良いことにマーマンはまだこちらには気づいていない。チャンスだ。

(そこっ!)

容赦なくプラズマ弾を二発撃ち込む。
上手く不意を突けたらしい。青白い光が尾を引いて閃光走る!

「ギャァァァァーーーーッ!!」

断末魔の叫びを上げるマーマン二匹が地面に落下していく。
だがもう一人の『湖の乙女』にはこちらの位置を気づかれた。

「役立たずのマーマンが……まぁよいわ」

「残念ながらね!出口はどこっ!?
 教えてくれないとマーマンと同じ目に遭うんだからね!」

エールは精一杯厳しい口調で脅してみた。
だがクスクスと意地悪く笑いながら無視されてしまう。

「そこにいたのか。もう一人の私もいるのか?
 ……面白い、良い機会だ。隠している『聖剣』を私に寄越すがいい。
 湖の伝説を守る役割……完全に引き継いでやろう。お前はもう終わりなのだ」

灰色の髪をなびかせながら闇の欠片を持つ『湖の乙女』がそう言った。
彼女達の存在にはまだ謎が多い。だから口を挟まずにはいられない。

「もう一人の私……!?聖剣を守る『湖の乙女』が何で二人いるの!?
 それにその胸元の『闇の欠片』は一体なんなの……!?」
0470エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/07/22(木) 13:01:41.03ID:ltznPIoQ
もう一人の『湖の乙女』はエールを鋭く睨む。
ゴミを見るような冷たい目つきだ……。

「ふん、うるさい奴だ……貴様も死刑だな。
 見てなんとなく分からないのか?想像力の足りない奴め……。
 『闇の欠片』の力で分離こそしたが……私達は元々ひとつの存在だった」

もう一人の『湖の乙女』は語る。
『湖の乙女』とはこの湖に住まう巨大魚『アスピドケロン』の精神体。
聖剣を守る番人の魔物として生み出された彼女は心優しく穏やかな気性をしていた。

だが知的生命体ならそうであるように、良い心があれば悪い心もある。
最早現れることのない勇者のために聖剣を守り続けるという無意味な役割。
神聖な湖を穢す不届き者の冒険者達。負の情念は澱のように溜まっていく。

そしてある時『闇の欠片』をうっかり飲み込んでしまう。
負の情念は欠片の力で膨らみ、無理に負の側面を排出しようとした結果――。
『闇の欠片』を核としてもうひとつ人格が誕生した。
それが目の前にいる『湖の乙女』の正体である。

「ところでもう一人の体内をうろついていた奴はどこだ?
 どうせどこかに隠れているんだろう。まぁ……関係ないがな」

話を終えたもう一人の『湖の乙女』の目の前に魔法陣が浮かぶ。
推察するに水魔法だろう。エールは反射的に柱の陰に隠れた。

「無駄だ。全員まとめて溺死するがいい」

そして魔法陣から放たれたのは圧倒的な大量の水――!
それが波濤となって一気に押し寄せてきたのだ。
エールも最初のうちはなんとか柱に掴まっていたが……。

「うわ――……!?」

引き剥がされてどこかへと流されてしまう。
放水が止む気配はなくどんどんと水位が上昇していく。
この鍾乳洞のような場所が『本当の水』で沈むまで終わることはないだろう。

だが、今こそ攻撃のチャンスでもある。
なぜならもう一人の『湖の乙女』がこんなことをするのは、
隠れていたダヤンの居場所が分からなかったからに違いないのだから。


【な、なんともう一人の『湖の乙女』の正体は巨大魚の悪い人格だった!】
【ダヤン達をまとめて殺すため水魔法によって放水を開始する】
【エールは波濤に飲み込まれてどこかへ流されてしまう】
0471ダヤン
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2021/07/29(木) 23:28:37.42ID:BUIwxvcQ
相手の地の利を避けるため、鍾乳洞のような場所まで撤退する一同。
しかし、部下のマーマンたちがすぐに追いついてくる。

>「やばっ……もう追手が来たよ。作戦会議の時間もないみたい……!」
>「管理人さんと私でウォドレーさんを守りましょう。
 ダヤンは柱の陰に隠れていて。不意をついて敵を仕留めるポジションね!」

「にゃん!」

マーマンは決して油断していい相手ではない。
ダヤンは柱の陰で、いつでも飛び出せるように身構える。

>「ギャァァァァーーーーッ!!」

が、うまく不意を突いたエールが魔導弾で難なく撃沈。エールは居場所を気付かれた。
前座は終わり、ついに真打との対決、となりそうだが、
別の柱の陰に隠れているダヤンにはまだ気づいていないようなので、もう少し隠れておくことにする。

>「役立たずのマーマンが……まぁよいわ」

>「残念ながらね!出口はどこっ!?
 教えてくれないとマーマンと同じ目に遭うんだからね!」

精いっぱい強がって凄んでみせるエールだが、まったく相手にされなかった。

>「そこにいたのか。もう一人の私もいるのか?
 ……面白い、良い機会だ。隠している『聖剣』を私に寄越すがいい。
 湖の伝説を守る役割……完全に引き継いでやろう。お前はもう終わりなのだ」

>「もう一人の私……!?聖剣を守る『湖の乙女』が何で二人いるの!?
 それにその胸元の『闇の欠片』は一体なんなの……!?」

>「ふん、うるさい奴だ……貴様も死刑だな。
 見てなんとなく分からないのか?想像力の足りない奴め……。
 『闇の欠片』の力で分離こそしたが……私達は元々ひとつの存在だった」

改めて二人の湖の乙女を見比べるダヤン。
言われてみれば、あまりに雰囲気が違い過ぎて気が付かなかったが、
ベースの外見自体はなんとなく似ている気がする。
そして、湖の乙女(怖い方)は、自分達の境遇を語り始めた。
勝利を確信した敵が、何故か自発的に自らの境遇を語りだすことは珍しい事ではないという。
しかし、そんな時こそ逆転のチャンスだと以前マスターが言っていた。
勝利を確信して油断しているのと、話に夢中になっているので、隙が出来るからだ。
斥候技能の一つである隠密行動で、ダヤンは柱の陰から陰へと素早く移動し、
背後から不意打ちできそうな位置を陣取る。
0472ダヤン
垢版 |
2021/07/29(木) 23:29:49.41ID:BUIwxvcQ
>「ところでもう一人の体内をうろついていた奴はどこだ?
 どうせどこかに隠れているんだろう。まぁ……関係ないがな」
>「無駄だ。全員まとめて溺死するがいい」

>「うわ――……!?」

魔法陣から大量の水が放たれたかと思うと、エールはあっという間に流されてしまった。
ダヤンは猫っぽく柱を登り、流されるのを回避する。

「にゃん!!」

そして柱から飛び降り様に湖の乙女(怖い方)に飛びつき、猫っぽく顔をひっかきまくる。

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃッ!!」

「ぎゃあああああ! やめぬか糞猫!」

文字通りのキャットファイトが始まった。
湖の乙女(怖い方)の正体は闇の欠片によって強化された巨大魚の精神体。
本来敵う相手ではないはずだが、今のところはなんとかなっているのは魚に対する猫の相性補正なのかもしれない。

「にゃあ!」

隙をついて、闇の欠片をダガーで攻撃。しかし、傷一つ付かない。

「やっぱりそう簡単にはいかないにゃあ……何か凄い武器でもあれば……ん? 凄い武器?」

一計を案じたダヤンは湖の乙女(ポンコツの方)に声をかける。

「相手は自分自身だから戦えないんじゃないかにゃ?
代わりにエールとウォドレーさんを頼むにゃ!」

どこまで役に立つか分からない戦闘の加勢よりも、エール達の救出を要請した。
いくら権能を奪われたとはいえ、たとえ水の中であろうが自らの体内を自由に動き回ることは造作もないだろう。
0473ダヤン
垢版 |
2021/07/29(木) 23:38:58.88ID:BUIwxvcQ
「でも……」

「オイラは魚に対する猫だから大丈夫にゃ!
それにエールなら……もしかしたら聖剣が使えるかもしれないにゃ!」

「なんですって……!? 嘘よ! 聖剣が使えるのはもう来るはずの無い勇者だけ……」

「じゃあ、勇者の定義って何にゃ?」

「それは……邪悪なる野望から世界を救う者、みたいな……?」

湖の乙女(ポンコツ)はふわっとした答えを返した。ダヤンの狙い通りである。

「どうも今この迷宮内は闇の欠片っていうのが散らばってヤバイことが起こってるみたいだにゃ。
エールは闇の欠片絡みの事件をもう二回も解決してるんだにゃ! もしかして勇者かもしれないにゃ!」

これは別に深い意味は無く、聖剣があれば闇の欠片を破壊するのも簡単だろうな、
と思ったのでエールにダシになってもらっただけである。が、満更嘘でもない。
エールは決して迷宮を救おうとか思っているわけではなく、目的は飽くまでも姉を探すことなのだが。

「……分かったわ!」

湖の乙女(ポンコツの方)はうまく乗せられ、エールが流された方に勢いよく泳いでいった。
怖い方の口ぶりによると、聖剣の所有権はまだポンコツの方の手中にあり、
持ってこようと思えばすぐに持ってこられる状態なのだろう。
エールが救出された暁には聖剣の在り処に案内されるかもしれないし、
もしかしたらその場ですぐに出してくれるかもしれない。
ダヤンはそれからしばらくキャットファイトを続けていたが、やはりそう長くは続かない。

「散々手こずらせてくれたな、猫。だがそろそろ終わりぞ!」

「にぎゃ!!」

柱に叩きつけられてずるずるずり落ちて水に着水するダヤン。

「残念だったな……仲間はこぬ。とっくに溺れ死んでおるわ!」

「それはどうかにゃ……?」

ダヤンは猫だけど犬かきしてなんとか顔を水上に出す。そう、水から顔を出せるのだ。
途中で攻撃されて集中が途切れたためか、息が出来るスペースが残っているうちに魔法陣からの放水は途絶えたようだった。
0474エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/08/02(月) 23:52:44.67ID:X0hTfFkE
波濤の勢いに押し流され、エールはどんどんとダヤンや『湖の乙女』達から離される。
すると眼前に巨大な岩壁が現れた。このスピードで激突したら負傷は免れない。

「きゃぁーっ!」

エールは思わず悲鳴を上げた。
だが次の瞬間、柱から伸びた手がエールの身体を抱き寄せ事なきを得る。
おそるおそる目を開けると、そこにはウォドレーがいた。

「大丈夫か?助けてもらった借りを返しにきた」

「ウォドレー、さん……」

窮地を救ってくれたのは聖剣を求めし騎士、ウォドレーだった。
右足を骨折しているにも関わらず、流されたエールを助けに来てくれたのだ。
エールは騎士に抱き寄せられたまま柱に掴まると、何度か深呼吸した。
自分が思っている以上に水に恐怖していたのだろう。心臓は早鐘を打っていた。

「大丈夫!?助けに来たわ!」

少し遅れて『湖の乙女』がやって来る。
すると、ちょうど水位の上昇も止まったようだった。
この場にいないのはダヤンだけ……もしかしたらダヤンのおかげかもしれない。

「聞いて。新時代の勇者、エール。今からあなたに聖剣を託します」

「えーっ。どういう……ことですか?」

「どういう……ことだ。話が飛躍していないか」

困惑するエールとウォドレーの反応を見て、
決め顔だった『湖の乙女』も若干困惑した表情に変わる。

「そんなこと……私に言われても……。
 猫ちゃんが貴女を勇者かもしれないって言うから……つい……」

話を聞くと、どうやらダヤンが聖剣の力を借りて現状の打破を図ろうとしたようだ。
エールもその場の人情や依頼という形で『闇の欠片』に関わっているだけなのだが……。
世界の危機がどうこうとかで戦っているわけではない。
0475エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/08/02(月) 23:54:35.36ID:X0hTfFkE
だがしかし、と『湖の乙女』は困惑した表情を張り詰めたものに戻す。
どちらにせよ今もう一人の『湖の乙女』を倒せる可能性があるのは聖剣だけだ。
なにせエールの必殺技『ハイペリオンバスター』は水中だと威力が減衰する欠点がある。

「『闇の欠片』のせいでもう一人の私が皆に迷惑をかけているのも事実。
 エール、やはり貴女に聖剣を一時的に託そうと思います」

『湖の乙女』が両手を差し出すと、空間が徐々に形を成して剣が出現する。
それは透き通った水のような水晶質の剣だった。ウォドレーは思わず息を飲む。
欲していた聖剣が今目の前にあるのだから。

「これが……あらゆる世界に散らばるという五聖剣のひとつか……!
 伝説に違わぬ美しさだ……しかし……かの剣は振るい手を自らの意思で決めると聞く。
 聖剣が勇者ではなくエール殿に使われてくれるとよいのだが……!」

興奮した様子のウォドレーは早口でそう話した。
『湖の乙女』は静かにこう返す。

「大丈夫です。聖剣も貴女になら使われてもいいと言っています。
 さぁ、エール。この剣を手に取り、戦いに終止符を打つのです……!」

「で、でも……私、銃士だよ。剣なんて使ったことないよ……。
 たしかに棍棒みたいに適当に振り回すことはできるかもしれないけれど……」

「大丈夫だよエール殿。聖剣が認めてくれたのなら、持てば使い方は剣が教えてくれる。
 きっと今まで使ってきた魔導砲のように自然と使いこなせるはずだ。私は剣マニアだから間違いない。
 君にはその資格がある。誰でも選ばれるわけではないのだ。さぁ、迷わずに剣を取って」

エールを肩に抱くウォドレーが力強くそう言った。
そうだ。本来ならかの騎士こそが聖剣を振るいたいだろうに。

だが、一時的とはいえ聖剣が選んだのはエールだ。理由は分からないが……。
だから覚悟を決めた。この剣を探し求めたウォドレーのためにも、戦いを終わらせてみせる!
エールは乙女の差し出した手に収まる剣を取り、天高く掲げた。
0476エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/08/02(月) 23:57:51.13ID:X0hTfFkE
一方。犬かきで水面から顔を出したダヤンを、闇人格の『湖の乙女』はクスクスと笑い飛ばした。
奴が時間稼ぎをしているのは分かる。そしてまるでゴミは見るかのような目でこう言うのだ。

「それはどうかにゃ?だと……?笑わせるな。
 貴様らごときの力では私には傷一つつけられんわ……!
 それともなんだ。来ても役に立たない援軍を信じて延々と時間を稼ぐつもりか?」

再び空間に新たな魔法陣が浮かぶ。
集中力が途切れて放水は止まってしまったが、ここまで水位が上がれば動きを封じたも同然。
後はゆっくりと料理すればいい。『水』を使った拷問でじわじわと苦めて殺してやろう――。
そう思った時。

「なんだ……?水位が下がっている?」

闇人格の『湖の乙女』が驚いた様子で周囲を見る。
目に見える勢いで嵩増した水位が下がっていくではないか。
渦を巻いて水が減っていく、その中心を凝視する。
そこには天高く水晶の剣を掲げたエールがいた。

「あれは湖の聖剣オードリュクス……!?なぜあの小娘がっ!?」

呟いたのは、魔王の手から多元世界を救った勇者が振るうはずだった聖剣の名。
その力は聖剣共通の能力である『浄化』――特に、水の浄化を得意とする。

あらゆる汚水もオードリュクスの力があれば真水へと浄化できる。
さらに水を自在に操り、水を集めて凝縮することで力に変換する。
すなわち――。

「これが湖の聖剣オードリュクス、そのファーストステージの能力。
 周囲が水で満たされているほど……この剣は水を集めて強くなる……!
 悪い『湖の乙女』さん!貴女の放水のおかげで湖の聖剣は力を発揮できるんだよっ!」

放水された水全てを収束して練り上げられたのは一本の長大な刀身だった。
聖剣はこの鍾乳洞のような場所を貫き、天を衝かんばかりの剣へと姿を変える。
ガードせねば――!エールがその剣を振り下ろすと同時に闇人格の乙女は魔法障壁を張った。
障壁と剣が激突する。胸元の『闇の欠片』が妖しく光り、障壁をより強固にする。

(いけない、魔力が足りない……!)

水の刀身の形成は聖剣の能力だが、それを制御するのはエール自身の魔力だ。
障壁と水の剣が激突する影響で刀身の水がどんどん散っていく。
このままでは刃が闇人格の『湖の乙女』に届くまでに刀身を維持できない。
誰か……魔力を有する者が共に剣を握り、刀身を形成しなければ勝機はない。


【湖の聖剣を乙女から一時的に借りることに成功】
【長大な水の剣で闇人格の『湖の乙女』へ攻撃するが防御される】
【水の剣の維持に魔力が必要。誰か手伝ってくれー!】
0477エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/08/03(火) 00:01:03.98ID:zsnwl2e8
湖の聖剣オードリュクスについて:

かつて湖に住んでいたという水神が勇者のために創った聖なる剣。
水神は体内にダンジョンを持つ巨大魚『アスピドケロン』を生み出し、巨大魚に聖剣を守らせる。
だがその力を恐れた魔王が土地ごと無限迷宮に封印したことで誰の手にも渡ることなく眠り続けることになる。

柄から刀身に至るまで透き通った水のような水晶で出来ており、硝子細工にも似た美しさをもつ。
脆そうな反面非常に頑丈でその強度は伝説の金属オリハルコンやミスリルにも遜色しない。

聖剣の共通能力である魔物や魔族、アンデッドといった闇の存在が嫌がる『浄化』の力を持つ。
加えてオードリュクスはあらゆる水をも浄化でき、汚水も瞬時に真水へ変える。
その真の力は三段階に別れ、聖剣に深く認められるほどに力を解放できる。

【1st stage】
周辺の水を操ることができ、水を集めて力を向上させられる。

【2nd stage】
周辺に存在する魔力を集めて水に変換することができる。

【3rd stage】
生成した水、操る水を『聖水』に変化させる。
聖水の効力は強大で、魔物・魔族・アンデッドの類は触れるだけで消滅する。


……なお、一時的に聖剣を借りたエールは共通能力とファーストステージの能力のみ行使できるようだ。
0478ダヤン
垢版 |
2021/08/08(日) 08:55:46.90ID:N/PJkU/Y
>「それはどうかにゃ?だと……?笑わせるな。
 貴様らごときの力では私には傷一つつけられんわ……!
 それともなんだ。来ても役に立たない援軍を信じて延々と時間を稼ぐつもりか?」

「来ても役に立たない? そんなことにゃい!」

精いっぱい強気に振る舞うも、同じ空間に再び魔法陣が浮かぶ。

「お助けにゃーーーーー! 早く来てにゃーーーーー!」

このままでは万事急すと思われたが……

>「なんだ……?水位が下がっている?」

見る見るうちに水位が下がっていく。
その中心には、美しい剣を掲げたエールがいた。

>「あれは湖の聖剣オードリュクス……!?なぜあの小娘がっ!?」

「エール……!」

ダヤンの作戦が見事に当たった形になる。
エールは銃士なので剣術の心得はないだろうというのは分かってはいたが、
伝説レベルの武器というのは、その武器自体の技能はあまり関係がない場合も往々にしてあるのだ。

>「これが湖の聖剣オードリュクス、そのファーストステージの能力。
 周囲が水で満たされているほど……この剣は水を集めて強くなる……!
 悪い『湖の乙女』さん!貴女の放水のおかげで湖の聖剣は力を発揮できるんだよっ!」

水を集めて出来あがった長大な刀身と湖の乙女(闇人格)の作り出した魔法障壁がぶつかりあう。

「やっちゃえにゃーーーーー!」

このまま押し切れるかとも思われたが、
湖の乙女(闇)もさるもので、刀身の水がどんどん散っていく。

「これは……まずいんじゃないかにゃ……?」

「なにぶん刀身の制御自体は使い手自身の魔力で行うから……手伝ってあげて!」
0479ダヤン
垢版 |
2021/08/08(日) 08:57:05.45ID:N/PJkU/Y
と、湖の乙女(光)が解説する。
これだけの刀身を制御するのだ。きっと並大抵ではない魔力を消費するのだろう。
湖の乙女(光)が手伝ってやれよとも思うが、ダヤンが予測したとおり、自分自身とは戦えない仕様なのかもしれない。
これだけでは手伝わない理由はないが、湖の乙女(闇)が解説を追加する。

「良いのか? あの聖剣は気難しくてのう、誰にでも扱えるわけではない。
あの小娘はたまたま認められたようだが、気に入らない者が振れれば即刻ヘソを曲げるだろうよ」

「そんにゃ……!」

湖の乙女(闇)が言っていることはまるっきりの嘘ではないのかもしれないが、
わざわざそれを言ったのは、手伝われてうまくいかれたら分が悪いとからという面もあるだろう。
なにより、刀身はどんどん短くなっており、このままでは負けてしまう。

「……手伝うにゃ!」

ダヤンは一瞬の逡巡の後に、エールの隣に駆け寄り、ともに剣を握った。

「聖剣にゃん、気に入らにゃくても今は力を貸してにゃ……!」

刀身が、再び勢いを盛り返す。

「小癪な……。だがッ! 虫けらが何匹束になろうが同じことよ!」

忌々し気に吐き捨て、更に障壁を強化する湖の乙女(闇)。
暫く拮抗していたが、次第に障壁にひびが入っていく。

「なん……だと……!?」

「観念して一人に戻るにゃああああああああああああ!!」

ついに魔法障壁が決壊し、巨大な水の刀身が浄化の激流となり、湖の乙女(闇)に押し寄せる。
0480エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/08/09(月) 00:19:49.38ID:Yp4OLotB
【いま742KBかぁ……創作発表板の容量って何KBまでなんだっけ……?】
【もしそろそろ容量いっぱいなら新スレ立てた方がいいよね……(私が立てていいのかな)】
0481ダヤン
垢版 |
2021/08/09(月) 01:31:39.94ID:lsANG6yb
【750kbぐらいだった気がするにゃ
でも不思議なことにこちらでは今の容量が1050KBと表示されてるんだにゃー
(おそらく閲覧環境の違いによるもの?)
もしここが落ちてから新スレでも迷子にはならないから大丈夫にゃよ】
0482エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/08/09(月) 15:43:52.54ID:Yp4OLotB
>>481
【そうなのっ?専ブラ(Live5ch)からだと742KBって表示されてるんだよね……】
【じゃあ板のルール的に残すのも良くないしここが落ちてからスレ立てするね】
0483エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/08/09(月) 15:46:18.33ID:Yp4OLotB
あれほど長大だった水の剣が障壁に弾かれて見る見るか細くなっていく。
上手く魔力制御できていれば水が散ることはないのだが、何せメートル単位の巨大な長剣だ。
エールの魔力量では隅々まで行き届かない。ゆえにすぐ『ただの水』に戻ってしまう。

>「……手伝うにゃ!」

そんな時、ダヤンが駆けつけて共に剣を握ってくれた。
魔力が水晶の刀身に流れ、水の剣へと伝わっていく。

>「聖剣にゃん、気に入らにゃくても今は力を貸してにゃ……!」

「大丈夫だよ、一緒にやろう!私たち仲間だもん!」

散った水を集め直し、再び元の姿を取り戻した水の剣が再び障壁を削りはじめる。
闇人格の『湖の乙女』は魔法障壁をより強固なものにして対抗する。
純粋な力と力の比べ合い。聖剣と闇の欠片の正面衝突。

>「なん……だと……!?」

暫くの拮抗を見せた二つの力の衝突はしかし聖剣側に傾きつつあった。
魔法障壁に少しずつ罅が入り、次第に壊れていく。

>「観念して一人に戻るにゃああああああああああああ!!」

ダヤンの咆哮に呼応するように水の剣が瑞々しく光を放った。
この光はただの反射光なんかじゃない。剣が二人の使い手を深く認めた証。
剣がサードステージの力を解放したことによる覚醒の光だ!

障壁は遂に決壊し、遂に水の剣が『聖水』の奔流となって押し寄せる。
『聖水』が持つ浄化の力。その激流に飲み込まれ、闇人格の乙女の身体が消滅していく。

「ぎぎぎぎぃぃぃ!!ば、馬鹿なぁ……!!ゆくゆくは聖剣をも穢し、
 世界を混沌に導く魔剣を生むはずだった我が計画がこんなところで……!」

顔の半分を消失し、美しい顔立ちが見る影もない醜いものとなってなお、
闇人格の乙女は無念だったのか、声のあらん限りに言葉を紡ぐ。

「なぜ『聖剣』が貴様らごときを認めたのだぁぁ!分からぬ……私には分からぬぅぅぅーっ!
 嫌だ、消えたくない……せっかくこの湖を支配できるはずだったのに!消えたくないぃぃーーっ!!」

身体が粉々に砕け散ると、胸元で輝いていた闇の欠片も光を失い滅び去った。
後に残ったのはぐしょ濡れの猫獣人と、銃士と……片足の折れた騎士だけだ。
0484エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/08/09(月) 15:48:30.71ID:Yp4OLotB
……戦いが終わり、たたたっと『湖の乙女』が駆け寄ると、ダヤンとエールの肩を組んだ。
聖剣を貸した後も最後まで見守ってくれていたようだ。

「やったわね!このこのー!最後に水の剣が光ったのは闇人格の私を『浄化』した証拠よ!
 それってつまりは聖剣がサードステージの力を解放して、真水を『聖水』に変えたってことなの!
 勇者以外にもそんな事できる人物が現れるなんて快挙だわ!守り続けてきた甲斐があった!」

聖剣の持つ『浄化』の力は刀身で斬った対象にしか発揮できない。
ほんらい真水の塊のはずである水の剣で斬っただけでは闇人格の乙女はあんな風に消滅しない。
だから最後の現象は聖剣がダヤンとエールを本当の意味で認めてくれたという証明。
ニコイチという形ではあるが、それは……聖剣が真に選ぶのは何も勇者だけではないということ。

「……何だか、『聖剣』が二人を選んだ理由が分かった気がするよ。
 ダヤン殿とエール殿は私の身を案じて助けに来てくれたのだ。ただの他人の私を……。
 その優しい心に聖剣もきっと心打たれたのだろう。そんな気がする」

自前の剣を杖替わりにしながらウォドレーはそう言ってくれた。
正直弾みのようなところもあるが、『湖の乙女』が深く頷いたので多分そうなのだろう。
聖剣はその刀身をきらりと光らせると空間に溶けて真っ青な光と化した。
そして『湖の乙女』の胸元まで吸い込まれて消えていく。

「……一時的、というのは変わらないみたいだけどね。でも私は嬉しいわ。
 だってこの湖で聖剣を守る意味がちゃんとあったってことなんだもの」

そして闇人格の乙女の消滅は奪われた権能が戻ったことも意味する。
『湖の乙女』が手を翳すと、光の穴のようなものが出現した。

「私の『本体』の外へ続くゲートを開けたわ。三人はここから無限迷宮に戻りなさい。
 あっ、口とかお尻から出す訳じゃないから大丈夫。転移魔法で移動する感じのヤツだから」

「『湖の乙女』さん……ありがとう!お世話になりました!」

エールは頭を下げると、二人と共に光の穴へと消えていく。
『湖の乙女』は三人の転移が終わるまでいつまでも手を振っていた。

「三人ともお元気で!私は聖剣の持ち主が現れるまで、またここで待ち続けるわ!
 いつまでもね!だから忘れないわ!貴女達みたいな人がいたってことーっ!」
0485エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/08/09(月) 15:54:28.20ID:Yp4OLotB
景色が真っ白になると、次の瞬間にはふわっとした感覚がやって来た。
すると白い薄霧が覆う町が眼前に現れる。水の町ローレライだ。
転移魔法独特の浮遊感を伴ってエールは砂浜に着地した。
波が寄せては返る音が静かに響いている。時刻はすでに夜。

「依頼は失敗だったな……湖の主は退治すべき対象ではなかった。
 それに、もう人を襲うこともない。依頼主にはそう報告するとしよう」

怪我のせいだろう。着地に失敗したウォドレーは座り込んだまま一人頷く。
エールは魔導砲を担ぎなおして近づくと、何気なく尋ねた。

「あの……良かったんですか?ウォドレーさんは聖剣が欲しかったんじゃ?」

「うん……まぁそうなんだが、まぁいいのさ。私のような物欲だらけの騎士を認めてはくれんだろうしな。
 力で奪うほど私は強引じゃない。それに、この無限迷宮にはまだまだ眠っている名剣がある。
 足の怪我を治したらそいつを探しに行くよ。私の冒険も終わったわけじゃないのさ」

そんな風にウォドレーと話していると上空から何かが降り立った。
顔の右半分を仮面で覆った、特徴的な白衣姿。それは2階で出会った謎の若い男だった。
白衣の男は砂浜に着地すると一同を見渡し、表情をぴくりとも動かさずこう言った。

「また君達か。関わるなと言ったはずだが。
 ところで……この湖にあるはずの『闇の欠片』の反応が消えた。
 ……何があったんだ?君達が壊したのか。通常手段では破壊不能のはずだが」

「貴方は……2階で会った……!」

「質問に答えてくれ。それを確認しにきたんだ。とても重要なことだ」

何を話しても同じ事を返されそうな圧力にエールは屈した。
数々の疑問を投げる前に、男の質問に答えることにした。

「『闇の欠片』はこの湖に眠る伝説の聖剣が浄化してくれました。
 もう跡形も残っていません。……これで良いですか?」

白衣の男は表情筋を動かすことなく数瞬の沈黙を保った。
そして独白のように呟く。

「誰かを助けたいという純粋で清らかな想い……か。
 だが君達は聖剣を持っていない。ならば一時的なもの……ということか」

白衣の男は三人のことなど既に眼中になかった。
だが一点。気になる事があったらしい。
0486エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/08/09(月) 15:59:49.01ID:Yp4OLotB
白衣の男は座り込んでいるウォドレーを見つめると、しゃがんで折れている足に触れた。
すると患部に触れた手が温かな光を放ちはじめる。エールはそれに見覚えがあった。
僧侶やお医者さんが使う治癒魔法の光だ。

「足は第二の心臓だ。冒険者とはいえ無理はしないことだな。
 ……少しリハビリすればすぐ歩けるようになる。以後は気をつけるといい」

それだけ言い放つと、白衣の男は空高く舞い上がった。
きっとまたどこかへ転移する気だろう。
エールは慌てて駆け出すとその後を追った。

「待ってください!貴方は……何者なんですか!?」

「……私の名前はアスクレピオス。でもあまり言いふらさないでくれ。
 君達はなんだかそそっかしい……放ってはおけないから名乗っただけだ。
 『闇の欠片』絡みで何かあったら私の名を使え。相手次第では命を拾えるかもしれない」

それだけ言い残すと、アスクレピオスは以前のように消え去ってしまった。
蝋燭の灯火が無くなるように、ふっ……と何処かへと転移したのだ。
後に残されたのは砂浜に響く波の音だけ……。

「……何者なんだろう……悪い人じゃないのかな」

白衣の男の名前は判ったが、分からないことだらけなのに違いはない。
そういえば湖に『闇の欠片』を落とした謎の人物のことも結局分からずじまいだ。
ダヤンが以前行った推理でいけば、彼こそが犯人という可能性が濃厚だが……?

「……考えても仕方ないか。もう無関係とはいえないけど……。
 くよくよ悩んでも仕方ないよね、ダヤン。それより今日の晩ご飯の方が重要だよ!」

気を取り直すと、エールはダヤンの方へと振り向いて、その表情を朗らかなものに戻した。
聖剣のおかげとはいえ自分達は『闇の欠片』に打ち勝てた。その自信もあった。

「後はどうする?今ならポータルも2階以外に繋がってると思うけど……。
 もう夜だし宿屋で休む?私は元気だからどっちでも大丈夫だよ」


【闇人格の『湖の乙女』撃破!水の町ローレライまで戻ることに成功】
【外で半仮面を被った白衣の男と再び出会い、名前を教えてもらう】
0487ダヤン
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2021/08/15(日) 17:22:25.67ID:rXiv7wP3
>「ぎぎぎぎぃぃぃ!!ば、馬鹿なぁ……!!ゆくゆくは聖剣をも穢し、
 世界を混沌に導く魔剣を生むはずだった我が計画がこんなところで……!」
>「なぜ『聖剣』が貴様らごときを認めたのだぁぁ!分からぬ……私には分からぬぅぅぅーっ!
 嫌だ、消えたくない……せっかくこの湖を支配できるはずだったのに!消えたくないぃぃーーっ!!」

闇人格の湖の乙女は、声の限りに無念を叫びながら滅び去った。
それを見て、ほんの少しだけ、本当にこれで良かったのだろうかと思うダヤン。
闇人格の乙女が生まれたのは、来ぬ勇者を待ち続ける悲哀からだったのだ。
しかし、かけよってきた湖の乙女に嬉しそうに肩を組まれ、そんな思考はどこかに吹き飛んだ。

>「やったわね!このこのー!最後に水の剣が光ったのは闇人格の私を『浄化』した証拠よ!
 それってつまりは聖剣がサードステージの力を解放して、真水を『聖水』に変えたってことなの!
 勇者以外にもそんな事できる人物が現れるなんて快挙だわ!守り続けてきた甲斐があった!」

エールとダヤンが一時的とはいえ聖剣の力を借りられたことは、彼女にとって確かな希望になったのだ。

>「……何だか、『聖剣』が二人を選んだ理由が分かった気がするよ。
 ダヤン殿とエール殿は私の身を案じて助けに来てくれたのだ。ただの他人の私を……。
 その優しい心に聖剣もきっと心打たれたのだろう。そんな気がする」

「ウォドレーにゃん……その大怪我なのにエールが流された時
迷わず助けに行ってくれてたの、見えたにゃ。流石騎士にゃ!
何かすぐ治る方法があればいいんにゃけど……」

>「……一時的、というのは変わらないみたいだけどね。でも私は嬉しいわ。
 だってこの湖で聖剣を守る意味がちゃんとあったってことなんだもの」
>「私の『本体』の外へ続くゲートを開けたわ。三人はここから無限迷宮に戻りなさい。
 あっ、口とかお尻から出す訳じゃないから大丈夫。転移魔法で移動する感じのヤツだから」

湖の乙女が光のゲートが出現させる。
闇人格を倒したことで権能が戻り、ゲートも自由に開けるようになったということだろう。

>「三人ともお元気で!私は聖剣の持ち主が現れるまで、またここで待ち続けるわ!
 いつまでもね!だから忘れないわ!貴女達みたいな人がいたってことーっ!」

「ありがとにゃん! 聖剣の持ち主……きっと現れるにゃ!」

一瞬の浮遊感の後、気付けば3人はローレライの砂浜にいた。

>「依頼は失敗だったな……湖の主は退治すべき対象ではなかった。
 それに、もう人を襲うこともない。依頼主にはそう報告するとしよう」

>「あの……良かったんですか?ウォドレーさんは聖剣が欲しかったんじゃ?」

>「うん……まぁそうなんだが、まぁいいのさ。私のような物欲だらけの騎士を認めてはくれんだろうしな。
 力で奪うほど私は強引じゃない。それに、この無限迷宮にはまだまだ眠っている名剣がある。
 足の怪我を治したらそいつを探しに行くよ。私の冒険も終わったわけじゃないのさ」

「名剣集めの旅……かっこいいにゃ〜……にゃにゃ!?」
0488ダヤン
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2021/08/15(日) 17:23:59.51ID:rXiv7wP3
緩い空気で話していたダヤンだったが、上空から何者かが降りてくるのに気づき警戒態勢に入る。

>「また君達か。関わるなと言ったはずだが。
 ところで……この湖にあるはずの『闇の欠片』の反応が消えた。
 ……何があったんだ?君達が壊したのか。通常手段では破壊不能のはずだが」

>「貴方は……2階で会った……!」

「いろいろ聞きたいのはこっちだにゃ」

>「質問に答えてくれ。それを確認しにきたんだ。とても重要なことだ」

>「『闇の欠片』はこの湖に眠る伝説の聖剣が浄化してくれました。
 もう跡形も残っていません。……これで良いですか?」

現時点では、この男の目的も敵なのか味方なのかも全く分からないので、どう反応するか全くの未知数。
最悪の場合、「やはり君達は泳がせておいたら危険だ」とか何とか言って襲い掛かってくる展開すらあり得る。
ダヤンはドキドキしながら男の反応を待った。

>「誰かを助けたいという純粋で清らかな想い……か。
 だが君達は聖剣を持っていない。ならば一時的なもの……ということか」

ひとまず納得してくれたようなので胸をなでおろす。
と、男はおもむろにウォドレーの足に手を触れた。

「にゃにゃ!?」

>「足は第二の心臓だ。冒険者とはいえ無理はしないことだな。
 ……少しリハビリすればすぐ歩けるようになる。以後は気をつけるといい」

治癒魔法を使ったと思われる。
それも、即全回復まではいかないものの、それに近い程の効果があるなら、かなり高位の治癒魔法だろう。

>「待ってください!貴方は……何者なんですか!?」

>「……私の名前はアスクレピオス。でもあまり言いふらさないでくれ。
 君達はなんだかそそっかしい……放ってはおけないから名乗っただけだ。
 『闇の欠片』絡みで何かあったら私の名を使え。相手次第では命を拾えるかもしれない」

「いろいろ聞きたいこと満載だけどとりあえずありがとにゃー!」

ダヤンが言い終わらないううちに、アスクレピアスと名乗った男は姿を消した。

>「……何者なんだろう……悪い人じゃないのかな」

「……悪い人じゃにゃいどころかかなりいい人感滲み出てにゃかった!?」

といっても相変わらず素性不明の正体不明には変わりはないのだが
黒幕疑惑寄りの正体不明だったのが、訳アリいい人っぽい正体不明に一気に昇格した。
いい人感を出して油断させる作戦、という可能性ももちろんあり得るのだが、ダヤンは単純なのだ。

>「……考えても仕方ないか。もう無関係とはいえないけど……。
 くよくよ悩んでも仕方ないよね、ダヤン。それより今日の晩ご飯の方が重要だよ!」
>「後はどうする?今ならポータルも2階以外に繋がってると思うけど……。
 もう夜だし宿屋で休む?私は元気だからどっちでも大丈夫だよ」
0489ダヤン
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2021/08/15(日) 17:27:03.23ID:rXiv7wP3
大魚に食べられて激流に流されたり聖剣をぶん回したりしたにも拘わらず元気とは、流石のバイタリティだ。
やはり、今回は自分達で闇の欠片に打ち勝てたのが大きいのだろう。

「転移したら転移先が街の近くとは限らないにゃ。今日の晩御飯のためにもいったん宿屋に帰るにゃ」

宿屋に帰ると、たむろっている冒険者達が謎の盛り上がりを見せた。

「よっしゃあああああ! 俺の独り勝ち!」

「嘘だろ……!? 生きて帰ってきやがった!」

どうやら、不謹慎にもウォドレーが生きて帰ってくるかで賭けをしていたようだ。

「晩飯まだなんだろ? 奢らせてくれよ」

大金を手に入れ気をよくした賭けに勝った冒険者が寄ってきた。
生きて帰ってくる方に賭けてくれていたのでそこまで悪い気はしない。
お言葉に甘えて奢ってもらうことにした。

「それで聖剣は見つかったのか? ……いや冗談だ。生きて帰ってきただけでもすげーよ。
勝ってきたってことはまさか湖の主は退治できたのか!?」

「信じられないかもしれないが見つけた。確かにこの目で見た。
しかし私などに手の届くものではなかったのだよ。
湖の主は……もう人を襲うことはないだろう。
来ぬ勇者を待ち続ける湖の主の絶望を払ってくれたからな……この二人が」

「買いかぶりすぎだにゃ。騎士ウォドレーの勇気が湖の主の怒りを鎮めたんだにゃん」

ダヤンはそう言ってウォドレーに悪戯っぽくウィンクした。

「剣マニアなら湖の聖剣は”五聖剣”の一つってのは知ってるよな?
湖の聖剣の他にもこの迷宮に来てるのがあるみたいだぜ?
……おっと、お代ならもうたんまり頂いてるから心配無用……」

「いや、いいんだ。聞いたらつい行きたくなってしまうだろう?
意思を持つ聖剣は私には荷が勝ちすぎる」

どうやら男は情報屋でもあったらしく、賭けに勝たせてくれたお礼に
ウォドレーに他の聖剣の情報を教えようとしていたが、やんわり断られていた。

「それじゃあ代わりに、ちょっとだけ情報いいかにゃ?
オイラ達湖沿いのポータルから少し歩いて来たけど、もっと近いポータルはあるかにゃ?」

次の日――二人は街のはずれに来ていた。
普通なら入らないであろう茂みの中に分け入っていくと、昨日教えてもらったポータルが確かにあった。
街の中にポータルがあっても別に何も不思議は無いのだが、なんだか新鮮である。

「おおっ、本当にあったにゃ〜、灯台もと暗しだにゃー」

こうして二人はポータルへ――次のステージへと飛び込んだ。
0490エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/08/17(火) 00:39:37.71ID:mmfmasVn
>「転移したら転移先が街の近くとは限らないにゃ。今日の晩御飯のためにもいったん宿屋に帰るにゃ」

「それもそうだね……よし、宿屋へ戻ろう!」

エールは方向転換すると、町の方角へと歩き出した。
宿屋へ帰ると待ち受けていたのは同業者たちの歓声だった。
ウォドレーが生きて帰ってくるかどうかで賭けをしていたらしい。
賭けは情報屋らしい冒険者のひとり勝ちらしく、気を良くしてこう言った。

>「晩飯まだなんだろ? 奢らせてくれよ」

「えっ!いいんですかぁ!?えへへ……じゃあお言葉に甘えて」

他人のお金で食べるはご飯は美味しい。とても美味しいです。
エールは食堂で夢中になってタダ飯にありついた。
料理はフルコース料理だったがエールの皿だけ尋常ではない速さで消えていく。

皆は『五聖剣』と呼ばれる、あらゆる世界に散らばる五つしかない聖剣の話をしていた。
だが――エールだけは奢りを良いことに食欲を満たすことに熱中していたのだった。
気がついたら話はポータルの場所に変わっていた。

>「それじゃあ代わりに、ちょっとだけ情報いいかにゃ?
>オイラ達湖沿いのポータルから少し歩いて来たけど、もっと近いポータルはあるかにゃ?」

町の外に出るということは魔物と遭遇するリスクを背負うということ。
少しでも快適な旅をしたいと考えるなら、ダヤンの質問ももっともだろう。
エール達はローレライに着いて町中や周辺を散策したわけではないので地理に疎い。

次の日、町の一角、とある茂みを分け入っていくと教えてもらった通りポータルがあった。
まさか町中にポータルが存在しているとは。石造りの社を眺めて心の準備を整える。

>「おおっ、本当にあったにゃ〜、灯台もと暗しだにゃー」

ダヤンと共にポータルの中へ飛び込み、次の階層へと転移する。
待ち受けているのは如何なる階層か。二人は次のステージへと足を踏み入れる。
0491エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/08/17(火) 00:45:48.52ID:clGmXVnz
――――――…………。

浮遊感が消えて地面に着地すると、エールは社からそろそろと出た。
周囲には見渡す限り墓が並んでいる。遠目にはうっすらと町が見えていた。
懐から地図を取り出すと似た地形が無いかページを捲りながら照らし合わせる。

「5階の墓場エリア……みたいだね」

遠目に見えている町がこの階の拠点、鎮魂の町ネクログラードである。
この階は志半ばにして亡くなった冒険者や死んだ流浪の民を弔う場所だとされている。
だが未練を残した死者の魂や、土葬された死体が瘴気の影響で魔物と化すようになり――。

「きゃぁぁぁぁっ!!ゆ、ゆ、幽霊っ!?」

――死霊系およびアンデッド系魔物の棲家となってしまった。
エールは墓のひとつからすぅっと現れた、宙を漂う半透明の人間を見て腰を抜かした。
死霊系魔物のゴーストだ。戦闘力は低いが実体がないので倒す手段も限られる。
祈りを捧げて成仏してもらうかそれこそ『聖水』をぶっかけたり僧侶の力に頼らねばなるまい。

「町まで走ろう!オバケは倒せないもん!」

エールは立ち上がるとダヤンの手を掴んで問答無用でダッシュする。
墓という墓から雨後のタケノコのごとく姿を現すゴースト達を見て絶叫する。
見た目から察するに、その大半は無念の死を遂げた冒険者といったところだろう。

「…………!!!!…………!!!!」

ゴーストは何かを喋っているようだが何を言っているかまるで分からない。
分かるのはとにかく生きている冒険者が妬ましくて仕方ないということ。
時には腕に、時には足にしがみついて邪魔しようと半透明の手を伸ばしてくる。

「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

さらに驚きの声を上げると、急ブレーキして魔導砲をぶっ放した。
墓から這い出てきた数体の骸骨、いわゆるスケルトンが行く手を阻んだからだ。
プラズマ弾はスケルトンの一体の胸骨あたりに命中して上半身を吹き飛ばす。
いや、正確に表現すれば『自分からわざと弾けた』というのが近いか。

バラバラになった上半身の骨がひとつひとつ、丁寧に組み合わさっていく。
十秒もせぬうちにスケルトンの身体は復活して骨を鳴らしながら再び立ち上がる。
そう、粉々に砕きでもしない限りスケルトンなどのアンデッドは魔力ある限り復活してしまうのだ。

「ど、どうしよう。どうすればいいのっ!?」

スケルトンはアンデッドなだけあって耐久力は高いがそれほど強い魔物じゃない。
逃げるだけなら手段はいくらでもある。だがエールはオバケとの戦闘という未経験の領域に驚き焦っていた。


【舞台は5階の墓場エリアに移ります】
【ゴースト&スケルトンに襲われエールは動揺しまくる】
0492ダヤン
垢版 |
2021/08/20(金) 20:40:01.97ID:sEwwQO29
到着した場所は、一面に墓が並んでいた。

「いきなり墓場にゃ!?」

>「5階の墓場エリア……みたいだね」

>「きゃぁぁぁぁっ!!ゆ、ゆ、幽霊っ!?」
>「町まで走ろう!オバケは倒せないもん!」

実体のないゴーストには通常の物理攻撃はほぼ効かず、魔法に頼るしかない。
倒すには僧侶や対アンデッドに特化した退魔師が弱点を突くか、
そうでなければ強力な魔法でゴリ押しするかのどちらかになる。
エールに手を掴まれ、猛スピードでダッシュする。
まるで人が通るのを待ち構えていたかのように、墓から次々とゴースト達が姿を現す。

>「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

エールが絶叫しながら魔導砲をぶっ放すが、十秒もしないうちに元に戻ってしまった。
しかしこれは裏を返せば、十秒弱は時間が稼げるということでもある。

>「ど、どうしよう。どうすればいいのっ!?」

「目を瞑るにゃ! フラッシュ・ボム!」

一瞬、強烈な閃光が炸裂し、アンデッド達が暫しひるむ。
何の変哲もない目くらまし用の閃光魔法だが、お化けは夜に出るというイメージに違わず強い光は苦手だ。

「今のうちにゃー!」

今度はダヤンがエールの手を引いて駆ける。

「追いつかれそうになったらさっきみたいに魔導砲を撃つにゃ。
少しは時間が稼げるにゃ……!」

向こうに見えている街まで逃げ込めば、とりあえずの安全は確保されるだろう。
そうして街の目前まできたときだった。

「もう一息にゃ!」

地面に散らばる骨達が、今までとは違う動きを見せる。

「……またスケルトンの群れにゃ? いや……」

骨達は見慣れた(?)人型の群れにはならずに猛スピードで一つに組み合わさっていき、巨大なドラゴンのような形になった。

「キシャァアアアアアアアアア!!」

骨ドラゴンはどこから発せられているのかは分からない咆哮をあげ、巨大な前足を振り上げ襲い掛かってきた。
いきなりのピンチだ!
0493エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/08/21(土) 20:57:38.90ID:CBW2MAGI
>「目を瞑るにゃ! フラッシュ・ボム!」

目の前のスケルトン相手にまごついていると、ダヤンがフラッシュを焚いた。
強烈な閃光に怯んだ様子を見せたので今の内とばかりに道を駆け抜ける。

>「追いつかれそうになったらさっきみたいに魔導砲を撃つにゃ。
>少しは時間が稼げるにゃ……!」

エールは怖いので追ってくるスケルトン目掛けて片端からプラズマ弾を投射する。
そのせいで周囲には人骨が散乱する、別の意味で恐ろしい光景が出来上がっていた。
あと一息で町に着くというところでその散乱する人骨の動きが変わる。

>「……またスケルトンの群れにゃ? いや……」

ただ復活するのではなく、スケルトン達は自らの骨をもって新たな姿を構築していく。
雄々しく広がる一対の巨翼。全てを噛み砕く鋭利な牙。太く強靭な四肢。
その姿はまるで――。

>「キシャァアアアアアアアアア!!」

――骨で組み上げられた竜そのもの。
咆哮を発しながら前足を振り上げ攻撃を仕掛けてくる。
エールは咄嗟に後方へ跳躍して攻撃を避けると、魔導砲を構え直して狙いをつける。

正直なところ、竜の姿を模ったのはありがたかった。
能力的にはスケルトン以上なのだろうが、今の姿はオバケの神秘性が薄れたところがある。
アンデッドとしての特性が無くなった訳ではないだろう。しかしエールの中の恐怖心は消えつつあった。

「骨の塊なら"これ"は弱点のはずだよ……!」

魔導砲の投射できる魔法のひとつ、火炎放射を勢いよく放つ。
筒先が文字通り火を吹くと骨の竜は避けようとしたがでかい図体だ。
瞬く間に右前足に燃え移り、苦しんでいるような怒っているような咆哮を発する。

エールは単純に火葬の連想ゲームでこの攻撃法を選んだが、結果的には当たっている。
灰になって燃え尽きればさしものスケルトンでも復活は困難だ。
0494エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/08/21(土) 21:00:05.92ID:CBW2MAGI
右前足が燃え尽きて、バランスを失った骨の竜はその場に倒れ込む。
エールは好機と判断して振り返り、町まで走り出す。
もう町まで目前だ。完全に倒すまで戦う必要もあるまい。

「おおい!あんたら、こっちだ!早く逃げ込めー!」

町の方角から呼ぶ声がする。
よく見れば町の見張り台から手を振っている人がいるではないか。
おそらくはこの階を拠点に活動している冒険者といったところだろう。

「町は教会の僧侶が張った結界で守られてる!
 魔物はここまで入って来れねぇから安全だ!急げー!」

「あ、ありがとうございまぁす!ダヤン、急ごう。町までもうすぐだよ!」

エールは町の冒険者に手を振り返すと、逃げ足を早めた。
全力疾走だ。だが徐々にエール達を巨大な影が覆っていく。
その『影』の正体はエール達の遥か上空にいる存在のものだ。
巨大な骨でできた翼を羽ばたかせ、空を舞う骨の竜こそがその正体。

「ええっ!あんな骨の翼で飛べるの……!?飾りだと思ってた……!」

喉もないのに咆哮できるのだから構造的に納得がいかないのは今更だが……。
恐らくは骨の翼で飛んでいるというよりは魔法の力で飛行していると考えるべきだ。
骨の竜になったことで魔力も合体した個体の合算値になっているのだろう。
であれば飛翔魔法の類が使えてもおかしくはない。

「ということは……!」

エールは反転して魔導砲を構えると、魔力の充填を開始する。
やや遅れて、骨の竜の口部に魔法陣が浮かび魔力が溜められていく。
――骨の竜が姿を模っただけでないなら、竜固有の技を使ってくるのは予想できる。
エールはそれを見越して『ハイペリオンバスター』の発射準備に入ったのだ。

「真っ向勝負だよ!相手にとって不足なし!!」

魔導砲の筒先から荷電粒子砲が放たれると同時、骨の竜の口部からも光線が放たれる。
竜の固有能力、『竜の吐息(ドラゴンブレス)』を模したものだろう。
眩いふたつの光が激突して拮抗している。

いや、骨の竜がやや有利か。エールの方が押し負けてしまいそうだ。
なぜなら――敵は周囲の墓場に眠る死霊達から少しずつ魔力を受け取っていたからだ。
さしもの本物の竜鱗さえ穿つ銃士の必殺技でも多勢に無勢だった。


【骨の竜の右前足を火炎放射で焼き尽くす】
【ハイペリオンバスターと骨の竜の光線が激突。押し負けそう】
0495ダヤン
垢版 |
2021/08/23(月) 20:52:17.73ID:1ejJnQWZ
>「骨の塊なら"これ"は弱点のはずだよ……!」

敵がパワーアップしてピンチになったはずが
逆に威勢がよくなったように見えるエールが火炎放射を放つ。
炎は聖属性に次ぐアンデッドの弱点属性だ。
骨の竜は右足を焼き尽くされ倒れ込んだ。

>「おおい!あんたら、こっちだ!早く逃げ込めー!」
>「町は教会の僧侶が張った結界で守られてる!
 魔物はここまで入って来れねぇから安全だ!急げー!」

>「あ、ありがとうございまぁす!ダヤン、急ごう。町までもうすぐだよ!」

町に向かって全速力で走る。このまま行けば逃げ込めるかと思われたが……
辺りが巨大な影で覆われていく。

「にゃ!?」

>「ええっ!あんな骨の翼で飛べるの……!?飾りだと思ってた……!」
>「ということは……!」

「遠距離攻撃は任せたにゃ!」

ダヤンにはこれだけ離れた距離の攻撃手段はない。
エールの砲撃ならば、倒すまではいかなくとも
少なくともスケルトンにやったように時間を稼ぐことはできるだろう。

>「真っ向勝負だよ!相手にとって不足なし!!」

しかし骨の竜も、黙って攻撃を受けてくれるわけはなく。
ハイペリオンバスターを迎撃するように、『竜の吐息(ドラゴンブレス)』が放たれる。
眩い二つの光が激突する。

「所詮竜を模しただけの仮初の力……きっとすぐ魔力切れになるはずにゃ!」

これだけの巨大な竜の形を保ち、統制を取るだけでも莫大な魔力を消費するはず。
ゆえに、強力な攻撃は長くは続かないと考えたのだ。
が、その予想は外れ思いのほか持ち堪えている。
それどころかエールの方が押し負けてしまいそうだ。

「アイツ……無尽蔵にゃ!? いや……」

よく見ると周囲から骨のドラゴンに黒いもやのようなものが吸収されている。
0496ダヤン
垢版 |
2021/08/23(月) 20:53:54.79ID:1ejJnQWZ
「フラッシュボム・エクスプロージョン!」

周囲のあらゆる方面で閃光が炸裂する。フラッシュボムの全方位版だ。
幸い狙いは当たり、周囲からの魔力の供給が一時絶たれ、ようやくドラゴンブレスが収束していく。
ほぼ同時、エールのハイペリオンバスターの方も魔力切れで途絶えた。
間一髪で消し飛んでいたということらしい。
首の皮は繋がったものの、相変わらずピンチには違いない。
どころか、エールの魔力が無くなったのみならず、ダヤンも今のでかなりの魔力を消費してしまった。
圧倒的不利である。

「とりあえず……逃げるにゃああああああああ!」

逃げたところで次にドラゴンブレスを放たれれば万事休す。
そう思われたが、轟音と共に骨の竜の頭部が吹き飛んだ。大砲の類が撃ち込まれたようだ。

「何とか間に合ったが連射はできねえ! 復活する前に逃げ込むんだ!」

先ほどよりも少し近くなった見張り台から声。
エールがハイペリオンバスターで攻防している間に発射準備が間に合ったのだろう、
町の防衛用の大砲で砲撃してくれたらしい。

「恩に着るにゃあ!」

町に向かって必死に走ると、結界の境目がうっすら光の壁のように見えている。

「にゃん!!」

二人はその中に、文字通り転がり込んだ。
0497エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/08/30(月) 22:10:45.49ID:TBHsgiIR
『ハイペリオンバスター』と骨の竜の光線の激突が終了する。
エールは魔力を使い切った疲労で片膝をつきかけた。

>「とりあえず……逃げるにゃああああああああ!」

情けない話だが、やれる事もなくなった以上は逃げるしかない。
よろよろと町へ向かって駆けだすと、轟くような音が周囲に響いた。
二人の援護射撃のために町の防衛用の大砲が発射されたらしい。
砲弾は骨の竜の頭部を見事に撃ち抜いた。

>「恩に着るにゃあ!」

張られている結界が目視できるまで町に近づく。
エールはその中に入る瞬間に疲労で躓き、ごろごろと転がりこんだ。
後ろを振り返ると頭部を失った骨の竜は何もできずに彷徨っている。

「よかった、助かった……」

「災難だったな。ようこそ鎮魂の町ネクログラードへ!
 いまこの町はちっと危ない状況でな……酒場へ来な、そこで説明してやるよ」

見張り台からおっさんの冒険者が滑り降りてくる。
たしかに町の外はあまりにもデンジャラスな状況だ。
命からがら逃げてきたのはいいが、これでは他の階へ移動できない。

酒場に着くと、片隅のテーブル席に座る。すると飲み物が運ばれてくる。
おっさんは昼間にも関わらず酒を注文したようだが、エールはまだ未成年。
いや、実はちょっと飲んだことあるが、味が苦いから好きじゃない。

「あいよ、メロンクリームソーダ」

気の利く店のマスターがジュースにしてくれたようだ。
そうして準備が整ったところでいよいよおっさんが口を開いた。

「この5階は昔からアンデッドや死霊の棲家だったんだが、
 近年低階層に見合わない強さの個体が現れ始めてな……ずっとこんな調子さ」

酒を一口飲むと、一息ついた様子でおっさんが尋ねてくる。

「お嬢ちゃん達は何しにこの階まで?何か探してるのかい」

「9階にいる姉を探してるんです。4階から転移してここに来ました」
0498エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/08/30(月) 22:12:05.73ID:TBHsgiIR
この階に長居するのは危険だと察したエールは単刀直入に質問する。

「あの……この町にはポータルってあるんですか?」

「残念だがないな。外には幾つかあるんだが。移動するなら町を出るしかない」

「そんなぁ……」

落ち込むエールを励ますように話を続ける。

「まぁそう落ち込むなよ。今依頼を受けた冒険者達が原因を探ってるところさ。
 それに……こいつは眉唾だが、町の地下墓地にもポータルがあるって聞いたことがある。
 ただそこには女の死霊術師(ネクロマンサー)が住んでいて、何か怪しい研究をしてるって噂だ……」

まぁ無理をせず待つ方が得策だがな、とおっさんは締めくくった。
確かにそうかもしれない。だがそんなに待っていられない事情がある。
いくら9階に姉がいたからといって、いつまでも留まっているとは限らない。
つまりこの階に長く滞在することは現実的ではないと言えるのだ。

「ダヤン……どうする?魔力切れだし今日はもう休んだ方が良いと思うけれど……」

問題は明日以降の予定だ。
危険を承知で元来た道を戻るか。だがまたあの骨の竜に襲われるのは確実だ。
はたまた、おっさんの情報を信じて町の地下墓地を探索してみるか。
いずれにせよ危ない橋を渡ることになるだろう。


【鎮魂の町ネクログラードに到着する】
【見張り台にいたおっさんから話を聞く】
0499ダヤン
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2021/09/06(月) 20:59:29.06ID:f1+J8hYv
>「よかった、助かった……」

>「災難だったな。ようこそ鎮魂の町ネクログラードへ!
 いまこの町はちっと危ない状況でな……酒場へ来な、そこで説明してやるよ」

見張りのおっさんが酒場へ案内してくれた。

>「あいよ、メロンクリームソーダ」

「ありがとにゃ」

メロンクリームソーダが二つ運ばれてくる。
この世界では子どもが平然と酒を飲んでいることもよくあるが、ここは品行方正な酒場のようだ。

>「この5階は昔からアンデッドや死霊の棲家だったんだが、
 近年低階層に見合わない強さの個体が現れ始めてな……ずっとこんな調子さ」

「通る階通る階最近治安が悪いみたいで……。この階もにゃんだね……」

>「お嬢ちゃん達は何しにこの階まで?何か探してるのかい」

>「9階にいる姉を探してるんです。4階から転移してここに来ました」
>「あの……この町にはポータルってあるんですか?」

>「残念だがないな。外には幾つかあるんだが。移動するなら町を出るしかない」

>「そんなぁ……」

「ちょっと外に出るのは現実的じゃないにゃ……」

一歩間違えれば今頃骨ドラゴンの餌食だっただろう。
今になって冷静に考えればどう考えても最初に幽霊に襲われた時に元のポータルに逃げ帰るのが正解だったと思われたが、
焦ったあまりつい遠目に見えている街を目指して突っ走ってしまったのだ。

>「まぁそう落ち込むなよ。今依頼を受けた冒険者達が原因を探ってるところさ。
 それに……こいつは眉唾だが、町の地下墓地にもポータルがあるって聞いたことがある。
 ただそこには女の死霊術師(ネクロマンサー)が住んでいて、何か怪しい研究をしてるって噂だ……」

>「ダヤン……どうする?魔力切れだし今日はもう休んだ方が良いと思うけれど……」

「うにゃ。とりあえず部屋をとるにゃ」
0500ダヤン
垢版 |
2021/09/06(月) 21:00:34.13ID:f1+J8hYv
夜――それぞれのベッドに腰かけて今後の方針を話す。

「すぐ原因が分かる保証もないし原因が分かっても解決できる保証もにゃい。
それに、同じ場所に留まってポータルが目的地に繋がるのを待つよりも
少しでも次の階層に進んでいった方が早く着く場合が多いってマスターが言ってたにゃ」

これは、ポータルの繋がる先はランダムといえども近くの階層に繋がりやすいことに由来する。
もし階が戻ったり、目的地を通り過ぎてあまりに遠くに飛んでしまった時にはいったん元の階に戻って
ポータルの接続先が切り替わるまで待てばいい。
この方法で、かかる時間はかなりランダムではあるものの地道に目的の階層を目指すことは可能だ。

「かといって外はいやにゃからとりあえず地下墓地を覗いてみるにゃ……?
仮に死霊術士が住んでても別に襲い掛かってくるとも限らにゃいし危なそうだったらすぐ逃げ帰ればいいにゃ」

次の日。二人はおっさんに教えてもらった地下墓地へと続く階段を降りていく。
中はそのままだと真っ暗なので、魔法の明かりを頼りに進んでいく。

「町の地下墓地ってこの町の人達が使う地下墓地ってことにゃよね……?
まさか外みたいにアンデッドがうようよなんてことは無いとは思うにゃけど……
警戒は怠らずにいくにゃ」

等と言いながらすすんでいくと、明かりの魔法の範囲外の暗がりからガサッと音がした。
慌てて目を凝らすと……

「ニャー」

猫が猫が目撃したらしく、お決まりの台詞を言った。

「にゃんだ、猫か……。黒猫っぽかったにゃ」

なんとなく猫のいたあたりを見てみると、地面に紙切れが落ちている。

「あっ、にゃんか書いてある……。なににゃに、『命が惜しければ引き返せ』……
……うにゃぁああああああ!? さっきの猫、使い魔だったにゃぁあああああ!?」

黒猫は魔法使いの使い魔としては一般的である。
死霊術士も魔法使いの一種であることを考えれば、黒猫を使い魔している者がいても不思議はないだろう。
生きている猫なのか死んでいる猫なのかは定かではないが。
進むべきか退くべきか。ダヤンはとりあえずエールに相談した。

「どうするにゃ? 歓迎されてにゃいみたいにゃ……」
0501ダヤン
垢版 |
2021/09/06(月) 23:33:50.27ID:f1+J8hYv
【ありゃりゃ、「猫が猫が目撃」ってなんだにゃ〜。正しくは「猫が猫を目撃」だにゃ】
0502エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/09/08(水) 22:20:32.68ID:iNWlkt+K
地下墓地を探索して見る方針で意見が固まった二人は、翌日、町の地下へ続く階段を降る。
魔法の明かりで周囲を照らしながら注意深く地下墓地を進んでいく。

>「町の地下墓地ってこの町の人達が使う地下墓地ってことにゃよね……?
>まさか外みたいにアンデッドがうようよなんてことは無いとは思うにゃけど……
>警戒は怠らずにいくにゃ」

スケルトンのような魔物はおおむね人間などの死体が瘴気の影響でアンデッド化すると言われている。
ただ、この町には結界が張られているので通常は瘴気もシャットアウトしているはずだ。
なので意図的にアンデッドを生み出しでもしないかぎり、魔物は現れないと考えられる。
だからおかしいのだ。闇に紛れてうっすらと瘴気が漂っているのは。

>「ニャー」

そうして思案しているうちにふと黒猫が横切っていった。
エールは魔物かと思って警戒したので緊張がゆるむ。

>「あっ、にゃんか書いてある……。なににゃに、『命が惜しければ引き返せ』……
>……うにゃぁああああああ!? さっきの猫、使い魔だったにゃぁあああああ!?」

黒猫はただの猫ではなく使い魔だったようだ。
情報にあった「怪しい研究をしている死霊術師」の仕業だろう。
撤退という選択肢を与えてくれるだけまだ優しい人物かもしれない。

>「どうするにゃ? 歓迎されてにゃいみたいにゃ……」

「そうだね……でもこの地下墓地、何かおかしいよ。町の中なのに瘴気が漂ってる。
 もしかしたら町の外で強いアンデッドが現れていることと関係してるのかも……」

だとすればなおさら一度引き返すべきだとエールは言いながら思った。
他の冒険者とパーティーを編成して大掛かりな探索を行った方がいい。
無理をして二人で挑む道理はない。

「……よし、一度引き返そう!」

元を正せばこの町に来たのもオバケ相手でパニックに陥っていたエールのせいだ。
冷静な思考をしていれば、ポータルに戻れば安全な4階に逃げられたものを。

まぁ恐ろしいほどに運が悪ければすでに転移先が変わっていて
更に状況の悪い場所に飛ばされる可能性も……あり得るといえばあり得る。
なにせ実際に転移してみなければ転移先が変わっているかどうかなんて分からない。

ともかく過ちを繰り返すわけにはいかない。
ここは臆病者と言われようとクレバーに撤退を選択すべきだ。
0503エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/09/08(水) 22:23:23.63ID:iNWlkt+K
そうして戻ろうとすると、入り口から松明を持った屈強そうな冒険者の集団がやって来る。
見るからにこの低階層で入り浸っているとは思えない、歴戦のつわものと言った風貌の男達だ。

「よぉ、同業者さんか?」

大剣を背負った、髭面の男が一歩前に進み出てそう問われた。
エールはびっくりして思わず警戒しながらおずおずと返答した。

「あ……はい。銃士のエールと申します。彼は仲間のダヤンです」

「そうか……俺は冒険者協会のサイフォスだ。20階の『城砦エリア』から来た。
 この階を取り仕切っている拠点のリーダーの依頼でな。
 えらく強い魔物が出現するって聞いて原因を調査しに来たのさ」

「冒険者協会……?って何ですか?」

聞き慣れない単語にエールは目を丸くすると、
サイフォスとその仲間たちは愉快そうに笑い始めた。

「ああ、すまんすまん。まぁ、この辺じゃ聞き慣れないか。
 平たく言えば無限迷宮を攻略するために結成された冒険者のギルドのことさ。
 こうやって魔物退治のために他の階に冒険者を派遣することもある」

言葉を一度切ってサイフォスは話を続ける。

「この地下墓地から最近瘴気が漏れてるって噂を聞いて調査に来た。
 で、お嬢さんたちは何をしにこんなところにいるのかな?」

エールは姉を探して9階を目指していること、ここにポータルがある噂を聞いて来たことを話す。
髭を撫でつけながらサイフォスは話を聞き終えて、こう口を開いた。

「なるほどなぁ。だったら俺達と一緒に来るかい?
 俺達は一度行った階に転移できるアイテムを持っていてな。
 ここの調査を手伝ってくれたら9階まで連れて行ってあげてもいい」

サイフォスが懐から取り出したのは、てのひらサイズの光を発する鉱物質の球体だった。
『ポータルストーン』と呼ばれる無限迷宮の一部で手に入る貴重なアイテムだ。
魔法の術式で刻んだ座標に転移ができるという優れた品である。
0504エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/09/08(水) 22:25:42.66ID:iNWlkt+K
サイフォスの提案にエールは飛びついた。

「い……いいんですか!?」

「ああ。この地下墓地は入り組んでいるみたいでな。人手が欲しかったんだ」

でも、とエールは黒猫の件とここで謎の研究をしている死霊術師のことも伝えた。
だがそんなことで動じる冒険者協会ではない。
彼らは常に虎穴に入らずんば虎子を得ずというスタンスだ。

「そういう忠告が逆に匂うんだよなぁ。
 その死霊術師の研究が魔物に影響を与えてる可能性もある」

「行きましょうサイフォスさん。時間が惜しいです」

「それもそうだな。ちょっくら探索と洒落込もうじゃねぇか」

僧侶の風体をした男に催促されてサイフォス達は先へ進んでいく。
エールはちょっと迷ったが、このまま逃げ帰ったところでやる事は何もない。
二人だけの時とは状況が違う。今は彼らについて行くべき……と考えた。

「さっきは引き返そうって言ったけれど、サイフォスさん達について行こう。
 20階から来たってことはかなりの実力者……なんとかなるかもしれないよ!」

そう楽天的に思考してエールはサイフォス達の後を追いかけていく。
松明の光で周囲を照らしながら進んでいくと周囲から声が響いてきた。

「忠告を聞かぬ愚かな冒険者達よ……馬鹿につける薬はないわ。
 この地下墓地に眠る狂気に触れて存分に苦しんで死に絶えればいい!!」

「ひぇっ……女の人の声だ」

「怖がるなお嬢さん。相手の思うつぼにしかならん。
 皆、戦闘準備だ。おいでなすったようだぜ!」

サイフォスが背中の大剣を引き抜く。
暗闇の向こうから骨が軋む音を響かせながら骸骨の騎士達が姿を現す。
その後方にはローブを纏った魔法使いの骸骨――の姿。
スケルトンの上位個体、スケルトンナイトにスケルトンメイジ達だ。

埋葬品の剣と鎧で武装した骸骨に魔法を使う骸骨。その能力は生前の実力を強く受け継いでいる。
つまり……強さは個体にムラがあるものの、基本的に弱いスケルトンより厄介な相手ということだ。
さらにつけ加えておくと、町の外で出会った骨の竜のように合体されるリスクもある。
戦う時はその辺りを考慮しなければならないだろう。


【地下墓地にて20階からやってきた冒険者達と遭遇】
【調査を手伝ったら9階まで連れて行ってくれると言われ同行することに】
0505ダヤン
垢版 |
2021/09/12(日) 22:41:21.45ID:nhCgBh4R
>「そうだね……でもこの地下墓地、何かおかしいよ。町の中なのに瘴気が漂ってる。
 もしかしたら町の外で強いアンデッドが現れていることと関係してるのかも……」

「やっぱりそう思うにゃ……?」

もしそうだとしたら。
見張りのおっさんは、”依頼を受けた冒険者達が原因を探ってる”と言っていた。
その冒険者達が外を探索しているのだとしたら、今のままでは原因は一向に見つからないことになる。

>「……よし、一度引き返そう!」

「それがいいにゃね」

こうして入口近くまで戻ってきた二人だったが、
見るからに強そうな冒険者の集団が入ってきたところだった。

>「よぉ、同業者さんか?」
>「あ……はい。銃士のエールと申します。彼は仲間のダヤンです」
>「そうか……俺は冒険者協会のサイフォスだ。20階の『城砦エリア』から来た。
 この階を取り仕切っている拠点のリーダーの依頼でな。
 えらく強い魔物が出現するって聞いて原因を調査しに来たのさ」

「20階……! 随分遠くから来たんだにゃ〜」

>「冒険者協会……?って何ですか?」
>「ああ、すまんすまん。まぁ、この辺じゃ聞き慣れないか。
 平たく言えば無限迷宮を攻略するために結成された冒険者のギルドのことさ。
 こうやって魔物退治のために他の階に冒険者を派遣することもある」

冒険者協会といえば、言わば無限迷宮攻略の冒険者のエリート集団。
同じ冒険者でも、低階層に留まり依頼を受けて日銭を稼いでいる実質街の自警団とは格が違うのだ。

>「この地下墓地から最近瘴気が漏れてるって噂を聞いて調査に来た。
 で、お嬢さんたちは何をしにこんなところにいるのかな?」
>「なるほどなぁ。だったら俺達と一緒に来るかい?
 俺達は一度行った階に転移できるアイテムを持っていてな。
 ここの調査を手伝ってくれたら9階まで連れて行ってあげてもいい」

サイフォスは、光を発する鉱物質の球体をとりだした。

「まさかポータルストーン……!? 良かったにゃね、すぐ9階まで行けるにゃ!」

冒険者協会をはじめとして、いくつか所有している団体があると聞いてはいたが、見たのはこれがはじめてだ。
先ほどの黒猫と脅迫文のことを伝えるエール達だったが、それで怯むサイフォス達ではない。

>「そういう忠告が逆に匂うんだよなぁ。
 その死霊術師の研究が魔物に影響を与えてる可能性もある」
>「行きましょうサイフォスさん。時間が惜しいです」
>「それもそうだな。ちょっくら探索と洒落込もうじゃねぇか」

>「さっきは引き返そうって言ったけれど、サイフォスさん達について行こう。
 20階から来たってことはかなりの実力者……なんとかなるかもしれないよ!」

単純に人数だけでも二人だけとは大違いの上に、20階から来た実力者集団。
余程の事が無い限りは大丈夫だろう。ということで、同行する二人。
0506ダヤン
垢版 |
2021/09/12(日) 22:42:47.45ID:nhCgBh4R
>「忠告を聞かぬ愚かな冒険者達よ……馬鹿につける薬はないわ。
 この地下墓地に眠る狂気に触れて存分に苦しんで死に絶えればいい!!」

>「ひぇっ……女の人の声だ」

>「怖がるなお嬢さん。相手の思うつぼにしかならん。
 皆、戦闘準備だ。おいでなすったようだぜ!」

暗闇の中から骸骨の一個小隊が姿を現す。
スケルトンナイトにスケルトンメイジ――スケルトンの上位種だ。

「にゃにゃ!? 外にいたのより強いやつにゃ!?」

まず、最前列のスケルトンナイト達が突撃してくる。

「行くぞ者どもぉ!」

サイフォスが雄たけびをあげながら大剣を薙ぎ払い、最前列部隊を迎え撃つ。
その隙に、後ろのスケルトンメイジ達が一斉に詠唱を始めている。

「あ! まずいにゃ……」

とりあえずフラッシュボムでひるませようかと思うが、それより早く。

「ホーリィ・ライト!」

僧侶っぽい男の僧侶魔法が炸裂し、メイジ達の呪文詠唱が止まる。

「これは……聖なる光によって相手の行動を阻害する僧侶魔法!
のみならずアンデッド相手に使えばダメージを与えることもできるにゃ……!」

「ファイア・ボール!」

一方、第二波で突撃してきたスケルトンナイトの一団を迎え撃つのは、
とんがり帽子をかぶった典型的な魔術師っぽい女。
火炎球が炸裂し、倒すまではいかないものの見るからに黒こげ状態になるスケルトンナイト達。

「効いてる……効いてるにゃ!
一般的には聖属性じゃないと効かないと言われるアンデッドだが
魔力が高ければ火属性でゴリ押してダメージを与えることも可能ッ……!」

ダヤンは善戦するベテラン冒険者達の背景で、すっかり解説役と化していた。
0507エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/09/19(日) 22:00:58.59ID:Ni2CBdVr
【ごめん!ちょっと忙しくて期限には間に合いそうにないです!】
【明日には投下できるからもうちょっとだけ猶予をください!すみません!】
0508エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/09/20(月) 18:56:40.35ID:YJtn7Buh
サイフォスたち冒険者協会の練度は高く、いかにスケルトンの上位種であろうと敵ではなかった。
阿吽の呼吸で生み出されるコンビネーションで瞬く間にアンデッドたちを倒していく。
エールも魔導砲の『弾』のひとつである火炎放射で援護しようとしたが、その必要はなかった。

「……ざっとこんなもんか。周辺にはもう魔物はいねぇようだな。
 よーし皆、戦闘終了だ。お疲れでわるいが次は女死霊術師を見つけ出すとしよう!」

大剣を背に収めるとサイフォスたちは本格的に地下墓地の探索に移るようだった。
三人から四人一組に別れ、各々灯りを片手に周囲へと散っていく。
エールとダヤンはサイフォスと組むことになり、三人は地下墓地の奥へと進む。

パーティーの隊列は魔法で光を灯せるダヤンが前衛、
サイフォスが中衛(遊撃)、銃士のエールが後衛(援護)という順番だ。

「ところでお嬢ちゃん、姉さんはなんて名前なんだい?
 冒険者協会は顔が広いからもしかしたら俺も何か力になれるかもしれん」

髭面を気さくに動かしながらエールに問う。
エールは姉を慕っていたが、実のところカノンの冒険者としての顔はあまり知らない。
風のように気まぐれで長い間家から離れていたと思ったらひょっこり戻ってくる。そんな人だった。

「……名前はカノンです。カノン・ミストルテイン。
 冒険者になる前は銃士をしていました。すぐ辞めちゃったけど……」

エールはおずおずと答えると、サイフォスはびっくりして目を大きく見開いた。

「……もしかしてその人は"あの"熾天使のカノンか?
 光の翼を持ちて幾多の戦場に降り立ち、魔導砲の火で全てを清めるという……!」

「えっ……?お姉ちゃんにそんな二つ名があるんですか……?よく知らないですけど……」

「でも元銃士なんだろ?なら間違いねぇ……!外の世界じゃあとても有名な冒険者だ。
 たしかに、ちょいと昔に『無限迷宮』を攻略するためやってきたって噂を聞いたが……妹さんがいたとは!」

突然興奮した様子で捲し立てるサイフォスにエールは驚いたが、姉の良い評判を聞いて悪い気はしない。
もし銃士を辞めた時のように事あるごとにバックれて逃げ足のカノンとか呼ばれてたら普通にショックだ。
ともあれ姉はエールが思っていた以上にすごい冒険者として活躍しているようだ。
なにせ故郷は田舎なのでそういう情報もあまり入ってこない。
0509エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/09/20(月) 18:59:10.86ID:YJtn7Buh
そうして地下墓地の深くへと進むたびに瘴気が濃くなっていく。
三人は開けた場所へ出たかと思うと、周囲に設置されたランプにひとつずつ灯が燈る。
待ち受けていたのは一人の女性だ。目には深い隈が刻まれており、顔色はどこか青ざめている。

「どこまでも私の努力を裏切る連中……嫌いだわ。忠告したし、おどかして追い払おうとしたのに。
 どうなっても知らないわよ……"こいつ"は私の言うことをきかないからね……」

女性の背後には濃い瘴気がまるで霧のように漂っている。
中に何かがいる。そう感じることはできるが、目で視ることは不可能だった。

「貴女が噂の死霊術師さん……!?ここで何の研究をしてるんですか?
 町の外では強力なアンデッドが次々と現れています。その事と何か関係が……!?」

「アクリーナよ……私の名前は。確かに関係してるわ。私はここでずっと死者蘇生の研究をしていた……。
 魔物化せず、完全に死ぬ以前の状態に蘇らせる方法を。冒険者の恋人を生き返らせたくてね……」

エールは背後の瘴気の濃霧で輝く三つの光を目にした。
それは何度も目にしたことがある、暗い闇の光。『闇の欠片』の光だ。

「この『無限迷宮』に挑んだきり帰らぬ人となって、私は必死に彼を探したわ。
 見つけた時にはこの階層で土葬されていた。必死で墓を掘り返したら骨になって朽ち果てていたの……」

つう、とアクリーナの頬に涙が伝った。
サイフォスは真顔で話を聞いていたが、エールは感情移入してしまっていた。
もし姉がそうなってしまっていたらどれだけ耐え難いことだろうと。

「……優しかったアンドレイ……貴方のためにも。研究を重ねたけれど失敗続きだった……。
 遺体が骨しかなかったのも致命的。完全な状態に戻すのははっきり言って不可能だった……不可能なのよ。
 どれだけ研究を続けてもあの人は帰ってこない。どう頑張っても!頑張っても!!骨の怪物にしかならないの!!!」

アクリーナの背後、瘴気の濃霧から現れたのは巨大なスケルトンの怪物。
骨の竜のように、他の骸骨を組み合わせて生まれたキマイラ。

「どれだけ頑張ってもアンドレイは魔物のスケルトンキングにしかならないのよ!!
 『闇の欠片』を使えば人格はある程度戻せる!でも精神汚染と魔物化は避けられなくなるわ!!
 欠片を増やすほど瘴気が増加して周囲にも悪影響が出るし!!完成しないパズル遊びをしている気分だわッ!!」

スケルトンキングを核とした怪物、スケルトンキマイラは腕を振り上げ三人を襲う。
サイフォスは「散開」のジェスチャーをダヤンとエールに送ると大剣を抜き放って回避行動に移った。

「やべぇなこれは……20メートル近くはあるうえに『闇の欠片』を三つも取り込んでやがる!
 ここはいったん撤退するしかないかもしれん。二人とも――――」

サイフォスが言い終わらないうちにスケルトンキマイラの腕が分解してスケルトンへと再構築される。
そのスケルトン達が逃げ道を塞いでしまう。これでは容易には逃げられない。


【地下墓地で研究をしている女死霊術師アクリーナと出会う】
【巨大な骸骨の魔物スケルトンキマイラに襲われて戦闘になる】
0510ダヤン
垢版 |
2021/09/26(日) 20:38:39.20ID:97Ju9Y8J
>「……ざっとこんなもんか。周辺にはもう魔物はいねぇようだな。
 よーし皆、戦闘終了だ。お疲れでわるいが次は女死霊術師を見つけ出すとしよう!」

手分けして探索することになり、二人はサイフォスと行くことになった。
もしも次に戦闘になったらいくらサイフォスが手練れとはいえ、この人数では流石に解説役というわけにはいかない。

>「ところでお嬢ちゃん、姉さんはなんて名前なんだい?
 冒険者協会は顔が広いからもしかしたら俺も何か力になれるかもしれん」

>「……名前はカノンです。カノン・ミストルテイン。
 冒険者になる前は銃士をしていました。すぐ辞めちゃったけど……」

>「……もしかしてその人は"あの"熾天使のカノンか?
 光の翼を持ちて幾多の戦場に降り立ち、魔導砲の火で全てを清めるという……!」

「すごいにゃー! かっこいいにゃー! 
“光の翼を持ちて”……。もしかしてお姉さん、飛行魔法が使えるのかにゃ?」

エールの姉の話題で盛り上がりつつ奥へと進んでいく。
盛り上がりつつも、奥へ進むほどに瘴気が濃くなっていくのには気付いている。
開けた場所へ出たかと思うと、周囲のランプにひとつずつ火が灯っていく。
そして、ついに死霊術士らしき女が姿を現した。

>「どこまでも私の努力を裏切る連中……嫌いだわ。忠告したし、おどかして追い払おうとしたのに。
 どうなっても知らないわよ……"こいつ"は私の言うことをきかないからね……」

「”こいつ”って……?」

女性の背後にある瘴気の中に何かがいるのだろう。
目を凝らしてみるも、何がいるのかは分からない。ただ、闇の欠片らしきものが見える。

>「貴女が噂の死霊術師さん……!?ここで何の研究をしてるんですか?
 町の外では強力なアンデッドが次々と現れています。その事と何か関係が……!?」

女性の名はアクリーナといい、死んだ恋人を生き返らせるためにここで研究を重ねていたらしい。
背後にいる何かは、その恋人の成れの果てのようだ。

>「どれだけ頑張ってもアンドレイは魔物のスケルトンキングにしかならないのよ!!
 『闇の欠片』を使えば人格はある程度戻せる!でも精神汚染と魔物化は避けられなくなるわ!!
 欠片を増やすほど瘴気が増加して周囲にも悪影響が出るし!!完成しないパズル遊びをしている気分だわッ!!」

大切な者を生き返らせたい一心で闇の欠片に手を出し、制御不能になってしまったようだ。
しかし、近付く者は脅して引き返らせようとし、周囲への被害も気にしている。
大抵このパターンは完全に正気を失って闇落ちしていることが多いが、彼女の場合はそうではないようだ。
が、このまま闇の欠片を使っての実験を続けていたら、そうなるのは時間の問題だったかもしれない。
アクリーナの恋人の成れの果て、巨大な骨の怪物――スケルトンキマイラが動き出す。

>「やべぇなこれは……20メートル近くはあるうえに『闇の欠片』を三つも取り込んでやがる!
 ここはいったん撤退するしかないかもしれん。二人とも――――」
0511ダヤン
垢版 |
2021/09/26(日) 20:40:59.40ID:97Ju9Y8J
サイフォスは身振りで散開を指示し、回避行動に移る。
一つでも十分過ぎるほど脅威なものが、三つ。
いくら今回はベテラン冒険者が一緒とはいえ、戦うのは無謀過ぎる。
しかし、スケルトンキマイラの腕から分離したスケルトン達が立ちはだかる。

「フラッシュボム! 今のうち……にゃあ!?」

フラッシュボムでひるませて退路を確保しようとするも、口から吐き出された業火の息で退路を塞がれる。
そんなことをしたら自らから分離したスケルトンも火に巻き込まれるが、多少はお構いなしらしい。
キマイラといえば火炎を吐くライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾が基本形だが、
このスケルトンキマイラも大体そんな感じの形のようだ。
といっても骨なので詳細は分からず、飽くまでもそんな感じだが。
ともあれ、入ってきた道は火が鎮火するまではしばらく通れそうにない。

「きゃぁあっ!?」

悲鳴が聞こえた方を見ると、なんとこの怪物を作り出した張本人であるアクリーナまでも襲われている。
サイフォスが間一髪で攻撃を大剣で弾き飛ばし、事なきを得た。
闇の欠片の精神汚染により、恋人までも認識できなくなるほど暴走しているのだろう。

『みんな、こっち! アクリーナ……逃げよう』

と、頭の中に直接響くような声を聞いた。
アクリーナの使い魔らしき黒猫が、一見何も無さそうな壁面へと駆けていく。
どうやら声の主はこの黒猫らしい。
化け猫か妖精猫か、はたまたアンデッドの猫か、少なくとも普通の猫ではないことは確かなようだ。

「お前……」

アクリーナが戸惑っている間にも、黒猫の意図を察したサイフォスが大剣で壁を叩く。
すると、人間なら通れるぐらいの道が現れた。
もちろん20メートル級の怪物は入る事すら出来ない。

「みんな急ぐにゃああああああ!!」

火炎の息は次を吐くまでは若干チャージ時間が要るようで、なんとか抜け道に駆け込むことが出来た。

「やっぱり私はここに残るわ……!」

『君だって本当は分かってるでしょ? そんなことをしたら死んでしまう』

成り行きで通路に入ったアクリーナと使い魔らしき黒猫が言い合っている。
が、今はそんな場合ではない。

「話は後、急ぐにゃああああああ!!」

何故なら、怪物が抜け道の入口部分に体当たりし始めたらしく、激しい振動と共に壁や天井がパラパラと落ちてくる。
抜け道の作りは綺麗に加工されておらずゆるいようで、いつ崩落するか分からない。
崩落したら全員生き埋めだ。

【気にしにゃい気にしにゃい、のんびりいくにゃ〜】
【ひとまず抜け道に逃げ込むが崩落の危機】
0512エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/10/02(土) 20:54:33.95ID:IbcoN//r
退路をスケルトンで塞がれてしまったおかげで、撤退することが出来ない。

>「フラッシュボム! 今のうち……にゃあ!?」

ダヤンが今までと同じく強い閃光でスケルトンを怯ませようとする。
しかし、ほぼ同時に退路目掛けてスケルトンキマイラが炎を口部から放射。
一本しかない逃げ道だ。逃げるのを阻止する手段はいくらでもある。

「これじゃあ逃げようがないよ……!」

燃え盛る通路を眺めながらエールは悲痛な声で言った。
瞬間、スケルトンキマイラの大振りなステゴロ攻撃を躱す。
だが拳の軌道上にはアクリーナもおり、拳は彼女をも襲う。

>「きゃぁあっ!?」

「あぶねぇっ!」

サイフォスが反射的にアクリーナの身を庇う。大剣を盾代わりにして巨大な拳を防御。
ただし真正面から受ければ大剣が折れかねないので、斜めにすることで軌道を逸らす。
最愛の人を危険に晒す行動。アクリーナの恋人は完全に暴走している。

>『みんな、こっち! アクリーナ……逃げよう』

八方塞がりの状況を破ったのは脳内に直接響くような不思議な声だった。
するとどこからか黒猫が現れ、壁際に一角まで駆けていく。
この地下墓地に入る時「引き返せ」の紙切れを落としていったのと同じ黒猫だ。

秒でその意図を察したサイフォスは大剣で壁を叩く。
すると壁の一部がせり上がって狭い通路が現れた。
お誂え向きにスケルトンキマイラは通れそうにない広さだ。

「ここは危ないよ、アクリーナさんも一緒に来て!
 元はアクリーナさんの恋人かもしれないけれど……ここに留まるのは危険だよ!」

「でも……」

>「みんな急ぐにゃああああああ!!」

ダヤンの叫び声が聞こえる。
恋人すら襲うような見境なしの魔物だ。彼女だけ置いていくわけにはいかないだろう。
エールはアクリーナも連れて抜け道へ逃げ込むと、未練があるのだろう。踵を返そうとする。

>「やっぱり私はここに残るわ……!」

黒猫がアクリーナに近寄ると不思議な声が響く。

>『君だって本当は分かってるでしょ? そんなことをしたら死んでしまう』

アクリーナと黒猫が言い合っていると激しい振動が抜け道を揺らしはじめた。
目を凝らして入り口を見れば一目瞭然だ。スケルトンキマイラが通路の入り口を体当たりしているのだ。
崩落する前にこの通路を抜けてしまわなければ生き埋めもあり得る。
0513エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/10/02(土) 20:57:34.68ID:IbcoN//r
「使い魔風情が……訳知り顔で喋らないで!そういうのが一番ムカつくのよ!」

「どうどう!アクリーナさん落ち着いて!今は逃げるのが先決だよ!」

最後尾のエールがアクリーナを後ろからぐいぐい押して前進させる。
抜け道を進んでしばらくすると激しい振動はなりを潜めてやがて静かになった。

「あれ……サイフォスさんじゃありませんか。なぜこんなところに?」

抜け道は別の通路に繋がっており、そこにはサイフォスの仲間である僧侶の男が偶然いた。
サイフォスは全ての原因が死んだ死霊術師の恋人であることを仲間たちに話す。
そして一丸となって戦わねば勝てない相手だろうということも。

「ふっ……馬鹿ね。多少頭数が増えたところでどうにもならないわ。
 闇の欠片のせいで無闇に強くなってしまった怪物よ……貴方達じゃ倒せないわよ」

アクリーナが自嘲気味に呟く。怪物を作りたくて研究を行っていたわけじゃない。
だからスケルトンキマイラがどうなっても構わない。だが恋人への未練は未だ燻っていた。
最愛の人を喪った悲しみをまだ捨て切れていないのだ。

「倒すさ。それが仕事だからな。危険な死者蘇生の研究も金輪際辞めてもらうぞ。
 続ける気なら17階の監獄エリア送りにさせてもらうからな……返事は後で聞く。
 それまでに頭を冷やしてじっくり考えることだ。賢明な判断を期待する」

サイフォスはそう言い放つとアクリーナは今にも呪い殺しそうな形相で睨んだ。
大切な人を喪った悲しみをどう癒せばいいか。エールには分からない。
その悲しみを知る者ではない以上、迂闊に口を出してはいけない気がする。

「そんなことさせるわけにはいかないなぁ……僕の最愛の人だからね。
 返してもらうよ、アクリーナを」

通ってきた抜け道から不意に声が響く。
エールは反射的に魔導砲を構え、その筒先を敵に向ける。
そこには一体のスケルトンがいた。だが、放たれる殺気は尋常じゃない。

「貴方は……スケルトンキング!スケルトンキマイラから分離して追ってきたの!?」

「嫌だなぁ、名前で呼んでよアクリーナ。僕は君の恋人じゃないか……?」

伸ばした手からずず、と瘴気が生じるとまるで腕のように伸ばす。
瘴気の腕はアクリーナを掴むと自分の手元まで引き寄せる。
どうやら三つの『闇の欠片』の力で瘴気を自在に生み出し操れるようだ。

「さぁ帰ろう。僕と君の居場所に。そして冒険者達には死を与えよう」

「馬鹿が!自分から弱体化して現れやがった。ここで決着をつけてやる!」

サイフォスは威勢よく大剣を抜き放ち臨戦態勢に入った。


【抜け道を通過して他の仲間たちと合流する】
【スケルトンキマイラはスケルトンキングに分離して追ってくる】
0514エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/10/02(土) 21:17:49.33ID:IbcoN//r
>>510
>“光の翼を持ちて”……。もしかしてお姉さん、飛行魔法が使えるのかにゃ?

サイフォス「俺も詳しくは知らないが、魔法の類ではないらしい。
      『一定値を超えた余剰魔力がなぜか光の翼に変形する』んだそうだ。
      その翼で飛行はもちろん防御や攻撃もできるんだってよ。すごい便利だな」
0515ダヤン
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2021/10/08(金) 23:44:04.23ID:Yi1PPmoj
>「あれ……サイフォスさんじゃありませんか。なぜこんなところに?」

なんとか無事に抜け道を抜けると、ラッキーなことに先ほどパーティー分割した片割れのチームがいた。
サイフォスがかくかくしかじかと現状を説明する。

>「ふっ……馬鹿ね。多少頭数が増えたところでどうにもならないわ。
 闇の欠片のせいで無闇に強くなってしまった怪物よ……貴方達じゃ倒せないわよ」

>「倒すさ。それが仕事だからな。危険な死者蘇生の研究も金輪際辞めてもらうぞ。
 続ける気なら17階の監獄エリア送りにさせてもらうからな……返事は後で聞く。
 それまでに頭を冷やしてじっくり考えることだ。賢明な判断を期待する」

サイフォスがアクリーナに、研究を辞めなければ監獄送りと言い渡す。
しかしそれは裏を返せば、すぐにやめればお咎めなしということだ。
この階の異変が本人の言う通り本当にアクリーナの研究のせいだとしたら、
階を混乱に陥れた戦犯として即刻監獄送りにもなりかねないところ。
お咎めなしで済むのはアクリーナにとってかなり悪くない条件といえる。
とはいえ、そう簡単に諦めもつかないようで、アクリーナはサイフォスを睨みつける。

「そうはいっても、相手は闇の欠片三つにゃ……。
サイフォスさん達は闇の欠片を持った相手と交戦したことはあるにゃ?
いったん街に戻って増援の冒険者を集めてもらったほうがいいのかも……」

アクリーナの処遇については何と言っていいか分からず、今後の行動方針に話を進めるダヤン。
が、そんなことを話し合っている暇もなかった。
抜け道から、一体のスケルトンキングが現れる。

>「そんなことさせるわけにはいかないなぁ……僕の最愛の人だからね。
 返してもらうよ、アクリーナを」

>「貴方は……スケルトンキング!スケルトンキマイラから分離して追ってきたの!?」

>「嫌だなぁ、名前で呼んでよアクリーナ。僕は君の恋人じゃないか……?」

アクリーナは、抵抗する様子もなく瘴気の腕に引き寄せられる。

>「さぁ帰ろう。僕と君の居場所に。そして冒険者達には死を与えよう」

>「馬鹿が!自分から弱体化して現れやがった。ここで決着をつけてやる!」

「ここで戦うしかないようにゃね……!」
0516ダヤン
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2021/10/08(金) 23:45:37.47ID:Yi1PPmoj
相手がこちらを殺そうとしてくる以上、迎え撃つ以外の選択肢はない。
サイフォスの言う通り、ここで決着を付けるしかないようだが
まるで勝てる気がしなかった先ほどとは、随分状況が違う。
サイフォスの仲間とも合流し、相手は自ら分離してくれたぶん、
巨大なスケルトンキマイラよりはかなり勝ち目があるような気がする。
とにもかくにも、戦いの火蓋は切って落とされた。
無数の瘴気の腕が襲い掛かってくる。
サイフォスは、剣を一閃し瘴気の腕を振り払いながらスケルトンキングに肉薄する。

「くそっ、そいつを離さんか!」

が、スケルトンキングに寄り添うような位置にいるアクリーナを真っ二つにするわけにもいかず、思うように攻撃できない様子。
スケルトンキングがアクリーナを盾にしている……のではなく、
アクリーナがスケルトンキングを自ら庇っているようにもみえる。

『アクリーナ! そいつから離れて!』

使い魔の猫が諭すも、もちろんアクリーナは聞く耳持たない。それどころか……

「嫌よ、絶対離れない! アンドレイを傷つけるなら許さないわ!」

そう強い口調で叫ぶが、目は虚ろ。
今まではギリギリ正気を保っていたようにみえたアクリーナだったが
スケルトンキングに抱き寄せられ闇の欠片3つの影響を至近距離でくらったことをきっかけに、
ついに闇の欠片の精神汚染の餌食になってしまったようだ。

「よく言ったアクリーナ。さあまずは共に、邪魔な冒険者どもを屠ろうじゃないか!」

アクリーナが両手を広げると、どこからともなくスケルトン種のモンスターがわらわら集まってきて、一行を取り囲む。

「やっておしまいなさい!」

味方との合流と相手の弱体化によって勝機が見えた気がしたのもつかの間、
アクリーナの闇落ちによって再び大ピンチに陥った。
0517エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/10/10(日) 00:25:28.88ID:kPBcUHOw
サイフォスは持ち前の力で重い大剣を振り回しながら瘴気の腕を切り払う。
『瘴気の腕』と便宜的に呼称しているが、闇の欠片の力なのか気体ではなく実体があるらしい。
それはアクリーナを掴み引き寄せたことからも分かる。

問題は――その瘴気の腕が無数に襲い掛かってくることだ。
いくら冒険者協会がベテランの集まりといってもこれではキリがない。

つけ加えて、アクリーナがスケルトンキングを守るようにくっつているのが問題だ。
あれでは冒険者たちが思うように魔物を攻撃できない。

>『アクリーナ! そいつから離れて!』

黒猫が不思議な声を発するが、アクリーナは聞く耳を持たない。
どうやら正気を失っているようだ。なぜ正気を失ってしまったのか?
考えられる要因は『闇の欠片』以外に無いだろう。

通常、持ち主にしか現れないはずの精神汚染の影響をなぜか彼女までが受けている。
スケルトンキングが意図的にそういう力を発揮しているのか。
欠片が三つ集まったことで影響範囲が拡大したのか。

それは戦闘中の冒険者達で解き明かせるものではないし、今はそこまで重要ではない。
だが事実として彼女は精神汚染を受けていて、死霊術師の力を発揮してスケルトンを大量に呼び寄せてしまった。

「くぉんのぉ〜っ!」

エールは自棄気味に魔導砲から火炎放射を放ち火を点ける。
前衛のスケルトン達は瞬く間に燃え尽きるが、雲霞の如くまた現れる。

「これじゃあキリがないよ……!」

ここは地下墓地のため遺骨には困らない。
棺に納めている死体の数は100じゃきかないはずだ。

「……いただき。僕の攻撃が止んだわけじゃないよ……?」

エールは周囲のスケルトンに注意を引っ張られたせいで
スケルトンキングの攻撃を見逃してしまった。
死角から『瘴気の腕』が襲い掛かる。

「嬢ちゃんを傷つけさせるかよ!うぉぉぉぉっ!!」

サイフォスが雄叫びを上げてエールの背中をカバーし『瘴気の腕』を切り払う。
その様子を見てスケルトンキングは鬱陶しそうに言葉を発する。
0518エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/10/10(日) 00:26:46.29ID:kPBcUHOw
「さっきから面倒なんだよおっさん……アンタの活躍が見たいわけじゃない。
 もういいからさっさと死んでよ……!はぁぁぁっ……!!」

切り払って拡散した『瘴気の腕』が空中で集合し、再びひとつとなりサイフォスに迫る。
大剣の大振りでは反応できないスピードだ。避ければエールに当たる。
よってサイフォスが出来た行動はひとつ。大剣を盾のようにして防ぐことだけ。

「ぐぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

だが到底防ぎ切れる規模の攻撃ではなく、肩や腕、足といった末端に瘴気が命中する。
高濃度の瘴気を浴びたサイフォスの身体は命中箇所が焼け爛れたように腐っている。

「ははっ、いいぞ。それだ。その苦しみ悶える声が聴きたかったんだ!!」

子供のような声できゃっきゃと喜ぶスケルトンキングをよそに、エールは倒れたサイフォスを守る。
追撃してくる『瘴気の腕』を魔導砲のプラズマ弾で撃ち落としていく。
前衛を張ってパーティーを支えていたサイフォスが崩れた今、数の不利もあって形勢は悪い。
冒険者協会のメンバーたちが一人、また一人と『瘴気の腕』の餌食になっていく。

「後は君達しか残ってないよ。どうする?僕の仲間になりたいならしてあげてもいいよ。
 アンデッドとしてだけどねぇ。スケルトンがいいかい。ゾンビがいいかい。それともマミー……?」

周囲はスケルトンの群れ。冒険者協会のメンバーも壊滅状態。
立っているのはエールとダヤンだけだった。

「返事がないなぁ。怖くて喋れないのかい。不死の世界はいいよぉ。下らない悩みも死の恐怖もない。
 あるのは素晴らしい『永遠』だけだ……僕が君達の魂に安らぎを与えてあげよう」

最早個人の実力でひっくり返せる戦況じゃない。
この窮地を脱する策はひとつしかなかった。

「……待って!私達はアスクレピオスさんの知り合いで、頼まれてここまで来たんだよ!
 私達を殺しちゃうとアクリーナさんとアンドレイさんに凄く良くないことが起きると思うけど……!?」

これは本当に賭けだ。闇の欠片を回収する謎の男、アスクレピオスは4階でこう言った。
『もし闇の欠片絡みで何かあれば自分の名前を使え』と。
闇の欠片を研究に使っていたなら知り合いの可能性がある。多少話を盛ったが今使うしかない。

「……誰そいつ。変な名前だね。僕は知らないなぁ……興味もないし……」

だが当てが外れたようだ。スケルトンキングはアスクレピオスを知らないらしい。
エールはいよいよ死を覚悟したが、抱き寄せられているアクリーナがそわそわしはじめた。
0519エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/10/10(日) 00:30:07.83ID:kPBcUHOw
「まずいかも……アンドレイ。七賢者のアグリッパが言っていたわ。
 『闇の欠片』を研究に使うのは良いけれど面倒事を起こしたら同じ七賢者のアスクレピオスが回収に来るって。
 彼らには貴方を蘇生するため色々と手を貸してもらったの。お礼に少し研究を手伝ったりもしたけど……」

元はと言えば使い魔の黒猫は『闇の欠片』の研究データを七賢者に渡すため飼いはじめたもの。
死者蘇生の研究を続けていると色々なことが煩わしくなり、外に出るのも億劫だったからだ。
そのお使い程度の目的で飼った黒猫が今や自分を諫めるほどまでになっているとは。

「へぇ……それは知らなかった。七賢者ってのはどんな連中なんだい。多少の魔法使いなら僕がやっつけて――――」

「駄目よ!七賢者はこの"無限迷宮の主"に仕える最強の魔法使い達なのよ!
 その辺の冒険者とは格が違い過ぎる……!きっと『闇の欠片』が十個あったって勝てないわ……!」

「そ、そうだったのか……ごめんよアクリーナ。軽率な発言だった」

「七賢者の存在は一部の人間しか知らない。だからあの発言は無視できない!
 闇の欠片を奪われたら貴方は死体に戻ってしまう……!」

アクリーナは両手で顔を抑えると、手の隙間から目を見開いてエールとダヤンに問う。

「……何が目的なの。本当にアスクレピオスの使いなの?
 5階の連中を『多少』危険に晒してしまったのは悪いと思ってるわ。
 でも私はそれ以外のことは何もしてない!お願い、『闇の欠片』を私から奪わないで!」

懇願するアクリーナを見て、嘘をついてしまったことに罪悪感を覚えた。
アスクレピオスの印籠は確かに効果があったようだが良心が痛む。
だがこれ以外に状況を打開する方法はなかった。このまま上手く嘘を通すしかない。

「目的は……その……アクリーナさんを心配していたからだよ。
 アクリーナさんはよく知らないだろうけど、アスクレピオスさんは優しい人なの。
 研究が上手く行ってるか様子を見てきてほしいって頼まれたんだよ」

「……そう。それは良かった。じゃあこの冒険者の連中は何!?
 護衛というには随分と物々しいじゃないっ!?なぜこんな連中とつるんでたの!!?
 しかもそいつらはあの『冒険者協会』の所属メンバーじゃないの!それはどう説明するの!」

冒険者協会といえば無限迷宮攻略のため、あらゆる世界に存在する冒険者ギルドを取り纏める巨大組織。
無限迷宮の主とやらに仕える七賢者とはどちらかといえば相反する組織だ。
その連中とねんごろなのは何故なのか……もっともらしい嘘をつくしかない。

もしアクリーナが嘘だとみなしたら、その時二人の命はないだろう。


【冒険者協会のメンバー全滅(一応まだ生きてる)。エールとダヤンだけ生き残る】
【アスクレピオスの名前を使うが冒険者協会とつるんでいた理由を問われる】
0520ダヤン
垢版 |
2021/10/15(金) 23:55:33.40ID:fQHX8Vg5
>「これじゃあキリがないよ……!」

ここは地下墓地のため、遺骨は無尽蔵。
無数のスケルトンに取り囲まれながら、スケルトンキングの相手もしないといけない状況になってしまった。

>「……いただき。僕の攻撃が止んだわけじゃないよ……?」

>「嬢ちゃんを傷つけさせるかよ!うぉぉぉぉっ!!」

サイフォスが、エールを狙った攻撃を防ぐ。
先ほどからの活躍ぶりを考えると相当な高レベルな戦士かと思われるが、
有能過ぎて敵に目をつけられてしまったようだ。

>「さっきから面倒なんだよおっさん……アンタの活躍が見たいわけじゃない。
 もういいからさっさと死んでよ……!はぁぁぁっ……!!」

>「ぐぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

瘴気の腕の攻撃を受け倒れるサイフォス。

「サイフォスさん……!」

ダヤンは、倒れたサイフォスに群がってくるスケルトン達をフラッシュボムで追い払うことぐらいしかできない。

「サイフォスさん、今回復を……」

僧侶がサイフォスの回復にかかろうとするも、あっという間にスケルトン達に取り囲まれた。

「きゃぁああああああああ!!」

一方では、魔法使いの悲鳴があがる。
ベテラン揃いの冒険者協会の面々のはずだが、強力な前衛であるサイフォスが倒れたことで、総崩れになってしまった。

>「後は君達しか残ってないよ。どうする?僕の仲間になりたいならしてあげてもいいよ。
 アンデッドとしてだけどねぇ。スケルトンがいいかい。ゾンビがいいかい。それともマミー……?」

気付けば、二人より遥かに強いはずの冒険者協会のメンバー達が全員戦闘不能となり、
何故かエールとダヤンだけ残っていた。
弱い者をいたぶって遊ぶために、敢えて残したのかもしれない。
普通に戦っても勝ち目はなさそうだ。

>「返事がないなぁ。怖くて喋れないのかい。不死の世界はいいよぉ。下らない悩みも死の恐怖もない。
 あるのは素晴らしい『永遠』だけだ……僕が君達の魂に安らぎを与えてあげよう」

>「……待って!私達はアスクレピオスさんの知り合いで、頼まれてここまで来たんだよ!
 私達を殺しちゃうとアクリーナさんとアンドレイさんに凄く良くないことが起きると思うけど……!?」

エールはアスクレピオスの名前を使い、交渉に打って出た。
0521ダヤン
垢版 |
2021/10/15(金) 23:56:29.39ID:fQHX8Vg5
>「……誰そいつ。変な名前だね。僕は知らないなぁ……興味もないし……」

>「まずいかも……アンドレイ。七賢者のアグリッパが言っていたわ。
 『闇の欠片』を研究に使うのは良いけれど面倒事を起こしたら同じ七賢者のアスクレピオスが回収に来るって。
 彼らには貴方を蘇生するため色々と手を貸してもらったの。お礼に少し研究を手伝ったりもしたけど……」

スケルトンキングはアスクレピオスを知らないらしいが、アクリーナは知っているらしく。
アクリーナの言葉から推測するに、闇の欠片はアグリッパという名の七賢者から渡されたらしい。
アスクレピオスは実際に暴走したモンスターから闇の欠片を回収していたこともあり、アクリーナの発言と合致している。
七賢者は闇の欠片の研究をしており、その一環として研究を外注してみたりモンスターに与えてみたりもしている、
そして闇の欠片を与えた者が暴走する等して研究失敗とみなした場合は没収している、というところだろうか。

>「七賢者の存在は一部の人間しか知らない。だからあの発言は無視できない!
 闇の欠片を奪われたら貴方は死体に戻ってしまう……!」
>「……何が目的なの。本当にアスクレピオスの使いなの?
 5階の連中を『多少』危険に晒してしまったのは悪いと思ってるわ。
 でも私はそれ以外のことは何もしてない!お願い、『闇の欠片』を私から奪わないで!」

アクリーナは交渉に乗ってきた。
首の皮一枚繋がったが、飽くまでも首の皮一枚である。

>「目的は……その……アクリーナさんを心配していたからだよ。
 アクリーナさんはよく知らないだろうけど、アスクレピオスさんは優しい人なの。
 研究が上手く行ってるか様子を見てきてほしいって頼まれたんだよ」

>「……そう。それは良かった。じゃあこの冒険者の連中は何!?
 護衛というには随分と物々しいじゃないっ!?なぜこんな連中とつるんでたの!!?
 しかもそいつらはあの『冒険者協会』の所属メンバーじゃないの!それはどう説明するの!」

エールが機転を利かせて応答するも、やはり無理がある。
“無限迷宮の主"に仕える七賢者と、無限迷宮の攻略を目的とした冒険者協会。
双方は、どちらかというと敵対する組織なのかもしれない。
一触即発――ここで嘘を見破られれば命はない。しかし、生半可な嘘は通用しそうにない。
ならば……

「オイラ達、駆け出し冒険者で冒険者協会がどんな組織かも詳しくは知らなくて……。
冒険者協会の人達とは、最初からつるんできたわけじゃなくて入口あたりでたまたま会ったんだにゃ。
ここの調査に来てたみたいで、二人だけじゃ危ないから一緒に行こうって言われて……」

ここまでほぼ事実通りで、嘘はついていない。
嘘を見破られれば終わりなら、嘘をつかなければいい。
アクリーナの逆鱗に触れない範囲で出来る限り本当のことを言う作戦に賭けることにしたのだ。
0522ダヤン
垢版 |
2021/10/15(金) 23:57:52.90ID:fQHX8Vg5
「もしも実験がうまくいかなかったら……
アンドレイさんの意識も持たない単なる強力なアンデッドが生まれるだけ、の可能性もあったんだってにゃ。
アンドレイさんが突然襲い掛かってきたから、きっとみんな、そうなったと思って駆け出しのオイラ達を守るために応戦してくれたんだにゃ。
でも……アンドレイさんも討伐隊が来たと思って身を守るために襲い掛かってきたんにゃね……」

討伐する気満々だったわけではなく正当防衛だったと主張しつつ、
実験は完全に失敗ではなくこのスケルトンキングがアンドレイであることを認める姿勢を見せる。
スケルトンキマイラの時もスケルトンキングの時も、先に襲ってきたのは向こうなので、一応理屈としては成立している。

「でも……町でもこの地下墓地が怪しいって噂になってるにゃ。
大規模な調査隊が送り込まれるのも時間の問題にゃ。
このままこのエリアにいたらきっといつかは討伐されてしまうにゃ……。
いったん……二人が追われずに暮らせる場所……そうにゃ、“無法エリア”に身を隠すのはどうかにゃ……?」

64階に存在するという無法エリア。
名前からしていかにも物騒そうで実際物騒なのだが、
様々な理由で追われる身や迫害される立場になり他のエリアにいられなくなった者達が暮らせる場所、という側面もあるらしい。
もちろんこんなのを他の階に放てば他の階が大迷惑したり更なる被害が出かねないのだが、
生き残るためにもはや後先考える余裕をなくしているのが半分、ダヤンもまたアクリーナに感情移入してしまっているのが半分というところだ。
そして、倒れて気を失っているサイフォスの横には懐から転がり落ちたポータルストーンが転がっている。
幸か不幸か、もしもアクリーナが交渉に乗ってきた場合、実際に彼らを他の階に送り届けることも可能な状況であった。
0523エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/10/17(日) 21:06:55.95ID:BxV0wPwo
冒険者協会の面々に守られたおかげで辛くも生き残った二人。
エールはいちかばちかでアスクレピオスの名前を使ったが、果たして上手くいくか……?

>「でも……町でもこの地下墓地が怪しいって噂になってるにゃ。
>大規模な調査隊が送り込まれるのも時間の問題にゃ。
>このままこのエリアにいたらきっといつかは討伐されてしまうにゃ……。
>いったん……二人が追われずに暮らせる場所……そうにゃ、“無法エリア”に身を隠すのはどうかにゃ……?」

どぎつい剣幕でアクリーナに迫られ、驚いたエールは言葉を失っていた。
そこで上手く話を繋いでくれたのはダヤンだった。彼の語った無法エリアとは、
無限迷宮の地図によれば64階にあるという名通りの無法地帯の階。

だが例え無法地帯だろうと良識あるものならば危険な魔物を野に放つなどという暴挙には出ない。
おそらくダヤンにもその気はないはずだ。アドリブで口裏を合わせた結果そうなったと言うしかない。

「なるほど……でも移動手段はどうするの?普通のポータルで転移するには遠すぎるわ」

アクリーナの言い分はもっともだった。
エールは何かを思い出した様子で自分の後ろに倒れていたサイフォスに視線を移す。
見れば気を失った彼の懐からポータルストーンが零れ落ちていた。

「それなら……このポータルストーンを使って。アクリーナさん」

エールは無造作に落ちていた光る鉱物質の球を拾い、アクリーナに見せる。
ポータルストーンは刻まれた座標地点に転移するアイテムであるため、
サイフォスの所持している石で64階に飛べるかは不明なのだが――今はそれでいい。
狙いはそこにあるのではない。

「それはポータルストーン!心配は無用だったかしら……準備がいいわね」

そう言ってアクリーナはスケルトンキングから離れ、エールに近寄っていく。
これだ。ポータルストーンを渡す素振りをしたのはこの瞬間のため。
さり気なくアクリーナの名前だけ呼んで彼女に取らせるよう仕向けたのだ。

アクリーナが慎重ならエールに『渡させる』だろう。
スケルトンキングが慎重なら『抱き寄せたまま取りに行く』だろう。
でもそうしなかった。殺してはいけない相手だがいつでも殺せる相手だと油断したからだ。
闇の欠片が齎す精神的優越感が思考を鈍らせてしまった。

これでスケルトンキングはアクリーナを盾にできない。
いつでも直接攻撃を叩き込める。問題はどうやってあのアンデッドを倒すか。
肝心の倒す方法まではエールも考えてない。『闇の欠片』が無ければ死体に戻ると言っていたが……。

その『闇の欠片』は分厚い胸骨の内側にある。
しかも三個あるうえ『闇の欠片』は物理手段では破壊できない。
0524エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/10/17(日) 21:11:13.65ID:BxV0wPwo
冒険者協会の面々が戦闘不能である以上、逃げるという選択肢はない。
ここでどうにかして倒す!最早自棄だがダヤンと二人がかりで何とかするしかない。

『……よく聞いて。この声は二人にしか聞こえない。
 今からスケルトンキングの弱点を君達に教えるよ……』

不思議な声と共にエールの傍に黒猫が寄ってくる。アクリーナの使い魔だ。
ちょくちょく喋っていたが、今から話す声はエールとダヤンの二人にしか聞こえないようだ。

『アクリーナが言っていたんだ。恋人のアンドレイは生前、
 探索中に高所から落下して、折れた肋骨が肺に刺さって死んだみたいだって。
 遺骨を組み合わせた時に折れた箇所も接着したみたいだけど、その部分は脆いままみたいだ……』

確かによく見ると、対面から見て右側の肋骨。そのうちの一本に亀裂が走っている。
そこが折れた箇所なのだろう。多少の衝撃があれば簡単に外れそうだ。

『折れた肋骨の箇所から――短剣とかを差し込んで――闇の欠片を抉り出すんだ。
 一撃につき一個抉れるとして……最低三回攻撃すれば奴を死体に戻すことができる!』

ダヤンは短剣二刀流なので上手くやれば二回のアクションで肋骨を外しつつ三個抉れるだろう。
(※短剣を使って肋骨を外さずとも他に有効な魔法があればそれでも可能)
相手も棒立ちではあるまいが、『瘴気の腕』にさえ気をつけていればなんとかなるかもしれない。
だがなぜそうまでして使い魔が助け舟を出してくれるのか。エールは疑問だった。

『……母猫に見捨てられて、死ぬのを待つだけだった子猫の僕をアクリーナは救ってくれた。
 彼女にとっては大した理由じゃなかったのかもしれない。でも僕にとっては大切な恩人なんだ……。
 たとえ……ご主人に嫌われてもいい……前を向いて生きてほしい……それが僕のたったひとつの願いだ』

黒猫の願いを聞き届けたエールは深く頷いてポータルストーンを手渡そうとする。
アクリーナが手の中の石を掴んだ瞬間、エールは彼女の手首を捻り上げてハンマーロックの姿勢に持ち込んだ。
銃士は一般的な軍人レベルではあるが体術にも長けているのだ。

「あああああああ!!!?貴女、だまっ……騙したわね!!?」

「アクリーナさん確保ーーーーっ!!!!!!ダヤン、今だよ今!!!!!」

アクリーナの後ろ手を掴んで地面に抑え込みつつ、エールは叫ぶ。
関節を極められた痛みで掴んだポータルストーンはカランカランと地面に転がっていった。


【ポータルストーンを渡す瞬間に関節技を極めてアクリーナを拘束する】
【スケルトンキングの古傷から短剣を差し込み『闇の欠片』を抉り取れ!!】
0525エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/10/18(月) 21:01:58.12ID:YMpZN00r
【この呟きは本編と関係ないけどこの歌の歌詞みたいなストーリーに出来たらいいなぁ……】
【ナムナム……上手くいくように祈願(というより自分に言い聞かせてる?)で貼るね!えへへ!】
https://www.youtube.com/watch?v=62MrBZTKJFc
0526ダヤン
垢版 |
2021/10/22(金) 21:49:47.57ID:XFx7rPjo
>「なるほど……でも移動手段はどうするの?普通のポータルで転移するには遠すぎるわ」

ダヤンがとっさに繋いだ話を、再びエールが引き継ぐ。

>「それなら……このポータルストーンを使って。アクリーナさん」

エールはポータルストーンを拾い、差し出すようにアクリーナに見せる。

>「それはポータルストーン!心配は無用だったかしら……準備がいいわね」

アクリーナはあっさりとスケルトンキングから離れ、エールに近寄ってきた。
これがエールの狙いだったのだ。
ダヤンとて、もちろん本気で彼らを他の階に放逐するつもりではなかったが、
かといって後先考える余裕もなくとにかく話を繋いだだけであったのも確か。
本当にギリギリの綱渡りのようなリレーだ。
またもやなんとか次に繋がったが、肝心の倒す方法まではエールも考えていない。
そこで思わぬ助け船を出す者があった。アクリーナの使い魔の黒猫だ。

>『……よく聞いて。この声は二人にしか聞こえない。
 今からスケルトンキングの弱点を君達に教えるよ……』

>『アクリーナが言っていたんだ。恋人のアンドレイは生前、
 探索中に高所から落下して、折れた肋骨が肺に刺さって死んだみたいだって。
 遺骨を組み合わせた時に折れた箇所も接着したみたいだけど、その部分は脆いままみたいだ……』

>『折れた肋骨の箇所から――短剣とかを差し込んで――闇の欠片を抉り出すんだ。
 一撃につき一個抉れるとして……最低三回攻撃すれば奴を死体に戻すことができる!』

>『……母猫に見捨てられて、死ぬのを待つだけだった子猫の僕をアクリーナは救ってくれた。
 彼女にとっては大した理由じゃなかったのかもしれない。でも僕にとっては大切な恩人なんだ……。
 たとえ……ご主人に嫌われてもいい……前を向いて生きてほしい……それが僕のたったひとつの願いだ』

アクリーナ達に気取られてはいけないので返事をするわけにはいかないが、代わりに深く頷いた。
ダヤンも気付けばマスターに拾われていた境遇であり、また、猫シンパシーもあって共感するところがある。
何の恩返しも出来ないまま出てきてしまったけど……などと頭の片隅で思いつつ、素早くブーストハーブを食べる。
スケルトンキングもアクリーナもポータルストーンの方に注目しているし、
見た目は普通の回復系アイテムのキュアハーブなどと遠目には見分けがつかないので、そこまで怪しい行動でもない。
アクリーナが最接近した瞬間、エールはアクリーナを捕らえるつもりであろう。
その瞬間が最初で最後のチャンスだ。
ブーストハーブは反動が凄まじいがここで失敗すればどちらにせよ終わりなのだから、ドーピングしない手はなかった。
0527ダヤン
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2021/10/22(金) 21:54:38.83ID:XFx7rPjo
>「あああああああ!!!?貴女、だまっ……騙したわね!!?」

>「アクリーナさん確保ーーーーっ!!!!!!ダヤン、今だよ今!!!!!」

そして――エールは体術でアクリーナを拘束してみせた。
銃士は遠距離攻撃クラスとはいっても一般的な軍人レベルの体術は習得しており、
アクリーナは高レベルとはいえど術士だ。
しかしもしも最接近する前に気取られれば、アクリーナにはいくらでも攻撃手段はあった。
拘束できたのは見事という他はないだろう。次はダヤンの番だ。
当然、ダヤンとスケルトンキングの間には圧倒的な能力差があるが……

「あ……アクリーナ!?」

油断しきっていたスケルトンキングは、ほんの少し反応が遅れる。
通常なら取るに足らないほどの遅延だが、それが大きな意味を持つ。
何故なら一方のダヤンは、ブーストハーブの効果により、暫しの間だけ時の流れを遅く感じるようになっている
――つまり反応速度が飛躍的に上がっている。

「そこにゃ!!」

ダヤンは目にもとまらぬ速さでスケルトンキングに接近し、まず右手の一閃で肋骨の亀裂部分に攻撃を叩きこむ。
その肋骨は亀裂部分で綺麗に折れ、外れ落ちた。
これにより闇の欠片に至る隙間が出来、続く左手の一閃で闇の欠片を一つ弾き飛ばす。
しかし、流石に連続攻撃を許してくれるほどスケルトンキングは甘くはない。
瘴気の腕が迫り、いったん飛びのいて着地する。

「……まず一つっ!」

「なかなかやるね……でもそこまでだ」

今度は不意打ちのアドバンテージもなく、明確に脅威と認識された状態で、
残り二つの闇の欠片を弾き飛ばさなければならない。
希望があるとすれば、一つ闇の欠片を失って少しは弱体化していることであろうか――

「いざ勝負っ!」

戦闘が長引くほどこちらが不利になる。地面を蹴って飛び掛かる。
瘴気の腕が振るわれ、幸い直撃はしなかったものの掠って軌道がずれた。

――ふたつめっ!!

それでも一撃は手を伸ばしてなんとかあてるも、もう片方の手でもう一つは叶わない。
0528ダヤン
垢版 |
2021/10/22(金) 22:08:46.45ID:XFx7rPjo
「散々手こずらせやがって……終わりだ!!」

バランスを崩して着地したときには、今にも瘴気の腕が叩きつけられようとしていた。

「エール! 逃げてにゃ……!」

万事休すと思われた瞬間……
跳躍した黒い小柄な何かが目にもとまらぬスピードで空中を横切り、最後の闇の欠片に体当たりして弾き飛ばす――
もちろん、その正体は使い魔の黒猫だ。
無論、スケルトンキングが使い魔の猫を少しでも警戒していればこれは叶わなかっただろう。
エールとダヤンを取るに足らない者達だと油断しきった結果不覚を取られ、
二人を脅威と認識した後、今度は、戦闘においては無力だと眼中になかった使い魔の猫にまたもや出し抜かれたのだった。
あるいは、黒猫はアクリーナの使い魔なので自分達に攻撃するはずは無いと思い込んでいたのかもしれない。
なんにせよ、奇跡の猫コンビネーションがここに成立したのだった。

【>525
いい曲おしえてくれてありがとにゃー!
重すぎず基本明るくて、でも程よく切ないようなほっこりするような……このスレにぴったりなんじゃないかにゃ?
遠く向こうにあるはずの背中→お姉ちゃん? ゴールへの地図が無い→無限迷宮? って思ったにゃ!
微力ながら最後までお供する所存にゃ】
0529エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/10/25(月) 00:36:23.07ID:Oft1/VE/
危ない綱渡りの末にアクリーナの拘束に成功したエール。
地面に抑え込んで前へ視線を向けると、ダヤンが攻撃を叩き込む瞬間が見えた。
右手の一撃でスケルトンキングの肋骨の一本を外し、左手で『闇の欠片』を弾き飛ばす。

人骨の中で妖しく光を放つ『闇の欠片』は、固定されたり埋め込まれている訳ではない。
不思議な力で宙に浮いている状態に近いだろう。あるいは纏っている実体ある瘴気が支えているのか。
使い魔の作戦通りスケルトンキングからあっけなく分離させることができた。

>「いざ勝負っ!」

『瘴気の腕』を警戒して一度後方へ退避したダヤンが再度飛びかかる。
ここからが勝負だ。望みはある。敵は欠片を一つ失っただけ弱体化しているはず。
そこに賭けるしかない。

振るわれる『瘴気の腕』を避けて再攻撃。
ダヤンの放った二つの剣閃は確かに『闇の欠片』を弾き飛ばした。
ただし抉り出せたのは一つだけ。まだ一つ残っている。

>「散々手こずらせやがって……終わりだ!!」

スケルトンキングが吼えると『瘴気の腕』がダヤンを襲う。
欠片を二つ失ったことで瘴気の勢いが衰え、小規模になっている。
だが『瘴気の腕』は当たれば命中箇所を腐らせる必殺の一撃。

エールはアクリーナから飛び退いて駆けだした。
魔導砲で撃ち落とす時間はない。走っても助けは間に合わない。
だが仲間のピンチを前にして何かしなくては――と発作的に走った。

>「エール! 逃げてにゃ……!」

作戦失敗かと思われた時、目の端から何かが飛び出す。
黒い塊のようなものがスケルトンキングの胸目掛けてダイブしたのだ。
アクリーナの使い魔だ。そして猫の手を肋骨の隙間に突っ込んで最後の『闇の欠片』を弾き飛ばす。

「うっ、うぉぉぉぉ…………貴様ぁ……使い魔ぁぁぁぁ……!?」

スケルトンキングは呻き声を漏らしながら急激にその身体をバラバラと崩していく。
『闇の欠片』を失ってアンデッドとして生きる力を喪失した。骨の身体を構築する力はもうない。
そして力の根源が消えたことでコントロールを失った『瘴気の腕』はダヤンに当たる直前で霧散する。

「こ……こんな馬鹿なことがあっていいのか……。
 アンデッドを増やして……増やして……増やす……それがもう果たせない……!」

ざざざ……と骨が流砂となって崩れていく。
助かろうと藻掻いて手を伸ばしても助けてくれる手は、ない。

「あぁぁぁ……ぁぁぁぁ…………」

断末魔と共にスケルトンキングは完全に消滅した。
そうする事でアンデッドとして縛られていたアンドレイの魂も解き放たれたのだ。
0530エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/10/25(月) 00:39:31.73ID:Oft1/VE/
スケルトンキングの消滅を見届けると、エールはダヤンと黒猫の下へ駆け寄る。

「ダヤン!使い魔さんも……大丈夫!?」

ブーストハーブを食べていたので少しすれば反動がくるはずだ。
それに黒猫も、直接『闇の欠片』を弾き飛ばしていた。何か悪影響があるかもしれない。
だが、エールに専門知識があるわけでもなく、ただオロオロとすることしかできない。
そうしているとふと自分達が温かな光に包まていくのが分かった。その光は徐々に人の形を為していく。

「彼と猫ちゃんなら大丈夫……心配いらないよ……」

光は角がない丸みを帯びた声を発した。なんだかほわほわする。
うっすらと映る姿は端正な顔立ちの好青年だ。

「アンドレイ……なの……?」

うつ伏せになったままの姿勢でアクリーナは人の形を為した光を見る。
見間違えようがあろうはずもない。それは生前のアンドレイの姿そのものだ。
いや……姿だけじゃない。その意識も。性格も。ありのままの魂の姿で。

死霊術を使えば魔物のゴーストやアンデッドとして復活させることはできた……。
だが、アクリーナの技術では生前のまま蘇生することも、生前のままの幽霊を呼び寄せることもできなかった。
奇跡だ。自分の力では到底成し得ない現象。ならば奇跡が起きたと言うしかない。

「アクリーナ……君を置いて旅に出てすまなかった。
 君を危険な目に遭わせたく無かったんだ……それに必ず戻るつもりだった……」

「そうよ……なんで……なんで私を置いていったの?
 私……寂しかった。ずっと貴方に会いたかった……」

恋人の魂が発する温かな光。それが『闇の欠片』の精神汚染を浄化していく。
ぼろぼろと大粒の涙を零しながら彼と話してるうち、アクリーナはすっかり正気を取り戻していた。

アンドレイが『無限迷宮』に挑んだのは友人の冒険者が『無限迷宮』に挑み、帰らぬ人となったからだった。
友人には妻がおり、妻に捜索を懇願されて彼もまた『無限迷宮』を潜ることになり――その後を追うことになる。

「だからといって彼らを責めないであげてほしい。アクリーナ……勝手かもしれないけれど。
 ……これからは前を向いて。僕のことを忘れてもいい。君の幸せのために……生きるんだ……」

アクリーナが光に手を伸ばす。だが、その手はすり抜けてしまう。
アンドレイの姿が徐々に薄れていく。天へと昇っていく。再び召される時が来たのだ。

「僕はずっと見守っているから。遠い遠いところで……ずっと……」
0531エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/10/25(月) 00:41:12.18ID:Oft1/VE/
やがて温かな光は粒となってアクリーナにきらきらと降り注ぐ。
奇跡の時間は過ぎてしまった。彼女の頬には涙が伝っていた。
だが、その顔は悲しみを振り払った穏やかな顔だった。

「……愛の力だな」

こつ、と硬質な地面を踏む音が届く。
背後を見ると、顔の右半分を仮面で覆った白衣の男が立っていた。

「君の死霊術と愛の力が合わさった奇跡だと私は解釈する。
 魔法とは必ずしも理論化されておらず、魔法使い達の感覚によるところも大きい」

七賢者の一人アスクレピオスだ。
エールはその存在に気づくと、彼の語りを静かに聞く。

「魔力を源にして森羅万象を引き起こす力……その深奥は深く、限界もない。
 ……君の話を思い出してここに来た。これからどうする。死者蘇生の研究を続けるのか」

「……嘘じゃなかったの。……私……これからも研究を続けるわ。
 ただ……それは死者蘇生の方法じゃない。死者の声を正しく届けるための研究をする。
 この階に来る人は皆、死の悲しみを断ち切れない人ばかり……私のようにね」

アクリーナは目の涙を拭って立ち上がる。

「でも私はもう大丈夫。冥界から引きずり出さなくても、アンドレイは私を見守ってくれる。
 だから悲しみを癒す手伝いをしてあげたいの。もう『闇の欠片』にも頼らない。
 私の死霊術ならそれが出来る……そんな気がするから……」

そして地面にいた使い魔を抱き寄せてアクリーナは頭を垂れた。

「……今まで……ごめんなさい。言い訳はしない。私はあなたを軽く見てた。
 でも……もしも。もしも許してくれるなら……私の研究を手伝ってくれる?
 私、研究に没頭すると外出しないもの……あなたの力が必要だわ」

その様子を見届けて、今まで一切表情筋を動かさなかったアスクレピオスの顔が。
エールはそれを見逃さなかった。望んだ答えを聞いたような満足感で、確かに微笑んでいたのだ。
やがて転がっている三個の『闇の欠片』まで近寄って手を翳すと、手の中へ吸い込まれていく。
0532エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/10/25(月) 00:43:09.02ID:Oft1/VE/
次に倒れている冒険者協会の面々のところまで近寄っていく。
アスクレピオスはまずサイフォスの容態を診るためしゃがみこんだ。

「お……俺なら大丈夫だ……さっきのあったけぇ光で随分マシになった……。
 何か……暗くて恐ろしい闇の力を和らげてくれたような……そんな感じだ……」

「そのようだな。だが高濃度の瘴気を浴びて身体の一部が腐り落ちている。
 治癒魔法で再生させるが完治まで一週間程度。しばらく安静にしておくことだ」

治癒魔法の光がサイフォスの患部を包みこむ。
だが流石にここで即座に治せるものではないのか、痛み止めの応急処置だ。

「そりゃいけねぇ……次の依頼が待ってるんだ。俺達には時間が……」

サイフォスは起き上がろうとするが激痛で呻き声を漏らす。
身体が腐り落ちているのに完治すると断言したのだから、凄い治癒の力だ。
だがサイフォスはなぜか余裕のない焦った様子ではぁはぁと息を荒げている。

「あまり興奮しない方がいい。治療が遅れるだけだ」

「すまねぇ……お医者さん。嬢ちゃんとダヤンを……呼んでくれ……」

アスクレピオスの視線がエールとダヤンに向く。
エールは今際の時を見守るような気持ちでサイフォスの元へ近寄る。

「……わりぃ……こいつは泣き落としだ。約束を先延ばしさせてくれ。
 二人とも9階へ行く前にポータルストーンで6階に行っちゃくれねぇか……?」

その辺に落ちていたポータルストーンを拾い上げてサイフォスに見せる。
この球があれば他の階に少々寄り道したところですぐ9階へ行けるだろうが……なぜだろうか。

「今……6階の拠点は魔物の襲撃を何度も受けてる。
 理由は分からんが……過去に熾天使のカノンが倒した魔物のボスが復活したらしい。
 お礼参りのつもりらしいがしつこくて犠牲者が多数出てる。俺達はすぐに加勢に行かなきゃならない」

だが、それは無理な話だ。この階へ調査に来た冒険者協会は全員『瘴気の腕』を食らって重傷。
完治までサイフォスと同程度か、下手をすればもっと時間がかかるだろう。
しかも患者は十数人ほどいる。アスクレピオスもつきっきりで治す必要があるはず。
0533エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/10/25(月) 00:45:37.03ID:Oft1/VE/
「あの……協会所属の他の冒険者を派遣することはできないんですか?」

「そうしたいところだが……そいつには時間が要る。それに復活したボスは『闇の欠片』を5個所持してるそうだ……。
 俺達は3個持ってるスケルトンキング風情にこのザマだぜ……信頼できる奴を送り込まなきゃ意味がない。
 お嬢ちゃんとダヤンの戦い……ちゃんと見てたよ……あれだけ出来ればもう一人前さ」

重傷で長い台詞を喋ったのが堪えたのか顔色を悪くして呼吸を荒げる。

「無理を承知で……頼む。二人の力を6階の連中に貸してやってくれねぇか……?」

サイフォスが申し訳なさそうに言う。エールはぶるぶると震える彼の手を両手で握った。
何の心配もいらない。自分にできることがあればいくらでも協力すると。

「もちろんです。私に出来ることなんて限られてるけど……頑張ってみます」

アスクレピオスはその様子を眺めながら応急処置を終えて立ち上がる。
次の倒れている冒険者の元へ行く前に――立ち止まってエールとダヤンを見つめる。

「6階……いや、その復活した魔物には私も用がある。
 ……だが……この冒険者達を治す間はこの階から動けない」

おそらく『闇の欠片』を回収するつもりなのだろう。だが言いたいのはそれだけでは無かった。
気がつけば無言でダヤンが所持しているダガーの一本をなぜか握っている。
そしてダガーが光を纏ったかと思うと緩やかに刃に収束していく。

「私の『浄化の力』を込めておいた。
 一時的な効力だがしばらく魔物やアンデッドに対して特効を得られる」

ダガーをダヤンに返し、アスクレピオスは後ろを振り向いて他の冒険者の元へ歩いていく。
浄化の力。聖剣などが持つ聖なる力だ。表現を変えれば一時的に聖属性のダガーになったということか。
聖剣ほどの効力ではないだろうが護身用には使える。これからの戦いを心配してくれたのだろうか。

するとエールははっと気づいた。ここで倒れている冒険者協会の人達を運び出した方が良いことに。
ネクログラードには診療所がない。代わりに教会が建っていてそこの僧侶が怪我人の面倒を見ていたはず。

「ダヤン、町で人を集めて怪我してる人達を運ぼう!ここじゃあ治療できないよ!」

エールはそう言ってたたたっと出口目指して走り出した。
アスクレピオスに色々なことを聞きたい気もしたが今は怪我人の治療が最優先だ。


【スケルトンキング消滅。闇の欠片に縛られていた恋人の魂も解放される】
【アスクレピオスが『闇の欠片』を回収して冒険者協会の人達の治療を開始】
【重傷で動けないサイフォス達に代わって6階の人達を助けてほしいと頼まれる】
0534エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/10/25(月) 00:46:23.16ID:Oft1/VE/
>>528
【聴いてくれたのっ!?ありがとう!まぁ遊戯王観てて知った曲なんだけどね……えへへ】
【1番の歌詞がエールがダヤンと出会って目標目指して冒険を続けていく感じに聴こえちゃって……】
【私も話の全体像はふわっとしてるけど……これからもよろしくね!えへへ!】
0535エール
垢版 |
2021/10/27(水) 19:48:03.25ID:uumbpMDw
【あ……サイフォスさんがちゃんと見てたよって言ってたけどあの人気絶してた……】
【えーとえーと……ちょうどダヤンがかっこよく闇の欠片を弾き飛ばしてる辺りから起きてたってことにしてて!お願いします!】
0536ダヤン
垢版 |
2021/10/29(金) 00:52:51.36ID:DHKMGxne
>534
【ガール・ミーツ・キャットにゃね! こちらこそこれからもよろしくにゃ!】
>535
【了解にゃ、全然問題ないにゃ! “かっこよく”!? 照れちゃうにゃー!】
【明日(今日?)の夜には投下できそうにゃ】
0537ダヤン
垢版 |
2021/10/30(土) 03:55:13.08ID:mYOSejhx
>「うっ、うぉぉぉぉ…………貴様ぁ……使い魔ぁぁぁぁ……!?」

瘴気の腕の衝撃は来ず――代わりに聞こえてきたのはスケルトンキングの呻き声だった。
飛び出した黒猫が、最後の欠片を弾き飛ばしてくれたようだ。

>「こ……こんな馬鹿なことがあっていいのか……。
 アンデッドを増やして……増やして……増やす……それがもう果たせない……!」

>「ダヤン!使い魔さんも……大丈夫!?」

「使い魔にゃんのお陰でオイラは大丈夫にゃけど……」

武器を介したダヤンはともかく、使い魔の猫は、闇の欠片を素手で触ったのだろう。
悪い影響がなければいいのだが……。
などと思っていると、一同は温かな光に包まれていく。光はやがて人の形を成した。

>「彼と猫ちゃんなら大丈夫……心配いらないよ……」

「あなたは……!?」

>「アンドレイ……なの……?」

さっきまでのスケルトンキングとは似ても似つかない、端正な顔立ちの好青年だ。
もちろん見た目だけではなく、滲み出るオーラが全く違う。
これが、アンドレイの本来の姿なのだろう。

>「アクリーナ……君を置いて旅に出てすまなかった。
 君を危険な目に遭わせたく無かったんだ……それに必ず戻るつもりだった……」

>「そうよ……なんで……なんで私を置いていったの?
 私……寂しかった。ずっと貴方に会いたかった……」

アンドレイが無限迷宮に挑んだのは、友人の捜索を頼まれたためのようだ。
悲しいことだが、このように知人の捜索のために無限迷宮に入って
ミイラ取りがミイラになってしまう例は、後を絶たない。

>「だからといって彼らを責めないであげてほしい。アクリーナ……勝手かもしれないけれど。
 ……これからは前を向いて。僕のことを忘れてもいい。君の幸せのために……生きるんだ……」
>「僕はずっと見守っているから。遠い遠いところで……ずっと……」

アンドレイの姿は徐々に薄れていき、光の粒となって消えてしまった。
それを見届けたアクリーナは、涙を流しながらも穏やかな顔をしていた。
もうすっかり正気に戻っているのだろう。
そんな彼女をしばらくそっと見守っていると――

>「……愛の力だな」

「あ、アスクレピオスにゃん……!」

突然、アスクレピオスが現れる。毎度のごとく神出鬼没である。
さっきはアクリーナとの交渉のためにとっさに彼の名前を出したが、
ご本人登場でなんだか本当っぽくなった。

>「君の死霊術と愛の力が合わさった奇跡だと私は解釈する。
 魔法とは必ずしも理論化されておらず、魔法使い達の感覚によるところも大きい」
>「魔力を源にして森羅万象を引き起こす力……その深奥は深く、限界もない。
 ……君の話を思い出してここに来た。これからどうする。死者蘇生の研究を続けるのか」
0538ダヤン
垢版 |
2021/10/30(土) 03:57:58.30ID:mYOSejhx
>「……嘘じゃなかったの。……私……これからも研究を続けるわ。
 ただ……それは死者蘇生の方法じゃない。死者の声を正しく届けるための研究をする。
 この階に来る人は皆、死の悲しみを断ち切れない人ばかり……私のようにね」
>「でも私はもう大丈夫。冥界から引きずり出さなくても、アンドレイは私を見守ってくれる。
 だから悲しみを癒す手伝いをしてあげたいの。もう『闇の欠片』にも頼らない。
 私の死霊術ならそれが出来る……そんな気がするから……」

「アクリーナにゃん……」

>「……今まで……ごめんなさい。言い訳はしない。私はあなたを軽く見てた。
 でも……もしも。もしも許してくれるなら……私の研究を手伝ってくれる?
 私、研究に没頭すると外出しないもの……あなたの力が必要だわ」

アクリーナは使い魔の黒猫に許しを乞い、黒猫はもちろんというようにアクリーナにすり寄る。
闇の欠片を回収するアスクレピオスは――

(にゃにゃ!? 今一瞬笑った……!?)

今まで表情一つ動かさなかった人がほんの少しでも微笑むと、印象に残るものである。
続いて、アスクレピオスはサイフォス達の治療にあたる。
アスクレピオスが来なかったらどうなっていたか分からない重傷だが、
幸い彼の治癒魔法なら1週間程度で治るようだ。
しかし、サイフォス達は先を急いでいるようで。

>「……わりぃ……こいつは泣き落としだ。約束を先延ばしさせてくれ。
 二人とも9階へ行く前にポータルストーンで6階に行っちゃくれねぇか……?」

「6階!? にゃにがあるんだにゃ……?」

>「今……6階の拠点は魔物の襲撃を何度も受けてる。
 理由は分からんが……過去に熾天使のカノンが倒した魔物のボスが復活したらしい。
 お礼参りのつもりらしいがしつこくて犠牲者が多数出てる。俺達はすぐに加勢に行かなきゃならない」

「そんにゃあ!?」

力になりたいのは山々だが、ベテラン冒険者集団の代わりに二人がいったところで大して役に立つとは思えない。
エールも似たようなことを思ったようで。

>「あの……協会所属の他の冒険者を派遣することはできないんですか?」

>「そうしたいところだが……そいつには時間が要る。それに復活したボスは『闇の欠片』を5個所持してるそうだ……。
 俺達は3個持ってるスケルトンキング風情にこのザマだぜ……信頼できる奴を送り込まなきゃ意味がない。
 お嬢ちゃんとダヤンの戦い……ちゃんと見てたよ……あれだけ出来ればもう一人前さ」

「オイラ達だけじゃ無理だったにゃ。
サイフォスにゃん達が身を呈して守ってくれたからにゃ……」

>「無理を承知で……頼む。二人の力を6階の連中に貸してやってくれねぇか……?」

二人を庇って重傷を負った者の頼みを、無碍にするわけにはいかない。
そして、今6階で起きている騒動はエールの姉が以前倒した魔物のお礼参りときた。
0539ダヤン
垢版 |
2021/10/30(土) 03:59:37.97ID:mYOSejhx
>「もちろんです。私に出来ることなんて限られてるけど……頑張ってみます」

「オイラ達に任せて、早く怪我を治してにゃ……!」

>「6階……いや、その復活した魔物には私も用がある。
 ……だが……この冒険者達を治す間はこの階から動けない」

いつの間にやら、ダガーの1本がアスクレピオスの手の中にある。

「いつの間に!?」

もちろん、かすめ取られた覚えはない。物体を瞬間移動させる魔法でも使ったのだろうか。
ダヤンが驚いている間に、アスクレピオスはダガーに付与魔法のようなものをかける。

>「私の『浄化の力』を込めておいた。
 一時的な効力だがしばらく魔物やアンデッドに対して特効を得られる」

「あ、ありがとにゃ……!」

アスクレピオスはダガーをダヤンに返すと、他の冒険者たちを診始める。

>「ダヤン、町で人を集めて怪我してる人達を運ぼう!ここじゃあ治療できないよ!」

「にゃん!」

エールの後を追いかけようとして、いったん立ち止まってアクリーナを振り返る。

「ここには死者達の無念から生まれた恐ろしいモンスターが巣くってて、
アクリーナにゃんはそれを抑えようとしていたんだにゃ。そういうことにするにゃ。
アクリーナにゃんはこれからみんなの哀しみを癒していくんにゃから……」

応援を読んでくる際には必然的に、怪我人がたくさん出た経緯を話すことになるが、
全てを正直に言ってはアクリーナは危険人物として即刻監獄送りになりかねない。
死者蘇生の研究を辞めるなら監獄送りにはしないというのが、当初からの冒険者協会の決定だ。
大怪我を負ってしまったサイフォス達だが、幸いアスクレピオスの登場により全員完治が見込める。
当初の決定のとおり、彼らもまた、正気を取り戻したアクリーナが監獄送りになるのは望まないだろう。
ダヤンは再び踵を返し、エールの後を追いかけた。

そして、エール達が呼んだ応援によって冒険者達は教会に運び込まれ、
アスクレピオスはそこで暫く治療にあたることになった。
アクリーナは彼の計らいで、研究場所として教会の一室をあてがってもらえることになったようだ。
尚、すぐにブーストハーブの反動がきてヘロヘロになるかと思われていたが、何故かそうならなかった。
『彼と猫ちゃんなら大丈夫』と言っていた、アンドレイの光の効果なのかもしれない。
なので、二人は先を急ぐことになった。
サイフォスの口ぶりから、6階の事態は一刻を争うと思われるのだ。

「お世話になりましたにゃ。6階の皆の役に立てるよう頑張ってくるにゃ……!」

アスクレピオス達が見守る中、ポータルストーンの効果が発動し、エールとダヤンの姿がその場から消える。
二人はポータルに飛び込んだ時と同じような感覚に包まれた。
0540エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/10/31(日) 01:07:39.48ID:r3LNuOzs
町の外へ出て教会へ行くと事情を話して町の人達を集めてもらう。
モタついている暇はないので説明はある程度端折った。ちょっと上手く言ったのだ。

女死霊術師が抑えていたアンデッドが暴れ出し、地下墓地に踏み入った多数の冒険者が負傷したのだと。
実際、最初アクリーナは被害を恐れて人を近づけまいとしていたのだから嘘は言っていない。
そして担架を持って地下墓地へ行くと、アスクレピオスが外で待っていた。

「応急処置は済んでいる……全員命に別状はない。瘴気による汚染の心配もないのでそのまま入って構わない。
 これから本格的な治療のため教会を借りさせてもらう。彼らの腐り落ちた人体を完全に再生させたい」

これもアンドレイの魂が発した温かな光の力か。
高濃度の瘴気は時として感染症など様々な悪影響を及ぼすのだが、その心配はないようだ。
エールは担架を持って人を運ぶのを手伝う。教会までは少し距離があった。

「ああは言ったけど……別に構わないのに。虫が良いのは理解してるわ」

教会の前でアクリーナはばつが悪そうに言った。
死者蘇生の研究によって地下から漏れ出した瘴気がこの階のアンデッドを強化し迷惑を掛けたこと。
自身が作り上げた怪物、スケルトンキングが冒険者協会の人達を傷つけてしまったこと。
そして自身も『闇の欠片』の精神汚染でスケルトンキングに与したこと。

その全てが許されることではない。
確かにサイフォスは死者蘇生の研究さえ辞めればお咎めなしだと言ってくれていた。
だが人の目というのは厳しい。全てが明るみに出た時、他の人達から非難されないとは限らない。
その意見が膨らめば何らかの罰を受けさせたりこの階から追放すべきだと動く者もいるだろう。

この迷宮には明確な『法律』がない。
国を築く者もいるが、おおよそは流浪の民や冒険者が集まってできた拠点があるだけ。
秩序を守る手段は人々の意見と良識のみ。だから非難が集中する状況は非常にまずい。
この無限迷宮で行われる処罰が公正であるかなど誰にも分からない。ならば丸く収めた方がいい。

「……君はこれから教会で暮らせ。墓地は死者が眠る場所であって生者が住む所ではない」

アスクレピオスは数瞬の時を置いてアクリーナにそう告げた。
教会の僧侶が言っていたのだ。地下墓地で病的な研究を続ける彼女の噂を聞いて心配していたと。
何かしてあげられることはないかと話していて、アスクレピオスはただ部屋を貸してあげればいいと言っただけだ。
そしてアクリーナはますます申し訳なさそうに縮こまった。

「死霊術師の寝床なんて墓地でいいのに……。なぜそこまでしてくれるの?」

その問いに対してしばらくの沈黙を保っていた。
やがて顔の右半分を覆う仮面に触れると静かに外す。
――アクリーナは驚いたが、咄嗟に隠していた顔を見せてくれた意味を考えた。

きっと何か自分に伝えたいことがあったのだ、と。自分はそれを受け止めなければならない。
死霊術師柄、時に惨い亡骸を見かけることがあって良かったと思った。
その耐性が無ければきっと目を背けるくらいはしていただろう。

「……君はこれから生者と死者の仲立ちをする。それには生きている人達との交流が不可欠だ。
 誰かの助けになりたいと願うなら決して孤立するな。全ては他者の理解なくして始まりはしないのだから」

不気味な地下墓地にいたままでは5階の人達とは打ち解けられない。
たとえ研究が完成してもアクリーナ自身が敬遠される存在では悲しみに寄り添うことなどできない。
それでは意味がないのだ。仮面をつけ直すと、冒険者協会の人達を運び終えたエール達がやってくる。
0541エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/10/31(日) 01:25:36.94ID:r3LNuOzs
視線を手に移せばサイフォスから借りたポータルストーンを握りしめている。
これからいよいよ6階へと行く気なのだろう。エールはアスクレピオスに色々質問したかった。
なぜ『闇の欠片』を集めているのか、とか。七賢者とは何なのか、とか。単純なことばかりではあるが。

特に七賢者というワード。かつて1階で倒したゴブリンキングも口にしていた。七賢者から『闇の欠片』を貰ったと。
アクリーナもはっきり言っていた。七賢者は『闇の欠片』を回収するだけではなく配りもしている……。
この迷宮に、混乱と悲しみを振り撒いている可能性がある。

それとどう向き合えばいいか……人を救おうとしている彼に今、聞いていいのか。迷った。
結局のところエールは心の中で握り潰したが、意外なことに質問をぶつけてきたのはアスクレピオスの方だった。

「……一つ聞きたいのだが」

「……なんですか?」

「君達は何か目的があって9階を目指しているんじゃないか。なのになぜ寄り道をする。
 『闇の欠片』にも関わるなと忠告したはずだ。なぜ……無関係なことに顔を突っ込むんだ」

1階と2階では依頼を通して偶然遭遇しただけで、当初はあくまで無関係というスタンスだった。
だが4階では自分から関わってしまったし、この5階でも一度撤退こそしたが決して逃げる気はなかった。
『闇の欠片』が原因で困ってる人達とたびたび関わってしまう理由。助けたいと思う根源の理由とはなにか。

「私……お姉ちゃんを探して無限迷宮に来たんです。お姉ちゃんは誰かに手を差し伸べられる人でした。
 だから私もそうでありたい……のかも。私が誰かの助けになれているのか分からないけれど……」

「……そうか。無用な質問をしてすまなかった。だが無理はしない方が良い。
 私も人を探している。見つかるといいな、君のお姉さん」

「……お姉ちゃんはカノンって言うんです。アスクレピオスさんも……見つかるといいですね」

エールが不意に姉の名を口にした途端、アスクレピオスは怪訝な顔をした。
だがこの場でそのことを深く話す暇はなかった。話したところで彼女達は6階へ行かねばならない。

>「お世話になりましたにゃ。6階の皆の役に立てるよう頑張ってくるにゃ……!」

「それじゃあ行ってきます!アスクレピオスさん……皆さんをよろしくお願いします」

ポータルストーンが起動して足元に見慣れた転移の魔法陣が浮かぶ。
待ち受けているのは魔物がはびこる6階。二人は次なるステージへと足を踏み入れる。


――――――…………。

身体がふわっと浮いたかと思うと目の前の景色が一瞬で変わり、緩やかに地面に着地する。
ポータルストーンになってもこの感覚は変わらない。周囲を見渡せば民家が目立つ。
どうやら6階の拠点の中にいるようだ。変な場所に転移しなくてよかった。

「あ、貴方がたは……!冒険者協会の人達ですわん!?」

転移の瞬間を見ていたのか、恐れおののいた様子で幼い獣人の少年が路地から飛び出してくる。
頭から垂れ下がった大きな耳に、くりくりの大きな瞳。つんと立った鼻。犬種の獣人だ。
キャソックを身に纏っていて小さな手で聖書を握りしめている。まるで神父である。

「あ……その……冒険者協会の代わりに来た、銃士のエールです」

「そ、そうでしたか!失礼しましたっ!こちらへどうぞ!案内致しますわん!」

幼き犬の獣人は慌てた様子で頭を下げた。
二人を連れて、尻尾を激しく左右に振りつつ町中を駆けていく。
0542エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/10/31(日) 01:28:19.99ID:r3LNuOzs
――6階。砂漠エリアの拠点、砂の町サンドローズ。
果てなき熱砂の癒しオアシスに咲いた一輪の薔薇である。

その一角にある酒場に案内され入っていくと、中には冒険者達が滞在していた。
皆、どこか殺気立っており何かが来るのを常に警戒している様子だ。
その証拠に誰もが手元に武器を持ったまま、いつでも戦える状態でいる。

「隊長っ、冒険者協会より加勢に参じてくれた二人をお連れしましたわん!」

尻尾をぱたぱた振りながら犬の少年が高らかにそう報告する。
すると窓際の席に座っていた一人の獣人が立ち上がった。
20歳くらいの狐の獣人だ。白い軍服風の装いで腰にはサーベルを帯びている。

「案内ご苦労。まぁこちらへ掛けたまえ」

狐の獣人は着席を促すと、エールは頭を下げて椅子に座る。
何も頼んでもないのに店員が席にやって来て飲み物を三つ置いてくれた。
ガラスのコップの中にはキンキンに冷えた氷に紅茶が香っている。
アイスティーだ。コップの中でカラン、と氷が鳴った。

「私は冒険者ギルド『砂漠の狐』のギルドマスター、ロンメルだ。協力感謝する」

『砂漠の狐』は外の世界から財宝発掘の夢を追ってやってきた冒険者の集団だ。
主にこの6階を中心に活動しており、冒険者協会の傘下にも入っている。
もちろん拠点であるサンドローズの維持も彼らの仕事だ。
元軍人のロンメルは同じギルドの冒険者からは隊長と呼び親しまれている。

「私は銃士のエールです。よろしくお願いします」

「うむ。来るのはサイフォスだと思っていたが、何かあったのかな」

ロンメルの鋭い嗅覚にエールは「それが……」と切り出す。
5階で依頼をこなしていたところ魔物相手に重傷を負いしばらく動けなくなった。
代わりに頼まれてやって来たのが自分と仲間のダヤンなのだと。

「詳細は分かったよ。彼が信用したのだから私も信用するとしよう。
 話は聞いているだろうがこの拠点は連日魔物の群れに襲撃されていてね……。
 猫の手も借りたい状況なのだよ。不幸中の幸いと言うべきか、死者は出ていないがね……」

5階の拠点、ネクログラードには結界が張られていたがここにはない。その意味がないからだ。
襲ってくる主な魔物はマミーで、つまりアンデッドである。その不死性を活かして延々と襲ってくる。
怪我人が続出しておりそれを率いる魔物のボスもまたアンデッドなのだと説明を受ける。
0543エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/10/31(日) 01:31:12.26ID:r3LNuOzs
ロンメルは肘を机に乗せて手を組む。

「マミーを率いる"やつ"は高位のアンデッドでね。
 スケルトンなどのように粉々にして破壊したり火で焼いても死なない。
 『死』という概念自体が無いんだ。どれだけ倒しても復活する……厄介な奴さ」

今は『闇の欠片』を5個所持しているから、そもそも倒すのが困難なのだがとも言った。
ただ一度倒しさえすれば復活を阻止する方法もあるのだとも話す。

「さっき君達を案内した子がいただろう?グデーリアンというんだが。
 彼は見習いの僧侶で、倒すことができればエクソシズムってヤツで成仏させられる」

「は、はい!頑張りますわん!」

ガタガタッと物音がしたかと思うと再び犬獣人の少年が酒場に入ってくる。
外から聞き耳を立てていたらしい。用が済むとスタタッと素早く酒場の扉を出ていく。
扉に備えつけてある鈴の音をチリンチリンと取り残して。

魔物のボスは高位のアンデッドゆえにそんじょそこらの僧侶の力では昇天させられない。
他のアンデッドにも言えるが、生への未練から魂が天に召されることを酷く拒絶するのだ。
そこで一度倒して物質世界との繋がりを弱め、その隙に聖なる力で強制的にあの世に帰ってもらう寸法だ。

グデーリアンはその僧侶としての能力でマミーの退治や怪我人の治癒にも貢献してくれているという。
まだ12歳という若さだが『砂漠の狐』に欠かせない仲間だとロンメルは言った。

「……その……マミーを率いている魔物を倒す方法なんですが……。
 私が考えた作戦で何とか倒せないでしょうか……?」

「うむ?詳しく聞かせてくれたまえ」

サイフォスから頼まれた時点で、エールも考えなしに承諾したわけではない。
『闇の欠片』5個ぐらいなら『ハイペリオンバスター』で理論上は倒せるはずなのだ。
ただし、エール一人の魔力で倒すだけの威力は出せない。それこそ10人、20人集める必要がある。

そう。2階の時のように冒険者みんなの魔力を集めて『ハイペリオンバスター』を撃つのだ。
それこそがエールの作戦だ。ただこれはあまりに大掛かりで、準備中隙だらけだ。
魔力の充填にも時間がかかる。2階で実行した時は失敗してしまった。
5階では提案する暇も無く冒険者協会の面々が全滅した。

「ど、どうでしょうか……?」

「なるほど。大掛かりなのは考え物だね。あまりに目立つから待ち伏せることも難しい。
 奴も必ずここに顔を出す訳ではないし……正直おびき出せるかも分からん」

だが、とロンメルは不敵に笑った。

「……いっそこちらから仕掛けてみるか。動ける冒険者でかつ魔力を有する者がギルドに20人はいる。
 皆であいつの寝床まで乗り込んで荷電粒子砲をぶち込むんだ。もう一度成仏してもらおうじゃないか」

マミーを率いる魔物のボスは普段、町の外にある一番大きなピラミッドにいるという。
問題は20人で乗り込めばサンドローズの防備が手薄になるざるを得ない点。
つまりこれは失敗すれば拠点が壊滅しかねない起死回生の大勝負。
0544エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/10/31(日) 01:33:08.13ID:r3LNuOzs
エールも正直そこまで考えていなかったので、大丈夫なのかと心配し始める。
するとロンメルは爽やかに笑って「作戦の立案者なら自信を持つことだ」と言った。

「今のはちょっとした思いつきだよ。具体的な作戦はちゃんと皆で考えよう。
 ……だが、現状の戦力で奴を倒すには君の魔導砲に頼るのが一番かもしれないな」

話が一段落してエールはほっとすると途端にとても暑いことに気づいた。
ここは砂漠だ。気候も乾燥していて非常に暑い……温度計は40度をオーバーしている。
エールは寒い寒い北方大陸の出身だ。よって寒冷地には慣れているが暑さはてんでダメなのだ。
着ている銃士の隊服も長袖かつ分厚いので汗ばむ。だが隊服を脱ぐのは乙女の恥じらいが拒否する。

下には黒のタンクトップを着ているがそんな大胆な真似できるわけがない。
エールはさり気なくハンカチで汗を拭うと結露したアイスティーを一気に飲み干した。
少しだけ暑さが和らぐと、ロンメルが飲み干した分のおかわりを頼みながらこう話す。

「……流石はカノン君の妹だね。この戦いに希望が見えたよ」

「あの……私のお姉ちゃんがカノンだって、何で……」

「顔を見ればすぐに判るよ。君には面影がある」

すると再びグデーリアンがガタガタッと物音を立てて酒場に入ってきた。
外から聞き耳を立てていたわけではない。血相を変えてぜぇぜぇと息を切らしている。

「た、隊長っ!敵襲です!町にマミーが現れましたですわん!!」

がたがたっと酒場の冒険者達が一斉に立ち上がった。
ロンメルもまた動揺することなく席を離れて皆に命令を飛ばす。

「出撃するぞ!各員は必ず小隊を組んで退治にあたれ!
 火は持ったか!?マミーには有効だ、隙があれば燃やしてしまえ!」

『砂漠の狐』の冒険者達が駆け足で酒場を飛び出していく。
エールはその様子を故郷で銃士として軍属をしていた頃を思い出した。
懐かしい……良い思い出はひとつもないけど。

かつて所属していた部隊の隊長は怖いしすぐ怒鳴るし、人の命を軽く見ている節があった。
だがロンメルという人物は信頼できる人の気がした。元軍人っぽいのに人柄が優しい。
――この人になら命を預けられる!直感的にそう思った。

「た、隊長ぉ!私達は如何すればよろしいでしょうか!?」

ひしっとロンメルの背後にひっついてエールは命令を待った。
グデーリアンが隊長と呼ぶのでついつい自分もそう呼んでしまった。

「うむ、君達二人には広場に現れるマミーを任せる!
 広場にはオベリスクという石柱が建っているからすぐ分かるだろう」
0545エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/10/31(日) 01:34:45.32ID:r3LNuOzs
『砂漠の狐』の冒険者達は組織だって行動している。
三人程度で小隊を組み、それぞれ割り振られた担当地区へと即座に向かう。
拠点はここ連日ずっと魔物に襲われているので、非戦闘員はうろついていない。
ロンメルもまた自分の担当する場所へと歩きながら振り返って二人を一瞥する。

「民家を襲うマミーは優先的に倒すこと!ただし自分の命を守るのも忘れるな!
 マミーを率いている魔物が現れたら深追いせず撤退したまえ!見た目は黄金の棺だ、一目で分かる!
 それと……なるべく『ハイペリオンバスター』の使用は控えてほしい。奴らに作戦を悟られたくないからね」

「はいっ!了解です!」

ロンメルと別れるとエールは背負っていた魔導砲を構えて路地を突っ走る。
サンドローズの地理は分からないが、民家の屋根の上にちらちらと見える石柱を目指せばいい。
そして広場に到着すると、ざざざっと砂埃を巻き上げながら停止して周囲を見渡す。

魔物はいない。一体どこから襲ってくるのか。
ふと足元が気になる。広場は舗装されているがところどころ捲れていた。
砂地の露出している箇所がいくつもあるのだ。なぜだ。

じっと警戒していると突然舗装されている地面がぼこっと膨れ上がった。
次に砂を噴水みたいに飛び散らせて腕が現れた。身体を乗り出し、地面から這い出てくる。
現れたのは全身を包帯で巻いた魔物。アンデッドのマミーだ。この拠点に結界のない理由が分かった。
結界は地上に張るものだから、下から現れる魔物には意味がないのだ。

「オオッ……ヨウヤク到着シタ〜……」

「イツモ遠イヨネ……早ク人間ヲ襲ワナイトネ……」

「ヤベッ……ピラミッドデ出勤ノタイムカード切ルノ忘レテタ……」

しかも喋る。5階で遭遇したスケルトンやゴーストはそんな能力なかった。
階が1つ上がったぶんだけ魔物も強くなっているということか。

マミー達は続々と下から現れる。瞬く間に十数匹程度がうろうろと広場を彷徨う。
エールとダヤンは眼中にない。不死だからだ。やれるもんならやってみろということだろう。
構わず民家を襲うため散っていこうとする。それが冒険者の嫌がる行動だと知っている。
拠点を守るための戦いの幕はとっくに上がっているのだ。


【舞台は6階の砂漠エリアに移ります】
【ギルド『砂漠の狐』のロンメルから説明を受けて戦闘に突入する】
0546エール ◆s8TYYiQqnQ
垢版 |
2021/11/02(火) 23:27:02.08ID:yddZBxMJ
>>540
【×町の外へ出て教会へ行くと 〇地下墓地の外へ出て教会へ行くと でした。失礼しました】
0547ダヤン
垢版 |
2021/11/05(金) 23:02:34.68ID:lD8+0N2t
>「それじゃあ行ってきます!アスクレピオスさん……皆さんをよろしくお願いします」

転移中の束の間の間、ダヤンは先ほどアスクレピオスがアクリーナに素顔を見せた時のことを思い出していた。
ダヤン達からは素顔は見えなかったが、それを見たアクリーナは一瞬驚いているように見えた。
ということは、単なる趣味等ではなく、意味があって――
おそらく、何かを隠すために仮面を付けているということだろう。
傷を隠しているのだとしたら余程酷いか、あるいは普通は無い異様な何かがあるのかは分からないが……
そんなことを思っている間に、周囲の風景が変わり、地面に着地する。

>「あ、貴方がたは……!冒険者協会の人達ですわん!?」

現れたのは、犬種の獣人の少年。
ダヤンと同じぐらいの背格好だが、神父のような服装をしている。
ところで、獣人族には種によって特徴的な訛りがある。
それは特に語尾に強く表れ、猫種なら「にゃ」犬種なら「わん」が代表的だ。

>「あ……その……冒険者協会の代わりに来た、銃士のエールです」

>「そ、そうでしたか!失礼しましたっ!こちらへどうぞ!案内致しますわん!」

「よろしくお願いしますにゃん」

二人は、冒険者達が滞在してる酒場に案内された。

>「隊長っ、冒険者協会より加勢に参じてくれた二人をお連れしましたわん!」

隊長と呼ばれたのは、まだ年若く見える狐の獣人だ。

>「案内ご苦労。まぁこちらへ掛けたまえ」

狐種の特徴的な語尾は「こん」だが、彼は標準語を習得しているのだと思われる。
同じ田舎出身でも、方言丸出しの者とそうでない者がいるのと似たようなものだろう。
席に着くと、店員がアイスティーを持ってきてくれた。

>「私は冒険者ギルド『砂漠の狐』のギルドマスター、ロンメルだ。協力感謝する」

(ギルドマスター!? 若いのに凄いにゃ〜)

若いといってもダヤンよりはかなり年上なのだが、
ギルドマスターといえばおっさんというイメージがあったのだ。

>「私は銃士のエールです。よろしくお願いします」

「オイラはダヤン。冒険者としてのクラスは一応スカウトにゃ。よろしくお願いしますにゃん」

>「うむ。来るのはサイフォスだと思っていたが、何かあったのかな」

>「それが……」

ベテラン冒険者集団の代わりに来たのが駆け出し2人ではどう思われるだろうか、
と一瞬心配になったが……
0548ダヤン
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2021/11/05(金) 23:03:53.83ID:lD8+0N2t
>「詳細は分かったよ。彼が信用したのだから私も信用するとしよう。
 話は聞いているだろうがこの拠点は連日魔物の群れに襲撃されていてね……。
 猫の手も借りたい状況なのだよ。不幸中の幸いと言うべきか、死者は出ていないがね……」

「猫の手ならあります! 頑張りますにゃ!」

この”猫の手も借りたい”は単なる慣用句だと思われるが、
何にせよ猫の手を借りたいと言われて気合が入るダヤンであった。

>「マミーを率いる"やつ"は高位のアンデッドでね。
 スケルトンなどのように粉々にして破壊したり火で焼いても死なない。
 『死』という概念自体が無いんだ。どれだけ倒しても復活する……厄介な奴さ」

>「さっき君達を案内した子がいただろう?グデーリアンというんだが。
 彼は見習いの僧侶で、倒すことができればエクソシズムってヤツで成仏させられる」

>「は、はい!頑張りますわん!」

「へぇ〜、君って凄いんにゃね……! あ、行っちゃった……」

グデーリアンというらしいワンコ少年は、入ってきたと思ったらすぐに出て行った。
まるでちょこまかした小型犬のようだ。

>「……その……マミーを率いている魔物を倒す方法なんですが……。
 私が考えた作戦で何とか倒せないでしょうか……?」

>「うむ?詳しく聞かせてくれたまえ」

エールが考えた作戦は、人をたくさん集めてハイペリオンバスターを撃つというものだった。
ハイペリオンバスターはたくさん魔力を集めれば集めるほど強くなるらしく、
上限があるのかは分からないが、少なくとも10人分や20人分の魔力は集められるようだ。

>「ど、どうでしょうか……?」

>「なるほど。大掛かりなのは考え物だね。あまりに目立つから待ち伏せることも難しい。
 奴も必ずここに顔を出す訳ではないし……正直おびき出せるかも分からん」

>「……いっそこちらから仕掛けてみるか。動ける冒険者でかつ魔力を有する者がギルドに20人はいる。
 皆であいつの寝床まで乗り込んで荷電粒子砲をぶち込むんだ。もう一度成仏してもらおうじゃないか」

「にゃんと大胆な……!」

>「今のはちょっとした思いつきだよ。具体的な作戦はちゃんと皆で考えよう。
 ……だが、現状の戦力で奴を倒すには君の魔導砲に頼るのが一番かもしれないな」

「作戦の要だって!? すごいにゃね、エール……!
……この階は熱いにゃね……」

ダヤンは猫なので熱いのも寒いのも苦手だ。
そういえばエールは、この階には暑そうな服を着ている。
隊服は戦うための服なので、防御力の観点でいくと、
長袖である程度の分厚さがあるのは当たり前といえば当たり前なのだが。
軽装且つ防御力が高いという装備もなくはないが、
必然的に魔力が付与されているマジックアイテムとなるのでどうしてもお高くついてしまう。
0549ダヤン
垢版 |
2021/11/05(金) 23:05:06.57ID:lD8+0N2t
>「……流石はカノン君の妹だね。この戦いに希望が見えたよ」

>「あの……私のお姉ちゃんがカノンだって、何で……」

>「顔を見ればすぐに判るよ。君には面影がある」

「エールとお姉ちゃんは似てるんにゃね……!」

と、少しほっこりした会話を繰り広げていたが、グデーリアンが息を切らしながら入ってきた。

>「た、隊長っ!敵襲です!町にマミーが現れましたですわん!!」

>「出撃するぞ!各員は必ず小隊を組んで退治にあたれ!
 火は持ったか!?マミーには有効だ、隙があれば燃やしてしまえ!」

冒険者達は一瞬にして戦闘態勢になり、出撃していく。

>「た、隊長ぉ!私達は如何すればよろしいでしょうか!?」

>「うむ、君達二人には広場に現れるマミーを任せる!
 広場にはオベリスクという石柱が建っているからすぐ分かるだろう」

遠くからでも見える石柱を目指して駆ける。

>「民家を襲うマミーは優先的に倒すこと!ただし自分の命を守るのも忘れるな!
 マミーを率いている魔物が現れたら深追いせず撤退したまえ!見た目は黄金の棺だ、一目で分かる!
 それと……なるべく『ハイペリオンバスター』の使用は控えてほしい。奴らに作戦を悟られたくないからね」

「了解ですにゃ!」

広場に到着する。
特に変わったことはなさそうだ……と思いきや、不自然に舗装が捲れているところがある。
と思っていたら、突然地面が膨れ上がり、腕が出てきた!

「ぎにゃあああああああ!?」

現れたのは全身包帯ぐるぐる巻きアンデッド、つまりマミーだ。
0550ダヤン
垢版 |
2021/11/05(金) 23:07:14.93ID:lD8+0N2t
>「オオッ……ヨウヤク到着シタ〜……」

>「イツモ遠イヨネ……早ク人間ヲ襲ワナイトネ……」

>「ヤベッ……ピラミッドデ出勤ノタイムカード切ルノ忘レテタ……」

(喋った……!? しかも出勤制!? こいつら仕事で人襲ってるのにゃ……!?)

アンデッドといえば大した知性も残っておらず、本能や生前の執着に従って人を襲う、
というイメージだったが、このマミーたちはそうではなさそうだ。
情報量が多すぎて暫し混乱するダヤン。
マミーは雨後のたけのこのごとく現れ、瞬く間に十数匹程度が広場をうろつく地獄絵図となった。
意外なことに、エールやダヤンはスルーして、さっさと散っていこうとする。
ダヤンは思わずツッコんだ。

「襲わないのにゃ!?」

「コッチハ忙シインダカラ……オ前ラノ相手シテのるま達成出来ナクナッタラ困ルノダ」

これも、単に目の前にいる生物に反応して襲い掛かる等というわけではなく、戦略的に行動しているからなのだろう。
もちろん、このまま民家を襲いに行かせるわけにはいかない。
アスクレピオスに強化してもらったダガーの威力を試すときがきたようだ。

「聞いて驚け、今このダガーにはアンデッド特攻の魔力がかかってるにゃ。
切り捨て御免にゃ!」

「ナニ!?」

意気揚々と切りかかるダヤン。――が、ダガーは表面の包帯を薄く削いだだけで、何も起こらない。

「あれ」「アレ」

一瞬の微妙な空気の後。

「ギャハハハハハ! 間抜ケメェ! 死ネェ! ……イテッ」

マミーは体当たりを仕掛けようと突進してきて……途中でこけた。
実は、先刻のダヤンの攻撃で包帯が一か所切れてぴろっとほどけており、それを自分で踏んで転んだのだ。
0551ダヤン
垢版 |
2021/11/05(金) 23:08:46.55ID:lD8+0N2t
「隙ありっ!」

ダヤンはすかさず包帯の端を掴み、思いっきり引っ張った。

「えいにゃああああああああ! 丸裸にしてやるにゃあああああ!」

「ゴ無体ナアアアアアアアアア!!」

包帯が面白いようにほどけていく。
普通はぐるぐる巻きになっているものを引っ張ってもそんなに簡単にはほどけないが、
これもアンデッド特攻の強化がされたダガーで切りつけた効果なのかもしれない。
格好よく表現すれば存在に出来た綻びが包帯の綻びとして表れている、とか……。
ついに包帯が全部ほどけ……

「何もいないにゃ!? マミーに中の人はいないんだにゃ?」

包帯の中にはゾンビのようなものがいるのかと思いきや、そこには何も存在しなかった。
よく分からないがとりあえず倒せたということらしい。
あるいは消滅はしていなくて、裸を見せるのが恥ずかしすぎて(?)
とりあえずダヤン達の目の前からは消えただけかもしれないが。
もちろんこの間に他のマミーに攻撃されずに済んだのは、エールの援護があってこそだろう。

「よく分からないけど包帯全部引っぺがしたら倒せるみたいにゃ! この調子でいくにゃ!」

尚、マミーが消えてもほどけた包帯はその場に残っている。
いわゆるドロップ品ということだろうか。
そんなものを手に入れたところで不気味なだけで使い道はなさそうだが……

(もしかして、これを全身に巻き付ければマミーに変装できるにゃ……!?)

ダヤンは珍アイディアを思いついてしまった。
それはそうと、仲間の一人が包帯を引っぺがされたことで、マミーたちに動揺が広がる。

「早ク行コウ! 引ッペガサレルノハゴメンダ!」

「イヤ……コイツラ新顔ダシ、泳ガセテ万ガ一後ノ支障ニナッタラ困ル。
今ノウチに潰シテオイタ方ガイインジャナイカ!?」

最初は完全無関心だったが、少し興味を持たれてしまったようだ。
ある者は逃げようとし、ある者は襲い掛かかってくる。
0552創る名無しに見る名無し
垢版 |
2021/11/06(土) 03:07:01.61ID:S/0rQkY5
ヘッポコ「ボッシュート!」
マミー達は殲滅された。
ヘッポコ「危ないところだったな、もう大丈夫だ」
0553エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/11/06(土) 18:38:40.14ID:aCuJezpM
マミー。包帯を全身に纏ったアンデッド。
中身はミイラであり、包帯を巻いているのは肉体の腐敗防止のためだ。
肉体が乾燥することで死体の原型を留めているという性質上、火が有効だと言われている。

エールはマミー達を広場から出さないようにプラズマ弾を敵の足元に発射し牽制を行う。
魔導砲の『弾』のひとつである火炎放射を使ってもいいのだが、火炎は射程距離が短いのだ。
広場に散らばっているマミー全てを足止めするためあえてプラズマ弾を選んでいた。

>「聞いて驚け、今このダガーにはアンデッド特攻の魔力がかかってるにゃ。
>切り捨て御免にゃ!」

一方ダヤンは『浄化の力』が込められた短剣を見せつけてマミーの一体と対峙している。
早速その効果を確かめるためマミーを斬りつけたが、包帯を切り裂いただけのように見える。
マミーは構わずダヤンに攻撃を仕掛けるが転倒。うっかり切れてほどけた包帯に足を引っかけたらしい。

>「えいにゃああああああああ! 丸裸にしてやるにゃあああああ!」

そして何を思ったのか更に相手の包帯をほどきはじめたのだ。
魔物とじゃれあっている場合ではないが、エールに忠告する暇はない。

>「何もいないにゃ!? マミーに中の人はいないんだにゃ?」

普通はいる。
だが実際に包帯の中には何もなかった――それをどう説明すればいいか。
エールはダヤンの短剣に宿った『浄化の力』が効力を発揮したとのだと勝手に解釈した。
最初は平然としていたことから、毒のように徐々にマミーの肉体と魂を清めて消滅させたのだろう。

>「よく分からないけど包帯全部引っぺがしたら倒せるみたいにゃ! この調子でいくにゃ!」

「そうなのかな……何かおかしい気が……」

とはいえ包帯を引き剥がすという行動も無駄だったわけではない。
さっきまでは完全無視だったが、二人を襲うマミーが現れはじめていた。
マミーだって魔物と化す前は人間。服の代わりの包帯を剥がされるのは嫌なのだろうか。

マミーの思考回路はさておき拠点を守るという目的を考えればかえって好都合。
投射する魔法を火炎放射に切り替えて襲ってくるマミーを燃やす。
乾燥しているだけあって効果覿面。瞬く間に広場のマミーの半数を倒した。

「私達がいる限りこの広場からは出さないよ……!覚悟してっ!」

魔導砲を構えた状態で広場から民家のある大通りへ続く一本道を陣取る。
だがその時、マミー達は交戦の姿勢を見せることなくなぜか道の左右にバラけはじめた。
まるで馬車が通る時のように。あるいは貴族や王族に平伏す時のように。

舗装されていた地面が派手に膨れ上がると何かが徐々にせり上がってくる。
それは全てが黄金で出来ており、顔と腕の装飾があって、両腕を×印に組んでいる。

「黄金の……棺……?」

死者を埋葬する棺というには、あまりに豪奢。
だが目の前に現れた物体に一番近いのは間違いなく『棺』だ。
ロンメルが言っていたことを即座に思い出す。黄金の棺はマミーを率いる魔物だと。
0554エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/11/06(土) 18:42:25.38ID:aCuJezpM
まだ広場のマミーを全て倒したわけではないが、黄金の棺が現れたら深追いするなと言われている。
ここは一度撤退するしかない。ダヤンに向けて「すぐに逃げよう」とアイコンタクトを送る。

「運命か……これは……まさか……君は……」

黄金の棺の中からくぐもった声が響く。
マミーより流暢に喋ることからも上位の魔物であるのが窺える。
エールは魔物の言葉に耳を傾けることなく火炎放射で牽制を仕掛けながら後ろへ下がっていく。
見たところマミーの足はそう速くないうえ、棺も形状の問題から機動力は低いはずだ。

「……待つんだ……!……逃がさない……!」

すると黄金の棺が左右に勢いよく開いた。中身は真っ暗な深淵で何も見えない。
声がする以上は棺の中に何かが存在するはずだ。あるいは棺そのものが魔物なのか。
答えは出ないまま大通り目指して走ろうとして――同時、棺から複数の何かが飛び出した。

『包帯』だ。無数の包帯が素早く伸びてきて襲いかかってくる。
エールは横っ飛びで回避を試みるが、回避動作中に新たな包帯が伸びて腕に絡まる。
――それは魔導砲を持っている利き腕だった。すごい力で縛られ、反撃しようにも狙いが定まらない。

「……こっちへおいで……悪いようにはしないさ……」

本能的に危機を察して包帯を引き千切ろうとしたが、新たに包帯が伸びて足や身体に絡みつく。
たとえダガーなどで断ち切っても同じだ。やがて包帯はエールを完全に拘束する。

「うわっ……引っ張られる……!?」

伸びた包帯が今度は逆回しに動きはじめた。身体が黄金の棺へと引っ張られていく。
力が違い過ぎて抵抗の意味がない。一気に引き寄せられるとエールは黄金の棺の中に飲み込まれた。
左右の扉が厳かに閉じて黄金の棺はダヤンにこう言い放つ。

「……良いことを思いついた。最早この拠点を襲う理由はない。
 熾天使のカノンに伝えろ……お前の妹はカースドファラオの手中にあると」

黄金の棺が地面に沈んでいく。
そして完全に流砂の中へ消えるとマミー達もまた喜びながら地面の中へ。

「……ヤッタ……今日ハモウ……退勤シテイイラシイゾ……!」

「……撤収ダッテ皆ニ伝エナイトネ……オ家ニ帰レルヨ……!」

時を同じくして、サンドローズの各地区に現われていたマミー達も撤収をはじめる。
広場とは少し離れた路地で戦っていたロンメルはその様子を怪訝に思った。
今まで現れたマミー達はとてもしぶとく、最後の一体が昇天するその時まで戦いを辞めなかった。
だが、今日に限っては不自然なほど引き際が良すぎる。何かあったとしか考えられない。

「アッ……ロンメルダ……帰ル前ニヤッチマオウゼ……!」

「ソウダナ……アイツニハ何体モ仲間ガヤラレテルンダ……!」
0555エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/11/06(土) 18:52:29.61ID:aCuJezpM
どうやらロンメルはマミー達の目の敵にされているらしい。
二体のマミーが獰猛に襲い掛かる。対してロンメルはそれを最小限の動きで躱してすり抜ける。
そして背後をとると握っていたサーベルを鞘に収めて一瞥した。

「……何ヲ余裕ソウニシテルンダ……!マダ戦イハ終ワッテナイゾ……!」

「……いや。もう終わっているよ」

ロンメルの言葉と共に、マミーの身体が崩れていく。
胴が、腕が、足が。輪切りにされて音もなく地面に落下する。
一瞬。すれ違いざまの一瞬に目にも留まらぬ速さでマミーを切り刻んだのだ。

しかし相手はアンデッド。ちょっと輪切りになる程度ではすぐにくっついて復活する。
そこで、路地に隠れていたグデーリアンが飛び出してきて十字を切った。
近寄ってしゃがみこみ、祈りを捧げればマミーの肉体が包帯を残して光の粒となり消滅していく。

やがてマミー達が完全に撤収すると戦いの喧騒はすっかり消えて、サンドローズは静寂に包まれた。
空を見上げれば、疑似太陽が他の階を照らすため6階を去ろうとしている。
それは暗く冷える砂漠の夜の到来を意味していた。


――――――…………。

右も左も。上も下も。どこに何があるのか分からない。身体の感覚さえも。
一切が闇で覆われた謎の空間の中にエールはいた。あるいは死んでしまったのかとさえ疑った。
しばらくすると何かが開く音がして、自分の身体は勢いよくどこかへ飛び出した。

「……あいたっ!」

硬質な床に身体を打ち付けると、エールはゆっくりと身体を起こす。
薄暗いが先程までの空間よりはずっとまともだ。自分は石材でできた何処かの部屋にいるらしい。
少なくともここはサンドローズではないのだろう。きっと魔物の棲家に違いない。

「ようこそピラミッドへ。手荒な真似をしてすまなかったね」

振り返るとそこには黄金の棺が立っていた。
左右の扉を開いているおかげか、くぐもった声が多少はっきり聞こえる。
本能的に魔導砲で身を守ろうと周囲を探るが――ない。魔導砲が見当たらない。

「余はカースドファラオ。アンデッドになってからはそう呼ばれている。
 気軽にファラオと呼んでくれると嬉しいな……君の名前は?」

「……エールです」

エールは致し方なく名乗ると、座り込んだまま黄金の棺を睨む。
ず……と棺の中の闇から一体の魔物が姿を現した。全身に包帯を巻いたマミーだ。
だが、棺の本体だけあってその雰囲気や佇まいは明らかにただのマミーとは異なっている。

カースドファラオと名乗ったそのマミーはおもむろに顔の包帯を解き始めた。
エールは干からびたミイラの顔を想像して緊張したが――現れた素顔は褐色肌の美形。
ふうと一息ついて、ファラオはエールに告げる。

「エールか。ではエール……君を客人として迎えよう。
 かつて私を葬った熾天使のカノンがやって来るその時までね」


【拠点にマミーを率いる魔物カースドファラオが現れる】
【エールがピラミッドへと連れ去られてしまう】
0556創る名無しに見る名無し
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2021/11/06(土) 19:26:02.89ID:ucZ7EinB
『やんごとなき駄目ドラゴン』#1

「……と、言うわけで一部の気の荒い個体や血気盛んな若い者を除いて、基本的に竜族はテリトリーやタブーを
侵されない限り進んで他者を襲わない。古竜と呼ばれる格の高い竜ともなればその特徴は尚、顕著となる」

王国大学。竜人リューコを講師として招いての集中講義だ。

「よって切羽詰まった冒険の時には、刺激せずに通り過ぎる事をお勧めする。しかし多くの竜が財宝や伝説級の
武具を保持している為に、それを目当てに戦いを挑む冒険者も多くいる。心当たりがあるだろう?」
会場にクスクスと笑いが漏れる。大いに心当たりがあるのだから仕方が無い。

「先程竜族は無闇に戦わないと言ったが、覚悟して挑んでくる挑戦者は大歓迎だ。強者に戦いを挑まれ、それを
斥ける事、斥けられる事は最大の誉れだからな。むしろその為に日頃から宝物を溜め込んでると言っても良い。
これらのものは身も蓋も無い言い方をすれば餌なんだが、竜族側の真意は自らを退治する勇者には最大限の
寿ぎを持って応えたい。その褒賞がショボかったら自らの沽券に関わる、ぶっちゃけると見得だな。」
竜視点の戦いの論理。他ならぬ竜人からの言葉ゆえに説得力はいや増す。

「よって、竜族相手には十分に備えて、容赦無く、精一杯戦って貰いたい。そして勝ったなら、その事を大いに誇って
吹聴して欲しい。諸君らの今後の新たな竜退治伝説に期待する。御静聴ありがとう」
大きな拍手が沸き起こる。名高い竜人によるカリスマ溢れる講義であった。


その後は参加者各人に軽食や飲み物が配られ、幾分気楽な空気の中での質疑応答タイムとなった。

「竜と竜人はどう違うんですか?」
王国に来る前までJKだった雪乃は往年の勘を取り戻し真っ先に質問する

「竜人族は意外と種の歴史が浅い。発生条件に天然タイプと合成タイプとが存在する。
天然タイプは、人語を解する温厚な竜が人間と懇ろになってイタしたり、神として崇められた古竜が人身御供で
捧げられた娘と、折角だからとヨロシクやってしまった結果生まれた者だ。」

「……壊れてしまわないのでしょうか。竜とイタして……妄想が捗ります」
誰かが小声で呟いていたが、皆聞こえないフリをした。

「そして合成タイプは、少し昔にどこぞの神々がやたらと竜と多種族とを掛け合わせる実験に奔走した時期があ
って、少なくない竜人が生み出され放逐された。結果、従来稀にしか生まれず、互いに出会う事がなかった竜人が、
集まり、竜人同士の交配が進み、今では小さいながらコミュニティを形成するまでになった。この合成タイプの出現
が竜人族の発生の契機と言えるだろう。」

生命の創造。普段は様々な雑務に勤しむ神々も、偶には神ならではの仕事をこなすようだ。
余談だがハムスターも、ごく最近、とある森に番が目撃されたのを皮切りに、以後世界に広がっていったと言う。
閑話休題。

「竜人族の家格はどのようにして定まっておりますの?本人の実力?先祖の功績かしら?」
ヴォルケッタ子爵(笑)が扇子で口元を隠しつつ質問する。
主催者のマリーは、「はいはい、貴女はどっちもありますね……」といった様子で溜息をつく。

リューコはやや苦笑しつつ、
「強い先祖を持つ家の竜人は地力がそもそも高い。よって次代が受け継ぐ財産も多くなる。その財産を有意義に
用いて更に強くなる。結果、その竜人は発言権も強くなる。これが人間の言う家格というのかどうか……」

「しかし、やはり実力至上主義だな。どんなに金持ちでも弱ければ多種族に退治されて、ハイ、それまでだ。
むしろ……私やこどらのように偉大な古竜を先祖を持つ家系の者は、簡単に負けたりしたら、受け継いだ力
を生かせなかった愚か者と一般(竜)人以上の誹りを受ける。これが家格というならば難儀なものだな」

「ほう、ほう……ほへっ?」

ヴォルケッタを含む全員の視線が、軽食を食べてお腹がくちくなり、涎を垂らして午睡を満喫するこどらに注がれる。

続く
0557ダヤン
垢版 |
2021/11/07(日) 20:31:34.52ID:giwfZlm0
>「そうなのかな……何かおかしい気が……」

エールは、ダヤンの提唱した包帯引っぺがしたら倒せる説に疑問を持っている様子。
アンデッドというのは大きく分けて死体系と幽体系があり、
例えば鎧の見た目をしたアンデッド等は中身がない幽体系の場合も多いのだが……。
後から聞いた話によると、マミーは通常死体系、中身がある方そうだ。
一般的に包帯ぐるぐる巻きアンデッドのことを差すマミーだが、
もともとの意味は乾燥した遺体であることを考えればそりゃそうだろう。
よって今回中身が無かったのは、包帯をほどいている間に運よく中身が朽ち果てたと考えられる。
あるいは、ごくまれに幽体が包帯を纏っているタイプのマミーもいるのかもしれないが。
――閑話休題。とにかく、二人を襲うマミーが出始めた。
ダヤンの包帯を引っぺがすという珍戦術はその意味では結果オーライだったようだ。
エールが火炎放射で、襲ってくるマミーを一気に燃やす。
ダヤンが、辛うじて火炎に耐えて立っているマミーに駄目押しの一撃を加える。

>「私達がいる限りこの広場からは出さないよ……!覚悟してっ!」

その時、マミー達がまるで偉い人が通る時のように、道の左右にバラける。

「にゃんだ!?」

マミーの登場経路の例に漏れず、やはり地面から、それは現れた。

>「黄金の……棺……?」

ロンメルが言っていた、マミー達のボスと特徴が一致している。早く撤退しなければ!

>「運命か……これは……まさか……君は……」

黄金の棺が、思わせぶりな言葉を漏らす。
その声はくぐもってはいるものの、モンスターとは思えないほど流暢だ。
幸いエールは惑わされずに、撤退行動に移った。火炎放射で牽制しながら後退していく。

「フラッシュ・ボム!」

ダヤンも、目くらましの閃光魔法を放つ。
そもそも目で状況を知覚していなさそうな相手に効くのかどうかは分からないが、
一瞬、棺の動きが止まったように見えた。

「今にゃ!」

ダヤンはエールの手を取り、ダッシュで逃げようとする。

>「……待つんだ……!……逃がさない……!」

棺が開いたかと思うと、中から大量の包帯が飛び出してきた。
0558ダヤン
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2021/11/07(日) 20:33:07.26ID:giwfZlm0
>「……こっちへおいで……悪いようにはしないさ……」

エールの腕に包帯が巻き付く。

「何するにゃ!」

ダガーで切断するも、すぐに新たな包帯が伸びてきて、やがてエールは全身を拘束された。
不思議なことに、ダヤンを拘束しようとする様子は特にない。
興味の対象はエールだけのようだ。

>「うわっ……引っ張られる……!?」

「エール!!」

凄いスピードで棺に引き寄せられるエールを、走って追いかける。

「にゃん!!」

ジャンプして飛びつこうとするも、目の前で閉まった扉に弾かれて地面に転がった。

「んにゃ……。待ってにゃあ! エールをどこに連れていくにゃ……!」

>「……良いことを思いついた。最早この拠点を襲う理由はない。
 熾天使のカノンに伝えろ……お前の妹はカースドファラオの手中にあると」

「ど……どういう意味にゃ!? エールを返せにゃ!」

>「……ヤッタ……今日ハモウ……退勤シテイイラシイゾ……!」
>「……撤収ダッテ皆ニ伝エナイトネ……オ家ニ帰レルヨ……!」

成す術もなく、黄金の棺が地面に沈んでいくのを見送る。
マミー達もそれに続き、広場にさっきまでの激しい戦闘が嘘のように静寂が戻った。
しかし、エールはそこにいない。

「う、嘘にゃ……」

がっくりと膝をついて座り込み、暫し呆然とするダヤン。
どれぐらいの時間そうしていただろうか。

「良かった、いましたわん! 凍えてしまうから帰りましょうわん!」

――凍える? こんなに暑い階で、凍えるだって?
ふと我に返ってみると、もう疑似太陽が沈みつつあった。
そういえば、随分涼しくなってきている。
顔を上げると、グデーリアンがいた。心配して探しに来たらしい。
0559ダヤン
垢版 |
2021/11/07(日) 20:33:59.19ID:giwfZlm0
「……あれ? エールさんは一緒じゃないわん?」

「それが……」

エールは敵の親玉に攫われてしまったと手短に告げ、詳しい話は拠点でということでとりあえず拠点の酒場に帰る。
帰ってみると、ロンメル達は、マミー達の不自然な撤退についての話題でもちきりだったようだ。

「ただいま戻りましたわん」

ロンメルはダヤンの姿を認めると、一瞬安堵したような表情を浮かべ、
しかしエールがいないことにすぐに気付いて表情を曇らせる。

「良かった、無事だったか――エール君はどうした?」

ダヤンはエールが攫われた経緯を説明する。
黄金の棺が現れたこと。そこから包帯が出てきて抵抗虚しく連れ去られてしまったこと。
それから……カノンへの伝言として告げられた言葉も。

「あいつ、「妹はカースドファラオの手中にある」と熾天使のカノンに伝えろって言ってたにゃ……。
エールはカノンさんをおびき寄せるための人質ってことにゃ……?」

人間の冒険者集団という漠然としたものを対象とみなしてお礼参りしていたのかと思いきや、それもカノンをおびき寄せるためだったというのか。
あるいは、単なる仕返し以外にカノンをおびき寄せたい理由があるのかもしれない。
どちらにせよ、敵の目的は、とりあえず人間を苦しめてやろうという
漠然としたものではなく、カノン個人に執着しているようだ。
ダヤンは、ファラオが“最早この拠点を襲う理由はない”と言ったことは意識してかせずか伝えてはいないのだが。
冒険者達の中に、先刻の不自然な撤退と相まって、マミー達はもうこの町を襲わないのではないかという推論に至る者が出始める。
これはダヤンにとってはよくない流れだ。
彼らの役目は街の防衛で、こちらから仕掛けなければもう向こうから襲ってくることはない、ということになれば。
果たしてピンチヒッターで派遣されてきたばかりのエールを助けるために、
わざわざこちら側から攻め込むという危険を冒してくれるだろうか。
かといって、ダヤン一人では救出は不可能だ。救出には彼らの協力が必要不可欠だろう。

「お願いしますにゃ! どうかエールを救出するために力を貸して欲しいにゃ……!」

ダヤンはロンメル達に深々と頭を下げた。
0560創る名無しに見る名無し
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2021/11/07(日) 20:48:42.44ID:Y1WaMzyx
婆「たけし、たけしや、どうかしたかい?大きな声が聞こえたけど…」

俺「あ、婆ちゃん!起きちゃった?」

婆「ちょっと眠れなくてね、元々起きてたから大丈夫さね。
たけしが台所から玄関に言ってるのが見えたからねぇ、その後大きな声がしたもんだから…」

俺「ああ、今のはお隣さんの怒鳴り声だよ、ほらあの金髪でムキムキの…」

婆「ああ、多田さんかえ、普段は優しい人の筈なんだけど、何かあったのかしらねぇ」

俺「え?あ、ああ…さっき宗教の勧誘の人来てたから、多分その人関係なんじゃないかな?」(あの人が優しい…?人は見かけによらない…のか?)

婆「宗教ねぇ…この前行ったゲートボールでそんな感じの人にあった、って話をトメさんから聞いたけど…」
0561エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/11/10(水) 23:06:50.90ID:l3Rm0y+Y
砂漠の夜は寒い。乾燥した地帯のため水分が少なく、熱しやすく冷めやすい環境だからだ。
そのために寒暖の差が激しくなり、太陽が沈むと一気に氷点下まで冷えることもあるという。

グデーリアンに連れられてダヤンが酒場に戻ってくると、ロンメルは安堵した。
だがそこにエールがいないことを気づいて、若きギルドマスターは表情を曇らせる。
ダヤンから告げられたのはエールがマミーを率いる魔物――カースドファラオに攫われたということ。

>「あいつ、「妹はカースドファラオの手中にある」と熾天使のカノンに伝えろって言ってたにゃ……。
>エールはカノンさんをおびき寄せるための人質ってことにゃ……?」

「……その可能性が高いだろうね。私としたことが……なんということだ。
 なぜ真綿で首を絞めるような襲撃を繰り返していたのか……ようやく理解できたよ」

「ファラオはカノンさんに復讐がしたいということですわん……?」

「現段階ではカノン君に執着している以上のことは憶測に過ぎないな。
 人質を不用意に傷つけるタイプではないと思うが……このままにはしておけん」

ぎり、と拳を握りしめてロンメルは己の不甲斐なさを呪った。
ファラオ討伐作戦の鍵を握る重要人物を、自分の目の届かないところに配置する痛恨のミス。
カノンは今6階にはいない。でもサンドローズが壊滅的な被害を受ければ、
他の階を行き来する冒険者の噂になって様々な階で話題になるはずだ。

噂が広まれば9階にいるはずのカノンの耳にも届くはず。
かつて自分が倒した魔物が復活して再び暴れているという話を。
そうすれば自分を倒すため再び彼女に会えるとファラオは考えていたのだろう。
そして妹のエールという人質を手に入れた今、拠点を襲う必要も無くなった――とロンメルは推測した。

>「お願いしますにゃ! どうかエールを救出するために力を貸して欲しいにゃ……!」

ダヤンは酒場に集まっている『砂漠の狐』の面々に深く頭を下げた。
一瞬の静寂の後、ロンメルは片膝をついてしゃがむとダヤンの肩をポンと叩く。

「もちろんだとも。皆でエール君を助けにいこう。
 だが砂漠の夜は冷えるよ……その軽装では風邪をひいてしまう」

グデーリアンがどこからともなく持ってきた防塵用マントをダヤンに手渡す。
他の『砂漠の狐』の冒険者達も無言でいそいそとエール救出の準備をはじめた。

『砂漠の狐』はしょせん財宝探しで迷宮にやって来たギルドだ。国民を守る軍隊でもなければ自警団でもない。
エールが人質という犠牲になることで拠点に平和が訪れるならそれで良いという考えもできるだろう。
だが――ロンメルとその仲間たちは、一度でも関わった同業者を見捨てられるほど利口ではない。

「諸君。これより行う救出作戦は我らの宿敵カースドファラオの討伐作戦も兼ねる!
 『砂漠の狐』の全戦力でエール君を救い出し……そのまま奴を冥界へと送り返すのだ!!」

カースドファラオは普段、砂漠に鎮座する一番大きなピラミッドにいる。
今からそこに乗り込みエールを救出する。ただの救出作戦なら少人数でも構わない。
しかしカースドファラオからエールを取り返すだけでは再び拠点を襲われることになるだけだ。
さいわいエールが人質でいる間はサンドローズを襲うことはないはずである。安心して全ての戦力を投入できる。

カースドファラオを倒す方法に関しては、以前エールが語った通りのことを実行する。
魔力を有する20人の冒険者で『ハイペリオンバスター』を発射して倒し、エクソシズムで昇天させる。
つまり作戦の流れとしてはエール救出→ファラオ討伐という順番になる。

準備が整うと『砂漠の狐』の冒険者達はダヤンと共に拠点を後にした。
目指すは王の墓たる金字塔。一同は夜の砂漠を進んでいく……。


――――――…………。
0562エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/11/10(水) 23:09:36.92ID:l3Rm0y+Y
石材を積み上げて作られた広い一室。
無骨な巨大な石室には不釣り合いなほど豪奢な調度品が並んでいる。
部屋の中央にある長机に置かれているのは贅を尽くした数々の料理だ。

「……離してくださいっ、自分で歩けます……っ!」

「丁重ニ扱エト言ワレテマスノデ……コレガ仕事デスノデ……」

二体のマミーはエールの両脇をがっちり固め、二の腕を掴んで部屋の中へ踏み入る。
美味しい料理の香りが漂っていても、魔物に囚われている今は食欲をそそられない。

ファラオに攫われた後、何があったかというとまず風呂に入れられた。
どこから調達したのやら猫足のついた綺麗なバスタブだった。
外は砂埃がよく舞うのでさっぱりして気持ち良かった――なんてそれどころじゃない。

次は着替えだ。ドレスコードがあるのでと言われドレスを渡された。
これもどこから調達したのやら貴族が着るような瀟洒なものだ。
慣れないハイヒールも履いて気分はまるでお姫様――なんてそれどころじゃない。

そういうわけで所持していたポータルストーンも入浴前に奪われてしまった。
隙を見て他の階へ転移して脱出するといった逃げ方はできないという訳だ。

「やぁエール。待ちくたびれたよ……私の恰好は似合っているかな?」

瑞々しい褐色肌の青年が振り向くと、エールは思わず顔を強張らせる。
どこから調達したのかカースドファラオはタキシード姿でそう語りかけた。
注意深く観察すると、服の下には依然包帯を纏っているようだ。

「……似合うと思います……」

生殺与奪の権を握られている身分だ。迂闊な発言はできない。
ファラオは少しはにかんでエールに着席を促す。

「良かった。余が治めていた国には無い文化だからね。こういう服装は。
 エールがそう言ってくれると自信がつく……おっとすまない、そろそろ食事にしよう」

ファラオの席には皿も無ければナイフもフォークもない。
不死であるアンデッドには食事も必要ないということか……。
まばたきもせず、じっとこちらを見つめているので緊張する。

残念なことにエールにはフォーマルな場所での食事作法の経験がてんで欠けていた。
果たしてこれで正しかったのか……脳内であやふやなテーブルマナー情報が飛び交う。

「エール……もしかして君は」

しまった、テーブルマナーが適当なことがバレてしまったか。
魔物と化す前は人間とはいえやっぱり相手は魔物だ。何がトリガーで危害が及ぶか分からない。
下手に刺激するのはマズイのに早速その愚を犯してしまったか。

「……私のもてなしが気に入っていないようだね。ずっとぎこちないな……。
 何がいけなかったか正直に話してごらん。世話を命じたマミーか?それとも料理人のマミーか?」
0563エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/11/10(水) 23:11:39.49ID:l3Rm0y+Y
ファラオはエールの背後で待機していた世話係のマミー二体を睨みつけた。
魔力を漲らせ、ざわざわとタキシードの下の包帯が蠢いて袖から這い出てくる。
明らかに機嫌を悪くしている。女性型である二人は慌てた様子で弁解した。

「エ……エール様ノオ気ニ障ルコトハシテイマセン……本当デス……」

「客人だからな。当然だよ。余は丁重に扱えと言った」

厳しい口調でそう言い放つと、二体のマミーは恐怖しきった様子で震えていた。
このままにしておくと何かマミー達に危害が及ぶかもしれない。
魔物を助けるなんて冗談みたいな話だが、エールは咄嗟に助け舟を出した。

「わ……私は大丈夫だよっ。お風呂気持ち良かったよ!湯加減が丁度良かったなぁ!えへへ……!」

「……そうか……ならいいんだ。では料理人のマミー、お前の腕は確かだろうな。
 余は食事が不要となって久しい。味の機微も忘れてしまったが……実はお前もそうなんじゃないのか?」

ファラオの後ろに控えていたマミーがギクッとした様子で動揺する。
長いコック帽を被ったその個体はあまりにもか細い弱々しい声でこう返す。

「オ……オ客様ニ楽シンデモラエルヨウ腕ニヨリヲカケマシタ……」

「ほう……?その割には随分と自信がないようだが?」

ファラオのプレッシャーは有無を言わせない、人を圧倒する何かがある。
傍目から見ているだけでもぞっとする恐ろしさを感じる。エールは再び助け舟を出した。

「りょ、料理も美味しいよ!だってもうこんなに食べちゃったもん!えへへ……ほらっ」

食べ始めてそんなに時間は経ってない。せいぜい10分くらいだろうか。
にも関わらず、エールは大量にあった料理の数々をすでに半分は平らげていた。
早食いが得意で良かった。家が貧乏だったからか結構食い意地が張っていたりするのだ。

それにしても、自分が危険に晒されるのは嫌だが、他人が責められている姿はもっと見ていられない。
たとえ相手が魔物でも。エールは話を変えるためファラオに疑問をぶつけることにした。

「あの……なんでこんなに私をもてなしてくれるんですか……?
 お姉ちゃんはファラオさんを倒した……いわば敵のはず……なのに、どうして?」

ファラオはきょとんした顔をすると、すぐに元の微笑を湛えた表情に戻す。
何かおかしなことを言ってしまったのだろうか。

「確かに……余はカノンの手で一度完全に消滅した。勝負は一瞬だった……。
 光の翼を広げた彼女は魔導砲を構え、浄化の光を余に放った。とても温かで安らぎすら感じたよ。
 だが同時にこう思ったんだ……『欲しい』と。あの母なる光が、あの聖なる力が欲しいと強く願った……」

ファラオはいったん言葉を切って、こう続けた。

「……惚れてしまったんだよ。熾天使のカノンに。彼女を……愛してしまったんだ」

思い掛けない告白だった。エールは言葉を失った。そんなことがあるのか。
いや――よくよく考えてみれば人間の男性が女性の魔物に恋する逸話を何度か聞いたことがある。
美しい人魚と人間の男性との悲恋などがそうだ。人間と魔物の恋愛はあり得ない話ではない。
0564エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/11/10(水) 23:14:55.82ID:l3Rm0y+Y
……でもだからって自分のお姉ちゃんがそうならなくても!とエールは思った。
それも拠点を襲い、人を平気で傷つけるアンデッドの魔物の告白を。
妹としてどう受け止めればいいのだろうか。

「思えば君が現れるまで本当に回りくどいことをしたな。なにせ余は他の階に移動できない身分でね。
 この無限迷宮の力で産まれた魔物は、担当している階から移動できない決まりなんだ」

ファラオが言うには、迷宮産の魔物には常に「担当の階を守れ」という命令が送られてくるそうだ。
魔物達はその強制力に逆らえない。自分の意思で別階層に移動するのは不可能だという。
人為的に魔物化したり、外の世界からやって来た魔物だけがその命令に縛られないらしい。

また、ビーストテイマー(魔物使い)が迷宮内の魔物を飼い慣らした場合もその限りではない。
自分の意思ではなく主人の命令に従い階層を移動するから、命令の強制力をすり抜けられるのだろう。

「……余は欲しいものは全て手に入れてきた。国も。金も。煌びやかな財宝も。永遠の命さえ。
 何もかも思うがままだ……。愛する女性だって手に入れてみせるよ。絶対にね」

ファラオの決意表明を聞いて、エールは何も答えなかった。

「だからエール……君には余に協力してほしいんだ。カノンは何が好きなのか、とか。
 逆に何が嫌いなのか、とか。彼女のことをよく知りたいんだ。プロポーズするには重要なことだ。
 ……今日のもてなしはカノンも気に入ってくれそうかな?もちろん本番はもっと趣向を凝らすけどね……」

なぜわざわざタキシード姿になっていたのか理解した。
カノンにお披露目する前の予行演習のつもりだったらしい。
ファラオはさらにこう付け足した。

「カノンを余の妃にしたら……望むならばだが、君もここに住んで良いんだよ。
 悪いようにはしない。余は君も気に入っている。姉妹で一緒の方が寂しくないだろう」

ファラオは器の広さを見せたつもりなのだろう。だがエールには何の効果もない。
姉と一番長く過ごしてきた妹だから、姉の気持ちはなんとなく分かってしまうのだ。
例えファラオがどれだけ情熱的にプロポーズしても、姉は優しく断るだろう。

その時ファラオがどんな行動に移るかは誰にも分からない。
力ずくで手に入れようとするのか。はたまた素直に諦めてしまうのか。
もし前者の場合、『闇の欠片』5個持ってるぐらいで姉の脅威にはならないだろうが――。
――それでもエールは妹として決意を固めた。お姉ちゃんは絶対に私が守る!と。

「……ファラオさんの気持ちは分かりました。
 でも……お姉ちゃんは貴方を好きにはならないと思います」

エールの一言に、ファラオは余裕ぶった微笑を湛えた表情を険しくする。

「……エール。それは……どういうことかな……?」

タキシードの下に纏った包帯が激しく蠢き、袖や裾から伸びはじめた。
ざわざわと髪の毛のように、意思を持った触手のようにエールに這い寄る。
努めて冷静に吐き出した言葉は、明確に殺気を孕んだものだった。


――――――…………。
0565エール ◆s8TYYiQqnQ
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2021/11/10(水) 23:18:42.26ID:l3Rm0y+Y
『砂漠の狐』の冒険者達はカースドファラオの根城たるピラミッドの前まで来ると、
それぞれ松明やランタンを装備して一丸となって真っ暗な中へと入っていく。

「皆、単独行動は絶対に避けるよう注意したまえ。
 今回のファラオ討伐作戦を考えれば戦力の分散は避けたい」

ロンメルは一同にそう伝えて、先陣を切ってピラミッドの中を進む。
小隊ごとに別れて内部を探索した方がエール救出作戦の効率は良いだろう。
だが別れた後また全員合流できるか分からない。負傷や思わぬ罠はつきものだ。
分散した戦力では『ハイペリオンバスター』の威力が落ちてしまう。

「ファラオは普段ピラミッドの『王の間』にいるはずだ。
 そこに踏み入らなければエール君を救出する前にやつと遭遇する心配はない……はずだ」

少なくとも、ロンメルがカノンと一緒にカースドファラオと戦った時はそうだった。
配下の魔物と一緒に迎撃に来るようなフットワークの軽いタイプじゃないはずである。

「ダヤンさん、心配しなくても大丈夫ですわん。
 隊長がいる限りエールさんはきっと無事に救出できますわん」

グデーリアンはランタンで周囲を照らしながらダヤンを励ます。
種類は違えど同じ獣人同士、シンパシーのようなものがあるのだろう。

「グデーリアン、エール君の『匂い』はどうなっている?」

「この辺りにはエールさんの匂いがしないですわん……。
 きっと地中を移動しているせいですわん。匂いで追跡するのは難しいですわん」

ロンメルの問いにグデーリアンはかぶりを振った。
犬種の獣人は嗅覚に優れるが、匂いを追跡する場合は地面などに付着した微量の匂いを足跡のように辿る。
ファラオもマミーも地中を移動するので、ピラミッドに入ってもエールの匂いを感知できない。
匂いを追えれば救出も楽だったのだが――これでは地道に探していくしかない。

一同は開けた空間に足を踏み入れると、そこに何かがいることに気づく。
しかも複数体だ。ロンメルはゆっくりとサーベルを抜き放って闇の中に切っ先を向ける。
ランタンで闇を照らしても何も見えない。だが、場数を踏んだ冒険者なら気配は感じ取れるはずだ。

「何かいますわん、匂いで分かりますわん」

「うむ……迷彩蠍だな。おそらく。
 カメレオンのように周辺の風景に同化できる魔物だ」

迷彩蠍。全長3メートルから5メートル程度で、鉄すら切断する鋏と猛毒の尻尾を有する。
攻撃的というわけではないが、静かに獲物に近寄り捕食する、おそろしい砂漠の魔物である。
それが実に5匹も部屋にいる。侵入者を排除するために放たれているのだろう。

「目に見えない以上、気配を頼りに戦うしかない。私は問題ないが皆は大丈夫か?
 ……むっ。ダヤン君、右側に気をつけろ。そっちに一体移動しはじめている……!」

迷彩蠍の1匹がダヤンに狙いを定めたようだ。
音も無く忍び寄り、そして――両腕に備えた鉄をも両断する鋏がダヤンを襲う!


【『砂漠の狐』がエール救出に同意。ファラオのいるピラミッドへ乗り込む】
【ピラミッド内部にて侵入者を迎撃するために放たれた魔物、迷彩蠍と遭遇】
0566ダヤン
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2021/11/16(火) 01:25:57.28ID:2l5sG1t3
一瞬、静寂が場を支配する。この迷宮では皆自らが生き抜くのに必死。
絶え間なく行われる襲撃を止めるためならいざ知らず、
知り合ったばかりの者の救出のために敵の本拠地に乗り込む――
生半可な覚悟では出来ない事だ。
が、ロンメルはダヤンの肩を叩き、当然のように答えた。

>「もちろんだとも。皆でエール君を助けにいこう。
 だが砂漠の夜は冷えるよ……その軽装では風邪をひいてしまう」

砂漠の狐の冒険者達も、無言で肯定を示しているように見える。

「ロンメルにゃん……みんにゃ……」

更に、グデーリアンが防塵用マントを手渡してくれる。

「あ……ありがとにゃ……!」

ダヤンは深く感謝すると同時に、一瞬でも彼らがエールを見捨てるのではないかと疑った自分を恥じた。

>「諸君。これより行う救出作戦は我らの宿敵カースドファラオの討伐作戦も兼ねる!
 『砂漠の狐』の全戦力でエール君を救い出し……そのまま奴を冥界へと送り返すのだ!!」

エールの救出だけなら目立たないように少数精鋭で忍び込む、という作戦もあるだろうが、
全員で突撃してそのまま討伐作戦に移行するという。
エールが人質になっている今なら、逆に街の心配をせずに全戦力を投入できる――
ピンチをチャンスに変える発想だ。
エール救出後の流れは、当初エールが発案した通り。
『ハイペリオンバスター』を要としたその作戦は、
エールが意識を失っていたりせずにすぐ戦闘に参加できる状態であることが条件だが、
そこは人質なので手荒な扱いはされていないだろう、と信じるしかない。
目まぐるしく救出作戦準備にいそしむ一同。
そのどさくさに紛れて、ダヤンは酒場の前の通りに落ちていたマミーの包帯を拾ってきた。
一人分ぐらいなら大した重さではないので道具袋に入れた。
不気味だが、もしかしたら救出作戦において役に立つかもしれない。
程なくして、敵の本拠地のピラミッド目指して出発する一同。
昼間とはうって変わって、極寒となった夜の砂漠を進む。
目的地に到着すると、ロンメルは分散しないように指示を出した。

>「皆、単独行動は絶対に避けるよう注意したまえ。
 今回のファラオ討伐作戦を考えれば戦力の分散は避けたい」

ピラミッドの中がどのぐらい複雑な構造になっているかは分からないが、
少なくとも一本道ではないだろう。
どこにエールが捕らわれているか分からない現状、手分けして探したほうが早いかもしれないが、危険も大きくなる。
それなりに強いモンスターがエールを見張っている可能性もあるのだ。
0567ダヤン
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2021/11/16(火) 01:27:13.79ID:2l5sG1t3
>「ファラオは普段ピラミッドの『王の間』にいるはずだ。
 そこに踏み入らなければエール君を救出する前にやつと遭遇する心配はない……はずだ」

なるほど、それならエールを救出する前に遭遇することはない。
もしもファラオがエールを自らのお膝元に置いていたら、
他の場所にエールがいないのを確認した後に最後に突入するだけの話だ。

「エール……どうか無事で待っててにゃ……」

>「ダヤンさん、心配しなくても大丈夫ですわん。
 隊長がいる限りエールさんはきっと無事に救出できますわん」

ダヤンの不安を察したのであろうグデーリアンが励ます。

「ロンメルにゃんはみんなに慕われてるんにゃね。
会ったばかりだけどにゃんとなく分かるにゃ」

>「グデーリアン、エール君の『匂い』はどうなっている?」

>「この辺りにはエールさんの匂いがしないですわん……。
 きっと地中を移動しているせいですわん。匂いで追跡するのは難しいですわん」

そう簡単には辿り着かせてはくれないということか。
地道に捜索していると、開けた空間に出た。
猫の夜目は月明りや星明りといった微かな光を有効活用できるが、ここは建造物の中。
よってどちらかというと犬の嗅覚の方が有効となる。
狭い通路を進む間は、ランタンで周囲だけは照らせていたのだが……。

>「何かいますわん、匂いで分かりますわん」

>「うむ……迷彩蠍だな。おそらく。
 カメレオンのように周辺の風景に同化できる魔物だ」

ただでさえ暗いうえにこれでは、ますます視認は難しい。
グデーリアンによると、それが1匹ではなく、5匹ぐらいいそうだという。

>「目に見えない以上、気配を頼りに戦うしかない。私は問題ないが皆は大丈夫か?
 ……むっ。ダヤン君、右側に気をつけろ。そっちに一体移動しはじめている……!」

ロンメルも獣人だけあって、匂い等で敵の気配を察知できるようだが
通常の人間のメンバーには相当厳しい状況ではないだろうか。

「頑張るにゃ……ライト!」

ランタンを持ったままでは戦いにくいということで、明かりの魔法を使う。
自分の周囲しか照らせないという点ではランタンと大差はないのだが。
ロンメルの言った通り、ダヤンから見て右側のライトの視認範囲内に突然何かが現れた。
背景と同じような色をしているが近距離で動いていると浮き上がってみえるので分かる。
それが、鋏二刀流で襲いかかってきた!

(一人挟み撃ちにゃ!?)
0568ダヤン
垢版 |
2021/11/16(火) 01:28:04.19ID:2l5sG1t3
二刀流なので、右に避けても左によけてもはさまれてしまう。
そこでジャンプして上に避ける。
着地ついでに蹴りを入れたが、致命的なダメージは無い様子。
それもそのはず、相手は蠍なので固い甲殻に覆われている。
重戦士なら構わず重量級の武器でガンガン叩くのであろうが、ダヤンはスカウト。
そこで、鋏の攻撃を避けながら攻撃後の隙を狙って、甲殻の隙間を狙って斬りつける。
迷彩ゆえに目視では分かりにくいが、脊椎動物でいえば関節――
体の曲がるようになっている部分がそれだ。
そうして攻防が暫く続いた。しかし、脅威なのは、鋏だけではない。

「尻尾に気を付けてください、猛毒です!」

グデーリアンの忠告のとおり、迷彩蠍は尻尾を大きくうねらせて突き刺そうとしてきた。

「にゃ!?」

間一髪で飛び退ると、目の前の床に尻尾の先が突き立てられた。
床の突き刺さった部分からしゅう…と音がして少し溶けている感じがする。
分かりやすく猛毒っぽい。

「にゃわわわわわ……」

ビビりまくっているダヤンだったが、迷彩蠍はそのままぐったりと動かなくなった。
幸いというべきか、断末魔の最後の一撃だったらしい。

「た、助かったにゃ……」

が、安心している場合ではない、グデーリアン達の見立てによると、最初の時点であと4匹はいたのだ。
通常の意味でも犠牲者を出すわけにはいかないのに加えて、
エールを救出してハイペリオンバスターで敵の親玉を倒すことを考えれば猶更、一人たりとも欠けさせるわけにはいかない。
それに、自分を救出するための道中で犠牲者が出たとなれば、エールはとても悲しむだろう。

「こうしちゃいられにゃい。みんにゃー、無事にゃ!?」

即刻、まだ戦っている者の加勢に向かう。
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