「……坐間?」

返事はない。
数秒後、一際大きな破壊音と共に通話は切れた。
更に数秒後、協会の緊急通達――非常防衛システム起動に伴う自動メッセージ。

西田はすぐさま、ベランダの大窓を開いた。
ヒーローにとって緊急の出動が日常茶飯事。
耐衝撃スーツと、それを隠すビジネススーツは彼女にとって普段着同然。
マスクやアーマーを纏めたケースも常に携行している。
つまり装備は既に万全。

ベランダの柵を乗り越え空中へ。
同時に火を噴く、四肢に装備した指向性付与ガジェット。
パイロキネシスの爆炎がザ・フューズの体を急加速。
そして空中に設置したエクトプラズム・プレートに着地。
それを繰り返す事で実現される高速の空中移動。
ザ・フューズは数分で現場上空へと到達。

>「リジェネレイター!ニーズヘグをこっちに引き付けて!
 バリアのせいで敷地の奥の方には地脈が繋げられないから!
 寄ってきた奴を片っ端から爆殺してこ☆」

戦況を俯瞰。
爆炎と、無数の敵性兵器――ニーズヘグの残骸によって描かれた「戦線」がよく見える。
それがテスカ☆トリポカの間合いの境目という事なのだろう。
ザ・フューズは通信機に指を添える。

「こちらザ・フューズ、現場上空に到着した。
 これより近接航空支援を開始する。前に出過ぎるなよ」

協会本部が制圧されている以上、通信は傍受されていると見るべき。
だが事前連絡のない火力支援など、友軍への不意打ちも同然。
炎と地形を操るザ・フューズの攻撃は、特にだ。

まずは周囲に二つ、エクトプラズム・キューブを形成。
対空射撃に対する防壁を展開、維持する為の疑似脳だ。

次に地上へエクトプラズム・プレートを形成。
地面と水平に、小さく何枚も。
つまり破壊困難な移動妨害。

そして――爆撃を開始。
もっともアダマス合金製の装甲は、ザ・フューズの火力では破壊出来ない。
ほんの小さなへこみすら、与える事は叶わない。
エクトプラズム・ブレードも、機銃が主兵装のニーズヘグ相手には火力になり得ない。

故にザ・フューズは――爆破するのではなく、燃やす。
高熱の炎に晒され続ければ、内部の電子部品や弾薬を破損させられる。
既にプレートによって協会内部への退路は封鎖済み。
必然、加熱による機能停止を避ける為には前進する他ない。
つまり、テスカ☆トリポカの間合いへと飛び込んでいく事になる。
これで屋外にあるロボットに関しては問題なく制圧可能――

>「マズハ近クカラ、デスネ【アタックプログラム;アダマスソード】」

ザ・フューズがそう判断した直後の事だった。
協会本部の窓から二人の子供が投げ出され、更にNo14が飛び出したのは。