女の声だ。それも少々耳障りなアニメ風の聞き覚えのある声。
誰もいないと思っていた私は、少々ぎょっとして声のほうを向いた。
彼女は闇にまぎれて顔が判別できない。
私が先程まで外の景色を眺めていたので瞳孔の開放が追いつかないのだ。
「あだち充さん、先程は危ないところでした」
「ちがう。足立みちるだ。分かってて言うな。今は何時だ?」
「午前十時。あれから三時間たったところです」
目が再び暗がりに慣れると、私のベッドに栗色のツインテール少女が近づいてくるのが分かった。
奈良谷美優だ。取りあえず私の親友ポジションにいる。相手が同じ思いを抱いているかどうかは知らない。
「奈良谷よ。最初に言わせてくれ」
ツインテール娘は微笑して、どうぞと掌を向けた。
「一つ、私は深夜アニメでたまにある、主人公がいきなり刺殺される展開が大嫌いだ。残酷だし日常ではまずありえない。
それから二つめ、深々と刺されたのにすぐに蘇生するとか転生するとかもだな、人の人生をバカにしているよ。人生は一度しかない。死んだら世界は終わるんだ」
「では三つめを私に付け加えさせて下さい。私は実は夢オチが嫌いです。これは夢ではありません。あなたは確かに刃堂鋼子に刺されました。凶器はブルドッグ社のサバイバルナイフで、ランボー1タイプと呼ばれているやつです。とても女の子が扱えるものとは思えませんが」
私はそこで胸に不快なうずきを覚えた。手を当てる。
「足立さん、大丈夫です。傷口は全て塞ぎましたから。もし痛みがあるとすれば、それは傷害の記憶を呼び覚まされた事による残像です。神経って面白いですよね」
なんだか楽しそうに解説する奈良谷を、私は凝視した。
「一体いつから現代の医学は、たった三時間で傷口を完治させられるようになったんだ?」
「それは、禁則事項ということで」
「あいにくと私はラノベは読まない」