注】話が停滞したので冒頭あたりに戻ります。

足立みちるっていう。私の名だ。
父と母は少し前の有名な漫画がきっかけで一緒になったらしい。その漫画を描いた原作者の名前からこの名前を思いついたそうだ。
知るか、そんなもん。
自己紹、以上。

その朝、私はスマホのアプリ『電脳コイル』をやりながら学校に向かっていた。でも、それに集中しすぎて、結局電柱付近で立ち止まっていたわけだ。
このアプリは一般には流通してはいないが、モンスター収集系アプリの先鞭をつけたカルトアプリである。
さて、そんなとき。

「こんにちは、死ね!」

私を現実に引き戻した彼女の一言は、奇妙な既視感をまとっていた。
(あったな。きのう見た夢だったか、同じ台詞を聞いた覚えがある)
スマホから顔を上げると、刃堂鋼子が立っていた。
「……唐突に何だ、一体?」
私は昨夜の夢と同じ台詞で返した。
だが次の刃堂の言葉は、夢の再現からは外れていた。

「だから、あんたみたいなのは死ねって言ってんの!」

アプリの呪縛から解けないうちに、私の胸元は刃堂の握るサバイバルナイフに命を捧げていた。
あまりに唐突すぎて、痛いという感覚がまわってこない。
どん、と音がしたのはわかった。
(なんだよこれは。このあとのおまえの台詞はたしか「今現在、私の中で言ってみたい台詞ランキング、堂々一位の台詞です」じゃないのかよ)
意識が保てなくなってきた――
でも、まだだ。まだまだ終われないよ。
私は死ぬことはおろか、簡単に気を失うことも憚らねばならぬ。
だってこれはこの私、足立みちるの一人称なんだからな!