九州より南西に約1000Kmほどの海上

「おい沢田。何か見えたか?」
機長の声が耳に入る。問いかけられた一人の男。日本海軍三等飛行兵の沢田 賢治はまたか!と、思いながら返事を返す。
「いえ。なーんにも見えませんが。」
この質問2分くらい前にしましたよね?というセリフをぐっと飲み込み、それだけ返す。
「だよなぁ・・・・全く。なんでこんな所を俺は偵察してるんだろうか・・・・。」
その言葉に遠藤 和彦一頭航空兵は愚痴をこぼす。
「まぁまぁ。そう怒らないでくださいよ。」
電信員の町田 宏はそう機長をなだめる。
彼らは日本海軍重巡洋艦、『利根』の零式水上偵察機である。今回は確か、南のミッドウェーの方に攻撃に行くはずだった。一航戦の赤城や加賀、さらには榛名や霧島といった堂々たる面々が参加する一大作戦だった。そう。『だった』のである。
突然。そう。突然だ。なんの前触れもなく、いきなり内地にいた。これは驚いたなんて生易しいものではなかった。
何を言っているのか?普通ならそう思うだろう。だが、これはまぎれもない事実だった。