「最近の子は結婚なんかせんでも生きて行けるもんなぁ、なぁステファニー?」
おばあちゃんが私をちゃんとした名前で呼んでくれた。
「ピン獣大使がお金に困るわけないもんね?」
ウィンクをしてくれた。
「おばあちゃんてば」母がたしなめた。「ピンなんとかとやらがそんなにお金になるんなら皆やってなきゃおかしいでしょ」
また『とやら』が出た。しかも獣大使を省略した。もうほっておこう。
「っていうか何度も聞くけどあなた、騙されてるんじゃないの? 大丈夫なの? それを心配して私達出て来たのよ?」
おばあちゃんがすぐに首を横に振った。「私は違うよぉ。顔を見に来ただけだよぉ」

騙されてるわけないじゃない。店長のあの自信たっぷりな勧誘の言葉が嘘だったとでも言うの?

私は女優になるため上京した。地元では○○町の綾瀬はるかと呼ばれた私だもの。演劇学校なんかに入る必要はなく、すぐにスターになれるものだと信じてた。
オーディションを受けては一次で落とされる日々を繰り返したけど、私はいつか見る目のあるちゃんとしたプロの理解者に会えることを信じてた。
そしてそんなある日、『魔獣館』の店長に拾わ……出会った。店長は言った、「君は千年に一人の逸材。ピン獣大使になれる器だ!」
あの時恥ずかしながらピン獣大使が何なのか知らなかった愚かな私に店長は手取り足取り教えてくれた。何も知らなかった田舎娘の私は店長に洗の……教育を施され、遂には全人類の憧れ、ピン獣大使になったのよ!
ただ最近、本当はちょっと疑問に思い始めてはいる。月100万以上稼げるって聞いてたのに私は一番多い月でも35万しか稼げてない。
そこは騙されてるのかもしれない。
店長がピンはねしてるのかもしれない。
なんかだんだん自信がなくなってきた。
母の前ではいつものホホホ笑いも決まり文句の「おばかさん」も出てこない。
何を照れてるの? ステファニー!
あなたは天下のピン獣大使ステファニーでしょう?
騙されてるんじゃないの? などと愚かな発言をするババアに「おばかさん」をくれてやりなさい!

「とにかくバカな仕事は辞めて故郷へ帰ってきなさい」
母が強制ではない口調で言った。
「恵子おばさんがいい仕事紹介してくれるって。介護施設の……」
「おば」かさん……
「おば?」
「……おばさんによろしく言っといて」

敗北者の気分でトイレに行った。出てすぐの壁にポスターを目にした。
映画のオーディション? 新世代のアイドル募集? あぁ、私のことね。
溜め息をつきながら、私はほぼ無意識にそれに応募していた。