「…………」
「…………」
「…………よォ、しばらくぶりだな」
「…………あっ、バレた」

 なにがあったのかは定かではないが、なにかしらがあったのが明白だった。
 にもかかわらず、美神さんは素知らぬ顔で切り出す。

「悪いとは思うけど、間違ってたとは思ってないわよ。
 あの状況で残ってても話がこじれるだけだったし、面倒ごとに巻き込まれるのも好きじゃないもの」
「み、美神さぁん! なにしでしたんですかあ!?」
「なにしたっていうか、なにもしなかったというか」

 おどおどするおキヌさんをよそに、美神さんはしれっとしている。
 少しばかり間を空けて、ジャンさんは静かに答えた。

「別に責める気もねーよ。
 あんときは頭に来て怒鳴ったけど、終わったいまとなっちゃアレで正解だ」

 反論を待っていたのだろうか。
 意外そうに、美神さんの眉が揺れ動く。

「なによ、それ。
 私にとって正解だったけど、アンタにとっちゃ違うでしょ? 怒ればいいじゃない」
「…………はッ。ンなこたねーよ。
 お前が残ってたところで、あそこに転がる死体がもう一つ増えてただけだ。
 あのあといろいろあって丸く収まったんだけどな、その直後に気味の悪い動く人形が現れて――」

 ジャンさんは、自嘲気味に口角を吊り上げる。

「俺以外、全員殺されたんだからな」

 静寂が辺りを包む。
 誰一人として口を開かない。
 『気味の悪い動く人形』――心当たりがある、ありすぎる。

「その人形って言うのは……」

 尋ねようとして口籠もる。
 特徴を聞いたところで、どうなるというのか。
 それが誰なのかを知ったとして、なにになるというのか。

「安心しろよ。破片になるまでブッ壊してやった」

 ぽん――と、頭を軽く叩かれる。
 その手はひどく傷ついていた。

「なんだよ、美神。らしくねえじゃねえか」
「……なんでもないわよ」
「もし戻ってきたところで意味なかったって言ってんだから、気にしてんじゃねえよ」
「……別に。気になんかしてないわよ」
「そうかい」

 言葉に反して、美神さんは下唇を噛み締めていた。
 その理由を問うことなどできるはずもない。

「んで朧、このガキと霊はなんなんだ?
 こんだけやられたあとなんでな、役に立たねえヤツとつるむ気はねーぜ」
「見た目で判断するのはよくないですよ。その少年は伸びる余地があります」