問いかけると、美神さんは目を丸くした。

「もっと凹むと思ってたんだけど、結構タフね。
 うちの横島くんだったら、間違いなく二週は引きずるんだけど」
「そんな余裕、ありませんよ」

 そう、落ち込んでいる余裕はない。頭を切り替える。
 僕は普通の子どもにすぎないんだから、その分抗うんだ。
 全部なかったことにするのが無理なら、いまできることをやってやる――!

「落ち込んでたら、キース・ブラックの思うつぼだもの。
 一番の敵は、結界でも首輪でも殺し合いに乗った参加者でもない。
 諦めようとする自分自身の弱い考えが、なにより戦わなきゃいけないんだ」

 美神さんの目を見て言い切ってから、勢いよく頭を下げる。

「だから――覆っている結界を取り払う方法を教えてください」

 GSとして働いている美神さんにとって、結界の知識はそうそう明かせぬものだろう。
 おキヌさんの言葉通り利益優先主義であるのならば、なおさらである。
 ゆえに頭を下げる。
 それでもダメならば、他のなにかを考える。
 そう思っていると、美神の返事より先にエンジン音が響いた。

「……ッ!?」

 反射的に顔を上げると、美神さんとおキヌさんもそちらを見つめている。
 朧さんだけが一人、そちらに視線をやらずにあらぬ方向を眺めている。

「警戒する必要はないですよ。
 迫ってきている男が殺し合いに乗っている可能性はありません。
 苛立ちこそ溢れ出していますが、殺気は漂っていませんし――それに」

 エンジン音は、僕らから少し離れたところに止まった。
 原付を止めると、乗っていた男性がゆっくりと歩み寄ってくる。

「なにより、彼は最速のスプリガン――ジャン・ジャックモンドですから」

 長く伸ばした金色の髪を風になびかせて、ジャンさんは朧さんに鋭い視線を飛ばす。

「おいおい、なにバラしてんだよ。一応機密事項だろうが、そいつは」
「ふふ。元より、アナタは知りたければ知れというスタンスではないですか」
「はッ! 俺たちに軽々しく手ェ出したら終いだって、バカどもに知らしめてやるだけだろ」
「現状、手を出されていますけどね」
「だから分からせてやるんだろうが、あのしたり顔のキザ野郎によ」
「そう上手く行っていないようですが」
「ちッ。久々に会ったってのに見透かしたみてえな口調は変わんねーな、朧。
 でもその通りさ。なにも間違っちゃいねー、ボコられっぱなしだ。だが終わっちゃいねー。生きてる以上は、あの野郎に分からせてやる。
 アンタだって、言われるがままってワケじゃねーんだろ。もしそうなら、こんなガキたちがアンタと一緒にいられるはずがねえ」

 言いながら、ジャンさんは朧さんから視線を外す。
 辺りを見渡そうとして――ある一点でオブジェのように静止した。

「…………」

 そちらでは、美神さんがおキヌさんの背後に身を隠していた。
 けれどおキヌさんは幽霊であるので、まあ、うん。
 美神さんの姿は、見事に透けて見えている。
 それはもう完全に。まったくもって丸見えだった。