「っていうことは、キース・ブラックも美神さんのような能力を持っているのでしょうか」
「ほぼ間違いなくね。
 他人をつれてこれる辺り、私のより使い勝手いいんじゃないかしら」
「むむむ、強敵ですね」

 おキヌさんのほうも、大して気にしていないらしい。
 身体手に入れるって、それ相当のことだと思うんだけどなあ……
 いや、まあ置いとこう。
 すんなり片づいたのなら、それに越したことはない。
 なにより、いまの話題に乗っておきたい。

「あの美神さん、おキヌさんから話は聞いてます。
 アナタには時間移動能力がある――とのことですが、本当でしょうか」
「ん、まあ……ね」

 いままでの会話ですでに明らかだったが、あえて尋ねておいただけにすぎない。
 にもかかわらず、帰ってきた返事は曖昧なものだった。

「雷くらいのエネルギーがあれば発動できるようですが、それでこの殺し合いをなかったことにするのは可能ですか?」
「無理」

 またしても、美神さんは迷わなかった。
 おキヌさんが目を見開いているが、僕には大した驚きがない。
 朧さんも同じだったようで、平然としている。

「と、いうと」
「まず、ここに張られている結界。
 地図の端だけじゃなく上も、そして下まで張られてるでしょうね。
 ちょうどいまこのホウキで上昇して確認してきたんだけど、そっちから来たってことはアンタたちも見てきたの?」
「はい」
「張られてたでしょ? なんか、目には見えない壁みたいのが」
「……はい」
「それは、三次元的に物体を阻むだけの結界じゃないのよ。
 四次元的、つまり時空移動さえも完全に遮ってしまっている。
 だから――」

 一拍置いて、美神さんは断言する。

「無理」

 おキヌさんは驚き、僕と朧さんは驚かない。

「その結界を解除すれば、どうにかなりませんか?」
「うーん、それ考えてたんだけどね。まあ無理。
 ここを出なきゃいけないから、結界の解除は必須だと思うのよ。
 でもそれで『時空移動できるようになった! 全部なかったことにしよう!』は無理、少なくとも私には。
 私は時空移動能力を受け継いでいるけれど、決して完全に使いこなせるワケじゃないのよね。
 どれだけ膨大なエネルギーを集められたとしても、ちょうど過去のキース・ブラックが殺し合いを始めようとしているところに移動してー……ってのは無理」
「そう、ですか……」

 驚きはない。
 そう、ない。
 ないはずなのに……勝手にため息がこぼれた。
 多少なりとも、期待してしまっていたのだろう。
 けれど、それでも――大人しくかっこつけて諦めてなんかやらない。

「では結界について、教えていただけませんか?
 僕は『父親の方針』で様々な分野の知識を『まあまあ』持っているんですが、心霊関係についてはまったく知らないんです」