ドラえもん「道具を使って本気で戦いたいだって?」
移転してきました
650レス程の内容ですが
色々修正しつつ
ここで完全版を投下させて頂きまつ( * ´ω` * )
ジャイアン「急ぐぞ!」
ガンっ!
のび太が背を向けた瞬間である
鈍い音が響き渡ると共に後頭部に激痛が走った
のび太「――――――っ!」
ジャイアン「…悪いなのび太」
よろめきながらも後ろに振り返るのび太
ジャイアンの右手には『黄金バット』が握られていた
ジャイアン「長い付き合いだ。こんな時、俺が何て言うかわかるだろ?」
のび太〈た…立てない……酷い眩暈だ…体が思うように動…か……〉
ジャイアン「こいつは振りさえすれば周りのもの何でも打っちまうバットさ」
ジャイアンが『黄金バット』を思い切り振り上げる
ジャイアン「安心しろ、お前の背番号は永久欠番にとっておいてやる」
のび太〈ほ……本気だ…振り下ろすつもりだ……!避けられない…!〉
ジャイアン「あばよのび太!!」
のび太「っ………?」
のび太が恐る恐る見上げると
ジャイアンが片手を振り上げたまま必死にもがいていた
ジャイアン「さ…さっきの奴が…!俺にこんなもんを貼り付けて命令しやがった…」
のび太〈それは…『伍長』の階級ワッペン…!〉
ジャイアン「このバットでのび太を始末しろって言われてよ…!」
ジャイアン「いいか…!最初言ったのは…本心だからな……!」
ジャイアン「それが急にドス黒い命令が頭の中で膨れ上がって……!」
ジャイアン「…のび太…もう俺の意識は……何とか…してくれ…」
再び血走った眼に戻るジャイアン
のび太「こ…今度こそ殺されるかと思ったけど…ジャイアン…この時間は無駄にはしないよ…!」
のび太はバッグからチューブを取り出し
中の液体を手に垂らしていく…
のび太「…いくら野球が上手くたって…『黄金バット』でもこいつは打ちようがないぞ…!」
※空気ピストルのもと
この液体を指に垂らせば指一本につき一発だけ空気の弾を放てるようになる
のび太「両手に塗った…!計10発だ!くらえ!」
――――のび太の射撃の腕は本物である
かつて空気ピストルで射撃大会を開いた時も一人勝ち残った程だ
生まれる時代が違えば間違いなく名手として
遠い異国の地で名を刻んでいたであろう――――
スパァァン!!!
破裂音とともに衝撃波が大気を震わせた
のび太「―――……バカな…!全部…全部打ったのか!?」
のび太が撃つ寸前
ジャイアンは後ろに距離をとり
空気ピストルの弾を単発ずつ正確に往なしてみせた
のび太「野球が上手いとかってレベルじゃない…!」
のび太「今のは…何時どの指から発射されるか分かってないと絶対に出来ないぞ…!」
のび太「だ…駄目だ…次に詰め寄られたら……!」
ジャイアンから距離を取る為
のび太はタケコプターを取り出しスイッチを押した
ジャイアン「うははは!道具に引きずられてやがんの!逃がすかよ!」
のび太「この眩暈と…感覚が戻らない事にはどうしようもない……!」
――――――…
片手に掴んだタケコプターの勢いだけでひたすら逃げ続けるも
とうとう住宅街の行き止まりに追い詰められてしまった…
ジャイアン「一々手こずらせやがって…だけどもう終わりだ…」
のび太「これだ…今朝の…この感じ……!」
のび太「この追い詰められた状態を待ってたんだ…!」
のび太はジキルハイドを一錠飲みこんだ
のび太「よくよく考えてみれば逆転できる好機はいくらでもあるじゃない…!」
ジャイアン「血迷ったかのび太!ギッタギタにしてやる!」
のび太「『コエカタマリン』…この液体を飲めば発した声が固体で出てくる…」
のび太「振れば必ず当たる黄金バットでも…『音速』に反応できるかい…?」
ジャイアン「俺様に打てない打球は無い!」
のび太「そうかい…!!」ゴク…!
コエカタマリンを飲み干すのび太……
のび太「………『ヨ』!!」
ジャイアン「!?」
のび太は背後の壁に向かって声を発し
跳ね返って来た個体の『ヨ』にしがみついた
ジャイアン「何かと思えば所詮のび太!逃げるだけかよ!」
ジャイアンものび太と同じく『ヨ』の文字にしがみついた
ジャイアン「へへへへ…この字が地に降りた瞬間がのび太の最後だ…!」
のび太「そうそう…君にもこの字にしがみ付いて貰わなきゃ困る」
ジャイアン「何だと!?」
のび太「わざわざ掴みやすい文字にしたんだからね」
のび太「そしてこれでハッキリした事がある、今の君の反応速度は『異常』だ」
ジャイアン「…!」
のび太「自分のタイミングで発した文字、僕は稲妻ソックスの足で飛び込んでギリギリだった…」
のび太「それなのに君は跳ね返って来た文字を難なく掴んだ…」
ジャイアン「…お、俺にとっちゃ朝飯前よ」
のび太「さっきもおかしいと思ったよ…空気ピストルを撃つ寸前、君は僕から距離を置いた」
のび太「距離をとるという事は『反射』ではなく僕に『反応』して打っている事になる」
ジャイアン「………」
のび太「その『眼』……何秒先が見えているんだい?」
ジャイアン「な、何のことだか…」
ジャイアンは明らかに焦りを見せていた
のび太「とぼけるんじゃあない。ドラえもんの道具にはそういうのがあるんだ」
のび太「『イマニ目玉』だったっけな。ダイヤルを合わせた分だけ未来が見える」
ジャイアン「のび太の癖に生意気だぞ!ここで叩き落してやろうか!」
ジャイアンはバットを振り上げて脅すも、のび太は微動だにしない
ジャイアン〈こ…こいつ…!ちっとも怯えてねぇ…!〉
のび太「僕が怖いのはジャイアンだ。ワッペンで操られた君じゃあない」
ジャイアン「のび太ァ!!」
のび太「どうやらあまり先の未来をみていないようだね」
ジャイアン「あ!?こんにゃろ!下に飛び降りる気だな!?」
のび太が飛び降りると同時にジャイアンも下に飛び降りた
ジャイアン「海!?」
ザパァアァァン!!
ジャイアン〈あ…あぶねぇ…息継ぎ間に合ったぜ…!〉
ジャイアン「もが……ゴバァ!?」
のび太〈今更気づいても手遅れだよ!〉
のび太「『ア』!!」
のび太の発した声の塊は
ジャイアンを陸地へと叩きつけた
ジャイアン「」ピクピク
のび太〈……いくら予知が出来てもここは海…水の中じゃあ素振りもままならない〉
のび太〈それに水中では地上より数倍早く音が伝わるんだ、今の君じゃ予知出来ても絶対に打てない訳さ…〉
ジャイアン「うう…ここは…」
のび太「ジャイアン!気がついたかい!?」
ジャイアン「ああ…終わったんだな…」
のび太「ワッペンが上着に付いてたおかげで助かったよ。これを脱いでおけばもう大丈夫」
ジャイアン「…面目ねぇ…」
のび太「気にしないでよ。『イマニ目玉』は壊れてたけど『黄金バット』は…回収できた……」
ジャイアン「いいや!俺の気がおさまらねぇ!お前の気がすむまで俺を殴……のび太?」
ジャイアン「寝てやがる……」
ジャイアン「……タケコプター、使わせてもらうぜ」
ピンポーン
スネ夫「はいはい今出ます〈予約した例のゲームが届いたのかな…〉」ガチャ
ジャイアン「よぉスネ夫」
スネ夫「ジャイアン!?それに…のび太なんか担いでどうしたんだい?」
ジャイアン「わけは後で話す、ちょっと上がらせてもらうぜ」
スネ夫「え…ええどうぞどうぞ〈最新ゲームが取られちゃう…〉」
ジャイアン「……今日は何もとらねぇから安心しろ」
スネ夫「…嘘だ!絶対いつもみたいにとる!」
ジャイアン「!おい怪我人を介抱するだけだって…」
スネ夫「許さないぞ!いつもいつも!ジャイアンが悪いんだ!」
ジャイアン「うぉぉ!!」
のび太を背負った無防備のジャイアンに
スネ夫が殴りかかる
スネ夫「『チャンピオングローブ』!!これを付ければどんな相手にも負けない!!」
ジャイアン「や…やろう…!既にワッペンを貼られてたか…!」
スネ夫「ジャイアンは剥がしたのかい?『軍曹』の僕が命令してやろうと思ってたのに」
のび太「うっ…今の衝撃は…」
ジャイアン「のび太、起きたか…どうやらスネ夫も手遅れらしいぜ…!」
のび太「それよりジャイアン……脇腹を…殴られたのかい…?」
ジャイアン「こんなのどうってことないぜ…うぷっ!?」
強がるジャイアンだったが
不意打ちのダメージは相当なものだった
のび太「くそう…僕は…立ち上がる余力も…ない…」
ジャイアン「俺のツケを払う時が来たんだ…!のび太はそこで寝てな」
のび太「む…無茶だ……チャンピオングローブ相手に…」
のび太「せめてこれを…あのグローブと互角に戦える道具……」
のび太は『あいこグローブ』をジャイアンに差し出した
ジャイアン「道具で勝つってのは気にいらないが…相手が使っているんじゃしかたねぇ!」
スネ夫「ジャイアン!プライドを捨てるのかい!?君ほどの男が!」
ジャイアン「見損なってくれるなよ…!全部……お前等の為だぜ!」
咆哮とともに繰り出したジャイアンの拳は
チャンピオングローブのガードを弾きとばした
スネ夫「フリッカージャブか!………腐ってもジャイアン、喧嘩慣れしてやがる…でもね!」
ジャイアン「―――っ!」
ジャイアンがたて続けに繰り出した拳を捌き
チャンピオングローブはジャイアンの頬にめり込んだ
のび太「ク…クロスカウンター……!」
スネ夫「このグローブはあらゆる戦闘技術を体現出来るんだ!」
ジャイアン「くそっ…油断してたぜ…!」
のび太「ス…スネ夫のあの眼…!生体実験をしている科学者の様な…冷静と情熱が入り混じったあの眼は…!」
のび太「『観察』している…!今のダメージがどの程度か観察しているぞ…!」
ジャイアン「スネ夫め……な…生意気なやつだ…その余裕をへし折ってやるぜ!」
のび太「僕も…何とか他の道具で援護を…!」ゴソゴソ
?「ふむ…状況は芳しく無い様だ……」
玄関で倒れているのび太の背後から突如男が現れた
スネ夫「『曹長』!?まだいらしてたんですか!?」
ジャイアン「おめぇは…さっき俺にワッペンを貼りやがった奴…!」
曹長、と呼ばれた男がため息をつきながら応えた
曹長「失態ですね……どうやら服にワッペンを貼るのはいけなかった様で…」
のび太〈スネ夫も服にワッペンが…!〉
曹長「いや〜ボスにお叱りを受ける事になる…『准士官』殿が出木杉という少年の服に貼ったと自慢していたのでつい…」
ジャイアン「なんだと!?出木杉も悪者になっちまったってのか!?」
曹長「それにしても野比氏は抜け目のない…か弱い娘には先に完全バリアを施しているなんてね」
のび太「っ!…ジャイアン!ワッペンの付いたスネ夫の服を破けばこっちの勝ちだ!」
ジャイアン「わかってるけどよ…!それが出来ないからかきたくも無い汗をかいてるんだぜ…!」
曹長「おっと…貴方にはここでゲームオーバーとなってもらいますよ」
チク…タク…チク…タク…
のび太「…え!?」
のび太は音のする方を見上げる…!
ジャイアンの首筋に貼られているシール…
あれは…!
曹長「『チクタクボンワッペン』…時限爆弾、とでも言っておきましょうか」
ジャイアン「俺の首にッ!?」
曹長「それと…野比氏にも特別な物を貼っておきましたよ。君の『ずらしんぼ』が厄介なんでね」
曹長が手首を指差し
侮蔑の微笑を含みながら言った
のび太「こ…この道具は!!!」
のび太の手首には一枚のバンドエイドが貼られていた…
このバンドエイド、『ドジバン』といって
貼られたら何をやろうとしても失敗に終わる
のび太「い…いつの間に貼ったんだ!?」
曹長「ハハハ!爆発に巻き込まれるのは嫌なので外から観察しておきますよ!」
曹長は望遠鏡を覗き込むと姿を消した
※手に取り望遠鏡
望遠鏡で覗き込んだ物を手で掴み、取り寄せられる。木など固定された物を掴むと逆に向こうへ移動できる
のび太「望遠鏡で遠くから貼ったのか…この道具…はやく剥がさないと…」
のび太「『ずらしんぼ』で…バンドエイドを地面にずらす!」
スネ夫「うわぁぁぁぁぁ!!!」
ボキッ!
のび太「っ!?」
ジャイアンと交戦中のスネ夫がこちらに吹っ飛ばされたはずみで
握っていた『ずらすんぼ』が折れてしまった
曹長「フフフフフ…本来なら剛田氏の裏切りを上に報告しに行きたいところですが…」
曹長「人が苦しんでいる様を見逃してしまうのは勿体ない…」
のび太「木の上で高みの見物…いつでも逃げれる準備はしてあるって事か…」
のび太〈マズいぞ…新しい道具を出したら…僕は必ず『失敗』する…!〉
相手はいつでも逃げ出せる位置から『手に取り望遠鏡』で様子を伺っている
今、道具を取り出そうとすれば失敗に終わり
最悪、『取り寄せバッグ』が奪取されてしまうのだ
『あなただけのものガス』を吹きかけてあるとは言え『ドジバン』が付いた今、安全だと保障できるものでは無かった…
のび太〈何とかしてこの状況を切り抜けなければ……!〉
曹長〈…おや?野比氏の手…道具を取り出す素振りは見せていない様でしたが…?〉
曹長が現れる前…
スネ夫と対峙したジャイアンを援護するため
のび太はずらしんぼの他に、もうひとつ道具を取り出していた
のび太〈……しかし、二人はどうやって助ける…?ジャイアンの爆弾をどうやって剥がせばいい?〉
のび太〈今の僕じゃあ……ジャイアンとスネ夫を助ける方法が思いつかない……!〉
曹長「何ですかね、その丸い粒は?」
のび太「ぐっ…!!」
再び部屋の中に戻ってきた曹長は
のび太の手首を踏みながら不敵に微笑んだ…!
曹長「貴方は本当に抜け目の無い人だ」
曹長「この粒のような物を…どうするおつもりで…?」
のび太「……」
曹長「今の貴方は何をやっても失敗してしまうのですよ?」
のび太「……」
曹長「…黙ってないで何か答えたらどうですッ!!!」
のび太「ウガァアアアア!!!」
のび太〈ブーツのかかと…痛すぎる…!!〉
曹長「…よろしい、これは没収します」
のび太「……!!」
曹長「この状況、不自由なあなたが使うのでは無く骨川氏か剛田氏に使うと見ました」
曹長「錠剤かと思いましたが…『肌に付着させる物』なら、今のあなたの状態でも十分使用可能…」
曹長「『ドジバン』と同じく、付着させるとあまりメリットが無い類の物なのでしょう?」
曹長がのび太に歩み寄る
のび太「何を…!!」
曹長「……貴方自身、その身をもって確かめさせてもらいましょうか!!」
のび太「さっきの『ずらしんぼ』は僕が握っていたから『失敗』したんだ…!」
曹長「……?」
のび太「初歩的なミスだね…僕の行いは全て失敗するけど…君なら失敗しないだろう…!?」
のび太は自身の手首に貼ってあった『ドジバン』を剥がした
曹長「えッ?えッ?」
のび太「君が僕に付けたこの粒は『人間ラジコン』の受信機さ…!誰に付けられても良い様に『自動操縦』にしてあったんだ…!」
のび太「自分の意思で動く事は出来ないが…こいつは『善』に全力を尽くす行動をしてくれるからね……!」
のび太「僕の肉体が限界を超えても…君を地の果てまで追い詰めてやるぞ…!」
曹長「は…速い!!」
望遠鏡を使い、部屋から瞬く間にいなくなった曹長だが
稲妻ソックスに加え『自動操縦』であるのび太は
寸分狂わず最短距離で曹長に詰め寄る…!
手に取り望遠鏡で移動できる距離では差を広げる事が困難であった
のび太〈体が…軋む…けど!逃がさないぞ!!〉
曹長〈まずい…勝つ見込みがあるとすれば…先程の骨川氏を利用するしか…!〉
のび太「…何だ…?来た道を戻っていくぞ…!」
曹長〈どんどん距離の差を縮めて来ているものの…全力疾走の野比氏も流石に疲労を隠せない様で…〉
曹長「ふむ…肉体の疲労か……良い事を思いつきましたよ!!」
ーとある公園ー
のび太「…はぁ…はぁ……追いついた…」
曹長「上の者に道具を渡された時…私の戦略は『ドジバン』を貼って貴方の自爆を誘うしか道が残されていませんでした」
のび太「……?」
曹長「つまり『ドジバン』を看破された時点で貴方を倒す術が無くなったわけです」
曹長「ですが…その道具を攻略する際、貴方にはひとつの『弱点』が生まれた…!」
曹長「それが……これですッ!!」
のび太「……!!」
曹長は懐から瓶を取り出し、飲んでみせた
のび太「今のは…『トロリン』ッ!?」
曹長「御名答、私の体はこれで『液体』になった。自動操縦の貴方では私を倒す事は不可能…!」
のび太「……それなら何か道具で君を『固体』に戻せば…うぉぉっ!!」
ドゴォン!
人間リモコンはのび太の意思とは裏腹に
液体となった曹長を殴りつけるように体を操った
のび太「無駄だ!畜生!これじゃあダメージは無いんだよっ!」
曹長「ハハハハハ!道具に何を言っても無駄!早く疲弊しきって命乞いをする様を見てみたいものです!」
のび太の必死の訴えも空しく、水溜りごと地を抉る音が
何度も公園に響き渡った…
のび太「はぁ…はぁ………こ、今度は何だ!?足が勝手にッ!?」
曹長「おや?今なら何らかの道具を使えば私を倒せる絶好の機会だというのに…」
のび太の足は水溜りとなった曹長から
どんどん離れていく…!
のび太「バカなッ!?『人間リモコン』!逃げるつもりなのかッ!?僕の意思を汲んではくれないのか!?」
のび太〈いや…人間リモコンの行動は『善』だ…つまりこの目の前の敵を倒す事より大事な用が…〉
のび太「あるわけ無いだろうッ!?今奴を倒さずに何時倒すってんだッ!!」
曹長「長距離走ご苦労様、とでも言っておきましょうか……アハハハハハ!」
のび太〈今の僕じゃあとてもこの状況を突破できる気がしない……!悔しいが…完敗だ…!〉
今朝からの連戦、度重なる疲労、そして敗走…
肉体を酷使し続け、のび太の心身は既にボロボロであった
のび太〈僕は……どこへ行くのだろう……このまま…死ぬのだろうか…〉
人間リモコンによって操られたのび太は歩みを止める
辿り着いたのは一軒のアイスクリーム屋
客、というより近所の子供達に泣きつかれ
店主が困った様な顔をしている…
のび太は操られるがまま、持っていた500円玉を差し出すと
子供達の顔に笑顔が戻った
店主「いやー助かった!こっちも奢りたい気持ちはあれど…一応商売なんでねぇ」
のび太「子供を甘やかしすぎるのも、良くないですもんね…」
店主「まぁそういう事だ。へへへ、ちょっと待ってな…」
店主はのび太に
コーラフロートが入ったジョッキを渡した
この炎天下、今朝から何も口にしていないのび太にとって
これ以上無い施しであったが…
人間リモコンに操られるがまま貪りつくも、内心は躊躇していた
明らかにお釣りの量を超えていたからだ
のび太「あんまり子供を甘やかすなって今言ってた所じゃ…」
店主「情けは巡り巡って自分に返ってくるってのも教育上大切な事だぞ、少年!」
ー30分後ー
曹長「流石は『自動操縦』、こうもあっさり見つかってしまいましたか……」
のび太「何処へ着くかと思ったら……また君か……」
曹長「まさか懲りずに私の元へ来るとは……単純な機械に頼ってしまいましたね」
のび太「ああ……それならもうどうでもいいんだ……」
曹長「とうとう諦めましたか……どちらにせよ、その受信機が付いている限りあなたは何も出来ないでしょうからね」
のび太「二人を助けられなかったのが何より残念だよ……」
曹長「では大人しく貴方がボスから奪った道具を返してもらいましょうか」
のび太「何を言っているんだ?」
曹長「往生際の悪い…ッ!」
曹長「今自身で何と言いましたッ!?勝負などどうでもいいと仰ったでしょう!」
のび太「どうでもいいって言ったのは…この勝負の決着がついたからさ」
曹長「!?」
曹長はのび太の発言にたじろいだ
それはのび太の顔付きがさっきまでの疲弊したものでは無く
清々しい爽やかな顔であったからに他ならない
曹長〈馬鹿な…ハッタリに決まっている…!〉
のび太「もう一度言う。勝負は終わりだよ」
のび太「君は僕の不意打ちに身構えてずっとその姿で隠れていたのかい?」
曹長「……それが、どうしたと言うのです…」
のび太「僕はね、君がそうやって息を潜めている間『休憩』していたんだ」
曹長「……ずいぶんなめられたものですね、お友達が命の危険にさらされているというのに」
のび太「いいや、君が言ったんだ『僕を倒す術が無い』と」
のび太「だからお言葉に甘えて休憩させてもらったよ。君は僕から逃げる事しか出来ないからね」
曹長「ほう、しかし再び私を見つけたところで殴る術は無く……貴方の行動も徒労に終わると思いますが…?」
曹長「さぁ、もうひと運動してもらいましょうか!!」
のび太「もちろんそうさせてもらいたいのは山々なんだけど…」
曹長「………どうした、何故動かない」
のび太「この『人間リモコン』…君を殴らせようとしないんだよ。どういう事かわかるかい?」
のび太「君を『脅威』だと認識しないんだ。今は他の人に助けを求められるまでじっと待っている感じだ」
曹長〈このガキ…!〉
今までの落ち着いた態度から打って変わり
曹長が口調を荒らげる…!
曹長「まだ『トロリン』の効果は続いているんだ!さっさと負けを認めたらどうだ!!」
のび太「それだ……!」
曹長「……!?」
のび太「君のその『トロリン』がいけない……」
曹長「聞き分けの悪い……!!」
のび太「さっき確認したんだけど今日が何月何日で……今、何時か知っているかい?」
曹長「……?」
7月13日の午後2時…
真夏の兆し、プール開き真っ盛りの時期である
のび太「最近授業で耳にした知識なんだけど、人間の体の半分以上は『水分』で出来ているらしいね」
のび太「この、日差しが照りつける中、道路の温度も相当なものだ、君はその上で長い時間水溜りになっていた」
のび太「さっき休憩しながら思ったよ、君の体の水分はもう大分無くなっているんじゃないかってね」
曹長「ばかばかしい……生命維持が困難な程に私の体内の水分が奪われたと?ありえないな!」
のび太「もし『自覚』が無かったとしたら……?」
曹長「………!」
液体となった体に喉が『渇く』という感覚が果たしてあるのだろうか…
そしてのび太を操る人間リモコンの自動操縦が作動していない現実
曹長は自身の顔が不安と恐怖で引きつっていくのがわかった
曹長「く…くそ…そんな、そんな馬鹿な事があるはず…無い!」
のび太「……実体化するならどこか水のある場所をお勧めするよ…」
曹長「そんなハズは無ァい!!!」
のび太「駄目だ!こっちに来たら…!」
曹長「うわぁぁぁぁ!!?」
曹長の体がみるみる蒸発していく…!
曹長「これはッ!?マンホールッ!!?熱いッ!!!か、体がァ!!!」
曹長「アアアアァァァァ……」シュウゥゥゥ…
のび太「……お互い自分の道具に負けるなんて…皮肉なもんだ」
しかし敵を倒したところでのび太は『人間リモコン』に操られるがまま…
先ほどの様な恩を受ける事が今後も無ければ餓死するまで彷徨う事になる……
のび太は再びどこかに向かい走り出した…
のび太〈稲妻ソックスで町を駆け抜けるのは気持ちがいいなぁ…〉
のび太〈けれど道具を使うだけで……自分から何かしようとした覚えがあんまり無いな…………〉
のび太〈ドラえもんも愛想を付かすわけだよ……〉
のび太〈あれは………見覚えのある人影だ……あの下品なヘアースタイル…〉
のび太〈スネ夫みたいな髪だ………スネ夫?〉
のび太「……スネ夫!?スネ夫なのか!?ジャイアンは、ジャイアンはどこだ!?」
のび太の目の前には
泣き崩れたスネ夫がいた
スネ夫「あああ〜のび太〜…ジャイアンを…ジャイアンを助けてくれよぉ〜」
のび太「落ち着いて!…それより君、スネ夫なのか!?元に戻ったんだね!?」
スネ夫「ジャイアンが身を徹して爆発から守ってくれたんだ……」
スネ夫「僕は上着が破れただけで済んだけど…ジャイアンがぁ…うわあああん!」
のび太「僕の額に付いたこの受信機を…外してくれないか?」
スネ夫「そんな物外してどうするんだ……?」
のび太「ジャイアンを……助ける!!」
スネ夫「ほ、本当かい!?ジャイアンは助かるのかい!?今外すよ!」プチッ!
のび太「良し!……腕さえ動かせれば!」
のび太はとりよせバッグからボロボロのジャイアンを取り寄せ
タイム風呂敷を被せた
ジャイアンの傷口がみるみる治っていく…
ジャイアン「……のび太!スネ夫!無事か!」
スネ夫「それはこっちの台詞だよ!」
ジャイアン「おお心の友よ!!」がしっ!
のび太「ちょ、ジャイアン…痛いってば…」
―――敵も諦めたのか
その後、ドラえもんの部下達の猛襲が続くことは無かった。
今朝からの怒涛の追撃をとうとう退けた事を実感した三人は
安堵の胸を撫で下ろすのであった。
のび太「ドラえもん、こうやって人に危害を加えて恥ずかしいと思わないのか。人の命をなんだと思っているんだ。恥を知れ!」
ーとある家ー
ドラえもん「誰だい?」
中将「私ですけど……」
ドラえもん「ああ…どうしたんだい中将?」
中将「ターゲットが『大佐』と一戦交えた模様。それと『兵長』と『曹長』から報告がありません、恐らく…」
ドラえもん〈一日で二人もやられたか……のび太め、なかなかやるな……〉
ドラえもん「そうかい。じゃあ次の強襲日を決めておくよ」
中将「……」
ドラえもん「何か言いたげな顔だね…?」
中将「あの……ボス、お言葉ですが…」
ドラえもん「何だい?」
中将「葬るのなら今すぐに全戦力を向けて潰すべきです。」
ドラえもん「ふむ…」
中将「ターゲットの疲労も相当蓄積されているはず。今なら我々で…」
ドラえもん「う〜ん…」
中将「全戦力とは言わずとも、間髪を入れず戦力を投入し続けるべきでは?」
ドラえもん「今すぐってわけにもいかないんだなぁこれが…」
中将「?」
ドラえもん「『階級ワッペン』はいくつあるか知っているかい?」
大将〈ドラえもん〉
中将、少将
大佐〈校内放送の男〉
中佐、少佐
大尉、中尉、少尉
准士官
曹長〈手に取り望遠鏡の男〉
軍曹〈スネオ〉
伍長〈ジャイアン〉
兵長〈そっくりクレヨンの少年〉
上等兵、一等兵、二等兵
中将「17…ですね」
ドラえもん「僕は准士官より低い階級にはワッペンを貼っていない。残りの人選は全て部下に任せている。」
ドラえもん「それと道具の編成も……何名かは僕が選んだけど殆ど君と准士官に任せてる。」
中将「私と面識の無い部下も数名おりますが……よろしいのでしょうか?」
ドラえもん「別にかまわないよ……あまりこういう言い方はしたくは無いが、下の階級の者は『捨て駒』なんだ」
ドラえもん「僕の部下がちゃんと仕事をし終えていたなら…」
ドラえもん「君達、上の階級の者と戦うまでに、のび太は実に10回近い戦闘をこなすことになるだろうね」
中将「実戦による成長度合いは未知数です。あまり経験を積ませない方がよろしいのでは…?」
ドラえもん「いいや逆だよ。戦わせれば戦わせるほどこちらの勝率が上がると言っていい」
中将「?」
ドラえもん「五割の勝率と十割に近い勝率……誰だって後者を選ぶよね?」
中将「……この時間差襲撃の意図は疲労させるのでは無く、ターゲットが持ついくつかの凶悪な道具を消耗させる事にあると……?」
ドラえもん「その通りッ!忌々しい奴を墜とすには『早期決着』ではなく、ある種の『兵糧攻め』にも似た『持久戦』ッ!」
ドラえもん「というわけで、戦いの日までしばらく暇だろう?バカンスでも楽しんできてよ」
中将「…失礼します」
―――しばらくの間、のび太達を襲ってくる者は現れず拮抗状態が続く…
10日目…
痺れを切らしたのはのび太の方であった
タイムマシンが何時、直されるかわからない現状…
早期決着を迎えたい彼にとって、一刻の猶予も残されていないと言えよう
7月23日…
この日、ドラえもんを討つべく、のび太はひとつの『賭け』に出る…
――7月23日、朝――――――…
ースネオ宅ー
スネ夫「今日だけ単独行動するだって?」
のび太「悪いけど……」
スネ夫「ぼ…僕はいいさ…でもジャイアンが許してくれるかどうか…」
ピンポーーン
のび太「噂をすれば…」
ジャイアン「おーーい!今日も作戦会議するぞーーっ!」
のび太「ジャイアンには上手く言っておいてくれよ!『通り抜けフープ』ッ!」
スネ夫「ああっおい!……困ったなぁ、あれからすっかりお節介だからなジャイアンの奴…どう誤魔化そうか…」
ー街ー
のび太「しかし本当に何も無いなぁ……」
のび太「出木杉は留守だし、しずちゃんも特に変わった様子は無い……」
のび太「今日こそあれを使うか……だけど、チャンスは一回だ……」
のび太「今すぐに使うべきか……」
「ふぇぇぇん……ふぇぇん……」
のび太「……何だ…?」
のび太が悩みながら朝の街を歩いていると
シャッターの前で泣いている女の子を見つけた
のび太「どうしたんだい?」
幼女「……ふぇぇ…?」
のび太〈……何だか……とてつもない誤解をされそうだなぁ……〉
幼女「お金が…お金が足りないよぅ……」
のび太「うーん困ったな……いくらだい?」
幼女「ごじゅーえん……」
幼女「ふぇぇん……ふぇぇん……」
のび太〈…50円か……ま、いっか〉
のび太「それくらいなら……」
のび太は女の子に50円玉をさしだした
幼女「ふぇぇ…ありがとぅ…」
のび太「それにしても何でこんなとこにいるんだい?お母さんは?」
幼女「ふぇぇ…いないよぅ……」
のび太「迷子か…まいったなぁ…」
幼女「ふぇぇ…迷子だよぉ……」
のび太「そっか………」
のび太〈やっぱり……とてつもない誤解をされそうだなぁ……離れよう……〉
のび太「君も一人でこんなとこにいちゃ危ないよ、お店まだシャッター閉まってるし…」
幼女「ふぇぇ…危ないよぅ……」
のび太〈しょうがない…あそこの雑貨屋のおばちゃんにでも子守を頼んで…〉
幼女「――…今に連なる総ての始まりと終焉を司るデウスの腕≪かいな≫から 我を安息の地へと誘い給え」
のび太「え?」
幼女「ガイアの潮流よ、我が身を纏い 虚大なるスピラを成さん」
ドパァ―――z___ン☆
のび太「――――――ッ!?」
少女が何かを唱え終えると
足元からまばゆい光が溢れ出し
のび太達をあっという間に包み込んだ――――――…
のび太「――――………何だったんだ今のは……?」
ガラガラガラガラ…
店員「へい!いらっしゃい!」
のび太「あ…………」
幼女「ふぇぇ…おみせ開いたよぅ……」テクテク
のび太「…………」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨・・・
のび太〈どういうことだ………!?〉
のび太〈女の子が…ヘンなお経を唱えだしたかと思ったら…〉
のび太〈お店が開店したッ!!〉
のび太「……どうかしてるな、僕は…!」
のび太「……ごくっ」
ジキルハイドを手の平いっぱいに取り出し
それを全て口に含むのび太
のび太「……普通に考えて……これはつまり『敵襲』じゃあないか。しかし…」
のび太「ドラえもんの奴、あんな小さい子までも傘下においたのか!?」
幼女「ふぇぇ…おみせの人がおまけしてくれたよぅ……」
のび太「クレープ買いに来たのかい?」
幼女「ふぇぇ…おにぃちゃん…一緒にたべよぅ……」
のび太「えー…うん…〈調子狂うなぁ…本当にドラえもんの部下なんだろうか……〉」
のび太〈そもそも階級ワッペンが見当たらないぞ…こんな子が、戦いに……?〉
幼女「ふぇぇ…ごちそうさまぁ……」
のび太「はやいよ、もっと噛んで食べないと…って、一箇所かじっただけじゃない」
幼女「ふぇぇ…これじゃないよぅ……」
のび太「?」
幼女「かすたーどでずねーろーるが食べたいよぅ……」
カスタードデズネーロール
それは日本最大級の遊園地「デズネーランド」にのみ販売されている
大人気クレープである
魔女によってお菓子の屋敷に招待された貴族の子供達が赴くままにお菓子を食していく内に
自分達がクレープの生地にされてしまうという何とも後味の悪い原作があるのだが
その 他作品と一線を画すホラーな作品のクレープが元になっている事で話題を呼び
今日に至る……
のび太「また贅沢言うなぁ…残念だけどここじゃあそんな高価なクレープ……」
女の子がのび太の手を握った
のび太「え…ちょっ……」
幼女「――…久遠の昔より旅人はかく語りき、悠久の大河を経て聖域(ここ)に 我にその大いなる“運命石の扉”を紐解け」
のび太「!?」
ドパァ―――z___ン☆
ガヤガヤワイワイ…
のび太「ここは――――――ッ!?」
幼女「ふぇぇ…着いたよぅ……」
のび太が空を仰ぐと
巨大な観覧車が眼前を覆っていた
のび太「デズネーランド……!」
のび太〈――――馬鹿なッ!!まるで……どこでもドアじゃないかッ!!〉
のび太〈だけど道具を使った様子はないぞ!?〉
幼女「ふぇぇ…おにぃちゃんの分だよぅ……」
のび太「ああ……ありがと……え?」
幼女「ふぇぇ…いただきまぁす……」はむっ…
のび太「代金はどうしたの?」
幼女「ふぇぇ…あついよぅ……」
のび太「…そりゃあ出来たてだから熱いよ」
幼女「――…混沌の渓谷より吹きし死の風よ、大地の息吹を天に還し 宵闇を纏いし深き朱を砕け」
ドパァ―――z___ン☆
突如、デズネーランドは猛吹雪に見舞われた…!
握りこぶし程の雪の塊や雹が辺り一面に降り注いでいく
四方から人々の逃げ惑う悲鳴が次々と飛び交った
のび太「――――う…」
幼女「ふぇぇ…くれーぷおいしいよぅ……」
のび太「やはり…君なのか…さっきからこの異常な…現象を起こしているのは……」
幼女「ふぇぇ…みんなさむそうだよぅ……」
のび太「きみ…今すぐ……この……吹雪を………」
幼女「ふぇっwwwwふぇぇwwwwwwwwwww」
のび太「!?」
幼女「ふぇぇwwwwwみんな倒れていくよぅwwwwwwwwwwwwwwww」
のび太「………『悪意』の無い…無垢な悪ほど…邪悪なものはない…ッ!」
のび太は女の子のフードを掴み上げた
幼女「…ふぇぇ…?」
のび太「戻すんだッ!全て元通りにッ!!」
幼女「ふぇぇ……おにぃちゃんこわいよぅ…」
のび太「元に戻すんだよッ!出来るだろうッ!?」
幼女「――ガイアの潮流よ、我が身を纏い 虚大なるスピラを成さん」
ドパァ―――z___ン☆
――――――…
のび太「――――…時が戻った……!」
閉じているシャッターの前で
少女がぼんやりと両手を見つめていた
幼女「ふぇぇ…くれーぷ無くなっちゃったよぅ………」
のび太「こんなぶっ飛んだ超常現象を起こせる道具があるとすれば……!」
のび太「自分で魔法を作って使える道具…『魔法事典』だけだ!!」
※魔法事典
この辞典に書き込むことで、魔法が使えるようになる
『魔法事典』は魔法が自由に作れる反面
デメリットがあった
それは、持ち主以外の者が偶然その呪文を唱えても、魔法が発現するという点である
そして使用者が作った呪文を『逆から唱える』ことで、使用者の魔法の効力が消えてしまう
のび太「しかしあんな長い詠唱……デメリットどころか最強じゃあないか……!」
幼女「ふぇぇ…?」
のび太「君、どこでこの道具を?……それに、シールか何か貼られなかったかい?」
幼女「ふぇぇ…あしたもらったよぅ…まほうがつかいたぃっていったら…もらったよぅ…」
のび太「は…?」
幼女「あした、みどりのしーるをはられて…あおいたぬきさんに本をもらって…しーるもはがしてもらったよぅ…」
のび太〈…あ、頭がパニックで割れそうだ……時が戻ったからジキルハイドを飲んでいない状態なのか僕は…〉
のび太は必死に少女の言葉を整理した
のび太「明日この子は緑のシール、つまり階級ワッペンを貼られる……明日って事は未来から来たのか?」
のび太「そして青い狸さん、即ちドラえもんに『魔法事典』をもらう…」
のび太〈『魔法事典』…僕はすっかり忘れていた。目の前で数回魔法を使われてやっと見当がついたくらいだ……〉
のび太「その後、ドラえもんはわざわざ貼ったワッペンを剥がした……」
のび太「……緑の階級ワッペンは確か『一等兵』だったな……」
のび太〈……う〜ん限界だ……知恵熱で死んじゃう………〉
のび太は一日分あろうかという程の量のジキルハイドを目一杯口に含んだ
のび太「明日の事を含むんだ。状況は理解できなくてもいい。それでもいくつかのケースを想定しておかなければ……」
のび太「僕は今日ドラえもんを探し当てるつもりだった…仮説としては、この後、僕はドラえもんに『魔法事典』で殺されて…」
のび太「翌日、入れ違いで部下が引き込んだこの子に、面白半分で道具を渡してみたら…この子が魔法でワッペンを剥がして過去に遡った……?」
のび太「そして今、僕の目の前にいる……辻褄を合わせるとしたらこんなところかな。」
のび太は取り寄せバッグを使い
少女から『魔法事典』を取り上げた
幼女「…ふぇぇ…?」
のび太「悪いけど、この『魔法事典』、没収させてもらうよ。これは危険すぎる」
幼女「………」
のび太「じゃあね、ママのところに帰りなよ」
幼女「…ふぇぇん……かぇしてよぅ……」
のび太「駄目だ、もう一度言うけどこれはとても危ない道具で…」
幼女「――…混沌の渓谷より吹きし死の風よ、大地の息吹を天に還し 宵闇を纏いし深き朱を砕け」
のび太「!」
ドパァ―――z___ン☆
幼女「ふぇぇwwwwふぇぇwwwwwwwwwwwwwww」
快晴だった天気は一変し
街に猛吹雪が吹き荒れる…!
幼女「ふぇぇwwwつめたいよぅwwwwwwwww」
ビュゴオオオオオオオオオ……
のび太「…やっぱり君なんかに、こんな危ない物を持たせるわけにはいかない…」
幼女「ふぇ…」
のび太〈この『オールシーズンバッジ』があれば、猛吹雪だろうと僕の周り数メートルには影響がない…!〉
幼女「……………」
幼女「――…今に連なる総ての始まりと終焉を司るデウスの腕≪かいな≫から 我を安息の地へと誘い給え」
幼女「ガイアの潮流よ、我が身を纏い 虚大なるスピラを成さん」
ドパァ―――z___ン☆
ビュゴオオオオオオオオオ……
幼女「ふぇぇwwwwwゆきだるまだよぅwwwwwwwwwwwww」
のび太〈時を数時間先へ進めたのか…!!積もって前が見えないぞ……!〉
のび太「けど…僕には『スーパー手袋』の怪力があるんだ!こんな雪くらい掻き分けて…!」
ゴバァァァッ!
幼女「ふぇ…」
のび太〈このままでは近隣の被害が酷い…僕も魔法を作ってこの現状を……〉
幼女「――…虚ろなる闇に生まれしものよ、非情の腕≪かいな≫をもって 忘却の海に沈み逝く記憶を縛れ」
ドパァ―――z___ン☆
のび太「事典が…ッ!開かないッ!!」
幼女「ふぇぇwwwwぁかないよぅwwwwwwwwwwwwwふぇぇwwwぁかないよぅwwwwwwwwwwwww」
のび太「こいつ…ッ!」
幼女「――…炮烙の乙女よ、大いなる意思によって刻印を定め 有りて罪多き回廊を導かん」
ドパァ―――z___ン☆
のび太「事典がひとりでに…あの子の手に戻っていく…ッ!」
幼女「ふぇぇ……返してもらったよぅ……つぎのまほぅでおしまぃだよぅ……」
のび太〈あまり深く考えていない……この子は『直感』で次の手を打ってくる……!〉
のび太〈子供の思考で考えるんだ…!目の前に敵がいたら…どうする…!?〉
目の前に障害があれば
誰だって取り除こうとするだろう…
次の魔法は恐らく――――――『死』
のび太「参ったな…!邪魔なオモチャを片付ける様に…この子は僕を排除するだろう…」
のび太「問題はその『内容』だ……『外傷的なもの』なのか……『全く傷つけずに対象を死に至らしめる』ものなのか……」
のび太〈生き残れる望みはひとつ……!しかし、それを決めるのはあの子だ……!〉
のび太〈――――……だけどもし、その選択権を『僕が』獲ることが出来る道具があるとしたら…?〉
―――――10日前、裏山に着いた時の事である
ドラえもんに対しのび太は、あるひとつの罠を仕掛けていた
その罠というのは
一度作動してしまえばドラえもんの位置が手に取るようにわかる、というものである
しかし、ドラえもんがその罠に引っかかるのかは全く保障できるものでは無く
罠に引っかかったとしても、何時どのタイミングで引っかかるのかも不明である
そんな博打にも似た罠を
強制的に発動させる方法がひとつだけあった……
のび太「罠の効果時間は引っかかってから…誤差を含めれば『1時間前後』…!」
のび太「この子の一撃必殺の魔法を避け…ドラえもんを罠にはめる…!」
のび太「……両方叶ってくれる事を祈るばかりだ…!!」
のび太は錠剤のようなものを二つ取り出し
それらを飲み込んだ…!
幼女「――…地に堕とし宿命と共に灰燼と化しん 神苑の淵へと還る大海に至らんとする流れを渡れ」
ドパァ―――z___ン☆
ドクンッ!!
のび太〈……………〉
のび太「」どさっ
幼女「ふぇぇ……おにぃちゃんうごかないよぅ………」
幼女「ふぇぇ……おきてよぅ………」ツンツン
のび太「」
幼女「ふぇ…」
のび太「」
幼女「ふぇぇ……しんでるよぅ………」
のび太「」
幼女「ふぇっwwwwwwwwwふぇぇwwwwwwwwwwwwwwww」
のび太「」
幼女「ふぇっwwwwしんでるよぅwwwwwwwwwwwふぇぇwwwwwwwしんでるよぅwwwwwwwwwwwwwwww」
幼女「ふぇぇwwwwふぇぇwwwwwwwwwwwww」
のび太「やぁ」
幼女「ふぇぇwwwwwwwふぇ…」
少女が後ろに振り返ると
そこには三角頭巾を被った、足の無いのび太が……
┣¨・・・┣¨・・・┣¨・・・┣¨・・・┣¨・・・┣¨・・・┣¨・・・┣¨・・・
幼女「ふぇ………ふぇぇ………」
のび太「………バアっ!!」
幼女「ふぇぇぇん………こわいよぅ…………」トテトテトテトテ……
のび太「……どっかいっちゃった……やっぱり子供だ……」
のび太は幽体から自分の肉体に戻ると
少女の落としていった魔法事典を拾い上げた
のび太「まず、この吹雪を止めなければ……この事典、開かない様だし燃やしてしまうか。」
のび太「『とりよせバッグ』でライターを取り出して、と………」シュボォォ…
のび太が魔法事典を燃やすと
それまで吹き荒れていた猛吹雪が嘘の様に治まった…
分厚い雲の切れ目から、夏の日差しが差し込む…!
のび太「太陽の位置……ひょっとすると……もう既に昼を過ぎているのか……?」
―――少女の魔法が放たれる直前、のび太が服用した二つの錠剤のような物…
そのひとつが『うらめしドロップ』である
これを飲み、眠りにつくと一時的に魂が体を離れ幽霊になることができる
のび太はうらめしドロップを服用し
魂を肉体から離すことで死の魔法を避けたのである
※ちなみに『うらめしドロップ』は服用後、眠らないと効果が発動しないが
のび太は0.93秒で眠りにつくことが可能
……だが、少女の使う魔法が『全く傷つけずに対象を死に至らしめる』魔法でなければ
この作戦は成功しなかったと言える
もし魔法が『外傷的なもの』であれば
肉体はズタボロにされ、幽体から戻った時点でのび太は死んでいたであろう
のび太は何故そんな危険な賭けを実行に移せたのか…
その答えは 服用したもうひとつの道具にあった
のび太「今から三時間………僕は信じられないような幸運に見舞われる……!」
のび太「この『ツキの月』…最後の一粒が残ってただけでも幸運なくらいだ…!」
『ツキの月』を飲むと三時間だけ幸運を呼び寄せる…
つまり、のび太はこの道具を服用する事により先程の魔法を凌ぎ
尚且つ『運任せ』とも言える無謀な罠を強制的に発動させようと試みたのである
のび太〈僕にとって幸運が訪れるとすれば『今日中にドラえもんとの決着がつく事』、それだけは間違い無い筈!〉
のび太〈それでも『運』が向かないのなら仕方が無い…またみんなと作戦を練り直すだけ……〉
時刻は午後3時を回ろうとしていた……―――
―――『ツキの月』を服用してから、待つこと約2時間…
半分諦めかけていたその時である…!
町で時間を潰していたのび太に緊迫した空気が纏わりついてきた…!
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
のび太〈ドラえもんの奴…とうとう罠に引っかかった!〉
のび太「あっちから感じるぞ…!この異様な感じは……間違いない!」
のび太は街の本道を抜け、住宅街へと駆け出す
道行く人の影が落ち 町が徐々に色を付け始める頃
街角から流れるラジオが時刻を告げた…
「ピッ…ピッ…ピッ…ポーン……」
「―――さぁ17時を回りましたミュージックチャンネル。7月23日現在のヒットチャートをお送り致します…」
ー住宅街ー
のび太「――――――行き止まりッ!!?」
のび太〈参ったな…ここら辺の地理はあまり詳しくない…回り込んでる時間は無いぞ……!〉
のび太〈ドラえもんは明日まで『魔法事典』を持っているんだ…『ツキの月』の強運が味方をしているうちに対峙しないと…!〉
のび太「……回り道して時間を食うより……多少目立っても確実に近づいた方がマシだ…!」
のび太はタケコプターを取り出し
空を進んだ…
のび太「あまり上昇するとかえって危険だな……屋根に隠れる様に進まなければ……!」
前方の屋根にのび太が足をつけようとしたその時――――――
突如、銃弾のようなものが、のび太の肩をかすめた…!!
のび太「うわっ!!こ、この攻撃はッ!!?」
飛行機の漏れたエンジンが引火していく様に
傷口から赤々しい血液が飛散し墜落していく
のび太〈下に……誰かいる……ッ!!〉
下に居る男が再び目に見えぬ攻撃を繰り出す…!
のび太は思わぬ不意打ちに体勢を崩し尻餅をついた
のび太〈くそっ……こんな時に……ッ!!〉
大男「……そろそろのび太が来る頃だと思ってたぞ」
のび太が崩れた体勢から大男を見上げると
ジャケットに張られている『准士官』のワッペンが
夕日に照らされギラリと輝いていた
准士官「お前が今にボスの居場所を把握しようとしてるって『中将』が言うんでな」
のび太「…ドラえもんのやつ…自分の位置が割れている事に気がついてないのか…」
准士官「そぉいう事よ。上がボスに連絡を取ろうと躍起になってる間、俺達下っ端は道中見つけ次第足止め役ってわけだ」
のび太「大した統率力だよ…君達のボスはワッペン以外にも何か道具を使って従えてさせているようだね…」
准士官「さぁ…どうだったかな…」
のび太〈この忠誠と統率……『桃太郎印のきび団子』を使っていてもおかしくない……!〉
准士官「お前は中々の策士だと聞いてるが……まさか仲間を連れてくるとは…」
のび太「仲間?」
のび太は後ろに振り返った
次の瞬間、ナイフのように鋭い衝撃波が胴体を貫き、のび太を壁に叩き付けた!!
のび太「ガハッ!?」
准士官「おいおい……策士って情報は何かの間違いか?」
のび太〈き……気のせいか……後ろで気配がしたんだけど……!〉
のび太〈……い、いや……そんな事よりもだ………こいつのこの攻撃は……!〉
准士官は先端にスペースシャトルの付いたストローを咥えていた
※ロケットストロー
吹くと勢い良く空気を噴射する。下に向けて吹けば空を飛ぶことも可能
のび太「『ロケットストロー』?そんな……オモチャで攻撃を………!?」
准士官「そう……こいつは本来なら空を飛んで遊ぶ為の道具さ……」
のび太〈……まるで……投げナイフだ……これ程の空気圧を飛ばすなんて……!〉
准士官「そしてもうひとつのこれがッ……俺の真骨頂……!」バギッ
のび太「……!!」
准士官は素手でブロック塀を握り締め、粉々に砕いて見せた…!
准士官「『強力スーパーパワーゲン』ってのをだいぶ前から5分置きに服用してる。知ってるか?」
効果が現れるまでに30分かかるが
一粒飲むと力が2倍に、二粒飲むと力が4倍…と段々力が強くなっていく道具である
のび太〈それで『肺活量』も強化されていたって事か…なら、こいつの腕力は…!〉
准士官〈遠距離で動きを止めて……!近づいて仕留めるのが…俺の…ッ!!〉
准士官〈必勝の……戦法ッ!!〉 ズガァァァァァンッ!!
倒れているのび太に対し
准士官がその鋼の鉄槌を振り下ろした…!!
のび太「……悪いけど君のような格下に手を焼いているほど暇じゃ無いんだ……!!」
巨大なその拳はのび太の顔面を丸ごと覆っていた…!
しかし、自信の一撃を打ち込んでも崩れる事の無いのび太に対し
得体の知れない脅威を感じた准士官は警戒する様に腕を引っ込める……
振り下ろしたその拳からは水が滴っていた…!
准士官「……こいつッ!?体を『液体』にして今の攻撃を避けたのかッ!?」
のび太「『サンタイン』って道具さ……!!一粒飲めば体が『液体』になる…!」
准士官「…曹長のやつに渡した『トロリン』ってやつも確か似た能力を…!」
のび太「あの道具、君が渡したのか…!」
准士官「俺や『中将』は道具の支給係だからな……」
のび太の頭の中に
相関図のようなものが浮かび上がってゆく……
10日前に戦った曹長の言動や行動から察するに
この組織は、部下が新たな人材を見つけワッペンを貼るシステム……
のび太〈ワッペンを貼られた後、道具を渡されそのまま戦いに向かう者もいれば……ドラえもんの『桃太郎印のきび団子』で洗脳されてしまう者もいるという事か…〉
のび太〈実際、即戦力要員であろうジャイアンなんかはバットを振り上げた時に隙が生まれるほど統率が弱かった……〉
のび太〈今朝戦った女の子はドラえもんによって直接道具が渡された、しかし彼女は『魔法事典』の能力でワッペンやきび団子の支配から逃れたって事か……?〉
のび太〈それより一番気になるのが出木杉だ。『桃太郎印のきび団子』で完全に洗脳されていた場合どうやって止めるべきか……〉
准士官「……他事でも考えてんのか?『液体』になっただけでもう勝った気でいやがる…気にいらねぇな……」
のび太「…僕も同じ手で苦労させられたんでね…これで君のパワーは封じ……!」
のび太が言い終える前に
准士官が呆れたように大きな溜息を付いた
准士官「……お前には『支給係』の意味がいまいち飲み込めてねぇようだな…」
のび太「…?」
准士官「下の者に道具を渡す役を任されるって事は…道具の編成も好きに任されているって事だ…」
准士官「自分で道具を管理出来るとしたら…てめぇの取り分をどうするよ……!」
のび太「………!」
准士官「遠近距離特化だけでは無く……俺はあらゆる事態を想定して自分の道具を選んだ…!!」
准士官は『ミニ・ブラックホール』を取り出し、その欠片を口に含んだ
※ミニ・ブラックホール
この道具を少し食べるだけでご飯を何杯も食べられるほど腹が減るようになる
のび太〈相変わらず戦闘用からは程遠い道具……今度は何をするつもりだ…?〉
准士官「鈍い奴だな……」
准士官「知ってるだろ?『ストロー』ってのはコップに入った飲料水を口に運ぶ為にあるんだ」
准士官は再び『ロケットストロー』を咥えた
のび太「…ま、まさか……!!」
准士官「ブラックホールにご招待だッ!!粉々になるんだなッ!!」
のび太「ウォォォォォォッ!!」
准士官が勢い良くロケットストローを吸い込む!
下水や砂埃をも巻き上げて
周囲の全てが准士官の口へと運ばれていく…!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・!!
のび太〈だ、駄目だ…ッ!この攻撃は…液体になった僕に対しての…言わば『最善手』ッ!!〉
のび太「の…飲み込まれる――――――ッ!!」
のび太「――――――…!!」
准士官「――――――ッ!!――――――ッ!!」
のび太「…………!?」
のび太が目を開くと
顔を真っ赤にしながら
咥えたストローを必死に吸い込んでいる准士官がいた…
のび太「吸い……込まれてない……?吸引が止まった…!」
のび太「……ストローの吸引口に……ガムが引っかかってるのか……?」
准士官「ちくしょー……道端にガムなんか捨てやがって、ドアホ市民めッ!!」
怒りの赴くままストローを地面に叩き付ける准士官
のび太「ぐ、偶然にもほどがある……今度こそ駄目かと思った……」
准士官「ちっ…悪運の強い奴だ……!!」
のび太〈悪運……そうだった!『ツキの月』!効果は今も持続しているんだ!!〉
のび太「どうやら僕は幸運の女神に見放されていない様だ……!!」
のび太は取り寄せバッグからサンタインを二粒取り出し飲み込む…
液体だったのび太の体は、ぐんぐんとその形を元に戻していった…!
准士官「実体に…戻りやがった……!!」
のび太「『サンタイン』ってのは三態(さんたい)って言葉から来ているんだ。
『液体』、『気体』とくれば、三錠目は当然『固体』に戻る…」