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【能力ものシェア】チェンジリング・デイ 6【厨二】
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0001創る名無しに見る名無し
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2011/06/23(木) 14:24:20.46ID:1iTnd9uD
ここは、人類が特殊な能力を持った世界での物語を描くシェアードワールドスレです
(シェアードワールドとは世界観を共有して作品を作ること)

【重要事項】
・隕石が衝突して生き残った人類とその子孫は特殊な能力を得た
 (隕石衝突の日を「チェンジリング・デイ」と呼ぶ)
・能力は昼と夜で変わる
 (能力の名称は地域や時代によって様々)
・細かい設定や出来事が食い違っても気にしない

まとめ:http://www31.atwiki.jp/shareyari/
うpろだ:http://loda.jp/mitemite/
避難所:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1267446350/
前スレ:http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1293009392/

以下テンプレ
0260創る名無しに見る名無し
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2011/11/30(水) 19:55:51.49ID:R1qORzrc
>>259
乙でーす! 

戦闘開始>>226
戦闘シーン>>240>>241
戦闘終了後>>227

↑4レス分まとめて、保留していた【リリィ編/14】としました
※編集画面開いた時、見てはいけないものを見た気がしたww
◆zKOIEX229E 氏、手直しどもです。就活もがんばってくだせー

SSはリリィ編/15まで収録
将軍さんの手によるスゴイAA2つも収録しました(便宜上、イラスト一覧に入れています)
0261 ◆KazZxBP5Rc
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2011/12/31(土) 23:59:18.67ID:tKgeaXhm
今年の最終投下に滑り込んでみる
シェアクロスにも出てるあの娘のテーマ作りました

ハリネズミの恋
http://loda.jp/mitemite/?id=2713
0262創る名無しに見る名無し
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2012/01/10(火) 07:32:56.53ID:T10haLH4
ちょっと聞き取りにくいw でもいい感じの曲だ
0263 ◆KazZxBP5Rc
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2012/01/12(木) 00:21:42.04ID:8rR8JOru
>ちょっと聞き取りにくいw
ですよねー
UTAU調整できるようになりたい

歌詞置いときます


望んだわけじゃない なのに 背中のハリはいつも 誰もかも構わず傷つけて
守られていたのは 確かに分かっていたけど 私 ハリの無いネズミが羨ましかった

そこへ一匹のモグラが土の中から 突然私の目の前に現れた

きっと変わってゆけるの私 あなたのそばで
恐い体も 弱い心も 全部受け入れてくれた
誰かに罵られても もう泣かないわ
ハリネズミにも寄り添えるあなたがいたから

望んだわけじゃないけれど 見えない壁を張って 誰もかも構わず遠ざけていた

そこへあなたというモグラが土の中から 壁を潜り抜けこっちにやってきた

きっと変わってゆけるの私 あなたのそばで
昼の私も 夜の私も 全部受け入れてくれた
二人で暮らせて私 幸せですよ
ハリネズミにも寄り添えるあなたがいたから

変わってゆけるの私 あなたのそばで
恐い体も 弱い心も 全部受け入れてくれた
誰かに罵られても もう泣かないわ
ハリネズミにも寄り添えるあなたがいたから
0264創る名無しに見る名無し
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2012/01/12(木) 08:47:34.34ID:yqQ6ixDI
おお、歌詞きてたw
0266創る名無しに見る名無し
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2012/01/20(金) 00:55:03.42ID:RIvOwCS8
バ課の隊長と副隊長は休日になにしてるのか気になるな
0267創る名無しに見る名無し
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2012/01/20(金) 01:13:16.04ID:n4wHJ5kg
三班は毛糸パンツでも盗んでるんじゃ無いでしょうかね……
おっと、誰だこんな夜更けに。


以下コピペ

シルスク(2班隊長)
ラヴィヨン(2班副長)
川芝鉄哉(3班隊長)
峰村瑞貴(3班副長)
ザイヤ(4班隊長)
エンツァ(4班)
ラツィーム(5班隊長)
マドンナ(5班副長)
0269創る名無しに見る名無し
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2012/01/30(月) 18:57:29.91ID:7x4WkU/G
ksks
0270創る名無しに見る名無し
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2012/03/25(日) 01:02:52.18ID:DigCravr
大根ちょっぷ
0271創る名無しに見る名無し
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2012/03/25(日) 21:55:12.06ID:hIoZolwD
基本的にどんな能力でも作り出せるから、妄想は広がる
が、いかんせん文才が無い
0273創る名無しに見る名無し
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2012/04/09(月) 00:40:55.95ID:V3JAtwkA
避難所に投下あり、なんだぜ

>>272
思いついても、どっかで見たことあるよなーってのになっちゃって
結局ボツるハメにw
例えば・・・

【フェア・ウォーニング】
ある特定の物事について、人に伝えることができなくなる性質を付加する(意識性・操作型)
→ジョジョ5部「トーキング・ヘッズ」

【ワード・オブ・マウス】
ある特定の物事を他人に無意識に伝えてしまう性質を付加する(意識性・操作型)
→ドラえもん「CMキャンデー発射機(虹のビオレッタ)」
0274創る名無しに見る名無し
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2012/04/09(月) 00:47:26.25ID:b3Mx0Vu7
他にない能力出そうと思ったらどうしてもややこしくなりがちだから
話を被らないように構成すればいいんじゃね
と思ったけどこの流れじゃ適切なアドバイスじゃなかった
0275創る名無しに見る名無し
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2012/04/09(月) 01:26:06.60ID:V3JAtwkA
そうねー
問題は能力じゃなくて、お話つくるウデなんよね
能力は「シンプルな奴ほど強いッ!」だしw

能力平凡でもお話が魅力的ならそれでOKだもん
はあ・・・筆力ないわぁ
0276創る名無しに見る名無し
垢版 |
2012/04/09(月) 22:32:54.53ID:TVg2AfTD
【View:3rd】(昼)
自らを視界に含む範囲の第三者視点で空間を「見る」(意識性・結界型)

【View:2nd】(夜)
自らを視界に含む他者の視覚情報を「見る」(無意識性・結界型)

先生、こんな能力浮かんでも使いどころがないです……
0277【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:28:40.79ID:9AcjgN3b
【幻の能力者】 成世編 前編
─  Abilities are not Benefits ─


西暦2000年、2月21日。
あの日地球に降り注いだ隕石によって、私たちは不思議な力を授かった。

物理法則を超越した様々な特殊能力を、私たちはひとりにふたつ、使うことができる。
ひとつは夜明けから日没までの昼に使うことができる能力、
もうひとつは日没から夜明けまでの夜に使うことができる能力だ。

能力の内容も覚醒時期も人によってまちまちだけれど、
人間なら誰でも潜在的に超能力──“EXA(エグザ)”──を持っているという。

でも、新しい力は必ずしも幸福をもたらしてくれるとは限らない。
中には“能力”によって人生をどうしようもなく狂わされた者もいる──


-主人公
>成世美歩 (なるせ みほ)
>
>S大学に通う“普通の”女子大生。
>ただ1つ、普通の女子大生が違う所があるとすれば、
>それは……『自らが死んでしまう能力』に苦しみながら生活している事だろう。
────
0278【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:29:11.61ID:9AcjgN3b


胸が苦しい。

布団の中で、私は呻いた。

息が続かない。

全身の筋肉は、まるで金縛りにあったように動かない。

怖い、助けて。

胸の中で自分の肺が腐り落ちてゆく感触が分かる。




助けて、衛一君……




──遠くでケータイのアラームが鳴っている。

その音に導かれて、私の意識は現実へと引き戻されていった。
0279【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:29:29.49ID:9AcjgN3b
────
201X年、6月10日、朝。

「朝…?」

枕元に手を伸ばして、アラームを止める。

夢と現の狭間で、私の意識は少しずつ働き始めた。

夢の内容はまだはっきりと覚えていた。

私の“能力”が発現する夢。

「いつあなたの命を奪ってもおかしくない」と、医師に宣告された忌まわしい“能力”が。

それを止めるために、私は薬を飲み続けなければならない。多分、一生。

そうだ、今朝も飲まなければ……
小物入れから薬を取り出し、重たい足取りで洗面所へと向かう。

それにしても、どうして今さら、彼の名前が出てきたのだろう。
もう一年以上も会っていないのに……


洗面所へと向かう途中で、私はふと衛一(えいいち)の事を思い出す。
一年前から、彼との連絡は途絶えたままだった。何故かはわからない。
警察の捜索でも結局彼は見つからずじまいだった。

──警察の話では、“能力”がこの世に現れてから、こういう事件はよく起こるようになった、という事だった。

「諦めなさい」遠回しにそう言われたのだと私は理解したし。自分でも諦めたつもりだった。
でも、心の奥底ではずっと気になっていたのだろう。
だからこそ、何かの拍子に夢の中に現れた。──そう考えれるのが一番納得がいく。

ちょうど洗面所に辿りついたところで、私は今朝の夢について考えるのを止めた。
0280【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:29:48.60ID:9AcjgN3b
“      頓服薬
   ─ 能力鎮静剤 ─

  成世美歩(ナルセ ミホ) 様
6時間毎に2粒、または3時間毎に1粒
水と共に服用してください。         ”


薬の袋にはそう書かれていた。

この薬は普通の薬局では売っていない。
私の“能力”を抑えるために、特別に処方してもらったものだった。

中からカプセル状の薬を2粒取り出して、水とともに飲み込む。
カルキ臭い水道水と一緒に胃の中に錠剤が落ちていくのが分かった。


これで、10時半までは安心。
私はケータイを取り出して時間を確認した。
0281【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:30:07.05ID:9AcjgN3b
私の“能力”が明らかになったのは2年前のことだった。
海外旅行に行くためのパスポートを申請する際に、能力鑑定を受ける必要があったのだ。
窓口の下から出てきたレポート用紙を見たとき、私は愕然とする他なかった。


──昼の能力
体組織が壊死する能力。

──夜の能力
(未覚醒)


「どういう事? “能力”って──」

声を出さずにはいられなかった。
私の身の周りの人が持っている“能力”は、みんな当人にとって「いいこと」を起こしてくれる能力だった。
空を飛ぶ能力、ご飯を1秒で作る能力、嘘を見抜く能力……

それなのに、私の能力は……

壊死とは、細胞がに血が通わなくなって腐り落ちる事らしい。

これでは、先天性の病気と一緒だ。
すぐに精密検査を受ける事になったのは、言うまでもない。

さらに詳しい検査の結果、私が自分の能力で“死ぬ”確率は、概算で12時間に0.1%程度ということが分かった。
専門家によれば「12時間にたった0.1%の確率でも、毎日それが重なると、2年後に生きている確率は50%を切る」という。
0282【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:30:38.77ID:9AcjgN3b
能力研究の世界的権威である比留間(ひるま)博士が私の家を訪れてきたのは、検査の翌日の事だった。

「僕が開発中の新薬を飲めば、能力を抑える事が出来るかもしれない。ただし、効果のほどは保証できない」

比留間博士は私に、当時まだ開発中だった能力鎮静剤を試してみないかと提案してきた。
試す、と言えば聞こえはいいが、要は「実験台になってくれ」という意味である事は、高校生の私にも理解できた。

もちろん、私は提案を受け入れるよりも他に方法は無かった。
このまま何もしなかったら、2年以内に50%の確率で死んでしまうのだから。

「ありがとう。君の協力のお蔭で、薬の実用化も早まりそうだ。僕も君を救うために、全力を尽くそう」

比留間博士はそう言うと、契約書を私たちに書かせ、
自分の仕事に戻るために私たちの家を去っていった。

それ以来、私は日が昇る前に起きて、ずっとこの薬を飲み続けている。

博士の言った通り、初期の方の薬はかなり不安定だった。
気分が悪くて倒れた事もあったし、生理にも支障をきたすようだった。
言いかえれば、この二年間、私は薬の副作用と闘い続けてきた事になる。

比留間博士は時々私の様子を見に来て、そのついでに“能力”研究の最先端の話を少しずつ私と両親に教えてくれた。

『能力と魂』、『抑制薬の効かない能力』、『能力の進化と変化』、『世界への干渉』、『能力の遺伝性』、『Exミトコンドリア』…



…そして今、その比留間博士が客員教授を務めるS大学に、私は通っている。
0283【幻の能力者】 成世編 前編
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2012/04/10(火) 01:30:57.12ID:9AcjgN3b
午前10時。
私は授業を聞きながら、ノートを取っていた。私の友達は、隣の席で机に突っ伏して寝ている。
この授業を担当しているのは、鞍屋峰子(くらや みねこ)という助教授だ。

「量子力学的な視点では、何か新しい出来事が起こるたび、世界にほんの一瞬、“ブレ”が生じます。
こうしたブレを『量子揺らぎ』と呼びます。このブレの中には、その出来事に対して起こりうる、あらゆる結果が内包されています。
『シューレディンガーの猫』の話になぞらえて言えば、ブレのこっち側では猫は生きていて、あっち側では死んでいる、という事になります」

鞍屋先生は黒板に図を書きながら説明していた。印象的な銀色の髪の下で、緑色の目が時折ぱちぱちと瞬く。
幾何学的な“ブレ”の図とは対照的に、脇に描かれた“シュレーディンガーの猫”の絵がやけに可愛い。

「ブレの中の各状態は同時に存在していて、ミクロレベルで干渉し合っています。
通常、ブレはすぐに収束するため、1つの出来事に対しては1つの結果だけが残ります。
世界には沢山の出来事が絶えず起こっているので、宇宙内には無数の泡のようなブレが絶えず生成と消滅を繰り返しています」

彼女は20歳の時に量子力学の分野で大きな活躍をして、ノーベル物理学賞を受賞したらしい。
そして今、S大学で授業を受け持っている。

「通常、量子ゆらぎのスケールは非常に小さいので、私達の宇宙が歩む歴史は、全体として見ると1本の糸のように見えます。
そしてこの1本の糸を、私たちは唯一の世界、一つの歴史として認識しています。
ちょうど、紙の表面のデコボコを無視して、平面と見做すようなものです」

入門講座と言う事もあって、鞍屋先生は分かりやすく説明してくれているけれど、
20世紀のとある科学者の言葉によれば「量子力学は人間に理解できるモノではない」そうだ。
その最先端を研究している、彼女の頭の中身は一体どうなっているのだろう。
0284【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:31:26.05ID:9AcjgN3b
「と、ここまでは20世紀の科学で分かっていた範囲の事です、
ここからは、21世紀になってから新たに分かった事になりますが……」

良く通る声で解説を続けながら、鞍屋先生は黒板に新たな図を描き足した。

「ごく稀に、世界がブレたまま戻らず、ブレの範囲が宇宙全体に拡大してしまい、
宇宙が2本の歴史に分岐してしまうことがあります。
この分岐してしまった世界を、いわゆる『並行世界(パラレルワールド)』と呼びます。
資料によっては『世界線(ワールドライン)』と書かれている場合もありますが、あまり専門的な呼称ではありませんね。
また、この分岐点は、『ジョンバール分岐点(ジョンバールヒンジ)』と呼ばれます」

矢継ぎ早に繰り出される専門用語をノートに書き取り続けながら、私は思った。
彼女と私の歳の差は、10歳もない。私も数年後には、鞍屋助教授のようになれているだろうか。
それとも、あれが天才と凡人の差なのだろうか。

「『並行世界』になってしまった場合、もはや2つの世界同士が干渉することはありません。
私達は今、こうした『並行世界』のうちの、どこかの世界にいることになります。
もちろん、他の『並行世界』にも、別の私達がいる事になります……」
0285【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:31:47.35ID:9AcjgN3b
「むにゃ…」

と、私の横で寝ていた友達が起きた。

「ミホちゃん、ノート見せて……」

小さな声で囁く友達に、私は呆れ顔でルーズリーフの前のページを手渡す。

「さて、授業時間も終わりに近づいて来ましたので。今日はここまでにしましょう。
いつも通り、疑問点や感想を出席カードに書いて提出してくださいね」

原理はよく分からなかったけれど、並行世界のくだりはなんとなく理解できたと思う。
別の世界の私は、どんな風に暮らしているのだろうか。
能力が発現せずに安全に暮らしているかもしれない。それとも……

考えが悪い方向に行く前に、私は出席カードに書く文章を考え始めた。

隣の友達は「並行世界が分岐する事があるという話でしたが、逆に収束する事はありますか?」なんて書いている。
ずっと寝ていたのだから、私のノートを急いで読んで、適当に思いついたことを書いたに違いない。

私は、少し考えて、こんな事を書いた。
「並行世界があると21世紀になって新たに分かったということは、
並行世界の存在を知る方法が21世紀になって発見されたということでしょうか?」


普通、質問の答えが返ってくるのは、次の授業の初めだ。
しかし、この質問に対する答えは、私の予想よりもずっと早く返ってくる事となる。
0286【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:32:06.05ID:9AcjgN3b
授業の合間。
私は大学のトイレで薬の袋を開けていた。
薬は一度に二粒までしか飲めない。そして大学の授業は1コマ90分と長い。
下手をすれば、授業中に薬の効果が切れてしまう。
なので、私はうまく授業の合間を縫って薬を飲まなければならなかった。


──と、後ろからいきなりドンと押された。
袋から薬がこぼれ落ちる。

「んにゃっ!?」

どこかで、というよりついさっきも聞いたような声質。
振り向くと、鞍屋助教授がばつの悪そうな顔でこちらを向いていた。

駆け込んできた拍子に体がぶつかってしまったようだ。

「あ、先生」

「ごめんなさ……あ、成世さん、丁度良かった」

鞍屋先生は床に転がったカプセルを拾って私に手渡しながら言った。

「貴方に話したい事があったのだけれど、授業後すぐに教室を出ていかれちゃったから、追いかけられなかったわ」

「そうですか…すみません」

私はさりげなく、薬の袋を手で隠した。一般には流通していない薬なので、なるべく隠しておくように比留間博士から言われていた。
しかし、鞍屋助教授の目は私の動作よりも早く、書かれていた文字を読み取っていた。

「“能力鎮静剤”……ああ、比留間博士のアレね?」

「ご存じなのですか?」

「ええ、実は私もその薬、使っているのよ」
0287【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:37:59.77ID:aaUr9Hee

「先生も?」

私以外にこの薬を飲んでいる人がいたなんて知らなかった。
でも、考えてみれば、新薬の効果を一人だけで試す、というのは、科学者からしたらありえない話だ。
私以外に飲んでいる人がいても、全然おかしくはない。

「ええ、私の“夜の能力”は少し厄介で、自分の力ではコントロールできないから……」

「そうなのですか……あの、どんな“能力”なのですか?」

「『夜の間は猫になる能力』よ。貴方は?」

鞍屋先生がそんな“能力”を持っていた事も、私は知らなかった。
猫になるというのはどんな感覚なのだろう。

「私は……」

私は言うのをためらった。
私の“能力”を、いや、能力とすら呼べないそれを、他人に知られるのは、正直、嫌だった。
私の能力は、ごく親しい友人と両親、それに比留間博士だけしか知らない。

「話したくなければいいのよ。
それより、貴方の薬、汚れちゃったわね……私のと取り替えてあげましょう」

「いえ、そんな」

「いいの、今日は使わないから。たまには猫になってみるのもいいものだわ」

先生は腰につけたポーチから薬を取り出して、私に手渡した。

「“能力”のことで何か相談したい事があったら、気軽に言ってね。力になってあげられるかもしれないから…」

「ありがとうございます」

私は先生に頭を下げた。先生はそれを見てにこりと笑う。
0288【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:40:14.32ID:aaUr9Hee

「…そうそう、本題だけど、さっき比留間博士が貴方を探していたわ」

「比留間博士が?」

私は思わず聞き返した。

「ええ、比留間博士よ。貴方、博士の授業を何か取ってたかしら?」

「ええ、まあ…」

「まあいいわ……
それで、『成世君に会ったら授業の空き時間にでも研究室まで来てくれるように伝えて欲しい』って言われたの。
ということで、後で行ってあげてね」

「分かりました」

「それじゃ」

そう言って、先生は洗面所の奥へと消えていった。



洗面所を出た後で、私は先生との会話を思い返す。

『夜の間は猫になる能力』……先生の“猫好き”は有名だったけれど、どうりで猫好きなわけだ。
いや、そんな事はどうでもいい。
私と同じく、自分の能力に苦しんでいる人がこの大学にいた。
思えば、私の事を理解してくれる友達はそれなりにいるけれど、私と同じ境遇の人を見つけたのは初めてかもしれない……
0289【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:40:47.52ID:aaUr9Hee
4時半すぎ。
今日の授業が終わった。
私は比留間博士の元へ向かう。

比留間博士のいる超能力学部棟は、大学の裏門に近い場所に位置していた。
チェンジリング・デイ以降、 “能力”は私達の生活の一部となった。
それに伴い、20世紀までは鼻で笑われていた「超能力」という現象も、科学者達から真面目に注目されるようになった。

当初は超能力を研究分野として受け入れるべきかどうか、学会のほうで一悶着あったようだけれども、
結局、今では大学に専門の学部が作られるほどに学問として定着しているのだ。

そして、その超能力研究のパイオニアが、比留間博士だった。

「超能力だろうと幽霊だろうとUFOだろうとオカルトだろうと、この宇宙内に現象として顕れさえすれば、科学はそれを探究する事ができる」
という比留間博士の格言がある。
彼は生物学の分野から“能力”の存在を立証するとともに、超能力研究に“統計”“実験”“観測”の三本柱を徹底して導入し、
科学的事実としての超能力を「噂話」や「詐欺」などのでたらめから区別した。
これによって、ようやく国際科学会議も「超能力学」をまともな科学の一分野として認めるようになったのだった。

とりあえず、私の“超能力学”についての認識は、こんな感じだ。
それとは別に、私自身、個人的に比留間博士とはつながりがある。(もちろん薬の事で)

学会の見解がどうとか、そんな話は私にとっては正直、どうでもいい。
私としては、早く博士の能力鎮静剤が完成してほしいと思う。
科学は、人を幸せにしてこその科学なのだから。
0290【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:41:13.47ID:aaUr9Hee

比留間博士が私を探していたのは一体なぜだろう。
私は夕日に照らされた超能力学部棟の階段を登りながら考えていた。

時期的にはたぶん、期末レポートに関することだとは思うけれど…
今朝の夢の事が気がかりだった。

階段を登って廊下を少し歩くと、目的の部屋についた。
超能力学部研究室。

私はここの研究室で授業を受けたことはない。
でも比留間博士とは大学に入る前から個人的につき合いがあったため、この研究室にも何度か来た事があった。

壁に掛かったホワイトボードに「比留間慎也 - 在籍中」の文字を確認すると、私は部屋をノックした。

「どうぞ」

という比留間博士の返事が聞こえたのを確認して、私は中に入った。

研究室は、中学校の理科室を思わせる造りをしている。
非人間的なほど清潔感の溢れた白い壁に、フラスコや蒸留装置や試験管などのガラス製品が並べられた棚。
白い薬品や結晶がこぼれてもすぐに気づくよう作られた黒い机は、ずれたり傾いたりしないように床に固定されている。
中学校の理科室と違うのは、人体模型の代わりに大きな装置が置かれている事だった。
博士の話によると遠心分離機や攪拌装置や分析器といった研究器具だそうだ。

私が部屋に入ると、比留間博士は何か顕微鏡のような装置の前で試験管やシャーレを片づけていたところだった。

「ああ、成世君。わざわざ呼び出して済まないね」

と、博士は相変わらずのフランクな喋り方をする。
0291【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:41:36.59ID:aaUr9Hee

「鞍屋先生に言われて来ました。何の用でしょうか?」

「ちょっと込み入った話なんだ。ここで話すのも何だし、教員室に移動してから話そう。
……ちょっと待ってくれ、今片づけるから」

「手伝いましょうか?」

「ああ、さすが成世君、気が効くな。
じゃあ空の試験管を分けて棚に戻しといてくれ」

言われた通りに私は空っぽの試験管を選んで棚に戻した。

その一方で、博士は良く分からない透明な液体の入ったものを冷蔵庫にしまう。私にはよく分からないけれど、たぶん中身は何かの薬品だろう。
博士は今でこそ“超能力学”を研究しているけれど、元は生理学者なので、そういう方面から能力を研究しているらしい。
0292【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:42:04.88ID:aaUr9Hee

片づけを終えて、私達は研究室の隣の教員室に移動する。

比留間博士の研究の“三本柱”のうち「観測」を行うのが野外で、「実験」を行うのがさっきの研究室だとすれば、そして「統計」を行っているのがこの教員室という事になる。
パソコン机と事務机が交互に並び、壁の棚は本やファイルで埋まっている。
机の上には棚に入りきらない資料やマグカップなどが乱雑に置かれている。

ちょうど今の時間は誰もいないらしく(もしかしたら比留間博士が人払いをしておいたのかもしれない)、
パソコンの画面はみな真っ黒かスクリーンセーバーだった。

「まあ取り敢えず、そこに腰かけてくれ。今飲み物を入れてくるから」

と、博士は回転椅子を指差した。

博士は私の好みを知っているので、研究室に定番のコーヒーではなく、紅茶を淹れてくれた。
紙コップにポットからお湯を注ぎ、ティーバッグを落とす。

「お待たせ」

と、博士は私の所まで戻ってくると、机に紙コップを置いた。
熱くないように紙コップを二重にしているあたり芸が細かい。

私が紅茶に口をつけている間に、博士は机の鍵つきの引き出しから封筒を取り出して、私の隣の椅子に腰かけた。


封筒には「Classified」(機密事項)と書かれている。


「さて、本題に入ろうか」
博士の口調はいつも通り……のはずなのに、
私には何故だか、場の雰囲気そのものが重くなったように感じられた。
0293【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:42:32.05ID:aaUr9Hee
「まず、基本的な確認をしておこう。
成世君の“能力”は《アポトーシス》。【無意識性】【変身型】。12時間に0.1%程度の確率で体細胞が大規模に壊死する。
だったね」

私は黙って頷く。
奇妙なまでに静まりかえった教員室に、空調の音のみが響く。

「それで、今までその発動を抑えるために、私の能力鎮静剤を服用し続けていた」

「はい」

「ところが、違うんだ」

「違うって?」

まさか──

「これを見てくれ」

博士は封筒の中から紙を取り出した。政府の押印と透かしが入っている、どう見ても正式な文書だった。

“ 成世 美歩 (Naruse Miho)
Ex Ability
 Day … ■■■■■
  EXA name: "Event-Leap"
  Sort: Conscious, Creative
  Details
  Time-space traveling for creating another worldline whose time is delaied about 12 hours,
  maybe confuse the history. So we should watch her and seal this ability.
 Night … Unawaken ”

一ヶ所だけ上から黒く塗りつぶされていたけれど、私に関する資料である事は分かった。
私が英語の文章を解読するよりも先に、博士がその内容を読み上げていた。
0294【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:43:02.32ID:aaUr9Hee

「成世 美歩。昼の“能力”、《イベントリープ》。【意識性】【具現型】。
12時間程度時間軸のずれた別の世界線を創り出す事による時空間移動能力。
歴史を混乱させる恐れがある。彼女を監視しこの能力を封印する事を推奨する。
なお、夜の能力は未覚醒」


淡々と読み上げられる文章。
私はその意味は理解できたが、それの意味する事はすぐには把握できなかった。

「……どういう事ですか? 博士」

「つまり、《アポトーシス》はまったくのでたらめだったという事だよ。
今まで君が自分の“能力”だと思っていたものは、真の“能力”を隠すためにでっちあげられた偽りの“能力”だったということだ」

「まさか、博士」

そんな事があっていいの?

「そう、政府が騙していた。それだけ、君の真の能力が恐ろしいものだから」

「でも、私の能力は一度だけ発症しかけた事が……」

「能力移植だ。特殊な薬を飲まされると、一時的に他人の“能力”を会得する現象がある」

それじゃ、私のこの2年間は?
薬の副作用に耐え続けて、不自由と恐怖に悩まされてきたこの2年間は?

全部、仕組まれたものだったと言うの?
0295【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:43:25.00ID:aaUr9Hee

心臓の鼓動が早まり呼吸が荒くなるのが、自分でも分かった。

「博士、この事にはいつ……?」

「僕が気づいたのは、つい半年ほど前だ。
済まないな、君に言うべきかどうか迷っていた。結果的に私も騙す側に回ってしまった」

「そんな……」

「とにかく、落ちつこう。
これからどうするべきか、相談しようか」

私の様子を見て、博士は言った。

博士の言うとおりだ。
自分でも気が動転しているのは分かっている。
でも、落ちつけるわけがない。
私の心臓はバクバクと暴れ続けている。

「物事を良い方に考えるんだ。もう意味の無い能力に怯える事はないんだ。
これからは鎮静剤の代わりに偽薬を処方する。政府の目を騙すために飲み続けなさい」

「それから……言いにくい事だけど、もし良かったら僕にこの能力を少し研究させてくれ。
もしかしたら危険性がない事を政府に示せるかもしれない」

「研究?」

私は声を荒げた。
この期に及んで研究? この博士は何を考えているの?
0296【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:43:51.76ID:aaUr9Hee

「……私、過去へ戻ります」

私は椅子から立ち上がった。

政府も、この人も同じだ。私の事を危険因子としてしか、あるいは実験や観察の対象としてしか見ていない。

「落ちつきなさい、そんな事をしても意味がない」

「落ちついているわ。博士だって、私を騙そうとしている」

「済まなかった。君に言うべきかどうか迷ったんだ」

「嘘よ。半年も黙っていたのは、私の能力を研究する準備を進めていたから、そうよね?」

「……」

博士は言葉を詰まらせた。

──やっぱりそうだ。
誰もが自分勝手な都合で私を振りまわす。
歴史や研究のためなら、人を不幸にしていいの?

「いいえ、半年かどうかだって疑わしい。
この文章だって、博士が書いたものでしょ? 2年前に」

「それは違う……と言っても信じてくれそうにないな」

「私は、こんな世界に居たくありません。
私をモルモット扱いしかしてくれない、こんな世の中に」

「待ってくれないか」

踵を返して部屋の出口へと向かおうとする私の袖を、博士が引っ張る。

「離して下さい」

「薬が効いているんだろう。“能力”は使えないぞ」

──あ、
0297【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:48:58.02ID:yn6BPQgI

うっかりしていた。
そういえば、昼過ぎも鎮静剤を飲んだばかりだった。

明日の朝になってから“能力”を使っても、また「この時」に戻されるだけだ。
どうしよう……

と、その時──


「その娘は薬を飲んでいないわ、博士」


部屋の入り口から澄んだ声が響いた。
その声は、何故だか私には救世主のように聞こえた。

「峰子君、いつの間に?」

本当にいつの間にか、鞍屋先生がドアを開けて部屋の入口に立っていた。

「さて、いつの間でしょう? それより、聞こえました?」

「ああ、薬を飲んでいないって?」

突然の展開に、私は思考停止した。

「彼女の薬は“何者か”によって入れ替えられていました。見てください」

鞍屋先生は少し早足でこちらに近づくと、薬を机の上に投げ出した。
博士と私はそれに目を落とす。

“─ 能力鎮静剤 ─
成世美歩(ナルセ ミホ) 様”
0298【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:49:43.42ID:yn6BPQgI

理解が状況に追いつかない。
私が驚いているうちに、比留間博士は次の手を打っていた。

「峰子君、失礼」

パチン、と指を鳴らす音が聞こえた。
窓越しの夕日が、一瞬で暗闇へと変わった。

それと同時に、鞍屋先生の姿が視界から消えた。

「僕の“能力”を使わせてもらった。もう君に力は使わせない」

聞いていなかった、そして迂闊だった──慎也博士が“能力”を持っていたなんて。
考えれば分かること。能力研究の第一人者だ。
自分の能力を覚醒させようとしないはずがない。

と、博士の近くの机の上に一匹の猫が姿を表した。
緑色の瞳、銀色の髭。昼間の授業で黒板に描いてあった、あの猫とそっくりだ。

「仕方ないわね。緊急事態だもの」

猫が喋った。
鞍屋先生の声で。

「鞍屋先生……?」

「昼間も説明したでしょう? この姿は私の“夜の能力”──《グレマルキン》よ」

夜の能力……?
すると、慎也博士の“能力”は──
0299【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:50:38.52ID:yn6BPQgI

「さて、もう一度落ち着いて話し合おうか」

私は博士の瞳に、狂気に満ちた科学者の邪悪な輝きを見た。

「落ち着けるか!!」

わたしは思わず、手元にあったマグカップを博士に投げつけた。

博士はそれを片手で受け止める。

その隙に私は出入り口のドアへと全速力で走った。

「峰子君、取り押さえろ」

「どう考えても“任務外”ですけれど、仕方ないわね」

走る私を黒猫──鞍屋助教授がもの凄い速度で追い抜いた。

彼女は体当たりでドアを閉めると、音も無くその前に浮かんだ。

「どいて! 先生!」

しかし先生は私を無視して、私の後ろから迫ってくる人物に対して話しかけた

「退路は阻んだわ──これでいいかしら? 博士」

「ああ、ご苦労」

後ろを振り向くと慎也博士が目の前に立っていた。
0300【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:51:22.95ID:yn6BPQgI

「こうなっては仕方ないな。私も君を野放しにしてはおけなくなった。私の研究所まで来てもらおう」

博士は私の腕をしっかりと掴んでいた。

何か方法はないの? どうすれば?
せめて、もう少し考える時間が欲しい。時間が……

──その思いは、私のなかで一つの形になった。


「これは……!?」

目の前を覆う銀色の霧に、慎也博士は目を見開いて後ずさった。

「どうやら覚醒したようね。彼女の“夜の能力”が」

鞍屋先生は澄ました顔で喋るのが聞こえる。

「まさか……このタイミングで覚醒するとは」

「貴方は彼女を窮地に追いやったことで、彼女のもう1つの能力を覚醒させてしまった」

私の意志が込められた銀色の霧。
これがどういう効果をもたらすのか、私にははっきり分かっていた。
銀色の霧は薄いヴェールとなり、慎也博士をゆっくりと包み込んでゆく。

「昼夜を逆転させた時点で、この展開は予想して然るべきだった
──博士、貴方の負けよ」


『時間を凍らせる能力』。


銀色のヴェールに覆われた博士の体は、微動だにしなくなった。
0301【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:52:01.88ID:yn6BPQgI

「行きなさい。
私には貴方を止める気はないわ。止めようと思っても無理でしょうし。
──あなたは真の自由を手に入れた。自分の力で道を切り開いたのよ」

博士が凍りついた様子を見て、鞍屋教授は私に語りかけた。

「先生、ありがとうございます」

「と、行く前に部屋の戸締りはちゃんとしておくのよ」

鞍屋先生の声で喋る猫はそう言うと、優雅な足取りで部屋から出ていった。
0302【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:52:26.81ID:yn6BPQgI
数分後、私は研究室棟の階段を下っていた。
周囲はいつの間にか、夕方に戻っていた。


こんな騒ぎを起こしてしまったのでは、どのみち、このままではいられない。

私の“能力”を知っている人がいるかぎり、私は誰かにつけ狙われるだろう。

それを止めさせるためには──

私の力で、過去をやり直すしかない。

この間違った2年間を。


私は目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をした。
意識が、そして体が、今までに感じた事の無い方向に落ち込んでいくのが分かった。
0304【幻の能力者】 成世編 前編
垢版 |
2012/04/10(火) 01:53:25.42ID:yn6BPQgI
・設定

《名前》
成世 美歩
S大学に通う“普通の”女子大生。
ただ1つ、普通の女子大生と違う所があるとすれば、
それは……その“能力”のために不幸な人生を送ってきた事。


《昼の能力》
名称 … アポトーシス
【無意識性】【変身型】
体が突発的に壊死する能力。
12時間に0.1%程度の確率で発動するといわれている。

成世美歩の真の“能力”を隠すために「でっちあげられた」能力。
尚、夜の能力は未覚醒


  ↓


《昼の能力》
名称 … イベントリープ
【意識性】【具現型】
半日前にタイムトラベルする能力。

政府の機密文書では
「12時間程度時間軸のずれた別の世界線を創り出す事による時間移動能力。
歴史を混乱させる恐れがある。彼女を監視しこの能力を封印する事を推奨する。」
と解説されている。


《夜の能力》
名称 … タイムホライゾン
【意識性】【操作型】
対象の時間を停止させる。
時間を止められた対象は鏡のようなヴェールで覆われ、一切の事象の干渉を受けなくなる。
夜が明ける(ヴェールの外側が「昼」になる)と解除される。
ベール自体に重力が働いているらしく、地球の遠心力で対象が飛んで行ってしまうようなことはない。
0306創る名無しに見る名無し
垢版 |
2012/04/10(火) 02:51:18.57ID:9AcjgN3b
乙と代理続きサンクス

なるほどそう繋がっていたのか
次で完結かなwktk
0307創る名無しに見る名無し
垢版 |
2012/04/14(土) 22:32:36.32ID:3yjUn+vl
>>277
乙です! 待ってましたのCパート。
A・Bパートとからみ合って、テンション上がりまくりっすw
なるほどーとニヤニヤしながら続きを待ちます!

代行リレーも乙でしたw
0309創る名無しに見る名無し
垢版 |
2012/05/06(日) 20:08:38.15ID:rJ/lZQ2l
話作りの参考に知りたいんですが、バフ課って7班まである設定で、
その中で1、6、7班は現状特に詳細な設定はないんでしょうか?
0310創る名無しに見る名無し
垢版 |
2012/05/13(日) 01:51:46.96ID:UVs/xPP9
a
0311創る名無しに見る名無し
垢版 |
2012/05/17(木) 22:00:44.20ID:6xfQnlYX
保守
0312 ◆VECeno..Ww
垢版 |
2012/06/03(日) 03:47:42.00ID:+ZoihrjM
投下しまふ。

>>309
私もそのあたりの設定を把握してないんですが、適当に書いちゃっていいと思いますw
矛盾が生じたら“パラレルワールド”ってことでw
0313【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
垢版 |
2012/06/03(日) 03:51:47.37ID:+ZoihrjM
【幻の能力者】 成世編 後編
─ Schr?dings; Fate ─




The fault, dear Brutus, is not in our stars, but in ourselves, that we are underlings.
「違うよ、ブルータス。不幸の星などではない。我々自身のせいなのだ、我々が負け犬の境遇でいるのは」
──ウィリアム・シェイクスピア『ジュリアス・シーザー』


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0314【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
垢版 |
2012/06/03(日) 03:52:53.84ID:+ZoihrjM
私はその時、自分の部屋にいた。
朝食と洗濯物、洗い物などの用事を済ませ、家を出ようとする所だったのだ。

でも、今日は学校へ行く気はない。
今から12時間後に起こるはずの事を考えてみれば、当然だ。

カバンを放りだして、私はベッドの上に腰かけた。
体がとても疲れている。


無理もない。
今の私は朝目覚めたばかりの私ではなく、
一日中授業を受けた後、あんな事があって、やっと逃げ出してきた後の私なのだから。


でも……これからどうすればいいんだろう。
勢いで飛び出したものの、具体的な計画なんてまったくない。

間違いの始まりである“能力鑑定”を回避するために2年前まで遡る、といっても私の能力は12時間前にしか戻れないし、昼の間は使えない。
どうやって、2年も遡ればいいんだろう。
0316【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 03:57:38.19ID:+ZoihrjM

コンコン

窓の方で、ガラスを叩く音がした。

「誰……!?」

背筋が凍る。
まだ早朝のこの時間帯に人が来るなんてありえない。
でも、あの叩き方は、風でも動物でもなく、明らかに人間のものだ。
反射的に身構えながら窓の方を見る。

カーテンに遮られて相手の姿は見えない。
でも、代わりに聞こえてきた声を聞いて、私は少し安堵した。

「成世さん、いる?」

鞍屋先生の声。

でも、どうして?
先生は今日、大学で授業をして、それから洗面所で私に─

「鞍屋先生……ですか?」

「そうよ。“今日は”大変だったわね」

─あ、
私は気づいてしまった。
0317【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 03:58:29.94ID:+ZoihrjM

勇気を出して、私はカーテンを開ける。

窓の外にいたのは、正真正銘の鞍屋先生だった。
長い銀髪、猫を思わせる緑色の目、両腕の長い手袋。
そして、柔らかく透き通る黒曜石のような声。

「これからの事を相談するから、私を部屋に入れて頂戴?」

鞍屋先生は再びコンコン、と音を立てて、窓の錠の部分をつついた。

「なぜ……私を助けたのですか?」

先生を部屋に招き入れて、私は真っ先に訊ねた。

「流石に気づいたのね。薬をすり替えた犯人が私だって事」

なぜだか知らないけれど、先生は比留間博士が私を狙っている事を最初から知っていて、阻止しようとしたのだ。

洗面所でぶつかったのも、偶然じゃない。
きっと、あのどさくさにまぎれて私の能力鎮静剤を偽物とすり替えたのだ。

その後、私が博士に気圧されそうになった時を見計らって、部屋に入ってきた。
あれは、私を助けるためだったのだ。そうでなければ、あのタイミングで薬が偽物だとばらすはずがない。
先生は、私を追い詰める振りをして、私の本来の能力が覚醒するのを手伝ってくれた。

そして、いま私を訪ねてきたということは──この時点の先生も事情を知っているに違いない。

「そうでしょう、先生?」

それを訊くと、先生は私のベッドに腰掛けながら答えた。

「その通りよ。正解。
0318【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 03:59:18.82ID:+ZoihrjM
それで、さっきの質問の答えだけれど、それは簡単な事。
さらに過去の貴方から事情を聞いたからよ」

と、鞍屋先生は言う。

「さらに過去?」

そうか、私にとっての未来は、鞍屋先生にとっての過去なんだ。
それで、先生は私を助けに来てくれた。
謎がだんだんと解けてゆく。

「そう。2年前に戻るつもりなんでしょう? 覚悟は出来てる?」

覚悟ができているかどうかなんて、自分でも分からない。
でも、もう歩み出すしかない。

「それで、今日は貴方にこれからの貴方が取るべき行動を伝えに来たの。
大丈夫、その予定を実行した貴方自身から聞いた話だから、間違いはないわ」

そう言うと、先生は持ってきた鞄の中から1冊のノートを取り出した。

「大体の方針はここに書いてある通りよ」

先生はノートを適当にめくりながら説明する。

「夏の間は、日の出直後と日の入りの直前にタイムトラベルをすれば、12時間遡ってもまで日が出ている計算になる。
大変なのは、夜の時間が12時間以上になる、春分の日から前年の秋分の日までの間ね。
この間は、比留間博士を利用するの」

「比留間博士を?」

過去の私(私にとっては未来の私だけど)が考えたにしては、大胆な話だ。
0319【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 04:01:22.32ID:+ZoihrjM

「彼の“能力”を貴方も見たでしょう?」

「『昼を夜にする能力』……」

「そう。そして、夜の間はその逆で、『夜を昼にする能力』なの。
このノートの○印のついていない日には、私が博士を言いくるめてその“能力”を使わせるから、
その隙に影に隠れていたあなたはタイムトラベルができるようになる」

「○のついた日は?」

「その日は、貴方自身が博士を騙すのよ」

「でも……」

「博士が貴方の“能力”に気づいたのは、今年の春になってからなの。
だから、別人のふりをして、うまく説得する。
ノートには……『黒野あゆみ』という名前が書いてあるわね」

「でも……そんなに上手くいくでしょうか?」

私はおそるおそる訊ねる。

「私達にとっては何回も繰り返す事だけれども、それぞれの博士にとっては1回きりの出来事。
それに、万が一気づかれても、一旦逃げてからまたやり直せばいい。
第一、私はこの方法で2年間を乗り越えた貴方から、この計画を聞いてきたのよ」

と、鞍屋先生は優しく答える。

「……わかりました、やってみます」

先生に励まされて、私の気持ちもだんだん上向いてきた。

「頑張ってね」
0320【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
垢版 |
2012/06/03(日) 04:05:28.37ID:+ZoihrjM
「最後に1つ、聞いてもいいですか?」

まだ確かめたい事が、私にはあった。

「ふにゃ?」

先生は気の抜けたような相槌を打つ。
先生にはこういうとぼけた一面があることにも、大学での三ヶ月間の間に私はすっかり慣れ切ってしまっていた。

「なぜ、先生は私を助けようと思ったのですか?」

「あら、それはさっきも訊いたじゃない」

先生はちょっと目を丸くして驚いた素振りを見せる。
でも、私はまだ先生から納得できる答えを聞いてはいない。

「いえ、そうじゃなくて……
私が聞きたいのは、過去の先生がなぜ私を助けようと思ったのかです」

先生がなぜ過去で私の話に乗ってくれたのか。

「…そうね、貴方は私と似ているから、じゃ駄目かしら?」

「似ている?」

「人生を大きく狂わせてしまう力」

「でも、私のは……嘘の“能力”だったんでしょう?」

「いいえ、あなたの本当の“能力”もよ。
貴方は、自分では気づいていないかもしれないけれども、貴方の能力は既に貴方の人生を大きく変え始めている。
それに、博士が狙っていたのも、貴方の本物の方の能力よ」

それもそうかもしれない。
あの瞬間から、どのみち私は普通の人生は歩めないだろうと悟った。
生きているかぎり、誰かが私の“能力”を狙いに来ると、直感的に分かった。
0321【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 04:08:58.53ID:+ZoihrjM

「それで、先生は……」

「洗面所では、私の“夜の能力”の話をしたわね」

『猫になる能力』……「猫になれる」ではなく、「猫になる」。
もし自分の意志に反して変身してしまうのだとしたら……それはとても不便な事だろう。

「でも、それよりも重大なのは私の“昼の能力”の方よ
《テイルズ・オブ・マルチヴァース》と呼ばれているけれど、簡単に言えば『並行世界の自分と1つになる能力』よ」

「並行世界……」

だから、この先生は量子力学の研究をしているんだ。
話の中で、先生の秘密が少しずつ解けてきた気がした。

「この“能力”は、例えば『運命を操る能力』にすら対抗できるほど強大な能力なの。
でも、その代償として、私は私の運命を自分の力で変える事ができない。
それは──全ての並行世界と繋がっている事は、あらゆる運命を拾ってしまう事を意味するから」

分かる? と、鞍屋先生は話を続けた。

彼女の授業を聞いていたおかげで、私には先生の言っていることがなんとなく理解できた。
つまり──
今、この瞬間も、どこかの並行世界で死んでいる彼女がいるのだ。
病気によって、あるいは、事故や事件に巻き込まれることによって。
でも、彼女達を救うことは出来ない。救おうとすれば、この世界の鞍屋峰子が代わりに死ぬことになる。

「まあ、そんな話は貴方には関係ないわね。
とにかく、私の“能力”は、運命をどう受け入れるかを決める能力ではあっても、運命を変える能力ではない。
でも、貴方は違う。
貴方は、自分の運命を自分で作る事ができる」

「自分の運命を、自分で?」

鞍屋先生の言う、運命という言葉の響きは、なんだか重々しいものに聞こえた。
0322【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 04:10:46.47ID:+ZoihrjM

「比留間博士は隠していたと思うけど、貴方の“能力”はただのタイムトラベルではないのよ。
貴方の“能力”の本質は、過去に遡って新たな並行世界を作り出す事。
それは、新しい運命を切り開く事に等しい─」

先生の話が正しいとしたら、きっと私のこの力は、運命を変えるためにあるのだろう。
そして、私は今からこの力を、運命を変えるために使う。
先生の話は筋が通っているように思えた。

鞍屋先生は話を続ける。

「─私は自分の運命に逆らう事が出来ない。
その分、貴方の可能性がとても愛おしく思えるの。
だから、私は貴方の味方になってあげたかった。
こういう答えじゃ、駄目かしら?」

「それが……私を逃した理由なのですか?」

「貴方はこの先の人生で、あなたの“能力”を欲しがる大勢の人に狙われる事になる。
だから、昼間も話した通り、困った事があったら、私を尋ねなさい。
貴方が過去を変えても、私は貴方のことを覚えていられるから」

並行世界を作る私と、並行世界を繋ぐ先生。
その出会いはたぶん、偶然ではなかったのだろう。

「ありがとうございます、先生」

「じゃあ、気をつけてね」

そう言うと、先生は立ちあがった。
次の瞬間──
0323【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 04:14:40.50ID:+ZoihrjM

部屋の窓ガラスが飛び散った。
ガラスの割れる音に私は思わず身を竦ませる。
ほとんど同時に、鞍屋先生が私をかばう様に床へと押し倒す。

カーテンに遮られていた事もあって、私達には何が起こったのかが分からなかった。
カーテンと床の隙間から、ガラスに紛れて何かが転がり落ちる。

「石……」

先生が私の耳元で呟くのが聞こえた。


窓枠に残ったガラスを取り除くような、ガシャンガシャンと乱暴な音が聞こえた。
その間に、先生は素早い動作で立ち上がって、部屋の窓の方を見た。

先生の視線の先で、ガラガラジャリジャリと窓を開ける音がし、カーテンがめくれた。

カーテンの向こう側に立っていたのは、鞍屋先生よりも頭2つぶんほど身長の高い男だった。
オールバックの金髪にサングラスをかけ、灰色のスーツを着ている白人男性。

男は日本語で先生に話しかける。

「なるほど、そういうコトか、“Aleph(アレフ)”」

相手の言葉に、先生はピク、と反応する。
0324【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
垢版 |
2012/06/03(日) 04:35:37.99ID:+ZoihrjM

「貴方は……聞いていたのね、“バシレウス”」

鞍屋先生の声は普段と同じで透き通った声だけれども、普段と違ってどこか恐ろしい響きをもっていた。

そんな先生に対して、男は片言気味の日本語で話を続ける。

「なに、オマエの様子に不審な点があったから追ってみただけだ。
『くのいちには見張りをつけるべし』……やはり日本古来のニンジャの言い伝えは本当だったな」

「そんな出所の良く分からない知識、どこで仕入れたのよ」

と、鞍屋先生は突っ込みを入れる。しかし、男は真面目なつもりだったらしい。

「ああ、仕事がら、spyについての文献は一通り読む事にしている」

と、無愛想に言った。


「誰…? この人」

私は先生に尋ねる。
外国人らしい訛った日本語で、外来語の部分だけはやたらと流暢に話すこの男に、
もちろん私は見覚えがない。


「私の“仕事”仲間よ。ただ、貴方を狙っているようだから気をつけなさい」

と、鞍屋先生は真剣な声で答える。
仕事……? 先生は大学で仕事をしているはずじゃ……?
0325代行:【幻の能力者】 成世編 後編 ◇VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 05:31:13.45ID:/o+3slbF
 
私の疑問を余所に、二人は会話を続ける。

「その子の“能力”はtop secretのはずだ。ナゼ余計なコトを教えた?」

「愚問ね。
この子の“能力”の価値は貴方達には分からない。
どうせ持て余しているなら、解き放ってあげるべき」

「それがお前の選択か? もしそう思うのならば、他のmemberにそう訴えるべきだった。
お前の行為は明らかに反逆だ」

「あらそうですか」

「正気か?」

「本気よ」


「先生!」

私は思わず口を挟んだ。

「逃げて。彼は私がなんとかするから」

鞍屋先生は私のほうを振り返って小声で話す。

「でも、先生……」
0326【幻の能力者】 成世編 後編 ◇VECeno..Ww
垢版 |
2012/06/03(日) 05:31:49.58ID:/o+3slbF

状況はよく分からないけれど、

「巻き込んで、ごめんね、成世さん」

これだけは分かる。

鞍屋先生は、死ぬ気だ。

「そうか、覚悟があるなら別に構わない。
だが、犬死にするだけだぞ」

男は、そう言いながらサングラスを外し…

…そこまで見た所で、目の前を先生の手が覆う。

「見ては駄目。目を瞑ったまま逃げなさい。過去の世界でまた会いましょう」

先生は早口で説明する。
私は小さくうなずくと、“昼の能力”を使った。

再び、体が奇妙な方向へと引き込まれる。
私はまた新たな並行世界へと旅立った。
この世界の先生の無事を祈りながら……
0328【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 11:34:27.47ID:+ZoihrjM
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北アメリカ大陸、「元」アメリカ合衆国ミシガン州、デトロイト。
元々治安の悪い事で知られるこの町は、約10年前にとある“天災”をきっかけとして荒廃が進み、
現在では市全体が“人口ゼロ人のゴーストタウン”と化していた。

無人と化した廃屋、放置された車、アスファルトの亀裂から生えている草木、壁に穿たれた銃弾の痕。
その生産の光景を目の当たりにした者は間違いなく、あたかも人類が滅亡した跡の世界に迷い込んだかのような錯覚に陥る事だろう。

そんな街の片隅で、人知れず煙草を吸う男がいた。

シャツの上から灰色のジャケットを羽織り、迷彩柄のズボンを穿いた日系の顔立ちの男。
齢20歳そこそこといった所か。濃い赤色に染め上げられた髪。鋭い光を帯びた瞳。
腰に帯びた漆塗りの鞘の中には一振りの日本刀が身を潜め、手にした真鍮の煙管(キセル)からは香ばしい煙が燻っている。

その男の背後に、一つの影が近づく。

「箱田衛一(はこだ えいいち)さんですね?」

背後から日本語で声をかけられて、男は振り返った。
男の振り向いた先には、コートに身を包んだ銀髪の女性が立っていた。

「始めまして」

女性は透き通るような甘い声で挨拶をする。
風に吹かれて僅かに揺れる銀髪の下で、明るい緑色の瞳が輝く。

男は訝しんだ。
普通の女性がこの廃墟の中に入ってくるのはいかにも不自然だ。
迷い込んだにしても、全域が廃墟のデトロイトの、しかもこんな奥地まで入ってくるとは考えづらい。
0329【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 11:40:50.78ID:+ZoihrjM

「あー、誰ですか?」

とりあえず、男は煙管を口から離し、質問をする。
女性はその動きを注意深く見守りながら答える。

「私は国際連合から派遣されたエージェント、“アレフ”と申します。
ちなみに、日本人ですからご安心を」

「国際連合?」

国際連合とはまた大層な所から使者が来たな、と男は思った。
相手の狙いが分からない以上何とも言えないが、神経は研ぎ澄ませていた方が良さそうだった。

そんな男の心配を余所に、アレフと名乗る女性は話を続ける。

「ええ、国際連合です。
随分と探しましたよ、箱田さん。
いえ、それとも世界を救った勇者様とでも呼んだ方がいいかしら?」

「……世界を救った、か。昔の話だな」

男は煙をふかしながら、どこか淋しげな目で宙を見つめる。
その話はあまりしたくない。といった調子だ。

「国際連合は世界を救った貴方の力を、非常に高く評価しています。
このため、非常に残念ですが…」

と、女性は声のトーンを微妙に落とす。

「…貴方の存在は危険と見做され、貴方を抹殺する決定が安全保障理事会から下され…」

その言葉が耳に届くや否や、男の手には抜き放たれた刀が太陽の光を受けて燦然と煌めいていた。
0330【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 11:43:35.58ID:+ZoihrjM

「命を粗末にするのはやめときな、お嬢さん」

男は刀の切っ先を女性に向け、余裕たっぷりの表情で警告する。
女性は男の反応の素早さに目を丸くしていていたが、すぐに笑いながら。

「…お見事です。さすが、最強の能力者と言われるだけの事はありますね」

と、その技を褒め称える。
瞬時に煙管の火を消し、ジャケットの内ポケットに仕舞い、左腰から抜刀。
その全ての行動が文字通りの「目にも止まらぬ速さ」で行われていた。

「ここまでに達するには、相当の努力を有したんだけどな」

「努力も才能のうちですよ。
貴方の《ホープ》は、事実上全能とも言われる『確率操作』能力。
今の居合抜きも、『偶然』生じた時空の歪みやトンネル効果を利用したもの。そうですね?」

自分の技の正体が見破られていると知り、男は警戒心を強める。

「そこまで分かっていながら、なぜ挑もうとする?」

男は訊ねる。
敵の手の内が分からないうちは、無闇に動きたくはなかった。

「それは、私にも勝算があるからです」

「ほう?」

その言葉に、男は興味をそそられる。
0331【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 11:47:07.01ID:+ZoihrjM

彼は自分の“能力”に目覚めてから今まで、あらゆる事を試し、あらゆる状況を想定してみたが、
結局、この力を極めれば誰も太刀打ちできなくなるという結論に達していた。
そして事実、この“能力”を極めた彼には、誰一人として敵わなかったのだ。

にも関わらず、女性は自信満々に言う。

「もし、私の“能力”が『勝算を見つける能力』だったら?」

自身が確率を操る能力を持っているからこそ、自信を持って言える。
世の中に『絶対』はない。自分の結論が間違っていないとも、この女が自分を打ち倒す術を持っていないとも限らないではないか。
そう男は考えていた。

「なるほど、それなら勝負になるかもしれない。
でも、それなら何故不意打ちをしなかった?」

不意打ちをしなかったのは、男の方も同じであるので人の事は言えない。
暗殺するのに不意打ちをしない理由は2つに1つ。
単に相手が愚かか、それとも──

「貴方とお話してみたかったからよ。
それに、正々堂々と勝負したほうが、盛り上がるでしょう?」

盛り上がる、という言葉に男の心は躍った。
なるほど、この女は根本的に、自分と同じタイプの人間らしい。
0332【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 11:47:54.75ID:+ZoihrjM

「乗ってやるよ。どうせ、この世界には飽き飽きしていた所なんだ」

「飽き飽き?」

女性は鞄から取り出した銃を手で撫でながら訊ねる。
手袋を嵌めているため、指紋はつかない。

「強すぎる力を持つってのは、意外とつまらないモノだ。
想像してみろよ、ラスボスも倒して隠し要素もコンプしたレベルMAXの勇者に、どんな存在意義がある?」

「そうね……あとは次回作のラスボスになるぐらいしか」

男は苦笑した。

この女、自分と気が合いそうなだけでなく、機知とユーモアも併せ持ってやがる。

「あーそれはアリかもな。だがラスボスにしても、宇宙をも滅ぼせるまでになった
この“能力”に、新しい勇者がどう立ち向かうかは、見物だがな」

こんな有望な子と殺し合いをする羽目になるなんて、全く残念だ。
0333【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 11:50:51.55ID:+ZoihrjM
「ところで、箱田さん。
国際連合は、貴方を“フォルトゥナ”というコードネームで呼んでいました」

女性は銃をコートの内側に仕舞いながら話題を切り替えた。
それ仕舞う意味あるのかよ、と思いつつ、男は適当に相槌をうつ。

「フォルトゥナ? ああ、運命の女神か」

と、“フォルトゥナ”は頷く。

Fortuna、ギリシャ神話の運命の神。
そして、運命を意味する英単語、Fortuneの語源でもある。

「貴方は、運命を信じますか?」

その問いに、フォルトゥナは満を持して答える。

「信じるも何も、俺は『確率操作』の能力者だ。
──俺の運命は、俺が決める」

それを聞いて、“アレフ”も不敵な笑みを浮かべながら応じた。

「それでは──貴方は、私の運命を決められるかしら?」

その言葉と同時に、アレフの姿が「ブレ」た。
0334【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 11:55:16.82ID:+ZoihrjM

錯覚ではない。
フォルトゥナの眼前で、アレフの両腕が一瞬ぼやけて消え、次の瞬間、
短機関銃(サブマシンガン)を構えた状態で再び出現した。

「“UZI(ウージー)”か。やるね」

IMI社製“マイクロUZI”。銃身を切り詰め極限まで小型化を図った携行性重視の短機関銃。
毎秒20発以上のペースで発射されるその亜音速の9mmパラベラム弾は、
特に対人近接戦闘において絶大な制圧力を発揮する。

「……」

フォルトゥナのコメントを無視して、アレフはトリガーを引いた。
銃内部のラウンドアップ・ボルトが駆動し、弾丸を薬室内に送りこむ、
続いて装填された弾丸後部の雷管を撃針が叩き……

次の瞬間、マイクロUZIの銃身自体が破裂して吹き飛んだ。
弾け飛ぶ無数の破片が弾丸並みの速度で“アレフ”の身体に突き刺さる。

「ファンブル(失敗)だな─」

フォルトゥナは『運良く』破片が飛んでこない位置に立ちながら言葉を続けた。

「─分かってるとは思うが、この宇宙で起こる物理現象は全て『確率』に支配されている。
ってことは、お前の武器に『偶然』亀裂が入って破損しても、不思議ではないよな?」

射撃と共に蹴り込まれていたMK3A2手榴弾も『運悪く』火が消えて不発し、空しく地面に転がる。

「そして、お前の周りの空間に『たまたま』数億ジュールのエネルギーが発生しようが、文句は言えないよな?」

言葉と同時に、アレフの周囲の大気が『折良く』膨大な熱を帯びて急激に膨れ上がり、
次の瞬間、廃墟街に、大地を揺るがさんばかりの巨大な爆発音が轟いた。
0335【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 11:57:02.28ID:+ZoihrjM
この宇宙は一見、安定しているように思えても、
量子レベルでは時空の歪み、粒子の生成消滅、エネルギーの増減などが絶えず『偶発的に』繰り返されている『不確定』な世界である。
分子レベルでさえ、水や空気は『ランダムに』運動しているのだ。
そして、フォルトゥナの“能力”を以ってすれば、それらの『確率』を自在に操作する事ができる。

万象を支配する『神のサイコロ』をも操る能力。
故に、“最強の能力者”であり“事実上全能”。


勝負は一瞬でついた。


元より、性質的に長引くはずの無い勝負。

極端な話、抜刀の必要すらなかった。
わざわざ銃を構えているようでは話にならないのだ。

「クリティカル。終わったな……」

目の前に荒れ狂う巨大な火柱を前に、フォルトゥナはどこか悲しそうに呟いた。
0336【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 12:00:09.28ID:+ZoihrjM
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「なぜ……殺さなかったのですか」

デトロイトの路上に焼け焦げた肢体を晒し、アレフはその喉から苦しげに言葉を漏らした。
体は皮下組織まで炭化し、所々には骨が露出している様子すらもくっきりと見て取れる。
その命は誰がどう見ても、風前の灯だった。

「お前の企みが分かったからだ」

分かった、というよりも、彼には思い当る事があった。
以前、思いついて、そしてその時は無視しても良いと判断した『可能性』が……

「そう……」

「お前は『並行世界』の能力者だな」

と、フォルトゥナは推理する。
もしこれが正しいとしたら、というよりも、少なくとも彼にはこれしか考え付かないのだが……

「ええ、その通り。私は貴方の唯一の弱点を見つけたのよ。
貴方の言う通り、この宇宙は全て確率次第。だからこそ、貴方は全能でいられる。


けれども、だからこそ、貴方にも支配できない確率が、たった1つだけ存在する─
0337【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 12:01:25.79ID:+ZoihrjM

─それは『貴方の能力が不発する確率』。
この世が全て確率次第なら、貴方の能力が『不運にも』上手く発動できなくても、理不尽ではないでしょう?」

北アメリカ大陸、「元」アメリカ合衆国ミシガン州、デトロイト、31番地。
アレフの足元には、頭を撃ち抜かれ脳に重大な損傷を追ったフォルトゥナが転がっていた。

「あーそれは考えてた」

(……ただ、本当にそれに賭ける奴がいるとは思わなかったけどな)

完全な敗北。
残った脳の断片でそこまで思考し、フォルトゥナはこと切れた。

相手の“能力”が不発するという、想像だに恐ろしい天文学的な確率。
“アレフ”はその確率に賭けた──天文学的な数の並行世界で同時に“フォルトゥナ”に挑みかかったのだ。
それこそが「生体量子コンピューター」と呼ばれる彼女の頭脳が導いた勝算だった。

意識性の“能力”は、使用者の脳が重大な損傷を負えば発動できなくなる。
アレフはその事を知っていたため、真っ先に脳を狙ったのだった。

MK3A2手榴弾が炸裂し、1秒前までは世界最強の能力者だった亡骸を消し飛ばす。

勝負は一瞬でついた。

元より、性質的に長引く筈の無い勝負。
しかし、その結果は蓋を開けてみるまで分からない。
まるで、箱の中に入れられた猫の生死のように。

「……終わったわね。
貴方が死んで、私が生きているこの世界、大切に使わせて戴くわ」

貴(あで)やかさを纏う黒曜石のような透き通る声でそう言い残し、アレフはその場を後にした。


“シュレーディンガーの猫”は、生き残った。

0338【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 12:03:38.14ID:+ZoihrjM
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「あーそれは考えてた。
……ただ、本当にそれに賭ける奴がいるとは思わなかった」

瀕死の重傷を負って倒れ伏している相手を目の前にして、フォルトゥナはその相手の勝利を悟った。
否、自分と相手では、そもそも勝負のスケールが違っていたのだ。

「私の“能力”は貴方の運命操作とは対極に位置する、『あらゆる運命を肯定する能力』とでも言うべきものよ……
だからこそ、その可能性を探り当てる事ができた。
──私の勝ちね」

たとえ「自身が能力の発動に成功する確率」を操作したとしても、その操作自体に失敗する確率が常に残ってしまう。
それこそが、フォルトゥナを倒す唯一の攻略法だった。

「だが、大多数の世界ではお前のほうが負けているんだろ?」

「でも、私が勝った世界があるのも、また事実」

「負けず嫌いだな」

「いいえ、私の“能力”はどんな運命も受け入れる。敗北の運命をも受けいれた結果の勝利よ」


しかし、それは多大な犠牲の上に成り立つ勝利。
ならば何の為に戦うのか──束の間、フォルトゥナは疑問に思う。
0339【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 12:05:05.60ID:+ZoihrjM

「……で、この世界の君はどうするつもり?」

フォルトゥナは煙草に火をつけながら、全く素朴な疑問を口にする。

「そうね、貴方の好きにすれば……?」

「投げやりだな」

もっとも、圧倒的な相手を前に致命的なダメージを受けた絶望的なこの状況、
いつ投げやりになっても無理はない。

「貴方の危険性は、既に世界に知れ渡っている……
間もなく国連の精鋭達が動き出すでしょう。
貴方は世界を敵に回す事になる。
……さっきも言ったでしょう? 今度は、貴方が…」

呼吸器官に重大な損傷を負っているためか、アレフの言葉が段々と切れ切れになってきている。
むしろ気丈に会話を続けようとするその精神力こそ、驚嘆に値する。

「…『次回作のラスボス』か」

フォルトゥナは戦う前に交わしたやり取りを思い出す。


「仮にそれを潰滅させたとしても……国連は今の世界平和の半分を担っている組織……世界は混乱の渦に沈む事になる。
その混乱の中で……いずれ貴方に匹敵する能力を持つ者が……貴方を倒しに来るかも知れない。
良かったわね……退屈しのぎが出来て……」


自分が敗北した時の事まで考えているとは。
と、フォルトゥナは感心する。

本当に、このまま終わらせてしまうのは勿体無いか──
0340【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 12:38:29.23ID:+ZoihrjM

不意に、フォルトゥナはアレフに2、3歩ほど近づく。
そして屈みこむ。

「そいつはありがたいな。
だが、その前にお前を治療させてもらう」

微かな煙草の香りがアレフを包み込んだ。

「……何故?」

アレフは、掠れた声で、ただ呟く。

折角倒した敵、それも自分の命を狙いに来た相手をわざわざ蘇生させるなど、
アレフには理解できない行動だった。

しかし、フォルトゥナはそれがさも当たり前の事であるかのように、
こう答えた。

「何故って、目の前で倒れている女の子を放っておけない性格だからさ」
0341【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 12:39:35.87ID:+ZoihrjM

フォルトゥナは空中に手をかざした。
大気中に飛び散っていた原子が『幸運にも』アレフの周囲に再び集まり、傷口に癒着し、体組織を形作ってゆく。

「優しいのね」

と、アレフは微笑みながら答える。
微笑む事ができるほどに、顔の筋組織が再生したからだった。

その言葉を聞いて、フォルトゥナは照れくさそうに、
そしてどこか寂しげに言った。

「優しい、か……俺はその言葉が嫌いなんだ」

「何故?」

と、アレフは訊ねる。
優しいと評価されて、嬉しがらない人間は特別な人間だと、彼女は知っていた。

「何故って、他人(ひと)の心なんて、誰にも分からないだろ?」

と、フォルトゥナは答える。

それは、確かに、正しい。
と、アレフは思った。
むしろ、予想の範囲内の答えだった。

でも……、

「問題ないわ。
私が評価しているのは、貴方の『心』ではなく貴方の『行動』だから」

と、アレフは弁解する。


その内心では……いや、ここに記すのは止めておこう。
他人(ひと)の心なんて、誰にも分からないのだから。
0342【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 12:43:25.69ID:+ZoihrjM

戦いが終わり、

廃墟の片隅に停めてあった自分の車に乗り込もうとするフォルトゥナを、

「待ってください」

と、アレフは呼びとめた。

「私も連れて行って下さいませんか?」

「何故?」

今度は、フォルトゥナが訊ねる番だった。

「このまま帰っても、国連に私の居場所はないわ。
貴方に負けて帰ってくる事は許されていないから」

「また闘う気か?」

「残念ながら、私にはもうその余力も残されていないの。
さっきの戦いで、貴方を倒すための並行世界(リソース)は使い尽くしてしまいました。
だからいっその事……」

「国連を抜けて俺の側につく、とか?」

「ええ、正解」

非常に大胆な申し出をしておきながら、
アレフは子猫のような瞳でフォルトゥナを見つめる。
0343【幻の能力者】 成世編 後編 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 12:44:38.99ID:+ZoihrjM

「なるほどね。じゃ、乗れよ」

一秒後、フォルトゥナは、あっさりと許諾した。

「いいの?」

「これから戦いになるんだったら、国連の内状に詳しい味方がいないとな」
それに……困っている女の子を放っておいたら男が廃るだろ」

フォルトゥナは冗談めかして言いながら、助手席のドアを開けた。




かくしてデトロイトから、一台の「所持者不明」の車が出発した。
アレフからの連絡が途絶えた事で、国連は一時フォルトゥナを見失い、
これにより、国連の対要警戒能力者戦略は、次のフェイズに突入する事となる。


運命破壊の能力者をめぐる運命の行く先は、まだ誰にも分からない。

0345 ◆VECeno..Ww
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2012/06/03(日) 13:33:58.96ID:+ZoihrjM
・設定紹介
鞍屋峰子

《昼の能力》
名称 … テイルズ・オブ・マルチヴァース
【無意識性】【変身型】
『並行世界の自分と繋がる能力』。
昼の間、彼女の存在は常に並行世界(パラレルワールド)の自分自身と繋がっており、精神を共有したり肉体を交換することができる。
これによって本来ならミクロレベルでしか起こらない量子力学的現象をマクロレベルで実現する事ができる。

並行世界の自分と並行して思考することによって超人的な思考能力や情報収集能力を発揮したり、
情報や道具を並行世界から持ち込んだり、並行世界の自分と交代して休憩や治療を行ったり、
状況に合わせて異なる状態の自分を呼び出すなど、応用性に優れる能力。

代償として『自分の運命を自分の力で変えることができない(=自分の行動で並行世界が分岐することがない)』、
反面、運命操作や確率操作の能力に対しては劇中(幻の能力者 成世編後編)に示されるような耐性を持っている。

“並行世界の自分”は精神性の類似度によって判定している。
そのため、洗脳や精神攻撃などを受けた状態では正常な状態の自分と繋がる事が困難になる。
また、《テイルズ・オブ・マルチヴァース》を無効化されても、並行世界の鞍屋峰子は影響を受けない。

劇中(幻の能力者 成世編前編)に登場する理論によれば、全ての量子揺らぎが並行世界に1対1対応しているわけではない。
これに従えば彼女が利用できるのはあくまでもマクロレベルの「並行世界」であり、ミクロレベルの「量子揺らぎ」までを完璧に制御することはできない。
(もし出来るとすれば確率操作能力と同等の力を持っている事になるが、そういう活用の仕方をしている様子はないので恐らく出来ないだろうと推測できる。)

※メタ的には、チェンジリング・デイ内で、他の作品と矛盾した出来事(=異なる歴史)が書かれる事で生じた並行世界を利用するのが彼女の能力です。

その性質から、劇中では『あらゆる運命を肯定する能力』『生存特化』などと形容されている。
0346 ◆VECeno..Ww
垢版 |
2012/06/03(日) 13:39:02.57ID:+ZoihrjM
・人物紹介

【箱田衛一(はこだ えいいち)】
コードネーム:フォルトゥナ

“アレフ”こと鞍屋峰子が「世界最強の能力者」と評する人物。
煙草と剣術を嗜む軟派な日本人。
“アレフ”の話によれば、以前「世界を救った」事がある模様。
しかし、その過程で自身の“能力”を極めた結果、「あまりにも強くなりすぎた」ために人生に退屈しており、
201X年現在は世界各地を飛び回り傭兵稼業や道場破り的な事をして暇を潰しているらしい。

 世界のあらゆる事象に干渉することができる事実上全能の確率操作能力の持ち主だったが、
 鞍屋峰子と対峙した際、“彼が能力の発動に失敗する可能性”を突いた彼女に敗北し、死亡した。
 (ただし、作中で語られていない多くの並行世界では、鞍屋峰子の方が死亡あるいは投降している)

※下記の“能力”は「複雑性エグザ」発現後の性能です。発現してないと効果が小さく使用に伴い疲労するため少し弱くなります。

《昼の能力》
名称 … ホープ
【意識性】【操作型】
昼の間に実現しうるあらゆる現象を、100%までの任意の確率で引き起こすことができる。
「事実上全能」と称される確率操作能力。

使用方法は、『偶然』敵の攻撃を失敗させる、『偶然』空間中にエネルギーを発生させる、
『偶然』疲労や怪我を回復する、『偶然』時空を歪めるなど多岐にわたる。

基本的にどんな事象にも干渉することができるが、本人は熱エネルギーによる攻撃を好む。
理由は「火はイメージするのが簡単だから」。(反面「相手に勝つ」などの抽象的な運命を直接操作することはできない。)

《夜の能力》
名称 … ブラックデビル
【意識性】【力場型】
夜の間に実現しうるあらゆる出来事について、効果範囲内で起こる可能性を0%まで引き下げることができる。
「事実上無敵」と称される運命支配能力。

昼の能力とは逆に、具体的な物理現象の操作は難しく、抽象的な運命の操作に長ける。

極端な話「絶対に負けない」等の運命を設定すれば夜の間は絶対に負けない。
どこまでの範囲に効力を及ぼすのかは明かされていないが、恐らく本人は把握していると思われる。
0347 ◆VECeno..Ww
垢版 |
2012/06/03(日) 13:41:10.02ID:+ZoihrjM
つ、疲れたぁ〜〜!!

(シリーズ最初の投下から9ヶ月ぐらいでしょうか?) 
期間が思いっきり延びてしまいましたが、【幻の能力者】シリーズは
新たなシナリオフックを幾つか残しつつも、ひとまず完結です。

最初のほうの話を覚えてないよ! という方のために、以下に
シリーズ全体の構成とまとめへのリンクを書いておきます。

このシリーズは「慎也編(Aパート)」「ドグマ編(Bパート)」「成世編(Cパート)」の
それぞれに前編と後編があり計6部構成になっていて、全体を把握するためには全パートを読む必要があります。

物語の理解のためにはどのパートから読み進めていただいても構いません。
(全パートを並行して読むのも面白いですが、混乱しても保障はいたしかねます!)

ちなみに、スレへの投下順はこんな感じでした。
  本スレ    避難所
慎也編前編 ドグマ編前編
成世編前編 ドグマ編後編
成世編後編 慎也編後編

また、チェンジリング・デイwikiには本シリーズの投下済みの作品が
まとめて収録されているため、読み返すのにお薦めです。
作者一覧の所から私のトリップを探せば作品をまとめて見る事ができます。
http://www31.atwiki.jp/shareyari/pages/69.html
0348創る名無しに見る名無し
垢版 |
2012/06/03(日) 14:35:39.12ID:7whuwDj0
乙ん
構成大変だったかと

鞍屋さんすげえです
0349 ◆rW7/dLwOOU
垢版 |
2012/06/03(日) 23:13:57.02ID:ZId9U1oF
ものすごく壮大で複雑な構成のお話でしたね!
当方の頭では理解するのにもう少しかかりそうですw
さて、こちらで少し書かせてもらおうと思ってやってきました
ほんのイントロ部分ですが、これから頑張って書こうと思いますので
どうぞよろしくお願いします
0350EXdodge -新芽の息吹-
垢版 |
2012/06/03(日) 23:16:30.83ID:ZId9U1oF
 西暦2000年2月21日。青い星に降り注いだ大小様々な無数の隕石群は、古代から連綿と受け継がれてきた
美しい自然を、そこに住む多様な生命たちを根こそぎ蹂躙しつくした。
 人間が築き上げ、延々と語り継いできた文明もまた一瞬で瓦礫の山と化した、史上最悪、空前絶後の
大災害。あらゆるものが崩れ去り、ゼロへと還らざるを得なかった。

 そんな状態だったからだろうか。人々の多くは「スポーツ」への関心を失っていた。サッカー場、野球場……
そういったスポーツ施設の多くは隕石で崩壊し、またプロのスポーツ選手たちもその多くが隕石の犠牲となって
いたから、それらの施設の復興を望む者も多くはなく、またいたところでそんな資金さえなかったのだ。

 何より多くのスポーツを「荒らした」のが、隕石が人類へともたらした未知の「能力」だった。災害から
5年あまりたって後、各スポーツがようやく活動を再開しはじめた矢先、そのどれもがこの「能力」によって混乱を
極めることになった。

 選手たちは獲得した能力を好き放題に使い始め、試合がメチャクチャになるなんてことはざらで、相手選手に危害
を加えるような能力が使われることも珍しくない、そんな状況。ただでさえ今を生きることに必死な人々が、そんな
荒んだスポーツ界から遠ざかってしまうのは、もはや当然の理と見えた。

 だがそんな中。あの大災害から10年がたった今日、人々の耳目を集めるスポーツも確かに存在する。
 それは、絶望漂う大災害の中でも希望を忘れなかった少年たちが考案した、新時代のスポーツと呼ぶべきもの。
 自分たちに訪れた巨大な変化を受け入れ、ルールに明確に取り入れたそのスポーツは今、日本のほとんどの中学高校
で主流のスポーツとなりつつある。

 これは、そんなチェンジリング・デイ以降に生まれた新興スポーツ「エクスドッジ」に青春をかける若者たちの物語である。


続く
0352創る名無しに見る名無し
垢版 |
2012/06/03(日) 23:33:10.98ID:7whuwDj0
とうとうスポーツ来たか
wktk
0353 ◆VECeno..Ww
垢版 |
2012/06/06(水) 20:34:47.11ID:bdbQBHCd
>>349
ありがとうございます。
別所にネタバレを投下しておきましたので、正解が気になったらどうぞ。

スポーツとは面白そうな切り口ですねー
単純な戦闘ではできない独特な駆け引きが生まれそうです。期待!
0356創る名無しに見る名無し
垢版 |
2012/07/04(水) 09:16:31.94ID:aE+AZpIA
復活したついでに避難所に投下あったよ報告
0357 ◆IulaH19/JY
垢版 |
2012/08/13(月) 15:12:14.15ID:DMix+teK
>>347
うおおwお疲れ様でした〜
Cパートまで無事に終わりましたね。
フォルトゥナさんかっこいいw設定だけ後で借りさせていただきますw
しかし自分を犠牲にしまくるあたり、アレフさんの強さは異質だな〜と思いますね〜。
その辺が個人的に一番面白かったですよw

あ〜、こんな精密なプロット書けねぇなぁと思いつつ私も後で投下させてもらいますね。

>>350
面白そうなスポーツ系来ましたね、コレ。
イントロ部分だけみたいなので、本編のほうもお願いしますね〜。

さて、長らく空けてしまった「リリィ編」の続き投下させていただきます。
就活は終わっていたのですが、研究の発表とかをだらだらしてたせいで遅れてしまいました。
申し訳ないッ。
それでは↓
0358リリィ編 ◆zKOIEX229E
垢版 |
2012/08/13(月) 15:12:59.72ID:DMix+teK
 機関第七研究所のメンバーたちがドグマ本部襲撃に失敗したあと、崩壊する地下通路の中からシルバーレインに連れられ、俺は彼女のアジトに匿われていた。
 郊外にある緑に囲まれた住宅街。海沿いに面したこの土地は、海からの涼やかな風を何処でも感じる事ができる。
 この土地の中でも、一番高い丘の上に広大な庭と土地を持つ豪邸があった。白を基調としたシンプルな家屋の裏には、この家の主人が有する大きな森が広がる。その森の中には戦闘訓練用の広場や射撃訓練所、爆薬などの倉庫までを隠し持っていた。
 つまり、ここがシルバーレインたちのアジト。大富豪ハーゲンダルク家の別荘だった。
俺は赤いピアスの女を後部座席に乗せ、海を目指し長い下り坂を自転車で駆ける。
 エデンに斬られた右腕の義手はまだ用意できておらず、左腕だけで慎重にハンドルを操作する。

「私?私は昧耶って言うの」
「マヤ……か」

 名前を聞くと、彼女は笑いながら答えた。
 ちらりと後ろを振り返ると、青空を背景に自転車のハブに足をのせ立ち乗りしていた。
こんなに暑いのに首にはマフラーをつけ、俺の肩に乗せる手には白い手袋をしている。
 暑さを感じない能力なのかもしれない。実際に、彼女から熱というものを感じなかった。
彼女が信用に足る人物かどうかは、ハーゲンダルク家の森に来た事から分かる。
 見た目より警備が厳重な私有地だ。この家に関わる人でしか出入りできない。
 ついでに言えば、この街全体がハーゲンダルク家の監視下にある。住人の身元は精査されており、そして街なかに機関の連中や怪しい人物がいれば、すぐに俺に連絡が入るようになっている。
 そして情報制御されたこの街中では、俺は一般人として振る舞う事ができる。
 安全な箱庭だと思う。弱い自分にはお似合いだとも、自虐的に思う。

「曲がるぞ。しっかりつかまってろよ?」

 崖の上。海沿いの街並みが眼下に広がる緩いカーブの坂道を自転車で駆け下りる。
 あれからドグマの活動は一切報道されていない。
 フールに安くない金を払って調べてもらったが、まるで存在自体が消えてしまったかのように世界中での活動を停止させていた。
 一部の報道ではドグマが壊滅したかといわれていたが、バフ課を含め多くの組織は一時的にどこかへ潜ったと考えており、警戒を解いていない。
 ドグマに所属していた残党を探すことに血眼になっている。
 俺とフールが危険だなと思いながらも、心は別の方を向いていた。
 これからどうするか。その方針がまったく立っていない。
 シルバーレインに戦闘訓練を付けてもらっているが、稽古を行う理由が己の中で不鮮明であるため、いまいち内心が乗り気でないことは自覚しているし、彼女も分かっていながら俺に合わせてくれているのだろう。
 原因は、リンドウか。
 俺があの時もっと強くて、機関・第七研究所の全員を倒せる力があれば彼女は俺を連れて行ってくれたかもしれないが、それを補うために今更戦闘力を付けたところでどうなるというのだろうか。
 もう二度と会えないかもしれないのに。
 心の奥がズキリと痛んだ。

「大丈夫だよ」
「え?」

 驚いて聞き返す。
 内心を聞かれていたかと思えば

「なに?しっかり掴まっているから大丈夫だよって言ったんだけど」
「あ、ああ。そういうことか」

 カーブでキッと小気味よいブレーキ音を立てながら自転車が曲がっていく。
 色々な問題はあるが、今考えていても明確な答えは出ない。
 足りないものが多すぎる。力も、答えを出すための経験も。
それを得るために、これからどうすべきか。
進行方向の先。広がる空を見上げた。
レンガ造りの町の向こう、雲ひとつ無い青天が夏の空に広がっていた。
0359リリィ編 ◆zKOIEX229E
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2012/08/13(月) 15:14:00.64ID:DMix+teK
 マヤの要望で、海辺沿いにある巨大なタワーへと向かう。
 高さ150mほどある鈍く光る黒い建造物で、展望台へはエレベーターで向かうほか、非常階段で向かうこともできた。
 マヤは非常階段で行きたがったが、戦闘訓練で疲れていた俺はエレベーターに乗り込む。
 音を立てず、しかし、高速で上昇していく。軽い浮遊感に気分が悪くなるが、顔には出さない。
 エレベーターの中は俺とマヤ、そしてエレベーターを動かすお姉さんしかいなかったが、さりげなくマヤが俺の右側に立ち、欠損した右腕を隠してくれていた。
 しかし、そのせいで俺のすぐそばに彼女が立つことになった。彼女の整った顔をじろじろ見るのも悪いと思われ、視線を泳がし、最終的に昇っていく窓の外を眺めるに落ち着く。
 海岸通りの遠くに、同じような白いタワーが見えた。

「あれは?」
「双子タワーと呼ばれていて、この塔と同じ高さと造りになっています。こちらは観光用に造られたものですが、あちらは公共電波の配信など、企業向けの設備が揃った電波塔となっているんですよ。……ところで、お二人はコレ?」

かわいらしい帽子を被ったエレベーターガールのお姉さんが、小指を立てて見せたので、苦笑しつつ左手を振る。
エレベーターが最上階に到着すると同時に、マヤが左腕を掴んで窓の方へと俺を引っ張る。
 360度見回せる展望室には、見物客は少なかった。
 隣で袖を引っ張るマヤも、風景には興味を抱かず、けれども、俺を引っ張って東の一角へ連れて行く。

「ヨシユキ?こっち」
「……っ」

 思わず変な声が出そうになったのを抑えた。
 東側の部屋。その一角だけ異質だった。
 “縁結び教会”。簡易の聖壇の上には黒い十字架が立っていた。
 あー。これはいわゆる、そういう系か。
 彼女のほうをちらりと見ると、マヤはなぜか二拍手し拝んで言った。

「ヨシユキとシルバーレインの仲が良くなりますように」
「おいおい」

 ふと気がつくと、先ほどのエレベーターのお姉さんがカメラを持って傍に立っていた。
 カメラを掲げ、口には出さずに一枚どう?と聞いてくる。
 俺とマヤは視線を合わせ、俺が頷いた。

「ほら、もっと近づいて」

茶化されているのだろうなと思いながら、言葉通りに近づく。
ポージングは二人とも無し。ただ二人で傍に立っていた。
ふと、何か随分と懐かしい気がした。
 何が、だろうか。
 見回せば、この空の青さも、海もいつも傍にあるのに。

「ヨシユキ?前」

左横に立っているマヤが、俺の注意を引くように袖をぎゅっと引っ張る。
 ああ、そうか。
 ひさしぶりだ。
 常に誰かが傍にいてくれているという状況は。

「はい撮ります。チーズ」

写真は後日、配送してくれるそうだ。
うまく笑えたかどうかは、わからない。
0360リリィ編 ◆zKOIEX229E
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2012/08/13(月) 15:15:33.15ID:DMix+teK
 夕刻。
 恋人たちや初老の夫婦が砂浜をゆったりと歩いていた。
「そろそろ帰りますか、お嬢様」
 あれから、海辺の街を散策したりアイスを食べたりで、いい気分転換になった。
 腰を落としていた防波堤の上で、立ち上がる。
 夕陽が落ちようとしていた。
 その光を受け、海面が道のように輝いて見えた。
 砂浜に向かう階段を下り、途中で彼女がついてきていないのに気づく。

「おーい……」

彼女はまるで俺を無視するかのように、防波堤に座り込んだまま俯いて、何か考え事をしているようだった。
 しばらく逡巡したのち、その辺を見てこようかなと再び海岸へと階段を降り始めると、不意に声がした。

「ヨシユキ……私はっ……私はね」

泣き声に似た声が聞こえ、思わず振り返る。
見上げると、夕暮れに沈む橙の空を背景に、陰になった彼女の輪郭が太陽の残滓を受けて淡く光る。

「ずっと……逢いたかったんだよ。ヨシユキ……」

マヤは俯いたまま、一言一言呟いた。
俺は何も答えられず、小さく見える彼女を凝視した。
沈黙の空白を埋める様に、一陣の風が吹いた。

「お前は……」

とまどいながらも、俺は言葉を紡ぎ出す。

「いったい……誰だ?」

 マヤが顔を上げる。
 彼女の目はしっかりと、俺を捉えていた。
 この目は……
 その感覚に、郷愁のようなものを感じて軽い身震いが生じる。

「私は、風魔=昧耶。コードネームは『ツバキ』」
「は!?」

 悪夢の中の登場人物が目の前にいた。
 陸風の吹く潮騒の中、泣き出しそうな顔で彼女は首をかしげ、俺に笑った。

「久しぶり、ヨシユキ。私のこと覚えてる?」
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