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ゲームキャラ・バトルロワイアル Part4

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
0001創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/03/16(水) 00:36:50.93ID:oDY7gklU
様々なジャンルのゲームキャラを用いた、バトルロワイアルのクロスオーバー企画、
『ゲームキャラ・バトルロワイアル』のスレへようこそ。


【使用上のご注意】


『ゲームキャラ・バトルロワイアル』には、版権キャラクターの暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています。
CEROで言えばD辺りに相当するかもしれません。
この作品は『バトルロワイアルパロディ』です。
苦手な方が読むと、後々の嫌悪感の原因となったり、
心や体などに悪い影響を与えたりすることがありますので、絶対におやめください。


☆前スレ
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1297423778/


☆まとめwiki
ttp://www29.atwiki.jp/gamerowa/


☆したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/13051/



参加者名簿

4/7【東方project】
● 霧雨魔理沙/○博麗霊夢/○十六夜咲夜/○レミリア・スカーレット/ ● アリス・マーガトロイド/ ● 風見幽香/○東風谷早苗

3/7【ポケットモンスターシリーズ】
○レッド/ ● グリーン/ ● キョウ/○サカキ/ ● シルバー(金銀ライバル)/○アカギ/ ● タケシ

4/6【ファイナルファンタジーW】
○セシル・ハーヴィ/○カイン・ハイウィンド/ ● リディア// ● バルバリシア/○ルビカンテ/○ゴルベーザ

1/5【メタルギアシリーズ】
● ソリッド・スネーク/ ● ハル・エメリッヒ/ ● サイボーグ忍者(グレイ・フォックス)/ ● リボルバー・オセロット/○雷電

3/5【ペルソナ4】
○瀬多総司(主人公)/○花村陽介/○里中千枝/ ● 天城雪子/ ● 足立透

1/4【星のカービィ】
● カービィ/ ● メタナイト/ ● デデデ大王/○アドレーヌ

2/3【ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡】
● アイク/○漆黒の騎士/○アシュナード

18/37
0111創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/03/20(日) 06:19:44.46ID:PUsMQ+hf
>>110
うおぉ、朝起きてスレ見てみたら、ただのネタで書いたものが作品に組み込まれていた!?
恐縮です。
0112創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/03/25(金) 20:51:45.80ID:MZZoOTJX
雪子原作で「人を殺した思い出なんかいらない」みたいなこと言ってたけど、殺しちまったなぁ
0114創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/03/26(土) 01:06:50.46ID:yTZzBXoO
雪子は俺的死亡者ランキングではかなり上位
一位はアイクかな。……あぁ、なんで死んじゃったんだよアイクぅ
まぁそのおかげで綺麗な漆黒が見れたわけだが
0116 ◆.dRwchlXsY
垢版 |
2011/04/01(金) 15:07:43.13ID:2sUSP0he
花村陽介、ルビカンテ、レッド投下します。
0117 ◆.dRwchlXsY
垢版 |
2011/04/01(金) 15:08:49.26ID:2sUSP0he


陽の光が燦々と差し込む草原、そこを歩くのは三つの影。
それぞれが同じ方向へと向けて歩を進めている。
学生服に身を包み先頭を歩く少年、花村陽介。
ところどころ擦り切れボロボロになった衣服を着て、引きずるようにして足を運ぶ少年、レッド。
そしてその中でも一際目を惹く、ゆうに二メートルは越えそうな程の巨躯を持つ男、ルビカンテ。

「いやー、しかしあれだ。レッド、さっきのあれは本当に誤解だからな。いやマジで。おいルビカンテも何とか言えよこの野郎」
「この私が何をしたというのだ。それに先程も男に色情沙汰などはないと言ったであろう」
「何度も言わなくてももう分かってるよ陽介。でも君たちに出会えて本当によかった。もし出会えなかったことを思うと……」

赤い服の少年、レッドがうつむいて答えた。
レッドは先刻、花村陽介とルビカンテの二人と偶然遭遇したばかり。
その後、紆余曲折を経て彼らと共に行動することになった。

「心配すんなって。俺とルビカンテで守ってやるからもう大丈夫だ」
「そうだ。私がいればどんな魑魅魍魎だろうと一瞬にして焼き尽くしてやろう」

彼らの行き先はタウロスタウン。
そこに他の参加者が身を潜めている可能性が高いと判断し、向かうことにした。
町には隠れる場所も役に立つ施設も多いだろ?案外、みんなそこにいるかもしれないぜ。それに病院に行けばレッドの怪我だって少しは治せるしな、と陽介は言う。

「其処に強者はいるのか?」

まだ見ぬ相手との戦闘を欲するのはルビカンテ。
正々堂々とした戦いを心情とする武人。

「どうかな?だけどその可能性はあると思うぜ。それにアンタ自身さっき知り合いがいるかもしれないって言ってただろ?」

最初の放送の時点で、ルビカンテと関係のある残りの参加者はセシル、カイン、ゴルベーザの三人。
セシルとカインとは殺し合いが始まる以前からも因縁のある相手。
特にカインとはこちらでも一悶着あったばかり。
それにゴルベーザはルビカンテの主に当たる人物。
一刻も早く合流するべきである。
勿論彼らがこの先にいるとは限らないのだが、可能性が零ではない以上行かないわけにはいかなかった。
0118 ◆.dRwchlXsY
垢版 |
2011/04/01(金) 15:10:03.13ID:2sUSP0he
「……そうだな。セシルとカインは元より、ゴルベーザ様とは一刻も早く合流しなければならない。主の命を受け、主を守り、主の為に尽くすのが部下の務め」
「そういうこった。それにレッドだって早くその怪我少しは良くしたいだろ?」

一人後ろを歩くレッドに、陽介は振り向いて答えた。

「そうだね……」

レッドに気遣い明るく話しかける陽介に対し、レッドも優しく笑みを浮かべ頷いた。
その本心は真逆の作り笑いの笑顔で。
レッドは花村陽介とルビカンテと遭遇した時、自分の目に飛び込んだ衝撃的な状況を前に、自分の選択を読み違えたかと焦りを生じたが、それは杞憂だったようだ。
花村陽介は明るく気さくな少年だ。
合流してからというもの、ほとんど笑みを絶やさずにいる。
年齢もレッドとそう違わないだろう。
怪我をしているレッドに、怪しむ様子など一切なく親切に接してきた。
こんな状況なのに疑いもせず、よくそんなに軽々しく近づけるものだとレッドも関心したぐらいだ。
そんな人物を利用しない手はない。
ルビカンテという男もそう心配する必要はないだろう。
初めて見たときはルビカンテの放つその雰囲気、佇まいに圧倒されたが、別に難しい人物ではないことが分かった。
そもそも人間なのか、この男は。
おそらく、それ相応のかなりの力を持っているに違いない。
参加者の大半は一掃できそうな気がするぐらいだ。

(花村陽介にルビカンテ、ここにきて最高の“仲間”を手に入れたよ。
この二人と共にいればしばらくは安泰。
その時がくるまで充分役に立ってもらおう。
唯一気になるのは、さっきも僕に干渉してきた『あいつ』だ。
何の目的かは知らないが、邪魔するなら容赦はしない。

そして最後は必ず僕が勝つ。
今までだってずっとそうだったんだ。
ポケモントレーナーとして連戦連勝、負けなし、チャンピオンになるのだって全然難しくなかったじゃないか。
僕の妨げになるものは全部やっつけてこれたんだ。
今回だって絶対に大丈夫さ。何も問題はない。何も……)

「そういえばその怪我……、たしかサカキって奴にやられたんだっけな?」

陽介がレッドに尋ねる。
三人は合流してから簡単な情報交換を行っていた。
互いの知る参加者や人間関係などについての簡単な情報交換を。
陽介は特別捜査隊のメンバーについてを。また自身のペルソナ能力についても少し説明した。ルビカンテはともかく、レッドは陽介のペルソナを見て少し驚いた様子を表した。
ルビカンテはセシルとカイン、そしてゴルベーザについて。
レッドはサカキについてはただ襲われたとしか話さなかったので、陽介に尋ねられて詳しく説明することにした。
0119 ◆.dRwchlXsY
垢版 |
2011/04/01(金) 15:11:05.65ID:2sUSP0he
「そうさ。奴にやられたんだ……。あの残虐非道な男に……」
「一体どんな奴なんだそいつは?」
「ロケット団っていう悪の組織のリーダーさ。罪のない善良な市民たちに対し悪行の限りを尽くす最低な男だよ」
「ロケット団……。聞いたことないな。ルビカンテはあるか?」
「いやないな」
「そんな大それたこと仕出かす奴らなら知らないほうがおかしい。変だな」
「テレビのニュースとかでも連日のようによく見るよ……」
「……だけど俺はそんなニュース見たことも聞いた事もない。てことは……」

顎に親指を当て、
少し間を置いて陽介は話した。

「……もしかしたらさっきの話も冗談じゃないのかもな」
「さっきの話?」
「ああ、レッドと出会う前、ルビカンテと少し話してたんだ。お互いの住む所とかの。そしたらこいつ月の民とか何とか言いだしてさ。さすがに俺もその時は信じられなかったんだけど、今になってよーく考えてみればあながち嘘じゃねーのかもって」
「どういうこと?」
「……もしかするとレッドも、てか俺たちはみんな違う世界に住んでるんじゃないかってこと」
「え、違う世界?」
「いわゆるパラレルワールドって奴?確証はないしちょっと話が突拍子すぎるとは思うんだけどさ」
「本当に?まさか?」

レッドは目を丸くして陽介に尋ねた。

「疑うのも無理ねーよな。俺だってまだ信じてない。でもルビカンテの言う月の民、レッドの言うロケット団。両方とも俺は今日初めて聞いた。それに二人が嘘を言っているようには思えない。だからもしかしたらそうなのかもって。
大体ルビカンテを見てみろよ。こんな変な格好した大男なんて見たことあるか?いやないね俺は。だろ?」
「変な格好とはなんだ。私からすればお前のほうがよっぽど奇抜な格好よ」
「どう見たって普通の学生服だっつーの!まあとにかくパラレルワールドだか何だか分からないけどその可能性もあるってことだ」

二人のやり取りをレッドは無言で見つめた。
陽介に対しレッドは平行世界の存在についてあたかも初めて耳にしたように答えたが、勿論そんなことは前から予測がついていた。
序盤に遭遇した博霊霊夢の人間離れした異能の力。
先程のサカキとの鉢合わせの時に生じた歴史の矛盾。
どう考えても何かがおかしい。
それに気づかないほどレッドも愚鈍ではなかった。

「なるほど……パラレルワールドか。だとしたらさっきの巫女もそうなのかも……」
「巫女?」
「うん。夜に彼女に襲われたんだ。不思議な力を使っていた。超能力って言えばいいのかな……。この腕も彼女にやられたんだ……」

レッドは、痛々しく折れ曲がった右腕に悲痛な表情で目を向ける。
陽介も同じ表情で見つめた。

「ひでぇなそいつは……。名前とか聞いてないのか?」
「さすがに名前までは……。ただサカキとその巫女は一緒に行動していたんだ。お互いに協力しているんだと思う。かなり危険な奴らだよ……」
「そうか……要注意人物だなそいつらは。まぁとにかく安心しろって。もしそいつらが来たら俺とルビカンテで守ってやるからさ。それにこの先の町には病院もある。その怪我だって少しは良くなるさ」
「ありがとう……陽介……」

落ち込む様子のレッドを励まそうと必死に言葉を紡ぐ陽介。
その真っすぐで裏表のない陽介にレッドは本当に感謝した。

(こんな僕を信じてくれて本当にありがとう。僕に寝首を掻かれるその時までちゃんと守ってくれるよね、陽介……)

真心こめた誠心誠意の感謝ではなく、うわべだけの虚礼虚文の感謝で。
0120 ◆.dRwchlXsY
垢版 |
2011/04/01(金) 15:12:16.70ID:2sUSP0he


彼らは歩く。
眼前に広がる無人の草原を。

「なあルビカンテのおっさん」
「なんだ?」
「あんた、一応俺の師匠なんだよな?だったら何か一つぐらい凄い技教えてくれよ。こんな状況だしさ、こう、すぐに覚えられるような技とかないのかい?」
「フ、戯けが。一朝一夕で身に付く技など無いわ。お前のそのペルソナもそうだろう?」
「そうだけどさ」
「そんなもの身につけても無意味。付け焼き刃の技などかえって重荷になるだけよ」
「なるほどね……。まあ確かにそうだな」
「だが――」
「だが?」
「だが、一つ私から教えられるとすれば、それは此処だ」

そう言ってルビカンテは自身の胸に手を当て、続けた。

「心。気持ち。信念。口に出すのは簡単だ。しかしそれがあると無いとでは全く違う。戦う理由だ。私も常にゴルベーザ様への一心で戦っている。勿論、強き者との戦いも理由の一つだ。
何の理由も無しに戦うのでは全力など出せん。心涼しきは無敵なり。陽介、お前にはあるか?戦う理由が?」

陽介は見知った仲間の顔を浮かべる。
その中には既に命を落とした天城雪子の姿もあった。
稲羽市で共に過ごし、共に助け合い、共に戦った仲間たち。
彼らと共に過ごした時間は、決して忘れることのない最高の時間だ。
仲間がいたから今の自分がここにいる。
彼らの為なら何も迷いも恐れもない。
陽介は胸を張ってはっきりと答えた。

「ああ、あるぜ。ありがとよ“師匠”。これで気持ちの整理がついたぜ」
「フ。別にお前の為にではないわ」
「またツンデレかよ。ハハハ。あんたに出会えて――あんたの弟子になれて良かったよ。ありがとうな」

ルビカンテは無言のまま答えない。
ルビカンテの只でさえ赤かった顔が、また少しうっすらと濃くなったような気がした。
そして一言呟いた。

「ツンデレ……、悪くない。いい響きだ」

そんな二人の会話を後ろで静かに聞くレッド。
思わず胸に浮かべた――くだらない、と。
0121 ◆.dRwchlXsY
垢版 |
2011/04/01(金) 15:13:23.31ID:2sUSP0he
それから幾分程の時間が過ぎた。
朝の気配はすっかり何処かへ消え失せ、空からの清々しい光が辺りを照らす。
端から端まで見渡せそうな程の快晴。
目的地まではもうまもなくの所に来ていた。
視界の先に少しずつその町並みが見えてくる。
大小様々な建造物が凸凹のようにそびえていた。
タウロスタウンは四方を海で囲まれている。
町に行くためには二カ所の橋を渡る以外に方法はない。
三人はその内の一つ、西側の橋に向かっていた。
幸いここに辿り着くまでの間、他の凶悪な参加者に遭遇することはなかった。
参加者の数は今も刻々と減り続けている。
それに伴い、参加者の遭遇率も下がってきているのだ。

「ふう。この橋を渡ればようやくタウロスタウンだな」
「ゴルベーザ様はいるのだろうか」
「やっとここまでこれた。少し疲れたよ」

橋の前で歩を休める三人。
彼らの眼前には広々とした町がどっしりと構えている。
無言で佇むその町は少し不気味に見えた。

「でも、無事ここまでこれて良かったな」
「油断するな陽介。この先に何が待っているかは誰も分からないのだぞ」
「へいへい分かってますよ。とりあえずまずはレッドの治療をするため病院にいこうぜ。ええと、ケンコー病院?ふざけたネーミングだぜ全く」
「ありがとう陽介。僕のためにここまでしてくれて。君だって仲間が心配だろうに。何て礼を言ったらいいか……」
「いいんだって、そんな気を使わなくても。困った時はお互い様だろ?」

陽介はニッと笑みを浮かべる。
相変わらずの態度で接する陽介に、レッドは少し呆れたがとりあえず笑って答えた。

「さて、じゃあ行くか」
「ああ」
「うん」

町に向けて歩み出す三人。
親友や主君と再会したい者。
強敵と再戦したい者。
理由は違えどそれぞれが目的を持ってここにいる。
願いが叶うのかは分からない。
たどり着いた先に何があるのかも分からない。
それでも彼らは先へと進む。

三者三様の思いを抱き、彼らは橋を渡り始めた。
0122 ◆.dRwchlXsY
垢版 |
2011/04/01(金) 15:14:08.05ID:2sUSP0he
【B-4/1日目/午前】

【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]健康
[装備]熟練スパナ@ペルソナ4
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1(武器にはならない)、スタンドマイク@星のカービィ
[思考]
基本方針:殺し合いはしない。まず仲間達と合流、その後行動方針を決める
1:瀬多総司、里中千枝を探す為にタウロスタウンに行ってみる。
2:ルビカンテと行動を共にする
3:カイン、サカキ、巫女(博霊霊夢)、雷電、東風谷早苗を警戒。
4:まさかパラレルワールド?嘘だろ?
※カインの名前はルビカンテがカインと呼ぶのを聞いています。
※作中からの登場時期に関しては真ルート突入前、ペルソナはジライヤ。足立に関しては頼りない刑事の印象です。
※FF4世界の事を聞きましたが、信じてません
※ルビカンテからセシル、カイン、ゴルベーザについて簡単な説明を受けました。


【ルビカンテ@ファイナルファンタジー4】
[状態]ツンデレのルビカンテ
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品未確認×2
基本方針:ゴルべーザ様を探し、指示に従う。強者との戦いを望む。
1:花村陽介と行動を共にする。戦いを通じて自分の技を教える。
2:強者との戦いの為、町へ向かう
3:カイン、サカキ、巫女(博霊霊夢)、雷電、東風谷早苗を警戒。
※作中からの登場時期はカインと面識がある以降。死亡後、または直前と判明。
※花村陽介が自分の弟子になりたいと思っていると勘違いしています。また、ツンデレという言葉を敬意ある戦士に送る言葉だと思っています。
※花村陽介から雷電と東風谷早苗の容姿を聞きました。
※花村陽介から瀬多総司、里中千枝、天城雪子について簡単な説明を受けました。


【レッド@ポケットモンスター】
[状態]:右手首損傷、右肩脱臼(右腕は使い物にならないレベル)、精神疲労少、精神的安堵感および高揚感、痛覚麻痺、帽子無し。
[装備]:はがねの剣、コルトパイソン(5/6、服の下に隠している)
[道具]:基本支給品一式、極細ワイヤー10m(残り5m)、はがねの剣@FE、コルトパイソン(5/6)@現実、クリスタル
[思考]
基本方針:生きて帰り、少年と再戦する
1:陽介とルビカンテに守ってもらう。頃合が来たら裏切る
2:巫女(霊夢)とサカキの悪評を言い回す
3:カイン、サカキ、巫女(博霊霊夢)、雷電、東風谷早苗を警戒。
4:『彼』が鬱陶しい
5:ルビカンテを警戒(ホモかもしれないので)
6:クリスタルは誰にも渡さない。
※サカキを『3年前のサカキ』と認識しました。
※花村陽介から瀬多総司、里中千枝、天城雪子について簡単な説明を受けました。
※ルビカンテからセシル、カイン、ゴルベーザについて簡単な説明を受けました。
0125創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/04/02(土) 17:28:11.61ID:L+3j+K7H
投下乙!
パラレルワールドに気付いたか。
さすがは花村。特別捜査隊の推理要員なだけあるな
レッドのかき回し具合では面白いことになりそうなチームだ

あと、細かいですがひとつ指摘
雪子は第一放送後に死亡したので、花村はそのことを知らないはずです
0126創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/04/03(日) 23:24:22.37ID:i+mAnEgI
投下乙です

ツンデレの所がちょっと良い場面のはずなのに
何故か微妙に笑いが込み上げてくるw
0127 ◆dGUiIvN2Nw
垢版 |
2011/04/05(火) 01:09:49.52ID:il2YLHOs
長らくお待たせ致しました! ようやく完成したので投下したいと思います
びっくりするくらいの情報量の上に今まで通りの文量ですので、
読むだけでもかな〜り疲れると思いますが、余力のある方は矛盾がないか探していただけたらと思います
0128Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
垢版 |
2011/04/05(火) 01:11:50.38ID:il2YLHOs
【月と地上の狭間 とある高原の邸宅】

「……と、いうわけよ。協力お願いできるかしら?」
優雅にティーカップに口をつけ、八雲紫は不敵に微笑む。
その向かいに座っている女性、依姫は、どこか渋い顔をしながらも彼女の話を聞いていた。
「はっきり言って、あなたの話はまったく信用できる要素がない」
「そうね。確かに証拠として提示できるものは何もない。でも、何かが起こっていることは確実よ」
それを聞いて、依姫の隣で桃を頬張っていた豊姫が、場の空気に似合わぬ天真爛漫な笑顔を見せる。
「その何かに八意様が関わっている証拠くらいは見せてほしいところねぇ〜」
(へらへらしている割に、押さえるべき点をよく分かっている。さすがに月を束ねる姉妹なだけはあるか)
もぐもぐと口を動かし、「ん〜、おいしい」などと呟いている豊姫を見て、紫は思う。
やはり一筋縄ではいかない様子だ。しかし、だからこそ味方になれば心強い。
「月を欠けた満月に置き換えて、月と地上の道を閉ざそうとする異変が以前起こった。その異変を解決した者は、誰が異変の犯人だったのか、その存在をまるきり忘れてしまっている」
「……確かに。そんなことをしようとするのもできるのも、八意様くらいね。けれど、私達はその存在が消えるということ自体を疑っているの。また何か適当なこと言って、月の都を荒らそうとか考えてるんじゃないの?」
カップを傾け、紅茶を啜る。
あくまでも自分のペースを崩さぬように、ゆっくりとした動作でカップを置くと、紫は口を開いた。
「私の見解はこうよ。誰かが世界に無理やり干渉したことで、世界が無理やり修復作業を行った。全ての事象は繋がっているの。どこか一つが狂えば他の全てが狂ってしまう。その狂いを治す一番の方法が、存在をなかったことにするというもの」
「世界の意思でってこと?」
依姫は思わず眉をひそめる。
「ごく自然な現象ってことよ。世界が世界として成り立つためのね。この世が三次元であることをあなたは説明できる?」
世界というものがどういう仕組みで動いているのか。それは月の民であろうと理解できないものだ。
0129Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
垢版 |
2011/04/05(火) 01:12:30.35ID:il2YLHOs
何故存在が消えるのか。その疑問は、何故地球が三次元的な物体であるのかを解説するに等しい疑問だ。
「しかし私も姉様も、そしてあなたも、八意様のことを覚えている」
「私は世界の外にいたから干渉を免れた。あなたたちはすでに彼女との関係は希薄なものとなっているわ。この世に運命というものがあって、それを辿るようにして私達は生きているとするなら、おそらくあなた達は金輪際彼女と出会うことがなかったということよ」
綿月姉妹が幻想郷と関わることが金輪際ないのであれば、八意永琳の存在を忘れる必要などない。世界の観点で見て矛盾は起きないし、辻褄合わせをする手間も省ける。
「荒唐無稽だわ」
依姫の言う通り。紫の説にはあまりにも空想が多過ぎる。
「けど、実際問題できなくはないわよ? 龍神様だって、やろうと思えばそれくらいできるだろうし」
確かに紫の説は空想の産物だ。しかし、絶対ないとは言い切れない。少なくとも一割は可能性がある。
「それに、どちらにせよ存在が消えているという事実は変わらない。説明はできなくても、これが異変だということは変わらないわ。まぁ信じるか信じないかは、あなた達で勝手に下調べでもしてちょうだい。それこそ、私がとやかく言っても仕方のないことだし」
「あなたは幻想郷の住人や八意様が、別世界に拉致されたと考えているのね」
豊姫はテーブルに置かれた籠の中から、よりおいしそうな桃を厳選し、それを手に取る。
「その通り。そしてそれは、あなた達からしても無視できないことのはず」
紫はおもむろに椅子から立ち上がった。
何をするつもりかと綿月姉妹が身構える。が、紫は意外にも、その地面に手をつけただけだった。
「お願いします。私は、幻想郷を失うわけにはいかない。あなた方の力が必要なのです」
依姫と豊姫は思わず互いに見つめ合った。
そして、どちらからとも言わず薄く微笑んだ。
まるで、合格だと言わんばかりに。
「顔を上げなさい、地上に住む穢れ多き妖怪。元より、あなたの言う異変は私達も感知していた」
「今回の件は、少しあなたを試していたのよ。私達も協力者を探していた。自力で異変に勘付き、その本質をも見抜けたあなたなら、協定を結ぶに十分な人材だわ」
「あらそう?」
先程までとは違い、軽い調子で立ち上がり髪を靡かせる。
「ああよかった。こちらとしても、これくらいのことに気付けない相手なんて協力に値しないから」
「……敢えてこちらの思惑に合わせていたってわけね。ほんと、地上の住人は食えないわ」
「あら。あなた達ほどじゃないと思うけど?」
そう言ってクスクスと笑う。
これで力は確保した。あとは道だけ。敵の居所さえ見つかれば、一気に叩ける。
「それじゃあ、戦力の方はあなた達に任せるとしましょうか。月の民が本気を出せば、大抵の輩は潰せる」
「そこは信用してもらいたいところね。力なら、誰が相手でも負ける気がしない。問題は敵の居場所だけど、それも姉様とあなたがいれば問題はなさそうだわ」
「その通り」
頷く二人。そこには確固たる自信があった。月の民であるプライドと、千もの時を生きる妖怪としてのプライドが。
紫は、机に置かれたティーカップを掲げた。
「月と地上の住人による、最初で最後の協定。その勝利と成功を祈って」
綿月姉妹も紫に合わせてカップを掲げる。
酒は自粛した。これからやらなければならないことがたくさんある。
そう。酒ならいつでも飲めるのだ。この異変が解決すれば。
紫は澄ました顔でカップに口をつける。
名前も顔もわからない。しかし、必ず引きずり出し、生きてきたことを後悔させてやる。そう強く思いながら。
0130Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
垢版 |
2011/04/05(火) 01:13:50.46ID:il2YLHOs


◇◇◇
【殺し合い会場 D-4】

全員が放心していた。
それだけゼルギウスの語った話は想像を絶していた。
正の女神、アスタルテ。負の女神、ユンヌ。
人を作り、世界を作った二神。
暴走し、人を絶滅の危機に追いやったユンヌをメダリオンに封印したアスタルテ。
彼女が目覚める時、人が未だに争い、戦火に塗れているというのなら、人を滅ぼすことを明言した女神。
「……私は。私の主は、彼女を目覚めさせ人を滅ぼそうとしていた」
それは、漆黒の騎士からすれば相当の勇気がいる告白だっただろう。
せっかく手にした仲間が、この告白で自分を拒絶するかもしれないのだ。
「私は人に絶望していた。誰からも疎まれ、自分の居場所を作ることができなかった私に、主セフェランは居場所をくれた。主に仕えること。それが私にとって、ただ一つの生きる糧だった。
……許してくれなんて言わない。今ここで、自害してもいい。何の償いにもならないだろうが」
全員が黙っていた。
もしかしたら。漆黒の騎士がセフェランを止めていたら、この殺し合いは開催されなかったかもしれない。
それは誰にも肯定できないことで、しかし誰にも否定できないことだった。
「……あーもう! 暗いのやめ! なしなし!!」
千枝が立ち上がりぶんぶんと手を振る。
「漆黒さんが何をしようとしてたかとか、そんなんもう関係ないよ。漆黒さんは仲間! んで、今は私達を助けてくれてる。それだけわかれば万事OKっしょ」
千枝は満面の笑みで漆黒にそう言った。
その明るい笑顔が、皆にも広がっていく。若干、本当に若干、不安そうに見守っていた咲夜も頬を緩める。
皆の自分を受け入れてくれる笑みが、漆黒の騎士に眩しく映った。
眩し過ぎて、涙が出てくるほどに……。
「……ありがとう」
今はこんな言葉しか送れない。
しかし、漆黒の騎士は誓った。
咲夜だけじゃない。千枝も、そしてここにいる全員も、私は守らなければならないと。
騎士として、仲間として、彼らを守り抜こうと。
0131Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
垢版 |
2011/04/05(火) 01:14:44.81ID:il2YLHOs


漆黒の騎士の話が終わり、誰が何を言うこともなく休息をとることになった。全員が疲労困憊の中、次の放送くらいまでは体力回復に努めるべきだと誰もが思っていたのだ。
全員が、横になってすぐに寝息を立て始めた。それだけ先程の戦いは厳しいものだったのだ。

瀬多が目を覚ました時、起きていたのはアドレーヌだけだった。
見れば、皆きちんと治療されている。全てアドレーヌがやってくれたのだろう。
「……どれくらい眠っていた?」
目頭に手を添え、瀬多は聞いた。
「二時間くらいだと思います……」
幽香の亡骸があった場所は土で盛り上がっている。
その隣には少しだけ小さな墓が二つ。おそらく、ベトベトンとカービィのものだろう。
どの墓にも、小さな花が添えられていた。
「幽香さんには……ひまわりを、添えてあげたかったんですけど」
アドレーヌは泣いていなかった。
ぎゅっと手に力を込め、涙を耐えていた。
「そうか……」
そっと、優しく抱きしめてやる。アドレーヌの身体の震えが、瀬多にも伝わってきた。
(辛いよな。辛いに決まってる)
瀬多自身だって、少し気が緩めば崩れ落ちるくらいに泣き喚く自信がある。
だというのに、自分の大切な人がこうも立て続けに目の前で死んで、辛くない訳がない。自分以上の悲しみを、アドレーヌは背負っているのだ。
「ノロケならからかってやろうかと思ったんだがな」
木の影で横になっていたレミリアが唐突に言った。
「起きたのか」
「ついさっきな」
むくりと起き上がり、手を広げたり握ったりしている。身体の調子を確かめているようだ。
動かす手を眺めながら、レミリアは口を開いた。
「また随分、人が死んだな」
軽く言うレミリアに、瀬多は押し黙った。
そう。死に過ぎた。あまりにも酷い結果だ。
「自分のせいだ、なんて思ってるのか? 相変わらず」
「……俺が魔理沙に固執しなければ、こんなことにはならなかった。イザナミの思惑に気付いていれば、こうはならなかった」
足立がどういう人間かは分かっていた。有無を言わさず再起不能にしていれば、少なくとも幽香とベトベトンは犠牲にならずに済んだ。
「アドレーヌにも言えることだが、お前達人間は少し物事を背負い過ぎる傾向があるな。出来もしないのに勝手に背負って押し潰れる。まったく、馬鹿みたいじゃないか?」
レミリアらしい理屈だと思う。
だが
「背負わずには……いられないんです」
アドレーヌが言った。
「人は弱いから。悲惨な現実を受け入れられないから。その現実を、少しでも良くしようって考えて。そうしたら、けっきょく背負うことになっちゃうんです」
「……人間というのも面倒な生き物だな」
レミリアのことだから、馬鹿丸出しだとでも言って切り捨てられるだろうと考えていた瀬多にとって、その言葉は意外なものだった。
ゴルベーザに対する怒り。幽香の死に対する怒り。それらは妖怪特有のものであったとしても、最初に出会った頃のレミリアからは少し考えられないことだった。
(レミリアも、成長してるってことか)
人間を知り始めている。人間に感化されてきている。
それが良いことなのか悪いことなのか。……いや、きっと良いことなのだろう。
0132Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 01:16:19.01ID:il2YLHOs
「それに今回の件は、誰がどう見ても私のせいなんです」
その確信があるような言い方に、思わず二人ともアドレーヌを見つめた。
「あのメダリオン。……本当は、私が持っていたんです。最初に支給品を見せ合った時に、見落としていたんです。放送があった時、私はあれを見つけてました。……それを、……もっとはやく、瀬多さんに……」
瀬多はメダリオンのことを知っていた。だから、瀬多に知らせてさえいれば、こんなことにはならなかった。
それはアドレーヌにとって、どうしようもなく深い後悔だった。
「メダリオンに触ったのか?」
「……はい」
攻略本に載っていた情報では、メダリオンに触れることができる人間は正の気が強い人間だけだった。
アドレーヌも生の気が強かった。だからこそ、触れても何も異変が起こらなかった。ならば、今回の件はアドレーヌのせいとは一概には言えない。
自分が触って何ともなかったのだ。まさか触れただけでその人物が凶暴化するような恐ろしいものだとは思えない。
必然的に、そのメダルの優先度は下がり、いつしか忘れてしまう。おそらく、そういった効果も考えて、イザナミはこれを支給したのだろう。
「俺はアドレーヌを怒らないといけない」
しかし、瀬多は敢えてそう言った。
「アドレーヌ。皆が君に逃げろと叫んだあの時。足立に殺されかけたあの時。君は、自分を諦めただろ。自分が生きることを諦めた。それは、絶対にしちゃいけないことだった」
アドレーヌは何も言わない。何も言わず、ただ俯いている。
「たとえ今回の騒動がアドレーヌのせいだったとしても、それでも生きることを諦めちゃ駄目だ。それは……死んでいった大勢の人を裏切る行為だ」
裏切る、という言葉にアドレーヌは震えた。
たとえどれほど辛くても、苦しくても、死んだ人達の意思を裏切ること。それだけはしてはいけないことなのだ。
「俺達は生きなくちゃいけない。どんなことがあっても、強くあらなければいけない。それが、死んだ人達を生かすことになる。無駄なんかじゃなかったっていう証になる。
彼らの強さと生き様を、俺達は後世に伝えていかないといけない。伝えることで、きっと彼らは生き続けるんだ」
そう思い続けることで、立っていられる。
だからきっと、彼らの死は価値あることだったんだ。
そう信じたい。いや、信じると決めたのだ。
0133Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 01:17:23.54ID:il2YLHOs

突然、右手がうずいた。
「どうかしました?」
「……例の発作だ。休憩はもう十分だと言いたいんだろうな」
果てしなく面倒な呪いをかけられたものだと、内心愚痴る。
だが、これは自分も合意の上での契約だ。文句も言っていられない。
「この発作は、俺の意思に反応する仕組みになっているらしい。つまり、俺がイゴールに近づく行為だと認識すれば発作は引いていく。別に動き回らなくてもいいってことだ」
瀬多は立ち上がり、回収したオタコンのバックからゲーム機を取り出した。
「二人とも、悪いが少し付き合ってもらうぞ」


ゲーム機を操作し、例の選択肢を画面に映し出す。
好きな情報を教えてくれるというイザナミからの褒美である。
主催者は誰か。目的は何なのか。そして、ここはどこなのか。
「なんだこれは?」
「イザナミからの情報提供だ。この三つのどれかを教えてくれるらしい。オタコンはこの答えを保留していたらしいが、こんなところでぐだぐだやってられるほど俺達に余裕はない。さっさと決めて、ゲームをクリアしなくちゃいけない」
「……その口ぶり。既にどれを選ぶかは決めているというわけか」
漆黒の騎士が身体を起こし、そう言った。
「身体は大丈夫なのか?」
「今のところ問題はない。……話を続けてくれ。瀬多の決断力がどれほどのものか、確認しておきたい」
漆黒の騎士、ゼルギウスは知将である。その高い戦闘力と類稀なる知略でベグニオンの将軍の座についた。
グループのリーダー格の男がどれほどのものか。それを確認する必要があると考えるくらいの知性は、漆黒の騎士も優に備えていた。
そんな漆黒の騎士の考えを理解しているからこそ、瀬多は彼を無視して話を続ける。
「この選択。俺は二番、主催の目的を知る為に使おうと思っている。信頼性に欠ける不確かな情報だが、真実を教えてくれると言うのなら、これが一番知りたい」
当然のことながらクレームが飛んだ。
「はあ!? そんなもの知ったところでどうなるってのよ! ここは断然三番でしょうが!」
「……お嬢様。どうかしたのですか?」
そのレミリアの声に、咲夜が目を覚ましたようだった。遅れて千枝も目を擦りながら身体を起こしている。
せっかくなので全員に集まってもらい、話を進めることにした。

「どうして二番を、という意見が出たが、他の皆はどうだ? もし選ぶとしたらどれにする?」
千枝、咲夜の二人が迷わず三番の『この島がどこにあるのか』を選んだ。アドレーヌは首を傾げて決めかねている様子で、漆黒の騎士は元より意見を言うつもりはないようだ。
普通に考えて、主催の正体も開催理由もこちらには何の関係のない話だ。そんなものを聞くよりも、ここがどこかを知った方が脱出に有利のはずである。
「何故二番なのか。その答えは簡単だ。他の選択肢は、この三択を迫られた時点で簡単に推測できるからな」
どよめきが起こる。漆黒の騎士だけが、じっと瀬多を見つめている。
「……おい。本当にわかるのか? ここがどこなのか」
レミリアの静かな問いに、瀬多は頷いた。
「イザナミは殺し合いを進めなければならない。どういう目的があるにせよ、それは確かだ。だというのに、脱出のキーである情報を渡すなんておかしいとは思わないか?」
自分達を助けようとしている助っ人が主催側にいることを理解した今、イザナミの目的はあくまで殺し合いを進めることにあると見ていい。
そうなると、場所を特定するような情報をおいそれと参加者に渡すとは考えづらい。
何故なら自分達のいる場所というのは、そこから脱出する者にとって必ず突き止めねばならない障害で、逆を言えばそれさえ分かれば様々な解決策を編み出すきっかけとなるのだから。
0134Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 01:18:40.49ID:il2YLHOs
「脱出されるのは奴だって嫌なはずだ。なのに、そのキーとなり得る情報を無償で教えようとしてる。それは、絶対に破られない自信があるからだ。……さて、それならここは一体どこだ?」
瀬多の問いに、千枝は口元に手をやって考える。
「えーっと……、太平洋のど真ん中……とかは駄目だよね。首輪を外せたら出られるし」
「……もしかして、結界が張ってあるの? それなら場所を知られても何の問題もない」
「まあ、そんなものがあるのなら当然施しているだろうな。だがそれはあくまで保険だ」
そう。イザナミが用意した呪縛はそんなものではない。結界だって壊せばそれで済むはずなのだ。絶対に破られないというわけじゃない。
「絶対に逃げられない場所。それは、逃げ場のない場所だ」
「逃げ場所がない……?」
「世界だよ」
全員の思考が一瞬止まった。
「ここは殺し合いの世界。人が殺し合うためだけに存在する世界なんだ。だからたとえ海を渡ろうと、待っているのはこの島のみってわけさ。まぁおそらく、それを知られないように何か細工はしているだろうが」
ここにいる全員が、驚きで声を出せなかった。
「ちょ、ちょっと待って! それってつまり……、ここは小さな地球ってわけ?」
「その通り。だから俺達は逃げられない。何故なら、世界を渡り歩く力も技術も、神ではない俺達は持ち合わせていないからな」
千枝は思わず放心する。咲夜は動揺を隠そうと必死だし、アドレーヌは先程から驚いてばかりいる。レミリアは無表情だが、元々脱出に関しては瀬多任せだ。大した危機感もないのだろう。
「イザナミが絡んでいる時点でだいたい想像はついていた。だが、今回の件で確信した。俺達は世界を移動しない限り、奴らの顔すら拝めない」
世界を越えて集められた参加者。国産みによって日本を創世したイザナミ。これらの要素は瀬多の推理を補強するものだった。
そして、ここにきて現れた三択の情報提供。その自信に裏打ちされた行為は、これくらいのハンデがなければまずしてこないだろう。
「主催の正体は神に他ならない。そしてここは、神が用意した殺し合いの世界だ」
有り得ない。という言葉は誰も使わなかった。
何故なら、彼らは既に有り得ないことに巻き込まれている。そして、それを実現できる神を、既に二人も知っているのだ。
「ここまで言い切るとは。さすがだな、瀬多総司」
漆黒が薄く笑う。
「……そうだな。これはただの仮説。何の確証もないことは否定しない」
「だが、信じるに値する仮説だ。戦には絶対などという言葉は存在しない。そんな時に必要なのが、将の英断だ。今回の考察は、君にそれができるという証明になった。君の意見に従おう。ここは二番だ」
漆黒の意見に、反対する者はいなかった。
全員の顔を見つめ、その意を確認する。
「よし。じゃあ、二番を選ぶぞ」
瀬多は躊躇なくカーソルを二番に持っていき、ボタンを押した。
0135Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 01:21:02.19ID:il2YLHOs

『ピンポンピンポンピンポーン! 大正解〜〜〜!!!』

瞬間、イザナミの声が響き渡る。
『いやぁ、運がいいねぇ君。他の選択肢を選んでたら首輪爆発してたよ〜』
さっと、アドレーヌが顔が蒼くなる。
「大丈夫。ただのはったりだ」
『その通りでーす! はったりでーす!』
まるでこちらの動向を察知しているかのようなタイミングでイザナミは言った。
『ちなみに、情報も教える気もありませーん! ただの時間稼ぎでーす!』
「は!? ちょ、ちょっと何言ってんのよこいつ! こっちは散々──」
「少し黙りなさい。声が聞こえない」
咲夜に無理やり口を押さえつけられ、うーうーと唸る千枝。
しかし、瀬多はじっとイザナミを見つめ、その言葉に全神経を集中させていた。
『当然だよねー。こんな重要なこと、主催者の俺が教えるわけないもんね☆ あ、怒った? ごめんごめん。まぁでも、実はヒントはあげてるんたよ。
間接キッスじゃないよ。ちゃぁんと、く・ち・う・つ・し・で☆ とある人物にだけ、だけどね。そいつを探し出して聞き出せば? まぁ、そいつも気付いているとは思い難いけどねー。所詮は小僧だから』
(何だかんだと言いながら、色々教えてくれてるじゃないか)
小僧というからにはその人物は男で、おそらく高校生辺りだろう。
(……ん? 待てよ。これはひょっとして……)
『アイラブユーフォーエバー。でも俺は、ちゃぁんと人だって愛してまーす! というわけで、イザナミちゃんからの貴重な情報提供で・し・た☆』
そこでイザナミの姿は画面から消えた。
「どこまで人を舐めたら気が済むんだ。あの神は」
レミリアが毒づく。
「いや。……これは重要なメッセージだ」
必死で頭を働かせながら、瀬多は呟くように口を開く。
「アイラブユーフォーエバー。イザナミという名前。小僧。そして、口移しでヒントを与えたという言葉。わざわざ間接キスじゃないと言っているところを見ると、これは奴自身が直接ヒントを話したと言いたいんだろう」
「だから何だ? そんなことがわかったところでどうにもならないじゃないか」
「アイラブユーと言ったんだぞ。そして、続く言葉を見るに、これは人に対して向けられた言葉じゃない。人じゃない誰かに対する言葉だ。こんな回りくどい言い方、何の意味もなくするものじゃない。
このセリフは、誰か特定の人物を匂わせる言葉だ。そして、言う必要もないのにわざわざ自分の名前を明かした。これらの情報は、一人の参加者を指している」
「あ! そうか!!」
千枝が突然叫んだ。
「瀬多君のことだ! イザナギとイザナミ。世界を作った二人は夫婦だった。愛し合っていた!」
いつだったか、瀬多と二人、図書館で勉強していた時に日本神話について少しだけ調べたことがあった。自分達のペルソナが日本の神になぞらえられていることに気付いた瀬多が、興味本位で本を漁っていたのを、千枝は横で見ていたのだ。
「もしかして、クリスタルを手に入れた場所……ですか?」
「そうだ。それしかない。あそこで俺達は、思いもかけずヒントをもらっていた。そうイザナミは言いたいんだ」
イザナミの言葉がぐるぐると頭を回る。だが、何も思いつかない。
(なんだ。あいつは何を言っていた?)
0136Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 01:21:51.90ID:il2YLHOs

──真実なんて虚構だ。君達が真実だと判断したこと。それこそが真実なのさ──

(……違う。一番それらしい言葉だが、何も思いつかない。このフレーズじゃない)
しかし、それ以外に奴が仄めかすように言っていた言葉などない。何かほんの少しでも違和感を覚えたフレーズはなかったか。
瀬多は長考する。しかし、いつまで経っても答えは見つからなかった。
「あ、そうだ」
五分程経っただろうか。千枝が咲夜の方を振り返った。
「みんなに教えとくべきじゃない? ほら、ゲーム機に触れたら味方が増えるってやつ」
(……ゲーム、機?)
「ああ、そうね。あんたもちょっとは頭が回るじゃない。……猿くらいの知能はあるのか」
「おいこらちょっと待て! 普通に聞こえてんぞ!! 猿くらいの知能はってなんだ! あたしは人間! 人間並みの知能しか持ってない!! つか、それ以前は猿以下だと思ってたってこと!?」
「そうね。まぁ犬くらいはあったんじゃない?」
「があああ!! むかつく!! まじむかつくこの女!!」

──これも、ゲームを面白くするためだ──

イザナミの言葉。それと同時に別の言葉が浮上する。それはイザナミのものではなく……


──最高のゲームとは、何でしょうか──


瞬間、瀬多の中で何かが符号した。

「そうだ! 確か、……確かイゴールも!」
喧嘩を始めていた咲夜達が止まる。それを止めようとしていた漆黒の騎士も、慌てていたアドレーヌも、愉快そうに見ていたレミリアも、全員が瀬多を見つめる。
「くそっ! そういうことだったのか! イゴールとの会話があったから違和感に気付かなかった。……いや違うな。イゴールとの会話の時点で、気付くべきだったんだ」
「瀬多。少し落ち着いて、私達にもわかるように説明してくれ」
漆黒の騎士にそう諭され、瀬多は慌てて頷いた。
大きく深呼吸。
(落ち着け。今は冷静になるところだ。この情報を受け、冷静に相手の真意を読むべきところだ。浮かれるところじゃない)
瀬多はそう自分に言い聞かせ、慎重に口を開いた。
「……イザナミは、この殺し合いをゲームだと言った。自分がゲームマスターだと明言した。しかし今思えば、あれは失言中の失言なんだ。イザナミからしてみれば」
ゲームマスターとはゲームの中心に位置する存在だ。その存在を通して、全員がゲーム内の役割を果たす。
「あいつは、ゲームのキャラクターが本当は喋るべきところだと言っていた。しかし、そのキャラクターはマルクという主催者だ。これはマルクの存在を軽視しているということで、そもそもあの段階で言うべき言葉じゃなかった」
自分をゲームマスターだと例えたイザナミが、マルクをゲームのキャラクターとして比喩するということは、彼がゲームの駒だということを意味する。要するに、マルクは参加者である自分達と同等の存在だと明言したことになるのだ。
しかしそれは矛盾している。何故なら、イザナミは主催者をマルクだと偽っていたのだ。自分が裏にいることを隠し、マルクこそが諸悪の根源だと思わせていた。
だからこんなところで、自分の口から自らがゲームマスターだと語ることは、とんでもなく作為的な行為なのだ。
0137Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 02:05:22.03ID:il2YLHOs
「イザナミにアスタルテ。もはや主催者候補は完全に出揃っている。そこにマルクが付け入る隙は、まぁなさそうね」
マルクはただのピエロだ。ギャラティックノヴァを使って騒動を起こしはしたが、それ単体では何の力も持っていない。そんな者が主催者だと考えるよりは、神であるイザナミが主催者だと考えた方がしっくりくる。
しかし、それをイザナミが隠していたこともまた事実。
「自分を神と断言した時点で容易く論破されることではあるが、それでもわざわざ言う必要はなかった。つまり、イザナミはゲームという言葉を使う必要がなかった」
「何だそれは? まるでその言葉を使いたいがために、敢えてマルクを傀儡だと教えたとでも言いたいようじゃないか」
「その通りだレミリア。その通りなんだ。あの段階で、イザナミにどんな思惑があったのかはわからない。わからないが、その目的の一つがそれであることは間違いない」
「ゲームという言葉が、どんな意味を持つんですか?」
「正確に言えば、ゲームじゃない。奴は、ゲームという言葉から、“遊び”という言葉を連想させたかったんだ」
イゴールの言い回しも、今思えば不自然だった。
遊びにルールを付与したものがゲーム。そして、ゲームがこの殺し合いだと言う。
しかし、言葉の定義としては若干それは違う。遊びにもルールは存在するし、そもそもそうでなくては遊びではない。あの時は何とも思わなかったが、今思うと、その矛盾は異常なほどに際立っている。
「千枝。遊部、という言葉を聞いたことはないか?」
「え? あ、あたし!? うーん……わかんない」
突然名指しされ、慌てながらもきっぱりと千枝は言った。
「古代、朝廷で神事に奉任した役職の一つだ。その役どころを簡単に説明すると……、魂を鎮める職業」
それは、漆黒の騎士もアドレーヌも知るはずのない情報だ。何故ならこれは、日本史に関する知識がなければ知り得ないものなのだから。
「遊びという言葉の起源がそれだ。そしてそこから生まれたのが神遊び。いわゆる、神楽舞いってやつだ」
思わず漆黒の騎士がストップをかける。
「ま、待ってくれ。聞いたことのない話ばかりでついていけない。まず神楽舞いというのはなんだ?」
「別名、神楽。神座という言葉が転じた言葉で、神事を行う際に行われる歌舞だ。以前は神憑りを行い託宣することを目的としたものだったが、今では神事の際における神の奉納の舞いとされている」
全員が首を傾げているところを、千枝と咲夜だけが「聞いたことはある」といった様子で、頷いていた。
「天の岩戸伝説というものがある。太陽の神である天照大御神が岩に閉じこもり、世界が闇に閉ざされた時、天宇受女命は舞いを踊ることで岩から出すことに成功した。
その踊りが神楽、神遊びの起源だといわれている。天宇受女命の子孫、猿女君が宮中で鎮魂の義を携わっており、このことから神楽の元々の意味は招魂・鎮魂・魂振を行う為の儀式だと考えられているんだ」
「……要するに、イザナミのゲームマスターという言葉は、その鎮魂とやらを取り仕切る立場にある、と言いたかったわけか?」
漆黒が腕を組みながら呟く。瀬多は思わず微笑んだ。
「知識なしでついてくるのは厳しいんじゃないかと思っていたが、さすがだな」
「要点だけだ。話は半分も理解していない」
「それだけわかれば十分だ」
瀬多は改めて漆黒の騎士の有能さに感心した。
参加者内でもトップクラスの力を持ち、さらに頭脳明晰。
天は二物を与えるとはこのことか。
そう考え、その天に喧嘩を売ろうとしているかもしれないことを思い出して苦笑する。
0138Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 02:06:20.58ID:il2YLHOs
「この殺し合いは、神遊びをさせるためのもの。俺達は、世界という巨大な神楽殿の中で、神楽を踊らされているってことだ」
イゴールの定義でいえば、遊びにルールが付与されたものがゲーム。ここでいうゲームが殺し合いで、遊びが神遊びなのだとしたら。
殺し合うというルールが加えられた神遊び。それがこの殺し合いの正体。そう瀬多は考えたのだ。
「私達は、誰かの魂を鎮めるための生贄ってわけ? 要は、墓への供え物として私達の魂を必要とした」
「じゃあ、その死んじゃった人ってのは誰? すんごい偉い神様?」
咲夜と千枝の言葉に、瀬多は首を振った。
「違う。二人とも鎮魂という意味を勘違いしている。鎮魂は、決して死者に対して行われるものじゃない。元々、生者に対して行われるものだったんだ」
鎮魂、と聞いて一番に連想するのは、死者を鎮めるというものである。現在の風習では確かにその認識は間違っていないが、元々の意味合いとしては少し違う。
「日本は古来から、魂というのは不定着なものとされてきた。ほら、昔話でよくあるだろ。魂が身体から抜け出すって話が」
「ああ、確かに」
千枝が頷く。
小学校の図書館に置いてあるような怪談話によく出てきたことを千枝は思い出していた。おじいさんが眠っている間に魂が抜き出て、浮遊霊となって彷徨うような話を読んだことがある。
「生者であろうと、魂は出たり入ったりするものなんだ。そこで鎮魂の儀式というものがある。要は、出たり入ったりする魂を元々の身体に押し込もうっていう考え方だ。
鎮魂祭という行事があって、それは天皇の魂を体内に納め、活力を高めるために行われている。毎年の恒例行事なんだが、それほど日本人は魂を不定着なものとして見てきたんだ」
鎮魂とは、魂を鎮めるのではなく、肉体に魂を定着させるもの。それが本来の意味なのである。
「……要するに瀬多は、この殺し合いがとある肉体に魂を定着させるものだと言いたいわけか?」
漆黒の言葉に、瀬多は頷いた。
「こいつを見てくれ」
攻略本のとあるページを開いて、瀬多は皆に見せた。
カービィの英雄伝。ギャラティックノヴァを悪用するマルクを倒す話だった。
「ギャラティックノヴァ。何でも願いを叶えてくれる星、だそうだ」
「おいおい。そんなものがあるのなら、それこそ主催の目的なんてどこ吹く風じゃないか。これを使って叶えればそれでいい」
「それはおそらく不可能なんだ。何故なら、ギャラティックノヴァの力を使ったマルクは、カービィに一度負けている」
そう。それはギャラティックノヴァが不完全なものだという証明に他ならない。
「もしもだ。もしも、ギャラティックノヴァを肉体に見立て、そこに魂を集めていたとするならどうだ? 
不定着な魂を、肉体を破壊することで完全に追い出し、本来の身体とは違う、別の肉体に移し替えていたとするなら。そしてそれがギャラティックノヴァという入れ物だとするなら、こういう考え方はできないか? 
主催者の目的は魂の収集。この殺し合いは、輪廻転生の世界を作るための足掛かりだと」
その言葉に全員がぎょっとした。
「世界を作る!? そんな馬鹿げたこと────」
「を、したんだろう? 女神アスタルテは」
漆黒の騎士は黙って頷いた。
「イザナミの目的ははっきり言って不明だ。しかし、アスタルテの目的はわかる。もしも彼女がこの殺し合いに一枚噛んでいるのなら、その目的は世界創世に他ならない。そうだな、漆黒?」
「ああ。確かにその通りだろう。女神は人間を滅ぼすべきだと考えているが、同時に人間を愛していた。闘争もなく、平和のみを考える人間だけが暮らせるより良い世界を作ることが、女神の目的だと考えて間違いない」
0139Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 02:35:49.08ID:il2YLHOs
「そういう仮説をたてれば、面白い符号が続々と出てくるんだ。たとえば、さっき説明した天の岩戸伝説。太陽の象徴である天照大御神を呼び戻すための方法が神遊びだったわけだが、元々太陽というのは生命の象徴として使われている。
それを踏まえれば、これはこういう風にもとれないか? 神遊びを行うことで、命をなくした世界を再び生命の住む場所へと変えた。要するに、生命溢れる世界の再構築。これは世界創世の構図だった」
「天の岩戸伝説に則り世界を創世する。そのための舞台役者が私達……」
聞けば聞くほど荒唐無稽な話だ。しかし、それを否定する要素はどこにもない。
「この天の岩戸伝説。一説によれば日食現象を表したものだともいわれている。そして、日食現象というのは死と再生を表す隠喩。太陽を司る天照大御神が岩戸に隠れるということは、その存在の死を意味する。それが神遊びによって生を得て、世界を再び照らし出した。
俺達参加者が滅んだ時世界は暗黒となり、また俺達の死の舞いによって天照大御神は姿を現すっていうわけだ」
岩戸に隠れた太陽。それが参加者の全滅を表している。そして、ギャラティックノヴァへと昇る魂、鎮魂こそが天宇受賣命による神遊びで、天照大御神の復活はその神遊びによって作られた世界のことを表す。
天の岩戸伝説を見立てた世界創世。それがこの殺し合いの正体。
確かにそれは、まったく矛盾なくこの殺し合いの本質を説明していた。
「……その面白い符号とやらはまだあると?」
「誰かが世界を創世したいと考えたとしよう。しかし、その力を持っていても必ず世界は悪い方向へ向かってしまう。人間は争いを止めず、自分の思う世界が作れない。どうにかしたい。そう考えた時に、ギャラティックノヴァを見つけた」
漆黒の騎士の目が大きく開かれる。
「……まさか」
「だがギャラティックノヴァには、悪い人間、負の闘争というものが認識できない。何故なら、それはあまりにも漠然としたもので、人によって定義が変わるからだ。ギャラティックノヴァは言葉通りにしか受け取らない。言葉という不完全な伝達手段を用いて願いを叶える。
だからたとえ正に満ちた世界を、正の気しか持たない人間を作ろうとしても、それはギャラティックノヴァが厳選したもので、自分の意に当てはまるものではない可能性があった。それを解消するには……」
「……認識、させればいい。……そうか。それが殺し合いを開いた理由。私達の闘争を、自分の世界にはいらない事象を抹消させるための……!」
殺し合い。それは時に、戦争よりも大きな負の感情と悲劇を生む。
疑心、殺意、利己心。
この場所は、確かに人間の醜さの集大成といえた。
その集大成を認識させ、あるいは自分達の価値感に合わせて厳選し、そんなことが起こらないような世界を作ってくれと願えば、理想の世界は創世される。
「実は、千枝の言っていた仮説は一見的外れなようで、かなり真実に近い仮説だったんだ」
「へ!? わ、私なんか言ってたっけ?」
「ゲーム機の機能だよ。助っ人は一体どうやって自分達を助けるつもりなのかっていう話になっただろ? 
あの時、魂だけを取り出して新しい肉体に移し替えるんじゃないかって言ってたじゃないか。あれが実はこの世界自体の機能で、しかもその魂の入れ物、新しい肉体は既に決まっていた。ギャラティックノヴァという、どんな願いも叶えられるスペックを備えた星に」
図らずも、千枝はこの殺し合いの本質を突いていたということだ。
それを指摘した本人が一番驚いているようだが。
0140Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 02:55:27.60ID:il2YLHOs
「マナという言葉を聞いたことはあるか? 超自然的な力の概念で、映画やゲームにもよくでてくるものなんだが、要は世界に宿る生命エネルギーのようなものだ。日本神道ではそのマナを外来魂と言うらしい」
千枝も、マナという単語は耳にしたことがあった。
「依り代という言葉があるように、日本では古来からあらゆるものに神や精霊が宿るとしてきた。海、山、大地、太陽、といったものにな。その神や精霊のことを、総じて外来魂と呼ぶんだ」
あらゆるものに外来魂が宿る。そして、その外来魂がマナと呼ばれる生命エネルギー。この世にある全てのものは、その生命エネルギーがあって存在することができるのだ。
「あらゆるものに宿るエネルギー、力が外来魂と言うなら、こういう考え方もできないか? 
俺達の肉体にもそのエネルギー、外来魂は宿っているはずだと。そして、それが俗に言われる魂であるとするなら、俺達の魂は海や大地の外来魂の代替物として使えるんじゃないかって」
魂という世界を創世するためのエネルギー。それを集めるのが、この殺し合いの目的の一つなんじゃないか。そう瀬多は言いたいのだ。
「……世界創世を企む者にとって、私達の魂は最高のエネルギー体ってわけね」
「神も認めない濁った魂はマナとして世界の礎にしてしまえば効率が良い。神が良しとする魂は、転生される魂の候補としてギャラティックノヴァに仕舞い込んでしまえばいい。
そうして厳選された魂と、使用者の望まぬものを認識したギャラティックノヴァに再度お願いをするんだ。より良い世界を作って下さい。……まさに大団円だな」
全員が押し黙った。
そのあまりに壮大なスケールに、皆が圧倒されていた。
天の岩戸伝説になぞらえた殺し合い。負の感情を認識させる殺し合い。魂を収集するための殺し合い。
瀬多が提示した三つの仮説。その全てが一つの目的を指し示している。
世界創世という、これ以上にない程の強大な目的を。
「どうだ? 漆黒。お前はこの仮説、どこまで信じる?」
難しい顔をして、ずっと地面を睨みつけていた漆黒に、瀬多は聞いた。
「……この仮説には確証がない。空想を空想で塗り固めているだけだ」
「だが、全てがうまく符号する」
「そうだ。ここに至って、全ての情報がそれを指し示している。その事実は無視できない」
漆黒は、しばらく考え込んでいたが、やがてすっと手を掲げ、指を三本立てた。
「三割だ。まず女神アスタルテ、ギャラティックノヴァが絡んでいない可能性が一割。ゲームという言葉がイザナミによるミスリードである可能性が四割。そして──」
「イゴールの言っていた真実とやらが二割、か」
瀬多の呟きに、漆黒は頷いた。
「そうだ。主催者側は敢えてヒントを出していた。つまり、真実に自力で辿り着くことを想定、または期待していた。ならば、イゴールと再度出会った時に聞ける真実は、また別のものということになる」
ここでばれるような真実なら、わざわざイゴールが契約までさせていた理由がなくなる。イゴールの知る真実は、瀬多が示した仮説とはまた別のものであるはずなのだ。
「三割、か。高いんだか低いんだかよくわからない数値ね」
「だが、命を賭けるには十分な確率だ」
漆黒の言葉に思わず全員が彼を見つめる。
が、誰も反論はしなかった。
「……確かに、現状最も可能性の高い仮説であることは認めないといけないな」
「で、でも……それがわかったところで、一体どうやってここから脱出するの?」
千枝の疑問は、単純だが的を得たものだった。
「俺達だけじゃ、ここから脱出することは不可能だ」
瀬多は簡単にそう言ってのけた。
0141Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 02:56:10.50ID:il2YLHOs
「ここから脱出するための道は何とか見つけることができるだろう。魂を収集するというのなら、その魂が通る道筋があるはず。
奴らの絶対的な自信から見て、ギャラティックノヴァはこことは別の世界にあると考えていいだろう。ならば魂が通る、唯一ここから抜け出せるか細い一本の道を見つけ出せば、あとはそこを突き抜けるだけだ。だが、突き抜ける方法を俺達は持っていない」
「その道とやらはどうやって見つけるつもりなんだ?」
「それは博麗霊夢か東風谷早苗を見つければ何とかなるだろうと考えている。ここが巨大な神楽殿だというのなら、天宇受女命を祭る神社があってもおかしくない。
神憑りか、または本物の神楽でも踊ってもらうか、おそらくそれで魂の通った軌跡がわかる。それがこの世界に開いた唯一の抜け道だ」
「でもそれで終わり。道がわかったからといって、どうにかなるものでもない。けっきょく、私達はその道を渡る力がないってわけね」
「ああ。だから負の女神に頼るんだ」
「え? でも、私達を助けようとしている人達が外にはいるんですよね。その人には頼らないんですか?」
「負の女神はともかく、主催者側に助っ人がいるという情報はあまりにも不確かなものだ」
アドレーヌの素朴な疑問に、漆黒が答えた。
「漆黒の言う通りだ。それに、イザナミの思惑も計りかねているところがある。主催者側が一枚岩でないことはわかるが、それ以上の情報はわからない。こんな状況で贅沢を言うようだが、不確定要素はできるだけ排除したい」
漆黒の言葉から、メダリオンに負の女神が封印されていることは確定している。
しかし他の情報は、全てが不確定だ。ゲーム機のことも、もしかしたらただのブラフかもしれない。クリスタルも、ただ殺し合いを促進させるだけのアイテムかもしれない。
そんな状況で、いるかもわからない助っ人の助けを当てにするのはあまりに悠長だ。
「じゃあ結局、私達はその負の女神が復活してくれるのを待つしかないってわけ?」
「実はそうでもない」
瀬多がごそごそとバックを漁る。霧雨魔理沙のものだ。
「こんなものを見つけた」
そう言って瀬多が取り出したのは、マスターボールというものだった。
どんなポケモンも捕まえることができるというレアなモンスターボールだ。
「攻略本によると、戦力強化のためのポケモンが入っているらしい。ゲームでいうところの隠しアイテムってやつだ」
そう言って、手の中でボールを弄ぶ。
「ついでに、こんな紙切れも張り付いていた」
一枚の紙を全員に見せる。
そこには、『三度目の朝まで、クリスタルを』とだけ書かれた。
「なにこれ? ふざけてるわね。何のメッセージにもなってない」
「三度目の朝までにクリスタルを集めろってこと? それとも三度目の朝まで待てってことかな。つか、三度目の朝って、いつまで待たなくちゃいけないのよ」
一回目の放送で既に十人もの参加者が死んでいた。このままいけば、三度目の朝を迎える頃には、既に殺し合いは終了しているだろう。
「おそらく、これは奴らの保険だったんだ」
千枝の疑問に答えるように瀬多は言った。
「三度目の朝まで縺れる程に戦力が拮抗しているのなら、その拮抗を崩すだけの力を与えようとするのは殺し合いを促進したい側からすれば当然の考えだ。
戦力の度合いによっては一気に殺し合いは加速する。自分達が介入できない分、道具で殺し合いを促進させる。これはその布石だろう」
主催者の目的が負の感情を認識させることにあるとすれば、できるだけ長い時間をかけ参加者同士で殺し合ってくれた方がいい。疑い合い、憎み合って。
自分達の力だけで殺し合ってくれた方がいいのだろうが、それでも戦力を増加させたところで参加者が抱く負の感情は変わらない。三日も経てば、それなりに負の感情のサンプルは集まっているという推測もあったのだろう。
0142Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 02:58:46.56ID:il2YLHOs
「じゃあクリスタルってのは?」
「よく見てくれ。クリスタルを、のところ。修正ペンか何かで塗り潰して、その上から文字を書いたって感じじゃないか?」
全員が紙を凝視する。
よく見なければ分からないが、確かに瀬多の言う通り、事前に書いてあった文字を消して上書きしたように見える。
「た、確かに……」
「それに、筆跡も少し違う。つまり、『三度目の朝まで』というキーワードを書いた人物と、『クリスタルを』というキーワードを書いた人物は別人だとうことだ。
要するに、ここに書きたいキーワードに二人の間で齟齬が生じていたということ。それはつまり、このボールに対する考え方が違うということで、言うなれば──」
「目的が違う……。そっか! 私達を助けようとしてる側と、してない側!」
千枝が手を叩いて叫ぶ。
「その通り。そして当然、さっき話したボールが殺し合いの保険だという考え方は、助っ人側には成り立たない。助っ人からすれば、自分は怪しまれず、且つ参加者ができるだけ目減りしない、そんなタイミングで切り札を渡したいはずだからな」
ゲーム機も人と積極的に接触しなければならない機能があった。クリスタルも、四つ集めなければ意味がない。
それらは参加者に移動を強制させるもので、助っ人側の主張としては、全て殺し合いを促進させるものというわけだ。
「攻略本に情報が記載されているところを見ても、これは元々殺し合いを促進させたい人間が用意したもの。だから『三度目の朝まで』というキーワードはこの際無視していいんだ。問題は『クリスタルを』のところ。
このマスターボールはロックがされていて使えないんだが、そのロックは時間じゃなくてアイテムによって外れる。その鍵がクリスタルだとみてまず間違いないだろう」
そして、その中身も間違いなくすげ変わっているはずだ。参加者側により有利なものに。
「ふん。随分と遠回しな伝え方だな。もっとストレートにできなかったのか?」
「たぶんできなかったんだろう」
瀬多には、どういうやりとりがあったのか、手に取るようにわかった。
この思わぬ助っ人は、おそらく支給品を比較的自由に扱える立場にあった。そこでゲーム機やらマスターボールやら、色々と細工をすることができた。
マスターボールの鍵をクリスタルにしたのは、長期的に見ればクリスタル争奪戦が始まるのを予期してのことだろう。だからこそ、助っ人は主催者にこう言った。
『クリスタルの重要性を示唆すれば、もっと殺し合いは加速するんじゃないか』と。
おそらくは歪曲的な言い方だったのだろう。あくまで主催者本人が気付くように仕向けた。それで急遽とってつけたようにクリスタルという単語をいれた。
支給品に関する仕事が助っ人の仕事だというのなら、そういった些細な変更も助っ人に任せていたとしても何ら不思議じゃない。
紙を変えず、わざわざ書き直したのは、先程の瀬多の推理を参加者にさせるためだ。助っ人の存在に勘付いている人間なら、これが重要アイテムだと気付くだろうし、そうでなかったとしてもクリスタルという単語は無視できない。
これで助っ人は、自分の伝えたい情報を何の危険もなしに参加者に伝えることとなった。
0144Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 03:16:26.82ID:il2YLHOs

しかし、と瀬多は思う。
いくらなんでも、この助っ人は動き過ぎだ。切り札なんて一つでいい。いや、一つだからこそ迷彩が効き、敵の裏をかけるのだ。たとえ負の女神だけではここから脱出できないと考えていたとしても、もう少しやりようがある。
この助っ人は、好き勝手にやっても許されるという何らかの自信があったのだろう。主催者側から直接許可をもらっているのか、詳しいことはわからないが、どこかその存在は特別視されているような気がする。
だが、いくら許されるからといって、こうも重要アイテムをこちらに支給したのでは、誰かに反感を買ってもおかしくない。それだけ焦っているのかもしれないが、どちらにせよ少々展望をないがしろにし過ぎている。
それも作戦の内なのかどうか。その真意を瀬多は知りたかった。
(助っ人か。本当にいるのなら、どうにか連絡を取りたいものだが……)

そんなことを瀬多が考えていた時だった。
突然、奇妙な機械音が辺りに響いた。
「な、何の音────」
アドレーヌの声を瀬多が人差し指をたてて黙らせる。
瀬多のその様子を見て、全員が押し黙る。その音がどこから聞こえるのかを、全員が聞き耳をたてる。
「……あれ? もしかしなくても私?」
そう。その音は確かに千枝のバックから聞こえる。
慌ててバックに手を突っ込む。
しばらくごそごそとバックを漁り、そこから取り出したのは拳銃の形をしたライターだった。
奇妙な音は、そのライターが発していた。
「ちょ、ちょっとちょっと! なにこれ爆弾!? ……あ! 咲夜が逃げる!! おいこら! なにあんただけ保身に走ってんのよ!!」
一目散に逃走を計る咲夜に、千枝はダイブしてしがみつく。
その反動で二人は転倒。咲夜が引き離そうとしても、千枝は決して力を緩めない。
「ちょ、ちょっと千枝!! 死ぬなら自分一人で死になさい!!」
「うっさいボケ!! どうせならお前も道連れじゃー!!」
ぎゃーぎゃーと喚く二人。
離しなさい!! とか、死んでも離さん!! とかいうやりとりを繰り返していると、ひょいとアドレーヌがライターを手に取った。
色々と弄っていると、カチャリという音と共に形が変形した。
ちょうど銃身とグリップの境目の場所を軸に、への字に曲がる。
「あれ? これライターじゃないみたいですよ」
トリガーガードを少し押すと、それが勢いよく引っ込み、への字だった銃がさらに鈍角を広げる。
そこにきて、ようやく瀬多もこれが何なのかがわかってきた。
「少し貸してくれ」
アドレーヌに差し出された銃を手に取り、自分が思い描く完成形に合わせてピースを動かす。
ライターは面白いようにカチャカチャと音をたてて変形していく。
「アドレーヌでも冷静なのに。まったくお前達二人ときたら」
レミリアが呆れたようにため息をつく。
「え!? 私も!?」
「まったく。千枝ときたら」
咲夜があっけらかんと言った。
「お前だけは絶対に許さん!!」
再び咲夜に飛びつこうとした千枝を、瀬多の「できたぞ」の声が止めた。
「それは何だ?」
漆黒の疑問も無理からぬこと。彼の世界では、“これ”は存在しないのだから。
「携帯電話だ。遠くにいる者と連絡をとることができる」
漆黒は便利なものだと感心して、ライターだったものを見つめる。
変わらず鳴り響く携帯の、ボタンと思しきところに指を添える。
「俺が出る。いいな?」
全員が頷く。
瀬多はその電話の主に当たりをつけながら、ボタンを押した。
0145Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 03:17:12.11ID:il2YLHOs


◇◇◇
【??? ラウンジ】

永琳は悩んでいた。
イザナミの思惑が分からずに? 神々をどうやって出し抜くかを考えて? 
否。
それは目の前の自動販売機に対するものだった。
「ツチノコって……おいしいのかしら」
何千年と生きる彼女も、ツチノコを食べたことはない。
興味はある。興味はあるが、……買いづらい。
なにせ、他のものと比べて段違いな程に高いのだ。散財はしたくない。
悩む永琳。しかしそんな彼女にまったく頓着せず、ツチノコのボタンを押した男がいた。
ガタンと音がし、自動販売機の中から串に刺さったツチノコを取り出す。
「食わないのか?」
「……それ、おいしいの?」
「味は保証する」
にやりと男は笑った。
がぶりと一口。
しかし、様子がおかしい。何か飲みこみづらそうにもごもごと口を動かしている。
ようやく飲みこみ、男は一言呟いた。
「……腐ってる」
……買うのは止めておこう。
永琳は適当に保存食を選び、自販機から取り出した。
「マルクがお世話になってるわね」
「あいつをどうにかできないのか? 休憩中も仕事中も付き纏われて、正直困ってる。いつの間にか俺の膝の上に座ってるんだ」
クスリと永琳は笑う。
「あなたに懐いているのよ」
「子供に懐かれたのは初めてだ」
「女性に口説かれたことは?」
「何度か。手痛いしっぺ返しをくらうのがほとんどだったが」
そう言って、男は苦笑する。
「今回は違うわよ」
男は黙ってツチノコを口に頬張る。
腐っていたのではなかったか。そんな疑問を、永琳は呑みこんだ。
「俺はお前を信用してない。俺の相棒もな」
「私は信用してるわ。あなただけだけど」
「そりゃ光栄だ。嬢ちゃんにそうまで言われたら、さすがに下心が出てくる」
「存分に出しなさい。けど一つ訂正。私は嬢ちゃんじゃないわ」
「おばあさんか?」
永琳はにこりと笑う。
「間違ってはいないけど、レディに対して言う言葉じゃないわね」
「失敬。俺はダブルオーセブンのようにスマートじゃないんだ」
「気障な男より、ワイルドな男の方が好みよ」
「用件は?」
先程までと同じく軽い口調。
しかし、その雰囲気は明らかに違う。
0146Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 03:18:06.34ID:il2YLHOs
「私を自由にしてほしい」
「……それはどういう意味だ?」
一気に、男の警戒心が上がる。
「そのままの意味よ。私はただ自由にしてほしいだけ。姫と私の自由を保証してくれるなら、私は神の意思に従うわ」
どう答えたものかと考え、男は彼女に合わせることにした。
「……俺の権限じゃどうもな」
「ゼロに進言して」
「あいつが俺の言う事を聞くと思うか?」
「聞くわ。あなたの言う事ならゼロは聞く。あなたを蘇らせたのは、ほとんどゼロの意思といってもいいのよ?」
一体誰がそんなことを頼んだと言うのだ。
そんな愚痴にも近い言葉を呑みこみ、男は黙ってツチノコを口に運ぶ。
「お願い。私達を救って。私がどれほどの危険を冒してこんなことを頼んでいるか、わかってくれるでしょう? 私達はただ、静かに暮らしたいだけなの。世界を作ろうが何をしようが私達は構わないわ。だから……」
「……泣き落としは止めてくれ」
ツチノコを平らげ、近くのゴミ箱にそれを放り捨てると、男はさっさとその場を去ろうとする。
先程までの様子から、呼び止められるかと思ったが何も言ってこない。
振り向くべきじゃない。そう思うが、けっきょくため息と共に振り向いていた。
男は、すぐに永琳の異変に気付いた。
どこかあらぬ方向を向いている。しかし、その顔はあまり付き合いのない男でもわかるほどに蒼白だった。
「どうかした──」
突然、永琳の華奢な身体が男に縋りついてきた。
「だ、駄目。何もかも早過ぎる! お願いボス。私の一生のお願い! 叶えてくれたら何でもする。だから、だから姫を解放して! あなたに私の一生を捧げる。だから──」
「おい待て! いきなりどうしたんだ。少し落ち着け」
「私には姫しかいないの! 姫がいなくなったら私は……」
それ以上、言葉が紡がれることはなかった。
俯き、ただ黙って男に縋っていた。
「……おい。お前ひょっとして──」
「わー! お二人って仲が良かったんですねー。ヒューヒュー」
どこから湧いて出たのか、イザナミが腹立たしいほどにうまい口笛で捲くし立てた。
「二人の逢引をお邪魔するようで悪いんだけどぉ、そろそろお仕事に戻ってもらってもいいかな? 我ら中間管理職、やるべき仕事はたんまりあるんだよね、これが」
永琳は、先程までの取り乱しぶりが嘘のように、何も言わずにくるりとこちらに背を向けると、そのまま歩いて行ってしまった。
男は永琳のことが少し気になったが、けっきょく追いかけるようなことはしなかった。
何故かむしゃくしゃする。
男は葉巻を取り出して口にくわえた。
0147Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 03:18:54.29ID:il2YLHOs
「神という奴は、随分と神出鬼没だな」
「人智を越えた存在だからね。それにしても安心したよ。古参同士でありながら、君と永琳は仲が悪かったからね。上司である俺からすればけっこう心配してたんだ」
「あの嬢ちゃん、妙なことを言っていたぞ。姫を解放しろとかどうとか。……お前、何か変な事を吹き込んだんじゃないだろうな」
「あっはっは! 一体何を吹き込むって言うんだよ。まるで俺が彼女を利用してるみたいじゃないか。俺とえーりんは、あんた以上にふか〜い仲なんだぜ? なにせ俺達、チューまで済ましたくらいだからさ」
「…………」
捉えどころのない神だ。
そう心の中で毒づく。
「それよりさぁ。つい数時間前に俺が言ったことも忘れちゃったの? あんまり外に出るなって言ったじゃない。なんちゃって老人だからって、ボケた振りは止めて欲しいなぁ」
今の男の体は、全盛期と同じ肉体だった。
ビッグボスという名を冠されたあの時と同じ。
そのことにありがたいと思ったことは今のところない。元々、こういう最先端技術というやつはあまり好きではないのだ。
……いや、魔術というものだったか。どっちにせよ、胡散臭いことには変わりない。
「お前、嬢ちゃんを脅しているのか?」
男のその言葉に、イザナミはきょとんとし、それからすぐに高笑いした。
「いきなり何言ってんのさ。俺がどうやって彼女を脅すって言うんだよ。わかってる? 俺をここに閉じ込めてるのはあんたらなんだぜ?」
「マルクから聞いた。参加者から溢れた奴らの牢獄。あそこに嬢ちゃんの大切なお姫様がいるらしいじゃないか」
「だから? 俺ってば、お姫様には何も手出ししてないよ?」
無実を証明するように、手を広げてみせる。
「手を出さなくても、脅しの材料にはできる」
「おーい。そろそろ俺も怒るよ? 輝夜ちゃんを勝手に連れて来たのはあんたらじゃないか。それを無視して俺を悪者扱いかい? 酷い話だねぇ。俺は文句も言わずにあくせく働いてるってのにさ」
その静かな怒りは、確かに本物のように思える。だが、本物らしい演技ができる人間を、男は何人も知っていた。
「……仕事に戻る」
「それがよろしい」
男はイザナミに背を向け、監視部屋へと足を進める。
監視組という役職に割り振られた男は、仕事といってもモニターを見つめるだけだ。やる気など初めからない。
いつもならその不毛な仕事について考え憂鬱になるところだが、今回はまったく別のことを考えていた。
八意永琳。
先程の会話、最初は彼女の策略かと思った。しかし、それにしては真に迫るものがある。
彼女の言い方。あれはまるで、“円卓の神達が姫を人質に取っている”とでも言いたげだった。完全にこちらを敵と見做し、しかし自分では何もできないと考えている。そんな感じだった。
だがそれはおかしいのだ。何故なら神達は、八意永琳のことも、参加者から省かれた者達も、“何の拘束もしていない”のだから。
男は彼女を、“イザナミの腹心”だと考えていた。それが今、揺らぎつつある。
(嬢ちゃんとは、あとでゆっくり話し合う必要がある)
男はこの殺し合いが始まってから、ずっとここで働いていた。永琳もそうだ。しかし、男はずっと彼女を避けてきた。敵かもしれない相手と仲良くするほど男はお人好しじゃない。
(何かがおかしい。何かが噛み合わない)
そんな胸が悪くなるような奇妙な違和感を感じつつ、男は監視部屋へと入って行った。
0149Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 03:20:56.42ID:il2YLHOs


◇◇◇
【殺し合い会場 D-4】

『はじめまして、と言うべきかしらね。瀬多総司』
「……それで合っていると思う。お前からすれば、知らない人間でもないかもしれないが」『私は味方よ。安心してちょうだい』
瀬多の疑わしそうな口調を聞いて、電話の主は間髪いれずに声を紡いだ。
「根拠は?」
『ゲーム機を支給したのは私。そう言えばわかるかしら?』
ゲーム機のことを知っているのは、おそらくイザナミと助っ人の二人だけだろう。イザナミの目的は不明瞭だが、アスタルテの目的ははっきりしている。彼女がこれを見つければ、即刻これを破壊しにくるはずだ。
「もう一つ、俺達に希望を託したな?」
『ああ。マスターボールのことね。驚いた。そこまでわかってるの?』
あまり驚いてなさそうな口調で彼女は言った。
「全てに言える事だが、何故あんな回りくどい真似を?」
『あなたならわかるでしょ? アイテムを支給するには相応の建て前が必要だった。それに、すぐに手にされても困るのよ。あなた達がそれなりに戦力を充実させてからじゃないと、あまり意味を成さないから』
「参加者が何人も犠牲になっても、か?」
『……否定はしない。たとえ犠牲を出したとしても、確実なタイミングでカードを切る必要があった。それが主催者達を倒す唯一の方法だと私は信じてる』
主催者達。
断定はできないが、やはりイザナミだけでなくアスタルテも関わっているということだろう。
「……信じよう。疑っていてもきりがない」
『賢明ね。ちなみに、主催者側に盗聴する術はないわ。……いえ。する必要がない、と言った方がいいわね。そういうわけだから、そっちからの情報提供に関して慎重になる必要はないわ』
仮にも主催者側の人間がそう言っているのだ。首輪や会場にそういった機能がついていないのはまず間違いないだろう。
『それで? あなたはどこまで知ってるの?』
「そっちの情報をまず話せ。長々と交渉するほどこっちは暇じゃない」
『どうやら、信用はされていないようね』
「その通りだ。命の危険を冒してまで無償で俺達を助けようと考えるお人好しが、そうそういるとは思えない」
それは助っ人がいるだろうと推測した時から、変わらず瀬多の頭の中にあった考えだった。
『いるにはいるんだけど。……まぁ、そうね。確かに、少なくとも私じゃない。しかし利害は一致している』
弁解の一つでもするかと思ったが、電話の主は意外にもその事実を認めた。
ここでいらない時間を使いたくないのは向こうも同じということだろうか。
どちらにせよ、この女性に対し油断はできない。
彼女は、あくまでも他の目的を達成する足掛かりとして自分達を助けようとしている。それはつまり、こちらの命など鼻からどうでもよく、それ故にいつでも自分達を切り捨てることができるということだからだ。
「それはお前の判断だ。お前の目的を知らない俺達が、そう簡単に頷くとは思っていないだろ?」
『思っている。私の助けなしに、どうやってそこから抜け出すつもり?』
「ただの島だろ。首輪さえどうにかすれば、すぐにでも抜け出してやるさ」
「あれ? でもさっき──」
千枝が口を挟もうとするのを、咲夜が慌てて止める。
会話の相手が敵であろうと味方であろうと、こちらからそうやすやすと重要な情報を漏らすことはできない。
『……いいわ。いがみ合っていても仕方ない。そこは神が作り出した一つの世界よ』
0150Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 03:21:54.43ID:il2YLHOs
電話の主が話す内容は、瀬多の話したものと大して変わらないものだった。これで瀬多の推理が間違っていなかったことが判明した。それだけでも情報を渋ったかいがある。
わざと妥協してくれたのか。そもそもこの妥協さえも芝居で、間違った仮説を真実だと思わせたいのか。それはわからないが。
「こっちの推測とだいたい同じだな。よかったよ。これで様々な仮説が現実味を帯びて来た」
これはこちらが相応の知能を持っていることをアピールするためのものだ。彼女は自分の目的が参加者を助けることでないことを明言している。この辺りで、こちらの価値を示しておく必要がある。
『……頭はそれなりに回るようね。安心したわ』
そう言って、彼女は小さく安堵のため息をついた。
どことなく焦燥している様子が窺える。
「……大丈夫か? こっちに連絡するだけでも、かなり大変だっただろ」
『仕方ないの。これも全て、私の詰めが甘かったせい』
どういうことか詳しく聞こうとした時、すでに彼女は喋り始めていた。
『私の名前は八意永琳。十六夜咲夜が近くにいるわね? 確認を取って頂戴。私が信用に足る者かどうか』
瀬多は電話を中断し、咲夜と向き合った。
「八意永琳という名前に心当たりは?」
「……やっぱり彼女が助っ人だったの?」
「気付いていたのか?」
「薄々ね。私の知人の中では一番の天才よ。あまり詳しくはないけど」
なるほど。幻想郷の住人だったわけか。
瀬多の知る数多の世界の中でもかなり異色な世界。そこの住人なら、世界創世の手伝いができる者がいてもおかしくない。
「信用に足る人間かどうか、咲夜に判断させろと言ってきている」
「……彼女の目的は私達を助けるためじゃないって断言した?」
「した」
瀬多は躊躇なく頷いた。
千枝やアドレーヌが少しだけ顔をこわばらせる。が、今は構っている暇はない。
「ならたぶん、彼女の目的はお姫様ね」
「お姫様?」
「蓬莱山輝夜。このお姫様のためなら、たぶん彼女は何だってするわ。自分の命に代えても守ろうとするでしょうね」
人質か。
永琳の立場を瞬時に理解し、瀬多は携帯に耳を当てた。
「信用する。余力があれば、そのお姫様を救う手助けもしよう」
『……ありがとう』
それは、彼女の心の底から発されたものだということが、瀬多にはわかった。
『私の目的は、姫と共にここから脱出すること。神達を抹殺すること。そのための刃が、あなた達』
「同じ土俵に立ったからといって、奴らを倒せるとは思えないが?」
『ユンヌの力を借りればいいわ。話は聞いているでしょう?』
神を倒すことができるのは神というわけではない。神の加護を受けた人間のみが、神にダメージを与えられる。
それは漆黒の騎士の話にもでてきたものだ。
「脱出の算段は?」
『……詳しくは言えない。博麗霊夢の持つipadを見つけなさい』
「ipad? それが脱出のカギか?」
『……その内の一つではある。かなり荒っぽいけど』
だんだんと読めてきた。
大っぴらにこれほどのキーをばら撒いたのは、おそらくブラフなのだ。ブラフを撒き散らし、そのどれもが充分に効力のあるもの故に主催者はそれらを無視できない。しかし、そのどれもが本命ではない。
瀬多は確信した。
彼女は、秘中の秘を持っている。
0151Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 03:23:01.05ID:il2YLHOs
「……本命を教えてはくれないのか?」
『ユンヌに頼りなさい。彼女なら勘付いてくれる。この連絡が終わったら、たぶん私は死ぬ。脱出については彼女の指示に従いなさい』
それは瀬多にとって、聞き捨てならない言葉だった。
「おいどういうことだ!? そっちで一体何があった!」
『いいから聞きなさい。イザナミはユンヌに関しては黙秘するつもりでいるらしいわ。だからゲーム機に勘付いても、難易度を上げるだけに留めた。けれど他のものは分からない。くれぐれも慎重に扱って』
あくまでも先程と同じく冷静な口調。
相手に詳しく喋るつもりはないらしい。いや、その時間がないのか。とにかく今は、問い詰めるよりも聞くべきことを聞く時だ。
「……このマスターボールは、一体何が入っているんだ?」
『神よ。そのボールは少し特殊でね。神の力を封印する効果を持っているの。だからこそ誰にもばれずにそっちに送ることができたんだけど、それも見破られた。
……どうやら、イザナミは困難をあなた達に与えたいようだわ。その困難を乗り越えた末の脱出なら黙認する。たぶん、そういう考え方』
電話を切られそうな気配。慌てて瀬多は言った。
「イザナミの目的は何なんだ! 何か知っているなら教えてくれ! 奴は俺達に何をさせたい!」
『あなた達が倒すべき神の数は四人。イザナミ、アスタルテ、ミュウツー、ゼロ。本当はゼムスという奴がいたけど、そいつはもう死んだわ』
「おい! いいから質問に────」
『あなたは絶対に死んでは駄目』
突然そんなことを言われ、瀬多は思わず黙った。
『あなたには役割がある。イザナギというペルソナを冠するあなたには。マヨナカテレビ事件と同じ、重要な何かがあるはず』
「……重要な、何か? それはイザナミが言っていたのか?」
『……わからない。私は嵌められたのか、それとも慢心していたのか。もしかしたら、マスターボールがいけなかったのかもしれない。参加者にとって何の困難もないアイテムの支給が、彼を怒らせたのかも。
……私には、もはやおぼろげな情報だろうと縋りつくしかないの』
あまりにも弱々しい声。彼女が衰弱し切っていることが電話越しにもわかった。
「……何が起きたのかはわからない。だが、俺達にはお前が必要なんだ。自棄にならないで、今は俺達がそっちに行くのを────」
『イザナミの目的が何か。あなた達は、決してそれを蔑ろにしてはいけない。思考を絶やしては駄目よ、瀬多総司。
真実は、いつも自分がじかに見て、考えて、自ら選んだ所にだけ現れるもの。あなたの行く先に、真実に繋がる道があることを信じなさい。そして、イザナミと対峙する前に、全ての者にとっての真実を突き止めなさい。じゃないと、あなた達に勝ち目はないわ』
そこで永琳からの電話はぶつりと切れた。
「お、おい!! 永琳!! 返事をしろ!!」
電話が切れているとわかっていながら、それでも瀬多は叫ばずにはいられなかった。
「……八意永琳がどうかしたの?」
「……わからない。だが、かなり追いつめられている様だった」
永琳の言葉がぐるぐると頭を回る。
彼女は、自分を重要人物だと言っていた。マヨナカテレビと同じ何らかの役割があると。
彼女がそう感じた根拠は結局提示されなかったが。彼女自身、半信半疑の情報ということだろうか。
0152Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 03:24:11.04ID:il2YLHOs

永琳がどう考えていたのかはわからない。しかし、自分がこの殺し合いのキーパーソンであるという仮説には、頷きづらい点があった。
あのメダリオンの騒動一つ取ってもそうだ。
あれは明らかにイザナミが仕組んだもの。そしてその騒動のさなか、瀬多は何度も死にかけた。一つ何かが間違っていれば、この世にいなかった。
もしも本当にキーパーソンなのだとしたら、そんな危険な真似を敢えてさせる必要などない。瀬多総司なら乗り越えられると信じていた、という考えなど論外。
瀬多は戦力的な意味だけでなく、精神的な意味でも仲間に頼っていたところがある。あの一連の騒動も、決して自分の力で乗り越えたとは思えない。
(やはりどう考えても、イザナミにとって俺が重要な人物だったとは思えない)
しかし、ただ一人だけ。自分を特別視しているような気がする人物はいる。

イゴールだ。

瀬多の前にだけ現れ、自分を見つけさせるためにわざわざ『血の契約』までさせている。
それに、今回の神遊びの仮説だって、イゴールの言葉がなければ絶対に気付かなかった。
だがイザナミは、自分の言葉でヒントを与えたと言った。あれだけ丁寧にヒントを与えてくれていたのに、イゴールの存在は匂わせさえしなかった。
もしも。もしもイザナミにとって、イゴールの存在が計算外のものなのだとしたら。誰にも知られたくなかった存在なのだとしたら。
参加者に接触したことを知り、慌ててその参加者を消そうとしたのなら。それがメダリオン騒動と、アドレーヌのシャドウを出現させた本当の目的なのだとしたら。
……辻褄は合う気がする。少なくとも、イザナミが自分を特別視していると考えるよりずっと自然だ。

永琳からしても、参加者である瀬多達からしても、イゴールは絶対に無視できない存在だ。なのに先程の会話では一切話題に上がらなかった。それは、永琳さえもその存在を詳しく知らされていなかったからではないか。

────私の役目は、お客人を助けることでございます────

あの言葉が真実なのだとしたら、イゴールは瀬多総司のために動いているということになる。
都合の良い考え方だろうか。しかし、そう考えられるだけの下地がある。

────再びこうして相対した時、真実をお教えしましょう────

────イザナミと対峙する前に、全ての者にとっての真実を突き止めなさい。じゃないと、あなた達に勝ち目はないわ────

イザナミの一番近くにいたであろう永琳が、真実の重要性を説き、イゴールがそれを教えてくれると言う。この符号の意味することは何なのか。
半信半疑だったものが、確信に変わっていく。
瀬多は、イゴールという存在の重要性を再認識した。
0154Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 03:26:13.90ID:il2YLHOs


◇◇◇
【??? 監視部屋】

「なるほど。これは想像以上に厄介ですね」
監視部屋。いくつものモニターが映像を映し出している。そこには今、二人の者が対峙していた。
一人はどこかひ弱そうなイメージのある長髪の男、セフェラン。もう一人は、道化師のような格好をしたマルク。
しかしどこかマルクの様子がおかしい。いつもの快活な様子はなく、彼はずっと押し黙っている。
マルクに添えるように杖を掲げていたセフェランは、彼にしては珍しい複雑な表情だった。
これで邪魔者はいくらか排除できる。しかし……
そんなことを考えていると、突然後頭部に堅い何かが押しつけられる。
「そいつを離せ」
冷たく凍てついた声。
頭を銃で突き付けられていることに気付くのに時間はいらなかった。
どうやら彼は、本気で怒っているようだ。いつ頭を撃ち抜かれてもおかしくない。
「……別に危害を加えていたわけではありません」
「じゃあ今の状況はなんだ? 明らかにマルクは異常をきたしている」
「心配には及びません。少し記憶を見せて頂いていただけですよ」
掲げていた杖をマルクから離す。
すると、先程までずっと沈黙を守っていたマルクがぱちくりと目を瞬かせた。
「あ! ボスがいるのサ! いつの間に入って来たのサ」
「……ついさっきな」
セフェランを睨みつけたまま、ボスは言った。
「銃なんか持ってるのサ! 喧嘩はよくないのサ!」
セフェランはマルクの背に合わせるように屈み、微笑んだ。
「私も少々困っていたところなのです。マルクからもボスを説得してくれませんか?」
マルクはオーケー! と元気よくサムアップすると、ボスに向かい合った。
「ボス! 喧嘩は駄目なのサ!」
ボスはそれでもセフェランを睨み続けるが、当の本人は悠々とそれを受け流している。
しばらくして、ようやくボスは銃を下ろした。
「喧嘩じゃない。銃のメンテナンスをしていただけだ」
「メンテナンス中に銃口を人に向けちゃ駄目なのサ! そんなの僕でもわかるのサ!」
「ああ。そうだな」
「ボスはダメダメなのサ」
「あー、ほら。わかったからさっさと行け。俺はセフェランと話があるんだ」
しっしっ、とまるで動物を相手しているかのように軽くあしらう。
「ボスは自分勝手なのサ! 僕だってセフェランとお話し中だったのに」
文句を言うマルクを無理やり黙らせ、部屋から出て行かせた。
恨んでやるのサー、と叫ぶマルクを無視してドアを閉める。
0155Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 03:26:53.45ID:il2YLHOs
「……どういうことか聞かせてもらおうか?」
「先程言った通りです。彼の記憶を見せてもらっていた。ただそれだけですよ」
「……副作用はないんだろうな」
「先程のやりとりを見てもらえれば分かるでしょう? 安心して下さい。彼には何も危害を加えていませんよ。記憶の改竄もしていません」
一瞬迷うが、すぐにセフェランを信じることにした。
この男は決して嘘をつかない。それは今までの付き合いからもわかる。
「記憶を見せてもらったと言ったが、何故今更そんなことを?」
「今だからです。ようやく八意永琳の術が解けたところですからね」
「術?」
質問と同時にボスは察する。彼女の急変は、おそらくその術が破れたことを察知したのだろう。
「八意永琳は、私がマルクを使って情報を得ようとすることを予測していました。だからそれに対する防衛策を講じていた。協力者に対して保険をかけていたということです」
マルクはその境遇からか監視組と仲が良い。それを利用して永琳は情報を集めていただろう。
そして、イザナミの目を盗むためにも二人が別行動を取るという作戦はそれなりに迷彩になったはずで、実際によく行われていた。
しかしそうなれば、当然マルクというアキレス健ができてしまう。
記憶を読まれる。
ただそれだけで永琳は圧倒的に不利になる。自分一人なら問題はないが、マルクにはそれに対抗する力がない。だからこそ保険を掛けていたのだ。
万が一にも記憶を読まれないように。
「しかし結局、それも無意味だったわけですが」
「……やはり何かやらかしていたか」
「やらかすどころの話じゃありません」
ゲーム機の存在は決して無視できるものではない。
参加者を助けられるだけのアイテムが殺し合い会場にある。それはセフェラン達にとって由々しき事態なのだ。
「俺もそのあたりを詳しく聞きたい。一体どうなっている。何故嬢ちゃんは俺達を敵だと認識しているんだ?」
イザナミはこの空間から出られない。いわば籠に買われた鳥。そんな彼が協力者として永琳を呼んだ。
が、“永琳にはここから出られなくするような制限はかけていない”。
何故なら、そもそも自分がこの場所から出られなくなることを提案したのは、イザナミ本人なのだから。
「円卓の神々はあまりに力の差があり過ぎる。だから制限を掛けよう。そう言いだしたのは、確かイザナミでしたね」
イザナミの持つ力を女神がある程度封印する。そうすることで女神の力も弱まり、円卓内の力を拮抗させる。それでようやく円卓は成立するのだ。均等な力を持った神達の集まりとして。
「イザナミはあまりに強過ぎた。だからこそそれを危惧するゼロに対し、力の制限と、ここから出られなくなることを提案した」
イザナミの役割は殺し合いの現場作りと監修。要するに、計画の全てを彼一人が仕切っている。
それは一番割に合わない役割ではあったが、それも仕方がないことなのだ。
そもそも彼の目的は、自分が世界を創ることではなく、“他の神が創った世界を観察すること”なのだから。
0157Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 04:10:14.48ID:il2YLHOs
「イザナミは円卓の中でも浮いた存在でした。他の神によって作られた世界。それを、自分の世界を維持する上での参考にしたい。それが彼の言い分でしたから」
「そうだ。奴にとって、俺達の願いを叶えることが自分の願いを叶えることだった。だからこそ、自分にとってマイナスになるような提案も進んで呑んだ」
「それが私達の知る真実。しかし、八意永琳には歪んだ情報が手渡されていた」
「なに?」
ボスが思わず顔をしかめて、セフェランを見つめる。
「その内の一つが、“自分も神達に囚われている身なのだ”という嘘」
「おい! それは一体どういうことだ!!」
身を乗り出してセフェランに詰め寄る。しかし、セフェランはいつも通り澄ましている。
「そのままの意味ですよ」
その冷静な口調に、ボスも平静を取り戻そうとセフェランから背を向ける。
葉巻を取り出し、それを口にくわえる。
煙を一気に吸い、そして吐く。
それだけで、だいぶ気分は落ち着いた。
「しかし……それはあまりにおかしいぞ。そもそも嬢ちゃんを呼んだのはイザナミの指示だ。それは嬢ちゃんがイザナミの手下だからだろう?」
イザナミは計画の準備も中盤辺りに差しかかった頃、八意永琳の力を借りたいと言ってきた。イザナミ自身は明言しなかったが、その言葉に誰もが彼女とイザナミは通じていると考えていた。
「私達は全員そう思っていました。しかし真実は違う。イザナミは彼女を脅していたんです。しかも、自分はあくまで“対主催”だと偽って」
蓬莱山輝夜を人質にされれば、八意永琳は必ず言う事を聞く。そしてその人質が、イザナミ以外の神によって連れて来られたのだと知れば、当然永琳は彼らに敵対心を抱く。
「自分は被害者面で、嬢ちゃんを操ってたってわけか……!」
「そうしてイザナミは、彼女に殺し合い会場を作らせた。本当はお姫様の命など、誰も関心を示していないのに」
イザナミでさえ、あの人質達に手を出すことは許されていない。円卓の神達からすれば、彼らは貴重な参加者候補である。不手際で連れて来られたからといって、今後絶対に不必要になるとは限らない。
そして、そもそも円卓の神達には参加者の生命などに興味はない。殺す意味も、生かす意味もないのだ。自分の世界以外のことなどどうでもいいと考えている。
だから八意永琳は、いつでも輝夜を連れて逃げることができた。
「だが、一体どうやってお姫様を連れて来たんだ? あいつはここに閉じ込められている。お姫様を連れて来ることなんてできない。だからこそ嬢ちゃんもそれを信用した」
「……つい数時間前の事件。もうお忘れですか?」
その言葉に、ビッグボスも勘付いた。
「おいまさか……!」
「自分に力を与えてくれた者が、ちょっとした頼み事をする。その者が不当な扱いを受けていることに不満を持っている者なら、さしたる手間もかからないことに首を横に振る訳がない」
「ゼムスか! あいつを使って人質を!!」
ミュウツーとゼムス。厳密に言えば、彼らは神と呼ばれる存在ではない。今はただ、その力をイザナミに与えられているだけだ。
日本の神には分霊という性質がある。自らの力、その神威を衰えることなく無限に増やすことができるというものである。
実は、ミュウツーとゼムスの身体にも、分霊によってその神威を分け与えられていた。要するに、彼らの身体にはイザナミの神霊が宿っているのだ。
魂振りという、魂の活力を上げる儀式を行うことで、その肉体の持つ外来魂、つまりはその力を底上げしている。
「おそらくは、その意図を何も伝えずに、あくまでゼムス本人の意思で動いてもらったのでしょう。
ここから動けない身で、話し相手の一人も欲しいと言えば、イザナミに恩のあるゼムスは気を利かせて連れて来てくれる。やり方次第では、その話し相手を蓬莱山輝夜一人に限定することは容易い」
0158Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 04:12:13.19ID:il2YLHOs
ゼムスは月の民である。月の民で、蒼き星に住む人間達を皆殺しにしようとした悪人である。しかし、彼には彼なりの正義があった。
彼は月の民を愛していた。月の民であることにプライドを持っていた。
蒼き星の文明が月の民の文明に届いていない。だから届くまでの間眠っていよう。そんなことが月の民の間で話し合われた時、最初にゼムスの心に宿ったのは確かに不満だ。しかし、月の民の存続を危惧したのも確かなのだ。
蒼き星が月の民と同じ文明を持った時、こちらの移住を彼らが許可してくれるだろうか。そんな疑問がゼムスにはあった。
文明に開きがある今なら、たとえ反逆行為を受けても楽に対処できる。しかし、その技術が月の民と変わらない頃になれば。その無視できない技術を持った蒼き星の人間達が、こちらの存在を脅威に思い刃を向けてきたら。
月の民の損害は計り知れないものになる。それは彼にとって苦痛以外の何物でもなかった。

そもそも彼にとっての力とは、月の民としての力なのだ。個の力ではなく、あくまで月の民の力を誇示していた。それほどに彼は月の民を愛し、その住人であることを誇りに思っていた。
長きに渡る眠りは、月の民の進化を妨げるものである。それは肯定できない。月の民に被害が及ぶ可能性があるのなら尚更だ。

今は無知で、しかし今後脅威となりかねない蒼き星の住人を、ゼムスが良いように解釈することは不可能だった。
ゼムスは頭が良い。現実主義者だ。
だからこそ、彼の決断は蒼き星の人間達を滅ぼすこととなった。
確かにその行為は乱暴そのもの。彼がしてきたことも、決して善とはいえない。
彼は悪人だ。それは変わらない。
だがしかし、彼は極悪人ではない。
恩ある者に対し、それを平気で踏みにじるような者ではないのだ。
「なら、他の人質二人は……」
「囮でしょうね。良い具合に迷彩になっていると思いますよ。神達は参加者のプロフィールまで詳細に調べようとしない。
調べても、誰と誰が知人だとか、その程度でしょう。そういった観点からみればあの三人は、今回の参加者との関係などから言ってもまったく同列の者達です」
ゴールドとローザ。彼らを連れて来るのも簡単だ。輝夜とはまた別に、それと示唆する言動をゼムスの前で言ってやればいい。
「ただ一つ。嬢ちゃんへの影響を除けば、か。あの中に嬢ちゃんの知り合いが一人くらいまぎれても、そしてそれに気付いたとしても、誰も気に止める者はいない」
人質達が破格の待遇だということも迷彩になっただろう。たとえ輝夜と永琳が家族同然の仲だと知られても、単純に新たな世界の住人として永琳が連れて来たのだと考えるのがオチだ。
ここにいる者達は全員が何らかの役割を担わされている。その中で何の役割もない者が出歩くのは感心できない。
そのために体裁として牢屋に入ってもらい、世界が構築されるまで大人しくしていてもらう。どこにも矛盾はない。
八意永琳は円卓に座る権利があった。それを知る者達からすれば、蓬莱山輝夜の存在は、どうしても永琳が主体的に動いた結果だとしか思えないのだ。
事実、セフェランもビッグボスもそう信じ込んでいた。
「イザナミは予定通りお姫様を手中に納めた。しかし、それを知られるのは少々厄介。まずないとはいえ、ゼムスがイザナミの意向に沿う為に人質を連れて来たと誰かに言う可能性もある。だからこそあの離反があった」
「死人に口なしってわけか」
ボスが吐き捨てるように言った。
「八意永琳にはゼムスが邪魔だったから排除したと説明したようですが、そもそも彼を呼んだのはイザナミです。危険思想を持っているというのなら、最初から呼ばなければ良い話。
なのに招き寄せたということは、何らかの利用価値があったということです。何も行動を起こしていない段階で、イザナミがゼムスを排除するわけがない」
0159Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 04:12:44.96ID:il2YLHOs
今回の事件で不服そうにしていたのは女神アスタルテのみだ。確かにイザナミはゼムスの反乱を伝えることが遅れたかもしれない。しかし、彼のフォックスダイがなければ、まず間違いなくゼムスには逃げられていた。
ゼムスはイザナミの力によって既に神となっている。しかし、神を倒せるのは神、というわけではない。神の加護を受けたヒト。もしくは、ヒトの創りだした文明だけである。
そして文明とは、要するに人の作り出した武器である。
女神アスタルテは、神の加護を受けた武器でないと傷をつけることはできない。そしてそれはゼムスも同じなのだ。
彼の耐久力は凄まじいものがある。そうなれば、自然人間の武器で殺すには時間が掛かる。そのための時間稼ぎに、どうしてもフォックスダイのような身体の動きを鈍らせるものが必要だった。
ゼムスの離反に勘付いた直後にそれを他の神達に伝えたのでは早計も早計。まさに愚行とも呼べる行為。
しかしその点、イザナミの行動は称賛に値する。ゼムスを泳がせ、フォックスダイをうまく注射し、足止めのための準備をしてからゼムスの離反に備えさせる。
まさに非の打ちどころのない完璧な対処法だ。だからこそ、頭の固いアスタルテだけがイザナミに怒りを覚え、他の者達は逆に褒め称えたのだ。
セフェランでさえもそれは同じで、だからこそアスタルテに対してイザナミに不備はなかったと懸命に説得し、どうにかその態度を改めさせたのだ。
結局、それもイザナミの仕組んだことだったのだとたった今判明したのだが。
「これで万が一にもイザナミの企みはばれない。しかも、その行為のどれもが自分の株を上げるもの。ふざけてやがるな」
怒りを放出するかのように、ボスは葉巻の煙を吐いた。
「本当は人質としての価値などない蓬莱山輝夜を、イザナミはまんまと人質として利用した。八意永琳からすれば、イザナミは自分と同じ境遇の、ある意味では味方。実際に力を封じられているイザナミの言葉を、おそらく彼女は半分以上信じたでしょう」
月の頭脳とまで言われる永琳だ。イザナミに何らかの枷が施されているのなら、それを見破るのは容易い。
彼女からすれば、それは円卓にも一種のヒエラルキーが存在することの証。そしてそうなれば、その一番下位に位置するのはどう考えてもイザナミ以外にいないのだ。
「しかし、そんな回りくどいことをする必要があったのか? イザナミが計画を進めるのに必要な人材だと言えば、お姫様は人質として活用されたはずだ」
ボスの疑問はもっともだ。
永琳に嘘をつき、神達を騙す必要はイザナミにはない。ただ一言、輝夜を人質として連れて来て欲しいと言えば、それで済む話しなのだ。
「実はあるんですよ。自分を対主催だと偽り、架空の人質を利用して彼女を使う理由が」
ボスは少しだけ考えてみる。が、まったく思いつかなかった。
「イザナミは、八意永琳に参加者を助けて欲しかったんです」
「なっ!?」
ボスは思わず絶句した。
それはイザナミの言っていた目的と相反するもので、自分達の目的と正面から対立するものだった。
「そう考えれば辻褄があいます。イザナミはその役割上、八意永琳と共に行動しなければならないことが多かった。八意永琳からすれば、もしもイザナミがお姫様を人質にとる憎き敵だとしたら絶対に反抗できない。しかし」
「同じ境遇の味方なら別。参加者を援助しても、見逃してもらえるってわけか!」
殺し合いの監修という貧乏くじを引いたのも、イザナミの策略の内だった。敢えてそれを引くために、自分が不利になる条件を次々と呑んでいったのだ。
力の制限。ここから出られないという足枷。それらは、疑い深いゼロの目をも欺いた。
今回の計画を一番よく知るイザナミは、殺し合いの監修に一番向いている者だ。
外に出られないというのなら、下手なことをしても数に任せて返り討ちにできる。そうゼロが考えるのは自然なこと。
しかし、そう考えさせることこそイザナミの目的だった。
もしかしたら、能力の拮抗を主張したゼロの思惑さえ、イザナミの策略の一つだったのかもしれない。
ボスは、思わずぞっとした。
0160Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 04:14:28.07ID:il2YLHOs
「八意永琳の視点で見れば、イザナミは自分と完全に敵対するようなことはしないはず。何故なら、彼女の持つ情報から考えられるイザナミは、自分と同じ境遇なのです。そんな者が唯一の味方を敵に回す必要性など皆無。
たとえイザナミの目的が世界創世だとしても、自分を縛る神を倒すことを優先するはずだと八意永琳は考えた。
だからこそ、殺し合い会場から脱出するためのアイテムを参加者へ支給することができた。たとえばれてもほとんどノーリスク。八意永琳からすれば、神達を倒す最高の手というわけです」
実際、永琳は多くのアイテムを参加者に支給している。
ipad、マスターボール、ゲーム機。
そのアイテムの多さは、やりすぎと言っても過言ではない。しかし永琳からすれば、それはばれてもリスクの少ないもの。敵の敵はいるに越したことはない。そうイザナミが考えると見越していたのだから。
しかしイザナミの考えは違った。そのように永琳が考えること、それ自体がイザナミの思惑だった。
参加者にアイテムを支給する必要性を感じ、それを八意永琳にさせるだけの環境を作った。
もしもそれがばれたとしても、糾弾されるのは永琳。何故ならイザナミは、実際に何も行動を起こしていないのだ。
そんなことしているとは思わなかった。そう言うだけでいい。物的証拠が挙がらない以上、誰も彼を糾弾できない。
彼の非といえば、反乱分子を連れて来てしまったということくらいだろう。しかしそれも、彼女にしかできない仕事があったと言えば、誰も強く責めることはできない。
「……しかし、それならイザナミの目的は何だ? 俺達に世界を創らせることが目的じゃないのなら、何故こんな手の込んだ計画を?」
「……わかりません。全ての情報を集めれば、イザナミの目的が別にあることを指している。しかし、その指し示す方向はひどく曖昧です。先程私は、参加者を助けるのがイザナミの目的だと言いました。しかし、彼はそれを妨害している節もあるのです」
「妨害?」
「脱出のキーとなるアイテムの効果。それを発揮する条件をわざと厳しいものにしているのです。それに、そのアイテム自体を入手困難な方向へと持って行ったりしている。おかげで参加者はかなりの人数が死ぬことになりました」
「じゃあそれが目的というわけじゃないんだろ」
「では、一体何が目的なのでしょうか」
その言葉に、ビッグボスは押し黙った。
「八意永琳は、イザナミのことをこう評していました。自分にとって、唯一の敵だと」
それは永琳の立場からすれば有り得ない言葉。何故ならそれはイザナミ以外の敵を軽視する発言で、自分と同じ立場にあり、力を制限されて利害も一致している神に対して言う言葉ではない。
「彼女には、イザナミの目的だけがまったく分からなかったのです。だからこそ、彼女はイザナミをそう評価し、決して心を許そうとはしなかった。
私達は目的を知り得て初めてその者の行動を予測することができる。ゴールが見えて、初めてそのラインが見えてくるのです」
「しかし、イザナミにはそれがない……」
セフェランは頷いた。
「彼は確かに力を制限されている。鳥籠の中にいる。しかしその実、情報戦という観点で、イザナミはここにいる全員を圧倒しているのです」
ボスは思わずうなった。これは確かに無視できないものだ。
イザナミはどうにかして排除しなければならない。
「さて。これで今の状況はだいたい理解できたでしょう。その上で、あなたに聞いておきたいことがあります」
セフェランはビッグボスと向き合う。
今まで以上の真摯な瞳でボスを見つめ、口を開いた。
「あなたはこの情報を知り、どう動きますか?」
0161Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 04:15:13.96ID:il2YLHOs


◇◇◇
【殺し合い会場】

「で? 放送が終わったらどうするの?」
永琳からの情報を共有し終わると、咲夜が瀬多に聞いた。
ちなみに、自分が重要人物であると明言されたことは黙っていた。その可能性は低いと思ったこともあるし、何より下手な情報を教えて彼らの判断力を鈍らせたくなかった。
もしも瀬多が重要人物だという話を聞けば、皆瀬多を守ろうとする。もしかしたら、自分の命よりも瀬多を重要視するかもしれない。それは絶対にしてはいけないことだと、瀬多は感じたのだ。
それにこれから提案することを考えても、その情報は妨げにしかならない。
「……二つのグループに別れよう」
それは、イゴールとの接触を今まで以上に重要視したが故の結論だった。
全員が眉をひそめる。当然だ。瀬多自身、この提案が裏をみる可能性が高いことを否定できない。
これは一種の賭けなのだ。
「一応、理由を聞いておこうか」
極めて冷静に、漆黒は言った。
「六人という人数は確かに心強いし牽制にもなるだろう。しかし、混戦になればあまりにも弱過ぎる」
たった一人がチームをかき乱すだけで、こちらはおいそれと動けなくなる。敵にとって六人も固まった的は攻撃を当てるに苦労しないだろうが、こちらは違う。
仲間に攻撃が当たらないように常に注意しておかなければならない。その心の隙は、ここ一番という場面で必ず不利になる。
「二手に別れれば戦力は分散されるが、その分機動力が上がる。そうなれば、探索だって効率的に行える」
瀬多は名簿を取り出し、全員に見えるように広げた。
「現段階で確認できている敵はかなり多い。その中でも実力者はかなりの人数だ。しかし同時に、殺し合いに乗っていない可能性の高い者もいる。東風谷早苗、雷電、花村陽介の三人だ。彼らとは早く合流したい」
時間が空けば空くほど、彼らが殺される可能性は高くなる。それは戦力になるだとか、そういう理屈抜きの考えだった。
「彼らが合流していると考えるのはあまりにも楽観的だし、支給品によって戦力増強が成されていると考えるのは論外だ。だからこそ、殺し合いに否定的なグループの中でも最大戦力と言ってもいい俺達が動く必要がある。
この殺し合いでもトップクラスの実力を持つ二人、レミリアと漆黒を中心にグループを編成し、仲間を早急に見つけて合流する。ベストとは言わないが、ベターではある」
「……少し私情が入っている気がする。花村陽介はお前の友人だったよな」
確かにレミリアの言う通りかもしれない。考えないようにはしていたが、無自覚に花村が生き残る確率の高い方法を選んでいるのかも。
だから、瀬多は敢えてそれを否定しなかった。
「そうだ。たぶん私情は入っている。だから反対したい者は遠慮なく反対してくれ」
本来ならば、私情が入っていようがいまいが、そんなことはどうでもいい話だ。たとえ私情が入っていたとしても、瀬多の言っていることは理に適っている。
作戦というからには、絶対の正解は存在しない。どんな作戦を選ぼうと、メリットデメリットは存在するのだ。
しかしそう言わないのは、自分が曲がりなりにもリーダーという役割を負っているから。皆の命運を預かる身としては、理屈だけでは動けない。
その作戦に命を張れる。そう言わせるだけの納得を皆にはさせなければならない。それは理屈とはまた違うものだ。
0162Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 04:20:52.43ID:il2YLHOs
「わ、私は……それでもいいと思います……けど……」
瀬多を擁護するためか、アドレーヌが言った。語尾が小さく、自信がなさげなのは、戦力にならない自分が口を出す問題ではないと考えているからだろう。
千枝は無論、瀬多と同じ考えだ。レミリアも指摘こそしたが、どう転ぼうとさしたる興味はないらしく、あらぬ方向を見つめてぼーっとしている。
「……私情が入っていることについては、私は何も言わない」
意外にも、咲夜はそう言った。
「けど、それ抜きに考えてもリスクの高い作戦ね。混戦に弱いと言っても、場所を考えて歩けば問題はないでしょ?」
「二手に別れたい理由の一つには、クリスタルを早急に回収したいっていうのもあるんだ。……いや、それが最大の目的と言ってもいいかもしれない。
俺の勝手な思い付きなんだが、クリスタルはできるだけ早く、確実に回収しなければいけない気がする。根拠はかなり薄いんだが……」
「それでもいい。話してくれないか? 我々には聞く権利があると思うが」
漆黒に促され、瀬多は自分の考えを話した。イザナミとイゴールが決して協力関係を持っているわけではないということ。そして、もしかしたらイゴールが参加者側に協力的かもしれないことを。
「俺の勘でしかないが、クリスタルはおそらく最重要アイテムだ。それこそ、永琳の用意した脱出アイテムよりも重要なものかもしれない」
「よく言い切るな。お前がそう思う理由はなんだ?」
「イゴールの言っていた真実だよ。たぶんこれは、イザナミの目的に少なからず関係することだと思う」
イザナミの目的。それがわからず、永琳はかなり苦しんでいるようだった。
「永琳はイザナミとアスタルテ以外にも三人の神がいると言っていた。だが、その主催者達もイザナミの目的を把握してはいないんじゃないかと思うんだ。そしてもしそうだとするなら、全てが怪しくなってくる。
さっき俺が自信満々に喋っていた仮説。あれも全て、ブラフかもしれない。主催者達が勝手にそう思わされているだけで、実際は全然別の目的があるんじゃないか。
そう考え出すと、何もできなくなる。どう動けば奴の目的から外れるのか。それが分からないということは、結局ここから抜け出しても結果は同じなんだ。ただ奴の目的のために動かされ、死ぬだけだ」
「だが、真実を教えると言っているのはイザナミの手先だろう?」
「……実は、俺もよくわからない」
イゴールはイザナミの部下だとは一度も言わなかった。イザナミもそうだ。彼らの関係がどういうものか。それは瀬多にもわからなかった。
「イザナミの手先。そう考えた方が色々と納得がいく。だが、俺は少し違うと思う。イゴールは、マヨナカテレビの時も俺を手助けしていた。そして今回も、俺に味方をすると言っていた」
「だから手先ではないと? 少し楽観的過ぎないか?」
そう。楽観的だ。
先程助っ人を信用しない方がいいと言っていた自分が、その助っ人以上に不確定要素の多いイゴールを信じたいと思っている。
……いや。もしかしたら、あの場にいなかった彼女を信じたいと思っているのかもしれない。いつもベルベットルームにいて、困難な頼み事をしてきた彼女。
どれほどの発言権があるのかはわからないが、もしも彼女が進言してくれていたなら……。
瀬多が反論しようと口を開く。が、それを漆黒が手で制した。
「止めよう。この話はどこまでいっても水掛け論だ。今はそんなことを言い合っている時じゃない。
瀬多もわかっているだろうが、イゴールが味方だということを実証する証拠は何一つないんだ。それこそ、クリスタルを見つけ、イゴールから話を聞き出すまでは」
漆黒の騎士の言う通りだ。
しかしだからこそ、クリスタルは探す必要がある。瀬多の仮説が間違っているかどうか。それを判断する一つの材料になることは確かなのだから。
だが、瀬多はそう言わなかった。
そもそも、彼女が動いてくれているという考え自体が希望的観測でしかないことに気付いたのだ。
0163Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 04:21:33.92ID:il2YLHOs
「漆黒の言う通りだな。悪い。少し熱くなってた。今は二手に別れるべきかどうかだけを考えよう。千枝とアドレーヌは賛成してくれているようだが、他の三人はどうだ?」
「……まぁ事実がどうあれ、イザナミを出し抜くためにはどうしてもクリスタルが必要。そう瀬多が考えるのなら、二手に分かれるという作戦も、私は別に異論ないぞ」
「お嬢様がそう言うなら私も認める」
レミリアが承諾し、咲夜も了承した。あとは漆黒だけだ。
「……本来なら、この作戦は拒否するところだ。この殺し合いという異常な環境の中で、戦力を二分するのは自殺行為に等しい」
漆黒は瀬多を見つめ、薄く微笑む。
「しかしそれ以上に、私は瀬多に敬意を表したくなった。だから、その敬意の証として君の作戦に乗ろう」
瀬多以外の全員が、漆黒の言葉の意味を計りかねて首を傾げる。
だが瀬多にはわかった。漆黒はこう言いたいのだ。
自分と仲間を天秤にかけ、自分が重要人物である可能性について言及しなかった。そのことに敬意を表する、と。

イゴールが瀬多にだけ接触してきた。それだけで瀬多総司という人物の重要性はかなり高い。
それに、永琳は咲夜という知人がいると知っていながらも終始瀬多と会話していた。リーダーであるからと言えばそれまでだが、ああいう場合は普通知人同士で会話するべきところだ。その方が話もスムーズに進む。
なのにわざわざ瀬多と会話していた。そこから、永琳も瀬多を重要視しているところがあると推測したのだろう。そして、永琳がそう考えているのなら、そのことを瀬多に伝えないはずがない。
だから漆黒はこう推理した。瀬多は、自分が重要人物だと言われながらも、それを黙っていたと。

本来この情報を伝えることは決して卑怯なことではない。むしろ、正確な情報を伝えなかった瀬多の判断に非があるともいえる。が、それでも、確証のない情報で皆を撹乱させることを避けた瀬多の決断を、漆黒は評価してくれたのだろう。
(……まったく。大した将軍じゃないか)
どうして自分がリーダーなんてやっているのか不思議なくらい、この男は将として、人の上に立つ者として、非常に優れた人間だ。
「じゃあ二つのグループに分けるぞ。主軸はレミリアと漆黒。一グループ三人編成だ。どちらのグループに入るかは個人で決めてくれ」
瀬多の言葉を受け、全員が動きだした。
0164Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 04:22:18.52ID:il2YLHOs


◇◇◇
【??? 監視部屋】

ボスは、しばらくじっと動かずにいたが、やがて小さくなった葉巻を捨てた。
新しいものを取り出し、口にくわえる。煙を吐き出し、ゆっくりと口を開いた。
「どうするとは?」
「これだけの情報を得て、あなたはどう対処すべきだと思うか。それを聞きたいのです」
ボスは黙って葉巻をくわえる。
「イザナミの目的は確かにわかりませんが、その目的の足掛かりとして参加者を我々と同じ土俵に立たせる必要があった。自分は安全圏にいたままそれを成し遂げる。そのために八意永琳を呼び、彼女を動かしてまんまと罪を着せた。おそらくはそれが彼女の役割だったのでしょう」
「……だとしたら、こんなふざけた話もない。人質を取られ、必死に今の状況を打破しようとして、結局はそれが全て自分の首を締めているとは」
「八意永琳の持つ情報は、全てイザナミを経由しなければならなかった。だからこそ彼女は、イザナミをある程度信用し、またある程度疑わなければならなかった。
彼女が唯一信じることができたのは、円卓の神達の目的が世界創世であったことと、ここにお姫様がいること。つまり、人質を取られているということだけです。様々な仮説をたてることはできても、全ては憶測。それでも、最悪を想定して動く必要があった」
全てを信じれるほどイザナミは信用における者じゃない。かといって、疑ってばかりもいられない。疑い出せば全てが疑わしいのだ。
結局永琳が信じれるものは、不確かでも存在する理のみだ。
「イザナミはともかく、他の神達は絶対に信用できない。参加者達を殺し合わせるような連中が、まさか人質の殺害に躊躇するなど彼女は思わない。ましてお姫様の存在、自分の存在が神達にとってどうでもいいものだなどと、そんな楽観的な考え方はできない」
永琳にとって、神の行動は未知数だ。だからこそ、用のなくなった自分達がどのように処理されるのか、その一点に関しては最悪を想定しなければならない。
殺すことに躊躇しない者達なら、協力者の殺害というのは一番リスクの少ない対処方法なのだから。

神は殺人に忌避感を覚えない。だからこそ永琳は従順であるべきで、しかし反旗を翻す下準備も進めなければならなかった。
「神達が不仲だということも、八意永琳からすれば決して自分で判断できるものではないのです。何故なら、それを知る程に彼女は他の神達と面識がない。
漠然とそれを感じ取っていたとしても、それを想定して動くにはあまりにリスクが高過ぎる。彼女は、彼女の意思に関係なく、イザナミの言葉があって初めて動くことができるのです」
神と下手な接触を取るのは、永琳からすれば一番避けたい行為だ。
神は傲慢で気まぐれ。それはつまり、必ずしも利害で行動するわけではないということだ。
少し自分のことを気に入らないと思えば、即座に人質を殺すくらいのことをしてきてもおかしくない。
自分と相手に圧倒的な立場の差があると誤認している永琳にとって、どんなことで輝夜を殺されるかまったくわからないのだ。
0165Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 04:24:32.05ID:il2YLHOs

ビッグボスもセフェランも、それぞれの神に通じている。セフェランは言うまでもなくアスタルテの意思に従っているし、ビッグボスもゼロの理想の世界のために協力している。
ビッグボスとゼロは不仲だ。互いに互いをまるきり信用していない。しかし、ゼロが自ら犯した愚を再び犯そうと考えるとはビッグボスも思っていない。そう確信できるくらいには、ビッグボスはゼロの人柄を理解していた。

要するに、彼女が信用できる者は、神と通じていないと確信できるマルクただ一人だけだったのだ。
「……正直、私ならこんな環境耐えられませんね。自分よりも大切な者を人質にとられ、情報のほとんどがただ一人の者からしか与えられない。それがどれほど不安なものか。頭の良い者であればあるほど、底なしの恐怖に襲われ続ける。
情報を得ようと思えば、ただ一人の者に頼るしかない。それはつまり、裏を取る術がないということで、その者が敵ならば自分は思うように動かされるしかない。
……そんな地獄のような環境の中、よくあれだけ平静でいられたものです。その精神には、私も感服します」
聞けば聞くほど、永琳はイザナミに絡め取られている。誰かを助けようという願いさえも、イザナミによって操られている。
ビッグボスは、血が出るかと思うほどに手を握りしめた。
「彼女はもはや放ってはおけません。殺し合いを妨害する以上、彼女はこちらで排除しなければいけない」
思わず、ビッグボスはセフェランを睨みつけた。
「ふざけるな! そんな不条理な話があるか! それに、お前の言ったことはイザナミの目的に加担することになる。それだけはあってはならない!」
イザナミの目的が何かはわからない。しかしこちらにその意図を隠す以上、確実に自分達にとってデメリットの生じる目的なのだ。
「わざわざ彼女を消す必要はない。事実を伝えれば、それで済む話だ」
「私達を敵だと認識している彼女が、それを信じると思いますか? 考えてもみてください。今までの人生で最悪の窮地を迎えていた。それが実は何でもなかったなんて、逆に誰も考えられません。それが長寿で、しかも人並み外れた知能を持つ者なら尚更」
「……俺は認めない」
「ボス! 今はそんなことを言っている場合ではありません! 我々の真の敵はイザナミです。それを忘れては──」
「忘れているのはお前だ、セフェラン。仲間は多い方がいい。彼女をこちらに引き入れる」
「下手なことをすればこちらの優位が崩れかねません! 我々がここまで情報を掴んでいることを、イザナミは知らないんですよ!
もしも八意永琳が裏切れば、もしくはイザナミに勘付かれたら、それでまた振り出しに戻ってしまう。思い出して下さい! あなたは、大義のためにこの殺し合いを終わらせなければならないのですよ!」
殺し合いの完遂。それが世界創世の要。
ザ・ボスの考える理想の世界を創る、これが最後のチャンス。そんなことは、ビッグボスにだってわかっている。
だが、ボスの脳裏にちらついて仕方がないのだ。先程の、嘆願する永琳の必死な姿が。
「……俺は、時代や世界のために戦っていた。それこそ政府や誰かの道具のようにな。間違いも多く犯した。何人もの罪なき人を死に追いやった。今思えば、正義も何もないただの殺戮だ。だけどな。……俺はいつも、自分の意思で戦ってきた」
何が正しいのか。そんなことは、今のボスにはどうでもよかった。
自分の意思。自分が何をしたいと思うか。それに従うことが、ボスにとっての正義だった。
0166Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 04:25:13.25ID:il2YLHOs
扉へとボスは駆ける。
慌ててセフェランが杖を構えるが、一発の銃声とともにそれは空を切り、地面へと転がる。セフェランが持つ杖を、ボスが銃弾を当てて弾いたのだ。
「俺は悪の元凶だ。諸悪の根源だ。それは今も同じで、だから罵倒されても何をされても、俺は何とも思わない。
だが俺の意思だけは、誰にも否定させない。誰にも邪魔はさせない。俺は自分の意思で戦う。ただそれだけだ。……処罰なら、あとできっちり受けてやる。悪いな、セフェラン」
それだけ言うと、ビッグボスは扉から出て行った。
セフェランはため息をついた。
まったく厄介な相棒を持ったものだと嘆きながら。しかし、だからこそセフェランは薄く笑った。
彼は自分に似ている。人の悪意を許容できず、世界に流されることを許容できず、自分の意思だけを頼りにここまでかなぐり進んできた。ただただ純粋であったがために、人に、世界に毒され、苦しんできた。
そんな彼だからこそ、セフェランは絶対の信頼を寄せているのだ。だからこそ、自分はこの真実をボスに話したのだ。
自分もビッグボスと同じだ。自分も、自分の意思に従う。
セフェランは、できるだけ遅い所作で杖を拾うと、女神の所へとリワープで移動した。
0167Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 05:03:48.53ID:il2YLHOs


◇◇◇
【殺し合い会場 D-4】

二手に別れる。その主軸が漆黒とレミリアである以上、二人がメンバーを選ぶのが常套手段ともいえる。
が、レミリアも漆黒も、それはしなかった。あくまで成り行きに任せ、自分達は口を挟まずにいた。
漆黒自身はそうすべきだと思ったわけではない。レミリアが何も言わずに黙っているから、自分もそれに合わせているだけだ。
彼女が静観している以上、こちらがみっともない真似をすることはできない。
(……仕方ないか)
漆黒は咲夜の騎士である。全員を守り抜くと誓いはしたが、やはり咲夜はこの中でも一番大切な存在だ。
しかし、咲夜はレミリアの従者だ。自分が何も言わなければ、咲夜はレミリアのチームに入るだろう。自分の剣の届かぬ場所に行ってしまうだろう。
仕方ないとわかってはいても、やはりそれは辛いものがあった。
「お嬢様。申し訳ありませんが、私は漆黒のチームに入ります」
そう考えていた漆黒だったからこそ、その言葉には心の底から驚いた。
「ああ、そうか。まぁ、死ぬなよ」
レミリアもそのことに対し、まったく引き止める素振りがないことにまた驚いた。
まるでそうなることを予期していたように、まったく動じている様子がなかった。
「……何をそんなに驚いてるのよ」
「あ、いや。……てっきり、レミリアと共に行くのかと思って」
咲夜はそれを聞き、盛大にため息をついた。
「そうしたいのは山々だけど、あなたを仲間に引き入れたのは私だからね。下手なことされても困るし、まぁ監視くらいしとかないと」
監視。そのままの意味でとれば、自分のことをまったく信用していないともとれる単語だ。
しかし、その意味がそれだけじゃないことくらいは、付き合いの浅い漆黒でも理解できた。
「それに、おそらくお嬢様は瀬多と組むでしょうから。それじゃあ一番面倒を見なきゃいけない奴を見れないでしょ?」
「面倒?」
どっちにしようかと迷っている千枝の襟首を咲夜はむんずと掴んだ。
「いたた! ちょっと咲夜!! 何すんのよ!!」
「あんたはこっち」
「勝手に決めんな!」
「周りをうろちょろされるのも迷惑だけど、自分の目で見てないと逆に不安になるから」
「私は子犬か!」
じたばたと暴れる千枝を無視して、咲夜は瀬多と向き合った。
「というわけで、いい? 瀬多」
「ああ。俺もこれが一番ベストな分け方だと思う」
瀬多の了承を得て、編成は決まった。
瀬多、レミリア、アドレーヌチームと、咲夜、漆黒、千枝チーム。
戦力、知力、お互いの信頼度。
それらを総合的に見ても、最適なチーム編成であることは間違いない。
0168Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 05:04:49.31ID:il2YLHOs

「俺達の目的は仲間との早期合流。及び八意永琳が残したipadとクリスタルの回収だ。クリスタルの隠されている施設は、閑古島村、豪華客船マッハ、テトラ研究所。
咲夜達は村を経由。俺達は豪華客船を経由して、クリスタルを回収する。そうして最終的には発電所で合流する。それで問題ないな?」
全員が頷く。誰も反論する者はない。
これが、ここから脱出するベストの方法だと誰もが信じている。
「漆黒、千枝。二人とも、咲夜の言う事をちゃんと聞くように」
「……は? なによそれ」
瀬多の意図を汲みかねて、思わず咲夜が聞き返した。
「そっちのリーダーは咲夜だ」
「はあ!? 嫌よ私! 漆黒がやればいいでしょ」
「漆黒は最前線で戦うことになる。戦闘では漆黒の指示に従うのもアリだが、最終的な判断は他の人間がした方がいい」
瀬多の言葉に、漆黒も同意見だとばかりに頷いた。
指揮も漆黒頼り。戦闘も漆黒頼りとなれば、万が一漆黒が倒れた時の混乱が大きくなる。こと殺し合いにおいて、個の重要性はできるだけ分散した方がいい。そう考えての判断だった。
それにこの編成なら、咲夜が一番二人のことを理解している。リーダーという役回り上、仲間の人間性を理解しているかいないかというのは非常に重要なことなのだ。
それに、咲夜の冷静さと判断力はリーダーとなっても申し分ないもの。
このチームのリーダーに、咲夜以上の適任は他にいないのである。
「それなら千……わかったわよ。やればいいんでしょ」
「おいこら。なんで言いかけて止めた」
喧嘩に発展しそうな二人を置いて、瀬多は全員に声をかける。
「そういうわけだ。放送が終わり次第行動を開始する。各自それまでに色々と準備しておいてくれ」
0169Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 05:06:18.38ID:il2YLHOs


◇◇◇
【??? 廊下】

ビッグボスは走った。息切れも気にせず、一人の女性を求めて走った。
「永琳!! どこだ! どこにいる!!」
誰に気付かれてもいい。とにかく下手な事をする前に彼女を見つける必要があった。
思い出すのは、ザ・ボスを撃ったあの時。死ななくてもいい人間を殺した、あの時。
自分の息子、ソリッド・スネークなら、ザ・ボスを殺さずに済む方法を見つけていた気がすると、ビッグボスは思っていた。しかし、そのスネークも死んだ。
……いや違う。世界の礎となったのだ。他の参加者も同じ。その魂は転生し、新たな世界で生き続ける。そうボスは信じている。だからこそ、こんな腐った計画に手を貸している。
かといって、自分がしていることを正当化するつもりもない。自分は極悪人だ。その認識を変えるつもりはない。
(だがそれでも。死ななくていい人間が死ぬのは、もう御免だ!)
廊下の角を曲がった時、ようやく永琳の姿を見つけた。
しかしその時には既に、彼女は一つの決意を済ませていた。そしてそれは、手に持った弓を見れば誰もがわかるものだった。
咄嗟にビッグボスは銃を構えた。
「永琳!! 馬鹿な真似は止めろ!!」
永琳は、こちらを見ようともしない。
「今お前がやろうとしていることは無意味だ!! 全て仕組まれたことだった!! だからそれを収めろ!!」
数秒の沈黙の末、永琳は口を開いた。
「世界は、いつだって不条理ね。何もかも思い通りにいかない。それでも私達は幸せだった。……それを、奴らが壊したのよ」
そこにあるのは確かな憎悪。しかし、その憎悪は永琳のものではない。イザナミによって植え付けられた偽物の憎悪。
「ああそうだ。世界はいつだって不条理だ。俺達は、いつもそれに振り回されて生きてる。それは変えることができない」
「ええそうよ。変えることができないの。なのにあなた達は、そんな当たり前のことすら壊そうとしてる。それを壊すために、私達が犠牲になってる。……もううんざりだわ。何もかも、もううんざり」
矢を手に取り、弦を引く。
狙っているのはビッグボスではない。その矢はゼロの部屋、その扉を狙い澄ましている。
円卓の神達に召集命令が下ったのだ。すぐにこの部屋からゼロが出て来る。
ボスはセイフティを外し、改めて永琳に照準をつける。
「この銃は女神の加護を受けている。たとえアンタでも、当たり所によっては死ぬかもしれない。弓から手を離せ。今ならまだ間に合う……!」
永琳は、その言葉を聞いてせせら笑った。
「間に合う? 一体何に間に合うって言うの? 既にサイは投げられた。私達の破滅というサイが。私にできるのは、それをどうにか最小にすることだけ。
情報を吟味するためなのかは知らないけれど、私にはそれをするだけの時間をもらった。だから、その時間にできることをする。それだけよ」
0170Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 05:06:54.70ID:il2YLHOs

────ボスは二人もいらない。蛇は一人でいい────

生涯決して消えることのない言葉が、ボスの脳裏に蘇る。それを振り切るかのように、ボスは叫んだ。
「止めろ!! 俺は……お前を撃ちたくない」
「だったら撃たなければいい。そんな覚悟で撃鉄を引かないでちょうだい。……私は違う。私は死ぬ覚悟で……全てを捨てる覚悟で、この一撃を放つ」
ガチャリ。
そんな音と共に、扉が開き、ゼロの姿が現れた。
瞬間、永琳の右手がその弦から離れた。

ダアン!!

一発の銃声が鳴り響く。
少ししてから、ドサリと音をたてて永琳は倒れ込んだ。
慌ててボスは駆け寄った。ちらりとゼロを一瞥する。彼に怪我はない。
だが永琳は? 神の奇跡が授けられた銃だ。いくら不老不死の身体とはいえ、どれほどのダメージを与えるのかボスにはわからない。
「どうして……、死なせてくれないの……」
永琳は生きていた。
右肩を撃ち抜かれ、痛々しいほどに血を流してはいたものの、どうにか意識はあるようだ。
「喋るな! 今傷口を塞ぐ」
「死なせて。……私を死なせて。お願いだから……」
ボスの腕を掴みながら、永琳は涙さえ滲ませて懇願した。
「……死なせない。これ以上、世界のための犠牲者は必要ない」
啜り泣く声を無視して、治療を再開する。
だがしかし、それはすぐに中止となった。
「イザナミ……」
いつの間にか、そこにはイザナミがいた。
何も言わず、ただじっと倒れ伏している永琳を見つめていた。
文句を言ってやろうと口を開くが、結局何も言えなかった。
当然だ。セフェランに言われたことを忘れたわけではない。
マルクの記憶をセフェランが読んだことをイザナミは知らないのだ。それは情報戦において、ようやくイザナミより優位に立てたということである。その優位を壊すことがどういうことか、分からないボスではない。
「……何でこんな勝手なことしたんだよ」
その言葉に、カッと頭に血が昇る。
思わずイザナミに食ってかかろうとする。が、いつの間にか永琳を抱きかかえていたイザナミに、ビッグボスは何もできなかった。
「今回のことは、完全に俺の監督不行き届きだ。悪かったね、二人とも」
その白々しい態度に、ボスは歯ぎしりした。
「……ジョン。私を……助けてくれたのか?」
「俺をその名で呼ぶな!!」
思わず怒鳴る。
その時には既に、イザナミの姿はなかった。
結局自分がしたことは何だ? 彼女に対して何をしてやれた?
そんな負の想いに捉われる。自分の意思が選んだ結果は、永琳を苦しめるだけに終わった。
ビッグボスはよろめきながらも、ゼロに背を向けたままその場から去ろうと足を動かした。
「……ありがとう」
その言葉に、一瞬だけ足を止める。が、すぐにビッグボスはその場を後にした。
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2011/04/05(火) 05:08:17.53ID:il2YLHOs


◇◇◇
【殺し合い会場】

「ちょっといい?」
瀬多が道具を整理していると、ふいに咲夜が呼びかけた。
「どうかしたか?」
「あなたとは、まだちゃんと話をしてなかったと思ってね」
隣に腰掛ける。
その姿は和服ではなくメイド服だ。ずっとバックに入れていたものがようやく乾いてきたらしい。
千枝にはコスプレ女と馬鹿にされていたが。
「千枝とは仲が良いのか?」
「どこをどう見たらそう思えるのか聞きたいくらいだわ」
この短時間で何度殺してやろうと思ったか、と、若干洒落にならないことを口にする。
「雰囲気、かな。千枝も、咲夜には本音でものが言えるみたいだ。彼女にしては珍しく、他人に甘えてる」
「想像しただけで寒気がするわね」
「……千枝は正義感が強い。そのせいで時々突っ走ってしまうこともある。だが、咲夜が見ていてくれるなら安心だ」
咲夜はため息をついた。
「ほんっと。何であんなお荷物を引き入れてしまったのかしら。今でも謎だわ」
心底迷惑そうな顔をする咲夜に、瀬多は思わず苦笑する。
「千枝はあれで、戦闘になったら驚くほど頼りになるぞ。勢いに乗っていたら、『どーん!』の一言で強敵を一撃の元に吹き飛ばすんだ。初めて見た時は唖然としたよ。皆で必死にダメージを蓄積していたのが嘘のような光景だった」
咲夜の脳裏に、千枝が蹴り一つで敵を星にしている様が浮かんだ。
「……それはまた。なんともシュールな光景ね」
「扱い次第では、かなり化ける逸材だと思う」
そう言って瀬多は笑う。
つられて、咲夜も微笑んだ。
「初めて見た」
「何が?」
「笑顔だよ。そうやってもっと笑ってた方が魅力的だと思う」
「あなたってスケコマシね」
間髪いれずにそう言われた。
「い、いや。俺は本当のことを言っただけで……」
「元の世界ではそうやって六股とかかけてたんだろうなぁ。ああ、まるで見えるようだわ。言い訳は断り切れなかったから。クズの常套句ね。女の敵だわ」
「待て待て! 事実として話を進めるな! 俺は一言も肯定してないぞ!!」
そんなやりとりで一頻り瀬多を弄り倒してから、咲夜は本題を切り出した。
「お嬢様をお願いね。今はまぁ安心だけど、時々カリスマブレイクする方だから」
「……カリスマブレイク?」
「肉体は精神を表すっていうでしょ? 要はそれよ。時々、肉体に精神が異様に反応しちゃうのよねぇ」
怪獣ごっこをしたがったりとか、と咲夜は呟く。
一瞬だけその様子を想像する。
……瀬多は聞かなかったことにした。
「まあでも、あなたの前じゃカッコつけたいみたいだから、そんな変な真似はしないと思うけど」
「何でも知ってるんだな。レミリアのこと」
「なんだかんだで付き合いも長いしね」
自分の知らないレミリアを、咲夜は知っている。
ふいに、それが知りたくなった。
「もう少し、レミリアの話を聞かせてもらっていいか?」
「もちろん」
薄く微笑んで、咲夜は言った。
0172Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 05:09:15.10ID:il2YLHOs


「あの……」
遠慮がちに、千枝はレミリアに声をかけた。
「ん? ああ、瀬多の女か」
「ち、違う違う! ただの友達!!」
「ああ。噂のセフレってやつか」
「だから違うっつーのに!」
千枝はため息をついた。
「まったく。瀬多君が随分ご執心だったからどんな人かと思えば」
「ご執心? それは瀬多が言ってたのか?」
「これでもまあまあ付き合い長いからさ。瀬多君の様子を見ればわかるよ」
「ほ、ほー。そうかそうか。ま、まぁ下僕なら主をそう思うのは当然だが」
照れ隠しにもなってないぞ。というツッコミはさすがに無粋なような気がして止めておいた。
「……あのさ。その瀬多君のことなんだけど」
「瀬多がどうかしたか?」
「うん。瀬多君を、お願いね。ここに来て色々あったみたいだし。瀬多君って、弱音とか吐かないからさ。仲間に頼るってことを知らないわけじゃないんだけど、ちょっと心配で」
自分が言うなって感じだけどね、と言って千枝が苦笑する。
「またそれか」
「え?」
「本当に人間は背負いたがりだな。アドレーヌも瀬多も、お前も」
「…………」
「自分の目から離れる人間も背負うつもりか? 分をわきまえろ」
面倒くさそうに、レミリアはそう言った。
「……さっきの訂正。瀬多君、やっぱ見る目あるわ」
千枝は、レミリアの隣に座り込んだ。
「私は、雪子の死を背負うって決めたんだ。それを背負うからには、もう誰も死なせないって、そう決めた」
レミリアは何も言わなかった。
「これは覚悟だ。力も、何もない私だけど、自分にできることを精一杯やるための覚悟なんだ。私は瀬多君を死なせたくない。他の皆だって死なせたくない。その気持ちは、ずっと大切にしないといけないって。そう思うんだ。
たとえどんだけ荷が重くてもさ、頑張って抱えてたら、案外運べるもんかもしれないじゃん?」
死んだ人にできるのは、生きている自分を見せることだけ。立派に、その人の分まで生きている。そう胸を張って言ってみせることだけ。
そのためなら、千枝は何だって背負う覚悟だった。仲間全員の命。自分の命。それら全てを背負って、抱えて、それでも前に進む覚悟だった。
その覚悟がある限り、雪子の死は無駄じゃない。雪子と築いた絆は、雪子が死んでもずっと生き続ける。そう千枝は思っていた。
「……瀬多はまだまだ半人前だ。言われなくとも、ちゃんと見ててやるさ」
「そっか。あんがと。……なんだかんだで、あんたって優しいんだね」
「おいおい。私は悪魔だぞ。その言葉から一番遠く離れたところにいるのがこの私だ」
「わーそうなんだー。すごいすごい」
誰が聞いてもわかるくらいに棒読みだった。
「む。お前信じてないな? よし。なら私の悪魔伝を聞かせてやろうじゃないか」
そう言って、荒唐無稽ともいえるような嘘とも本当とも言えない話をレミリアは語り出した。
0173Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 05:10:56.62ID:il2YLHOs


漆黒は、愛剣を手に持ち軽く振るう。
痛みはかなり引いたようだ。さすがに同じ技を繰り出すことは無理だが、それでも通常通りに剣を扱うことはできそうである。
試しに素振りをしていると、視界の隅にトコトコと歩いて来る者が見えた。アドレーヌだ。
「腕はもう大丈夫なんですか?」
それに気付いて素振りを止めた漆黒に、アドレーヌは話しかけた。
「そうだな。完璧とまでは言わないが、普通に剣を振るう分には支障はなさそうだ」
スキルによる回復も相まって、漆黒の治癒能力は高い。アシュナードほどではないが、それでも常人を遥かに超えるものがある。
「私に何か用か?」
「あ、はい。……えっと」
言いにくそうに、アドレーヌは言い淀む。
「私は、今まで自分と主君のためにしか剣を振るってこなかった。しかし、今は違う。私は、ここにいる仲間のために、全力で自分の力を使うつもりだ。全員を守り切る心積もりだ。無論、君も」
アドレーヌは自分の仲間だと、漆黒は強く言い切った。それを聞いて、少しだけ微笑む。
「……それじゃあ。もう一人、お願いしてもいいですか?」
アドレーヌはそう言うと、自分のバックから上海人形を取り出した。
「シャンハイ!」
元気よく、上海人形は声をあげる。
「これは?」
「上海人形です。瀬多さんがサカキさん対策に、って」
サカキと出会ったならば、極力戦いは避けるようにと言われてある。しかし、それにはこちらの有用性を証明しなくてはならない。神楽に関する考察は、瀬多にしかできないものだ。
だからこちらのグループには、それに変わる切り札が必要だと考えたのだろう。
「上海は、サカキさんの悪行を知っています。直接現場を見たこの子がいれば、何かと便利じゃないかと瀬多さんが」
まさかサカキの周りの人間が、全員霊夢のように妄信状態であるとは思えない。たとえ手駒がいるとしても、それはきっと騙されてのことだろう。
サカキは上海人形が生きている事を知らない。なら、上海人形に対する対策は何も取っていないはずなのだ。
純真無垢で、参加者ですらない人形が懸命に話しかければ、騙されている人がいても思い直してくれるかもしれない。
「しかし、いいのか? それは君と離ればなれになるということだろう?」
漆黒の言葉に、上海人形は心配そうにアドレーヌを見つめた。
「……はい。いいんです」
アドレーヌは、上海人形に向き合った。
「ごめんね。勝手に決めちゃって。でも、私も少し、一人で考えてみたいんだ。強いってどういうことなのか。幽香さんが言っていた強さって、何なのか」
上海人形がアドレーヌを自分と同じだと感じていたように、アドレーヌも上海人形に対しそう感じていた。
だからアドレーヌにとって、自分と同じである上海人形の慰めは誰よりも励ましになった。しかしだからこそ、それを手放さなければならないとアドレーヌは思った。それを手放してこそ、強さの意味がわかる。そんな気がしたのだ。
上海人形は少しだけ迷った素振りを見せたが、すぐに
「シャンハイ!!」
と威勢よく返事をした。
「次に会う時は、二人とも強くなって会おう。力はなくても、誰にも負けない強さを持った人になろう」
こくこくと強く頷く上海人形を見て、アドレーヌは微笑んだ。
「じゃあ漆黒さん。どうかこの子を、よろしくお願いします」
「心得た。この剣に賭けて、上海人形は私が守ろう」
強い決意と共に、漆黒は上海人形を受け取った。
0174Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 05:14:11.74ID:il2YLHOs


◇◇◇
【??? 監視部屋】

「どうなりましたか?」
監視部屋へと戻ったボスに、開口一番セフェランはそう聞いた。
「……お前が行動を起こす必要もなかった。あいつは……自滅した」
ボスは、事のあらましをセフェランに説明した。
「……そうですか。彼女らしからぬ短絡的な行動ですが、そこまで追い詰められていたということでしょうね」
「女神は何と?」
沈んだ声は隠せない。しかしそれでも、ボスは聞いた。
「許せないと。何らかの罰を与えねばならないと仰っていました」
「だが彼女は、イザナミを出し抜く上で重要な──」
「女神はそんなことに頓着しません。会場に無断で介入した。このことにだけ重きを置く。そういう方です」
思わず、ボスは壁に拳を叩きつけた。
「もっと柔軟な発想はできないのか! あの女神は!!」
「それは無理でしょう。そもそも、誰かが自分を出し抜くなどと考える方ではありません」
「これだから神という奴は……」
そうやってボスが愚痴っていると、突然マルクが飛び込んできた。
「ボス!! 大変なのサ!! えーりんが……。えーりんが!!」
今までにないくらいに焦燥し切っている。
だが、ボスにできることは何もなかった。
「お願いなのサ。ボスの力で助けてあげて欲しいのサ! えーりんは何も悪くない。えーりんは、ただお姫様と一緒に、平和に暮らしたかっただけなのサ! お願いボス!!」
自分に懇願してきた永琳とマルクの姿が重なって見えた。
が、それを無理やり振り払う。
「……俺の権限じゃ、無理だ」
奇しくも、あの時の永琳に対して言ったものと同じ言葉を、マルクに伝えた。
「あのゼロって人にお願いしたらいいのサ!! ボスの言う事なら聞くだろうってえーりんが言ってたのサ!!」
ゼロ。円卓の神の一人であり、女神と同等の権限を持つ者。
確かに、今の永琳をどうにかできるのはゼロくらいだ。しかし
「マルク。……もう無理なんだ」
ゼロの目的は世界創世だ。殺し合いを完遂させることが目的だ。それを妨害しようとした永琳を、彼が助ける理由はない。
マルクが泣いている。セフェランも、何ともない振りをしているが、本心では苦虫を噛んでいる。そしてボスも……
「この悲劇は、誰も望んじゃいないものだったはずだ」
そう。一人以外は。
イザナミ。あの飄々とした神。力を制限され、ここから移動することもままならない、格下の神。しかしだからこそ、誰よりも恐ろしく、誰よりも考えを読むのが難しい。
0175Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 05:15:23.88ID:il2YLHOs
「……セフェラン。俺のことを女神には?」
「言うわけがありません。あなたは私が唯一信頼する人間ですから。先程のお礼は……そうですね。ツチノコ三本で手を打ちましょう」
ボスは苦笑し、「それは少し高過ぎる」と呟いた。
今はセフェランの気遣いに、素直に感謝したい。泣きじゃくるマルクの頭を撫でてやりながら、ボスはそう思った。
「イザナミの目的は未だわからないまま。ですが私達は、どうにかして彼の先手を取らないといけません。……いえ。“彼女の”、でしたね」
セフェランの言おうとしていることを分かりかねて、思わずボスはセフェランを見つめた。
「私達の目的は殺し合いの完遂。ならば、参加者には殺し合ってもらえばいい。役割も何も関係なく、ただ殺し合ってもらえば」
「殺し合いに介入するってのか? だがそれは、円卓にとってはご法度だろ」
「許可をもらえばいいのです。どうせ不測の事態は起きてしまっている。それに対応するのは至極当然の行動です。イザナミが担わせた役割も全て関係なく、参加者は殺し合う。それで私達の願いは叶います」
早速、セフェランは準備をし始めた。それにボスは反論するつもりはない。する気にもなれない。
ボスの頭にあるのは、今自分達がしていることは本当に正しいことなのか、ということだけだった。
(ザ・ボス。あんたの願う世界っていうのは……こんなものだったのか?)
それは、誰も答えてはくれない生涯の命題。何かを犠牲にして何かを得る。それが間違っているのかいないのか。それは誰にもわからないことなのだ。
0176Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 05:16:21.62ID:il2YLHOs


◇◇◇
【殺し合い会場】

「アドレーヌ。そこにいたのか」
瀬多の声に、幽香とカービィの墓の前で座っていたアドレーヌはこちらを振り向いた。
「どうかしました?」
「いや。支給品の分配が終わったから、その報告をと思って。とりあえず、これはアドレーヌが持っていてくれ」
そう言って、瀬多はモンスターボールをアドレーヌに手渡した。ピカチュウの入っている、貴重な戦力だ。
「……いいんですか? また私、とんでもないことをしちゃうかも」
「アドレーヌ!」
思わず瀬多は叫んだ。
「あれは事故だ。君は精一杯やった。結果だけを見ちゃ駄目だ」
アドレーヌは、小さく頷いた。
ボールを軽く投げる。
音をたてて、中からピカチュウが現れた。
「ごめんね。私のせいで、お友達を……」
どこか沈痛な面持ちなピカチュウ。しかし、ぴょんとアドレーヌの肩に飛び乗り、頬を擦り寄せた。
「ピカ!!」
何と言っているのかはわからない。だが、とても力強い声だった。
「きっと、アドレーヌを慰めたいんじゃないか?」
アドレーヌはピカチュウを見つめた。
微笑んでみせるピカチュウのその姿に、自分にはない強さが見えた。
「人の命を背負うっていうのは、自分を責めることじゃない。これは重みじゃないんだ」
「重みじゃ……ない?」
「ああ。人は弱いから、何かを背負わなければ生きていけない。そうアドレーヌは言ったけど、俺は少し違うと思う。本当に強い奴は、何かを背負っている奴なんだ」
瀬多は、ぽんとアドレーヌの頭に手を乗せた。
「ここから先の答えは、自分で見つけないとな」
「自分で……」
「そうだ。人によって信じるものが違うように、強さの意味も人によって違う。俺に教えてあげられるのは、俺の思う強さだ。アドレーヌの思うものじゃない。それは、自分で見つけないと意味がない」
「そう……ですね。うん。私が見つけないといけないですよね」
何かを決心したように、アドレーヌは強く頷いた。
「あの、瀬多さん。メダリオンなんですけど、私が持っていてもいいですか? たぶん、あれに触れても大丈夫なのは私だけでしょうし」
強さの意味。それはまだアドレーヌにはわからない。
だが、それでも今できることをしよう。きっとそれが、強さを知る道なのだと信じて。
「ああ。俺も無論そのつもりだ。誰にも触れられないように保管しておいてくれ」
「はい。じゃああの、渡してくれませんか?」
「? アドレーヌが持っているんじゃないのか?」
「私が持ってたんですけど、なくなってるみたいでしたので。瀬多さんが持ちだしたのかなって思ってたんですけど」
瀬多は、どうにも嫌な予感がした。
「……よく確認したか? 本当に入っていなかった?」
「は、はい」
ただならぬ気配に、アドレーヌも若干緊張しながら答えた。
0177Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 06:03:12.93ID:il2YLHOs

瀬多は全員を呼び出し、メダリオンの所在を知る者がいないか尋ねたが、全員が首を振った。
「おいどういうことだ? 誰かが隠してるとかじゃないだろうな。もうああいうのは御免だぞ」
毒物事件のことを言っているのだろう。
瀬多は、アドレーヌを見つめて聞いた。
「俺達が眠っている間、取り乱したりはしなかったか? 自分を必要以上に責めたりとか、そういうことは?」
「た、たぶん……なかったと思いますけど」
だとしたら、この事態は何だ? 何故メダリオンが見つからない。
あの騒動の中なら誰でもメダリオンを回収することはできただろうが、そんなことを誰が……。
「……おいおい。まさか、そんなことは……」
「何か心当たりがあるの?」
永琳は言っていた。イザナミはメダリオンのことを容認していたと。それはつまり、メダリオンが脱出に関する重要アイテムだということを知っていたことになる。
イザナミは毒物事件を引き起こし、メダリオンによって幽香を暴走させた。永琳の言うところの試練として。
だが、それがイザナミにとって、未だ試練となり得ていなかったとしたら。
「……くそ。それしか考えられないか」
「ちょっと瀬多君。わかるように説明してよ」
「メダリオンを持ち去られたんだ。おそらく、イザナミの息のかかった者に」
「……本当か?」
にわかには信じられない話だ。殺し合いの参加者の中に、まさか主催者と通じている人間いるなんて。
「それしか考えられない。……まずいことになった。会場内にイザナミと通じている奴がいたとすると、俺と永琳の会話を聞かれていたということになる。ipadの存在がばれた」
「ちょ、ちょっと! それって相当やばいんじゃないの!?」
「ああ。非常に厄介だ。……皆。悪いが放送を待っている時間はなくなった。早速出発しよう。今は一分でも時間が惜しい。放送はチームに別れて、移動しながら聞く。それでいいか?」
全員が素早く頷き、出発する準備を始めた。
最終チェックを済ませ、お互いのチーム同士で固まる。
時計を見ると、あと五分程で放送が始まるようだった。だが、放送で得られる情報は全員で聞かなければならないようなものではない。

この六人が再び揃うのは当分先の話になる。もしかしたら、六人が揃うのはこれが最後かもしれない。
それでも、全員が笑顔だった。
皆で生きて帰る。そんな強い決意が、全員の心にはあった。
「千枝。あまり飛ばし過ぎるなよ」
「わかってる。ちゃんと仲間にも頼るって。……瀬多君も、無茶はしないでね」
「ああ」
パン、と互いに手を合わせる。
言外に、絶対に死なないようにと言い含ませて。
0178Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 06:04:26.33ID:il2YLHOs
「お嬢様。あまり我儘ばかり言って瀬多を困らせてはいけませんよ。私と違ってヤワですから、無理をさせて倒れられたら大変です」
「わかってるわかってる。適度に、な」
「ええ。適度に。倒れるぎりぎりまでこき使うのが主の務めです。下僕を殺さず、どこまで搾り尽くせるかが、主君の器を決めるのですよ」
「心得ておくよ」
そう言って、レミリアと咲夜は拳を突き合わせた。
「……なんだか物騒な会話が聞こえるんだが」
「あ、あはは。いくら咲夜でも冗談だよ冗談。……たぶん」
冗談のように聞こえないのが彼女達の怖いところだ。
「何が冗談なんだ? まぁ、私もそこまで無理を言うつもりはない。こいつもいるしな」
そう言って、ぽんとアドレーヌの頭に手を置いた。
「え? あ、あの……どういうことでしょう」
「ん? お前も一緒に来るんだろう? だったら、お前も私の部下だ。瀬多同様にちゃんと面倒みてやるよ」
それは、レミリアが初めてアドレーヌを認める言葉だった。
アドレーヌはしばらくぽかんとしていたが、やがて満面の笑みで頷いた。
「はい。ありがとうございます!」

「うし。じゃあ最後、全員で締めるよ! えーっと……じゃあ漆黒さん! テンション上がるやつお願いね」
「わ、私か? あまりこういったことをする機会がなかったから、どうすればいいのか……」
「こういうのはノリでいいの。ほら、漆黒さんなりのでいいから」
「わ、わかった。では僭越ながら」
ごほんと空咳をすると、漆黒は仰々しく剣を掲げた。
「我らの心を一本の剣とし──」
「長そうだから止めとこうか。じゃあレミリア!」
漆黒の騎士は若干項垂れているようだった。ショックだったのだろうか。
「貴様ら全員私に忠誠を誓い、その血を捧げることを──」
「なんか魂取られそうだから却下。じゃあ咲夜!」
「みんなベストを尽くして、神とかいうふざけた輩を潰しましょう。……死ななかったら」
「いいんだけどさー。最後の一文が不吉過ぎる」
「あの、千枝さんが締めればいいのでは?」
このままでは時間が掛かりそうだと感じ、見かねたアドレーヌが言った。
「え、私!? だってー、なんかこういうのって恥ずかしくない?」
「じゃあやらなければいいんじゃないか?」
「それはダメ! こういうノリは大事なんだから。……しゃあないなー。じゃあみんないくよ!」
恥ずかしいと言っておきながら、妙にやる気満々な様子で、千枝は腕を上げた。
「せーの! うおーやってやるぜーー!!」
「……え? 今の合わせるところ?」
「いや。それはさすがに無理だろ」
「だーもう! やっぱグダグダじゃんか!」
「というわけで、全員また無事に合流しよう。世界創世だか何だか知らないが、俺達が奴らの為に死んでやる義理なんてない。人間の力を神とやらに教えてやろう」
「「「「おー!!」」」」
綺麗に全員がハモッた。
「おい! 普通に締めんな! 私の苦労は一体なんだったんだ!!」
千枝の文句を軽く流し、瀬多チームと咲夜チームは、それぞれの目的地へ向けて出発した。
再び、全員が出会えることを祈って。
0179Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 06:50:43.40ID:il2YLHOs

【D-4 一日目 昼】

【瀬多チーム】
共通方針:豪華客船にあるクリスタルを回収し、テトラ発電所で咲夜チームと合流する。

【瀬多総司@ペルソナ4】
[状態]疲労(中) あばら骨折 SP消費(小)、全身打撲
[装備] エクスカリバー@ファイナルファンタジー4
[道具]基本支給品一式 攻略本 銃の弾(残り15発)、不明支給品0~1 、携帯電話、携帯型ゲーム機、マスターボール、レッドの帽子、M1911A1(6/7)@メタルギアソリッド
[思考]基本方針:レミリアを手伝いながら、仲間と合流し殺し合いを脱出する
1. イゴールを見つけ出し真実を問いただす。
2. 死んでいった者のためにも、誇りをもって生きる
3. イザナミは絶対に許さない
※イゴールと『血の契約』を交わしました。瀬多は「イゴールを探索する」という目的を最優先しなければなりません。なお、瀬多が死ねば契約を知る者に契約権が譲渡されます。誰になるかはランダムです

【レミリア・スカーレット@東方project】
[状態]疲労(中) 魔力(中) 額に酷い裂傷 全身打撲(全て回復中)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式
[思考]基本方針:主催者を倒し、どちらが支配者かを思い知らせる
1. 手下を作って脱出する。邪魔立てする奴は殺す
2. これ以上部下は殺させない
3, ゴルベーザを嫌悪
※時間さえかければ傷は治癒しますが、休息を取らなければ疲労感は回復しません
※弾幕を撃つのに溜めが必要。威力も制限されています

【アドレーヌ@星のカービィ】
[状態]疲労(小)、深い悲しみと強い罪悪感、 腹に打撲
[装備]ピカチュウのモンスターボール@ポケモンシリーズ
[道具]基本支給品一式、アドレーヌの絵描き道具一式
[思考]基本方針:ゲームには乗らない。できれば人も殺したくない
1. 自分にとっての強さを知る
2. もう人が死ぬのは見たくない

【ピカチュウ】
[状態]疲労(中)、全身打撲、PP消費(中)
[思考]
1, 自分にできることをする
2, レッドに会いたい
※レッドのピカチュウです。覚えてる技は「かみなり」「十万ボルト」「ボルテッカー」とあと一つです
※レッドと同じ時期につれてこられてます
0180Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 06:51:38.27ID:il2YLHOs


【咲夜チーム 閑古島村経由ルート】
共通方針:閑古島村にあるクリスタルを回収し、テトラ発電所で瀬多チームと合流する

【十六夜咲夜@東方project】
[状態]疲労(中)、胸骨にヒビ、鼻の骨の陥没(治療済み、衝撃を与えるとまた陥没する恐れあり)、腹部に痣、顔に痣、全身打撲
[装備]虹の剣@星のカービィ
[道具]支給品一式(食糧はなし)、凹んだ防弾チョッキ、釘打ち機、銀の大剣@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡、不明支給品1~2
[思考・状況]基本方針;ピエロを倒して異変解決。油断はしない。幻想郷の常識は捨てる。
1, リーダー、嫌だなぁ……
3. 漆黒の騎士に共感。自分の幸せのために生きて欲しい

【漆黒の騎士@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡】
[状態]:疲労(中)、両腕に腫れ、額に大きな裂傷、頬骨あばら骨折、全身打撲、全身裂傷(全てスキルで治癒中)
[装備]:神剣エタルド 神剣ラグネル
[道具]:基本支給品一式 、上海人形
[思考]
基本方針:咲夜の騎士として彼女を守りながら自分自身を認めた生き方をする
1:仲間のために自分の力の全てを使う。
2:アシュナードは打ち倒す
※参戦時期はナドゥス城の戦い後です。

【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:疲労(中)、SP消費(小)、腹部に痣、全身打撲
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、万能薬×2@ファイナルファンタジー4、キラーボウ(13/15)
[思考]
基本方針:この事件を解決する
1, 雪子のような人を出さないために戦う
※真ENDルート、イザナミと出会う前からの参戦です。
※ペルソナはトモエです。

【上海人形】
[状態]背中に大きな裂傷 (かなり荒い治療済み。汚い布と汚い糸でこれでもかと汚く縫われている。)
[思考]
1:強くなって、またアドレーヌと合流する
2:霊夢を助ける
※サカキと霊夢の会話は全て聞いていました。
※羽が無い為、空を飛べません。
0181Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 06:53:48.61ID:il2YLHOs


◇◇◇
【??? 牢獄】

ゴールドはつい十分程前、突然牢屋から出された。
以前に牢屋へとやって来た男と、マルクの二人によってだ。
どうしたのかと聞いても、身体検査だとしか答えなかった。マルクに自分の推理のことを話そうかとも考えたが、眼帯をした男が敵か味方か判断がつかなかったので止めておいた。
途中、いやずっと、何者かに殺意さえ感じる視線で睨まれているような気がしたが、結局それが誰だったのかは分からなかった。
しばらく歩かされ、髪の長い男の前で座らされると、杖を掲げられ、何かを入念に調べられた。奥の方でじっとこちらを見つめる女性がいたが、その底冷えする視線が恐ろしく、ずっと目を反らしていた。

結局、彼らが探しているようなものは何も見つからなかったようで、すぐに牢屋へと帰されることとなった。ゴールドは、自分よりも先に連れられて行った二人が気になり、彼女達の安否を聞いたが、誰もその質問に答える者はいなかった。
牢屋へと戻り、今回のことが何かを調べるためだということまでは考え至ったのだが、その先はどうにもわからなかった。一体何を調べていたのだろうか。まさか自分の身体に爆弾でも仕込まれていたとでも考えているのだろうか。
ゴールドは、そんなことを思いながらどこか不安な気持ちを抑えられないまま、二人を待っていた。
しばらくすると、部屋へと入って来る者がいた。ローザか輝夜だろうと思って覗いたが、そこに二人の姿はなかった。
代わりに、銀の髪をした美しい女性がいた。彼女は肩を怪我しているらしく、眼帯の男に支えられてこの牢屋へと入れられた。
「少年」
突然その男に呼ばれ、思わず身構える。
「彼女が苦しんでいるようだったら、すぐに呼んでくれ。少し叫べば気付く所にいる」
それだけ言って、男は出て行った。
……もしかしたら、彼もマルク同様、良い人なのかもしれない。
「……う…く……」
苦悶の表情を浮かべる彼女を慌ててゴールドは介抱した。
巻かれた包帯からは痛々しく血が滲んでいる。
とりあえず横にして、毛布をかけてやると、幾分かマシになったのか、呻き声は聞こえなくなった。
「大丈夫? 僕はゴールド。何か用があればいつでも言って」
優しく声をかけるも、彼女は口を開こうともしない。喋れない程に衰弱しているわけではなさそうだが。
しかし、こういった場合はそっとしておくに限ると思い、それ以上は何も言わなかった。
「シルバー……」
突然、彼女の口から自分のライバルの名前が出た。思わず彼女の方を見つめる。
しかし彼女は、こちらを見ようともしなかった。
「シルバーが、どうかしたの? いや、それ以前に、どうして君はシルバーを知って────」
「死んだわ」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
0182Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 06:54:56.79ID:il2YLHOs
「ここの同居人、ローザっていう女性がいるのよね。彼女が愛するセシルと友人であるカイン。この二人は殺し合いに乗っている。そして、リディアという子はもう死んだ。カインに殺された」
「ちょ、ちょっと待って!! それ、どういうこと!?」
冗談とは思えない。嘘とも思えない。
こんなところで、冗談も嘘も言うメリットなんてない。
「他にもあるわよ。ジムリーダーであるタケシ、四天王であるキョウが死んだ。そして、レッドが殺し合いに乗った。タケシの死は、ほとんどレッドによるものよ」
信じ難い事実がどんどん顕わになっていく。確かに自分は、情報が欲しかった。ここから抜け出すために、どうにかして外の情報が欲しかった。それが思いがけず得られたわけだが、その事実がこれほどまでに重いものだとは思ってもみなかった。
(シルバーが死んだ? ぶっきらぼうで我が強くて、でもポケモンに対する愛情は人一倍強いあいつが? それにレッド。シロガネ山で切磋琢磨したあの人が、殺し合いに乗っているだって? あれほど心躍ったポケモンバトルはなかった。そう感じさせてくれたあの人が?)
ほとんど混乱に近い状態のゴールドに、永琳はしがみついた。
「姫が、いたでしょ。蓬莱山輝夜という。私が知る情報ならいくらでもあげる。だから、姫に会わせて」
「ま、待って。僕だって知らないんだ」
ようやく、それだけ返事することができた。だが、永琳はその言葉が聞こえていないようだった。
ゴールドの身体を揺すり、懇願を繰り返していた。
「お願い。お願いだから、姫と話を────」
突然、扉が開いた。
そこから入って来たのは輝夜でもローザでもない。イザナミだった。
「暗い顔してるね〜」
いつもの軽口もどことなく重い。
永琳はゴールドから離れ、壁にもたれかかった。牢屋の外からイザナミが声をかけても、永琳は俯いた顔を上げることはなかった。
「……理由、聞いてもいいかな?」
「あなたに言う必要はないわ」
ゴールドそっちのけで話し始める二人。しかし、彼らに割って入るほどの勇気をゴールドは持っていなかった。
それだけ、二人の間に流れる空気は重く暗いものだった。
「冷たいねぇ。……ま、いいけどさ」
イザナミは小さくため息をついた。
「君がどう思おうと勝手だけど、俺は君と敵対するつもりはなかった。できるだけ穏便に済ませたいと思ってた。だから内密に処理してたんだ。けど君は……」
「本当に、過小評価だったのかしら……」
ぼそりと呟く永琳。話の筋を完全に無視した言葉に、ゴールドは首を傾げた。
イザナミはじっと永琳を見つめるが、それ以上彼女の口から言葉が漏れることはなかった。
「……そうだ。おみやげがあるんだった。うん。とっておきのものだよ。少なくとも、そうして放心することはなくなると思うな」
そう言って、袋をがさごそと漁る。
そして、イザナミはそのおみやげを牢屋の前に置いた。
それを視認し、ゴールドは我が目を疑った。途端、胃の中にあったものが逆流する。慌てて口を押さえ、何とかそれを止めた。
「君がずぅっと会いたかった人との再会だよ。野暮な真似はしない。俺はさっさと消えるよ」
そう言うと、イザナミはすぐにその部屋を去って行った。まるで、逃げるように。
永琳はゆっくりと顔を上げた。
そこには美しい黒髪を靡かせた、蓬莱山輝夜の首があった。
絶叫が牢屋の中を木霊した。
0184Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 08:00:37.94ID:il2YLHOs


◇◇◇
【??? 円卓】

「……随分と勝手なことをしてくれたもんだね」
円卓会議。その椅子にどかりと座ってイザナミが言った。
「それはおぬしの方だろう。あれだけのことをされておいて、何の処罰もしないなどと」
「その処罰がお姫様の処刑ってわけ? まったくふざけた話だよ」
永琳の処罰を決定したのはイザナミではない。だからこそ彼は怒りを感じているのだ。
「彼女の手は全て読んでいた。殺し合いの影響が少ないであろう時期に介入して破棄するつもりだった」
「ぬるい」
アスタルテは、イザナミの弁解をその一言で一蹴した。
「殺し合いに関しては俺に決定権があった。なのにあんたはそれを無視した。これはあんたの横暴だ」
「ならば他の者にも聞いてみるがよい。これは我々の総意であったはずだ」
少し間を置いて、ミュウツーの戸惑いがちな声が聞こえてきた。
────イザナミ。あなたの怒りも分からないではない。しかし、これは致し方ないことだ────
この円卓にいる者達にとって、永琳はイザナミの部下。その部下を勝手な判断で貶められたとなれば、イザナミの怒りもわかる。
イザナミが永琳の離反を伝える前に、アスタルテはセフェランからその情報を得ていた。八意永琳の重要性を説かれていたアスタルテは、それ故に彼女の大切な存在であるという蓬莱山輝夜を手にかけた。
それはほとんど彼女の独断と言ってもよかったが、確かにこれは円卓の総意ではあったのだ。

ゼロだけは何も言わず、ただ黙って事の成り行きを見守っていた。
イザナミはあからさまに舌打ちする。
「女神ちゃん。一つ忠告しておくよ。もしもこれ以上勝手な真似をするようなら、俺は全力であんたを潰すぜ。できない、なんてさすがに思わないよな」
「……当然だ。力の拮抗が円卓を成り立たせている。ここにいる誰もが、私を殺し得る。そこにいる人間以外は」
そう。ゼロだけは厳密に言えば神ではない。神の力を授かってはいない。
それはゼロ自身が固辞したことだ。
「……話はそれだけ」
言葉少なに、イザナミは円卓から席を立った。


部屋から出て、しばらく歩いたところで、ゼロがイザナミを呼び掛けた。
「これを返しておく」
そう言ってイザナミに手渡したのは防弾チョッキだった。神の加護を受けた防弾チョッキ。
イザナミは、永琳に離反の兆しがあるとあらかじめゼロに伝えていた。そして、その対策にこのチョッキを与えていたのだ。絶対に自分が説得する。これを着れば最悪の事態は免れる。だから少しだけ時間が欲しいと、イザナミはそう言ったのだ。
「……予想。外れて欲しかったよ」
防弾チョッキを受け取り、イザナミは苦笑する。
「仕方がない。過去というのは、どうしても付いて回るものだ」
八意永琳は月の民である。しかし、お姫様である蓬莱山輝夜を連れ、穢れ多い地上へと逃走した。自分が作ってしまった蓬莱の薬のために。
月の都。それを存続させるための犠牲として、永琳は生涯命を狙われるはめになった。世界を作る礎に、無理やり組み込まれた。
追手から逃げる毎日。その中で、彼女が世界を憎んだとしても何ら不思議ではない。どうして自分達だけがこんな目に遭っているのか。そう思い、“自分一人だけ世界を作り、他の全てを抹消しようと考える”のも、分からないではない。
イザナミから防弾チョッキを渡された時、永琳の過去を聞かされたゼロが抱いた感想がそれだった。
「今回のことは心から同情する。もし何かできることが──」
「おいおいおっさん。いきなりどうしたのさ。あれだけ俺を嫌ってたってのに」
ゼロは、イザナミを怪しむ者の筆頭といってもいい。監視組というイザナミに対する目を設けたのも彼だし、イザナミに対する力の制限や外に出られないという枷も、ゼロが引き出した妥協案だ。
「……仲間がいがみ合うのは、辛いものだ」
ゼロはそれだけ言った。
誰よりもビッグボスを尊敬し、同士として、友として敬ってきたゼロ。
その禍根がどれほど深くとも、その想いに変わりはない。だからこそ、ゼロはそう言った。
「……ま、とりあえず礼は言っておくよ」
イザナミはそれだけ言うと、ひらひらと手を振ってその場をあとにした。
0188Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 08:11:06.31ID:il2YLHOs


◇◇◇
【??? イザナミの部屋】

「いやー愉快愉快。みんな面白いくらいに嵌まってくれるからさぁ。こっちも演技のしがいがあるってもんだよね」
自分の部屋。ソファーに座り、足を組みながイザナミは愉快そうに笑った。
「あんたも、いつもこういう気分だったのかな?」
『どうでしょうな』
電話の相手は、イザナミの恋人。イザナミにとって一番の切り札と言っても過言ではない存在だ。
「八意永琳はこれで潰れた。わざわざ泥を被って、ね」
イザナミは参加者にも最低限の希望、こちらに這い上がって来る可能性を僅かながらでも作る必要があった。だからこそ、八意永琳の行動を許容していたのだ。
そして、頃合いを見てマルクに掛けられた術をほんの少し解いてやる。それだけで、事態は面白いように自分の思う方向へと進んだ。
『今回の件で、あなたはより一層自分の身を危険に曝したことになりますね』
「まあゼロとは言わないよ。けど、最小限に抑えた。永琳のことはセフェランとビッグボスしか知らない。何の支障もないよ」
『しかし、セフェランは女神に報告を……』
「してないよ。セフェランが伝えたのは、“八意永琳が反旗を翻した”という事実だけ。永琳と彼らにあった情報の齟齬も、俺が何かとんでもない企みを持ってるかもしれないことも、誰にも言ってない」
『ほぉ。しかし、よくわかりませんな。セフェランの立場からすれば、主に全てを伝えるのは当然だと思いますが?』
「それが当然じゃないんだよねぇ。なにせ、女神ちゃんは頭がカチカチだから」
そう言って、イザナミはクックと笑う。
「たとえばさ。俺が何か他のことを企んでいると誰かが女神ちゃんに吹き込むとするじゃん。そうすれば、彼女が取る行動は一つだけ」
『あなたの抹殺、ですか』
「その通り。しかしセフェラン側、いや女神ちゃん側からすれば、それは最終手段にしたいんだよねぇ。今回の殺し合いは俺が主体で動いてる。
俺を殺すってことは、この殺し合いを中止するってことに他ならない。なんだかんだで、あいつらは俺がいないとここまで計画を動かすことはできなかった。それは計画が佳境に入った今でもそうさ」
『自分達の願いを叶えるには、あなたにはまだまだ生きていてもらわないといけない』
「しかも、もしかしたら女神ちゃんが返り討ちにあう可能性もある。セフェランからすれば、そんな危険は冒せないよねぇ。彼女の死は、セフェランにとっての希望そのものの死を意味するんだから」
セフェランは人間を全滅させ、本来の美しい世界を作ろうとしている。そのためには、絶対に女神に死んでもらっては困るのだ。
世界創世が成功したとして、その指針となる者はやはり女神以外にいないと考えているし、世界創世が失敗したとしても、女神さえいればラグズもベオクも滅ぼすことができる。
セフェランの願いには、必ず女神の存在が必要になってくる。
セフェランの願い。それはある意味、女神の命やその忠誠心よりも勝るセフェランの意思だった。
『ビッグボスはどうなのですか? 彼ならば……』
「一体誰に言うよ。俺の息がかかってない信用できる奴なんて、あいつの周りにいるかい?」
ゼロ、という考えはビッグボスにはできない。そんな簡単に信用できるほど、彼らの溝は浅くない。一度裏切られた経験は、必ずビッグボスに付いて回る。
セフェラン側からしても、他の神に出し抜かれる可能性を考えれば知らせない方がいいと考える。
ミュウツーは論外だ。今の段階で、イザナミの間者である可能性が一番高いミュウツーに、二人がそんな重要な秘密を知らせるわけがない。
「彼らは、今回の情報を得たことで俺に一歩先んじたと考える。まさか俺が、敢えてその情報を渡したなんて考えない。その慢心が毒になる。
人はさ。希望に逃げたがるんだ。自分の行動が全て読まれているなんて、そんなこと誰も考えたくない。それが、何とか相手を出し抜こうとして取った一手なら尚更ね。でも逆に言えば、だからこそ考えなくちゃいけないんだ」
本当に相手を騙そうと思ったら、その人物が予期せぬところに偽りの真実を蒔いてやればいい。そんな初歩的なことを、セフェランは疎かにした。
「彼らは、今回の件が踊らされた結果であるとは絶対に考えない。えーりんはまったく逆の発想で俺に縛られていたわけだけど、俺からすれば彼女の方が、彼らよりも遥かに優れた存在だよ」
0191Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 08:13:14.12ID:il2YLHOs
現段階において、永琳がただの捨て駒であったことがばれたとしても、イザナミには何のデメリットもない。
そして結局、ばれたところでセフェランもビッグボスも動けない。
イザナミをどうにかしようと考えるなら、まず円卓の神達を招集し、その事実を伝えなければならない。発言権が拮抗している彼らを集め、協議しなければならない。
しかし二人は円卓に座る権利を持っていない。神達を招集する資格もない。だから結局、二人は何もすることができない。
事態は何も変わっていないのだ。
その単純な事実に、セフェランは気付かないだろう。イザナミを出し抜いたという気持ちは抜け切れない。先んじたという気持ち、優勢を維持したいという気持ちが、結局は行動を遅らせ、気付いた時には後手に回っているのだ。
しかし、永琳は慢心することはなかった。結果的に全てイザナミの予想通りに動いてくれたわけだが、彼女にはそれを覆す基盤があった。
だからこそ、イザナミは彼女を、唯一の敵だと評したのだ。
『しかし結局、誰もかれもあなたに絡め取られている。というわけですか』
「ここまでお膳立てを整えるの、なかなか大変だったんだぜ? 目障りなえーりんを黙らせる必要はあったけど、ゼムスの件を片付けてからじゃないとセフェラン達を思考誘導させられなかったからさ」
『蓬莱山輝夜が人質として機能しており、それを隠すためにゼムスは殺された。しかしそう考えさせること自体があなたの目的だった。いわば、ゼムスの離反とその抹殺。それこそがブラフだった』
「タイミングが良かったんだよねぇ。あまりにもゼムスの抹殺が早過ぎた。だからこそ、奴の存在は俺にとって何らかの価値があったはずだとセフェランは考える。
その疑問にうまくはまる答えを用意してやれば、それを真実だと信じてしまう。だからこそ、ゼムスは人質を連れて来るための捨て駒、運搬係だったとセフェランは確信したわけだ。
けど、実際は違うんだよな〜。俺の目的は、ゼムスの魂を早い段階で確保することだった」
これが今回動いたメリットの一つ。既に邪魔者となった永琳を排除し、ゼムスの魂を確保する。誰にもその真意を気付かれず、イザナミはそれをやってのけた。
『ゼムスが蓬莱山輝夜誘拐の口封じに殺されたと考えるセフェラン達は、その事実に重きを置き、自然と彼女以外の人質をブラフだと考える。これもあなたのシナリオ通り、というわけですね』
「ここに至って、俺が無駄に人質を持って来るわけないってのに。少し考えれば分かりそうなことだけどね」
『そう考えさせないために、敢えて情報をくれてやったのでしょう? それも、ゼムスの離反直後という最高のタイミングで』
「まあね」
セフェランはマルクの記憶を読んだ。それが自分の意思によるものと信じ込んでいるなら、全てが噛み合い符号する情報とその仮説に、疑問を抱く余地などない。
『しかし、ゼムスの魂を一体どう使うつもりなのですか? 少し早過ぎる気がしますが』
「うん。こいつにはもう一仕事してもらわないといけないからさ」
そう言って、ちらりと横を見る。そこには、口を布で覆われ、手を縛られ、ガタガタと震えるローザの姿があった。
「ゼムスの真価は、肉体から解放されて初めて発揮される。彼には監視役として動いてもらうつもりだよ」
『監視役?』
「そ。監視役。ビッグボスが誰かと協力しようと考えるなら、それはやっぱりえーりん以外にいないだろうからね。
囚われの身で、発言権もない彼女を味方につけたところでどうってことないけど、保険は必要だろ? そのついでに、彼なりの試練ってやつを与えてみようかと思ってる」
『神を選抜する?』
「その通り。紛い物の神じゃない。本物の、創世神を選抜する試練をさ」
そう言って、イザナミはせせら笑う。
誰も事実に気付かない。そのことを嘲るように。
『しかし、試練とは一体どんなものを? ミュウツーはゴールドという少年。アスタルテは負の女神ユンヌ。ゼロはビッグボス。監視役をさせることで、ゼムスにどんな試練を与えるつもりなのですか?』
「人とのふれあいさ。簡単に言うならね。これ以上は秘密。まぁ、俺の想像通りにいくとは限らないし、不確定要素が多いのは他の奴らも同じだからさ」
そう。不確定要素は多い。
ふざけた態度を取ってはいても、イザナミは一切油断はしていない。こうして電話をしている間も。
0192Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 08:13:53.78ID:il2YLHOs
『この世に絶対という言葉はない。しかしあなたは、よりそれに近い形に今の状況を持っていった。それは見事に成功している』
「いつ崩れるかはわからない。最後までもってくれるといいんだけどねぇ。俺達の悲願達成まで」
『我々の最終目的ですか。神の魂をもって世界を作る。そのための分霊ですからね』
ゼムスとミュウツーは、既に神と同等の存在となっている。彼らの外来魂に宿した神霊は、彼らの魂を神のレベルにまで引き上げることに成功していた。
「みぃんな自分の都合の良いように真実を置き換える。だからこそ、自分達が“生贄”のために呼ばれたなんて考えない。
まぁ当然だよね。何もかも制限された神が、まさか後ろで糸引いてるなんてまず考えない。力も、移動手段も、彼らを呼んだ時点でもはや俺には必要ないっていう簡単な事実に誰も気づかなかった」
『しかし、ゼロだけが問題だった』
ゼロは、イザナミの真意にこそ気付かなかったものの、イザナミを決して信用しようとはしなかった。ゼロがアスタルテにいらない事を吹き込まなければ、もっと楽に事態は動いていただろう。
「だが、それももう終わりだ。今回の件で、ゼロは俺の見方を変える」
『確信がおありで?』
「人間にはさ。俺達神からすれば、それはそれは理解できない同情と共感っていう感情があるからね」
今のゼロが持つ情報からすれば、八意永琳の離反は完全にイザナミを裏切る行為だ。仲間であるイザナミを。
ビッグボスと仲違いし、彼が離れて行ってしまった時、ゼロは極度の人間不信に陥った。それだけビッグボスの存在が大きかった。ゼロにとって彼は尊敬できる同士だったのだ。
イザナミと永琳。それに彼らの関係を匂わせるだけのカバーストーリーを与えてやれば、ゼロは理屈よりも感情を優先する。
最初は疑心もあったかもしれない。防弾チョッキを渡され、そんな話を聞かされ、作為的だと感じたかもしれない。
だが裏切られて尚永琳を庇うイザナミを見て。女神アスタルテによって勝手に輝夜を殺され、それを永琳に見せつけなければならなかったイザナミを見て。
彼がどのように考えを改めていったか。イザナミは想像に難くなかった。
「で? セフェラン達は、えーりんが参加者に接触したことは知ってるのかな?」
『いいえ。その時間はビッグボスと今後の相談をしていたはずです。それもあなたの予想通りなのでしょう?』
「まあね。じゃあそろそろ教えてもらおうか。えーりんの仕掛けた切り札を。ゲーム機、マスターボール。あともう一つは何があった?」
永琳が参加者に支給したという切り札を彼女自身に喋らせる。それは、以前に与えた永琳のミスリードを利用したもの。
彼女は、イザナミにとって重要な役割を瀬多総司が担っていると勘違いしていた。だから自分がどうにかなる前に、絶対に瀬多とだけは連絡を取らなければならないと考える。
そんな彼女が、ここで参加者への接触を試みないわけがない。
それも、今回動いたことに対する重要なメリットの一つだ。
『ええ。瀬多との会話の最中に洩らしていましたよ。どうやら博麗霊夢の持つIpadがそれのようです』
「他には?」
「それだけのようでした」
「……本当にそれだけ?」
「何か心当たりがあるので?」
イザナミは逡巡した。しかしすぐに思考を切り替える。
この男は瀬多の声しか聞いていない。全ての情報を把握できるとは限らない。
だからこそ、永琳の反応から怪しいと感じたクリスタルを調べさせた。万が一にも洩れのないように。
0194Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 08:14:45.24ID:il2YLHOs
「心当たりなんてあるわけないじゃ〜ん。なんのためにお前がいるんだよ」
この会話は平行線。それを察してなのかは知らないが、男はすぐに話題を変えた。
『つくづく、あなたには驚かされますね。これほど用意周到な計画を、私は今まで見たことがない。心の隙を最大限に利用し、真実を覆い隠している。全てのピースがうまく噛み合い、膠着状態を作っている』
「そりゃどうも。仕事がなけりゃ酒でも奢ってやるところだけど、そんな機会はたぶん来ないだろうね」
『しかし、ピースが多ければ多いほど、ちょっとした綻びから全てが瓦解する。八意永琳を殺さなかったのは、あなたらしからぬミスですね。彼女がもしも立ち直ることがあれば、我々にとってかなりの障害になります』
「そりゃそうだ。俺にとっての敵は、今のところ彼女だけだからね」
そう言って、イザナミは笑う。
『……私は時々、あなたが何を考えているのか分からなくなります』
「えーりんはさ。ずっと分を弁えてたんだ」
『分、ですか?』
「俺がマルクを嗾けて人質の様子を見せた時にね。彼女は聞いたはずなんだよ。おそらくは、彼女が考えているであろう最高の“かけ橋”の在り処をね。なのに、彼女は実行しなかった」
まぁ、もし実行していたとしても失敗してたんだけどね。と、イザナミは呟く。
電話の相手の反応をイザナミは注意深く観察する。しかし、大した変化は見られない。
(当然か。この程度のことで動揺するような人間なら、こんな重要な役割を担わせようなんて思わなかった)
イザナミは構わず話を続ける。
「今回も、あくまで自分が死ぬことで場を収めようとした。その献身的な行為は、神の身にも届いた。サクリファイスってやつさ。それを見て、彼女は世界の為に死ねる者だと俺は認識した。今回の件で、彼女はようやく神の仲間入りを果たしたのさ」
『……なるほど。彼女もまた、候補の一人ということですか。それで監視役を?』
「俺達の目的に気付く者がいるとしたら、それはまやかしの真実に捉われない奴だ。仮初めの希望を信じず、絶望を経験し、それでもただひたすらに真実へと歩もうとする者だけ。
彼女は今回、希望なんて信じられない程の絶望を経験した。もしも俺達の目的に気付く者がいるとしたら、それは彼女に他ならない。あとは……」
そう言いかけ、「なんでもない」と言ってイザナミは言葉を濁す。その後に続く言葉は、イザナミにとってあまり信じたくないものだからだ。
「ま、えーりんが真実に気付いたところで、こっちとしてはどうでもいいんだよ。もはやえーりんに発言権なんてないに等しいんだし。たとえ万が一ビッグボス辺りに真実を洩らし、それが広まりそうになったとしても、監視役が事前に教えてくれるって寸法さ」
アスタルテの永琳に対する処遇が輝夜の抹殺であったことも、イザナミには想像の範囲内だった。円卓の神達には、永琳の重要性は既に説いてある。
イザナミが勝手に連れて来て、さらに反旗を翻した。その事実は確かに重いが、彼女の代わりを探す労力を考えれば、牽制として輝夜を殺すという結論に至るのは至極当然である。
そして、その判断はおそらくセフェランによるものだということもイザナミには分かっていた。セフェランだけは、イザナミの考える役割に当てはまらない。
彼はアスタルテの付属物であり、アスタルテの頭脳である。だからこそ、イザナミはセフェランを操る。それがアスタルテを操ることに繋がるのだから。
今回の件で、イザナミはいつか永琳を排除しようと考えると彼は想定しているはずである。ならばどうにかそれを妨害したいと考えるのは当然だ。その結果が、拘留というものだった。
そこまでわかっていたイザナミだからこそ、監視役という保険がきちんと用意されていたのだ。
「自分の命より大切なお姫様が死んだ。ここで立ち直れるかどうか。えーりんの試練にはもってこいじゃないか」
『しかし、少しは申し訳ないと思わないのですか? 彼女には、神になる意思はなかった』
「意思なんて、あとでいくらでも付いて来る。俺がそうであったようにね。問題は、その人となりと矜持。自分の信念を、どこまで曲げずにいられるか。
何を正しいとするかは人によって千差万別だよ。それが本当に正しいものかどうか、そんなことは誰にもわからない。だからこそ、俺はこんなしちめんどくさいことをしてるんだぜ」
『あなたがそう言うなら、そうなのでしょうね』
「……お前は殺し合いのことだけ考えていればいい。わかってるな? 神を殺すのに、あの会場は最適だ。役割のない神には早々に退場してもらわなきゃいけない」
先程までとは違い、冷え冷えとする口調でイザナミは言った。
0197Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 08:16:51.29ID:il2YLHOs
『参加者はどうするので?』
「彼らの役割はユンヌをここに連れて来ることだけだ。しかし、それだけでは飽き足らずに這い上がり、神に刃向うっていうんなら……。まぁ、認めてやろうじゃないか。少なくとも試練の一つとしては使える」
『あくまで参加者は道具というわけですか』
「そんな当然のことをいちいち聞かないでほしいね。とにかくお前はうまく動いてくれよ。ボールに潜んでいるふざけた神を世界の糧にする。それを誰にも気取られずに協力してくれ。
セフェランから色々と命令がくるだろうけど、臨機応変に対応してくれよ。参加者はあくまでも全滅させるつもりで」
『奴らの意思で、ですか?』
「そう。奴らの意思でだ。生きるか死ぬか、抗うか諦めるかは奴らが決める。俺達は、それを眺めていればいい」
『傍観者として?』
「その通り。メダリオンに関してはこっちで説得するよ。どうせユンヌだけじゃ何もできないんだ。事実を言ってやれば、奴らも納得するだろうよ。もはや円卓の過半数は俺の味方だからね」
様々な事件が起こり、そのどれもがイザナミの評価を上げるものだった。頭の固いアスタルテは頷かないだろうが、他の二人が賛同してくれればそれでいい。
『そういえば。一つ聞きたかったことがあります』
「なに? 今はそれなりに上機嫌だから応えてあげてもいいよ」
『真実を知る者は少なければ少ないほど好都合。なのに、何故イゴールに教えたのですか?』
イザナミはいつになく真剣な様子で黙り込んだ。
『彼は、あなたの示す役割を何も果たしていない。完全に個人で動き、しかも真実を参加者に教えようとまでしている。
そもそもクリスタルは殺し合いを助長させるためだけのものだったはずです。血の契約も、全ては彼の独断。このデリケートな計画にこんな不確定要素を放り込み、放置する理由は何ですか?』
「……それはまた今度。あいつはちょっと特別なんだ。一応、部下という体裁は取っているけどね」
『特別? 彼を使うことに何か理由があるのですか?』
「……良心の呵責、かな」
『それはまた訳のわからない話で』
「そう。訳のわからない関係なんだよ」
しばらくの沈黙。
『まさか八意永琳に誤った推測をさせたのは、彼のお気に入りを排除するためでもあるのですか? セフェランを使って』
「どうだろうねぇ。御想像にお任せするよ」
『……まあいいでしょう。こちらとしても、きちんと報酬をもらえるというのなら、課された任務は全うします』
「そこは信用してもらいたいね。彼は駒の一つではあるが、ちゃんと君の願い通りにするよ」
0200Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 08:18:39.59ID:il2YLHOs

電話を切り、携帯をしまう。まるで衰弱した子犬のようにこちらを見つめるローザに、イザナミはにこりと微笑んだ。
「そんなに怖がらないでよ。別に取って食おうなんて思っちゃいない」
イザナミがぱちんと指を鳴らす。部屋の隅から、すぅっと小さな神棚が現れた。
これで、ゼムスもこれからの話を聞くことができるだろう。
「ただ、そうだね。少しあんたの身体を間借りさせてもらいたいってだけだ」
ふるふると首を振り、どうにか後ろに下がろうともがく。
「居候の相手は、あんたからすればちょっと抵抗を感じる奴かもしれないけど、まぁ根はそう悪い奴じゃないんだ。自分の身体が消し飛んでもこっちの言う事を聞いてくれる。それだけで、十分人情に厚い奴だろ?」
イザナミはそう言って笑う。ゆっくりとローザに近づいて行く。
「でも何度も言うけどさ。ちょぉっと考えたらわかると思うんだよね。フォックスダイなんて怪し過ぎる注射。一体どうやって注射したのか、とかさ。
……まぁ、頑張って説得したんだよ〜って言えば、納得せざるを得ないってところはあると思うけどね。女神ちゃんは頭を使うタイプじゃないし、あの段階でゼロにはえーりんの離反を仄めかしていた。心情的には、誰もが俺の味方だったわけだしさ」
イザナミはローザのその華奢な身体をひょいと担いだ。いわゆる、お姫様だっこというやつだ。
「どう説得して注射したのか。そんな小さな疑問だけでは、誰もこうは思わないんだ。“最初からゼムスは、死ぬつもりで離反してくれた”、なんてね」
思わず、ローザの目が見開いた。
当然だ。一体誰が自分の命を投げ出してまで他人の言う事を聞くというのか。
「ゼムスは不思議な奴でさぁ。魂と肉体の定着が他の生命体よりも希薄なんだよねぇ。彼の強過ぎる意思が肉体という拠り所を必要としなくなった。
故に、彼は肉体という脆い入れ物から離れた方が強い。これはゼムス自身も薄々気づいてたことだったんだけど、俺がそれを保証したら、彼は疑うことなく信じてくれたよ」
ゼムスにとってイザナミは神。その神が、自分でもそうだと少しでも思っていることを肯定すれば、それを信じるのは当然だ。ゼムスにはイザナミを悪と考える要素が何一つない。だからこそ、彼はこの途方もない作戦に乗ったのだ。
「俺はゼムスを仄めかした。その結果離反した。けど、それ自体もゼムスは納得の上だったんだよね。ま、それでもリスクがあることに変わりない。なのに、何でこんな突拍子もない作戦に乗ってくれたと思う?」
ローザはもはや首を振ることすらできなかった。イザナミの語る計画の一部分。それは、ローザの小さな頭では到底計り切れるものではなかった。
「フォックスダイさ。今回の寸劇は、ゼムスにとってフォックスダイのワクチンを手に入れるための壮大なお芝居だったってわけ」
ローザの顔を見つめる。意味をいまいち掴みかねていることを顔色で判断すると、イザナミはさらに説明をし出した。
「フォックスダイは、特定のDNAをインプットすることで発症する究極のウィルスだ。認識酵素によってプログラムされたDNA。それが合致すれば活性反応を示し、体内のマクロファージに反応してTMFεというサイトカインの一種であるペプチドを生成する。
これが心臓細胞のTNFレセプターと結合し急激なアポトーシスを起こすことで死に至るわけだけど、こんな長ったらしい説明をしなくても、このウィルスが肉体にしか反応しないってのは無知な君でもわかるよね?」
どう反応すればよいのかわからず、ローザは小さくこくりと頷いた。
「だったら肉体をなくせば、そいつはもう安全圏ってわけだ。たとえ俺が裏切ろうと何をしようとね。
“正式なワクチンが存在しない”フォックスダイ。けど肉体と遊離したゼムスには、そんなものに意味なんてない。ゼムスはもう、誰にも殺せない無敵の存在となった」
肉体を捨てる。確かにそれは常人なら誰でも躊躇することだ。しかし、それが自分を無敵にすると知っていたなら。フォックスダイという、自分達の命を握るものが存在すると知っていたなら。
そこに大いなる意思と信念さえあれば、決断することは有り得ないことじゃない。
イザナミはゼムスをいとも簡単に殺すことができる。だからこそ、約束を反故にするとは考えない。わざわざフォックスダイを使って殺すなんて回りくどいことをする必要はどこにもないのだ。
それに、イザナミが約束を違えないことを誓わせることのできるアイテムが存在する。そのアイテム、『血の契約』を使えば、ゼムスがこの提案を呑まない理由はなくなる。
0203Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 08:19:57.81ID:il2YLHOs
「知ってる? フォックスダイって、空気感染するんだぜ? 神となったゼムスにも効いたんだ。それが誰にも効かないなんて、そんなこと誰も保証できないよねぇ。
けど、そのことについては誰も何も反論しない。何故なら、“存在しない”んだからね。フォックスダイが空気感染するなんていう事実は」
イザナミは計画の立案者だ。当然、ギャラティックノヴァを持って来た張本人。そして、その段階からマルクはいた。自分以外の願いは決して叶えないようにという願いを実行させたマルク。
しかし、それを叶える前に、イザナミがギャラティックノヴァのことを知っていたかどうか。それは誰にも分からないことだ。
フォックスダイが空気感染するという事実。それを知る者の記憶を、ギャラティックノヴァによって全て消したとして、一体誰がその真実に辿りつけるというのだろうか。

フォックスダイの存在は極秘事項だ。それを知る人間は少ないし、神でもない人間の記憶を消すのに大したエネルギーはいらない。
計画を立案する前に、空気感染することを知る人物の記憶や記録を消してもらう。ギャラティックノヴァの持つ本来の力だけでも十分叶えられる願いだった。
んーんーと、何かを喋りたそうにローザがもがく。イザナミは大声出さないでねと念を押してから、布を取ってやった。
「そ、そんなことを私に教える意味はなに? もしかして殺すつもり……」
「俺は意味のないことはしない主義だよ。君には役割がある。さっきも言ったけど、君の身体に一人居候を寄こしたいだけなんだ」
そう言って、イザナミは目の前にある神棚に目をやる。ローザも釣られてそれを見つめた。
「ここには神の魂が一つだけ入ってる。
さっきから話していたゼムスの魂さ。本来なら、君のようなただの人間にはキャパシティー不足なんだけど、好都合なことに君は蓬莱の薬を飲んでいる。紛い物とはいえ、神の魂を内包するくらいならしてみせるだけの肉体を、君は持っているというわけだ」
動揺する。しかし、それだけだ。イザナミの優しい口調から、本当に自分の命を奪うつもりがないことを直感的に理解できた。
「蓬莱の薬を飲ませたのはマルクの意思。そこに俺は何の介入もしていない。ただ想定しただけさ。マルクがギャラティックノヴァに鍵をしたのも、俺が追い詰めてそうさせた。ある意味、マルクは俺にとって一番の間者といえるかもしれないね」
記憶とは、事実を主観的な観測によって認識したものである。イザナミに操られていたという自覚のないマルクは、全て自分の意思だと感じている。故に、この真実はセフェランにも分からないことなのだ。
「……やっぱり、マルクは私達の味方だったの?」
「マルクのような人物が必要だった。善意で動き、それ故に行動を操り易い彼がね。ギャラティックノヴァに制限を与えたのも、円卓の神達の離反に備えるため。神全員を監視するより、マルク一人を監視した方がやりやすいからね」
「……私達も、そのフォックスダイに感染している?」
「してるよ。ゼムスが感染し、ここにいる全員が感染した。ただまあ安心してよ。今のままじゃ死ぬことはない。さっきも言ったけど、フォックスダイは認識酵素によって特定されたDNAにだけ反応するんだ。その認識プログラムを俺はまだ組みこんでいない。
実はフォックスダイとはまた別のウィルスがここには配置されているんだよ。そうだな。便宜上、リトル・フォックスとでも言っておこうか。それはここにいる全員のDNA情報を持つウィルスでね。要は、これがフォックスダイの認識酵素の役割を果たしてくれるんだ。
子狐が迷い込んだら最後、フォックスダイはその効果を存分に発揮し、自分の宿主を殺してしまう。子狐がすり寄る宿主を、フォックスダイは自分が殺すべき親の狐だと誤認するってわけ。ナイスなネーミングだろ?」
「そ、それじゃあ……私達は、万が一にもここから抜け出せないってこと……?」
絶望の色を浮かべるローザに、イザナミは笑って言う。
「言っただろ? 配置しているだけだってさ。散布されていない以上、君達の命は保証されてる。それでも俺が命綱を握っているようなものなんだけど、……まぁ、あまりにも目に余ることをしない限りは、たとえ俺の命が尽きようとこれを発動させるつもりはないよ。
これはあくまで保険なんだ。君達の意思を見極めてない今の段階で使うつもりはないし、たとえ君達が脱出に成功しても、それはそれで放置するつもりだ。そこは信用して欲しいね」
0204Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 08:20:40.33ID:il2YLHOs
イザナミは神棚に顔を向けた。
「ってわけだよ、ゼムス。あんたの役割は、この子の中でえーりんを監視すること。それが無事に済むようだったら、ちゃあんと世界を用意してやるよ。俺は、あんたの世界さえ見れれば他のものには興味がない。他の神は、あんたを創世神にするための生贄さ。
ただ、しかるべき時が来るまでは奴らを生かしておかないといけないんだ。だからこそ、えーりんの監視を君に頼みたい。理屈は分かるだろ? 聡明で、現実主義者の君ならね」
ローザの頭は既にパンク状態だった。イザナミの言葉は、そのどれもが真実味を帯びていて、しかしそのどれもが疑わしい。
電話でのやり取りを聞いていたローザからすれば、先程の話には矛盾が生じている気がする。しかし、彼女にはどちらが本当で、どこまでが本当なのかわからない。
そして、各々が与えられた情報の中で、それは確かな真実となるのだ。
イザナミがゼムスに与えた情報も、確実に制限されているはずだ。
たとえば、フォックスダイのワクチンが本当は実在していたとするなら。ゼムスはただイザナミに踊らされた結果、こうして監視役を担わされたことになる。
たとえば、リトルフォックスというウィルスが本当は存在しなかったら。結局ゼムスは優勢になど立ってはおらず、他の神達と立場はまったく同じだということになる。
どこまでが真実で、どこまでが嘘なのか。ローザにはそれがわからなかった。
ふと、イザナミがローザに顔を近づける。
ゼムスにもその声が届かないように、イザナミは口を開く。
「全ての者にとっての正しい真実。それを見極めようと思ったら、それは時に、とてもとても大変なのさ。
今までの記憶を少しいじらせてもらうよ。大丈夫。俺の部屋に来て、色々な話を聞いたことを忘れさせるってだけさ。
基本的に、君の身体は君のものだ。ゼムスの意思で、ちょぉっと意識が遠のいたり、自分が何をしていたのかを忘れちゃったりするかもしれないけど、基本的には無害だよ。
……それともう一つ。君はこれから全てを忘れるわけだけど、時が来たら全てを思い出すような仕組みがされている。もしもゼムスが、俺の思う形で試練を克服できたなら、君はそれを教えてあげるといいよ」
「……そんなことをするメリットが、あなたにはあるの?」
「あるよ。それが俺の目的だと言ってもいいくらいだ。試練を与え、真実を教えることがね」
そう言って、イザナミはローザの耳元に口を近づける。
そして、ぼそりと呟いた。
イザナミの知る、真実を。
ローザの目は大きく見開かれ、途端に身体が震えだす。
「あ……あ、……。じゃあ、……じゃあ私達は……!!」
「それじゃ。二人で仲良くね。ローザちゃん」
「待って! まだ聞きたいことが──」
瞬間、ローザの視界は、暗黒に閉ざされた。
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2011/04/05(火) 08:21:49.21ID:il2YLHOs


◇◇◇
【月と地上の狭間 とある高原の邸宅】

「それじゃあ、早速打ち合わせに入りましょうか」
「敵の居場所はわかっているの?」
=uだいたいは。bサのために駆けbクり回ってたのb?」
紫はそう言って微笑む。
やはり八雲紫は重宝する。桃を頬張りながら、豊姫はそう思った。
「確かに協力はするけど、人手を集めるには時間がいる。私達も一枚岩じゃないわ」
「わかってる。でもおおよその段取りくらいは早めに決めておいた方がいいでしょ? 敵が何人いて、どれほどの力を持っているのかは分からなくても、有効的な攻略方法が────」
「なかなか良い紅茶を飲んでるじゃない」
聞き慣れない声。
気が付けば、三人でテーブルを囲んでいたはずが、四人になっていた。
そのアンノウン。青一色の服を着た女性は、まるでここにいるのが当然とでも言うように、椅子に座っていた。
三人ともが慌てて立ち上がり、すぐに距離を取る。驚愕を顕わにしながらも、全員がいつでも戦闘を開始できるように身構える。
「誰!?」
依姫が叫ぶ。
しかし、相手はまったく動じない。
カップを傾け。味わうようにその香りを楽しみ、こくんと飲み干す。
途端、むせかえした。
「……思った以上に、熱かったわ」
突然姿を現し、突然カップに手をつけ、突然むせかえる。
あまりにもシュールな光景だ。しかし、それ以上の薄気味悪さがあった。
彼女は余裕だ。表情、仕草、そのどれもが自然でリラックスしている。それがあまりに不気味。
ここにいる三人は、数多ある世界でもトップクラスの実力の持ち主だ。しかしそんな彼女達相手に、まったく気取られずここまで侵入してきた。
カップを置き、女は口を開く。
「私の名はマーガレット。力を司る者。本来なら、私の役目はとある人物の補佐だったわけだけど、どういうわけかここにいる。主の命令は絶対なの。……いえ、正確には主の主、かしら。ややこしいわね」
そう言って、薄く微笑む。
「……見張りはどうしたの?」
豊姫がいつになく真剣な表情でマーガレットを睨む。
彼女は微かに首を傾けた。
「ああ。そういえばそんな者もいたわね。あまりにも手応えがなかったものだから、誰の事を言っているのか分からなかったわ」
ぞくりと背筋が寒くなる。
今回の密約は、月の都でも最重要課題。最精鋭の護衛の元で行われていた。それをまったくこちらに気取られずに排除するだけの力を、彼女は持っているのだ。
「……何者かは知らないけど、ここに来てただで帰れるとは思わないことね」
依姫は、鞘から刀を抜きだした。
「手力男命よ。神をも引きずり出す力を我に与えよ」
ここにいる全員が実感する神の力。その力をその身に降ろし、依姫は剣を構える。
が、それを見てもマーガレットは笑みを絶やさない。
「手力男命か。私も好きよ。なかなか逞しい筋肉をしていそうじゃない? まあいいわ。勝負? 受けてたちマッスル」
マーガレットは突然吹き出し、九十点と言って愉快そうに笑った。
……こいつはただの馬鹿なんじゃないか? 
三人の脳裏にまったく同じ考えが宿る。
しかし実際は違う。彼女は聡明過ぎるほどに聡明だ。
0209Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 08:23:39.54ID:il2YLHOs
「お喋りが好きなようだけど、すぐに黙らせてあげるわ」
「あら、あなたはお嫌い? 私も、彼と出会うまでは興味もなかったけれど」
マーガレットはそこで初めて立ち上がった。
突如、マーガレットの手に古ぼけた本が現れる。周りに浮遊する何枚ものカード。その一つ一つに、凄まじい力を感じ、紫は思わず後ずさる。
依姫は、構わず手に持った剣を振り下ろした。
天にまで昇る一筋の閃光が、マーガレットを包み込む。

瞬間、大気が割れた。

建物は一瞬のうちに半壊し、地面をマグマが噴出するのではないかと思うほどに抉り、轟音が響き渡る。
吹き飛びそうになるほどの衝撃に、紫はその場にしがみつくようにして堪えていた。
しばらく身を屈めていると、衝撃が止み、ようやく周りを確認できるようになる。
地平線の彼方まで刻みつけた大地への爪跡。それに直撃したマーガレットの姿は見えない。当然だ。普通なら消し飛んでいる。
だが依姫はそれで終わらせるつもりはない。
「火雷神よ。その細胞の一つまで焼き尽くせ!!」
龍を司った炎が抉れた大地を包み込む。
全ての固有物を溶かし尽くし、大地が地獄と化す。灼熱が地面を覆い、そこに生きる生命の全てを焼きつくす。
「やったの!?」
「……いえ。まだよ」
紫の言葉通りだった。
大地は割れ、灼熱の地獄と化した。しかしそれでも、平然とマーガレットはその中心で宙に浮いていた。
目を疑いたくなる光景だった。あれだけの攻撃を受けて、傷一つついていない。
「その判断は最悪ね。今の私にそれは、力を与えているようなものよ。そうそう。主の主から一つ、あなたに伝言。“俺を倒すつもりなら、アメノミのおっちゃんでも連れて来るんだな”、だそうよ」
アメノミ。その言葉に、依姫は一人の神を連想する。
全ての民の先祖。初めて世界に生まれた絶対神、天御中主神。
依姫はここに至って、彼女の背後にいるであろう存在に勘付いた。
「まさか……。まさかあなたはイザ──」
「倒れちゃ駄目よ」
本を開き、一枚のカードを握りつぶす。
瞬間、マーガレットの目の前に、花を握った奇妙な女性が現れる。
「メギドラオン」
その言葉と共に、光の玉が振り落ち、光が全てを包み込んだ。
0210Reach Out To The Truth  ◆dGUiIvN2Nw
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2011/04/05(火) 08:24:22.64ID:il2YLHOs



「ええ。無事任務は終了です。手応えは……まるでありませんでしたね。イザナミ様の御力のおかげ、と言っておきましょうか」
『またまたぁ〜。本気出したら俺より強い癖に』
「御冗談を。本物の神に勝てると思うほど、私は自惚れてはおりません」
マーガレットの立っている場所は、数十分前までは美しい高原だった。
が、戦闘の結果、草木は炭も残さず燃え尽き、大地はこの世の崩壊を彷彿させるほどに崩れている。
当然、先程まで紫達が密談していた家など欠片も残っていない。
マーガレットは、もう少し紅茶を飲んでおけばよかったと少し後悔しながら、崖のように切り崩れた大地の一角に腰をおろしていた。
「しかし、こうも戦力差があるとまったく緊張感がありませんね。このまま月の都を攻め落としても構いませんか?」
『はっはっは。そりゃ止めて欲しいなー。できるだけ、もう他の世界には干渉したくないんだ。今回のは特別』
「なんだか、あなたには特別が多いような気がします」
『自分に甘いんだよね〜。ついでに他の皆にも』
「ご機嫌なようでなによりです」
『うん。ご機嫌だよ。君達部下が、思った通りの成果を上げてくれてる。大満足さ』
「私としても、このまま予定通りに事が進んでくれるのを切に願っております」
『……ああ。アンタの頼み事のことかい? 大丈夫。念なんか押さなくても、あいつが死んだらちゃんと報告してあげるさ』
「死亡報告のことなど気にしてはおりません。主に聞けば、それで分かることですから。問題はその後の────」
『オッケーオッケー。神の名において約束しようじゃないか。でもさ。イゴールもあんたも、少しあいつに期待し過ぎじゃないの? まるで、あいつなら真実に打ち勝つとでも言いたいようじゃないか』
「主の意思は私には計りかねます。ただ私の意思は、別に彼に何かを期待しているわけではありません。私は知りたいだけなのです。自分が何者なのか。彼との出会いに意味があったのか。そして、本当の真実と向き合う者の強さを」
『たとえあいつが死んでも、かい?』
「生に意味はありません。意味があるのは、意思と絆。言葉の先にある想い」
『そうやって煙に巻くのが好きだねぇ。ま、君がそう言うのなら敢えて否定はしないよ。ベルベットルームの住人ってやつは、本当にいけ好かない奴ばっかりだ』
それだけ言って、イザナミは一方的に電話を切った。
ツー、ツーという音が聞こえる。マーガレットは電話をしまった。
「……それはお互い様よ」
ベルベットルームの住人達を代表して、マーガレットはそう言った。
きっと主であるイゴールも、同じ気持ちであるはずだ。
「ベルベットルームの住人は、皆、自分が何者なのかを探る定めにある。……私も主も、それを彼や他の参加者達に見出してもらいたいのかもしれないわね」
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