東海大はエースの太田彪雅(3年)を立ててきた。昨年のユニバーシアード無差別級優勝など、世界で芽を出しつつある100キロ超級の有望株だ。
決勝は4人目の中堅として一本勝ち。残る3試合の間にベンチで骨休めし、余力は十分にある。上水研一朗監督から「『まさか』の事態に備えておけ」
とあらかじめ指示を受けており、「代表戦の心構えはできていた」(太田)。このあたり、筑波大と比べても先を見越した二段、三段の備えがある。
筑波大が無策だった−というわけではない。「僕にやらせてください」と佐々木らが見せた男気も、「じゃんけんで」という風任せの人選も、「校風」
というほかない。頼れる主将が大将戦に続く連戦に潔く体を差し出すことになったものの、佐々木の顔には「オレがまとめて面倒みてやる」と書いてある。
代表戦という予期せぬ成り行きは、個々の粒が立ったチームの長所を引き出したといえるだろう。
東海大や国士舘大、明治大などベスト16以上の中で、筑波大は唯一の国立大。推薦入学で取れる有望選手はかぎられている。体重無差別で争う
この大会に、強豪私立が重量級をそろえて臨んだのに対し、筑波大は佐々木ら中量級がチーム12人のうち7人を占めた。ロンドン五輪男子60キロ級
銀メダルの平岡拓晃をはじめ、OBに軽量級や中量級の英傑が多い歴史を見ても、今大会の決勝に筑波大が勝ち上がることが、どれほどの難行軍
だったかよく分かる。
「軽い選手を重量級と互角に戦わせるためにどう育てるか。つらいことも多いが、一本の乱取りに取り組む上で、選手の工夫と高い集中力に
つながっているのも事実」。こう語る小野監督も、筑波大時代にこの大会で重量級と渡り合い、後に北京五輪81キロ級の代表として日の丸を
背負った経歴の持ち主である。
主将の佐々木は、厳しい環境で磨かれた珠玉といえる。重量級を一瞬でほうり投げる体のバネ。窮屈な姿勢から技を出せる、秀でた平衡感覚。
大柄な相手ほど燃え立つ闘志、チームの窮地に奮い立つ男気。「道場でも私生活でも、全てが手本になる選手」(小野監督)という。
散り方も実に清々しかった。118キロの太田に腰を引くことなく、懐に飛び込む果断の攻めが、観衆のどよめきを何度も誘う。両足が宙に浮き、
背中が激しく畳を打ったのは、代表戦の開始1分37秒。佐々木の体が紙のように軽く、薄く見えるほど、太田の払い腰は鮮やかだった。
「優勝に値する結果だと思う。想像以上に力を出し切ってくれた」。俊秀の系譜に新たな歴史を加えた選手たちに、小野監督の目は真っ赤。
負の感情をかみ殺し、「自分のせいで…」と武道館の天井を仰いだのは佐々木だ。「課題が多い。まだまだだと思います」と、多くを語ることなく
敗戦のとがを一身に背負った。この雪辱は今夏のアジア大会で−。悔恨と屈託で充血した目が、そう語っている。
選手の「自主性」とは詰まるところ、2本の足で立ち、自身の力で歩こうとする意思の発露にほかならない。「指導」とは本来、可燃物を抱えた選手に
火種を差し出し、選手自身の手で点火させる作業でしかない。優れた指導者ほど、その作業をさりげなくできる。小野監督は、その1人だろう。
監督の心残りは、勝ち負けとは別のところにあったようだ。「できることなら、最後の1秒まで試合をさせてやりたかった」と。選手に寄せる指導者の
情愛もまた、「校風」が育てたものかもしれない。

【スポーツ異聞】自立した集団・筑波大柔道部、「校風」発露の全日本学生優勝大会決勝での“決断”
http://www.sankei.com/premium/news/180712/prm1807120004-n1.html