そんなピストルズですが、ビートルズのプロデューサーのジョージ・マーティンの弟子クリス・トーマスがプロデュースした彼らのデビュー・アルバムを聴けばその音楽がそれまでのロックンロールとなんら変わらない王道サウンドにびっくりします。これがパンクなのかと。もちろんそのサウンドは今聴いてもカッコいい。クリス・トーマスの指示の元何十にも重ねられたギターは(大袈裟ですね、多くて七回くらいですか)壮大なロック・サウンドを生んでいます。何回も重ねられたことにより音は微妙にずれシンセサイザーの機能の特徴の一つであるディ・チューンという効果を生んでいるような気がします。この音の壁は先日亡くなったフィル・スペクターの「ウオール・オブ・サウンド」という言葉そのものです。フィル・スペクターがこういう手法を望んでいたのかどうなのか分からないですが、彼の音楽に評された言葉はパンクを経てシューゲイザーと呼ばれる音楽を産んでいったのです。
でも彼らのその壮大なサウンドはパンクが敵としたレッド・ツェッペリンなどのブルースに影響された音楽とそれほど違いはないです。唯一彼らとの違いを感じるのは、自分の声が嫌いで、自分の声をモニターせずに歌う音程があってるのかあってないのか分からないジョニー・ロットンの歌声だけなのかもしれません。彼らのアルバムには彼らがカヴァーしていたアンチ黒人音楽のようなビートはなかったのです。

そんな彼らのアルバムよりクラッシュのデビュー・アルバム『白い暴動』を聴くと実にピストルズのカヴァーで聴けたようなアンチ黒人音楽のようなビートを僕は感じるのです。