屋久島の民話ってこれかな。

むかし、尾之間のある年寄りが孫をつれて、モッチョム岳のふもとの宮方という山に、たきぎとりに行きました。

この付近は、神無月(十月)になると、屋久島中の神様がモッチョム岳から割石岳の尾根に集まってこられるときの通り道であるといわれています。

そのときは、笙、笛、太古の音がにぎやかに聞こえ、弓張りちょうちんの灯りもいくつも見えるそうです。

じいさんと孫がたきぎをとっていますと、生あたたかい風が吹いてきて、そのところだけ草がなびいていました。
じいさんは前にもこんな体験がありました。

「ほぁ、ほぁ、金兵衛、神様が通いやっから、坐ってびんたを下げ」(ほら、ほら、金兵衛、神様がお通りだから、坐って頭をさげなさい)

じいさんは孫にこういって、しゃがんで頭を下げていましたが、孫は見たくなってそっと頭をあげました。

「あっ。」

一間ぐらいの幅に草がなびいて、その草の上をすべるように進むものがあります。
頭は猿のように赤く、白ひげを生やし、白い衣を着流しの大男が過ぎて、見るまにモッチョム岳のほうへ見えなくなりました。

それ以来、その孫はツンツン(耳が遠い人)になったというはなしです。