福島の甲状腺がんの諸問題の考察
●「基準がなければ甲状腺がんと診断された人のうち過剰診断の割合が95%であるところが、基準によって90%になるぐらい?」というツイートに対して、「数字の根拠は何でしょうか? 福島での診断基準では、1cm以下のものの癌診断は限定的です」
https://twitter.com/KDNuc/status/1119029601521455104
この場合、90%とか95%とかいう数字は、なんらかの足切り基準があったとしても過剰診断を防げないという一例として、挙げているだけです。「基準なしで過剰診断が90%だったとして基準によって80%になる」でもよいです。
「福島での診断基準では、1cm以下のものの癌診断は限定的です」という言葉はKDNucさんが過剰診断についてまだよくご理解しておられないことを表しています。
鈴木眞一教授が「このような基準によって過剰診断を防いでいる」と主張していることを引用して、そのまま過剰診断が防がれていると信じているのは盲信に過ぎません。
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account) ツイートを再掲します。
福島県の甲状腺がん検診について、「検診の基準が抑制的」という理由で過剰診断
が起こらない(起こったとしても少数にとどまる)という主張がよくありますが、
間違いです。間違いというかむしろ逆で、そうした診断基準があることが多くの過
剰診断が生じることを示しています。
「検診の基準が抑制的」というのはたとえば、腫瘍径が10mm未満の腫瘍はすぐに細
胞診やら手術やらを行わず経過を見よう、というものです。10mm未満の腫瘍が経過
観察で大丈夫だとして、じゃあ10mmの腫瘍はどうなの?10mm以上から急に悪性度が
高くなるの?そんなわけないですよね。
甲状腺がん検診における「検診の基準が抑制的」というのは、大量にあるであろう
過剰診断の中から、「これはいくらなんでも大丈夫だろう」というものだけを除外
することを指します。基準を守っても、がんと診断された中には多くの過剰診断が
含まれます。
がんと診断された中に多くの過剰診断が残らないような緩やかな診断基準(たとえ
ば30mmまでは経過をみよう)を設けると、こんどは将来症状を引き起こすがんを見
落とすことになります。
ついでに言えば、そうした抑制的な診断基準は成人の甲状腺がんの知見から得られ
た基準です。「成人の甲状腺がんの知見が小児の甲状腺がんに応用できるとは限ら
ない」などと言っておきながら、抑制的な診断基準には疑問をいだいていない方も
いらっしゃるようですが、矛盾を感じないのでしょうか。
さらに言うなら、成人については抑制的でない基準でどんどん甲状腺がんを見つけ
てガッツリ治療しても甲状腺がん死亡率は減りませんでした。検診で見つかるよう
な甲状腺がんは早期発見・早期治療しても予後を変えないようなものばかりである
ことを示しています。
甲状腺がんの中にはすごく予後の悪いものがありますが、おそらくそういうがんは
検診をすり抜けるか(検診の検診の間に臨床症状を呈して発見される)、検診で見
つけた時点ですでに転移しています。 そのように高率である根拠はないということのようですね。
>>2 90%とか95%とかいう数字は、なんらかの足切り基準があったとしても過剰診断を防げないという一例として、挙げているだけです。「基準なしで過剰診断が90%だったとして基準によって80%になる」でもよいです。
韓国では、過剰診断に抑制的な日本の診断基準とは異なり、1cm以下や5mm以下でも癌と診断されていたのですよね。
>>2 「福島での診断基準では、1cm以下のものの癌診断は限定的です」という言葉はKDNucさんが過剰診断についてまだよくご理解しておられないことを表しています。 A. 2013年報告書の要約
本委員会は、福島第一原発事故による健康リスクは、
公衆および作業者の被ばく線量が有意に低いためにチェルノブイリでの原発事故の場合よりもはるかに低いと予想している。
放射線被ばくによる確定的影響は公衆では観察されておらず、今後も出現しないと予測されている。
妊娠中の被ばくによる自然流産、その他の流産、周産期死亡、出生時異常または認知機能障害の増加は予測されていない。
また、「事故によって被ばくした人の子孫における遺伝性疾患の識別可能な増加」([U2]段落 224)が生じるとも予測されていない。
放射線被ばくに関連する白血病または乳がん(最も放射線に誘発されやすい 2 種のがん)や
他のタイプの固形がん(おそらくは甲状腺がん以外)の発生率が、識別可能なレベルで放射線に関連して上昇することはないと予測されている。
福島第一原発事故による甲状腺線量の推定値はチェルノブイリ周辺が受けた線量よりも大幅に低いため、
チェルノブイリ原発事故後に発生したような放射線被ばくによる甲状腺がんの大きな過剰発生は考慮しなくともよいとみなされた。
ただし、事故当時 18 歳以下 12の子供に対する超音波を使用した感度の高い甲状腺集団検診により、多数の甲状腺嚢胞と固形結節および
「このような集中的な集団検診がなければ通常は検出されない」多数の甲状腺がんなどが検出されると予想されている([U2]段落 225)。
しかし、事故による有意な放射性核種の沈着が生じていない青森県、山梨県、長崎県の各県でも、
同様またはわずかに高い有病率で嚢胞と結節が確認されていた。
福島県民健康調査(FHMS)13で既に観察されていた相当量の症例は、放射線の影響ではなく、集団検診の感度による可能性が高いとみなされた。
B. 新規文献のレビューで得られた知見
本委員会は、第1報および第2報の白書において、2013年報告書の当該分野における知見は引き続き有効であり、
それ以降に発表された新規情報の影響をほとんど受けていないと結論した。
第2報の白書でレビューした1編が、放射線誘発甲状腺がんリスクに関する本委員会の知見に異議を唱えたように見えたが、
その調査に重大な欠陥があることが判明した。
http://www.unscear.org/docs/publications/2017/UNSCEAR_WP2017_JAPANESE.pdf 原子力事故後の甲状腺「モニタリングプログラム」とは?――福島の甲状腺検査との違い
https://synodos.jp/fukushima-report/24213/
2021年3月に、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)が、
東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下福島第一原発事故)後の
放射線の影響について、報告書を公開しました。(参考リンク①)
この報告書は、福島県「県民健康調査」の一環として行われている甲状腺検査
(原発事故当時18歳以下だった全県民を対象とする甲状腺がんの超音波検査)について、
「スクリーニング」(甲状腺がんスクリーニング)と表記しました。
2018年10月に、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)が、今後、
原子力災害後に懸念される甲状腺がんについて、集団に対するスクリーニングを行わないことと共に、
原子力災害後、100~500mSv以上の放射線被ばくをした胎児から若年層の個人に対する
「モニタリングプログラム」を行うことを勧告しました。(参考リンク②)
UNSCEARは、現在行われている福島の甲状腺検査について、
モニタリングプログラムではなく、スクリーニングであると判断したということになります。
では、福島の甲状腺検査は、IARCの提言するモニタリングプログラムと、どのような点で異なるのでしょうか。
少なくとも以下に挙げる3つの点が、福島の甲状腺検査とIARCの提言するモニタリングプログラムとでは異なります。
1.甲状腺検査を受けるかどうか、またその検査方法などについて決める際に、本人、家族、臨床医が話し合っているかどうか
2.対象者を積極的に募集しているかどうか
3.本人が十分な情報に基づく意思決定を行えているかどうか