一から十まで小島節www

小島一志 「添野義二 極真鎮魂歌―大山倍達外伝―」より

「あの一件があったからかどうかは分からないが、大山館長はいつも体の大きな
内弟子を付き人にしていた。いつ見ても内弟子は背中越しに大山館長に寄り添っていた。
表の顔に似ず、意外に小心者だということは厭というほど、分かり過ぎるほど
分かっていたが、私風情の小者に対しても用心棒をつけるというのはなんとなく 寂しい思いをしたものだ。」

「私は思った。この人は十年前と何も変わっていないのだ。利用する価値があれば
すり寄って、価値がなくなれば簡単に捨てる。」

「まったく『仁義なき戦い』の金子そっくりだ
狡いとなったらどこまでも狡い。
逃げるとなったらどこまでも逃げる。責任はいつも他人…、館長、あなたは
そうやって今まで生きてきたんですよ」

「十年前に比べ、 まるで別人のように覇気がなくなっていた館長を見るのが切なかった。
人間は老いるものだし、この頃の大山館長は六十 代後半だったと記憶する。とはいえ、
青年時代から徹底的に鍛え上げてきた肉体がそう簡単に衰えるものだろうか。そして
空手家、武道家ならば必ずや感じさせるであろう威圧感や荘厳さも、館長には皆無だった。
ひょっとしたら十年前、つまり五十代後半の大山館長に、あまりにも「作り話」めいた
イメージが定着していたがゆえのギャップに過ぎなかったのかもしれない。
私は、いつしか「怒り」ながら「憐憫」の情に包まれていた。チンピラ風情の脅しに
耐える大山館長が、なぜか小さく思えてならなかった。」