そしてこんなこともあった。二回戦のことである。私が連れてきたアメリカ代表のオリバーが
オランダの選手に延長の末判定で敗れた。試合は、オランダの選手が大きな身体を使って
一生懸命に攻撃を仕掛け、対するオリバーがフットワークを利して攻撃を避けながら、
反撃の機会を窺うという展開になった。
私の目から見ても、積極性の点でオリバーは負けていた。

ところが、試合直後、館長は私と大山茂、大山泰彦の審判員を呼んでこう怒鳴るのだ。

「何やってるんだ、オリバーを負けにするなんて。君たちは馬鹿だねえ。駄目だよ、この試合はやり直しだ」

華麗な技を見せるオリバーは大会のスター的存在であった。それで館長としては、人気集めのために

オリバーを決勝近くまで残しておきたかったのだ。

「でも、館長、やり直すなんてできませんよ」
私はしぶとく反論した。
「いまの試合は明らかにオリバーが負けていました。ルールどおりに判定すればオリバーの試合をもう一回
やり直す理由なんてどこにもありません。一日目からそんなことをしたら、大会を混乱させるだけですし、
悪くすれば外国選手がみんな試合放棄してしまいます」

私たちがやりあっていたのは、こともあろうに試合台のすぐ横であった。
周りにはヨーロッパの支部長クラスがたくさんいて、その中の日本語のできる人間などは呆れた顔をして
聞き耳を立てていた。
私は恥ずかしさで全身が震えた。