新潮45:2002年3月号(239号)
世田谷一家惨殺事件の恐るべき「真実」
一橋文哉(ジャーナリスト)

▲七つの共通点を持つ男

この金田とのやり取りを記す前に、彼と事件との関わりを述べておこう。
それにはまず、金田が長い問、生活の面倒を見てきたというソウル在住の韓国人男性、李仁恩(三十二歳)について触れなければなるまい。
李については本誌一、二月号で詳述したので、ここでは簡単に説明する。
一言で表現すれば、宮澤さん一家を惨殺した犯人と「数多くの共通点を持った人物」ということになるだろう。

主な共通点とは、次の七点である。

@犯人が履いていた二七・五、二八センチのテニスシューズ「スラセンジャー」が
韓国限定販売品だったのをはじめ、ヒップバッグや帽子など犯人の遺留品には韓国製品が多い。
李はソウル在住で、自分の活動圏内にあるスーパーなどで、これらの製品を簡単に入手できる。

A現場に残されたジャンパーのポケットから、李の実家がある韓国・京畿道の水原市周辺のものに酷似した土砂粒が検出された。

B宮澤さん宅で発見された止血帯のラテックスゴムの破片、「ブレイデッド・タスラン・ブーツ」の皮革片、
さらに鑑定の結果、犯人が玄関ドアの開錠に活用したと見られるスイス製アーミーナイフは軍隊の装備品と判明。
韓国陸軍に入隊経験のある李が所持、使用していた可能性が高い。

C宮澤さん宅から微粉末が検出された「ベンゼドリン」の錠剤は、服用後に意識が高揚し、興奮・錯乱状態になる"麻薬"のような薬。
犯人が服用後に凶行に及んだと見られるが、李はこうした薬物の常習者だった疑いが出ている。

Dヒップバッグ内に付着していた特殊フィルム片とチタン酸バリウムの微粉末が、両方とも使用されている印刷加工職場で、李は事件前に働いていたことがある。

E李は犯人の遺留品と同じようなトレーナーを着ていたという証言があるうえ、悪友たちに自分を「キッド」(海賊「キャプテン・キッド」の意味)と呼ばせ、
犯人がハンカチに振りかけていた香水「ドラッカー・ノワール」(黒い海賊船の意味)を愛用していたとの情報がある。

F李が事件前の十二月上旬に観劇に訪れた杉並区内の演劇スタジオ周辺から、犯人の指紋が検出された。