さて、本書の今日的な話題、福沢諭吉問題とも言えるものは、丸山眞男との関連もありイデオロギー的に興味深いとも言えるが、
一歴史愛好家の私としては、本書第二章「『西洋事情』の衝撃と日本人」がより興味深いものだった。驚いたと言っていい。近代日本観が変わった。
雑駁に一言で言っていいものかためらうが、私の印象では、明治維新政府というか近代日本のグランドデザインを決定したのは、
福沢諭吉の『西洋事情』であったのかという驚愕である。
従来私は、『西洋事情』という書籍は当時の西洋に関心をもつ日本人に西洋の基本情報を与えた情報書くらいにしか理解していなかった。
が、本章を読み進めると、そんな参照レベルではないようすが察せられる。莫大な影響力がありそうだ。ただし、歴史学的に見るなら、この部分の考察はまだかなり粗い。

 それにしても、これから一万円札を見るたびに、その金銭的な価値だけではなく、「おお、福沢先生!」と敬意を表したくなる気持ちに駆られるだろう。