雪駄は、>>443-444の今東光氏が「十二階崩壊」に書いとってじゃのう。
「僕はカフェーの扉を開けた途端、穿いていた雪駄で待っている野郎の横面を
殴りつけた。雪駄というものは、江戸時代から明治、大正になっても、にやけた
色男の若旦那などが穿いたもので、男のくせに内股に歩きながら雪駄の裏に
ついている鉄をチャラチャラと音立てて歩く姿は、よく落語にも気障男の
カリカチュアとして、「おほん。今夜はアレが首を長くして待ってるんでげすから、
御つき合いは御免なんして…」と抜き衣紋で演じたもので、僕はわざとその伝で
雪駄を穿いていたが、実は使いようで結講、早速の機転の得物になるのだ。
殴られた野郎は何しろ顳顬から鼻面へかけて金具のついた雪駄でしたたか
やられるので、「ぎゃっ」とか何とか叫んで、思わず振りあげた手で顔を蔽った
ところを真向から蹴りあげると大抵の場合、棒倒しにぶっ倒れるものだ。馬乗りに
なって頭も耳も目も口も雪駄で乱打すると、それなりに動けなくなって仕舞う。…」