それにしても、なぜ荊州平定からたった2ヶ月ほどで東征に入ったのか

馴致を考えれば、もう少し時間を掛けた方がいい。それは間違いないだろう。

準備の出来ている面を考えると
荊州平定で軍は戦らしい戦をしておらず無傷。士気は高い。武器もたんまりある。
馴致に時間がどれくらい必要だろうか?
時間が空きすぎると、せっかくの勢いが損なわれる。それほど待ってはいられない。

待てない理由がもう一つある。季節の問題。
周瑜は秣のない冬だから有利だと言った。が、それはどうだろう。
曹操は206年正月 高幹征討へ向かった。その時「苦寒行」という詩を残しているが、
雪が絶え間なく降る中を進み、氷を叩き割って粥を作ったのだそうだ。
輸送に大変苦労し、人も馬も飢えたとあるが、
江東へは輸送の苦労がないので秣を運ぶことぐらい苦もなく
寒さも高幹征討に比べれば大したことはない。

避けたいのは夏。江東の夏は暑い。
中国には夏期の高温多湿・猛暑ぶりから「七大火炉(ボイラー)・七大かまど」とよばれる地がある。
重慶・長沙・武漢・南昌・南京・杭州・上海

その内、南昌・南京・杭州・上海 の4つが揚州に属し、武漢(夏口)も標的。
三国時代の地名で分かり易くすると
江夏(夏口)・豫章(南昌)・丹陽(建業)・新都(建業と会稽の間の地)・呉 の5郡。

北緯30°〜31°、印度のニューデリーなどと同緯度にある。
黄道との差は約7°、真夏になればほぼ真上に太陽が来る。しかも多湿。夜も暑い。
ただ居るだけでも体力を消耗する。戦闘や行軍は普段の何倍も疲れるだろう。
気力も上がらず士気は奮わず集中力も保てず、戦には向かない。
それでも孫権勢はその暑さに慣れている。
江東の夏は守る側の孫権に大いに有利に働く。
曹操は夏になる前に勝利を収め大勢を決していなくてはならない。

馴致のためにあと2〜3ヶ月も費やせば、夏まで2〜3ヵ月しかなく、
秋まで待つとすると8ヵ月も無駄に費やすことになる。

戦う前から8ヵ月も無駄に費やすか
手を尽くして荊州兵の戦意を高め、勢いを活かしたまま攻め込むか

後者の方が賢明ではないだろうか。